特許第6187730号(P6187730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6187730
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170821BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C22C38/00 301S
   C22C38/00 301T
   C22C38/38
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-527395(P2017-527395)
(86)(22)【出願日】2017年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2017002472
【審査請求日】2017年5月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】林 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】戸田 由梨
(72)【発明者】
【氏名】桜田 栄作
(72)【発明者】
【氏名】上西 朗弘
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/051714(WO,A1)
【文献】 特開昭54−163719(JP,A)
【文献】 特開2007−70661(JP,A)
【文献】 特開2007−70659(JP,A)
【文献】 特開2007−70648(JP,A)
【文献】 特開2007−70649(JP,A)
【文献】 特開2015−78398(JP,A)
【文献】 北島由梨、他4名,電子チャンネリングコントラスト像を用いたフェライトとグラニュラーベイナイトの識別,材料とプロセス,日本,2013年 9月 1日,Vol.26 No.2,Page.896
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.05%〜0.1%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
O:0.006%以下、
Si及びAl:合計で0.20%〜2.50%、
Mn及びCr:合計で1.0%〜3.0%、
Mo:0.00%〜1.00%、
Ni:0.00%〜1.00%、
Cu:0.00%〜1.00%、
Nb:0.000%〜0.30%、
Ti:0.000%〜0.30%、
V:0.000%〜0.50%、
B:0.0000%〜0.01%、
Ca:0.0000%〜0.04%、
Mg:0.0000%〜0.04%、
REM:0.0000%〜0.04%、並びに
残部:Fe及び不純物、
で表される化学組成を有し、
面積分率で、
フェライト:50%〜95%、
グラニュラーベイナイト:5%〜48%、
マルテンサイト:2%〜30%、並びに
上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライト:合計で5%以下、
で表される金属組織を有することを特徴とする鋼板。
【請求項2】
前記化学組成において、
Mo:0.01%〜1.00%、
Ni:0.05%〜1.00%、若しくは
Cu:0.05%〜1.00%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記化学組成において、
Nb:0.005%〜0.30%、
Ti:0.005%〜0.30%、若しくは
V:0.005%〜0.50%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
前記化学組成において、
B:0.0001%〜0.01%が成り立つことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋼板。
【請求項5】
前記化学組成において、
Ca:0.0005%〜0.04%、
Mg:0.0005%〜0.04%、若しくは
REM:0.0005%〜0.04%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鋼板。
【請求項6】
表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鋼板。
【請求項7】
表面に合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品に好適な鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用した自動車の車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全性の確保のためにも、車体に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。車体の更なる軽量化を進めていくためには、更なる強度の向上が重要である。その一方で、車体の部品によっては、優れた成形性が要求される。例えば、骨格系部品用の高強度鋼板には、優れた伸び及び穴拡げ性が要求される。
【0003】
しかしながら、強度の向上及び成形性の向上の両立は困難である。強度の向上及び成形性の向上の両立を目的とした技術が提案されているが(特許文献1〜3)、これらによっても十分な特性を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−11383号公報
【特許文献2】特開平6−57375号公報
【特許文献2】特開平7−207413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い強度を有し、優れた伸び及び穴拡げ性を得ることができる鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、金属組織に、フェライト及びマルテンサイトの他に5%以上の面積分率でグラニュラーベイナイトを含ませ、かつ上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの面積分率を合計で5%以下とすることが重要であることが判明した。上部ベイナイト及び下部ベイナイトは、主として、転位密度が高いベイニティックフェライト及び硬質なセメンタイトから構成されるため、伸びに劣る。一方、グラニュラーベイナイトは、主として、転位密度が低いベイニティックフェライトから構成され、硬質なセメンタイトをほとんど含まないため、フェライトより硬く上部ベイナイト及び下部ベイナイトより軟らかい。従って、グラニュラーベイナイトは、上部ベイナイト及び下部ベイナイトよりも優れた伸びを発現する。グラニュラーベイナイトは、フェライトより硬くマルテンサイトより軟らかいため、穴拡げ加工の際のフェライトとマルテンサイトとの界面からのボイドの発生を抑制する。
【0007】
本願発明者は、このような知見に基づいて更に鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0008】
(1)
質量%で、
C:0.05%〜0.1%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
O:0.006%以下、
Si及びAl:合計で0.20%〜2.50%、
Mn及びCr:合計で1.0%〜3.0%、
Mo:0.00%〜1.00%、
Ni:0.00%〜1.00%、
Cu:0.00%〜1.00%、
Nb:0.000%〜0.30%、
Ti:0.000%〜0.30%、
V:0.000%〜0.50%、
B:0.0000%〜0.01%、
Ca:0.0000%〜0.04%、
Mg:0.0000%〜0.04%、
REM:0.0000%〜0.04%、並びに
残部:Fe及び不純物、
で表される化学組成を有し、
面積分率で、
フェライト:50%〜95%、
グラニュラーベイナイト:5%〜48%、
マルテンサイト:2%〜30%、並びに
上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライト:合計で5%以下、
で表される金属組織を有することを特徴とする鋼板。
【0009】
(2)
前記化学組成において、
Mo:0.01%〜1.00%、
Ni:0.05%〜1.00%、若しくは
Cu:0.05%〜1.00%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(1)に記載の鋼板。
【0010】
(3)
前記化学組成において、
Nb:0.005%〜0.30%、
Ti:0.005%〜0.30%、若しくは
V:0.005%〜0.50%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼板。
【0011】
(4)
前記化学組成において、
B:0.0001%〜0.01%が成り立つことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼板。
【0012】
(5)
前記化学組成において、
Ca:0.0005%〜0.04%、
Mg:0.0005%〜0.04%、若しくは
REM:0.0005%〜0.04%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼板。
【0013】
(6)
表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板。
【0014】
(7)
表面に合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、適切な面積分率でグラニュラーベイナイト等が金属組織に含まれているため、高い強度、優れた伸び及び穴拡げ性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
先ず、本発明の実施形態に係る鋼板の金属組織について説明する。詳細は後述するが、本発明の実施形態に係る鋼板は、鋼の熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍等を経て製造される。従って、鋼板の金属組織は、鋼板の特性のみならず、これらの処理における相変態等を考慮したものである。本実施形態に係る鋼板は、面積分率で、フェライト:50%〜95%、グラニュラーベイナイト:5%〜48%、マルテンサイト:2%〜30%、並びに上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライト:合計で5%以下で表される金属組織を有している。
【0018】
(フェライト:50%〜95%)
フェライトは軟質な組織であるため、変形しやすく、伸びの向上に寄与する。フェライトは、オーステナイトからグラニュラーベイナイトへの相変態にも寄与する。フェライトの面積分率が50%未満では、十分なグラニュラーベイナイトが得られない。従って、フェライトの面積分率は50%以上とし、好ましくは60%以上とする。一方、フェライトの面積分率が95%超では、十分な引張強度が得られない。従って、フェライトの面積分率は95%以下とし、好ましくは90%以下とする。
【0019】
(グラニュラーベイナイト:5%〜48%)
グラニュラーベイナイトは、主として、転位密度が1013m/m程度オーダーと低いベイニティックフェライトから構成され、硬質なセメンタイトをほとんど含まないため、フェライトより硬く上部ベイナイト及び下部ベイナイトより軟らかい。従って、グラニュラーベイナイトは、上部ベイナイト及び下部ベイナイトよりも優れた伸びを発現する。グラニュラーベイナイトは、フェライトより硬くマルテンサイトより軟らかいため、穴拡げ加工の際のフェライトとマルテンサイトとの界面からのボイドの発生を抑制する。グラニュラーベイナイトの面積分率が5%未満では、これらの効果を十分に得ることができない。従って、グラニュラーベイナイトの面積分率は5%以上とし、好ましくは10%以上とする。一方、グラニュラーベイナイトの面積分率が48%超では、必然的にフェライト及び/又はマルテンサイトの面積分率が不足する。従って、グラニュラーベイナイトの面積分率は48%以下とし、好ましくは30%以下とする。
【0020】
(マルテンサイト:2%〜30%)
マルテンサイトは転位密度が高く硬質な組織であるため、引張強度の向上に寄与する。マルテンサイトの面積分率が2%未満では、十分な引張強度、例えば590MPa以上の引張強度が得られない。従って、マルテンサイトの面積分率は2%以上とし、好ましくは5%以上とする。一方、マルテンサイトの面積分率が30%超では、十分な伸び及び穴拡げ性が得られない。従って、マルテンサイトの面積分率は30%以下とし、好ましくは20%以下とする。
【0021】
(上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライト:合計で5%以下)
上部ベイナイト及び下部ベイナイトは、主として、転位密度が1.0×1014m/m程度と高いベイニティックフェライト及び硬質なセメンタイトから構成され、上部ベイナイトは更に残留オーステナイトを含むことがある。焼戻しマルテンサイトは硬質なセメンタイトを含む。上部ベイナイト、下部ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトの転位密度は高い。このため、上部ベイナイト、下部ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトは伸びを低下させる。残留オーステナイトは変形中に加工誘起変態によりマルテンサイトへと変態し、穴拡げ性を著しく劣化させる。パーライトは硬質なセメンタイトを含むため、穴拡げ加工の際にボイドの発生の起点となる。従って、上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの面積分率は低ければ低いほどよい。特に上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの面積分率が合計で5%超では、伸び若しくは穴拡げ性又はこれらの両方の低下が著しい。従って、上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの面積分率は合計で5%以下とする。なお、残留オーステナイトの面積分率には、上部ベイナイトに含まれる残留オーステナイトの面積分率は含まれない。
【0022】
フェライト、グラニュラーベイナイト、マルテンサイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの同定及び面積分率の特定は、例えば、電子線後方散乱回折(electron back scattering diffraction:EBSD)法、X線測定、又は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)観察により行うことができる。SEM観察を行う場合、例えばナイタール試薬又はレペラ液を用いて試料を腐食し、圧延方向及び厚さ方向に平行な断面及び/又は圧延方向に垂直な断面を1000倍〜50000倍の倍率で観察する。鋼板の金属組織は、その表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/4程度の領域の金属組織で代表することができる。例えば鋼板の厚さが1.2mmであれば、その表面からの深さが0.3mm程度の領域の金属組織で代表することができる。
【0023】
フェライトの面積分率は、例えば、SEM観察で得られる電子チャンネリングコントラスト像を用いて特定することができる。電子チャンネリングコントラスト像は、結晶粒内の結晶方位差をコントラストの差として表し、電子チャンネリングコントラスト像においてコントラストが均一な部分がフェライトである。この方法では、例えば鋼板の表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/8から3/8までの領域を観察対象とする。
【0024】
残留オーステナイトの面積分率は、例えば、X線測定により特定することができる。この方法では、例えば、鋼板の表面から当該鋼板の厚さの1/4までの部分を機械研磨及び化学研磨により除去し、特性X線としてMoKα線を用いる。そして、体心立方格子(bcc)相の(200)及び(211)、並びに面心立方格子(fcc)相の(200)、(220)及び(311)の回折ピークの積分強度比から、次の式を用いて残留オーステナイトの面積分率を算出する。
Sγ=(I200f+I220f+I311f)/(I200b+I211b)×100
(Sγは残留オーステナイトの面積分率、I200f、I220f、I311fは、それぞれfcc相の(200)、(220)、(311)の回折ピークの強度、I200b、I211bは、それぞれbcc相の(200)、(211)の回折ピークの強度を示す。)
【0025】
マルテンサイトの面積分率は、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(field emission-scanning electron microscope:FE−SEM)観察及びX線測定により特定することができる。この方法では、例えば、鋼板の表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/8から3/8までの領域を観察対象とし、腐食にレペラ液を用いる。レペラ液により腐食されない組織はマルテンサイト及び残留オーステナイトであるため、レペラ液によって腐食されていない領域の面積分率から、X線測定により特定された残留オーステナイトの面積分率Sγを減じることでマルテンサイトの面積分率を特定することができる。マルテンサイトの面積分率は、例えば、SEM観察で得られる電子チャンネリングコントラスト像を用いて特定することもできる。電子チャンネリングコントラスト像において、転位密度が高く、粒内にブロック、パケット等の下部組織を持つ領域がマルテンサイトである。
【0026】
上部ベイナイト、下部ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトは、例えば、FE−SEM観察により特定することができる。この方法では、例えば、鋼板の表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/8から3/8までの領域を観察対象とし、腐食にナイタール試薬を用いる。そして、下記のように、セメンタイトの位置及びバリアントに基づいて、上部ベイナイト、下部ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトを同定する。上部ベイナイトは、ラス状のベイニティックフェライトの界面にセメンタイト又は残留オーステナイトを含む。下部ベイナイトは、ラス状のベイニティックフェライトの内部にセメンタイトを含む。ベイニティックフェライトとセメンタイトとの間の結晶方位の関係が1種類であるため、下部ベイナイトに含まれるセメンタイトは同一のバリアントを持つ。焼戻しマルテンサイトは、マルテンサイトラスの内部にセメンタイトを含む。マルテンサイトラスとセメンタイトとの間の結晶方位の関係が2種類以上あるため、焼戻しマルテンサイトに含まれるセメンタイトは複数のバリアントを持つ。このようなセメンタイトの位置及びバリアントに基づいて上部ベイナイト、下部ベイナイト及び焼戻しマルテンサイトを同定し、これらの面積分率を特定することができる。
【0027】
パーライトは、例えば、光学顕微鏡観察により同定し、その面積分率を特定することができる。この方法では、例えば、鋼板の表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/8から3/8までの領域を観察対象とし、腐食にナイタール試薬を用いる。光学顕微鏡観察で暗いコントラストを示す領域がパーライトである。
【0028】
グラニュラーベイナイトは、従来の腐食法によっても走査型電子顕微鏡を用いた2次電子像観察によってもフェライトと区別するこができない。本発明者らは、鋭意検討の結果、グラニュラーベイナイトが粒内に微小な結晶方位差を持つことを見出した。従って、粒内の微小な結晶方位差を検出することにより、フェライトと区別することができる。ここで、グラニュラーベイナイトの面積分率の具体的な特定方法について説明する。この方法では、鋼板の表面からの深さが当該鋼板の厚さの1/8から3/8までの領域を測定対象とし、EBSD法により、この領域内の複数箇所(ピクセル)の結晶方位を0.2μmの間隔で測定し、この結果からGAM(grain average misorientation)の値を計算する。この計算に当たっては、隣り合うピクセル間の結晶方位の差が5°以上の場合にそれらの間に粒界が存在するとし、この粒界に囲まれた領域内で隣り合うピクセル間の結晶方位の差を計算し、この差の平均値を求める。この平均値がGAMの値である。このようにして、ベイニティックフェライトが持つ微小な結晶方位差を検出することができる。GAMの値が0.5°以上の領域はグラニュラーベイナイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、パーライト又はマルテンサイトのいずれかに属する。従って、GAMの値が0.5°以上の領域の面積分率から、上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、パーライト及びマルテンサイトの合計面積分率を減じて得られる値がグラニュラーベイナイトの面積分率である。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る鋼板及びその製造に用いるスラブの化学組成について説明する。上述のように、本発明の実施形態に係る鋼板は、スラブの熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍等を経て製造される。従って、鋼板及びスラブの化学組成は、鋼板の特性のみならず、これらの処理を考慮したものである。以下の説明において、鋼板及びスラブに含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る鋼板は、質量%で、C:0.05%〜0.1%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.006%以下、Si及びAl:合計で0.20%〜2.50%、Mn及びCr:合計で1.0%〜3.0%、Mo:0.00%〜1.00%、Ni:0.00%〜1.00%、Cu:0.00%〜1.00%、Nb:0.000%〜0.30%、Ti:0.000%〜0.30%、V:0.000%〜0.50%、B:0.0000%〜0.01%、Ca:0.0000%〜0.04%、Mg:0.0000%〜0.04%、REM(希土類金属:rare earth metal):0.0000%〜0.04%、並びに残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0030】
(C:0.05%〜0.1%)
Cは引張強度の向上に寄与する。C含有量が0.05%未満では、十分な引張強度、例えば590MPa以上の引張強度が得られない。従って、C含有量は0.05%以上とし、好ましくは0.06%以上とする。一方、C含有量が0.1%超では、フェライトの生成が抑制されるため、十分な伸びが得られない。従って、C含有量は0.1%以下とし、好ましくは0.09%以下とする。
【0031】
(P:0.04%以下)
Pは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Pは穴拡げ性を低下させたり、鋼板の板厚方向の中心に偏析して靭性を低下させたり、溶接部を脆化させたりする。従って、P含有量は低ければ低いほどよい。特にP含有量が0.04%超で、穴拡げ性の低下が著しい。従って、P含有量は0.04%以下とし、好ましくは0.01%以下とする。P含有量の低減にはコストがかかり、0.0001%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、P含有量は0.0001%以上であってもよい。
【0032】
(S:0.01%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは溶接性を低下させたり、鋳造時及び熱間圧延時の製造性を低下させたり、粗大なMnSを形成して穴拡げ性を低下させたりする。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。特にS含有量が0.01%超で、溶接性の低下、製造性の低下及び穴拡げ性の低下が著しい。従って、S含有量は0.01%以下とし、好ましくは0.005%以下とする。S含有量の低減にはコストがかかり、0.0001%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、S含有量は0.0001%以上であってもよい。
【0033】
(N:0.01%以下)
Nは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Nは粗大な窒化物を形成し、粗大な窒化物は曲げ性及び穴拡げ性を低下させたり、溶接時にブローホールを発生させたりする。従って、N含有量は低ければ低いほどよい。特にN含有量が0.01%超で、穴拡げ性の低下及びブローホールの発生が著しい。従って、N含有量は0.01%以下とし、好ましくは0.008%以下とする。N含有量の低減にはコストがかかり、0.0005%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、N含有量は0.0005%以上であってもよい。
【0034】
(O:0.006%以下)
Oは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Oは、粗大な酸化物を形成し、粗大な酸化物は曲げ性及び穴拡げ性を低下させたり、溶接時にブローホールを発生させたりする。従って、O含有量は低ければ低いほどよい。特にO含有量が0.006%超で、穴拡げ性の低下及びブローホールの発生が著しい。従って、O含有量は0.006%以下とし、好ましくは0.005%以下とする。O含有量の低減にはコストがかかり、0.0005%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、O含有量は0.0005%以上であってもよい。
【0035】
(Si及びAl:合計で0.20%〜2.50%)
Si及びAlは、グラニュラーベイナイトの生成に寄与する。グラニュラーベイナイトは、複数のベイニティックフェライトが、それらの界面に存在する転位が回復して一つの塊になった組織である。このため、ベイニティックフェライトの界面にセメンタイトが存在すると、そこにグラニュラーベイナイトは生成しない。Si及びAlは、セメンタイトの生成を抑制する。Si及びAlの含有量が合計で0.20%未満では、セメンタイトが過剰に生成し、グラニュラーベイナイトを十分に得ることができない。従って、Si及びAlの含有量は合計で0.20%以上とし、好ましくは0.30%以上とする。一方、Si及びAlの含有量が合計で2.50%超では、熱間圧延中にスラブ割れが生じやすい。従って、Si及びAlの含有量は合計で2.50%以下とし、好ましくは2.00%以下とする。Si又はAlのいずれかのみが含有されていてもよく、Si及びAlの両方が含有されていてもよい。
【0036】
(Mn及びCr:合計で1.0%〜3.0%)
Mn及びCrは、冷間圧延後の焼鈍又はめっきの際のフェライト変態を抑制し、強度の向上に寄与する。Mn及びCrの含有量が合計で1.0%未満では、フェライトの面積分率が過剰となって十分な引張強度、例えば590MPa以上の引張強度が得られない。従って、Mn及びCrの含有量は合計で1.0%以上とし、好ましくは1.5%以上とする。一方、Mn及びCrの含有量が合計で3.0%超では、フェライトの面積分率が過少となって十分な伸びが得られない。従って、Mn及びCrの含有量は合計で3.0%以下とし、好ましくは2.8%以下とする。Mn又はCrのいずれかのみが含有されていてもよく、Mn及びCrの両方が含有されていてもよい。
【0037】
Mo、Ni、Cu、Nb、Ti、V、B、Ca、Mg及びREMは、必須元素ではなく、鋼板及び鋼に所定量を限度に適宜含有されていてもよい任意元素である。
【0038】
(Mo:0.00%〜1.00%、Ni:0.00%〜1.00%、Cu:0.00%〜1.00%)
Mo、Ni及びCuは、冷間圧延後の焼鈍又はめっきの際のフェライト変態を抑制し、強度の向上に寄与する。従って、Mo、Ni若しくはCu又はこれらの任意の組み合わせが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、Mo含有量は0.01%以上とし、Ni含有量は0.05%以上とし、Cu含有量は0.05%以上とする。しかし、Mo含有量が1.00%超であるか、Ni含有量が1.00%超であるか、若しくはCu含有量が1.00%超であると、フェライトの面積分率が過少となって十分な伸びが得られない。このため、Mo含有量、Ni含有量及びCu含有量はいずれも1.00%以下とする。つまり、Mo:0.01%〜1.00%、Ni:0.05%〜1.00%、若しくはCu:0.05%〜1.00%、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0039】
(Nb:0.000%〜0.30%、Ti:0.000%〜0.30%、V:0.000%〜0.50%)
Nb、Ti及びVは、冷間圧延後の焼鈍等においてオーステナイトを細粒化することにより、オーステナイトの粒界面積を増加させ、フェライト変態を促進させる。従って、Ni、Ti若しくはV又はこれらの任意の組み合わせが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、Nb含有量は0.005%以上とし、Ti含有量は0.005%以上とし、V含有量は0.005%以上とする。しかし、Nb含有量が0.30%超であるか、Ti含有量が0.30%超であるか、V含有量が0.50%超であると、フェライトの面積分率が過剰となって十分な引張強度が得られない。このため、Nb含有量は0.30%以下とし、Ti含有量は0.30%以下とし、V含有量は0.50%以下とする。つまり、Nb:0.005%〜0.30%、Ti:0.005%〜0.30%、若しくはV:0.005%〜0.50%、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0040】
(B:0.0000%〜0.01%)
Bは、冷間圧延後の焼鈍等においてオーステナイトの粒界に偏析してフェライト変態を抑制する。従って、Bが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、B含有量は0.0001%以上とする。しかし、B含有量が0.01%超であると、フェライトの面積分率が過少となって十分な伸びが得られない。このため、B含有量は0.01%以下とする。つまり、B:0.0001%〜0.01%が成り立つことが好ましい。
【0041】
(Ca:0.0000%〜0.04%、Mg:0.0000%〜0.04%、REM:0.0000%〜0.04%)
Ca、Mg及びREMは、酸化物及び硫化物の形態を制御し、穴拡げ性の向上に寄与する。従って、Ca、Mg若しくはREM又はこれらの任意の組み合わせが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、Ca含有量、Mg含有量及びREM含有量はいずれも0.0005%以上とする。しかし、Ca含有量が0.04%超であるか、Mg含有量が0.04%超であるか、REM含有量が0.04%超であると、粗大な酸化物が形成されて十分な穴拡げ性が得られない。このため、Ca含有量、Mg含有量及びREM含有量はいずれも0.04%以下とし、好ましくは0.01%以下とする。つまり、Ca:0.0005%〜0.04%、Mg:0.0005%〜0.04%、若しくはREM:0.0005%〜0.04%、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0042】
REMはSc、Y及びランタノイド系列に属する元素の合計17元素の総称であり、REMの含有量はこれら元素の合計の含有量を意味する。REMは、例えばミッシュメタルに含まれ、REMの添加では、例えば、ミッシュメタルが添加されたり、金属La、金属Ce等の金属REMが添加されたりする。
【0043】
本実施形態によれば、例えば、590MPa以上の引張強度、15000MPa・%以上のTS×EL(引張強度×全伸び)、25000MPa・%以上のTS×λ(引張強度×穴拡げ率が得られる。つまり、高い強度、優れた伸び及び穴拡げ性を得ることができる。この鋼板は、例えば自動車の骨格系部品への成形が容易であり、衝突時の安全性を確保することもできる。
【0044】
次に、本発明の実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係る鋼板の製造方法では、上記の化学組成を有するスラブの熱間圧延、酸洗、冷間圧延及び焼鈍をこの順で行う。
【0045】
熱間圧延は1100℃以上の温度で開始し、Ar点以上の温度で終了させる。冷間圧延では、圧下率を30%以上80%以下とする。焼鈍では、保持温度をAc点以上、保持時間を10秒間以上とし、その後の冷却では、700℃からMf点までの温度域の冷却速度を0.5℃/秒以上4℃/秒以下とする。
【0046】
熱間圧延を開始する温度が1100℃未満では、Fe以外の元素をFe中に十分に固溶させることができないことがある。従って、熱間圧延は1100℃以上の温度で開始する。熱間圧延を開始する温度は、例えばスラブ加熱温度である。スラブとしては、例えば、連続鋳造で得たスラブ、薄スラブキャスターで作製したスラブを用いることができる。スラブは鋳造後に1100℃以上の温度に保持したまま熱間圧延設備に供してもよく、1100℃未満の温度まで冷却した後に加熱して熱間圧延設備に供してもよい。
【0047】
熱間圧延を終了させる温度がAr点未満では、熱延鋼板の金属組織にオーステナイト及びフェライトが含まれることとなり、オーステナイトとフェライトとの間で機械的特性が相違するため、冷間圧延等の熱間圧延後の処理が困難になることがある。従って、熱間圧延はAr点以上の温度で終了させる。熱間圧延をAr点以上の温度で終了させる場合、熱間圧延中の圧延荷重を比較的軽減できる。
【0048】
熱間圧延は粗圧延及び仕上げ圧延を含み、仕上げ圧延では、粗圧延で得られた複数の鋼板を接合したものを連続的に圧延してもよい。巻取り温度は450℃以上650℃以下とする。
【0049】
酸洗は1回又は2回以上行う。酸洗により、熱延鋼板の表面の酸化物が除去され、化成処理性及びめっき性が向上する。
【0050】
冷間圧延の圧下率が30%未満では、冷延鋼板の形状を平坦に保つことが困難であったり、十分な延性が得られなかったりすることがある。従って、冷間圧延の圧下率は30%以上とし、50%以上とすることが好ましい。一方、冷間圧延の圧下率が80%超では、圧延荷重が過大になったり、冷間圧延後の焼鈍でのフェライトの再結晶が過度に促進されたりすることがある。従って、冷間圧延の圧下率は80%以下とし、70%以下とすることが好ましい。
【0051】
焼鈍では、Ac点以上の温度に10秒間以上保持することで、オーステナイトを生成する。オーステナイトは、後の冷却を通じてフェライト、グラニュラーベイナイト又はマルテンサイトに変態する。保持温度がAc点未満であったり、保持時間が10秒未満であったりすると、オーステナイトが十分に生成されない。従って、保持温度はAc点以上、保持時間は10秒間以上とする。
【0052】
焼鈍後の冷却における700℃からMf点までの温度域でグラニュラーベイナイト及びマルテンサイトを生成することができる。上記のように、グラニュラーベイナイトは、複数のベイニティックフェライトが、それらの界面に存在する転位が回復して一つの塊になった組織である。このような転位の回復を700℃以下の温度域で生じさせることができる。しかし、この温度域での冷却速度が4℃/秒超では、転位を十分に回復させることができず、グラニュラーベイナイトの面積分率が不足することがある。従って、この温度域での冷却速度は4℃/秒以下とする。一方、この温度域での冷却速度が0.5℃/秒未満では、マルテンサイトが十分に生成されないことがある。従って、この温度域での冷却速度は0.5℃/秒以上とする。
【0053】
このようにして、本発明の実施形態に係る鋼板を製造することができる。
【0054】
鋼板に、電気めっき処理、蒸着めっき処理等のめっき処理を行ってもよく、更に、めっき処理後に合金化処理を行ってもよい。鋼板に、有機皮膜の形成、フィルムラミネート、有機塩類/無機塩類処理、ノンクロム処理等の表面処理を行ってもよい。
【0055】
めっき処理として鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行う場合、例えば、鋼板の温度を、亜鉛めっき浴の温度より40℃低い温度以上で、かつ亜鉛めっき浴の温度より50℃高い温度以下の温度に加熱又は冷却し、亜鉛めっき浴を通板する。溶融亜鉛めっき処理により、表面に溶融亜鉛めっき層を備えた鋼板、すなわち溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。溶融亜鉛めっき層は、例えば、Fe:7質量%以上15質量%以下、並びに残部:Zn、Al及び不純物で表される化学組成を有する。
【0056】
溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理を行う場合、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板を460℃以上600℃以下の温度に加熱する。この温度が460℃未満では、合金化が不足することがある。この温度が600℃超では、合金化が過剰となって耐食性が劣化することがある。合金化処理により、表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備えた鋼板、すなわち合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【0057】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0059】
(第1の試験)
第1の試験では、表1〜表4に示す化学組成を有するスラブを製造し、このスラブを熱間圧延して熱延鋼板を得た。表1〜表4中の空欄は、当該元素の含有量が検出限界未満であったことを示し、残部はFe及び不純物である。表1〜表4中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
次いで、熱延鋼板の酸洗、冷間圧延及び焼鈍を行って鋼板を得た。熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍の条件を表5〜表7に示す。焼鈍の条件中の冷却速度は700℃からMf点までの温度域での平均冷却速度である。各鋼板におけるフェライトの面積分率f、グラニュラーベイナイトの面積分率fGB、マルテンサイトの面積分率f、並びに上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライトの合計面積分率fを表8〜表10に示す。表8〜表10中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
そして、各鋼板の引張試験及び穴拡げ試験を行った。引張試験では、鋼板から圧延方向に直角に日本工業規格JIS5号試験片を採取し、JISZ2242に準拠して引張強度TS及び全伸びELを測定した。穴拡げ試験では、JISZ2256の記載に従って穴拡げ率λを測定した。これらの結果を表11〜表13に示す。表11〜表13中の下線は、その数値が望ましい範囲から外れていることを示す。ここでいう望ましい範囲とは、TSが590MPa以上、TS×ELが15000MPa・%以上、TS×λが25000MPa・%以上である。
【0072】
【表11】
【0073】
【表12】
【0074】
【表13】
【0075】
表11〜表13に示すように、本発明範囲内にある試料では、高い強度、優れた伸び及び穴拡げ性を得ることができた。
【0076】
試料No.1では、C含有量が低すぎたため、強度が低かった。試料No.5では、C含有量が高すぎたため、伸び及び穴拡げ性が低かった。試料No.6では、Si及びAlの総含有量が低すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.10では、Si及びAlの総含有量が高すぎたため、熱間圧延中にスラブ割れが生じた。試料No.11では、Mn及びCrの総含有量が低すぎたため、強度が低かった。試料No.15では、Mn及びCrの総含有量が高すぎたため、伸び及び穴拡げ性が低かった。試料No.18では、P含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.21では、S含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.23では、N含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.25では、O含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。
【0077】
試料No.28では、Mo含有量が高すぎたため、伸びが低かった。試料No.31では、Ni含有量が高すぎたため、伸びが低かった。試料No.34では、Cu含有量が高すぎたため、伸び及び穴拡げ性が低かった。試料No.37では、Nb含有量が高すぎたため、強度が低く、穴拡げ性が低かった。試料No.40では、Ti含有量が高すぎたため、強度が低く、穴拡げ性が低かった。試料No.43では、V含有量が高すぎたため、強度が低かった。試料No.46では、B含有量が高すぎたため、伸び及び穴拡げ性が低かった。試料No.49では、Ca含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.52では、Mg含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.55では、REM含有量が高すぎたため、穴拡げ性が低かった。
【0078】
試料No.59では、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.62では、面積分率fが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.64では、面積分率fが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、伸びが低かった。試料No.67では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.69では、面積分率fGBが低すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.70では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.72では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.74では、面積分率fGBが低すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.75では、面積分率fGBが低すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.77では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.79では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。試料No.80では、面積分率fGBが低すぎ、合計面積分率fが高すぎたため、穴拡げ性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば、自動車部品に好適な鋼板に関連する産業に利用することができる。
【要約】
鋼板は所定の化学組成を有し、面積分率で、フェライト:50%〜95%、グラニュラーベイナイト:5%〜48%、マルテンサイト:2%〜30%、並びに上部ベイナイト、下部ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト及びパーライト:合計で5%以下で表される金属組織を有する。