特許第6187800号(P6187800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187800
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】磁性シート
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20170821BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20170821BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F1/153 108
   H01F41/02 D
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-284444(P2012-284444)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-127624(P2014-127624A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104813
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 信也
(72)【発明者】
【氏名】古吉 健太
(72)【発明者】
【氏名】小谷 典久
(72)【発明者】
【氏名】西山 玲児
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−032929(JP,A)
【文献】 特開2005−045193(JP,A)
【文献】 特開平10−097913(JP,A)
【文献】 特開2008−218724(JP,A)
【文献】 特開2009−021549(JP,A)
【文献】 特開2007−220747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/22
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性フィラーに結着樹脂を含有させてなり、前記磁性フィラーの充填率が少なくとも94重量%である磁性シートであって、前記磁性フィラーは球状金属粒子であり、非晶質金属および絶縁性表面処理した結晶質金属のうちの少なくとも1種の球状金属粒子磁性フィラーを含有し、シート表面抵抗値が、10Ω/□以上である磁性シート。
【請求項2】
磁性フィラーは、平均粒径d50が異なる複数の磁性フィラーを含有する請求項記載の磁性シート。
【請求項3】
磁性フィラーは、平均粒径d50が10〜100μmである第一の磁性フィラーと平均粒径d50が第一の磁性フィラーの1/200〜1/4である第二の磁性フィラーとを含有する請求項記載の磁性シート。
【請求項4】
第二の磁性フィラーの平均粒径d50が0.5〜5μmである請求項記載の磁性シート。
【請求項5】
磁性フィラーは、第三の磁性フィラーをさらに含有し、
第二の磁性フィラーの平均粒径d50<第三の磁性フィラーの平均粒径d50<第一の磁性フィラーの平均粒径d50
の関係を満たすものである請求項3又は4記載の磁性シート。
【請求項6】
複素透磁率が、15(10MHz)以上である請求項1〜のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項7】
結着樹脂は、エポキシ樹脂である請求項1〜のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項8】
磁性フィラーは、絶縁性表面処理したFe、絶縁性表面処理したFe系合金、Fe系アモルファス合金及び絶縁性表面処理したFe系アモルファス合金のうちの少なくとも1種の球状金属粒子磁性フィラーを含有する請求項1〜のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項9】
磁性シート間にコイルを挟持してなる積層体を加熱加圧し、前記シート同士を圧着して前記コイルを封止してなる電子回路用インダクタであって、前記磁性シートは請求項1〜のいずれかに記載の磁性シートを含む電子回路用インダクタ。
【請求項10】
積層体は、2枚の磁性シート間にコイルを挟持してなるものである請求項記載のインダクタ。
【請求項11】
(1)第一の磁性シートの上にコイルを載置し、さらにその上に、第二の磁性シートを載置し、
(2)前記第一の磁性シート、前記第二の磁性シート及びこれらの磁性シートで挟まれた前記コイルを一体に加熱加圧して、前記磁性シート同士を圧着し、前記コイルを封止する、ことを含む電子回路用インダクタの製造方法であって、前記(1)の第一の磁性シート及び第二の磁性シートのうち少なくとも一方が、請求項1〜のいずれかに記載の磁性シートを含む磁性シートである、電子回路用インダクタの製造方法。
【請求項12】
結着樹脂は、エポキシ樹脂であり、工程(2)でエポキシ樹脂を加熱硬化する請求項11記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透磁率かつ高飽和磁束密度を有し、しかも高表面抵抗値を有する、金属粒子磁性フィラーを高い充填率で含有する磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品のうちには、インダクタ、トランス等の磁性体部材を有するものがある。このような電子部品も、電子機器の小型に対応すべく、小型化、低背化が求められている。磁性体部材を有する電子部品の小型化、低背化のために磁性体部材に要請される特性としては、高透磁率、高飽和磁束密度であることが挙げられる。
【0003】
磁性体部材に含有される磁性フィラーとしては、高表面抵抗率を有するフェライトが広く用いられている。例えば、特許文献1には、フェライトドラムコアを有するドラム・スリーブ構成を有する表面実装インダクタが開示されている。しかしながら、フェライトは飽和磁束密度が低い。これに対して、金属フィラーは、高飽和磁束密度であり、小型化、低背化に有利である。しかしながら、金属フィラーは低表面抵抗値であり、渦電流損が、とりわけ高周波領域で大きくなる欠点があるため、電子部品用途には適していないと考えられていた。
【0004】
高透磁率を達成するためには、磁性フィラーの充填率を極めて高くする必要がある。しかしながら、磁性フィラーの充填率を高くすることは必ずしも容易ではなく、例えば、高充填率を目指した磁性シートにおいて、特許文献2では79重量%の充填率を、特許文献3では80重量%の充填率を、それぞれ開示している。また、充填率を高くするだけではシートとして実用的な強度や取扱性が確保しづらくなる。例えば、特許文献4には、磁性フィラーを90重量%含有する磁性体層が開示されているが、支持体上に塗工されたものであり、磁性体層自体がシートとしての機能を発揮するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−141191号公報
【特許文献2】特開2000−311806号公報
【特許文献3】特開平10−106821号公報
【特許文献4】特開平7−212079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、高透磁率かつ高飽和磁束密度を有し、しかも高表面抵抗値を有する、金属粒子磁性フィラーを高い充填率で含有し、磁性体部材を有する電子部品の小型化、低背化のために有利に用いることができる磁性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁性フィラーに結着樹脂を含有させてなり、前記磁性フィラーの充填率が少なくとも90重量%である磁性シートであって、前記磁性フィラーは、非晶質金属及び絶縁性表面処理した結晶質金属のうちの少なくとも1種の金属粒子磁性フィラーを含有し、表面抵抗値が、10Ω/□以上である磁性シートである。
本発明はまた、磁性シート間にコイルを挟持してなる積層体を加熱加圧し、前記シート同士を圧着して前記コイルを封止してなる電子回路用インダクタであって、前記磁性シートは上記の磁性シートを含む電子回路用インダクタである。
本発明はまた、(1)第一の磁性シートの上に、コイルを載置し、さらにその上に、第二の磁性シートを載置し、(2)前記第一の磁性シート、前記第二の磁性シート及びこれらの磁性シートで挟まれた前記コイルを一体に加熱加圧して、前記磁性シート同士を圧着し、前記コイルを封止する、ことを含む電子回路用インダクタの製造方法であって、前記(1)の第一の磁性シート及び第二の磁性シートのうち少なくとも一方が、上記の磁性シートを含む磁性シートである、電子回路用インダクタの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明の磁性シートは、シートとして実用的な強度や取扱性を確保しつつ、磁性フィラーを極めて高い充填率で含有することができる。
(2)本発明の磁性シートは、金属粒子磁性フィラーを高い充填率で含有するので高透磁率かつ高飽和磁束密度を有し、しかも金属粒子磁性フィラーを高い充填率で含有しながら高表面抵抗値を有する。
(3)本発明の磁性シートは、各種用途に使用可能であるが、インダクタ等の電子回路実装用電子部品に好適に使用できる。
(4)本発明のインダクタは、フェライトドラムコアを有する構造の表面実装インダクタに対して、一層の小型化、低背化が可能な新規代替構造を有するインダクタを提供でき、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の携帯電子端末に有利に適用できる。
(5)本発明のインダクタ製造方法は、ドラムコアとスリーブコアとの組み立て工程を不要とするので、工程が簡素であり、しかもインダクタの耐衝撃性が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属粒子磁性フィラーは、非晶質金属及び絶縁性表面処理した結晶質金属のうちの少なくとも1種の金属粒子である。金属粒子磁性フィラーは、一般にフェライトに比べて飽和磁束密度が高いことが知られている。
【0010】
上記結晶質金属としては、例えば、ニッケル系合金、コバルト系合金、鉄アルミニウムケイ素合金、鉄ニッケル合金、鉄コバルト合金、鉄コバルトケイ素合金、鉄ケイ素バナジウム合金、鉄クロムケイ素合金、鉄ケイ素合金等の鉄系合金、カルボニル鉄、電解鉄等の純鉄等を挙げることができる。透磁率、磁束密度等の磁気特性の観点から、鉄系合金、純鉄が好ましい。
【0011】
絶縁性表面処理としては、上記結晶質金属粒子の表面を絶縁性にするための表面処理であり、例えば、燐酸塩処理、金属酸化物、SiO2等の酸化物膜形成、SiN等の窒化物、SiON等の酸化窒化物、無機SOGといった無機物による被膜形成、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、有機SOGといった有機物による被膜形成等の表面処理を挙げることができる。
【0012】
上記非晶質金属としては、例えば、コバルト系アモルファス合金、鉄ケイ素ホウ素クロムアモルファス合金等の鉄系アモルファス合金等を挙げることができる。また非晶質金属に前記絶縁性表面処理を施すことも可能である。
【0013】
磁性フィラーとしては、絶縁性表面処理したFe、絶縁性表面処理したFe系合金、Fe系アモルファス合金及び絶縁性表面処理したFe系アモルファス合金のうちの少なくとも1種の金属粒子磁性フィラーが好ましい。
【0014】
金属粒子の形状としては、球状、角状、柱状、鱗片状等を含み、球状が好ましい。粒径は、もしも測定方法により有意に異なる場合は、平均粒子径d50を用いる。用いる金属粒子は、アスペクト比や粒径において複数種類を組み合わせることができ、例えば、平均粒径d50が異なるもの、の2種類や3種類又はそれ以上の種類の粒子を組み合わせることができる。粒径やアスペクト比の異なる金属粒子を組み合わせて用いることは、充填率を上げる上で有利である。
【0015】
磁性フィラーは、好ましくは、平均粒径d50が異なる複数の磁性フィラーを含有する。また、磁性フィラーは、好ましくは、平均粒径d50が10〜100μmである第一の磁性フィラーと平均粒径d50が第一の磁性フィラーの1/200〜1/4である第二の磁性フィラーとを含有する。好ましくは、上記第二の磁性フィラーの平均粒径d50が0.5〜5μmである。磁性フィラーは、好ましくは、第三の磁性フィラーをさらに含有し、第二の磁性フィラーの平均粒径d50<第三の磁性フィラーの平均粒径d50<第一の磁性フィラーの平均粒径d50の関係を満たすものである。好ましくは、上記第三の磁性フィラーの平均粒径d50が5〜15μmである。
【0016】
本発明を損なわない範囲で、絶縁性表面処理をしていない結晶質金属粒子を併用することも可能である。従って、例えば、小粒径の絶縁性表面処理粒子の入手が困難である場合に、表面抵抗値等の他の特性に与える影響が許容される範囲内で、表面処理をしていない小粒径結晶質金属粒子を併用して充填率を高くすることを目指すことができる。絶縁性表面処理をしていない結晶質金属粒子としては、絶縁性表面処理をしていない上述の金属粒子を挙げることができる。
【0017】
結着樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、合成ゴム(例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン−プロピレン共重合体。)、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロース系樹脂、ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0018】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、イミド系、アミド系樹脂を挙げることができ、これらのうち、エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0019】
上記エポキシ樹脂としては、特に限定されず、常温で固形のものでも液状のものでもよい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールB型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニえルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素化添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンジエン型エポキシ樹脂、ナフタレンエポキシ樹脂、サルファイド変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アミノエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリ(エポキシ化シクロヘキセンオキサイド)等の多官能エポキシ樹脂等が好ましく挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独もしくは2種類以上用いてもよい。
【0020】
熱硬化性樹脂において硬化系を構成するために用いる硬化剤、促進剤等は、当業者に周知であり、本発明でもそれらを用いることができる。
【0021】
例えば、結着樹脂においては、硬化系の構成に必要な硬化剤、硬化促進剤、またその他、一般に、必要により、応力緩和剤、可撓性付与剤、チクソ性付与剤等を用いてもよい。また、高沸点溶剤を使用してもよい。このような溶剤を使用することにより、高い充填率であっても、シートとして実用的な強度や取扱性を確保しやすくなり、また、密着性や流動性が向上する。以下、断らないかぎり、エポキシ樹脂の場合を例としてこれら添加剤を説明するが、他の樹脂の場合もこれらの記載を参照して実施することができる。
【0022】
上記エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、ジシアンジアミド系硬化剤、尿素系硬化剤、有機酸ヒドラジド系硬化剤、ポリアミン塩系硬化剤、アミンアダクト系硬化剤等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記硬化剤の配合量は、硬化剤の種類により異なるが、通常、エポキシ基1当量あたり、硬化剤の官能基当量数が0.5〜1.5当量が好ましく、0.7〜1当量であることがより好ましい。
【0024】
上記エポキシ樹脂硬化促進剤としては、例えば、変性イミダゾール系硬化促進剤、変性脂肪族ポリアミン系促進剤、変性ポリアミン系促進剤等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記硬化促進剤の配合量は、硬化促進剤の種類によって異なるが、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、1〜80重量部が好ましく、1〜30重量部がより好ましい。
【0026】
上記可撓性付与剤としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
【0027】
上記可撓性付与剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、10〜50重量部が好ましく、20〜40重量部がより好ましい。
【0028】
上記高沸点溶剤としては、例えば、沸点140℃以上の溶剤、具体的には、エチレンジグリコールアセテート等を挙げることができる。
【0029】
上記高沸点溶剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
【0030】
磁性フィラーの充填率は、少なくとも90重量%である。充填率がこれより低いと、高い透磁率を確保することが困難である。好ましくは少なくとも92重量%であり、より好ましくは少なくとも94重量%である。上限は、用いる粒子の粒径やアスペクト比によっても異なるが、通常、97重量%である。これより高い充填率では、シートとして実用的な強度や取扱性を確保しづらい。
【0031】
なお、硬化前の磁性シートについて、動的粘弾性測定において、50℃から160℃の温度範囲で、昇温速度10℃/分、せん断速度6.28rad/秒で測定したときの弾性率の最小値が、例えば2×10Pa以下、より好ましくは5×10Pa以下となるようにすると、加熱成形時に高い流動性を確保することができるため好ましい。
【0032】
本発明の磁性シートの表面抵抗値は、10Ω/□以上である。表面抵抗率がこれより小さいと、渦電流損が過大となる。好ましくは、10Ω/□以上である。表面抵抗値は、非晶質金属、絶縁性表面処理した結晶質金属粒子、絶縁性表面処理をしていない結晶質金属粒子の組み合わせにより調節することができる。
【0033】
本発明の磁性シートは、複素透磁率が周波数10MHzにおいて11以上が好ましく、15以上がより好ましく、とくには20以上であることが好ましい。ただし温度により異なる場合は、25℃における値である。
【0034】
本発明の磁性シートの製造方法としては、各成分をニーダー等の混合機で混合してワニスを作製し、ロールコーター等の塗工機で、離型処理されたPETフィルム離型基材上に塗布し、シート化する。シート化に際して、アノン等の希釈溶媒を加えて粘度を5000〜50000mPa・sに調整してもよく、必要に応じて60〜160℃で加熱乾燥してもよい。シート厚みは、例えば、10〜100μm程度とすることができる。またこれらシートを積層し、磁性シートとしての実用的な厚みを確保してもよい。作成されたシートは、シートとして実用的な強度や取扱性を確保することができる。
【0035】
本発明の磁性シートは、従来公知の各種用途に使用可能である。また、磁性体部材を有する実装電子部品に好適に適用することができる。すなわち,例えば、実装インダクタにおいて、巻線コイルを磁性シートで封止することにより、ドラム・スリーブ構成の表面実装インダクタに対して、一層の小型化、低背化が可能な新規代替構造を有するインダクタを提供することができる。このようなインダクタとしては、例えば、磁性シート間にコイルを挟持してなる積層体を加熱加圧し、前記シート同士を圧着して前記コイルを封止してなる電子回路用インダクタであって、前記磁性シートは本発明の磁性シートを含む、電子回路用インダクタを挙げることができる。上記積層体は、複数枚の磁性シート、例えば、第一の磁性シート及び第二の磁性シートの2枚の磁性シート間にコイルを挟持してなるものであってよい。この場合において、エポキシ結着樹脂に高沸点溶剤を添加することにより、コイルの封止性が向上する。第一の磁性シート及び第二の磁性シートは、それぞれ一層のシートで構成されていても良く、二層以上のシートで構成されていても良い。より具体的には、二層を積層した第一の磁性シートと、二層を積層した第二の磁性シート間にコイルを挟持した構成であっても良い。第一の磁性シート及び第二の磁性シートの少なくともいずれか一方は本発明の磁性シートを含むが、例えば、本発明の磁性シートを複数枚積層した構成でも良いし、本発明の磁性シートとそれ以外の磁性シートとを積層した構成でも良い。
【0036】
このようなインダクタの製造方法としては、例えば、(1)第一の磁性シートの上にコイルを載置し、さらにその上に、第二の磁性シートを載置し、(2)前記第一の磁性シート、前記第二の磁性シート及びこれらの磁性シートで挟まれた前記コイルを一体に加熱加圧して、前記磁性シート同士を圧着し、前記コイルを封止する、ことを含む電子回路用インダクタの製造方法であって、前記(1)の第一の磁性シート及び第二の磁性シートのうち少なくとも一方が、本発明の磁性シートを含む磁性シートである、電子回路用インダクタの製造方法を挙げることができる。この場合において、一態様としては、結着樹脂は、エポキシ樹脂であり、工程(2)でエポキシ樹脂を加熱硬化することができる。
【0037】
上記製造方法において、コイルとしては、例えばインダクタに使用される捲線コイルを用いる。磁性シートの厚みとしては、50〜500μm程度が好ましい。加熱加圧は、金型を用いた圧縮成形方法を適用してもよい。上記加熱加圧の条件としては、例えば、60〜140℃、0.5〜2kg/cm等の条件を適用できる。加熱加圧により本発明の磁性シートは、流動性を発揮してコイルを樹脂封止することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の記載は専ら説明のためであって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
以下の実施例、比較例中の略号の意味は以下のとおり。なお、表中の配合量の単位は重量部である。
【0040】
(1)結着樹脂の組成
エポキシ樹脂(RE310S):ビスフェノールA型エポキシ樹脂:日本化薬社製;配合量100重量部
PhOH硬化剤(TD2090):フェノールノボラック樹脂:DIC社製;配合量70重量部
硬化促進剤(2MZ−H):2−メチルイミダゾール:四国化成社製;配合量5重量部
可撓性付与剤(バイロン):ポリエステル樹脂:東洋紡社製;配合量30重量部
チクソ性付与剤(RY200S):微粉シリカ:日本アエロジル社製;配合量2重量部
その他添加剤:
A187:シランカップリング剤(日本ユニカー社製);配合量2重量部
IXE6136:イオンキャッチャー(東亜合成社製);配合量10重量部
【0041】
(2)磁性フィラー
磁性フィラー1:金属粒子磁性フィラー1
磁性フィラー2:金属粒子磁性フィラー3
磁性フィラー3:金属粒子磁性フィラー6
磁性フィラー4:金属粒子磁性フィラー7
磁性フィラー5:金属粒子磁性フィラー1+金属粒子磁性フィラー8(重量比3:1)
磁性フィラー6:金属粒子磁性フィラー1+金属粒子磁性フィラー5+金属粒子磁性フィラー8(重量比1:3:1)
磁性フィラー7:金属粒子磁性フィラー6+金属粒子磁性フィラー7+金属粒子磁性フィラー8(重量比3:1:1)
磁性フィラー8:金属粒子磁性フィラー4
磁性フィラー9:金属粒子磁性フィラー8
磁性フィラー10:金属粒子磁性フィラー9
ただし、金属粒子磁性フィラー1〜9は以下のとおり。
(2−1)金属粒子磁性フィラー
1:Fe−Si合金、球状、粒径(d50)11μm、表面処理(SiO2)
2:Fe−Si合金、球状、粒径(d50)11μm、表面処理無し
3:Fe−Si−Cr合金、球状、粒径(d50)21μm、表面処理
4:Fe−Si−Cr合金、球状、粒径(d50)19μm、表面処理無し
5:Fe−Si−Al合金、球状、粒径(d50)22μm、表面処理無し
6:Fe−Si−B−Crアモルファス合金、粒径(d50)22μm、表面処理無し
7:Fe−Si−B−Crアモルファス合金、粒径(d50)11μm、表面処理無し
8:カルボニル鉄、球状、粒径(d50)1μm、表面処理無し
9:Mn−Zn系フェライト、角状、粒径(d50)13μm、表面処理無し
【0042】
参考例1、2、4、実施例3、5〜7、比較例1〜3
表1の各充填率配合で磁性フィラーと上述の結着樹脂とを配合し、25℃でニーダーで混合して、ワニスを作製し、希釈溶媒(アノン)を加えて粘度を25000mPa・sに調整したものを、ロールコーターで、離型処理されたPETフィルム離型基材上に塗布し、厚さ70μmの各シートを得た。各シートは、140℃で2分間、乾燥させた。
各シートについて、シート表面抵抗値(表中、単に表面抵抗値という。)、シート透磁率(表中、単に透磁率という。)を測定した。結果を表1に示した。
【0043】
また、実施例5、6のシートについて、貯蔵弾性率G′の温度依存性(50℃〜160℃)を測定して、流動性を評価したところ、実施例5と実施例6とでは、実施例5の最小弾性率は1×10であり、一方、実施例6は2×10Paであり、実施例6のシートの方が充填率が高いにもかかわらず流動性は高かった。磁性フィラー6の球形度が高いためであると考えられる。さらに、実施例7のシートと実施例7のシートにおいて充填率を96重量%にしたシートとを、150℃におけるnormal force加圧下のシート厚み変化傾向を比較したところ、充填率が低い方が流動性が高いことが示された。このことから、流動性と充填率とはトレードオフの関係にあるが、フィラー粒子の形状を球形度の高いものにすれば、流動性を高めることができることがわかった。
【0044】
[評価方法]
表面抵抗値(Ω/□)
測定装置:ハイレスタUP(株式会社三菱化学アナリテック社製)を用い、定電圧印加法により表面抵抗値を測定した。
複素透磁率(10MHzにおける値)
測定装置:ベクトルネットワークアナライザーを用い、25℃における複素透磁率を測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例の結果から、本発明の磁性シートは、磁性フィラーの充填率が極めて高いにもかかわらず表面抵抗値が高く、金属磁性粒子を用いているので高飽和磁束密度である。また、本発明の磁性シートは、シートとして強度を有し、磁性特性においても実用的な範囲のものであった。これに対して、比較例の磁性シートは、磁性フィラーの充填率が充分でなく、特性を考える上で、充分に実用的なものではなかった。