特許第6187825号(P6187825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187825乗客コンベアの駆動装置、および当該駆動装置を有する乗客コンベア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187825
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】乗客コンベアの駆動装置、および当該駆動装置を有する乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/02 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   B66B23/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-125914(P2014-125914)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-3127(P2016-3127A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】段 京虎
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01344740(EP,A1)
【文献】 特開2006−282363(JP,A)
【文献】 特開2009−280352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主踏段スプロケットと従踏段スプロケット間に、無端搬送体を循環走行させる踏段チェーンが巻き掛けられた構成を有する乗客コンベアに用いられる駆動装置であって、
電動機と、
前記電動機により回転駆動され、複数の歯が周方向に等間隔で形成されてなる駆動スプロケットと、
前記駆動スプロケットよりも大きなピッチ円を有し、前記主踏段スプロケットと同軸上に設けられる従動スプロケットと、
対向する一対のリンクが複数対、互いに平行な複数本の連結ピンによって環状に連結され、前記連結ピンの各々にスリーブ部材が外挿されてなる無端チェーンであって、前記駆動スプロケットと前記従動スプロケット間に巻掛けられた無端チェーンと、
を有し、
前記駆動スプロケットが回転駆動されると、当該駆動スプロケットのピッチ円上を周回移動する前記複数の歯の各々によって、前記スリーブ部材の各々が、順次、ピッチ円上の第1の位置で噛み込まれて、ピッチ円上を押進され、第2の位置で押し出されて、ピッチ円軌道を離脱することによって、前記無端チェーンが、前記駆動スプロケットと前記従動スプロケットとの間で周回走行されて駆動スプロケットの回転動力が従動スプロケットに伝達される乗客コンベアの駆動装置において
前記駆動スプロケットと前記従動スプロケットとの間における前記無端チェーン部分に接触して転動する回転体により、前記第1の位置と前記第2の位置とで、回転される駆動スプロケットの歯の位相が半ピッチずれるように、当該無端チェーンを案内する案内手段を備えたことを特徴とする乗客コンベアの駆動装置。
【請求項2】
前記回転体は、前記無端チェーンと歯合するガイドスプロケットであることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの駆動装置。
【請求項3】
前記回転体は、前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットの回転軸と平行な回転軸を有するガイドプーリであることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの駆動装置。
【請求項4】
前記無端チェーンは、前記スリーブ部材がブシュであるブシュチェーン、または、前記スリーブ部材がローラであり当該ローラがブシュを介して前記連結ピンに外挿されてなるローラチェーンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗客コンベアの駆動装置。
【請求項5】
循環走行されて乗客を搬送する無端搬送体と、
前記無端搬送体を駆動するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載された駆動装置と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの駆動装置および乗客コンベアに関し、特に、チェーン・スプロケット機構を有する駆動装置、および当該駆動装置を有する乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベア、例えば、エスカレータにおいては、一般的に、踏段を駆動するための駆動系の2箇所にチェーン・スプロケット機構が用いられている。
【0003】
一つは、環状に連結された踏段を走行駆動させるために設けられたものであり、踏段チェーンと当該踏段チェーンが巻き掛けられた主踏段スプロケットおよび従踏段スプロケットとを含むチェーン・スプロケット機構(以下、本欄および[発明が解決しようとする課題]欄において、「第1のチェーン・スプロケット機構」と言う。)である。
【0004】
もう一つは、前記主踏段スプロケットを回転駆動させるための駆動装置に用いられているものであり、電動機によって回転される駆動軸に固定された駆動スプロケットと、前記主踏段スプロケットと同軸上に設けられた従動スプロケットと、前記駆動スプロケットと従動スプロケット間に巻き掛けられた駆動チェーンとを含むチェーン・スプロケット機構(以下、本欄および[発明が解決しようとする課題]欄において、「第2のチェーン・スプロケット機構」と言う。)である。
【0005】
チェーン・スプロケット機構においては、隣接するチェーンリンクの成す角度が変化しながらスプロケットに巻き掛かるといった、いわゆる多角形運動が存在するため、両スプロケットの間において、チェーンの走行速度が変動(脈動)し、この脈動がエスカレータの乗り心地に悪影響を及ぼすことは知られている。
【0006】
第1のチェーン・スプロケット機構に関しては、特許文献1、2に、踏段チェーンを案内する踏段ガイドレールの形状の工夫により、脈動を低減する技術が開示されている。
【0007】
踏段チェーンは、隣接するチェーンリンクを連結するリンクシャフトと、リンクシャフトの各々にころがり軸受を介して設けられた踏段ローラとを有する。そして、回転する主踏段スプロケットに複数の踏段ローラが次々に噛み込まれて回転されることにより、踏段チェーンが周回走行される。このとき、踏段チェーンは、主踏段スプロケットと従踏段スプロケットとの間においては、その踏段ローラが踏段ガイドレールの案内面を転動して案内され、所定の周回軌道上を走行する。
【0008】
特許文献1,2では、踏段ローラが主踏段スプロケットに噛み込まれる直前の前記案内面部分を凸状に形成している。これにより、踏段ローラが当該凸状部分(以下、「凸状案内面」と言う。)を乗り越える際には、当該踏段ローラ部分において踏段チェーンが屈曲する。この屈曲による速度変動と踏段チェーンの主踏段スプロケットへの噛み合いによって生じる速度変動とが相殺されるように凸状案内面の形状と位置が設定されている。その結果、第1のチェーン・スプロケット機構における、踏段チェーンの走行中の脈動が低減され、エスカレータの乗り心地が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−252560号公報
【特許文献2】特開2004−002007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そして、さらなる乗り心地の改善のため、駆動装置における第2のチェーン・スプロケット機構に対しても脈動の低減が望まれている。
【0011】
第2のチェーン・スプロケット機構においても、特許文献1,2に開示された技術を適用すれば脈動の低減は可能である。すなわち、第2のチェーン・スプロケット機構に対して、駆動チェーンを案内するガイドレールを新たに設置し、当該ガイドレールに上記したような凸状案内面を設ければ良い。
【0012】
しかしながら、元来、第2のチェーン・スプロケット機構の駆動チェーンとして一般的に用いられる無端チェーンであるローラチェーンにおいて、スプロケットに噛み込まれるローラは、転動に適するようには設けられていない。当該ローラは、隣接するチェーンリンクを連結するリンクピンに円筒形をしたブシュを介して外挿されているだけなので転動性はあまり良くない。このため、前記ローラをガイドレールで案内すると、ガイドレール上を少しは転動するがすべりが少なからず生じる。その結果、(i)ガイドレールとの間で生じるすべり摩擦に起因してローラが磨耗しやすくなり、チェーンの寿命低下を招いたり、(ii)前記すべり摩擦抵抗によって、電動機に掛かる負荷トルクが増大するため、電動機の大型化を招いたりといった弊害が生じる。
【0013】
当該弊害は、チェーンを構成するローラの各々を、軸受を介して対応するリンクピンに取り付けることにより除去できるが、多大なコストアップや、軸受を介在させる分のローラの径が増大するため、スプロケットの大型化、ひいては駆動装置全体の大型化を招来してしまう。
【0014】
本発明は、上記した課題に鑑み、チェーン・スプロケット機構については従来の構成を採りながら、無端チェーンの上記寿命低下や電動機に掛かる負荷トルクの増大を可能な限り抑制しつつ、走行中に生じる無端チェーンの脈動を効果的に低減できる、乗客コンベアの駆動装置および当該駆動装置を有する乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明に係る乗客コンベアの駆動装置は、電動機と、前記電動機により回転駆動され、複数の歯が周方向に等間隔で形成されてなる駆動スプロケットと、前記駆動スプロケットよりも大きなピッチ円を有する従動スプロケットと、対向する一対のリンクが複数対、互いに平行な複数本の連結ピンによって環状に連結され、前記連結ピンの各々にスリーブ部材が外挿されてなる無端チェーンであって、前記駆動スプロケットと前記従動スプロケット間に巻掛けられた無端チェーンと、を有し、前記駆動スプロケットが回転駆動されると、当該駆動スプロケットのピッチ円上を周回移動する前記複数の歯の各々によって、前記スリーブ部材の各々が、順次、ピッチ円上の第1の位置で噛み込まれて、ピッチ円上を押進され、第2の位置で押し出されて、ピッチ円軌道を離脱することによって、前記無端チェーンが、前記駆動スプロケットと前記従動スプロケットとの間で周回走行されて駆動スプロケットの回転動力が従動スプロケットに伝達される乗客コンベアの駆動装置であって、前記駆動スプロケットと前記従動スプロケットとの間における前記無端チェーン部分に接触して転動する回転体により、前記第1の位置と前記第2の位置とで、回転される駆動スプロケットの歯の位相が半ピッチずれるように、当該無端チェーンを案内する案内手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、前記回転体は、前記無端チェーンと歯合するガイドスプロケットであることを特徴とする。あるいは、前記回転体は、前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットの回転軸と平行な回転軸を有するガイドプーリであることを特徴とする。
【0017】
また、前記無端チェーンは、前記スリーブ部材がブシュであるブシュチェーン、または、前記スリーブ部材がローラであり当該ローラがブシュを介して前記連結ピンに外挿されてなるローラチェーンであることを特徴とする。
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明に係る乗客コンベアは、循環走行されて乗客を搬送する無端搬送体と、前記無端搬送体を駆動するための、上記した駆動装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成からなる乗客コンベアの駆動装置によれば、駆動スプロケットのピッチ円上において、無端チェーンを構成するスリーブ部材の各々が、当該ピッチ円上を周回移動する複数の歯の各々によって、順次、噛み込まれる第1の位置と、押し出されて、前記ピッチ円軌道を離脱する第2の位置とで、回転駆動される駆動スプロケットの歯の位相が半ピッチ分ずれるため、後で詳述する理由により、第2の位置から従動スプロケットを経て第1の位置に至る無端チェーン部分の走行速度の変動(脈動)が可能な限り低減される。
【0020】
また前記無端チェーン部分に接触して転動する回転体により当該無端チェーンが案内されて、駆動スプロケットの歯の位相が前記第1の位置と前記第2の位置とで半ピッチ分ずらされるため、前記無端チェーンと接触する回転体との間に生じる摩擦抵抗が、すべり摩擦が支配的になる場合と比較して低減さされるため、無端チェーンの磨耗による寿命低下や電動機にかかる負荷トルクの増大を可能な限り抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)は、実施形態に係るエスカレータの概略構成を示す図であり、(b)は、当該エスカレータにおける駆動装置の構成部材であるローラチェーンの一部を示す平面図であり、(c)は、同ローラチェーンの正面図である。
図2】一般的なチェーン・スプロケット機構における脈動発生のメカニズムを説明するための図である。
図3】実施形態において上記脈動が低減される原理について説明するための図である。
図4】実施形態1に係る駆動装置の概略構成を示す図である。
図5】実施形態1の変形例に係る駆動装置の概略構成を示す図である。
図6】実施形態2に係る駆動装置の概略構成の一部を示す図である。
図7】実施形態3に係る駆動装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
<実施形態1>
〔エスカレータの全体構成〕
【0023】
実施形態1に係るエスカレータ10は、図1(a)に示すように、上部機械室12に設置された駆動装置14を有する。
【0024】
駆動装置14は正転および逆転運転が可能な電動機16を有し、電動機16の動力は、減速機を介して出力軸(いずれも不図示)に伝達される。そして、当該出力軸に軸支された駆動スプロケット18が回転駆動される。駆動装置14は、また、駆動スプロケット18よりも大きなピッチ円を有する従動スプロケット20を有し、従動スプロケット20はシャフト22に軸支されて、回転自在に設けられている。駆動スプロケット18と従動スプロケット20には、無端チェーンであるローラチェーン24が巻掛けられている。
【0025】
ローラチェーン24は、公知のものが用いられる。ローラチェーン24は、図1(b)、図1(c)に示すように、対向する一対の内リンク26と対向する一対の外リンク28とが交互に、互いに平行な複数本の連結ピン30によって環状に連結され、連結ピン30の各々に、ブシュ(図には現われていない)を介してスリーブ部材であるローラ32が外挿されてなる構成を有するものである。
【0026】
図1に戻り、駆動装置14には、ローラチェーン24の周回走行中に発生する走行速度の変動(脈動)を低減するための手段(案内手段50)が設けられているが、案内手段50の詳細については後述する。
【0027】
シャフト22には、同軸上に主踏段スプロケット34が固定されている。
【0028】
一方、下部機械室36には、シャフト38に軸支された従踏段スプロケット40が設けられている。主踏段スプロケット34と従踏段スプロケット40間には、踏段チェーン44が巻き掛けられている。踏段チェーン44には、環状に連結された無端搬送体である複数の踏段42が取り付けられている。踏段チェーン44は、主踏段スプロケット34と従踏段スプロケット40の間においては、ガイドレール46によって案内されている。
【0029】
上記の構成からなるエスカレータ10において、電動機16が起動されると、その回転動力が、前記減速機(不図示)、前記出力軸(不図示)を介して伝達され、駆動スプロケット18が回転駆動される。駆動スプロケット18が回転されると、駆動スプロケット18と従動スプロケット20に巻掛けられているローラチェーン24が周回走行して、駆動スプロケット18からの回転動力が従動スプロケット20に伝達される。
【0030】
従動スプロケット20が回転されると、従動スプロケット20と同軸上(シャフト22上)に設けられた主踏段スプロケット34が回転される。これにより、主踏段スプロケット34と従踏段スプロケット40に巻掛けられた踏段チェーン44がガイドレール46に案内されて周回走行し、これに伴って、環状に連結された複数の踏段42が循環走行される。
【0031】
なお、電動機16は、不図示の制御部によって、起動、停止、回転速度などが制御される。
〔駆動装置における脈動低減の原理〕
【0032】
駆動装置14におけるローラチェーン24の走行速度の変動(脈動)を低減するための手段の具体的な説明の前に、一般的なスプロケット・チェーン機構におけるチェーンにおいて脈動が生じるメカニズムと本実施形態において脈動が低減できる原理について、図2図3を参照しながら説明する。
【0033】
(脈動発生のメカニズム)
【0034】
図2(a)、図2(b)に示すチェーン・スプロケット機構(以下、「機構200」と称する。)は、同じ仕様の二つのスプロケット202(一方のスプロケット202のみを図示し、他方のスプロケットはそのピッチ円204PCのみを示している。)間に無端チェーンであるローラチェーン206が巻掛けられてなるものである。スプロケット202の歯数は偶数個(本例では、16個)である。
【0035】
図示されているスプロケット202が、電動機からの動力を受けて、矢印Cの向きに回転駆動される駆動スプロケット202であり、ピッチ円204PCのみを示した方が従動スプロケットである。また、駆動スプロケット202および従動スプロケットの内、一方が他方に対して相対的に遠ざかる方向にばねなど(不図示)によって付勢されている。これにより、ローラチェーン206は、両スプロケット間において緊張状態が維持されている。
【0036】
ローラチェーン206は、ローラチェーン24(図1(b)、図1(c))と同様の構成であるが、ここでは、外リンクと内リンクとを区別せずに、両方を合わせて単に「リンク」として説明する。ここで、駆動スプロケット202の歯に符号「T」、ローラチェーン206のローラに符号「R」、リンクに符号「L」を付し、さらに、それぞれの構成要素において他の構成要素と区別する場合は、番号を追加することとする。
【0037】
機構200において、駆動スプロケット202が回転駆動されると、その周方向に等間隔で形成されてなる複数の歯Tが駆動スプロケット202のピッチ円202PC上を矢印Cの向きに周回移動する。周回移動する複数の歯は、ピッチ円202PCの第1の位置P1で、順次、ローラRを噛み込む。ローラRを噛み込んだ歯Tは、ピッチ円202PC上を押し進めた後、ピッチ円202PCの第2の位置P2でローラRを押し出す。
【0038】
ここで、第1の位置P1(ローラRの噛み込み位置)は、ローラRの中心軸が、ピッチ円202PC軌道に進入する位置であり、第2の位置P2(ローラRの押出し位置)は、ローラRの中心軸がピッチ円202PC軌道から離脱する位置である。すなわち、ローラRが駆動スプロケット202(の歯T)に噛み込まれている間は、ローラRの中心軸がピッチ円202PC上を進行する。
【0039】
駆動スプロケット202が回転駆動されると、ローラチェーン206は、駆動スプロケット202と従動スプロケット(不図示)との間で循環走行し、駆動スプロケット202の回転動力が従動スプロケットへ伝達される。
【0040】
ここで、駆動スプロケット202に巻き掛かっているローラチェーン206部分(第1の位置P1から駆動スプロケット202の回転の向きに第2の位置P2に至る部分)を「駆動チェーン206部分」と称し、第2の位置P2から従動スプロケットを経て第1の位置P1に至るローラチェーン206部分を「従動チェーン206部分」と称することとする。
【0041】
本例の場合、駆動スプロケット202と従動スプロケットのピッチ円の大きさが同じであるため、駆動スプロケット202と従動スプロケットとの間におけるローラチェーン206の走行経路は略平行となる(後で規定するX軸とも略平行となる。)。
【0042】
駆動スプロケット202が等速回転されても、従動チェーン206部分の走行速度に変動(脈動)が生じる。これは、以下の理由による。ここで、駆動スプロケット202の軸芯と従動スプロケットの軸芯を結ぶ線分に平行にX軸を採ったX-Y座標系を図2(a)、図2(b)に示すように設定し、以下の説明に用いることとする。
【0043】
第1の位置P1で、ローラR2が歯T1に噛み込まれた後、ローラR2は歯T1に押されて駆動スプロケット202の周速でピッチ円202PC上を移動する。駆動スプロケット202が1ピッチ分回転されて、次のローラR3が第1の位置P1で歯T2に噛み込まれる時、すなわち、ローラR2が図2(a)に示すローラR1の位置(以下、「第3の位置P3」とする。)に来る時までの間、ローラR2が、リンクL1以下、ローラR2と従動スプロケットとの間のローラチェーン206部分(以下、「上側チェーン部分206U」とする。)を牽引する。よって、ローラR2の移動速度のX軸方向の成分が、上側チェーン部分206U、ひいては従動チェーン206部分の走行速度に反映される。
【0044】
ローラR2は、ピッチ円上をその周方向に等速で移動するが、その移動方向は、当然のことながら、時々刻々変化する。ローラR2が第1の位置P1から第3の位置P3に至る間、ローラR2の移動速度のX軸方向の成分は、図2(b)に示す、ローラR2の移動方向が上側チェーン部分206Uの走行方向(X軸方向)と略一致する位置(以下、「第4の位置P4」とする。)で最大となり、前記走行方向(X軸方向)に対して前記移動方向が最も傾く第1の位置P1および第3の位置P3で最小となる。
【0045】
このため、上側チェーン部分206U、ひいては従動チェーン206部分全体の走行速度にむらが生じる。この現象は、ローラR2に後続するローラR3...が、第1の位置P1から第3の位置P3に至る間でも同様に生じる。この結果、駆動スプロケット202が1ピッチ分回転するのを1周期とする脈動を伴って、従動チェーン206部分が走行することとなる。
【0046】
これと同様の現象は、ローラRが駆動スプロケット202から押し出される場面でも生じる。
【0047】
図2(a)におけるローラR5は、第2の位置P2(ローラRの押出し位置)から駆動スプロケット202の1ピッチ分だけ反時計方向(矢印Cと逆向き)のところにある第5の位置P5に位置するローラである。駆動スプロケット202の回転に伴い、ローラR5が第5の位置P5から第2の位置(ローラRの押出し位置)に至るまでの間、ローラR5が、リンクL2から先、ローラR5と従動スプロケットとの間のローラチェーン206部分(以下、「下側チェーン部分206D」とする。)を押進する。よって、ローラR5の移動速度のX軸方向の成分が、下側チェーン部分206D、ひいては従動チェーン206部分全体の走行速度に影響を及ぼす。
【0048】
ローラR5は、ピッチ円上をその周方向に等速で移動するが、その移動方向は、時々刻々変化する。ローラR5が第5の位置P5から第2の位置P2に至る間、ローラR5の移動速度のX軸方向の成分は、図2(b)に示す、ローラR5の移動方向が下側チェーン部分206Dの走行方向(X軸方向)と略一致する位置(以下、「第6の位置P6」とする。)で最大となり、前記走行方向(X軸方向)に対して前記移動方向が最も傾く第5の位置P5および第2の位置P2で最小となる。
【0049】
この現象は、ローラR5に後続するローラR6...が、第5の位置P5から第2の位置P2に至る間でも同様に生じる。この結果、第5の位置P5から第2の位置P2の間を通過するローラRの移動速度のX軸方向の成分が、駆動スプロケット202が1ピッチ分回転するのを1周期として変動し、当該変動が従動チェーン206部分の走行速度に影響を及ぼすこととなる。
【0050】
第1の位置P1から第3の位置P3までローラRが上側チェーン部分206Uを牽引する向きと第5の位置P5から第2の位置P2までローラRが下側チェーン部分206Dを押進する向きは、X軸方向において互いに反対向きであるが、ローラチェーン206は従動スプロケットに巻掛けられて180度折り返されているため、ローラチェーン206の周回走行方向に関しては、前記牽引する向きと前記押進する向きとは同じ向きとなる。
【0051】
したがって、従動チェーン206部分全体の走行速度に対し、第1の位置P1から第3の位置P3に至る間のローラRの移動速度のX軸成分(以下、ローラRによる「牽引速度」と言う。)と、第5の位置P5から第2の位置P2に至る間のローラRの移動速度のX軸成分(以下、ローラRによる「押出速度」と言う。)と、が相互に影響を及ぼし合う。なお、駆動チェーン206部分は、駆動スプロケット202と同速で走行する。
【0052】
図2に示す例では、駆動スプロケット202の歯数が偶数であり、かつ、駆動スプロケット202と従動スプロケットの間のローラチェーン206部分が平行であるため、駆動スプロケット202の回転中における、第1の位置P1での歯Tの位相と第2の位置P2での歯Tの位相が一致する。
【0053】
このため、牽引速度と押出速度の位相も一致する。すなわち、牽引速度が最大になるタイミングと押出速度が最大になるタイミングとが一致し、牽引速度が最小となるタイミングと押出速度が最小となるタイミングが一致する。その結果、従動チェーン206部分の走行速度の変動(脈動)が大きくなり、ひいては、従動スプロケットの回転むらが大きくなる。
【0054】
本願の発明者は、上記したように、駆動スプロケット202において、ローラチェーン206を噛み込み側のみならず押出し側もがローラチェーン206の走行速度に影響を及ぼすことを見出し、ローラチェーン206に生じる上記脈動を効果的に低減する手法を案出した。
【0055】
(脈動低減の原理)
【0056】
駆動スプロケットの回転中における、第1の位置P1での歯Tの位相と第2の位置P2での歯Tの位相が半ピッチ分ずれるように構成することによって、上記脈動を低減することとした。
【0057】
すなわち、牽引速度と押出速度は、駆動スプロケットの歯の位相にしたがい、1ピッチを1周期として増減し、歯の位相が一致すると牽引速度と押出速度の位相も一致するところ、第1の位置P1での歯Tの位相と第2の位置P2での歯Tの位相を半ピッチ分ずらすことにより牽引速度の位相と押出速度の位相が互いに逆相になるようにした。これにより、牽引速度と押出速度の両速度変動が互いに相殺するように作用し、その結果、従動チェーン206部分の速度変動(脈動)が低減されるようにしたのである。
【0058】
図2に示す例に対しては、駆動スプロケット202と従動スプロケットの歯数を奇数にすることにより、第1の位置P1での歯Tの位相と第2の位置P2での歯Tの位相を半ピッチ分ずらすことができる。図3は、そのように構成した例を示している。なお、図3は、図2と同様に表記した図であり、図3において、図2と同じ符号で表したものは同じ意味(定義)を有しているため、再定義することなく説明に用いることとする。
【0059】
図3に示すチェーン・スプロケット機構(以下、「機構210」と称する。)は、主として、駆動スプロケット212の歯数が奇数個(本例では、15個)であること以外は、基本的に、機構200(図2)と同じ構成である。ただし、駆動スプロケット212と従動スプロケット(不図示)の歯数が減っている関係上、駆動スプロケット212のピッチ円212PCと従動スプロケットのピッチ円214PCの直径は、ピッチ円202PC、204PC(図2)よりも小さくなっている。
【0060】
駆動スプロケット212の歯数を奇数としたことにより、駆動スプロケット212の回転中における第1の位置P1での歯Tの位相と第2の位置P2での歯Tの位相との間に半ピッチ分のずれが生じる。すなわち、図3(a)に示すように、歯Tの歯底が第1の位置P1に在る時には、歯Tの歯先が第2の位置P2に在り、図3(b)に示すように、歯Tの歯先が第1の位置Pに在る時には、歯Tの歯底が第2の位置P2に在ることとなる。
【0061】
したがって、牽引速度が最も遅くなる時に、押出速度が最も速くなり(図3(a))、牽引速度が最も速くなる時に、押出速度が最も遅くなる(図3(b))、といった具合に、両速度の位相が逆相となるため、牽引速度と押出速度の両速度変動が互いに相殺するように作用し、その結果、従動チェーン206部分の速度変動(脈動)が低減されるのである。
〔駆動装置14におけるローラチェーン24の脈動低減手段〕
【0062】
上記の原理を適用すれば、エスカレータの駆動装置において、ローラチェーンの走行中に生じる脈動を低減することができる。
【0063】
しかしながら、当該駆動装置において、駆動スプロケットと従動スプロケットのピッチ円の大きさが異なることから、両スプロケット間におけるローラチェーン部分は平行ではなく、また、必要とされる減速比による制限等もあることから、必ずしも駆動スプロケットの歯数によって脈動を低減することができるとは限らない。
【0064】
そこで、本実施形態では、駆動スプロケットと従動スプロケットとの間におけるローラチェーン部分を案内して、その走行軌道を調整することにより、駆動スプロケットによるローラチェーンの噛み込み位置(第1の位置)における駆動スプロケットの歯の位相と駆動スプロケットによるローラチェーンの押出位置(第2の位置)における駆動スプロケットの歯の位相との間に半ピッチ分のずれを生じさせる案内手段を設けることとした。
【0065】
図4に示すように、実施形態1における案内手段50は、駆動スプロケット18と従動スプロケット20との間におけるローラチェーン24部分に噛合する(接触する)ガイドスプロケット52を有する。ガイドスプロケット52は、駆動スプロケット18および従動スプロケット20よりもピッチ円直径が小さい。なお、図4および図5図7において、ローラチェーン24は、外リンクと内リンクとを区別すること無く、さらに簡略化して表している。
【0066】
回転体であるガイドスプロケット52は、シャフト54に固定されており、シャフト54は、軸受56を介して、スライダ58に回転自在に保持されている。スライダ58は、トラス(不図示)に固定されているフレーム60に取り付けられたガイド部材62によって、ローラチェーン24の走行方向と交差する方向(矢印Aの方向)にスライド自在に保持されている。スライダ58とフレーム60との間には、圧縮コイルばね64が設けられており、圧縮コイルばね64の復元力によって、ガイドスプロケット52が、ローラチェーン24に対しその走行方向と交差する方向に弾発付勢されている。
【0067】
ローラチェーン24は、案内手段50が設けられていない状態においては、駆動スプロケット18と従動スプロケット20との間に弛緩状態で掛け渡される周長(長さ)を有している。すなわち、ローラチェーン24の周長(全長)は、案内手段50が設けられていない状態において、駆動スプロケット18と従動スプロケット20との間を最短で掛け渡されると仮定したときよりも長めに設定されている。
【0068】
この長めに設定された周長(全長)を有するローラチェーン24が、弾発付勢されたガイドスプロケット52で、矢印Aの方向内方へ押し込まれて、緊張状態にされることにより、ガイドスプロケット52が所定の位置に位置決めされる。当該所定の位置とは、ガイドスプロケット52によって駆動スプロケット18と従動スプロケット20との間におけるローラチェーン24部分の走行軌道が調整されて、駆動スプロケット18によるローラチェーン24の噛み込み位置(第1の位置)における駆動スプロケット18の歯の位相と駆動スプロケット18によるローラチェーン24の押出位置(第2の位置)における駆動スプロケット18の歯の位相との間に半ピッチ分のずれを生じさせるようなガイドスプロケット52の位置(以下、「案内位置」と言う。)である。
【0069】
当該案内位置は、ローラチェーン24の周長(全長)、駆動スプロケット18のピッチ円と歯数、従動スプロケット20のピッチ円、駆動スプロケット18と従動スプロケット20の軸間距離から幾何学的に予め求め得るものである。
【0070】
上記の構成からなる駆動装置14によれば、駆動スプロケット18が矢印Bの向きに回転駆動されると、ローラチェーン24に噛合して(接触して)転動するガイドスプロケット52によって案内されたローラチェーン24のローラ32が、順次、駆動スプロケット18のピッチ円上の第1の位置PN1で噛み込まれた後、駆動スプロケット18のピッチ円上を押進され、前記ピッチ円上の第2の位置で押し出されることによって、ローラチェーン24が周回走行され、駆動スプロケット18の回転動力が従動スプロケット20に伝達される。この際、回転される駆動スプロケット18の歯の位相が、第1の位置PN1と第2の位置PN2とで半ピッチずれているため、上述したように、ローラチェーン24の走行速度の変動(脈動)が低減される。
【0071】
その結果、ローラチェーン24が巻掛けられて従動回転する従動スプロケット20の回転むらが低減され、ひいては、従動スプロケット20と同軸上に設けられている主踏段スプロケット34(図1)の回転むらが低減されることから、主踏段スプロケット34によって走行駆動される踏段チェーン44の脈動も低減されることとなる。その結果、踏段チェーン44によって周回移動する踏段42で運ばれる乗客の乗り心地が改善される。
【0072】
さらに、案内手段50のガイドスプロケット52の方が、案内されるローラチェーン24の走行に従動して回転するため、ガイドスプロケット52とローラチェーン24とは転がり摩擦接触が支配的となるので、ローラチェーン24の摩耗進行を可能な限り抑制できる。また、転がり摩擦接触が支配的となるため、案内手段50を設けたことによる電動機16に掛かる負荷トルクの増大も抑えられる。
【0073】
なお、ガイドスプロケット52と噛合するローラチェーン24部分は、ガイドスプロケット52の回転に伴って、ガイドスプロケット52の径方向に変位するが、その変位量は極僅かであるため、ローラチェーン24全体の走行軌道(経路)、特に、駆動スプロケット18に噛み込まれる直前の走行軌道(経路)は、ほとんど変動することはない。
【0074】
また、駆動装置14によれば、走行中におけるローラチェーンの走行方向と交差する方向への変動(バタツキ)が抑制される。仮に、案内手段50を設けない場合、走行中に走行方向と交差する方向にローラチェーンが振れるいわゆるバタツキが生じることがあり、当該バタツキによる騒音が発生することがある。これに対し、案内手段50を設けることにより、ローラチェーン24は、弾発付勢されたガイドスプロケット52によって、走行方向と交差する一方向に付勢されるため、反対方向への振れが可能なかぎり抑制されてバタツキが防止されるのである。すなわち、案内手段50は、ローラチェーン24の走行中におけるバタツキを防止するバタツキ防止手段としても機能する。
【0075】
なお、バタツキを許容する場合、あるいはバタツキの防止が不要な場合(設計条件によっては、バタツキがほとんど生じない場合もあるので)、圧縮コイルばね64を設けることなく、ガイドスプロケット52を軸支するシャフト54を、前記案内位置に固定することとしても構わない。この場合には、ローラチェーン24を常に緊張状態に維持するため、圧縮コイルばねまたは引張コイルばねなどの付勢部材を有する公知の緊張手段を用い、従動スプロケット20を軸支するシャフト22と駆動スプロケット18を軸支するシャフト(不図示)とを、互いに遠ざかる向きに弾発付勢することとする。ローラチェーン24を緊張状態にするのは、主として、(i)ローラチェーン24による駆動スプロケット18から従動スプロケット20への回転動力の伝達ロスを少なくしたり、(ii)ローラチェーン24の駆動スプロケット18による噛み込み時と押出し時に生じる騒音を抑制したり、(iii)駆動および従動スプロケット18,20の摩耗の進行を抑制したりするのが目的である。
【0076】
上記の例では、駆動スプロケット18が矢印Bの向きに回転駆動(以下、「正転駆動」とする。)される場合を例に説明したが、エスカレータ10の昇降の向きを切り替えるため矢印Bとは反対向きに回転駆動(以下、「逆転駆動」とする。)される場合であっても、駆動スプロケット18がローラチェーン24のローラ32を噛み込む位置(第1の位置PN1)と押出す位置(第2のPN2)とが相互に入れ替わるだけであり、案内手段50を設けたことによるローラチェーン24の脈動抑制の効果が奏されることには変わりない。
【0077】
すなわち、正転駆動における第2の位置PN2が逆転駆動における噛み込み位置(第1の位置PR1)になり、正転駆動における第1の位置PN1が逆転駆動における押出し位置(第2の位置PR2)になるだけであって、駆動スプロケット18の回転駆動中における第1の位置PR1での歯の位相と第2の位置PR2での歯の位相との間に半ピッチ分のずれが生じることに変わりはないため、走行中におけるローラチェーン24の脈動は抑制される。
【0078】
(変形例)
【0079】
上記の例では、案内手段50を周回走行するローラチェーン24の外側に設け、外側から内側に向かって、ローラチェーン24を押し込んだが、これに限らず、案内手段を内側に設けて、内側から外側に向かって、ローラチェーン24を張り出すようにしても構わない。図5は、そのようにした変形例に係る駆動装置70を示している。
【0080】
駆動装置70は、駆動装置14(図4)とは、案内手段50がトラス(不図示)に固定されたフレーム72に取り付けられており、案内手段50の取付位置が異なる以外は、同様の構成である。よって、駆動装置70において駆動装置14と同様の構成要素には、同じ符号を付して、その説明については省略する。
【0081】
なお、勿論、駆動装置70においてもガイドスプロケット52は、上記した案内位置に位置されている。
【0082】
また、ガイドスプロケット52を前記案内位置に設けることにより奏される効果も駆動装置14の場合と同様なので、その説明については省略する。
<実施形態2>
【0083】
実施形態1では、案内手段50は、ローラチェーン24の走行中におけるバタツキ防止手段を兼ねていたが、実施形態2における案内手段74では、さらに、ローラチェーン24が切断されたことを検出するためのチェーン切断検出手段を兼用した構成となっている。
【0084】
図6に示すように、実施形態2における案内手段74は、ガイドスプロケット76を有する。ガイドスプロケット76は、周回走行するローラチェーン24の外側に在って、ローラチェーン24に噛合する。
【0085】
ガイドスプロケット76は、バー78の一端部にピン80および不図示の軸受を介して回転自在に取り付けられている。バー78は、その他端から少し中央寄りの部分が、トラス(不図示)に固定されたフレーム82に設けられたブラケット84にピン86を介して回転自在に取り付けられている。
【0086】
フレーム82には、スイッチ88が取り付けられている。スイッチ88は、その先端部88Aが後退されるとOFFからONになるペンシル型のスイッチである。スイッチ88がONになると、電動機16(図1)を制御する制御部(不図示)にON信号が出力される。スイッチ88は、先端部88Aがバー78の他端の回転半径内に存するように設けられている。
【0087】
バー78の一端部よりも中央寄りの部分とトラス(不図示)に固定されたフレーム90との間に圧縮コイルばね92が圧縮された状態で設けられている。圧縮コイルばね92の復元力(付勢力)は、バー78をピン86の軸芯を中心として反時計回りに回転させる向きに作用する。これにより、バー78の一端部に取り付けられたガイドスプロケット76が、ローラチェーン24に対しその走行方向と交差する方向に弾発付勢されて、ガイドスプロケット76が上述した案内位置に位置決めされている。
【0088】
上記の構成からなる案内手段74において、ローラチェーン24が何らかの原因で切断されると、駆動スプロケット18と従動スプロケット20(いずれも、図6において不図示)に緊張状態で巻掛けられているローラチェーン24が緩む。
【0089】
ローラチェーン24が緩むと、圧縮コイルばね92の付勢力を受けているガイドスプロケット76は、支えを失って下方へ移動し、これに伴い、バー78がピン86の軸芯を中心として反時計回りに回転する。回転するバー78の他端部でスイッチ88の先端部88Aが後退され、スイッチ88からON信号が出力される。
【0090】
ON信号を受けた制御部(不図示)は、電動機16(図1)を停止させる。これにより、駆動スプロケット18の回転が止まる。
【0091】
ローラチェーン24が切断された後も、駆動スプロケット18が回転し続けると、ローラチェーン24が駆動スプロケット18に絡まり、絡まって回転するローラチェーン24が上部機械室12(図1)内の他の構成機器を損傷する事態が生じる場合がある。これに対処するため、ローラチェーン24が切断されたことを検出して、即座に駆動スプロケット18を停止するようにしているのである。
【0092】
なお、ガイドスプロケット76が前記案内位置に設けられていることにより奏される効果、すなわち、ローラチェーン24の走行中に生じる脈動低減の効果も実施形態1の駆動装置14の場合と同様なので、その説明については省略する。
<実施形態3>
【0093】
実施形態1では、案内手段50において、ローラチェーン24に接触して転動する回転体をガイドスプロケット52(図4)で構成したが、図7に示すように、実施形態3に係る駆動装置94における案内手段96では、ガイドプーリ98で回転体を構成している。
【0094】
実施形態3の案内手段96は、回転体が異なる以外は、実施形態1の案内手段50と実質的に同様の構成である。よって、実施形態3において実施形態1と同様の構成部材には同じ符号を付して、その説明については省略する。
【0095】
ガイドプーリ98は、ガイドスプロケット52(図4)と同じく上述した案内位置でローラチェーン24を案内する。これにより、ローラチェーン24の走行中に生じる脈動が可能な限り低減されるのは、実施形態1の場合と同様である。
【0096】
また、ガイドプーリ98の方が、案内されるローラチェーン24の走行に従動して回転するため、ガイドプーリ98とローラチェーン24とは転がり摩擦接触が支配的となるので、ローラチェーン24の摩耗進行を可能な限り抑制でき、転がり摩擦接触が支配的となるため、案内手段96を設けたことによる電動機16に掛かる負荷トルクの増大も抑えられる点についても、実施形態1の場合と同様である。
【0097】
さらに、圧縮コイルばね64を設けることなく、ガイドプーリ98を軸支するシャフト54を前記案内位置に固定するようにしても構わないのは、実施形態1と同様である。
【0098】
なお、ガイドプーリ98に代えて、円筒面を有するガイドローラ(不図示)を用いても構わない。この場合、ローラチェーン24がガイドローラから外れないように、ガイドローラは、ローラチェーン24のチェーン幅よりも十分に大きい長さのものとする。
【0099】
以上、本発明を実施形態に基いて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような構成としても構わない。
【0100】
(1)実施形態1の変形例に係る駆動装置70(図5)のガイドスプロケット52、実施形態2における案内手段74におけるガイドスプロケット76に代えて、ガイドプーリまたはガイドローラを用いても構わない。
【0101】
(2)上記実施形態では、ローラチェーン24は、ローラが1列のいわゆるシングルローラチェーンであったが、これに代えて、2列のローラを有するいわゆるダブルローラチェーンを用いても構わない。この場合、言うまでもなく、駆動スプロケットと従動スプロケットもこれに合わせて変更する。
【0102】
(3)上記実施形態では、駆動スプロケット18の回転動力を従動スプロケット20に伝達する無端チェーンとしてローラチェーン24を用いたが、ローラチェーン24に代えて、公知のブシュチェーンを用いても構わない。ブシュチェーンは、ローラチェーンからローラを取り除いたような構成の無端チェーンである。すなわち、ブシュチェーンは、連結ピンに外挿されたブシュが、駆動スプロケットおよび従動スプロケットの歯に噛み込まれるスリーブ部材となる無端チェーンである。
【0103】
(4)上記実施形態では、本発明に係る乗客コンベアおよびその駆動装置を、エスカレータおよびその駆動装置に適用した例に基いて説明したが、本発明は、エスカレータに限らず、他の乗客コンベア、例えば、パレット式やゴムベルト式の動く歩道にも適用できる。すなわち、環状に連結された複数のパレットからなる無端搬送体やゴムベルトからなる無端搬送体が循環走行されて乗客を搬送する動く歩道および前記無端搬送体を駆動するための駆動装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る乗客コンベアの駆動装置は、例えば、エスカレータにおける踏段を循環走行させるための駆動装置として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 エスカレータ
16 電動機
18 駆動スプロケット
20 従動スプロケット
24 ローラチェーン
26 内リンク
28 外リンク
30 連結ピン
32 ローラ
50,74,96 案内手段
52,76 ガイドスプロケット
98 ガイドプーリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7