(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
眼鏡レンズを保持するためのレンズチャックユニットと、前記レンズチャックユニットによって保持された前記眼鏡レンズを加工するための加工具を有する加工ユニットと、前記眼鏡レンズと前記加工具との相対距離を調整する調整手段と、を備え、前記加工ユニットを動作させると共に、加工データに基づいて前記調整手段を動作させることにより前記眼鏡レンズの周縁を加工可能な眼鏡レンズ加工装置であって、
前記眼鏡レンズの周縁を加工する際に用いる加工軌跡よりも、前記レンズチャックユニットのチャック軸から離れた領域において、前記眼鏡レンズの未加工部分の有無を検査する検査ユニットと、
前記検査ユニットからの検査結果に基づいて前記加工ユニットに不具合があるか否かを判定する判定手段であって、前記検査ユニットによって、前記未加工部分が有るという検査結果が得られた場合、前記加工ユニットに不具合があると判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする眼鏡レンズ加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<概要>
以下、本実施形態の概要を説明する。本装置は、眼鏡レンズを保持するためのレンズチャックユニットと、レンズチャックユニットによって保持された眼鏡レンズを加工するための加工具を有する加工ユニットと、眼鏡レンズと加工具との相対距離を調整する調整部と、を備える。本装置は、例えば、加工ユニットを動作させると共に、加工データに基づいて調整部を動作させることにより前記眼鏡レンズを加工する。なお、本装置は、玉型データに基づいて調節部を動作させる制御部を備えても良い。
【0014】
なお、眼鏡レンズと加工具との相対距離を調整する構成としては、眼鏡レンズに対して加工具を移動させる構成であってもよいし、加工具に対して眼鏡レンズを移動させる構成であってもよい。つまり、眼鏡レンズと加工具との相対的な位置関係が調整されればよい。
【0015】
加工装置は、たとえば、加工ユニットを動作させることにより眼鏡レンズの周縁を加工可能な眼鏡レンズ加工装置である。もちろん、眼鏡レンズを加工する装置であればよい。例えば、加工装置は、眼鏡レンズに穴を空ける加工装置であってもよい。
【0016】
<検査ユニット>
本装置は、例えば、レンズチャックユニットによって眼鏡レンズが保持された状態において、眼鏡レンズが適正に加工されたか否かを検査するための検査ユニットを備える。
【0017】
検査ユニットとしては、例えば、レンズチャックユニットによって保持された眼鏡レンズの形状を測定するレンズ形状検知ユニットが用いられる。もちろんこれに限定されず、加工されたレンズカスを検査するレンズカス検査ユニットであってもよい(詳しくは後述する)。
【0018】
本装置は、例えば、検査ユニットからの検査結果に基づいて加工ユニットに不具合があるか否かを判定する判定ユニット(例えば、制御部70)を備えてもよい。これにより、検者又は装置は、加工ユニットの不具合を容易に確認できる。検査ユニットからの検査結果は、操作者に報知されてもよい。
【0019】
眼鏡レンズの周縁を加工可能な眼鏡レンズ加工装置の場合、検査ユニットは、例えば、眼鏡レンズの周縁を加工する際に用いる加工軌跡よりも、レンズチャックユニットのチャック軸から離れた領域において、前記眼鏡レンズの未加工部分の有無を検査するようにしてもよい。判定ユニットは、未加工部分が有るという検査結果が得られた場合、加工ユニットに不具合があると判定する。
【0020】
眼鏡レンズの未加工部分の有無を検査する場合、検査ユニットは、一つの動径角に限定してもよい。これにより、時間が短縮される。検査ユニットは、複数の動径角に関して、未加工部分の有無を検査してもよい。
【0021】
また、検査ユニットは、加工データに基づいて、動径角に関する眼鏡レンズの検査位置を演算するようにしてもよい。
【0022】
例えば、加工装置が、加工具及び眼鏡レンズの少なくとも一方を加工軌跡に沿って相対的に移動させて眼鏡レンズの周縁の全周を加工する装置の場合、検査ユニットは、加工軌跡における加工開始又は加工終了の動径角に基づいて少なくとも1つの検査位置を決定し、決定された検査位置について未加工部分の有無を検査してもよい。
【0023】
例えば、加工装置が、レンズチャックユニットの回転及び加工具の移動の少なくともいずれかによって360度全周に亘って前記眼鏡レンズの周縁を加工可能な眼鏡レンズ加工装置の場合、検査ユニットは、半周以降に加工された動径角の少なくとも一つを加工データに基づいて取得してもよい。そして、検査ユニットは、特定された動径角を検査位置として前記眼鏡レンズの未加工部分の有無を検査してもよい。
【0024】
例えば、加工装置が、前記加工具及び眼鏡レンズの少なくとも一方を加工軌跡に沿って相対的に移動させて眼鏡レンズの周縁の全周を加工する装置の場合、検査ユニットは、加工軌跡における加工開始から加工終了まで後半の半周以降で検査位置を決定するようにしてもよい。
【0025】
また、検査ユニットは、加工具の径と玉型の動径長に基づいて、周方向に関する眼鏡レンズの検査位置を演算するようにしてもよい。
【0026】
<レンズ形状測定ユニットの利用>
本装置は、玉型データに対応した眼鏡レンズの前面位置情報及び後面位置情報の少なくとも一方を測定する位置情報測定ユニットを有してもよい。
【0027】
そこで、検査ユニットは、位置情報測定ユニットを兼用し、眼鏡レンズの前面位置又は後面位置の少なくとも一方に関する測定結果に基づいて、眼鏡レンズが適正に加工されたか否かを検査してもよい。
【0028】
また、検査ユニットは、玉型データに対応した眼鏡レンズの前面位置情報又は後面位置情報の少なくとも一方を測定した後、続けて眼鏡レンズが適正に加工されたか否かを検査するようにしてもよい。
【0029】
また、検査ユニットは、レンズチャックユニットのチャック軸方向における玉型に対応した眼鏡レンズの前面位置情報又は後面位置情報の少なくとも一方の測定が360度全周に亘って完了した後、少なくともその測定完了位置において前記眼鏡レンズが適正に加工されたか否かを検査してもよい。
【0030】
本装置は、眼鏡の玉型データを取得するための玉型取得部と、レンズチャックユニットによって保持された眼鏡レンズの径である動径長を測定する動径長測定部と、をさらに備える構成であってもよい。
【0031】
検査ユニットは、動径長測定部を兼用し、動径長測定部によって測定された加工後の眼鏡レンズ動径長が、玉型データに基づいて予測される動径長と異なるときに、眼鏡レンズが適正に加工されていないと判定するようにしてもよい。
【0032】
<相対速度の制御>
制御部は、例えば、玉型データに基づいて調節部を動作させる。制御部は、第1距離を測定するための測定ユニットからの測定結果に基づいて、相対距離を接近させる際の相対速度を制御するしてもよい。第1距離は、レンズチャックユニットの中心軸から、加工前の眼鏡レンズのコバまでの距離である。
【0033】
<測定ユニット>
測定ユニットは、例えば、レンズチャックユニットによって保持された眼鏡レンズの形状を測定するレンズ形状検知ユニットであってよい(詳しくは後述する)。レンズ形状検知ユニットが本装置に配置された構成であってもよい。また、これに限定されず、測定ユニットは、光学的手段によって眼鏡レンズの輪郭を検出可能なカップ取りつけ装置(いわゆるインテリジェントブロッカー)であってもよい。この場合、カップ取りつけ装置は、例えば、眼鏡レンズの輪郭情報に基づいて光心又は枠心に対するレンズの外径を計測する。
【0034】
例えば、制御部は、中心軸と前記加工具との距離が、測定ユニットによって測定された第1距離に到達するまでの間、加工ユニットによって眼鏡レンズを加工する際の相対速度よりも、相対距離を接近させる際の相対速度を速くしてもよい。この場合、例えば、第1距離に到達するまで高速で接近させる構成に限定されない(詳しくは後述する)。
【0035】
測定ユニットは、例えば、加工装置に設けられ、前記レンズチャック軸の軸方向における、玉型データに対応した眼鏡レンズの前面位置情報及び後面位置情報の少なくとも一方を測定する位置情報測定部を兼用してもよい。
【0036】
測定ユニットは、例えば、第1の測定と第2の測定を測定可能である。第1の測定は、レンズチャック軸の軸方向に関して、玉型データに対応した眼鏡レンズの前面位置情報又は後面位置情報の少なくとも一方を前記眼鏡レンズの全周に亘って測定する。第2の測定は、加工前の前記眼鏡レンズのコバ位置と、玉型データから算出される加工後の前記眼鏡レンズのコバ位置との間の動径角の方向における距離を測定する。
【0037】
そこで、測定ユニットは、第2の測定によって測定された距離に、第2の測定が行われた動径角に関する玉型データが示す中心軸と加工後の前記眼鏡レンズのコバ位置の間の距離を加えることによって前記加工距離を測定するようにしてもよい。
【0038】
測定ユニットは、例えば、第1の測定完了後、少なくとも一つの動径角に関して、第2の測定を行うようにしてもよい。また、測定ユニットは、第1の測定完了後、少なくともその測定完了位置において第2の測定を行うようにしてもよい。
【0039】
また、制御部は、第2の測定が行われた動径角に対応するコバ位置であって加工前の眼鏡レンズのコバ位置を、眼鏡レンズの加工開始位置として加工を開始してもよい。そして、制御部は、第2の測定が行われた動径角に関する加工を行った後、他の動径角に関する加工を行うようにしてもよい。
【0040】
<加工距離取得>
本装置は、レンズチャックユニットによって保持された加工前の眼鏡レンズの中心からコバまでの距離である距離であって、加工開始時に調整部によって相対距離を調整するときの眼鏡レンズの動径角での第2距離を取得する加工距離取得部を有してもよい。そこで、制御部は、取得された第距離に基づいて、加工開始時に前記相対距離を調整する際の相対速度を変化させるように調整部を制御する。加工距離取得部は、装置本体に設けられた構成であってもよい。加工距離取得部は、外部装置からデータを取得する構成であってもよい。
【0041】
<実施形態の具体例>
本発明の実施形態の具体例を図面に基づいて説明する。
図1は、本件発明が適用される眼鏡レンズ加工装置の装置本体の概略構成図である。
図1(a)は眼鏡レンズ加工装置1を正面からみた概略構成図であり、
図1(b)は側面から見た概略構成図である。眼鏡レンズ加工装置1の上部には、レンズの加工を行うためのレンズ加工部10が設けられている。また、眼鏡レンズ加工装置1の側面には加工条件等のデータ入力用のタッチパネル機能を持つディスプレイ5、加工スタートスイッチ等が設けられたスイッチ部7が備わる。なお、ディスプレイ5とスイッチ部7は側面に備わっていなくてもよく、正面に備わっていてもよい。またディスプレイ5とスイッチ部7は互いに離れた位置に設けられてもよく、近傍に設けられてもよい。
【0042】
図2は、レンズ加工部10の概略構成図を示している。以下、レンズ加工部10の構成について説明する。レンズ加工部10には、レンズチャックユニット20、スピンドル保持ユニット30が備えられている。なお、本実施形態においては、
図2において、紙面に対して奥行き方向(直交する方向)をX方向、水平方向(左右方向)をZ方向、鉛直方向(上下方向)をY方向として説明する。
【0043】
<レンズチャックユニット>
レンズチャックユニット20は、眼鏡レンズLEを保持し、スピンドル保持ユニット30に対して、眼鏡レンズLEを移動させるためのものである。レンズチャックユニット20には、キャリッジ21、ベース24が備えられている。キャリッジ21は、眼鏡レンズLEを挟持するための一対のレンズチャック軸22(22F、22R)を備える。
【0044】
<レンズチャック軸回転機構>
図3は、レンズチャックユニット20の概略構成図である。キャリッジ21の表側には、レンズチャック軸22Fを回転可能に保持する保持アーム29Fが固定されている。キャリッジ21の裏面には、図示無き左右に延びる2本のガイドレール上を移動可能なチャックテーブル23が設けられている。チャックテーブル23には、レンズチャック軸22Rを回転可能に保持する保持アーム29Rが固定されている。また、チャックテーブル23には、チャックテーブル23をレンズチャック軸22に対して、平行移動するための図示無き圧力駆動源が設けられている。圧力駆動源は、エアポンプ、バルブ、ピストン等で構成される。エアポンプは、空気を圧送するために用いられる。ピストンは、チャックテーブル23に固定されている。バルブは、ピストンが配置された密閉空間に設けられている。そして、密閉空間への空気の導入がバルブの開閉によって調整される。圧力駆動源は、密閉空間において空気の導入を調整することによって、レンズチャック軸に対して、ピストンを平行移動させる。これにより、チャックテーブル23とともに、保持アーム29R及びレンズチャック軸22Rがキャリッジ21に設けられたレンズチャック軸22F側へ平行移動される。そして、レンズチャック軸22Fとレンズチャック軸22Rとで眼鏡レンズLEが挟持される。なお、レンズチャック軸22Fとレンズチャック軸22Rとは、同軸の関係に配置されている。
【0045】
レンズチャックユニット20には、駆動源(例えば、モータ)110が設けられている。モータ110は、レンズチャック軸22Rをその軸を中心に回転させるために、用いられる。モータ110の回転駆動によって、タイミングベルト、プーリー等の回転伝達機構を介してレンズチャック軸22Rが回転される。
【0046】
また、レンズチャックユニット20には、駆動源(例えば、モータ)120が設けられている。モータ120は、レンズチャック軸22Fをその軸(チャック中心軸)を中心に回転させるために、用いられる。モータ120の回転駆動によって、タイミングベルト、プーリー等の回転伝達機構を介してレンズチャック軸22Fがモータ120によって回転される。モータ110、120の回転軸には、レンズチャック軸22F、22Rの回転角を検知するエンコーダが取り付けられている。なお、モータ110、120は、同期して駆動される。すなわち、レンズチャック軸22F及び22Rは、同期して回転駆動をする。これらによりレンズ回転ユニットが構成される。
【0047】
<キャリッジ回転駆動機構>
レンズチャックユニット20には、軸角度変更機構(軸角度変更手段)25が設けられている。軸角度変更機構25は、加工具の切り換えや眼鏡レンズ加工の際の眼鏡レンズと加工具との相対位置の調整に用いられる(詳細は後述する)。軸角度変更機構25は、駆動源(例えば、モータ等)26、プーリー27、タイミングベルト28、エンコーダ79で構成されている。プーリー27は、キャリッジ21に固定されている。モータ26にはエンコーダ79が取り付けられ、エンコーダ79によってモータ26の回転が検知される。モータ26が回転駆動されると、モータ26の回転がタイミングベルト28を介して、プーリー27へ伝達される。キャリッジ21は、プーリー27が回転されることによって、ベース24に対して、キャリッジ21の中心軸(A軸)を回転中心に回転駆動する。これによって、キャリッジ21の回転駆動とともに、レンズチャック軸22の軸角度がA軸を中心に変更(回転)される。
【0048】
<X軸及びZ軸駆動機構>
図4は、レンズチャックユニット20のX軸方向及Z軸方向の駆動機構について説明する図である。レンズチャックユニット20には、レンズチャックユニット20をスピンドル保持ユニット30に対して、X方向及びZ方向にそれぞれ移動させる各駆動機構(X軸駆動機構80、Z軸駆動機構85)が設けられている。
【0049】
X軸駆動機構80は、駆動源(モータ)81を備える。モータ81には、X軸方向に向かって延びるシャフト82が直結されている。また、モータ81の回転軸には、レンズチャックユニット20のX軸方向の移動位置を検知するエンコーダ83が取り付けられている。シャフト82の外周には、ネジ溝が形成されている。シャフト82の先には、軸受けとして図示無き移動部材(例えば、ナット)が嵌まりあっている。移動部材には、レンズチャックユニット20が固定されている。モータ81が回転駆動されると、レンズチャックユニット20がX軸方向に延びるシャフト82に沿って移動する。これによって、キャリッジ21とともに、レンズチャック軸22F、22RがX軸方向に直線移動される。
【0050】
Z軸駆動機構85は、駆動源(モータ)86を備える。モータ86には、Z軸方向に向かって延びる図示無きシャフトが直結されている。また、モータ86の回転軸には、レンズチャックユニット20のZ軸方向の移動位置を検知するエンコーダ87が取り付けられている。シャフトの外周には、ネジ溝が形成されている。シャフトの先には、軸受けとして図示無き移動部材(例えば、ナット)が嵌まりあっている。移動部材には、レンズチャックユニット20が固定されている。モータ86が回転駆動されると、レンズチャックユニット20がZ軸方向に延びるシャフトに沿って移動する。これによって、キャリッジ21とともに、レンズチャック軸22F、22RがZ軸方向に直線移動される。
【0051】
<スピンドル保持ユニット>
図2において、スピンドル保持ユニット30には、移動支基31、第1加工ユニット40、第2加工ユニット45、レンズ形状検知ユニット300F、300Rが備えられている。移動支基31の左右側面には、第1加工ユニット40及び第2加工ユニット45が配置される。レンズ形状検知ユニット300F、300Rはレンズの形状を測定するレンズ形状測定ユニットとして機能する。
【0052】
<加工ユニット>
図2に示されるように、第1加工ユニット40は、移動支基31の左側面に配置されており、3つのスピンドル40a、40b、40cが備えられている。また、第2加工ユニット45は、移動支基31の右側面に配置されており、3つのスピンドル45a、45b、45cが備えられている。第1加工ユニット40のスピンドル40a、40b、40cはそれぞれ回転軸40a1,40b1、40c1を有し、その各回転軸と同軸に各加工具(ツール)60a、60b、60cが取り付けられる。また、第2加工ユニット45のスピンドル45a、45b、45cはそれぞれ回転軸45a1、45b1、45c1を有し、その各回転軸に同軸に各加工具65a、65b、65cが取り付けられる。各加工具は、眼鏡レンズを加工するための加工具として用いられる。各スピンドルの回転軸は、各スピンドルの内部に配置された回転伝達機構を介し、各スピンドルの後方にそれぞれ配置された駆動源(例えば、モータ)により回転される。
【0053】
例えば、本実施例においては、加工具60aには、粗加工具としてのエンドミル又はカッターが配置されている。加工具60aは、仕上げ加工前の未加工の眼鏡レンズLEを切削するために用いられる。加工具60bには、溝掘り加工具(溝加工具)としてカッターが配置される。加工具60cには、レンズLEの屈折面に穴を開けるための穴加工具としてのエンドミルが配置されている。加工具65aには、鏡面加工具として鏡面砥石が配置される。鏡面加工具は、水を用いて、眼鏡レンズLEの鏡面を磨くために用いられる。加工具65bには、仕上げ加工具として円錐形状を持つカッターが配置される。仕上げ加工具65bは、レンズLEの周縁にヤゲンを形成するためのヤゲン溝(V溝)とレンズLEの周縁を平加工するための平加工面とが形成されており、粗加工されたレンズ周縁をヤゲン加工及び平仕上げ加工するために用いられる。また、仕上げ加工具65b(平加工面)は面取り加工用として兼用される。加工具65cには、ヤゲン加工されたレンズ周縁をさらに段付き加工するためのステップ加工用の加工具が配置されている。
【0054】
各スピンドルの近傍には、それぞれ、空気や水を送るためのホース41a、41b、41c、46a、46b、46cが設けられている。ホース41a、41b、41c、46a、46b、46cは、眼鏡レンズ加工後の切削片を空気によって除去するために用いられる。また、ホース46aは、眼鏡レンズを加工する際に用いる水を供給するために用いられる。もちろん、ホースは、用途に応じて、任意に交換可能である。例えば、水用のホースから空気用のホースに交換してもよい。
【0055】
各スピンドルは、スピンドルの先端が下方(重力方向)に向かって傾斜して配置されている。本実施例においては、各スピンドルの傾斜角度がZ軸方向(水平方向)から下方に45°傾斜するように配置されている。
【0056】
<Y軸駆動機構>
図5は、スピンドル保持ユニット30のY軸方向の駆動機構について説明する図である。スピンドル保持ユニット30には、スピンドル保持ユニット30をレンズチャックユニット20に対して、Y軸方向に移動させる各駆動機構(Y軸駆動機構90)が設けられている。
【0057】
Y軸駆動機構90は、駆動源(モータ)91を備える。モータ91の回転軸には、Y軸方向に向かって延びるシャフト92が直結されている。また、モータ91には、スピンドル保持ユニット30のY軸方向の移動位置を検知するエンコーダ93が取り付けられている。シャフト92の外周には、ネジ溝が形成されている。シャフト92の先には、軸受けとして移動部材(例えば、ナット)94が嵌まりあっている。移動部材94には、移動支基31が固定されている。モータ91が回転駆動されると、移動支基31がY軸方向に延びるシャフトに沿って移動する。これによって、スピンドル保持ユニット30がY軸方向に直線移動される。なお、移動支基31には、図示無きバネが掛けられており、移動支基31の下方への荷重をキャンセルしてその移動が容易になるようにしている。
【0058】
以上のような加工ユニットの構成において、Y軸駆動機構90及びZ軸駆動機構85は、加工具回転軸(40a1,40b1,40c1、45a1,45b1、45c1)に対するレンズチャック軸22の相対的な位置関係を変化させるための移動機構を構成し、さらに、その移動機構として、加工具回転軸とレンズチャック軸22との軸間距離を変動する機構と、レンズチャック軸22の軸方向にレンズチャック軸22を移動する機構と、を構成する。
【0059】
また、上記のようなX軸駆動機構80、Z軸駆動機構85、Y軸駆動機構90等は、眼鏡レンズと各加工具とを相対的に移動させる移動ユニットを構成する。また、X軸駆動機構80、Z軸駆動機構85、Y軸駆動機構90等は、例えば、眼鏡レンズと各加工具との相対距離を調整する構成として用いられる。
【0060】
<レンズ形状検知ユニット>
図2において、キャリッジ21の上方には、レンズ形状検知ユニット(レンズコバ形状測定ユニット)300F、300Rが設けられている。レンズ形状検知ユニット300Fは、レンズ前面の位置(玉型上のレンズ前面側の位置)情報を検知するコバ位置測定手段である。レンズ形状検知ユニット300Rは、レンズ後面の位置(玉型上のレンズ後面側の位置)情報を検知するコバ位置測定手段である。
【0061】
図6はレンズ前面のコバ位置を測定するレンズ形状検知ユニット300Fの概略構成図である。レンズ形状検知ユニット300Fの構成を説明する。移動支基31には取付支基301Fが固定される。取付支基301FにはZ方向に延びるレール302Fが固定される。レール302F上をスライダー303Fが摺動可能に取り付けられている。スライダー303Fにはスライドベース310Fが固定され、スライドベース310Fには測定子アーム304Fが固定されている。測定子アーム304Fの先端部にはハンド305Fが固定され、ハンド305Fの先端に測定子306Fが固定されている。スライダー303FがZ方向に摺動することによって、測定子306FもZ方向に移動する。
【0062】
スライドベース310Fの下端部にはラック311Fが固定されている。ラック311Fは取付支基301F側に固定されたエンコーダ313Fのピニオン312Fと噛み合っている。また、モータ316Fの回転は、ギヤ315F、アイドルギヤ314F、ピニオン312Fを介してラック311Fに伝えられ、スライドベース310FがZ軸方向に移動される。レンズコバ位置測定中、モータ316Fは常に一定の力で測定子306FをレンズLEに押し当てている。モータ316Fによる測定子306Fのレンズ屈折面に対する押し当て力は、レンズ屈折面にキズが付かないように、軽い力で付与されている。測定子306Fのレンズ屈折面に対する押し当て力を与える手段としては、バネ等の周知の圧力付与手段とすることもできる。エンコーダ313Fはモータ316Fの回転量・あるいは回転角度等の回転情報を取得し、制御部70に送信する。制御部70はエンコーダ316Fから受信した回転情報に基づいて、スライドベース310Fの移動位置を検知することにより、測定子306FのX軸方向の移動位置を検知する。この移動位置の情報、レンズチャック軸22F,22Rの回転角度の情報、Y軸方向の移動情報により、レンズLEの前面位置(レンズ前面のコバ位置も含む)が測定される。
【0063】
レンズLEの後面位置(レンズ後面のコバ位置も含む)を測定する測定部300Rの構成は、測定部300Fと同様に説明できるので、
図6に図示した測定部300Fの各構成要素に付した符号末尾の「F」を「R」に付け替え、その説明は省略する。
【0064】
レンズコバ位置の測定をする際、まず軸角度変更機構25によってレンズチャック軸22F、22RがZ軸方向に位置される。その後、測定子306Fがレンズ前面に接触され、測定子306Rがレンズ後面に接触される。この状態で玉型データに基づいてスピンドル保持ユニット30がY軸方向に移動され、レンズLEが回転されることにより、レンズ加工のためのレンズ前面及びレンズ後面のコバ位置(レンズチャック軸方向の位置)が同時に測定される。なお、測定子306F及び測定子306Rが一体的にZ軸方向に移動可能に構成されてもよい。この場合、コバ位置測定手段においては、レンズ前面とレンズ後面が別々に測定される。また、上記のレンズ形状検知ユニット300F,300Rでは、レンズチャック軸22F,22RをY軸方向に移動するものとしたが、相対的に測定子306F及び測定子306RをY軸方向に移動する機構とすることもできる。
【0065】
<制御手段>
図7は、眼鏡レンズ加工装置の制御ブロック図である。制御部(制御手段)70には、モータ26、エンコーダ79、モータ81、エンコーダ83、モータ86、エンコーダ87、モータ91、モータ110、モータ120、図示無き各スピンドルの内部に配置されたモータ、図示無き圧力駆動源、レンズ形状検知ユニット300F、300R、とが接続されている。
【0066】
また、制御部70には、加工条件のデータ入力用のタッチパネル機能を持つディスプレイ5、加工スタートスイッチ等が設けられたスイッチ部7、メモリ3、ホストコンピュータ1000等が接続されている。ディスプレイ5、ホストコンピュータ1000は、玉型データ、玉型に対する眼鏡レンズの光学中心のレイアウトデータ、等のレンズ加工に必要な加工データを取得するための玉型形状取得手段として機能する。
【0067】
<制御動作>
以下、本実施例における眼鏡レンズ加工装置1の制御動作について説明する。眼鏡レンズの加工は、ホストコンピュータ1000またはディスプレイ5から入力された玉型等の加工データに応じて、種々の加工ステップが選択されることによって行われる。以下の説明においては、種々の加工ステップとして、粗加工及び仕上げ加工を例に挙げて説明する。
【0068】
初めに、図示無き搬送装置から眼鏡レンズ加工装置1に眼鏡レンズLEが搬送される。搬送される眼鏡レンズLEには図示無きカップ取り付け装置によって図示無きカップが取り付けられている。カップ取り付け装置は眼鏡レンズの光学中心とカップの中心が合うようにカップを取り付ける。搬送装置は、眼鏡レンズLEをレンズチャック軸22F、22Rに挟持させる。カップが取り付けられた眼鏡レンズLEは光学中心に対して適正な位置にてレンズチャック軸22F,22Rに挟持される。眼鏡レンズLEが挟持されると、制御部70は、予め入力された玉型等の加工データに基づいて、各加工ステップにて、眼鏡レンズの加工を開始する。なお、カップ取り付け装置はカップの中心を玉型の幾何学中心に合わせるようにカップを取り付けるようにしてもよい。カップの取り付け位置は本実形態に限定されない。
【0069】
次に、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって、眼鏡レンズ前面、眼鏡レンズ後面の位置を検知し、レンズ形状データを取得する。レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって検知されたレンズ前面及び後面の検知情報は、メモリ3に記憶される。制御部70は、モータ81を駆動させ、レンズチャックユニット20をX軸方向に後退させる。次いで、制御部70は、モータ91を駆動させ、スピンドル保持ユニット30をY軸方向に移動させる。また、Y軸方向の移動時に、制御部70は、モータ26を駆動させることによって、A軸を中心にキャリッジ21を回転させ、レンズチャック軸22の軸角度を変更する。
【0070】
図8は、YZ平面上の位置調整及びレンズチャック軸22の調整後の位置関係について説明する図である。
図8(a)は、レンズ形状検知ユニット300F、300Rによる検知時の図を示している。
図8(b)は、加工具60aによる粗加工時の図を示している。
図8(c)は、仕上げ加工具65bによる仕上げ加工時の図を示している。
【0071】
制御部70は、YZ軸方向の位置調整及びレンズチャック軸22の軸角度を調整し、レンズ形状検知ユニット300F、300Rの測定位置に眼鏡レンズLEが来るようにする(
図8(a)参照)。そして、YZ軸方向の位置調整及びレンズチャック軸22の軸角度の調整後、制御部70は、モータ81を駆動させ、レンズチャックユニット20をX軸方向に前進させる。このようにして、制御部70は、レンズ形状検知ユニット300F、300Rの測定位置に眼鏡レンズLEを位置させる。そして、レンズチャック軸22の回転駆動と、移動支基31のY軸方向の駆動を玉型に基づいて制御し、玉型に対応するレンズ前面及び後面のレンズチャック軸方向のレンズ形状データを取得する。
【0072】
<レンズ形状データの取得>
レンズ形状の取得動作を説明する。
図9は玉型データに基づいて加工されるレンズLEと玉型L1を示した図である。
図9(a)は挟持された眼鏡レンズLEを側面方向から見た図であり、
図9(b)は眼鏡レンズLEを前面から見た図である。レンズチャック軸22F,22Rに挟持された眼鏡レンズLEはキャリッジ21が回転され、転移動支基31がY軸方向に移動されることによって、レンズ形状検知ユニット300F,300Rの検査位置に配置される。
【0073】
眼鏡レンズLEが配置されると、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは眼鏡レンズLEの玉型データに対応した位置P4F,P4Rにおいてそれぞれ測定子306F,306Rを接触させる。モータ316F,316R(
図6参照)は一定の力で測定子306F,306Rを眼鏡レンズLEの位置P4F,P4Rに押し当てる。この状態で、測定子306F,306Rが玉型L1を辿るようにスピンドル保持ユニット30がY軸方向に移動され、眼鏡レンズLEがMA方向に360°回転される。測定子306F,306Rは位置P4F,P4Rから玉型を辿り、眼鏡レンズLEが360°回転した時点で再び位置P4F,P4Rに戻る。モータ316F,316Rに取り付けられたエンコーダ313F,313Rは、玉型L1に対応した眼鏡レンズLEのレンズチャック軸22F,22R方向(Z軸方向)のレンズ位置を測定する。
【0074】
玉型L1に対応したレンズ位置の測定が終了すると、次に、位置P4F(又はP4R)から、設定された加工開始位置P1F(又はP1R)までの距離Jを測定する。加工開始位置P1F(又はP1R)とは、眼鏡レンズLEを加工具によって加工する際、加工具が最初に眼鏡レンズLEに接触する位置のことである。加工開始位置P1F(又はP1R)は、加工時間短縮のため、位置P4F(又はP4R)からコバまでの距離が最短である位置(動径角)に設定されるのが好ましい。
【0075】
距離Jを測定するため、レンズ形状検知ユニット300F,300Rの測定子306F,306RがレンズLEに押し付けられた状態で、スピンドル保持ユニット30がY軸方向の上方に移動される。測定子306F,306RとレンズLEとの接触点は、位置P4F,P4RからY軸の上方向(玉型の外側方向)に移動される。このときも、LEの前面位置及び後面位置はエンコーダ313F,313Rによって測定される。
【0076】
測定子306F,306RがレンズLE前面の端部(コバ)の加工開始位置P1F、後面の端部(コバ)の加工開始位置P1Rまで移動され、眼鏡レンズLEと接触している状態から外れる。このとき、モータ316F,316Rからの付勢と釣り合っていたレンズLEからの反力がなくなる。そのため、測定子306F,306Rはモータ316F,316Rからの付勢によってZ軸方向に急激に移動される。従って、エンコーダ313F,313Rが検出するレンズ位置情報が急激に変化する。このとき、制御部70はエンコーダ93によって得られたY軸方向の移動距離から距離Jを得る。そして距離Jと玉型半径(本実施形態では、チャック中心軸と加工開始位置P4F、P4Rとの距離)とからチャック中心軸(レンズの回転軸)L3と位置P1F及び位置P2RとのY軸方向の距離W1F,W1Rをそれぞれ算出することができる。
【0077】
エンコーダ313F,313Rが検出するレンズ位置情報が急激に変化すると、制御部70はスピンドル保持ユニット30のY軸方向への移動を停止し、距離W1F,W1Rの測定を終了する。
【0078】
なお、加工前の眼鏡レンズLEの形状によっては、位置P1F,位置P1Rからチャック中心軸L3との距離である距離W1Fと距離W1Rは等しくなるとは限らないため、区別して記載する。距離W1F,W1Rが等しくならない場合としては、例えば、眼鏡レンズLEの前面の径と後面の径が一致しない場合があげられる。
【0079】
次いで、制御部70は、各加工具による眼鏡レンズLEの種々の加工を行う。各加工具で加工を行う場合、眼鏡レンズLEの前面側が、各加工具の基部に向くように、レンズチャック軸22を所定角度回転させる。以下、各加工について説明する。
【0080】
<粗加工>
粗加工時においては、粗加工後の他の加工を考慮して眼鏡レンズLEの切削を行う必要がある。
図10は、粗加工及び仕上げ加工の加工軌跡について説明する図である。眼鏡レンズは、粗加工が完了すると、加工具65bによって仕上げ加工され、仕上げ加工の最終的な眼鏡レンズLEの加工径は入力された玉型である仕上げ加工軌跡L1とされる。なお、レンズLEの粗加工及び仕上げ加工の基礎として用いられる玉型は、レンズチャック軸22のチャック中心(加工中心)Oを基準にした動径データ(rn、θn)(n=1,2,3,・・・,N)に変換される。rnは動径長であり、θnは動径角である。Nは、例えば、1000ポイントである。
【0081】
粗加工軌跡L2は、仕上げ加工軌跡L1(玉型)の法線方向に対して一定量(例えば、1mm)の仕上げ代(仕上げを行うための部分)Laが加えられた加工径となるように、制御部70によって玉型(動径データ)に基づいて演算される。粗加工軌跡L2の動径データを(Rn、θn)(n=1,2,3,・・・,N)とする。粗加工時の加工径は動径長Rnでもあるので、以下では加工径Rnとする。
【0082】
図11は、粗加工時の加工手順の一例について説明する図である。例えば、粗加工は、2回の切削(第1切削部分DA、第2切削部分DB)を行うことによって、眼鏡レンズLEを切削する。もちろん、2回より多い複数回の加工によって切削を完了させる構成としてもよい。
【0083】
制御部70は、レンズ形状検知ユニット300によるレンズLEの測定が終了すると、レンズLEを加工具60aに対して相対的に移動させ、加工を行う。従って、制御部70は、レンズLEをレンズ形状検知ユニット300の測定位置(
図8(a)の位置)から、加工具60aの加工位置(
図8の(b)の位置)に移動させる。
【0084】
2回の切削によって粗加工を行う場合、初めに、MA方向の加工を行う。MA方向の加工を行うために、制御部70は、加工具60aをレンズ外周の位置P1F(または位置P1R)に位置させた後、位置P1F(または位置P1R)より眼鏡レンズLEの切削を開始し、経路M1、M2(玉型形状部分)、M3の順に切削を行う。この例では、経路M3はチャック中心Oに対して経路M1と180度反対側の方向に設定されている。経路M1の加工では、制御部70は、レンズLEの回転を停止した状態で加工具60aがチャック中心Oに向かい、粗加工軌跡L2に到達するまで相対的にレンズLEを移動させる。経路M2の加工では、制御部70は、レンズLE(レンズチャック軸)を回転させながら、玉型L1を基にして求められた粗加工軌跡L2に基づいてレンズチャック軸22に対する加工具60aの接近距離を変化させる。経路M3のチャック中心O側の位置P2F(又はP2R)まで加工具60aが達したら、制御部70は、レンズLEの回転を停止し、加工具60aが経路M3に沿ってレンズLEの外周に抜けるように相対的にレンズLEを移動させる。
【0085】
これにより、レンズチャック軸22に保持されたレンズLEから第1切削部分DAが切り落とされる。
【0086】
第1切削部分DAの加工が完了すると、第2切削部分DBの加工を開始する。第2切削部分DBの加工において、加工具60aが経路M4を通過するように加工が行われる。すなわち、制御部70は、加工具60aを第1切削部分DAの加工が終了した位置から経路M3を通過させて位置P2F(又は位置P2R)に位置させる。その後、レンズLEを回転させながら、粗加工軌跡L2に基づいてレンズチャック軸22に対する加工具60aの接近距離を変化させ、経路M4に沿って加工具60aを移動させる。これにより、レンズチャック軸22に保持されたレンズLEから第2切削部分DBが切り落とされる。
【0087】
<粗加工制御>
以下、粗加工時の具体的な加工制御について説明する。粗加工を行う場合、制御部70は、モータ81を駆動させ、レンズLEを測定するためのレンズ形状検知ユニット300の測定位置(
図8(a)の位置)にあるレンズチャックユニット20をX軸方向に後退させる。そして、制御部70は、レンズ形状検知ユニット300の測定位置から、粗加工を行うための加工具60aの位置(
図8(b)の位置)にレンズLEを移動させる。このとき、レンズLEの加工開始位置P1F(または位置P1R)が加工具60aによる加工が行える位置に来るように、Y軸駆動機構90及びZ軸駆動機構85の駆動を制御し、YZ軸方向の位置を調整する。制御部70は、レンズLEをレンズ形状検知ユニット300の測定位置から加工具60aによる加工が行える位置まで移動させる間、第1の相対速度で加工具60aに対してレンズLEを相対的に移動させる。第1の相対速度は、加工時の加工具60aに対する眼鏡レンズLEとの相対速度(第2の相対速度)より速く設定するとよい。加工開始位置P1F(又はP1R)まで眼鏡レンズLEを加工具60aに対して第1の相対速度で速く移動させることによって、レンズLEの加工に掛かる全体の時間が短縮できる。
【0088】
制御部70は、各モータに取り付けられたエンコーダによってレンズチャック軸22F,22Rと加工具60aの角度及び位置を検知しながら、眼鏡レンズLEの位置P1F(または位置P1R)を加工具60aに対して相対的に近づける。
【0089】
また、制御部70は、レンズ形状測定によって取得されてメモリ3に記憶された眼鏡レンズの前面位置情報及び後面位置情報、及び粗加工用の動径長情報である加工径Rnに基づいて、動径角毎の軸角度を設定する。そして、設定された軸角度に基づいて軸角度変更機構25の駆動を制御し、レンズチャック軸22の軸角度を調整する。
【0090】
チャック中心軸L3と加工具60aとの距離が距離W1F(又は距離W1R)に達すると、制御部70はスピンドル40aの回転軸40a1を回転させる。同時に加工具60aに対する眼鏡レンズLEの相対速度を第1の相対速度から加工のための速度である第2の相対速度に切り換え、位置P1F(または位置P1R)にて眼鏡レンズLEの加工を開始する。
【0091】
制御部70は、粗加工軌跡に基づき、
図11に示したような経路で加工具60aが移動するようにY軸駆動機構90及びZ軸駆動機構85の駆動を制御する。粗加工軌跡に沿った切削加工段階(経路M2、M4)では、制御部70は、レンズ形状測定によって取得されてメモリ3に記憶された眼鏡レンズの前面位置情報及び後面位置情報、及び粗加工用の動径長情報である加工径Rnに基づいて、動径角毎の軸角度を設定する。そして、制御部70は、レンズLEを設定された軸角度に基づいて軸角度変更機構25の駆動を制御し、レンズチャック軸22の軸角度を変更させる。
【0092】
上記のように、本実施形態では、レンズ形状検知ユニット300F,300Rのレンズ形状測定結果(距離J)に基づいて、チャック中心軸L3から眼鏡レンズLEの加工開始位置P1F(又はP1R)までの距離W1F(又はW1R)を算出する。その算出結果に基づいて眼鏡レンズLEの加工具60aに対する相対速度を切り換える位置を制御する。これにより、眼鏡レンズLEと加工具60aが接触する直前の位置まで第1の相対速度で両者を移動させることができる。従って、両者を無駄に第2の相対速度(加工速度)で移動させることがなくなり、レンズLEを加工する全体の時間を短縮することができる。
【0093】
また、上記のように、本実施形態の眼鏡レンズ加工装置はレンズ形状検知ユニット300F,300Rに基づいて眼鏡レンズと各加工具との相対距離を接近させる際の相対速度を制御するものである。これは、眼鏡レンズを加工具に対して相対的に移動させ、加工具が眼鏡レンズを加工できる位置に眼鏡レンズの位置を位置決めする場合も含む。
【0094】
なお、距離W1F,W1Rは必ずしも両方を測定しなくともよく、少なくとも一方を測定すればよい。好ましくは、両方あるいは距離W1F,W1Rのうち距離の大きい方を測定するとよい。距離W1F,W1Rの内、大きい方の距離に基づいて相対速度の切換制御を行うとよい。大きい方の距離に基づいて相対速度を制御すれば、加工具60aと眼鏡レンズLEが第1の相対速度で衝突することを防ぐことができる。
【0095】
また、本実施形態では、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって玉型のある1点(例えば、位置P4F又はP4R)のレンズ位置から最短距離のコバ位置(例えば、P1F又はP1R)までの距離Jを測定する。そして、そのコバ位置(例えば、P1F又はP1R)から加工を開始し、距離Jを測定した軌跡上を加工する。例えば、位置P1F(又はP1R)から位置P4F(又はP4R)までを直線的に加工する。言い換えると、加工具60aの挿入方向の玉型からコバまでの距離Jを測定する。これにより、測定していないコバ位置に関して演算をする必要がなく、容易な演算で相対速度の切換制御を行うことができる。
【0096】
なお、第2切削部分DBの加工においては、加工開始位置を経路M1側の位置P3F(又は位置P3R)より開始するようにして、経路M4を粗加工具が通るように切削を行っていく構成であってもよい。この場合も第1切削部分DAを切削するのと同様に、加工具60aと眼鏡レンズLEとを接近させるときの相対速度を距離W1F(又は距離W1R)に基づいて制御してもよい。
【0097】
また、第1切削部分DAから切削を開始する構成ではなく、第2切削部分DBから切削を開始する構成であってもよい。
【0098】
また、本実施形態において、第2切削部分DBの加工を開始する際も、第1切削部分DAの加工と同様に、眼鏡レンズと加工具60aとを接近させる相対速度を制御してもよい。すなわち、粗加工軌跡L2上の位置P2F(P2R)から、加工前の眼鏡レンズのコバまでの距離を測定しておき、その距離に基づいて眼鏡レンズと加工具60aとを接近させる相対速度を制御してもよい。
【0099】
なお、第2切削部分DBの加工においては、加工開始位置を経路M1側の位置P3F(又は位置P3R)より開始するようにして、経路M4を粗加工具が通るように切削を行っていく構成であってもよい。また、第1切削部分DAから切削を開始する構成ではなく、第2切削部分DBから切削を開始する構成であってもよい。
【0100】
なお、距離Jの測定方法は本実形態の方法に限らない。本実施形態において、距離Jの測定は1回だけ測定するものとしたが、これに限らない。例えば、玉型に対応する複数点のレンズ位置から、それぞれに対応するコバ位置までの距離Jを測定してもよい。この場合、測定した複数点のレンズ位置に対応するどのコバ位置を加工開始位置としてもよい。
【0101】
また、本実施形態において、距離W1F,W1Rを測定するのにレンズ形状検知ユニット300F,300Rを用いたが、これに限らない。例えば、眼鏡レンズを撮影したレンズ画像から距離W1F,W1Rを画像解析によって求めてもよい。
【0102】
また、本実施形態では、玉型上のある位置P4F(又はP4R)からコバまでの最短距離(距離J)を測定するものとしたが、これに限らない。玉型上の位置(例えば、位置P4F,P4R)から任意のコバ位置までの距離Jを測定してもよい。この場合、距離Jの測定を開始した位置と任意のコバ位置との位置関係をメモリ3等に記憶させるとよい。
【0103】
また、玉型上のある位置(P4F又はP4R)からコバまでの距離を測定するものとしたが、これに限らない。玉型の近傍からコバ位置の近傍までの距離を測定するものとしてもよい。
【0104】
また、本実施形態においては、玉型からコバ位置までの距離Jを測定するものとしたが、これに限らない。レンズLEのコバをセンサで検知し、チャック中心軸L3からコバまでの距離(W1F,W1R)を求めてもよい。
【0105】
また、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって距離Jを測定し、その測定結果とレンズLEの光学中心と玉型の幾何学中心との偏位情報に基づいて、眼鏡レンズLEの外径を測定するようにしてもよい。この場合、眼鏡レンズLEは外周の任意の位置から加工を行っても眼鏡レンズLEと加工具60aが接触する直前の位置まで第1の相対速度で両者を移動させることができる。
【0106】
また、外部通信によってレンズ径を受信し、そのデータに基づいて眼鏡レンズLEと加工具60aの相対速度を制御してもよい。
【0107】
なお、チャック中心Oと加工具60aとの距離が距離W1F(又は距離W1R)に達するより前に第2の相対速度に切り換えるようにしてもよい。例えば、チャック中心軸L3と加工具60aとの距離が距離W1F(又は距離W1R)より1mm手前まで達したところで、第1の相対速度から第2の相対速度に切り換えるようにしてもよい。
【0108】
つまり、加工距離に到達するとは、中心軸L3と加工具60aとの距離が、距離W1Fに厳密に一致することを意味するものではなく、レンズLEと加工具60aが接触しない程度に近接することも含む。
【0109】
このように、距離W1F(又は距離W1R)から余裕を持たせて相対速度を切り換えてもよい。これにより、装置の制動性能によって加工具60aが眼鏡レンズLEに第1の相対速度で接触してしまい、眼鏡レンズLEや加工具60aが破損してしまう可能性を低下させることができる。
【0110】
また、上記のように、加工具60aを用いた切削加工に限らず、他の加工具であっても、本実施形態の適用は可能である。例えば、砥石による研削加工の場合にも、同様にして第1の相対速度と第2の相対速度とを切り換えることができる。この場合も、本実施形態と同様に加工全体に掛かる時間を短縮することできる。
【0111】
なお、粗加工時において、加工具60aの回転数を50000rpm(rotation per minute)以上として加工を行うと、切削力が向上し、加工時間が短縮されるため、より好ましい。
【0112】
<粗加工後のレンズ形状測定>
粗加工が終了すると、制御部70は再度レンズ形状の測定を行う。粗加工によってレンズLEが変形する可能性があるため、仕上げ加工を行うには加工前のレンズ形状データを用いるより、加工後に測定したレンズ形状データを用いる方が好ましい。
【0113】
制御部70は、粗加工が終了したときの位置から、レンズ形状を測定するための位置まで、眼鏡レンズLEをレンズ形状検知ユニット300F,300Rに対して相対的に移動させる。このとき、眼鏡レンズLEはレンズ形状検知ユニット300F,300Rに対して第1の相対速度で移動されることが好ましい。これにより加工に掛かる全体の時間が短くなる。
【0114】
図12は、加工された眼鏡レンズLEを示す概略図である。
図12(a)は挟持された眼鏡レンズLEを側面方向から見た図であり、
図12(b)は眼鏡レンズLEを前面から見た図である。制御部70は、眼鏡レンズLEをレンズ形状を測定するための位置に配置する。すると、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは測定子306F,306Rを眼鏡レンズLEの玉型L1に対応したそれぞれ位置P5F,P5Rに所定の力で押し当てる。本実施例において、位置P5F,P5Rは位置P3F,P3Rの動径上にはない。位置P3F,P3Rから加工方向MAとは反対方向にずれた動径と玉型が交差する位置である。位置P5F,P5Rについての詳細は後述する。
【0115】
制御部70は測定子306F,306Rが玉型L1を辿るようにスピンドル保持ユニット30をY軸方向に移動し、レンズLEをMA方向に360°回転させる。測定子306F,306Rは位置P5F,P5Rから玉型を辿り、レンズLEが360°回転した時点で再び位置P5F,P5Rに戻る。モータ316F,316Rに取り付けられたエンコーダ313F,313Rは、玉型L1に対応したレンズLEのレンズチャック軸22F,22R方向(Z軸方向)の位置を測定する。
<未加工部分の検出>
玉型L1に対応したレンズ位置の測定が終了すると、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは続けて位置P5F,P5Rから眼鏡レンズLEの未加工部分の検出を開始する。未加工部分とは、眼鏡レンズLEの加工後に加工されずに残った部分ことである。
【0116】
本実施形態の制御部70は、未加工部分の検出のため、測定子306F,306RがレンズLEの位置P5F,P5Rにそれぞれ押し付けられた状態で、スピンドル保持ユニット30をY軸方向の上方に移動する。レンズLEと測定子306F,306Rとの接触点は、玉型の半径方向に移動する。エンコーダ313F,313Rは、このときもレンズ位置を測定し続ける。本実施形態において、制御部70はレンズLEの未加工部分の検出として、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって玉型上の位置(P5F,P5R)からレンズLEのコバまでの距離W2R,W2Fを玉型の半径方向に測定する。
【0117】
眼鏡レンズが加工条件に基づいて正常に加工された場合、測定子306F,306Rが粗加工後のレンズLEの前面にある端部(コバ)の位置P6F、後面の端部(コバ)の位置P6Rまで移動される。位置P6F,P6Rは粗加工軌跡L2上の位置である。測定子306F,306Rが位置P6F,P6Rに移動され、眼鏡レンズLEと接触している状態から外れると、エンコーダ313F,313Rが検出するレンズ位置情報が急激に変化する。このときのY軸方向の移動距離をエンコーダ93(
図5参照)から得ることにより、位置P5Fからコバ(位置P6F)までの玉型の半径方向の距離W2F、位置点P5Rからコバ(位置P6R)までの玉型の半径方向の距離W2Rを検出することができる。
【0118】
エンコーダ313F,313Rが検出するレンズ位置情報が急激に変化すると、制御部70はスピンドル保持ユニット30のY軸方向への移動を停止し、距離W2F,W2Rの測定を終了する。
【0119】
なお、距離W2F,W2Rは必ず両方を測定しなくともよく、少なくとも一方を測定するだけでもよい。
【0120】
このようにして、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは眼鏡レンズが適正に加工されたか否かを検査するための検査ユニットとして眼鏡レンズを検査する。
【0121】
<加工具の不具合検出>
制御部70は、距離W2F,W2Rの測定結果によって加工具60aの不具合を判定する。不具合としては、加工具60aの折れ、破損、欠損、変形、位置ずれ等が挙げられる。ただし、加工具の不具合はこれに限定されず、種々の原因によって加工が正常に行われない状態を示す。制御部70は、検査ユニット(例えば、レンズ形状検知ユニット300F,300R)の測定結果に基づいて、加工具に不具合があるか否か判定する判定手段として機能する。
図13は粗加工の途中で加工具60aが折れ、加工が正常に行われなかったときの眼鏡レンズLEの前面の様子を示している。なお、眼鏡レンズLEの前面について説明するが、後面についても同様の説明ができるため、説明を省略する。第2切削部分DBを加工する経路M4の点Qで加工具60aが折れたとすると、粗加工が終了した時点で、眼鏡レンズLEに第2切削部分DBが切除されず、残ったままになる。この場合、位置P5Fで上記の距離測定を行うと、レンズ形状検知ユニット300Fは第2切削部分のコバの位置P7Fまでの距離W2F´を測定することになる。従って、正常に加工が行われた場合の距離W2Fを距離W2Tとすると、距離W2F´は距離W2Tと異なる。
【0122】
加工具に不具合がなく、眼鏡レンズLEが正常に加工された場合の距離W2Tは、玉型データと設定された粗加工軌跡L2から算出することができる。制御部70は、玉型データと設定された粗加工軌跡L2から算出された距離W2Tと、測定で得られた実際の距離W2F(またはW2F´)が異なっていた場合、加工具60aまたは加工ユニット40に不具合があったと判定する。また、このとき制御部70は加工具60aまたは加工ユニット40に不具合があることを報知手段によって操作者に報知する。例えば、加工具60aに不具合があることをディスプレイ5に表示することで操作者に報知してもよい。また、図示無き光源を点灯させ操作者に報知してもよい。
【0123】
玉型上の位置からレンズLEのコバまでの距離W2Fの測定を開始する測定開始位置P5Fについて説明する。距離W2Fの測定は、粗加工の少なくとも後半で加工具60aが通過する位置P5Fで測定を行うことが好ましい。例えば、加工の際、加工具60aが位置P3Fを通過し、MA方向に加工し第1切削部分DA(
図11参照)を切削するとする。その後、第2切削部分DBを加工する途中の位置Qで加工具60aが折れたとする。粗加工が終了し、まず、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって粗加工後の玉型に対応したレンズ位置を測定する。続けて距離W2Fの測定行うが、測定位置をどこにするかによって検出結果が異なる。
【0124】
例えば、経路M2を通過する加工具60aによって加工された部分の測定をする。例えば、玉型に対応する位置P8Fからコバまでの玉型の半径方向の距離W3Fを測定するとする。この場合、第1切削部分DAは切除されているため、測定した距離W3Fと玉型データと設定された粗加工軌跡L2から算出された距離W3Tとが一致する。したがって、制御部70は経路M4で加工具が折れ、第2切削部分DBが加工されずに残っていることを検知できないまま、仕上げ加工の工程に進んでしまう。この場合、次のレンズLEを粗加工したときに、加工具60aの不具合を検出することになる。
【0125】
従って、玉型からコバまでの距離(距離W2F)の測定を開始する位置P5Fは、加工完了直前に加工具60aによって加工される部分を測定できる位置が好ましい。例えば、
図11を参照して、加工具60aが加工開始位置P1Fから位置P3Fまで移動されたとする。この状態で切削されずに残る部分であって、位置P3Fから加工具の進行方向MAと反対方向MBに少しずれた位置を測定するとよい。
【0126】
こうすることで、加工具60aが眼鏡レンズLEの加工を始め、眼鏡レンズLEがほぼ一周して加工が完了する直前までに加工具60aに不具合が生じたことを検出することができる。したがって、できるだけ加工工程の終盤で加工される位置で玉型からコバまでの距離(距離W2F)を測定することが好ましい。
【0127】
また、距離W2F,W2Rの測定開始位置P5F,P5Rは、例えば、加工具60aの径と、加工径Rnとから演算されてもよい。
図14は距離W2F,W2Rの測定開始位置の演算方法を説明するための図である。例えば、位置P3Fに加工具60aが接しているとする。このとき、加工具60aの断面形状の中心Oaから加工具の半径rの2倍(直径2r)だけMB方向にずれた位置を測定する。直径2rだけずれる方向を加工径Rnと垂直方向であるとすると、動径角θnは以下の式で表すことができる。
【0129】
上記の演算によって求めた動径角θnによって、玉型上の測定開始位置P5F,P5Rを定めることができる。このように、玉型からコバまでの距離W2F,W2Rの測定開始位置P5F,P5Rを演算によって求めることにより、玉型の大きさや加工具60aの径が変化しても、好ましい位置で距離W2F,W2Rの測定を開始することができる。
【0130】
なお、上記の演算に限らず、距離W2F,W2Rの測定位置は加工径Rnと加工具60aの径(半径r,直径2r等)を用いて様々に演算することができる。例えば、動径角θnを下記の数式で演算することもできる。
【0132】
また、余剰距離(例えば5mm)をαとおくと、動径角θnは下記の数式で表すことができる。
【0134】
なお、上記の説明において、粗加工後のレンズ形状測定が終了すると、続けて測定終了位置(測定開始位置)から距離W2R,W2Fの測定を行うものとしたが、これに限らない。レンズ形状測定とは別に測定を行ってもよく、レンズ形状測定の前に測定を行ってもよい。また、測定終了位置(測定開始位置)ではなく、玉型に対応する別の位置から距離W2F,W2Rの測定を行ってもよい。
【0135】
なお、距離W2F(又はW2R)が予め設定された仕上げ代Laより小さい場合も、制御部70は、加工具または加工ユニットに不具合があると判定してもよい。
【0136】
なお、距離W2F,W2Rは厳密に測定する必要はなく、測定開始位置は玉型に対応する位置でなくともよい。加工具60aに不具合があるか否かを判定するためには粗加工軌跡L2の外側に未加工部分があるか否か検出できればよい。本実施形態のように、玉型に対応する測定位置P5F,P5Rから測定を開始し、エンコーダ316F,316Rに検出される位置情報が急激に変化するまで測定を行わなくてもよい。
【0137】
本実施形態において、眼鏡レンズLEの未加工部分の検出を行うために、玉型からコバまでの距離W2F,W2Rを検出するものとしたが、これに限らない。例えば、玉型に対応するレンズ位置の測定が終了すると、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは粗加工軌跡L2の少し内側から、粗加工軌跡L2の少し(加工具60aの半径rほど)外側までのレンズ形状を検出すればよい。また、例えば、レンズ形状検知ユニット300F,300Rは粗加工軌跡L2よりも、レンズチャックユニットのチャック軸22から離れた領域(例えば、粗加工軌跡L2より1mm程度外側)を測定し、未加工部分があるか否か検出するようにしてもよい。
【0138】
このように、加工軌跡の外側に未加工部分があるか否かを検出する方法であれば、仕上げ代Laを残す粗加工だけでなく、仕上げ代Laを残さないその他の加工方法においても加工具又は加工ユニットの不具合を検出することができる。
【0139】
なお、本実施形態において、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって玉型上の位置P5F,P5RからレンズLEのコバまでの距離W2R,W2Fを玉型の半径方向に測定するとしたが、これに限らない。例えば、玉型からコバまでの最短距離を測定してもよい。この場合、測定子306F,306RをレンズLEに対して玉型の法線方向に移動させる。
【0140】
また、本実施形態において、未加工部分の検出は、粗加工が完了してから測定するもとしたが、これに限らない。例えば、第1切削部分DAの加工が終了し、第2切削部分DBの加工を行っている途中で、第1切削部分DAを加工した位置において未加工部分の検出を行ってもよい。
【0141】
なお、粗加工後のレンズ形状を測定する測定位置P5F,P5Rは玉型上でなくてもよい。玉型からコバに向かう方向に多少ずれた位置を測定するようにしてもよい。
【0142】
なお、玉型からコバまでの距離W2F,W2Rは複数個所で測定してもよい。複数個所で測定することによって、誤判定が少なくなる。
【0143】
また、玉型からコバまでの距離W2F,W2Rの測定を行い、距離W2F(又はW2R)が玉型データと設定された粗加工軌跡L2から算出された距離W2Tより大きく検出された場合、どこまで粗加工が行われているか検出することができる。例えば、レンズ形状検知ユニット300F,300Rによって、直径2rの加工具60aが通過する経路を加工方向と反対方向(MB方向)に辿って検出する。つまり、経路M4と経路M2をMB方向に検出する。
【0144】
MB方向に経路M4と経路M2を辿って検査すれば、加工具60aが折れる前に加工された部分で測定子306F,306Rが眼鏡レンズLEから外れ、加工具60aが折れる前に加工されていた部分でエンコーダ306F,306Rが検出する位置情報が急激に変化する。回転角をエンコーダ79によって検出することによって、加工具60aが折れる前に加工していた位置Q(
図13参照)が検出される。
【0145】
これにより、加工具60aを交換して再度粗加工を開始するとき、眼鏡レンズLEを加工具60aに対して第1の相対速度で位置Qまで移動させることができる。
【0146】
また、制御部70は、図示無き動径長取得手段によって加工後の眼鏡レンズLEの動径長を取得し、その取得結果と粗加工軌跡L2から求まる動径長と比較することによって、加工具又は加工具ユニットに不具合が生じているか否かを判定してもよい。動径長取得手段とは、例えば、眼鏡レンズLEのコバにセンサを当て、レンズの外周に沿って360°センサを移動させることによって、レンズの径を取得する。
【0147】
なお、本実施形態においては、眼鏡レンズLEの未加工部分を検出することによって、加工具および加工ユニットの不具合があること、または不具合がないこと検出するものとしたが、これに限らない。
【0148】
例えば、眼鏡レンズの加工部分(または加工領域)の検出を行い、その検出結果から加工具および加工ユニットの不具合の有無を判定してもよい。加工部分とは、眼鏡レンズLEの加工によって切除(切削または研削)された部分のことである。
【0149】
この場合、例えば、図示無き重量計によって、切除されて落ちた眼鏡レンズLEの重量を計る。玉型データと設定された加工軌跡と眼鏡レンズの素材などから加工部分の重量を算出し、重量計によって測られた加工部分の重量と算出結果が異なるとき、加工具の不具合によって眼鏡レンズLEの加工が正常に行われていないと判定するようにしてもよい。
【0150】
また、例えば、図示無きセンサによって加工領域にある眼鏡レンズLEを検出し、何も検出されなかったときに、加工具に不具合がないと判定してもよい。
【0151】
<仕上げ加工>
仕上げ代測定が終了すると、制御部70は、仕上げ加工を行う。制御部70は、モータ81を駆動させ、レンズチャックユニット20をX軸方向に後退させる。制御部70は、上記記載と同様にして、YZ軸方向の位置調整及びレンズチャック軸22の軸角度を調整し、仕上げ加工を行うための加工具65bの位置に眼鏡レンズLEが来るようにする(
図9(c)参照)。
【0152】
制御部70は、加工具65bの円錐の加工面に対して、レンズチャック軸22を平行にする。又は、制御部70は、レンズコバをテーパ(先細り形状)に持たせる場合には、そのテーパ角度に応じて、円錐の加工面に対して角度傾斜するように、レンズチャック軸22を傾斜させる。そして、仕上げ加工を行う。
【0153】
例えば、ヤゲン仕上げ加工では、制御部70は、ヤゲン軌跡(レンズのコバ厚に基づき、所定の演算により求められる)に基づいて、粗加工後のレンズコバの所定位置が加工具65bのヤゲン溝に位置するように、Y軸方向及びZ軸方向の駆動を制御する。また、制御部70は、所定角度傾斜又は眼鏡レンズLE前面カーブに垂直な角度となるように、A軸を回転中心として、レンズチャック軸22の軸角度を変更させ、レンズチャック軸22の軸角度の回転駆動を制御する。
【0154】
また、平仕上げ加工では、制御部70は、粗加工後のレンズコバが加工具の平仕上げ加工面に位置するように、玉型に基づいてY軸方向及びZ軸方向の駆動を制御する。また、制御部70は、円錐の平加工面に対して所定角度傾斜又は眼鏡レンズLE前面カーブに垂直な角度となるように、A軸を回転中心として、レンズチャック軸22の軸角度を変更させ、レンズチャック軸22の軸角度の回転駆動を制御する。
【0155】
制御部70は、加工具65bの位置に眼鏡レンズLEが位置されると、図示無き駆動源を駆動させ、スピンドル45bを回転駆動させ、その同軸に各加工具を回転させる。そして、制御部70は、玉型に基づいてY軸方向、Z軸方向、レンズチャック軸22の軸角度の駆動を制御し、仕上げ加工を行う。
【0156】
なお、本実施例においては、加工具65bを面取り用の加工具として兼用する。この場合、平仕上げ加工面が、面取り加工面として兼用される。制御部70は、面取りの角度に基づいてレンズチャック軸22の傾斜角度を制御する。すなわち、制御部70は、面取り軌跡(レンズの前面(前面コバ)位置、後面(後面コバ)位置に基づき、所定の演算により求められる)に基づいてY軸方向及びZ軸方向の制御を行うことによって、面取り加工を行う。この場合、制御部70は、レンズチャック軸22の軸角度をa方向又はb方向に180°回転させ、加工具65bにて加工を行う眼鏡レンズの前面と後面との切り換えを行う。以上のように、レンズチャック軸22の軸角度を変更することによって、1つの加工具にて、眼鏡レンズの前面と後面の面取り加工を行うことができる。
【0157】
<鏡面加工>
鏡面加工が設定されている場合、制御部70は、鏡面加工を行う。制御部70は、モータ81を駆動させ、レンズチャックユニット20をX軸方向に後退させる。制御部70は、上記粗加工及び仕上げ加工時と同様にして、YZ軸方向の位置調整及びレンズチャック軸22の軸角度を調整し、鏡面加工を行うための加工具65aの位置に眼鏡レンズLEが来るようにする。
【0158】
鏡面加工は、上記記載の通常の仕上げ加工と同様な制御にて行われる。制御部70は、加工具65bの位置に眼鏡レンズLEが位置されると、図示無き駆動源を駆動させ、スピンドル45bを回転駆動させ、その同軸に各加工具を回転させる。そして、制御部70は、玉型に基づいてY軸方向、Z軸方向、レンズチャック軸22の軸角度の駆動を制御し、鏡面加工を行う。なお、鏡面加工時には、水が使用される。
【0159】
<その他の加工>
なお、その他の加工においても、上記記載と同様にして、各加工具の位置に眼鏡レンズLEが来るように、YZ軸方向の位置調整及びレンズチャック軸22の軸角度を調整する。
【0160】
例えば、溝堀り加工において、制御部70は、加工具60bを用いて、平仕上げ加工後、溝掘り軌跡(レンズのコバ厚に基づき、所定の演算により求められる)に基づいてY軸方向及びZ軸方向の駆動を制御し、加工を行う。
【0161】
例えば、穴加工において、制御部70は、レンズ前面を加工具60cの先端方向に向ける。制御部70は、入力された穴位置データと、穴位置でのレンズ前面形状(レンズ形状測定により得られる)に基づき、穴位置での法線方向に穴加工具の軸が向くように、レンズチャック軸を傾斜させ、Y軸方向及びZ軸方向の駆動を制御し、加工を行う。
【0162】
例えば、ステップ加工において、制御部70は、加工具65cの傾斜に基づき、レンズチャック軸22を傾斜させる。そして、制御部70は、ヤゲン軌跡、入力されたステップ加工軌跡(L字上の角部の位置の軌跡)に基づき、Y軸方向及びZ軸方向の駆動を制御し、加工を行う。
【0163】
なお、眼鏡レンズLEを測定または加工する場合、例えば、眼鏡レンズLEを加工具60aに対して相対的に移動させてもよいし、加工具60aを眼鏡レンズLEに対して相対的に移動させてもよい。本実施形態の加工装置は、加工データに基づいて、眼鏡レンズと各加工具との相対距離を調整する構成を備えればよい。
【0164】
また、本実施形態では、玉型に対応するレンズ位置の測定するとき、眼鏡レンズを360°回転させるものとしたが、これに限らない。一回転以上レンズLEを回転させ、複数回レンズ形状を測定するようにしてもよい。この場合、眼鏡レンズLE上の異なる位置を測定するようにしてもよい。
【0165】
なお、本実施形態において、制御部70は種々の演算を行う演算手段として機能する。また、制御部70は、加工具に対する眼鏡レンズLEの相対速度を、第1の相対速度と第2の相対速度とを切り換える速度切換手段としても機能する。