(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187768
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】希土類元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20170821BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20170821BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20170821BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20170821BHJP
C22B 3/00 20060101ALI20170821BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
C22B59/00ZAB
C22B1/00 601
C22B7/00 G
C22B1/02
C22B3/00
B09B3/00 Z
B09B3/00 303Z
B09B3/00 304Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-64792(P2014-64792)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-187291(P2015-187291A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】ウィラセラニー チョンプーヌット
(72)【発明者】
【氏名】石渡 正治
(72)【発明者】
【氏名】西村 建二
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−167345(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/098381(WO,A1)
【文献】
特開2007−231379(JP,A)
【文献】
特開平09−157769(JP,A)
【文献】
米国特許第05728355(US,A)
【文献】
特開平03−207825(JP,A)
【文献】
特開昭62−083433(JP,A)
【文献】
特開2004−091811(JP,A)
【文献】
特開2007−056364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
B09B 3/00
C22B 1/00− 1/02
C22B 3/00
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素と鉄を含む原料を粉砕し、硫酸を加えてスラリーにして希土類元素と鉄を硫酸塩にし、次いで該スラリーを乾燥した後に、希土類元素の硫酸塩を残して鉄の硫酸塩が分解し酸化鉄になる温度に加熱し、さらに該焙焼物を水に混合して希土類元素を浸出させる一方、固形分の酸化鉄を残渣として分離して希土類元素の浸出液を回収することを特徴とする希土類元素の回収方法。
【請求項2】
希土類元素と鉄を含む原料としてネオジム磁石屑を用い、該ネオジム磁石屑を1.5mm以下に粉砕し、この粉砕物に、希土類元素および鉄分に対して0.85〜1.3当量の硫酸を加えてスラリーにし、希土類元素と鉄の硫酸塩を生成させる請求項1に記載する希土類元素の回収方法。
【請求項3】
原料の粉砕物に硫酸と共に水を加えて希土類元素および鉄の硫酸塩を生成させる請求項1または請求項2に記載する希土類元素の回収方法。
【請求項4】
上記スラリーを乾燥した後に、空気下で650℃〜750℃の温度に加熱し、この焙焼によって、希土類元素の硫酸塩を残し、硫酸鉄を分解して酸化鉄にする請求項1〜請求項3の何れかに記載する希土類元素の回収方法。
【請求項5】
上記焙焼物を水に混合し、室温で撹拌溶解した後、固液分離して希土類元素含有の硫酸溶液を回収する請求項1〜請求項4何れかに記載する希土類元素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石のように希土類元素と鉄を含む原料から鉄を効率よく分離して希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石は希土類元素を多く含むので、その廃棄物から希土類元素が回収されている。希土類磁石のうち、ネオジム磁石はNd
2Fe
14Bを主成分としており、ネオジムと共に鉄を含んでいる。また、サマリウム鉄窒素磁石にも鉄が含まれている。このような希土類元素と鉄の合金から希土類元素を選択的に回収するには、共存する鉄を効率よく分離する必要がある。
【0003】
例えば、ネオジム鉄ホウ素合金(ネオジム磁石)から鉄を分離して希土類元素のネオジムを選択的に回収する方法として酸化ホウ素を用いる処理方法が知られている(特許文献1)。この方法は、希土類合金を酸化ホウ素と混合して溶融すると、溶融した希土類元素が酸化ホウ素と反応して希土類元素だけが酸化物になってガラススラグに移動し、鉄およびホウ素は合金中に残るので、希土類元素をガラススラグと共に回収する方法である。しかし、この方法は、ガラススラグを回収した後に該ガラススラグから希土類元素を取り出す手間がかかる。
【0004】
また、希土類元素を含む原料を酸化焙焼する処理方法が知られている(特許文献2)。この方法は、希土類磁石合金を含む原料を空気中で焙焼して合金成分を酸化物にし、これに水を加えてスラリーにし、塩酸を加えて希土類元素を選択的に溶解し、多くの酸化鉄を未溶解のまま残して希土類元素の浸出液を回収し、この溶液にアルカリを加えて溶解した鉄を水酸化物にして沈殿させて分離する方法である。
しかし、この方法は焙焼温度を800℃程度にする必要があり、さらに、水酸化鉄を生成させるためアルカリの添加が必要であり、処理コストがかかる。
【0005】
この他に、希土類磁石屑を硫酸浸出する処理方法が知られている(特許文献3,4,5、6)。特許文献3の方法は、希土類磁石屑を硫酸に溶解し、不溶分を除去した溶解液にアンモニア水を加えて希土類硫酸アンモニウム塩を析出させ、これを1380℃以上で焼成して希土類元素酸化物にして回収する方法である。
特許文献4、6の方法は、希土類磁石屑を硫酸に溶解した液に還元剤を加えpH5以下にして鉄の析出を抑制しつつ希土類元素硫酸塩を析出させ、固液分離して液分に含まれる鉄を分離し、希土類元素硫酸塩を回収する方法である。
特許文献5の方法は、希土類磁石屑を硫酸に溶解し、液に酸化物を加えて酸化還元電位を調整して希土類元素沈殿を形成し、これを回収して再溶解した液にシュウ酸を加えて希土類元素シュウ酸塩を回収する方法である。
これらの方法は何れも、希土類磁石屑の硫酸溶解液から希土類元素を固形分にして鉄を含む液分を分離する方法であり、液分に含まれる鉄を廃棄するため固形分にする手間がかかる。また希土類を含有する固形分から希土類を取り出す手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−68082号公報
【特許文献2】特開2009−249674号公報
【特許文献3】特開2006−63370号公報
【特許文献4】特開2006−63413号公報
【特許文献5】特開2007−231378号公報
【特許文献6】特開2007−231379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の上記問題を解決した処理方法であり、希土類元素と鉄を含む原料から鉄を固形分として分離し、希土類元素を含む浸出液を回収する処理方法を提供する。本発明によれば鉄の分離と後処理が容易であり、希土類元素を効率よく回収することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕希土類元素と鉄を含む原料を粉砕し、硫酸を加えてスラリーにして希土類元素と鉄を硫酸塩にし、次いで該スラリーを乾燥した後に、希土類元素の硫酸塩を残して鉄の硫酸塩が分解し酸化鉄になる温度に加熱し、さらに該焙焼物を水に混合して希土類元素を浸出させる一方、固形分の酸化鉄を残渣として分離して希土類元素の浸出液を回収することを特徴とする希土類元素の回収方法。
〔2〕希土類元素と鉄を含む原料としてネオジム磁石屑を用い、該ネオジム磁石屑を1.5mm以下に粉砕し、この粉砕物に、希土類元素および鉄分に対して0.85〜1.3当量の硫酸を加えてスラリーにし、希土類元素と鉄の硫酸塩を生成させる上記[1]に記載する希土類元素の回収方法。
〔3〕原料の粉砕物に硫酸と共に水を加えて希土類元素および鉄の硫酸塩を生成させる上記[1]または上記[2]に記載する希土類元素の回収方法。
〔4〕上記スラリーを乾燥した後に、空気下で650℃〜750℃の温度に加熱し、希土類元素の硫酸塩を残し、硫酸鉄を分解して酸化鉄にする上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する希土類元素の回収方法。
〔5〕上記焙焼物を水に混合し、室温で撹拌溶解した後、固液分離して希土類元素含有の硫酸溶液を回収する上記[1]〜上記[4]何れかに記載する希土類元素の回収方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の希土類元素回収方法は、希土類元素と鉄を含む原料を粉砕し、硫酸を加えてスラリーにして希土類元素と鉄を硫酸塩にし、次いで該スラリーを乾燥した後に、希土類元素の硫酸塩を残して鉄の硫酸塩が分解し酸化鉄になる温度に加熱し、さらに該焙焼物を水に混合して希土類元素を浸出させる一方、不溶性の酸化鉄を残渣として分離して希土類元素の浸出液を回収することを特徴とする希土類元素の回収方法である。
本発明の希土類元素回収方法の処理工程を
図1に示す。
【0010】
本発明の回収方法において、希土類元素と鉄を含む原料として、例えば、ネオジム磁石屑(Nd
2Fe
14B)などを用いることができる。該原料を粗粉砕してスクリーンに通し、磁石表面のニッケル箔などを除去する。原料を粗粉砕した後にさらに0.5mm以下に粉砕して硫酸との反応性を高めると良い。
【0011】
〔硫酸塩工程〕
粉砕した原料を硫酸に加え混錬してスラリーにする。この硫酸スラリーにおいて、原料中の鉄分および希土類元素は硫酸と反応して硫酸塩〔FeSO
4,Fe
2(SO
4)
3、Nd
2(SO
4)
3等〕になる。
【0012】
硫酸の添加量は原料中の希土類元素および鉄分に対して0.85〜1.3当量が好ましい。硫酸の添加量が0.85当量より少ないと鉄および希土類元素の硫酸塩の生成が不十分になる。一方、硫酸の添加量が1.3当量を超えても希土類元素の浸出率は増加しない。
【0013】
原料の粉砕物に硫酸と共に水を加えると硫酸塩の生成反応が激しく進行し、短時間で硫酸塩が生成する。水の添加量は原料の2倍程度の重量が好ましい。
【0014】
〔酸化焙焼工程〕
原料と硫酸の混合スラリーを乾燥して水分と硫酸を揮発させ、この乾燥物を空気下で加熱して酸化焙焼する。焙焼温度は希土類元素の硫酸塩が残り、鉄の硫酸塩が分解して酸化鉄になる温度である。具体的には、空気下で650℃〜750℃の温度で1〜2時間加熱すると良い。
【0015】
上記温度下の焙焼において、希土類元素の硫酸塩の大部分は分解せずに残り、硫酸鉄は分解して酸化鉄になる。発生したSO
3ガスは系外に導かれる。
【0016】
このように、原料に含まれる鉄分を硫酸塩にしてから650℃〜750℃の加熱温度で焙焼することによって、希土類元素の硫酸塩を残し、鉄分を十分に酸化することができる。最初から原料を酸化焙焼する従来の処理方法(特許文献2)では、金属鉄が残留しないように800℃以上の高温に加熱しているが、本発明の回収方法では従来の加熱温度よりも大幅に低い温度で焙焼することによって鉄分を全て酸化鉄にすることができる。
【0017】
〔水浸出工程〕
上記焙焼物を水に混合してスラリーする。焙焼物に含まれる希土類元素の硫酸塩は水溶性であるので室温で、使用した原料の2倍量の水に溶解する。一方、酸化鉄は不溶性であるので固形分として残る。このスラリーを固液分離して希土類元素浸出液を回収し、酸化鉄を残渣として除去する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の回収方法は、原料に含まれる希土類元素と鉄分を硫酸塩にした後に酸化焙焼するので、従来の処理方法よりも格段に低い温度で鉄分を酸化鉄に分解することができる。
本発明の回収方法では原料に含まれる鉄分を固形分(酸化鉄)にして分離することができるので、鉄分の後処理が容易であり、また、希土類元素は浸出液として回収することができるので、希土類金属の回収工程が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を以下に示す。液中の希土類元素と鉄の濃度はICPによって測定した。硫酸の当量はNd
2(SO
4)
3,Dy
2(SO
4)
3,Fe
2(SO
4)
3に基づいて算出した。
【0021】
〔実施例1〕
希土類磁石屑4g(Nd:20wt%、Dy:10wt%、Fe:68wt%)を粗粉砕して磁石表面のニッケル箔を除去した後に1.5mm以下に粉砕し、この粉砕物に、0.20〜1.28当量の硫酸(硫酸濃度98wt%)を加え、一部の試料には硫酸と共に水を加えて撹拌し、硫酸スラリーにした。この硫酸スラリーを150℃に加熱して乾燥し、水分を除去した後に、空気下で680℃に1.5時間加熱して焙焼した。この焙焼物を50gの水に混合し撹拌して水スラリーにした。この水スラリーを10分後に固液分離して浸出液を回収した。浸出液に含まれる希土類元素と鉄の浸出率を表1に示す。浸出率は原料中の含有量に対する浸出液中の含有量より求めた。
【0022】
表1に示すように、原料の希土類磁石屑に含まれる希土類元素の殆どが水に浸出される。一方、浸出液の鉄濃度は極めて低く、鉄分は残渣に分離されている。また、硫酸の添加量の増加とともに浸出率も増加しており、硫酸の添加量は1.3当量程度が好ましい。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1の試料No.3と同様の硫酸スラリーについて、乾燥後、空気下で600℃、650℃、750℃に1.5時間加熱した。この焙焼物を50gの水に混合し撹拌して水スラリーにした。この水スラリーを10分後に固液分離して浸出液を回収した。浸出液に含まれる希土類元素と鉄の浸出率を表2に示す。
【0025】
表2に示すように、650℃〜750℃に加熱することによって硫酸鉄の殆どが酸化鉄になるため浸出し難く、浸出液の鉄濃度が低いことが確認された。一方、焙焼温度が600℃では硫酸鉄の分解が不十分になり、浸出液の鉄濃度が高くなる。
【0027】
〔比較例1〕
実施例1と同様の希土類磁石屑4gを粉砕した後に、空気下で650℃に1.5時間加熱して酸化焙焼した。この焙焼物に硫酸1L/kg(0.85当量)と水50mlを加えてスラリーにし、室温で撹拌した。3時間経過後に固液分離して浸出液を回収した。浸出液の希土類元素、鉄の浸出率を測定したところ、Nd:58wt%、Dy:55wt%、Fe:66wt%であった。