特許第6187723号(P6187723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許6187723新規な環状化合物およびそれを含む光学材料用組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187723
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】新規な環状化合物およびそれを含む光学材料用組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/02 20060101AFI20170821BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20170821BHJP
   C08G 75/12 20160101ALI20170821BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C07D327/02CSP
   C08G18/38
   C08G75/12
   G02B1/04
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-509419(P2017-509419)
(86)(22)【出願日】2016年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2016056151
(87)【国際公開番号】WO2016158155
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-65894(P2015-65894)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】仮屋薗 和貴
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−016657(JP,A)
【文献】 特開2001−031675(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/072670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 327/02
C08G 18/38
C08G 75/12
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される環状化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)で表される環状化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物。
【化2】
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。)
【請求項3】
前記式(1)で表される環状化合物の含有量が0.001〜5.0質量%である請求項2に記載の光学材料用組成物。
【請求項4】
さらにポリチオールを含む請求項2または3に記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
さらに硫黄を含む請求項2から4のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【請求項6】
さらにポリイソシアネートを含む請求項4または5に記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
請求項2から6のいずれかに記載の光学材料用組成物と、該光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%〜10質量%の重合触媒とを含む重合硬化性組成物。
【請求項8】
請求項2から6のいずれかに記載の光学材料用組成物または請求項7に記載の重合硬化性組成物を硬化した光学材料。
【請求項9】
請求項8に記載の光学材料を含む光学レンズ。
【請求項10】
請求項2から6のいずれかに記載の光学材料用組成物を硬化した光学材料の製造方法であって、
前記光学材料用組成物の総量に対して、重合触媒を0.0001質量%〜10質量%添加し、重合硬化する工程を含む、前記光学材料の製造方法。
【請求項11】
重合硬化前に式(2)で表されるエピスルフィド化合物と硫黄を一部重合反応させる請求項10に記載の光学材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な環状化合物およびそれを含む光学材料用組成物に関し、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料、中でもプラスチックレンズに好適に使用される新規な環状化合物およびそれを含む光学材料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは軽量かつ靭性に富み、染色も容易である。プラスチックレンズに特に要求される性能は、低比重、高透明性および低黄色度、光学性能として高屈折率、高アッベ数、高耐熱性、高強度などである。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減する。
近年、高屈折率および高アッベ数を目的として、硫黄原子を有する有機化合物を用いた例が数多く報告されている。中でも硫黄原子を有するポリエピスルフィド化合物は、屈折率とアッベ数のバランスが良いことが知られている(特許文献1)。また、ポリエピスルフィド化合物は様々な化合物と反応可能であることから、物性向上のためチオウレタンなど各種化合物との組成物が提案されている(特許文献2〜5)。また、ポリエピスルフィド化合物から成る組成物で、さらに高屈折率化を指向して、硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含有する光学材料が提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−110979号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2001−002783号公報
【特許文献4】特開2001−131257号公報
【特許文献5】特開2002−122701号公報
【特許文献6】特開2004−137481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記光学材料、特に眼鏡用プラスチックレンズの製造においては、重合硬化したレンズにモールドからのハガレ跡が残る不良やモールドからの離型不良により歩留まりが低下する場合があった。
ハガレ跡が残る不良とは、重合硬化後にモールドからのハガレ跡がレンズに残る不良であり、これが発生するとレンズとして使用出来なくなる。特に度数の高いマイナスレンズにおいてハガレ跡が残る不良が顕著に見られ、改善が求められていた。また離型不良とは、離型性が悪いことでレンズ脱型時にレンズ欠けが発生する不良であり、これが発生するとレンズとして使用出来なくなる。特に度数の高いプラスレンズにおいて離型不良が顕著に見られ、改善が求められていた。
これら不良は、相反する不良であり、通常ハガレが良くなると離型性が悪化、離型性が良くなるとハガレが悪化する傾向にある。そのため、これらの不良を同時に抑制改善する方法が求められていた。
本発明の課題は、ハガレ跡が残る不良やレンズの離型不良による歩留まりの低下を改善できる化合物、その化合物とエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物、光学材料および光学レンズならびにそれらの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物とエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物により本課題を解決し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
<1> 下記式(1)で表される環状化合物である。
【化1】
<2> 上記<1>に記載の式(1)で表される環状化合物と下記式(2)で表されるエピスルフィド化合物とを含む光学材料用組成物である。
【化2】
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を示す。)
<3> 前記式(1)で表される環状化合物が0.001〜5.0質量%である上記<2>に記載の光学材料用組成物である。
<4> さらにポリチオールを含む上記<2>または<3>に記載の光学材料用組成物である。
<5> さらに無機硫黄を含む上記<2>から<4>のいずれかに記載の光学材料用組成物である。
<6> さらにポリイソシアネートを含む上記<4>または<5>に記載の光学材料用組成物である。
<7> 上記<2>から<6>のいずれかに記載の光学材料用組成物と、該光学材料用組成物の総量に対して0.0001質量%〜10質量%の重合触媒とを含む重合硬化性組成物。
<8> 上記<2>から<6>のいずれかに記載の光学材料用組成物または上記<7>に記載の重合硬化性組成物を硬化した光学材料である。
<9> 上記<8>に記載の光学材料を含む光学レンズである。
<10> 上記<2>から<6>のいずれかに記載の光学材料用組成物の総量に対して、重合触媒を0.0001質量%〜10質量%添加し、重合硬化する工程を含む、光学材料の製造方法である。
<11> 重合硬化前に式(2)で表されるエピスルフィド化合物と硫黄を一部重合反応させる上記<10>に記載の光学材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、式(1)で表される環状化合物を添加することでエピスルフィド化合物を含む組成物を重合硬化させた際のハガレ不良と離型不良を同時に抑制し、プラスチックレンズなどの光学材料を工業的に効率良く生産することができる。また、式(1)で表される環状化合物を添加することでエピスルフィド化合物の保管中の粘度変化を抑えることも可能となり、生産条件を安定化できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記式(1)で表される環状化合物、及び前記式(1)で表される環状化合物と重合性化合物とを含む光学材料用組成物である。重合性化合物としては、エピスルフィド化合物、ビニル化合物、メタクリル化合物、アクリル化合物、アリル化合物が挙げられるが、好ましくはエピスルフィド化合物であり、より好ましくは前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物である。
本発明の光学材料用組成物中の前記式(1)で表される環状化合物の割合は、0.001〜5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜3.0質量%、特に好ましくは0.01〜2.0質量%である。式(1)で表される環状化合物が5.0質量%を上回ると耐熱性や耐光性が低下したり、離型不良が発生し光学材料の生産性に悪影響を及ぼすことがある。また、式(1)で表される環状化合物が0.001質量%を下回るとハガレ不良が発生し光学材料の生産性に悪影響を及ぼすことがある。
また、光学材料用組成物中の前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物の割合は、40〜99.99質量%であることが好ましく、より好ましくは50〜99.99質量%であり、特に好ましくは60〜99.99質量%である。
以下、前記式(1)で表される環状化合物について詳細に説明する。
【0009】
以下、本発明の式(1)で表される環状化合物の製造法について説明するが、製造方法は特に限定されない。
本発明の式(1)で表される環状化合物の製造方法としては、硫化水素と、エピクロロヒドリンとの反応で、下記式(3)で表される化合物を得た後、得られた式(3)で表される化合物をアルコール溶媒中、アルカリと反応させて分子内脱ハロゲン化水素反応を進行させたのち、酸処理を行い、その他の閉環化合物などとの混合物として式(1)で表される環状化合物を得ることができる。この粗製物を有機溶媒で抽出し、洗浄し、目的化合物を分離し、精製することで式(1)で表される環状化合物を得ることができる。
【化3】
【0010】
式(3)で表される化合物の製造方法について具体的に記載する。
式(3)で表される化合物は、硫化水素とエピクロロヒドリンとの反応で得られる。
エピクロロヒドリンと、硫化水素を反応させる際、好ましくは触媒を使用する。触媒としては無機酸、有機酸、ルイス酸、ケイ酸、ホウ酸、第4級アンモニウム塩、無機塩基、及び有機塩基が挙げられる。好ましくは有機酸、第4級アンモニウム塩、及び無機塩基であり、より好ましくは第4級アンモニウム塩、及び無機塩基である。具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラヘキシルアンモニウムクロライド、テトラヘキシルアンモニウムブロマイド、テトラヘキシルアンモニウムアセテート、テトラオクチルアンモニウムクロライド、テトラオクチルアンモニウムブロマイド、テトラオクチルアンモニウムアセテート、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。中でも好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムである。
【0011】
触媒の添加量は、反応を進行させるためであれば特に制限はないが、好ましくはエピクロロヒドリン1モルに対し、0.00001〜0.5モル、より好ましくは0.001〜0.1モル使用する。触媒量が0.00001モル未満では反応が進行しないか遅くなりすぎで好ましくなく、0.5モルを超えると反応が進行しすぎて制御が困難となり好ましくない。
エピクロロヒドリンと、硫化水素の割合は、反応が進行するのであれば特に制限はないが、好ましくは硫化水素に対するエピクロロヒドリンのモル比(エピクロロヒドリン/硫化水素)は0.6〜8、より好ましくは0.8〜6、更に好ましくは1.0〜4である。モル比が0.6未満もしくは8を超えた場合では未反応の原材料の余剰が多くなり、経済的に好ましくない。
【0012】
溶媒は使用してもしなくてもよいが、使用する場合は水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類などが用いられる。具体例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、メチルエチルケトン、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられる。中でも好ましくは水、メタノール、及びトルエンであり、特に好ましくは水、及びメタノールである。
反応温度は、反応を進行させるためであれば特に制限はないが、好ましくは−10℃〜80℃、より好ましくは5℃〜50℃、更に好ましくは10℃〜40℃である。反応時間は特に制限はないが、通常は20時間以下である。−10℃未満では反応が進行しないか遅くなりすぎ好ましくなく、80℃を超えるとオリゴマー化して高分子量となり好ましくない。
【0013】
続いて式(1)で表される環状化合物の製造方法について記載する。
式(1)で表される環状化合物は、式(3)で表される化合物をアルカリと反応させた後、酸処理することで、その他副生物との混合物として得られる。
式(3)で表される化合物と反応させるアルカリの具体例としては、アンモニア、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアンモニウム塩などが挙げられる。これらは水溶液として用いても良い。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムであり、より好ましくは、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムである。
使用するアルカリの量は一概に規定できないが、通常はアルカリを式(3)で表される化合物の当量に対し、0.20〜2.0当量、好ましくは0.50〜1.5当量、より好ましくは0.70〜1.0当量使用する。アルカリ量が少ない場合、もしくは多い場合は、収量が低下する。
【0014】
反応時に溶媒を使用することが好ましく、その場合に使用する溶媒は、特に制限は無くいかなる溶媒を使用しても良いが、好ましくは水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類などが用いられる。これらは単独でも混合して用いても構わない。アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどが挙げられ、エーテル類の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられ、ケトン類の具体例としては、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、メチルエチルケトン、アセトンなどが挙げられ、脂肪族炭化水素類の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが挙げられ、芳香族炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、ハロゲン化炭化水素類の具体例としては、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどが挙げられる。より好ましくは水、及びアルコール類であり、その具体例としては、水、メタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。中でも好ましくはメタノールである。
溶媒の量は特に制限はないが、通常は式(3)で表される化合物100質量部に対し、10〜10000質量部、好ましくは100〜5000質量部、より好ましくは500〜1000質量部である。
反応温度は、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。反応時間は特に制限はない。反応温度が高いと、式(1)で表される環状化合物への反応選択率が低下し、式(1)で表される環状化合物の収率が低下する。
また、式(3)で表される化合物を、有機溶媒と塩基性化合物の水溶液の混合溶媒に滴下して反応させることも可能である。
【0015】
更に、上記で得られた反応液に酸を加え反応させた後、有機溶媒を加え抽出し式(1)で表される環状化合物を含む粗製物を得ることができる。酸としては、特に制限は無くいかなるものを使用しても良いが、好ましくは硫酸、塩酸、硝酸、及び酢酸であり、より好ましくは硫酸、及び塩酸である。この粗製物を水洗浄した後に、蒸留やカラム精製などで精製し、式(1)で表される環状化合物を得ることができる。
【0016】
本発明の光学材料用組成物は、前記式(1)で表される環状化合物を含むことを特徴とするが、重合性化合物として前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物に予め前記式(1)で表される環状化合物を前述の所定量添加しておくことが好ましい。前記式(1)で表される環状化合物を前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物に添加して保管することで、保管中の粘度変化を抑えることが可能となり、光学材料の生産条件を安定化することができる。
【0017】
本発明の光学材料用組成物では、重合性化合物として前記式(2)で表されるエピスルフィド化合物を用いることができる。式(2)で表されるエピスルフィド化合物の具体例としては、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタンなどのエピスルフィド類が挙げられる。式(2)で表されるエピスルフィド化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
中でも好ましい化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(2)でn=0)、及びビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(2)でm=0、n=1)であり、最も好ましい化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(2)でn=0)である。
【0018】
本発明の光学材料用組成物は、得られる樹脂の加熱時の色調を改善するためポリチオール化合物を重合性化合物として含んでも良い。ポリチオール化合物の含有量は、光学材料用組成物の合計を100質量%とした場合、通常は1〜25質量%であり、好ましくは2〜25質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。ポリチオール化合物の含有量が1質量%を下回るとレンズ成型時に黄変する場合があり、25質量%を超えると耐熱性が低下する場合がある。本発明で使用するポリチオール化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
その具体例としては、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルオキシ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,4−ジメルカプトブタン、2−(2−メルカプトエチルチオ)−1,3−ジメルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)プロパン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオネート、 ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−1−チアン、2,5−ジメルカプトエチル−1−チアン、2,5−ジメルカプトメチルチオフェン、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、2,2’−ジメルカプトビフェニル、4、4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−メルカプトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、3,4−チオフェンジチオール、1、1、3、3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパンを挙げることができる。
これらのなかで好ましい具体例は、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、4、8−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、4、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、5、7−ジメルカプトメチル−1、11−ジメルカプト−3、6、9−トリチアウンデカン、1、1、3、3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート)、及びトリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオネートであり、より好ましくは、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(2−メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、及びペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートであり、特に好ましくは、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、及び4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタンである。
【0019】
本発明の光学材料用組成物は、硫黄を含んでいても良い。硫黄の使用量は、光学材料用組成物全量を100質量部とした場合、通常は0.1〜40質量部使用するが、好ましくは0.5〜30質量部、特に好ましくは1〜25質量部である。
本発明で用いる硫黄の形状はいかなる形状でもかまわない。具体的には、硫黄は、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、結晶硫黄、昇華硫黄等であるが、好ましくは、粒子の細かい微粉硫黄である。
本発明に用いる硫黄の製法はいかなる製法でもかまわない。硫黄の製法は、天然硫黄鉱からの昇華精製法、地下に埋蔵する硫黄の溶融法による採掘、石油や天然ガスの脱硫工程などから得られる硫化水素等を原料とする回収法等があるが、いずれの製法でもかまわない。
本発明に用いる硫黄の粒径は10メッシュより小さいこと、即ち硫黄が10メッシュより細かい微粉であることが好ましい。硫黄の粒径が10メッシュより大きい場合、硫黄が完全に溶解しにくい。このため、第1工程で好ましくない反応等が起き、不具合が生じる場合がある。硫黄の粒径は、30メッシュより小さいことがより好ましく、60メッシュより小さいことが最も好ましい。
本発明に用いる硫黄の純度は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.5%以上であり、最も好ましくは99.9%以上である。硫黄の純度が98%以上であると、98%未満である場合に比べて、得られる光学材料の色調がより改善する。
硫黄を用いる場合は、硫黄を均一に混合させるために、あらかじめエピスルフィド化合物と硫黄を予備的に反応させておくことも好ましい。この予備的な重合反応の条件は、好ましくは−10℃〜120℃で0.1〜240時間、より好ましくは0〜100℃で0.1〜120時間、特に好ましくは20〜80℃で0.1〜60時間である。予備的な反応を進行させるために触媒を用いることは効果的であり、好ましい例として2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、3,5−ジメチルピラゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフィンアミド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、1,2,3−トリフェニルグアニジン、1,3−ジフェニルグアジニン、1,1,3,3−テトラメチレングアニジン、アミノグアニジン尿素、トリメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、ジメチルエチルチオ尿素、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリウム等が挙げられる。さらには、この予備的な重合反応により硫黄を10%以上(反応前を100%とする)消費させておくことが好ましく、20%以上消費させておくことがより好ましい。予備的な反応は、大気、窒素等の不活性ガス下、常圧もしくは加減圧による密閉下等、任意の雰囲気下で行ってよい。なお、予備的な反応の進行度を検知するために液体クロマトグラフィーや屈折率計を用いることも可能である。
【0020】
本発明の光学材料用組成物は、得られる樹脂の強度を改善するためポリイソシアネート化合物を重合性化合物として含んでも良い。ポリイソシアネート化合物の含有量は、光学材料用組成物の合計を100質量%とした場合、通常は1〜25質量%であり、好ましくは2〜25質量%、特に好ましくは3〜20質量%である。ポリイソシアネート化合物の含有量が1質量%を下回ると強度が低下する場合があり、25質量%を超えると色調が低下する場合がある。本発明で使用するポリイソシアネート化合物は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
その具体例としては、ジエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、2,6−ビス(イソシアネートメチル)デカヒドロナフタレン、リジントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、3−(2’−イソシアネートシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、2,2’−ビス(4−イソシアネートフェニル)プロパン、トリフェニルメタントリイソシアネート、ビス(ジイソシアネートトリル)フェニルメタン、4,4’,4’’−トリイソシアネート−2,5−ジメトキシフェニルアミン、3,3’−ジメトキシベンジジン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,1’−メチレンビス(4−イソシアネートベンゼン)、1,1’−メチレンビス(3−メチル−4−イソシアネートベンゼン)、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(2−イソシアネート−2−プロピル)ベンゼン、2,6−ビス(イソシアネートメチル)ナフタレン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(イソシアネートメチル)ジシクロペンタジエン、ビス(イソシアネートメチル)テトラヒドロチオフェン、ビス(イソシアネートメチル)ノルボルネン、ビス(イソシアネートメチル)アダマンタン、チオジエチルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、ビス〔(4−イソシアネートメチル)フェニル〕スルフィド、2,5−ジイソシアネート−1,4−ジチアン、2,5−ジイソシアネートメチル−1,4−ジチアン、2,5−ジイソシアネートメチルチオフェン、ジチオジエチルジイソシアネート、及びジチオジプロピルジイソシアネートを挙げることができる。
【0021】
しかしながら、本発明で使用されるポリイソシアネート化合物はこれらに限定されるわけではなく、また、これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。
これらのなかで好ましい具体例は、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートメチル)ノルボルネン、および2,5−ジイソシアネートメチル−1,4−ジチアンであり、中でも好ましい化合物は、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、及びm−キシリレンジイソシアネートであり、特に好ましい化合物は、イソホロンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、及び1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンである。
【0022】
さらに、ポリイソシアネート化合物のNCO基に対するポリチオール化合物中のSH基の割合、即ちSH基/NCO基は、好ましくは1.0〜2.5であり、より好ましくは1.25〜2.25であり、さらに好ましくは1.5〜2.0である。上記割合が1.0を下回るとレンズ成型時に黄色く着色する場合があり、2.5を上回ると耐熱性が低下する場合がある。
【0023】
本発明の光学材料用組成物を重合硬化して光学材料を得るに際して、重合触媒を添加することが好ましい。本発明の組成物は、光学材料用組成物と重合触媒とを含む重合硬化性組成物であり得る。重合触媒としてはアミン、ホスフィン、オニウム塩などが用いられるが、特にオニウム塩、中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第3級スルホニウム塩、及び第2級ヨードニウム塩が好ましく、中でも光学材料用組成物との相溶性の良好な第4級アンモニウム塩および第4級ホスホニウム塩がより好ましく、第4級ホスホニウム塩がさらに好ましい。より好ましい重合触媒としては、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい重合触媒は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、及びテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
重合触媒の添加量は、組成物の成分、混合比および重合硬化方法によって変化するため一概には決められないが、通常は光学材料用組成物の合計100質量%(重合触媒を含まない量)に対して、0.0001質量%〜10質量%、好ましくは0.001質量%〜5質量%、より好ましくは0.01質量%〜1質量%、最も好ましくは0.01質量%〜0.5質量%である。重合触媒の添加量が10質量%より多いと急速に重合する場合がある。また、重合触媒の添加量が0.0001質量%より少ないと光学材料用組成物が十分に硬化せず耐熱性が不良となる場合がある。
【0024】
また、本発明の製造方法で光学材料を製造する際、光学材料用組成物に紫外線吸収剤、ブルーイング剤、顔料等の添加剤を加え、得られる光学材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
紫外線吸収剤の好ましい例としてはベンゾトリアゾール系化合物であり、特に好ましい化合物は、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3、5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、及び2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
これら紫外線吸収剤の添加量は、通常、光学材料用組成物の合計100質量%に対して0.01〜5質量%である。
【0025】
光学材料用組成物を重合硬化させる際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調整剤を添加することができる。重合調整剤は、長期周期律表における第13〜16族のハロゲン化物を挙げることができる。これらのうち好ましいものは、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物であり、より好ましいものはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。さらに好ましい化合物は、ジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、及びトリフェニルアンチモンジクロライドであり、最も好ましい化合物は、ジブチルスズジクロライドである。重合調整剤は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
重合調整剤の添加量は、光学材料用組成物の総計100質量%に対して、0.0001〜5.0質量%であり、好ましくは0.0005〜3.0質量%であり、より好ましくは0.001〜2.0質量%である。重合調整剤の添加量が0.0001質量%よりも少ない場合、得られる光学材料において十分なポットライフが確保できず、重合調整剤の添加量が5.0質量%よりも多い場合は、光学材料用組成物が充分に硬化せず、得られる光学材料の耐熱性が低下する場合がある。
【0026】
このようにして得られた光学材料用組成物または重合硬化性組成物はモールド等の型に注型し、重合させて光学材料とする。
本発明の組成物の注型に際し、0.1〜5μm程度の孔径のフィルター等で不純物を濾過し除去することは、本発明の光学材料の品質を高める上からも好ましい。
本発明の組成物の重合は通常、以下のようにして行われる。即ち、硬化時間は通常1〜100時間であり、硬化温度は通常−10℃〜140℃である。重合は所定の重合温度で所定時間保持する工程、0.1℃〜100℃/hの昇温を行う工程、0.1℃〜100℃/hの降温を行う工程によって、又はこれらの工程を組み合わせて行う。
また、硬化終了後、得られた光学材料を50〜150℃の温度で10分〜5時間程度アニール処理を行うことは、本発明の光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに得られた光学材料に対して、必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等の表面処理を行ってもよい。
本発明の光学材料は光学レンズとして好適に用いることができる。本発明の組成物を用いて製造される光学レンズは、安定性、色相、耐光性、透明性に優れるため、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等、従来、高価な高屈折率ガラスレンズが用いられていた分野に用いることができ、極めて有用である。必要に応じて、非球面レンズの形で用いることが好ましい。非球面レンズは、1枚のレンズで球面収差を実質的にゼロとすることが可能であるため、複数の球面レンズの組み合わせによって球面収差を取り除く必要がなく、軽量化および生産コストの低減化が可能になる。従って、非球面レンズは、光学レンズの中でも特にカメラレンズとして有用である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の内容を、実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.ハガレ跡の評価方法
以下の実施例及び比較例により得られた光学材料におけるハガレ跡が残る不良についてはそれぞれ、以下の方法により評価した。
2枚のガラス板とテープから構成される、コバ厚さ15mm、モールド径が75mmのマイナス10Dレンズモールドに光学材料用組成物を注入し、実施例に記載の方法で、重合硬化させた。放冷後、モールドから離型し、110℃で60分アニール処理したのち、表面状態を目視で観察した。100枚レンズを作製し、1枚もハガレ跡のないものを「A」、1〜10枚ハガレ跡のあるものを「B」、10枚以上ハガレ跡のあるものを「C」とした。「A」、「B」が合格レベルである。
2.離型性の評価方法
実施例に記載の方法でコバ厚さ7mm、中心厚が7.5mm、モールド径が70mm、ベースカーブが10.25Dのプラスレンズを作製し、重合硬化後のモールドからの離型性を評価した。離型が容易であるものを「A」、離型するものを「B」、離型が容易でないものを「C」とした。「A」、「B」が合格レベルである。
3.保管時の粘度安定性の評価方法
光学材料用組成物中の主成分のエピスルフィド化合物に、本発明の式(1)で表される環状化合物である2−クロロメチル−[1,4]オキサチエパン−6オールを添加し、窒素雰囲気下40℃で1週間保持して粘度変化を追跡した。保管後の粘度の上昇が、5mPa・s未満のものを「A」、5以上10mPa・s未満を「B」、10mPa・s以上を「C」とした。「A」、「B」が合格レベルである。
【0028】
実施例1 2−クロロメチル−[1,4]オキサチエパン−6オールの製造
エピクロルヒドリン185g(2.0mol)、水30g、メタノール5g、及び32%水酸化ナトリウム水溶液1.5gを温度計とガス吹込み管を装備した3つ口ナスフラスコに入れ、攪拌しながら硫化水素35g(1.0mol)を液温5〜15℃に保ちつつ吹き込み、ビス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)スルフィド210g(0.96mol)を得た。
得られたビス(3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル)スルフィド210g(0.96mol)を、32%水酸化ナトリウム水溶液200gと水200gとメタノール600gの混合溶液に、反応温度が−15℃になるよう保ちながら滴下した。その後、反応溶液を室温に戻した後、20%硫酸490gを滴下した。ここにトルエン1000gをさらに加えて抽出し、得られた有機層を水洗し、溶媒を留去した。その後、組成生物をODSカラムで精製し、式(1)で表される環状化合物である2−クロロメチル−[1,4]オキサチエパン−6オールを5.4g(0.03mol)を得た。
H−NMR(CDCl):1.3ppm(1H)、2.0ppm(1H)、2.6ppm(4H)、3.4ppm(1H)、3.5ppm(4H)、3.8ppm(1H)
13C−NMR(CDCl):35ppm、37ppm、49ppm、73ppm、74ppm、80ppm
【0029】
実施例2〜7
上記式(2)で表されるエピスルフィド化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(以下、「a−1化合物」)に、上記式(1)で表される環状化合物として実施例1で得られた2−クロロメチル−[1,4]オキサチエパン−6オール(以下、「b化合物」)を表1に示す量で混合し、100質量%とした。ここに、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.0質量%と、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.05質量%とを添加後、20℃でよく混合し均一とした。ついで1.3kPaの真空度で脱気を行い、その後1μmのPTFEフィルターにて濾過を行い、マイナス10Dレンズモールドと、ベースカーブが10.25Dのプラスレンズモールドへ注型し、30℃で10時間保持し、100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で1時間保持し、重合硬化させた。重合硬化後レンズをモールドから離型し、ハガレと離型性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0030】
実施例8、9
a化合物(式(2)の化合物)としてビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(以下、「a−2化合物」)を用い、混合量を表1の通りとした以外は、実施例2と同様の操作を行い、離型性とハガレを評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
比較例1、2
a化合物の種類と、a化合物(式(2)の化合物)及びb化合物(式(1)の化合物)の量を表1に記載した量とした以外は、実施例2および実施例8と同様の操作を行い、離型性とハガレを評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例10〜14
a化合物(式(2)の化合物)にb化合物(式(1)の化合物)を表2に示す量で混合し、100質量%とした。ここに、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド(以下、「c−1化合物」)10質量%を混合し、さらに紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.1質量%と、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.05質量%を添加後、20℃でよく混合し均一とした。ついで1.3kPaの真空度で脱気を行い、その後1μmのPTFEフィルターにて濾過を行い、マイナス10Dレンズモールドと、ベースカーブが10.25Dのプラスレンズモールドへ注型し、30℃で10時間保持し、100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で1時間保持し、重合硬化させた。重合硬化後レンズをモールドから離型し、ハガレと離型性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0034】
比較例3、4
a化合物(式(2)の化合物)とb化合物(式(1)の化合物)の混合量を表2に記載した量とした以外は、実施例10と同様の操作を行い、ハガレと離型性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例15〜18
a−1化合物(式(2)の化合物)にb化合物(式(1)の化合物)を表3に示す量で混合し、100質量%とした。ここに、c−1化合物を6.0質量%、m−キシリレンジイソシアネートを4.0質量%加え混合した。ここに、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.1質量%と、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.1質量%と、離型剤としてゼレックUN(Stepan社製)0.01質量%を加え、20℃の混合温度で、1時間撹拌混合し、均一とした。ついで20℃で1.3kPaの真空度で脱気を行い、その後1μmのPTFEフィルターにて濾過を行い、マイナス10Dレンズモールドと、ベースカーブが10.25Dのプラスレンズモールドへ注型し、30℃で10時間保持し、100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で1時間保持し、重合硬化させた。重合硬化後レンズをモールドから離型し、ハガレと離型性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0037】
比較例5
a−1化合物(式(2)の化合物)とb化合物(式(1)の化合物)の質量%を表3に記載した量とした以外は、実施例15と同様の操作を行い、ハガレと離型性を評価した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例19〜22
a−1化合物(式(2)の化合物)とb化合物(式(1)の化合物)を表4に示す量で混合し、100質量%とした。ここに、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.2質量%、硫黄14質量%、及びメルカプトメチルイミダゾール0.5質量%を加え、60℃で予備的に反応させた。その後20℃に冷却したのち、c−1化合物5質量%、ジブチルスズジクロライド0.2質量%、及び重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.03質量%の混合液を加え、均一に混合したのち脱気処理を行った。その後1μmのPTFEフィルターにて濾過を行い、マイナス10Dレンズモールドと、ベースカーブが10.25Dのプラスレンズモールドへ注型し、30℃で10時間保持し、100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で1時間保持し、重合硬化させた。重合硬化後レンズをモールドから離型し、ハガレと離型性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0040】
比較例6
a−1化合物(式(2)の化合物)とb化合物(式(1)の化合物)の質量%を表4に記載した量とした以外は、実施例19と同様の操作を行い、離型性とハガレを評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
実施例23〜27
a化合物(式(2)の化合物)にb化合物(式(1)の化合物)を表5に記載した量で加え、よく混合し均一とした。この混合物を窒素雰囲気下、40℃で1週間保管し、保管時の粘度安定性を評価した。評価結果を表5に示す。
【0043】
比較例7、8
a化合物(式(2)の化合物)にb化合物(式(1)の化合物)を表5に記載した量で加えた以外は実施例23と同様の操作を行い、保管後の粘度安定性を評価した。評価結果を表5に示す。
【0044】
【表5】