(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のガス拡散電極は、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有する。そして微多孔層は、導電性多孔質基材に接する第1の微多孔層、及び第2の微多孔層を少なくとも有する。
【0026】
このような本発明のガス拡散電極に関し、初めに導電性多孔質基材について説明する。
【0027】
固体高分子型燃料電池において、ガス拡散電極は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すため、高い導電性が要求される。このためガス拡散電極には、導電性を有し、通常10μm以上100μm以下の領域に細孔径のピークを有する多孔体からなる基材である導電性多孔質基材を用いる。
【0028】
細孔径とその分布は、水銀ポロシメーターによる細孔径分布測定により求めることができる。導電性多孔質基材の細孔径は、導電性多孔質基材を直接用いて測定してもよいし、ガス拡散電極を用いて測定してもよい。ガス拡散電極を用いて測定する場合、ガス拡散電極の面直断面(以下、面直とは厚み方向を意味し、面直断面とは厚み方向に平行な断面を意味する。)の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により各層構造を確認し、SEM像によって細孔部分の径を概略求める。続いて、水銀ポロシメーターによって得られる各層の細孔径のピークと、前記SEM像による概略値との対応付けをしながら、各層の細孔径を決める。この方法により、導電性多孔質基材の細孔径、第1の微多孔層の細孔径、第2の微多孔層の細孔径を効率良く求めることができる。
【0029】
導電性多孔質基材としては、具体的には、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素繊維を含む多孔質基材、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材を用いることが好ましい。中でも、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含むカーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質基材を用いることが好ましく、さらには、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、炭素繊維抄紙体を炭化物で結着してなる基材、すなわちカーボンペーパーを用いることが好適である。
【0030】
本発明においては、ガス拡散電極のガス拡散性を高めて燃料電池の発電性能を極力高めるため、導電性多孔質基材の空隙率は好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上とする。空隙率の上限としては導電性多孔質基材がその構造を保ちうる限界として95%程度である。
【0031】
導電性多孔質基材の空隙率については、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製 IM4000型およびその同等品が使用可能)により厚み方向の面直断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。断面に接した空隙部と非空隙部を2値化し、全体の面積に対する空隙部の面積の面積率を空隙率(%)とすることにより定義できる。導電性多孔質基材の空隙率は、導電性多孔質基材を直接用いて測定してもよいし、ガス拡散電極を用いて測定してもよい。
【0032】
また、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みを薄くすることによっても、ガス拡散電極のガス拡散性を高めることができるので、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、150μm以下がさらに好ましく、さらに好ましくは120μm以下である。導電性多孔質基材の厚み下限を70μmとすると、機械的強度を保ち、製造工程でのハンドリングを容易とできるので好ましい。
【0033】
このような導電性多孔質基材を用いてガス拡散電極を効率よく製造するためには、このような導電性多孔質基材を長尺に巻いた状態のものを巻き出して、巻き取るまでの間に連続的に微多孔層を形成することが好ましい。
【0034】
本発明において、導電性多孔質基材は、撥水処理が施されたものが好適に用いられる。撥水処理は、フッ素樹脂などの撥水性樹脂を用いて行うことが好ましい。導電性多孔質基材が含むフッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(たとえば“テフロン”(登録商標))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、ETFA(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられるが、強い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0035】
撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材の全体100質量%中に0.1質量%以上20質量%以下程度が好ましい。この好ましい範囲であると、撥水性が十分に発揮され、一方、ガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を塞いでしまったり、電気抵抗が上がったりする可能性が低い。
【0036】
導電性多孔質基材を撥水処理する方法は、一般的に知られている撥水性樹脂を含むディスパージョンに導電性多孔質基材を浸漬する処理技術のほか、ダイコート、スプレーコートなどによって導電性多孔質基材に撥水性樹脂を塗布する塗布技術も適用可能である。また、フッ素樹脂のスパッタリングなどのドライプロセスによる加工も適用できる。なお、撥水処理の後、必要に応じて乾燥工程、さらには焼結工程を加えても良い。
【0037】
次いで、微多孔層について説明する。本発明では、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有するが、微多孔層は、導電性多孔質基材に接する第1の微多孔層、及び第2の微多孔層を少なくとも有する。なお、微多孔層は、少なくとも2層以上であれば特に限定されないが、特に好ましくは導電性多孔質基材に接する第1の微多孔層、及び、第1の微多孔層に接して最表面にある第2の微多孔層の2層構成である。まず、微多孔層について共通的な事項を説明する。
【0038】
微多孔層は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛などの導電性微粒子を含んだ層である。導電性微粒子としては、コストが低く、安全性や製品の品質の安定性の点から、カーボンブラックが好適に用いられる。つまり本発明においては、第1の微多孔層及び第2の微多孔層が共にカーボンブラックを含むことが好ましい。第1の微多孔層及び第2の微多孔層中に含まれるカーボンブラックとしては、不純物が少なく触媒の活性を低下させにくいという点でアセチレンブラックが好適に用いられる。またカーボンブラックの不純物の含有量の目安として灰分が挙げられるが、灰分が0.1質量%以下のカーボンブラックを用いることが好ましい。なお、カーボンブラック中の灰分は少ないほど好ましく、灰分が0質量%のカーボンブラック、つまり、灰分を含まないカーボンブラックが特に好ましい。
【0039】
また、微多孔層には、導電性、ガス拡散性、水の排水性、あるいは保湿性、熱伝導性といった特性、さらには燃料電池内部のアノード側での耐強酸性、カソード側での耐酸化性が求められるため、微多孔層は、導電性微粒子に加えて、フッ素樹脂をはじめとする撥水性樹脂を含むことが好ましい。微多孔層が含むフッ素樹脂としては、導電性多孔質基材を撥水する際に好適に用いられるフッ素樹脂と同様、PTFE、FEP、PFA、ETFA等が上げられる。撥水性が特に高いという点でPTFE、あるいはFEPが好ましい。
【0040】
ガス拡散電極が微多孔層を有するためには、導電性多孔質基材に、微多孔層を形成するための塗液、すなわち微多孔層形成用塗液(以下、塗液という)を塗布することが一般的である。塗液は通常、前記した導電性微粒子と水やアルコールなどの分散媒を含んでなり、導電性微粒子を分散するための分散剤として、界面活性剤などが配合されることが多い。また、微多孔層に撥水性樹脂を含ませる場合には、塗液には予め撥水性樹脂を含ませておくことが好ましい。
【0041】
導電性多孔質基材上に微多孔層を形成する方法としては、一旦PETフィルムなどの基材上に塗布し、その微多孔層面を導電性多孔質基材上に圧着し、基材フィルムを剥離する転写法も知られている。しかし、転写法は製造工程が複雑になること、導電性多孔質基材と微多孔層との間で十分な密着性が得られない場合がある。そのため微多孔層を形成する方法としては、導電性多孔質基材に塗液を塗布する方法が好ましい。
【0042】
塗液中の導電性微粒子の濃度は、生産性の点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。粘度、導電性粒子の分散安定性、塗液の塗布性などが好適であれば濃度に上限はない。導電性微粒子としてアセチレンブラックを用いた場合には、水系塗液の場合、塗液中のアセチレンブラックの濃度は25質量%程度を上限とするのが好ましく、この好ましい範囲であると、アセチレンブラック同士が再凝集して、いわゆるパーコレーションが発生することはなく、急激な粘度増加で塗液の塗布性が損なわれる可能性が低い。
【0043】
微多孔層の役割としては、(1)触媒の保護、(2)目の粗い導電性多孔質基材の表面が電解質膜に転写しないようにする化粧直し効果、(3)カソードで発生する水蒸気を凝縮防止の効果などである。上記のうち、化粧直し効果を発現するためには、微多孔層がある程度の厚みを有することが好ましい。
【0044】
本発明では、微多孔層として、少なくとも第1の微多孔層と第2の微多孔層とを有しているが、微多孔層の合計の厚みは、現状の導電性多孔質基材の粗さを考慮すれば、乾燥膜厚で10μmより大きく60μm以下であることが好ましい。なお、微多孔層の合計の厚みとは、微多孔層が第1の微多孔層と第2の微多孔層の2層で形成される場合には2層の合計の厚み、微多孔層が第1の微多孔層と第2の微多孔層を含む3層で形成される場合には3層の合計の厚みである。微多孔層の合計の厚みが10μm以下であると、前記した化粧直し効果が不足することがあり、60μmを超えるとガス拡散電極自体のガス拡散性(透過性)が低下したり、電気抵抗が高くなったりすることがある。ガス拡散性を高める、あるいは電気抵抗を下げるという観点からは、微多孔層の合計の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0045】
なお、ここでいう微多孔層の合計の厚みとは、第1の微多孔層および第2の微多孔層が配された導電性多孔質基材の片面での微多孔層の合計の厚みをいい、導電性多孔質基材の両面に微多孔層が配されている場合でも、第1の微多孔層および第2の微多孔層が配された導電性多孔質基材の片面だけでの微多孔層を対象とする。
【0046】
ガス拡散電極または導電性多孔質基材の厚みについては、マイクロメーターなどを用い、基材に0.15MPaの荷重を加えながら測定を行なうことができる。また、微多孔層の厚みについては、ガス拡散電極の厚みから導電性多孔質基材の厚みを差し引いて求めることができる。さらに、微多孔層が2層構成の場合の第2の微多孔層の厚みについては、
図1に示すように、第1の微多孔層を形成した導電性多孔質基材の上に第2の微多孔層を形成する際に、第2の微多孔層が形成されている部分と第2の微多孔層が形成されていない部分との差を第2の微多孔層の厚みとすることができる。基材に第1微多孔層、第2微多孔層を形成する際、各層の厚みを調整する場合には、上記マイクロメーターによる測定法を用いる。
【0047】
なお、導電性多孔質基材、第1の微多孔層、及び第2の微多孔層を有するガス拡散電極の状態で、各層の厚みを求める場合には、(株)日立ハイテクノロジーズ製IM4000などのイオンミリング装置を用いて、ガス拡散電極を厚み方向にカットし、その面直断面(厚み方向の断面)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM像から算出する方法が採用できる。
【0048】
塗液は、前記したように分散剤を用いて導電性微粒子を分散して調製する。導電性微粒子を分散させるためには、導電性微粒子と分散剤の合計の含有量100質量%に対して、分散剤を0.1質量%以上5質量%以下用いて分散させることが好ましい。この分散を長時間安定させて塗液粘度の上昇を防ぎ、液が分離したりしないようにするために、分散剤の添加量を増量することも有効であり好ましい場合がある。
【0049】
また、前記したように微多孔層の合計の厚みを乾燥後の塗膜で10μmより大きくする場合、塗液の粘度を少なくとも1000mPa・s以上に保つことが好ましい。塗液の粘度がこれより低いと、塗液が導電性多孔質基材の表面上で流れてしまったり、導電性多孔質基材の細孔に塗液が流入して裏抜けを起こしてしまったりすることがある。逆に、塗液を高粘度にしすぎると、塗布性が低下することがあるため、上限は25Pa・s程度である。塗液の好ましい粘度は、3000mPa・s以上20Pa・s以下、より好ましくは5000mPa・s以上15Pa・s以下である。本発明において、第1の微多孔層を形成した後、次いで、第2の微多孔層を形成するための塗液(以下、第2の塗液)を塗布して第2の微多孔層を形成するが、第2の塗液の粘度は、第1の微多孔層を形成するための塗液(以下、第1の塗液)の粘度よりも低いことが好ましく、10Pa・s以下であることが望ましい。
【0050】
上記のように塗液の粘度を高粘度に保つためには、増粘剤を添加することが有効である。ここで用いる増粘剤は、一般的に良く知られたもので良い。例えば、メチルセルロース系、ポリエチレングリコール系、ポリビニルアルコール系などが好適に用いられる。
【0051】
これらの分散剤や増粘剤は、同じ物質に二つの機能を持たせても良く、またそれぞれの機能に適した素材を選んでも良い。ただし、増粘剤と分散剤を別個に選定する場合には、導電性微粒子の分散系および撥水性樹脂であるフッ素樹脂の分散系を壊さないものを選ぶことが好ましい。上記分散剤と増粘剤は、ここでは界面活性剤と総称する。本発明は、界面活性剤の総量が、導電性微粒子の添加質量の50質量部以上が好ましく、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上である。界面活性剤の添加量の好ましい上限としては、通常導電性微粒子の添加質量の500質量部以下であり、この好ましい範囲であると後の焼結工程において蒸気や分解ガスが発生しにくく、安全性、生産性を確保できる。
【0052】
塗液の導電性多孔質基材への塗布は、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バー塗布、ブレード塗布、ロールナイフコーター塗布などが使用できるが、導電性多孔質基材の表面粗さによらず塗布量の定量化を図ることができるため、ダイコーターによる塗布が好ましい。また、燃料電池にガス拡散電極を組み込んだ場合に触媒層との密着を高めるため塗布面の平滑性を求める場合には、ブレードコーターやロールナイフコーターによる塗布が好適に用いられる。以上例示した塗布方法はあくまでも例示のためであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0053】
塗液を塗布した後、必要に応じ、塗液の分散媒(水系の場合は水)を乾燥除去する。塗布後の乾燥の温度は、分散媒が水の場合、室温(20℃前後)から150℃以下が望ましく、さらに好ましくは60℃以上120℃以下が好ましい。この分散媒(たとえば水)の乾燥は後の焼結工程において一括して行なっても良い。
【0054】
塗液を塗布した後、塗液に用いた界面活性剤を除去する目的および撥水性樹脂を一度溶解して導電性微粒子を結着させる目的で、焼結を行なうことが一般的である。
【0055】
焼結の温度は、添加されている界面活性剤の沸点あるいは分解温度にもよるが、250℃以上、400℃以下で行なうことが好ましい。焼結の温度がこの好ましい範囲であると、界面活性剤の除去が十分に達成でき、一方、撥水性樹脂の分解が起こる可能性も低い。
【0056】
焼結時間は生産性の点からできるかぎり短時間、好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内、さらに好ましくは5分以内であるが、あまり短時間に焼結を行なうと界面活性剤の蒸気や分解性生物が急激に発生し、大気中で行なう場合には発火の危険性が生じる。
【0057】
焼結の温度と時間は、撥水性樹脂の融点あるいは分解温度と界面活性剤の分解温度に鑑みて最適な温度、時間を選択する。なお、乾燥や焼結は、第1の塗液の塗布後や第2の塗液の塗布後のそれぞれに行ってもよいが、後述するように、第1の塗液の塗布および第2の塗液の塗布後に、一括して行うのが好ましい。
【0058】
本発明においては、上記の導電性多孔質基材の上に設けられる微多孔層を、導電性多孔質基材の少なくとも片面に、少なくとも2層以上積層する。導電性多孔質基材に接する微多孔層を第1の微多孔層、導電性多孔質基材側から見て第1の微多孔層の外側に積層される微多孔層を第2の微多孔層と称する。
【0059】
微多孔層に関して
図1を用いてより詳細に説明する。
【0060】
なお前述の通り、本発明の第1の態様におけるガス拡散電極の細孔径分布は、10μm以上100μm以下の第1の領域、0.2μm以上1.0μm未満の第2の領域、及び0.050μm以上0.2μm未満の第3の領域に少なくともピークを有し、第2の領域中の細孔の容積の和は、第1の領域中の細孔の容積の和の10%以上40%以下であり、第3の領域中の細孔の容積の和は、第2の領域中の細孔の容積の和の40%以上80%以下である。さらに本発明の第1の態様におけるガス拡散電極は、第1の領域中の細孔の容積の和が1.2mL/g以上2.0mL/g以下、第2の領域中の細孔の容積の和が0.2mL/g以上0.4mL/g以下、第3の領域中の細孔の容積の和が0.15mL/g以上0.30mL/g以下であることが好ましい。以下、本発明の第1の態様について説明する。
【0061】
本発明の第1の微多孔層201は、第1の塗液を、導電性多孔質基材に直接塗布して設けられる。第1の微多孔層は、ガス拡散性と排水性を高くするため、空隙率や細孔径を制御することが好ましい。
【0062】
本発明の第1の微多孔層の細孔径は、水銀ポロシメーターでの分布のピーク値により定義することができ、ガス拡散性を高いレベルにするため、第1の微多孔層は、細孔径分布において0.2μm以上の領域にピークを有することで、ガス拡散性を向上させることができるために好ましい。また、燃料電池の高温での発電性能を高めるためには、細孔径があまり大きくなると、燃料電池内部で生成する水蒸気を保持することができず、電解質膜のドライアップを起こしやすくなる。また、細孔径が大きすぎると、第1の微多孔層の上に塗布する塗液が細孔に落ち込み、微多孔層の表面平滑性が悪化することもある。そのため、本発明においては、第1の微多孔層は、細孔径分布において1.0μm未満の領域にピークを有することが好ましい。つまり第1の微多孔層は、細孔径分布において第2の領域にピークを有することが好ましい。
【0063】
本発明の第1の微多孔層の厚みについては、導電性多孔質基材の粗さの化粧直し効果を発現させるために、前述の通り微多孔層の合計の厚みが10μmより大きいことが好ましいが、より好ましくは第1の微多孔層の厚みだけで10μm以上である。ただし、後述する細孔径の小さい第2の微多孔層が上に積層されても、ガス拡散性を確保する必要性から、第1の微多孔層の厚みは50μm未満であることが好ましい。
【0064】
塗液を導電性多孔質基材の表面に塗布することで微多孔層を形成するため、導電性多孔質基材の空孔に該塗液が浸み込んでしまい、導電性多孔質基材中に微多孔層の染み込み部分203が形成される場合がある。そこで本発明における各微多孔層の厚みは、この浸み込み部分は除いて、導電性多孔質基材の外側に存在する部分の厚みのみで評価する。
【0065】
本発明の第2の微多孔層202は、導電性多孔質基材側から見て第1の微多孔層の外側に、第2の塗液を塗布することにより形成される。微多孔層が第1の微多孔層と第2の微多孔層の2層のみからなる場合には、第2の塗液が第1の微多孔層の表面に塗布される。第2の微多孔層の役割は、燃料電池に組み込んだときに触媒層に接して、カソードにおいては触媒層で発生する水分(水蒸気)の透過を抑制し、アノードにおいてはカソード側からアノード側に逆拡散してくる水分の透過を抑制して、電解質膜の乾燥(ドライアップ)を防ぐことである。このため、本発明の第2の微多孔層は、細孔径分布において、第1の微多孔層より小さく、好ましくは0.050μm以上0.2μm未満の領域、より好ましくは0.050μm以上0.09μm以下、特に好ましくは0.050μm以上0.08μm以下の領域にピークを有することが好ましい。つまり第2の微多孔層は、細孔径分布において第3の領域にピークを有することが好ましい。
【0066】
本発明の第2の微多孔層の厚みは、0.1μm以上10μm未満であることが好ましい。第2の微多孔層の厚みが、この好ましい範囲であると、水蒸気の透過の抑制効果が得られ、一方、ガス拡散性が低下することがない。より好ましくは0.1μm以上7μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上5μm以下である。
【0067】
第1の微多孔層の細孔径の制御は、第1の塗液に配合する導電性微粒子の種類を選択したり分散度を調整したり、導電性微粒子の粒子径や形状を適宜選択することで可能である。導電性微粒子としては、安価で入手しやすいこと、安全性の信頼度が高いなどの理由からカーボンブラックを用いることが好ましい。本発明のガス拡散電極が、第2の領域(0.2μm以上1μm未満)に細孔径分布のピークを少なくとも有するためには、第1の微多孔層に用いるカーボンブラックの粒子が凝集体(いわゆるストラクチャー)を形成し、カーボンブラックが2次元あるいは3次元に数珠繋ぎの構造を取ることが好ましい。この目的のために、
参考態様においては、第1の微多孔層中のカーボンブラックは、そのストラクチャー指数が3.0以上である。
【0068】
つまり本発明の第1の態様においては、第1の微多孔層はストラクチャー指数が3.0以上のカーボンブラックを含むことが好ましく、
参考態様においては、第1の微多孔層はストラクチャー指数が3.0以上のカーボンブラックを含むことを必須とする。
【0069】
ここでストラクチャー指数とは、カーボンブラックのDBP吸油量(cc/100g)の値をBET比表面積(m
2/g)の値で割ったものである。この値が大きいほどカーボンブラックの凝集の枝分かれ構造が広がり、塗膜内部で大きい空孔ができやすくなる。
参考態様においては、第1の微多孔層中のカーボンブラックのストラクチャー指数の上限は4.5程度であることが好ましい。この好ましい範囲であると、カーボンブラックの凝集体どうしの間でクラックが発生する可能性が低い。
【0070】
第2の微多孔層では、第2の塗液に配合する導電性微粒子の分散度を高く調整して緻密な塗膜を形成させる、導電性微粒子の粒子径を小さいものを使うなどして、空隙率を低く緻密な塗膜を形成させることができる。導電性微粒子としてカーボンブラックを使用する場合、一次粒子径までは分散できないので、二次粒子径(ある程度粒子が凝集した状態の径)をどこまで細かく分散できるかによって塗膜の細孔径が小さくなる。また、本発明のガス拡散電極が、第3の領域(0.050μm以上0.2μm未満)に細孔径分布のピークを少なくとも有するためには、
参考態様においては、第2の微多孔層が含むカーボンブラックとして、ストラクチャー指数が3.0未満のカーボンブラックを用いる。
参考態様において、第2の微多孔層中のカーボンブラックにとって好ましいストラスクチャー指数は2.7以下である。一方、ストラスクチャー指数の下限としては1.5以上のものを用いることが好ましい。この好ましい範囲であると、カーボンブラックの導電性が低下したり、塗料化したときに粘度が下がりすぎたりする可能性は低い。
【0071】
つまり本発明の第1の態様においては、第2の微多孔層はストラクチャー指数が3.0未満のカーボンブラックを含むことが好ましく、
参考態様においては、第2の微多孔層はストラクチャー指数が3.0未満のカーボンブラックを含むことを必須とする。
【0072】
ここで本発明のガス拡散電極においては、第1の領域のピークは導電性多孔質基材に、第2の領域のピークは第1の微多孔層に、第3の領域のピークは第2の微多孔層にそれぞれ由来するものであることが好ましい。そして第1の領域中の細孔は、本発明のガス拡散電極のガス拡散性を主として担うため、第1の領域中の細孔の容積の和は、1.2mL/g以上2.0mL/g以下であることが好ましい。
【0073】
第2の領域中のピークに対応する細孔は、導電性多孔質基材の粗さを補修し(化粧直し効果)、触媒層へ粗さが転写することを防止するため、第1の微多孔層に主として存在することが好ましい。そして第2の領域中の細孔の容積の和は、0.2mL/g以上0.4mL/g以下であることが好ましい。
【0074】
さらに第3の領域中のピークに対応する細孔は、水蒸気の拡散抑制が主たる役割であり、微細な細孔がガス拡散電極の触媒側表層に存在することが好ましい。そして、第3の領域中の細孔の容積の和は、0.15mL/g以上0.30mL/g以下であることが好ましい。この好ましい範囲であると、ガスの拡散性や生成する凝縮水の排水性が低下する可能性が低い。
【0075】
本発明のガス拡散電極は、高温での発電性能が良好になるが、さらに40℃以下の低温での発電性能も高めるために、厚み方向のガス拡散性は30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは32%以上である。厚み方向のガス拡散性は高いほど良いが、上限値は40%程度が好ましい。この好ましい範囲であると、燃料電池に組み込んだ際に、細孔容積が大きくて、電池内部に圧力がかかったとしてもその構造を維持できる。
【0076】
同様に本発明のガス拡散電極は、さらに40℃以下の低温での発電性能も高めるために、面内方向のガス拡散性が25cc/分以上であることが好ましく、50cc/分以上であることがさらに好ましい。この面内方向のガス拡散性は、後述するように、ガス拡散電極を用いて、基本的な測定条件として5kPaの圧力差において測定する。しかし、測定上の限界として190cc/分を超えては測定できない。実際的な上限値としては、3kPaにおいて190cc/分程度とするのが好ましい。この好ましい範囲であると、ガス拡散電極の厚みが大きすぎて厚み方向のガス拡散性が低下することはなく、あるいは空隙率が大きすぎて燃料電池のセルにガス拡散層として組み込んだときに、そのガス拡散層としての構造を維持しやすい。
【0077】
第1の微多孔層あるいは第2の微多孔層は各層の空隙率に傾斜をつけたり、第1の微多孔層を一度に厚く形成できなかったりするような場合に、2段階以上に分けて形成することも可能である。微多孔層を3層以上の個別の微多孔層を積層して形成する場合は、上記第1の微多孔層と第2の微多孔層の間に該当する他の微多孔層を設け、それらの層は、細孔径、空隙率は第1の微多孔層または第2の微多孔層と同等ないしは、それらの中間の値を取るようにすることが好ましい。
【0078】
本発明においては、導電性多孔質基材の表面に第1の塗液を塗布して第1の微多孔層を形成し、その上に第2の塗液を、第2の微多孔層の厚みが10μm未満となるように塗布することが好ましい。このような薄膜を均一に塗布するためには、第1の塗液を導電性多孔質基材上に塗布した後、乾燥させずに連続して第2の塗液を塗布するWet on Wetの重層技術を適用することも有効である。導電性多孔質基材の表面は一般的に粗く、凹凸の差が10μm近くにもなる場合がある。このように凹凸の大きい表面に第1の塗液を塗布しても、乾燥後は完全にはその凹凸を解消しきれない。第2の微多孔層は10μm未満という薄膜が好適なため、第2の塗液の粘度はある程度低くすることが好ましい。そのような低粘度の塗液で上記のような凹凸のある面の上に薄膜を形成しようとすると、凹凸の凹部には液が溜まりやすく(即ち厚膜になる)、凸部には液が乗らずに、極端な場合には第2の微多孔層の薄膜が形成できない。これを防ぐために、乾燥する前に、第1の塗液と第2の塗液を重ねてしまい、後から一括して乾燥させることにより、第1の微多孔層の表面に均一に第2の微多孔層の薄膜を形成することができる。
【0079】
このように、多層塗布の際に各層の塗布後に乾燥せず、多層塗布完了後に一括して乾燥することは、乾燥機が一つで済み、塗布工程も短くなるので、設備コストや生産スペースの節約にもなる。また、工程が短くなることで、工程における、一般的に高価な導電性多孔質基材のロスを低減することも可能となる。
【0080】
上記の多層塗布においては、第1の塗液の塗布をダイコーターで行い、さらに第2の塗液の塗布もダイコーターで行う方法、第1の塗液の塗布を各種のロールコーターで行い、第2の塗液の塗布をダイコーターで行なう方法、第1の塗液の塗布をロールナイフコーターで行い、第2の塗液の塗布をダイコーターで行なう方法、第1の塗液の塗布をリップコーターで行い、第2の塗液の塗布をダイコーターで行なう方法、スライドダイコーターを用いて、基材に塗布する前に第1の塗液と第2の塗液を重ねてしまう方法などが適用できる。特に、高粘度の塗液を均一に塗布するためには、第1の塗液の塗布をダイコーターまたはロールナイフコーターで行なうことが好ましい。
【0081】
上記ダイコーター、ロールナイフコーターの塗布方法については、「コンバーティングのすべて」((株)加工技術研究会編)など、既存の多数の文献に記載されている。ダイコーターとはあらかじめ計量された塗液を幅方向に均一に分配するためのダイを経由して基材上に塗布する形式である。また、ロールナイフコーターとは、ナイフコーターと同じようにあらかじめ厚く盛っておいた塗液を一定の高さに設定したロールナイフで削ぎ落して基材の凹凸に関わらず塗布面を平滑にする塗布方式である。
【0082】
本発明の好適な態様は、まず第1に、第2の微多孔層のような表層として、0.1μm以上10μm未満という薄膜を可能な限り均一に形成することであるが、触媒が両面に塗布された電解質膜とガス拡散電極の密着性(触媒層表面とガス拡散電極の微多孔層表面との接触面積)を出来る限り大きくすることが望ましい。そのためには、できるかぎり、ガス拡散電極の微多孔層表面を平滑にすることが望ましい。また、ガス拡散電極側に触媒インクを塗布する方法も一般的に知られている(GDE法)が、この場合にも、触媒インクを均一に塗布するために、ガス拡散電極の微多孔層の表面は、できるかぎり平滑にしておくことが望ましい。このように、平滑性が求められる場合には、ロールナイフコーターなどで第1の塗液を塗布して、一旦基材の粗さをならした上で、ダイコーターで第2の塗液を塗布すると、より高い平滑性が得られる。
【0083】
平滑性の指標としては、表面粗さRaが用いられ、本発明のガス拡散電極は、第2の微多孔層が最表面にあり、第2の微多孔層の表面粗さRaの値が6μm以下であることが望ましく、より好ましくは4μm以下である。Raが6μmより大きいと触媒層との密着性が悪く、また、触媒インクを微多孔層表面に塗布する場合などを考慮すると、表面粗さRaの下限としては、0.1μm程度が限界と考えられる。また、導電性多孔質基材としてカーボンペーパーを用いる場合には、基材粗さが一般的に10μm以上と大きいため、その上に第1、第2の微多孔層を設けても、最表面にある第2の微多孔層の表面粗さRaの値は2μm以下と小さくすることは困難である。
【0084】
表面粗さの測定には各種の表面粗さ計が適用できるが、微多孔層は比較的脆弱であるので、非接触タイプの計測器を用いるのが好ましい。非接触タイプの測定器の例としてはキーエンス社のレーザー顕微鏡VX−100などがある。
【0085】
本発明のガス拡散電極を製造するに好適な製造装置は、ロール状に巻いた長尺の導電性多孔質基材を巻き出すための巻き出し機、巻き出し機により巻き出された導電性多孔質基材に第1の塗液を塗布するための第1の塗布機、第1の塗液が塗布され、実質的に乾燥されていない導電性多孔質基材に第2の塗液を塗布するための、第1の塗布機が配置された基材面側と同じ面側に配置された第2の塗布機、第1の塗液および第2の塗液が塗布された導電性多孔質基材を乾燥するための乾燥機、および、得られたガス拡散電極を巻き取る巻き取り機から構成される。
【0086】
図2および3には、本発明における特に好ましい製造装置が例示してある。
【0087】
図2に示す製造装置においては、巻き出し機2から長尺の導電性多孔質基材1が巻き出され、ガイドロール3で適宜支持されながら搬送され、第1の塗布機である第1のダイコーター4により、導電性多孔質基材の片面に第1の塗液が塗布される。このとき第1の塗液は通常、塗液タンク12から送液ポンプ13によりダイコーターに供給される。好ましくはフィルター14によりろ過する。第1のダイコーター4と同じ基材面側に設置された、第2の塗布機である第2のダイコーター5により、第2の塗液が第1の塗液の塗布面上に塗布された後、一括して乾燥機7で乾燥が行われ、ガス拡散電極は巻き取り機9で巻き取られる。なお、第2の塗液も通常、塗液タンク12から送液ポンプ13によりダイコーターに供給される。好ましくはフィルター14によりろ過する。また、
図2で示すように、乾燥機7の後に焼結機8を設置してインラインで焼結することが好ましい。また、ダイコーターによる塗液の塗布に際しては、バックロール6を用いてもよいし、巻き取りに際しては塗布面保護のため、合い紙の巻き出し機11から巻き出された合い紙10を製品と共巻きにしてもよい。
【0088】
図3に示す製造装置においては、
図2における第1のダイコーター4の替わりにロールナイフコーター40を設置してある。ロールナイフコーターで塗布する場合には、液ダム42に塗材を供給しながら基材を搬送させ、ロールナイフロール41にて所望の塗布量になるように塗材を掻き取る。
【0089】
図2あるいは3に示すように、複数の層を基材の上に設ける際にそれらの複数の層の乾燥を一括して行なってしまうことで、乾燥機を簡略化でき、また巻き出しから巻き取りまでの工程を短くできるため、生産性が高く、基材が破断した際にもロスが少なくてすむ。
【0090】
本発明のガス拡散電極は、触媒層を両面に設けた電解質膜の両側に触媒層とガス拡散電極が接するように圧着し、さらに、セパレータなどの部材を組みこんで単電池を組み立てて燃料電池として使用される。その際、第2の微多孔層が、触媒層と接するように組み立てるとよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。実施例で用いた材料、導電性多孔質基材の作製方法、燃料電池の電池性能評価方法を次に示した。
【0092】
<材 料>
導電性多孔質基材
・厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーを以下のように調製して得た。
【0093】
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均単繊維径:7μm)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10質量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、ロール状に巻き取って、炭素短繊維の目付けが15g/m
2の長尺の炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙100質量部に対して、添加したポリビニルアルコールの付着量は20質量部に相当する。
【0094】
鱗片状黒鉛(平均粒子径:5μm)、フェノール樹脂およびメタノールを5:10:85の質量比で混合した分散液を用意した。上記炭素繊維紙に、炭素短繊維100質量部に対して樹脂成分(フェノール樹脂+鱗片状黒鉛)が130質量部になるように、上記分散液を連続的に含浸し、100℃の温度で5分間乾燥する樹脂含浸工程を経た後、ロール状に巻き取って樹脂含浸炭素繊維紙を得た。フェノール樹脂には、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを1:1の質量比で混合したものを用いた。
【0095】
平板プレスに熱板が互いに平行になるようにセットし、下熱板上にスペーサーを配置して、熱板温度180℃で5分間熱処理を行った。
【0096】
圧縮処理をした炭素繊維紙を前駆体繊維シートとして、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、焼成する炭化工程を経た後、ロール状に巻き取ってカーボンペーパーを得た。得られたカーボンペーパーは、密度0.25g/cm
3、空隙率85%であった。
・炭化後の厚みが180μmとなるように炭素繊維の目付け量、圧縮処理の際のスペーサーの厚みを調整した以外は、厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーと同様にして、厚み180μm、空隙率85%のカーボンペーパーを得た。
・さらに比較用に炭素繊維の目付け量、圧縮処理の際のスペーサーの厚みを調整し炭化後の厚みが250μmのカーボンペーパーを得た。
【0097】
ストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
1
DBP吸油量140cc/100g、BET比表面積41m
2/g、ストラクチャー指数3.4
ストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2
DBP吸油量125cc/100g、BET比表面積41m
2/g、ストラクチャー指数3.1
ストラクチャー指数3.0未満のカーボンブラックCB
3
DBP吸油量175cc/100g、BET比表面積67m
2/g、ストラクチャー指数2.6
ストラクチャー指数1.5未満のカーボンブラックCB
4
DBP吸油量174cc/100g、BET比表面積 254m
2/g、ストラクチャー指数0.69
撥水性樹脂
・“ネオフロン”(登録商標)FEPディスパージョンND−110(FEP樹脂、ダイキン工業(株)製)
界面活性剤
・“TRITON”(登録商標)X−100(ナカライテスク(株)製)
<基材および微多孔層の厚みの測定>
基材(ガス拡散電極および導電性多孔質基材)の厚みについては、(株)ニコン製デジタル厚み計“デジマイクロ”を用い、基材に0.15MPaの荷重を加えながら測定を行った。
【0098】
微多孔層の厚みについては、塗液を基材に塗布するさいに、塗布厚みを確認する場合には、ガス拡散電極の厚みから導電性多孔質基材の厚みを差し引いて測定した。すなわち、第1の微多孔層の厚みについては、第1の微多孔層のみを塗布した基材の厚みと導電性多孔質基材の厚みとの差によって、第1の微多孔層の厚みとした。この時、導電性多孔質基材へ浸み込んでいる微多孔層の厚みは入っていない。また、第2の微多孔層の厚みについては、
図1に示すように、第1の微多孔層を形成した導電性多孔質基材の上に第2の微多孔層を形成する際に、第2の微多孔層が形成されている部分と第2の微多孔層が形成されていない部分との差によって、第2の微多孔層の厚みを調整した。
【0099】
また、塗液を塗布、焼結して得たガス拡散電極における微多孔層の厚みについては、走査型電子顕微鏡として(株)日立製作所製S−4800を用い、ガス拡散電極の面直断面から、導電性多孔質基材、第1の微多孔層、第2の微多孔層のそれぞれの領域において、導電性多孔質基材と第1の微多孔層との界面と第2の微多孔層と第1の微多孔層との界面との距離を第1の微多孔層の厚みとし、10視野での平均値を求めた。
【0100】
さらに、第1の微多孔層と第2の微多孔層の界面と第2の微多孔層表面との間の距離を第2の微多孔層の厚みとし、10視野での平均値を求めた。
【0101】
ガス拡散電極の断面の作製に際しては、(株)日立ハイテクノロジーズ製イオンミリング装置IM4000を用いた。測定における走査型電子顕微鏡画像の倍率は、第1の微多孔層については1000倍ないし2000倍、第2の微多孔層については、2000倍ないし3000倍で測定行った。
【0102】
<細孔径測定>
導電性多孔質基材、微多孔層の細孔径は、水銀圧入法により、測定圧力6kPa〜414MPa(細孔径30nm〜400μm)の範囲で測定して得られる細孔径分布のピーク径を求めた。なお、近い細孔径領域に複数のピークが現れる場合は、最も高いピークのピーク径を採用した。測定装置としては、島津製作所社製オートポア9520を用いた。
【0103】
ここで、細孔径のピークは水銀ポロシメーターによる細孔測定で得られる対数微分細孔容積分布グラフ(
図5)の曲線において、対象とする領域における極大点(極大点が複数ある場合には最大の極大点)をその領域のピークとして、その位置を細孔径とした。
【0104】
また前述の対数微分細孔容積分布グラフ(
図5)の曲線において、対象とする領域中に極大点がない場合でも、例えば
図6のように、その領域中に上に凸となったショルダー部分があれば、その領域にはピークを有すると判断した。なお、領域中に上に凸となったショルダー部分があるとは、その領域における細孔径分布が上に凸の曲線となっていることを意味する。
【0105】
また細孔容積の和については、対数微分細孔容積分布グラフを細孔径に関して積分した積算データにおいて、測定対象の細孔径の大きい細孔径における積算容積の値から小さい細孔径の積算データを差し引いて求める。例えば、第2の領域(0.2μm以上1.0μm未満の領域)での細孔容積の和は、0.2μmまでの積算データから1.0μmまでの積算データを差し引いて求める。
【0106】
<表面粗さ測定>
測定すべきガス拡散電極の微多孔層表面について、(株)キーエンス製レーザー顕微鏡VK−X100を用い、対物レンズ10倍、カットオフなしで粗さ測定を行うことで算術平均粗さRaを求め、これを10視野について行って、その平均値を表面粗さの値とした。
【0107】
<厚み方向のガス拡散性>
西華産業製水蒸気ガス水蒸気透過拡散評価装置(MVDP−200C)を用い、ガス拡散電極の一方の面側(1次側)に拡散性を測定したいガスを流し、他方の面側(2次側)に窒素ガスを流す。1次側と2次側の差圧を0Pa近傍(0±3Pa)に制御しておき(即ち圧力差によるガスの流れはほとんどなく、分子拡散によってのみガスの移動現象が起こる)、2次側のガス濃度計により、平衡に達したときのガス濃度を測定し、この値(%)を厚み方向のガス拡散性の指標とした。
<面内方向のガス拡散性>
西華産業製水蒸気ガス水蒸気透過拡散評価装置(MVDP−200C)を用い、
図4に示すような配管系において、最初にバルブA(303)のみ開いて、バルブB(305)を閉じた状態にしておいて、窒素ガス313を一次側配管A(302)に流し、マスフローコントローラー(301)に所定量(190cc/分)のガスが流れ、圧力コントローラー(304)にガス圧力が大気圧に対して5kPaかかるように調整する。ガス室A(307)とガス室B(309)の間にあるシール材(312)の上にガス拡散電極試料(308)をセットする。次いで、バルブA(303)を閉じ、バルブB(305)を開いて、配管B(306)に窒素ガスが流れるようにする。ガス室A(307)に流入する窒素ガスは、ガス拡散電極試料(308)の空隙を通ってガス室B(309)に移動し、配管C(310)を通過、さらにガス流量計(311)を通過して大気中に放出される。このときのガス流量計(311)を流れるガス流量(cc/分)を測定し、この値を面内方向のガス拡散性とした。
【0108】
<発電性能評価>
得られたガス拡散電極を、電解質膜・触媒層一体化品(日本ゴア製の電解質膜“ゴアセレクト”(登録商標)に、日本ゴア製触媒層“PRIMEA”(登録商標)を両面に形成したもの)の両側に、触媒層と微多孔層が接するように挟み、ホットプレスすることにより、膜電極接合体(MEA)を作製した。この膜電極接合体を燃料電池用単セルに組み込み、電池温度40℃、燃料利用効率を70%、空気利用効率を40%、アノード側の水素、カソード側の空気をそれぞれ露点が75℃、60℃となるように加湿して発電させ、電流密度を高くしていって発電が停止する電流密度の値(限界電流密度)を耐フラッディング性の指標とした。また、電池温度90℃で同様に測定を行い、耐ドライアップ性の指標とした。さらに、通常の運転条件(電池温度70℃)での発電性能も測定した。
【0109】
(実施例1)
ロール状に巻き取られた厚み150μm、空隙率85%のカーボンペーパーを巻き取り式の搬送装置を用いて、搬送しながら、フッ素樹脂濃度を2質量%になるように水に分散した撥水性樹脂ディスパージョンを満たした浸漬槽に浸漬して撥水処理を行い、100℃に設定した乾燥機7で乾燥して巻き取り機で巻き取って、撥水処理した導電性多孔質基材を得た。撥水性樹脂ディスパージョンとして、FEPディスパージョン ND−110を水でFEPが2質量%濃度になるように薄めたものを用いた。
【0110】
次に、
図2に概略を示すように、巻き出し機2、ガイドロール3、バックロール6、合い紙巻き出し機11、巻き取り機9を備えた搬送装置に2基のダイコーター(4,5)、乾燥機7および焼結機8を備えた巻き取り式の連続コーターを用意した。
【0111】
前記撥水処理した導電性多孔質基材として、厚み150μm、空隙率85%、幅約400mmのカーボンペーパーを400mロール状に巻いた原反を巻き出し機2にセットした。
【0112】
巻き出し部、巻き取り部、コーター部に設置された駆動ロールにより原反を搬送した。まず、第1のダイコーター4を用いて第1の塗液を塗布した後、連続して第2のダイコーター5により第2の塗液を塗布し、乾燥機7において100℃の熱風により水分を乾燥、さらに温度を350℃に設定した焼結機8において、焼結を行なった後、巻き取り機9にて巻き取った。
【0113】
なお、塗液は以下のように調製した。
【0114】
第1の塗液:
ストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
1 15質量部、FEPディスパージョン(“ネオフロン”(登録商標)ND−110)5質量部、界面活性剤(“TRITON”(登録商標)X−100)15質量部、精製水65 質量部をプラネタリーミキサーで混練し、塗液を調製した。この時の塗液粘度は、7.5Pa・sであった。
【0115】
第2の塗液:
ストラクチャー指数3.0未満のカーボンブラックCB
3 5質量部、FEPディスパージョン(“ネオフロン”(登録商標)ND−110)2質量部、界面活性剤(“TRITON”(登録商標) X−100)7質量部、精製水 86質量部をプラネタリーミキサーで混練し、塗液を調製した。条件を調整し、第1の塗液の塗布にあたっては、焼結後の微多孔層の目付け量が16g/m
2となるように調整した。このとき、第1の微多孔層の厚みは25μmであった。さらに、第2の塗液の塗布にあたっては、第2の微多孔層の厚みが3μmとなるよう調製した。
【0116】
このようにして、調製したガス拡散電極の細孔径分布を測定した結果を表1に示す。
【0117】
また、上記のように調製したガス拡散電極を、触媒層を両面に設けた電解質膜の両側に、微多孔層と触媒層が接するように熱圧着し、燃料電池の単セルに組み込み、40℃と70℃および90℃の各温度で発電性能(限界電流密度)評価を行った。
【0118】
その他の物性値も含め、表1、表2に示す。
【0119】
(実施例2)
実施例1において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0120】
(実施例3)
実施例1において、カーボンペーパーの厚みを180μmに変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0121】
(実施例4)
実施例3において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、実施例3と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0122】
(
参考例1)
実施例1において、導電性多孔質基材として空隙率85%、厚み250μmのカーボンペーパーを用いた以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。このガス拡散電極を実施例1と同様に燃料電池用単セルに組み込み、発電性能評価を行なった。
【0123】
(
参考例2)
参考例1において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、
参考例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0124】
(比較例1)
実施例1において、第1の微多孔層のカーボンブラックをストラクチャー指数3.0未満のカーボンブラックCB
3に変更し、第2微多孔層のカーボンブラックをストラクチャー指数1.5未満のカーボンブラックCB
4に変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。このガス拡散電極を実施例1と同様に燃料電池用単セルに組み込み、発電性能評価を行なった。この例においては、細孔径分布において第2の領域にピークが得られず、この領域の細孔の容積の和は小さい値となった。
【0125】
(比較例2)
実施例1において、第1微多孔層のカーボンブラックをストラクチャー指数1.5未満のカーボンブラックCB
4に変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0126】
この例においては、細孔径分布において第2の領域にピークが得られず、この領域の細孔の容積の和は小さい値となった。
【0127】
(比較例3)
実施例1において、第1の微多孔層中のカーボンブラックをストラクチャー指数3.0未満のカーボンブラックCB
3に変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0128】
この例においては、細孔径分布において第2の領域にピークが得られず、この領域の細孔の容積の和は小さい値となった。
【0129】
(比較例4)
実施例3において、第1の微多孔層中のカーボンブラックをストラクチャー指数3.0未満のカーボンブラックCB
3に変更した以外は全て、実施例3と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0130】
(実施例
5)
実施例1において、第1の微多孔層の厚みを22μm、第2の微多孔層の厚みを6μmに変更した以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0131】
(実施例
6)
実施例
5において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、実施例
5と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0132】
(
参考例3)
実施例1において、第2の微多孔層の厚みを11μmにした以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0133】
(
参考例4)
参考例3において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、
参考例3と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0134】
(実施例
7)
実施例1において、第1の微多孔層の厚みを50μmにした以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0135】
(実施例
8)
実施例
7において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、実施例
7と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0136】
(
参考例5)
実施例1において、第1の塗液を水で希釈し、導電性多孔質基材にしみこみやすいようにしたうえで、微多孔層厚みが実施例1とほぼ合うようにした以外は全て、実施例1と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0137】
(
参考例6)
参考例5において、第1の塗液に含まれるカーボンブラックをストラクチャー指数3.0以上のカーボンブラックCB
2に変更した以外は全て、
参考例5と同様にしてガス拡散電極を得た。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
ガス拡散電極の細孔径分布は、10μm以上100μm以下の第1の領域、0.2μm以上1.0μm未満の第2の領域、及び0.050μm以上0.2μm未満の第3の領域に少なくともピークを有し、
第2の領域中の細孔の容積の和は、第1の領域中の細孔の容積の和の10%以上40%以下であり、第3の領域中の細孔の容積の和は、第2の領域中の細孔の容積の和の40%以上80%以下であることを特徴とするガス拡散電極。