(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の歩行者保護装置では、車両と歩行者との衝突時に車両の前方に突出している歩行者保護パネルによって人体(歩行者)の脚部をすくい、歩行者の頭部が車両側に向くように歩行者を倒して歩行者の頭部の傷害の軽減を図っている。しかし、頭部を車両側に向けた状態で歩行者が倒れても、歩行者の頭部が路面に直接衝突する可能性が高く、この場合、頭部の傷害を軽減できないおそれがある。
【0006】
特許文献2の自動車の救助器付バンパーでは、枠付受網の前端部と車体とをロープで繋ぐことによって、車両に衝突した歩行者をバンパー及び枠付受網で受け止め、受け止めた後の路面への歩行者の転落を防止して歩行者の保護を図っている。枠付受網の前端部と車体とがロープで繋がれているので、例えば、歩行者がバンパーの前方の枠付受網側に落下した場合、バンパーには枠付受網側から後方への荷重が入力する。このため、作動時に歩行者を確実に受け止めて転落を防止するためには、歩行者から入力する下方への荷重及び枠付受網側から入力する後方への荷重によってバンパーが変形しないように、バンパーに所定の剛性を確保する必要がある。しかし、歩行者を確実に受け止めて転落を防止するための上記所定の剛性が高ければ高いほど、歩行者がバンパー側に落下して歩行者の頭部がバンパーに衝突した際に、歩行者が頭部に傷害を負う可能性が高くなる。
【0007】
そこで、本発明は、車両が歩行者に衝突した際、歩行者を保護することが可能な車両用歩行者保護装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の車両用歩行者保護装置は、衝突物との衝突を緩和するバンパを車両前面に備える車両に設けられる車両用歩行者保護装置であって、衝突検知手段とバンパと作動機構とを備える。衝突検知手段は、車両の前部への衝突を検知する。バンパは、車幅方向に沿った回転軸を支点として車体フレームの前端部に対して回転可能に支持される一端部を有し、一端部から上方へ起立して車幅方向に延びる通常位置と、一端部から前方へ展開する展開位置との間で傾動自在であり、上方から落下する衝突物と展開位置で衝突して緩衝する。作動機構は、車両の前部への衝突が衝突検知手段によって検知されたとき、バンパを通常位置から展開位置へ傾動させる。
また、バンパは、展開位置で車両前面よりも車両前下方の路面に接触する。
【0009】
上記構成では、衝突検知手段が衝突を検知すると、作動機構は、一端部から上方へ起立する通常位置のバンパを、一端部から前方へ展開する展開位置へ傾動させる。このようなバンパの傾動によってバンパの他端部側が車両前面から前方へ移動するので、車両と歩行者とが衝突した場合、展開途中や展開位置まで達した後のバンパの他端部側が歩行者の脚部に後方から当接し易い。バンパが歩行者の脚部に当接し、歩行者の脚部がバンパによって前方へ押されると、歩行者は頭部を車体側に向けた状態で倒れ易くなる。
【0010】
また、展開位置のバンパが一端部から前方へ展開するので、バンパが車両前面よりも前方へ突出し、車両と衝突した歩行者が頭部を車体側に向けた状態で倒れると、その歩行者の頭部は展開位置のバンパに衝突し易い。このため、例えば、コンクリートのような硬い路面に衝突する場合に比べて歩行者の頭部に加わる衝撃を低減することができる。また、歩行者の頭部が展開位置のバンパに衝突した後に路面に衝突したとしても、展開位置のバンパへの衝突の際に歩行者の頭部の落下速度が低下するので、バンパに衝突することなく直接路面に衝突する場合に比べて路面から歩行者の頭部に加わる衝撃が低減する。
【0011】
また、バンパは、上方から落下する衝突物と衝突することによって衝突物に加わる衝撃を低減するので、バンパには、例えば、衝突した衝突物を路面上へ落とさないように受け止める場合のような高い剛性が要求されない。すなわち、バンパの剛性を高めることなく衝突物に加わる衝撃を低減することができるので、車両と歩行者とが衝突して歩行者の頭部が上方からバンパに衝突した際に、歩行者が頭部に傷害を負う可能性を低く抑えることができる。
また、展開位置のバンパが車両前面よりも車両前下方の路面に接触するので、展開位置のバンパの他端部側と路面との間隙を狭く抑えて、バンパの前方に倒れた歩行者の車両の下方への潜り込みを確実に防止することができる。
【0012】
また、展開位置のバンパは、一端部から前下方へ展開して路面に対して傾斜してもよい。
【0013】
上記構成では、展開位置のバンパが路面に対して傾斜するので、車両と衝突した後に歩行者の頭部が略鉛直下方へ落下してもバンパに対して垂直に衝突し難い。このため、バンパに対して垂直に衝突する場合に比べて歩行者の頭部に加わる衝撃を低減することができる。また、歩行者の頭部に加わる衝撃を効果的に低減可能なバンパの好適な傾斜角度を実験やシミュレーションや計算などによって求め、展開位置のバンパを上記好適な傾斜角度に設定することによって、歩行者の頭部を効果的に保護することができる。
【0014】
また、上記車両は、車体フレームの前端部の下方にフロントアンダーランプロテクタを備えてもよく、バンパの一端部は、フロントアンダーランプロテクタに回転軸を介して連結されてもよい。
【0015】
上記構成では、バンパの一端部は、車体フレームの前端部の下方に設けられたフロントアンダーランプロテクタに回転軸を介して連結される。このため、回転軸を比較的低い位置に配置することができるので、バンパが通常位置から展開位置へ傾動する際、バンパが歩行者の脚部の低い位置に当たり易く、頭部を車体側に向けた状態で歩行者が倒れ易くなる。
【0016】
また、バンパの一端部がフロントアンダーランプロテクタに回転軸を介して連結されるので、展開位置のバンパが一端部から前下方へ展開する場合には、展開位置のバンパの他端部側がフロントアンダーランプロテクタよりも下方に配置される。この場合、フロントアンダーランプロテクタと路面との間隙をバンパが前方から塞ぎ易く、バンパの前方に倒れた歩行者がフロントアンダーランプロテクタの下方へ潜り込み難くなる。
【0019】
また、バンパは、裏面に衝撃吸収材を有してもよい。
【0020】
上記構成では、展開位置で上面となるバンパの裏面に衝撃吸収材を有するので、車両と歩行者とが衝突して歩行者の頭部が展開位置のバンパに衝突する際に、歩行者の頭部に加わる衝撃を衝撃吸収材によってさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両が歩行者に衝突した際、歩行者の頭部を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、FRは車両の前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示し、また、以下の説明において、左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0024】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る車両用歩行者保護装置10を備えるトラック(車両)1は、キャブ2が概ねエンジン(図示省略)の上方に配置されるキャブオーバー型のトラック1であり、車体フレーム7とフロントバンパ(バンパ)3と左右のヘッドライト4とフロントアンダーランプロテクタ6とを有する。
【0025】
車体フレーム7は、車幅方向両側でトラック1の前後に亘って延びる左右のサイドフレーム8と、車幅方向に沿って延びて左右のサイドフレーム8を連結する複数のクロスフレーム9とを有する。左右のサイドフレーム8の前端部を連結するクロスフレーム9の車幅方向外側面には、左右のヘッドライト4を支持する左右のライトブラケット5が溶接やボルト(図示省略)等で固定され、車体フレーム7の前端部21の車幅方向両側の下面には、左右のフロントアンダーランプロテクタブラケット11がボルト(図示省略)等によって固定されて下方へ延びる。フロントアンダーランプロテクタブラケット11は、複数の板体によって内側に閉止空間を区画する構造体であって、側面視略三角形状に形成される。なお、
図2では、左右のサイドフレーム8の前端部を連結するクロスフレーム9のみを示している。
【0026】
フロントアンダーランプロテクタ6は、車幅方向両端が閉止された断面矩形状の棒状体であって、フロントアンダーランプロテクタ6の後面がフロントアンダーランプロテクタブラケット11の前面に対向した状態で、溶接やボルト(図示省略)等によってフロントアンダーランプロテクタブラケット11の下端部に固定され、トラック1の車体フレーム7の前端部21の下方で車幅方向に延びる。フロントアンダーランプロテクタ6は、トラック1よりも車高が低い乗用車等の他の車両(図示省略)とトラック1とが衝突した際に、フロントアンダーランプロテクタ6よりも後方への上記他の車両の移動を規制し、トラック1の下方への上記他の車両の潜り込みを防止する。
【0027】
左右のヘッドライト4は、左右のライトブラケット5に固定され、後述するフロントバンパ3の左右のライト開口12の内側に配置される。
【0028】
図2〜
図4に示すように、車両用歩行者保護装置10は、フロントバンパ3と衝突検知センサ(衝突検知手段)13と左右の作動装置(作動機構)14とを有する。
【0029】
フロントバンパ3は、車幅方向に延びるフロントパネル部17とフロントパネル部17の車幅方向両端縁から後方へ延びる左右のサイドパネル部18とに構成される略板状体であって、左右のライト開口12と通気開口15と左右の丸端子付バンパ固定部材16とを有する。フロントバンパ3の裏面19(後面)には、板状の衝撃吸収ゴム(衝撃吸収材)24が略全域に貼付されている。フロントバンパ3のフロントパネル部17の下端部(一端部)22は、フロントアンダーランプロテクタ6の前面部に対し、車幅方向に沿った回転軸を有する左右のヒンジ部20を介して回転可能に連結される。すなわち、フロントバンパ3のフロントパネル部17の下端部22は、車幅方向に沿った回転軸を支点として車体フレーム7の前端部21に対して回転可能に支持される。フロントバンパ3のフロントパネル部17の上端部43側(他端部側)は、後方に向かって緩やかに曲折する。フロントバンパ3は、フロントパネル部17の下端部22から上方へ起立した通常位置(
図1及び
図3参照)と、フロントパネル部17の下端部22から前下方へ展開して路面23に対して傾斜する展開位置(
図2及び
図3(
図3中の1点鎖線で示す位置)参照)との間で傾動自在である。通常位置のフロントバンパ3は、トラック1の前面に配置されて衝突物との衝突を緩和する。展開位置のフロントバンパ3は、通常位置での上端部43側がトラック1の前面よりも前下方の路面23に接触し、裏面19(展開位置の上面)に上方から落下する衝突物が衝突して衝撃吸収ゴム24によって緩衝する。フロントバンパ3の剛性は、通常位置でトラック1の前面に配置されて衝突物との衝突を緩和可能な剛性に設定される。すなわち、一般的な既存のフロントバンパ3を用いることができる。
【0030】
展開位置のフロントバンパ3の路面23に対する傾斜角度は、衝突物と衝突した際の衝撃を効果的に低減可能な好適な傾斜角度を実験やシミュレーションや計算などによって求め、上記好適な傾斜角度(本実施形態では、略45度)に設定されている。
【0031】
左右のライト開口12は、フロントバンパ3が通常位置に配置された状態で、内側に左右のヘッドライト4が配置されるように、フロントバンパ3のフロントパネル部17の車幅方向両側で開口する。
【0032】
通気開口15は、フロントバンパ3のフロントパネル部17の車幅方向中央部で車幅方向に延びる略矩形状の開口であって、エンジン(図示省略)等へ供給される空気の取込口として機能する。通気開口15には、ラジエーターグリル25が固定される。
【0033】
左右の丸端子付バンパ固定部材16は、フロントバンパ3の裏面19に回転可能に支持される略棒状体であって、フロントバンパ3側の支持部26と、支持部26から延びる軸部27と、軸部27に固定される先端側の丸端子28とをそれぞれ有し、通気開口15の車幅方向外端部の近傍に配置される。支持部26は、車幅方向に延びる回転軸を介してフロントバンパ3に回転可能に支持される。丸端子付バンパ固定部材16の外面は、衝撃緩衝可能なゴムによって略全域が覆われる。
【0034】
衝突検知センサ13は、CCDカメラであって、キャブ2のフロントウインド(図示省略)内側の車幅方向中央部に配置され、トラック1の前下方へ向けて固定される。衝突検知センサ13は、トラック1の進行方向前方を撮像し、画像情報をコントローラ(衝突検知手段)29に逐次出力する。コントローラ29は、
CPU、メモリ等(図示省略)で構成され、衝突検知センサ13から入力される画像情報からトラック1と歩行者との衝突を回避できない状態(以下、単に衝突を回避できない状態という)であるか否かを判定し、上記衝突を回避できない状態であると判定した場合に後述するエアポンプ30へ作動信号を送信する。例えば、コントローラ29は、画像情報から歩行者との距離と相対速度とを取得し、該距離を該相対速度で除することによってトラック1と歩行者との衝突予想時間を求め、該衝突予想時間と予め設定された衝突予想時間の閾値とを比較する。該衝突予想時間が閾値よりも低い場合には、コントローラ29は、衝突を回避できない状態であると判定し、後述するエアポンプ30へ作動信号を送信する。このように、衝突検知センサ13とコントローラ29とは、トラック1の前部への衝突を回避できない状態を検知することにより、トラック1の前部への衝突を検知する衝突検知手段として機能する。なお、本実施形態では、衝突検知センサ13をCCDカメラとしたが、これに限定されるものではなく、レーダセンサ等であってもよい。
【0035】
左右の作動装置14は、ケース31とストッパ32とコイルスプリング33とエアポンプ30とをそれぞれ有する。ケース31は、前方へ開口する有底矩形筒状体であって、胴体部34と、胴体部34の後端の後面部35とが一体的に形成され、胴体部34の前端の前端開口36から後方へ直線状に延びる固定部材挿入孔38を有する。ケース31は、フロントバンパ3が通常位置に配置された状態で、丸端子付バンパ固定部材16が前端開口36から固定部材挿入孔38に挿入可能な位置に配置され、フロントアンダーランプロテクタブラケット11の車幅方向外側面に溶接やボルト(図示省略)等によって固定される。ストッパ32は、エアシリンダ41と、エアシリンダ41に挿入されて上下方向にスライド移動自在のピストンストッパ42とを有し、固定部材挿入孔38に挿入された通常位置の丸端子付バンパ固定部材16の丸端子28よりも前方の上下に2つ配置され、ピストンストッパ42側が対向した状態で固定部材挿入孔38の内面の上面と下面とに固定される。エアシリンダ41は内部にスプリング(図示省略)を有し、該スプリングはピストンストッパ42をエアシリンダ41から突出する方向へ付勢している。コイルスプリング33は、ケース31の内部に配置されて前後方向に伸縮可能なバネであって、後端がケース31の後面部35の前面に固定され、前端に角端子39が固定される。エアポンプ30は、ストッパ32に空気管40を介して連結され、コントローラ29からの作動信号を受信すると空気管40を介してストッパ32へ空気を供給する。
【0036】
図4(a)に示すように、衝突を回避できない状態であるとコントローラ29が判定しない間は、フロントバンパ3が通常位置に配置され、丸端子付バンパ固定部材16がケース31の前端開口36から固定部材挿入孔38に挿入されている。コイルスプリング33の角端子39が丸端子付バンパ固定部材16の丸端子28に後方へ押圧され、コイルスプリング33が後方へ収縮している。すなわち、コイルスプリング33は、丸端子付バンパ固定部材16を前方へ付勢している。ストッパ32のピストンストッパ42は、エアポンプ30から空気の供給を受けていない状態で丸端子28の前方の軸部27を上下方向から挟む。ピストンストッパ42の後面には、コイルスプリング33に付勢される丸端子付バンパ固定部材16の丸端子28の前面が当接している。このピストンストッパ42と丸端子28との当接により、コイルスプリング33の付勢力に抗して前方へのフロントバンパ3の傾動が規制される。
【0037】
コントローラ29は、衝突検知センサ13からの画像情報に基づいて衝突を回避できない状態であると判定すると、エアポンプ30へ作動信号を送信する。作動信号を受信したエアポンプ30は、ストッパ32へ空気を供給する。ストッパ32に空気が供給されると、エアシリンダ41の内部のスプリングの付勢力に抗して上下のピストンストッパ42がそれぞれエアシリンダ41に没入する方向へスライド移動する。上下のピストンストッパ42が互いに離間する方向へスライド移動すると、丸端子付バンパ固定部材16の前方への移動規制が解除され、フロントバンパ3がコイルスプリング33に前方へ付勢されて傾動する(
図4(b)参照)。フロントバンパ3は、コイルスプリング33の付勢力によって、ヒンジ部20の回転軸を支点として通常位置から前下方の展開位置まで傾動する。すなわち、衝突検知センサ13からの画像情報に基づいて衝突を回避できない状態であるとコントローラ29が判定すると、作動装置14は、フロントバンパ3を通常位置から展開位置まで傾動させる。展開位置の丸端子付バンパ固定部材16は、支持部26の回転軸を支点として前方へ傾動して倒れる。展開位置ではフロントバンパ3の他端部(上端部43)がトラック1の前面よりも前下方の路面23に接触し、フロントバンパ3が一端部(下端部22)から前下方へ展開して路面23に対して略45度傾斜する(
図2及び
図3(
図3中の1点鎖線で示す位置)参照)。トラック1は、ブレーキをかけて停車するまでの間、フロントバンパ3の緩やかに上方へ曲折する他端部(上端部43)側を路面に擦りながら前進する。
【0038】
次に、トラック1と歩行者とが衝突した場合の車両用歩行者保護装置10及び歩行者の動きについて説明する。なお、本実施形態では、トラック1が低車速(例えば、時速40km以下)で衝突した場合を想定している。
【0039】
コントローラ29が衝突検知センサ13からの画像情報に基づいて衝突を回避できない状態であると判定し、作動装置14がフロントバンパ3の傾動の規制を解除し、フロントバンパ3がコイルスプリング33の付勢力によって通常位置から前方へ傾動すると、トラック1の前方の歩行者の脚部にフロントバンパ3の上端部43が当接する。脚部を後方から押された歩行者は、頭部を車体側に向けた状態で倒れ、車体側で下方へ落下する歩行者の頭部は、展開位置のフロントバンパ3の裏面19に衝突する。
【0040】
上記のように構成された車両用歩行者保護装置10では、衝突検知センサ13からの画像情報に基づいて衝突を回避できない状態であるとコントローラ29が判定すると、作動装置14は、通常位置のフロントバンパ3を下端部22から前下方へ展開する展開位置へ傾動させる。このようなフロントバンパ3の傾動によってフロントバンパ3の上端部43側がトラック1の前面から前方へ移動するので、トラック1と歩行者とが衝突した場合、展開途中や展開位置まで達した後のフロントバンパ3の上端部43側が歩行者の脚部に後方から当接し易い。フロントバンパ3が歩行者の脚部に当接し、歩行者の脚部がフロントバンパ3によって前方へ押されると、歩行者は頭部を車体側に向けた状態で倒れ易くなる。
【0041】
また、フロントバンパ3の下端部22は、トラック1の前下端に設けられたフロントアンダーランプロテクタ6にヒンジ部20を介して連結される。このように、回転軸が比較的低い位置に配置されているので、フロントバンパ3が通常位置から展開位置へ傾動する際、フロントバンパ3が歩行者の脚部の低い位置に当たり易く、さらに歩行者が頭部を車体側に向けた状態で倒れ易くなる。
【0042】
また、トラック1と衝突した歩行者が頭部を車体側に向けた状態で倒れると、その歩行者の頭部は、トラック1の全面よりも前方へ展開する展開位置のフロントバンパ3に衝突し易い。フロントバンパ3の剛性は、通常位置でトラック1の前面に配置されて衝突物との衝突を緩和可能な剛性に設定されている。このため、例えば、コンクリートのような硬い路面に衝突する場合に比べて歩行者の頭部に加わる衝撃を低減することができる。また、展開位置で上面となるフロントバンパ3の裏面19に板状の衝撃吸収ゴム24が略全域に貼付されているので、歩行者の頭部に加わる衝撃を衝撃吸収ゴム24によってさらに低減することができる。
【0043】
また、歩行者の頭部が展開位置のフロントバンパ3に衝突した後に路面23に衝突したとしても、展開位置のフロントバンパ3への衝突の際に歩行者の頭部の落下速度が低下するので、フロントバンパ3に衝突することなく直接路面23に衝突する場合に比べて路面23から歩行者の頭部に加わる衝撃が低減する。
【0044】
また、フロントバンパ3の剛性は、通常位置でトラック1の前面に配置されて衝突物との衝突を緩和可能な剛性に設定されている。すなわち、一般的なバンパの機能を確保できる剛性に設定されている。このように、フロントバンパ3の剛性を特別に高めることなく衝突物に加わる衝撃を低減することができるので、トラック1と歩行者とが衝突して歩行者の頭部が上方からフロントバンパ3に衝突した際に、歩行者が頭部に傷害を負う可能性を低く抑えることができる。
【0045】
また、展開位置のフロントバンパ3が路面23に対して傾斜するので、車両と衝突した後に歩行者の頭部が略鉛直下方へ落下してもフロントバンパ3に対して垂直に衝突し難い。このため、フロントバンパ3に対して垂直に衝突する場合に比べて歩行者の頭部に加わる衝撃を低減することができる。また、路面23に対するフロントバンパ3の傾斜角度を歩行者の頭部に加わる衝撃を効果的に低減可能な好適な傾斜角度に設定しているので、歩行者の頭部を効果的に保護することができる。
【0046】
また、トラック1の前下端に設けられたフロントアンダーランプロテクタ6にフロントバンパ3の下端部22がヒンジ部20を介して連結され、展開位置のフロントバンパ3が一端部(下端部22)から前下方へ展開するので、展開位置のフロントバンパ3の他端部(上端部43)側がフロントアンダーランプロテクタ6よりも下方に配置される。このため、フロントアンダーランプロテクタ6と路面23との間隙をフロントバンパ3が前方から塞ぎ易く、フロントバンパ3の前方に倒れた歩行者がフロントアンダーランプロテクタ6の下方へ潜り込み難くなる。
【0047】
また、展開位置のフロントバンパ3がトラック1の前面よりも前下方の路面23に接触するので、展開位置のフロントバンパ3の他端部(上端部43)側と路面23との間隙を狭く抑えて、フロントバンパ3の前方に倒れた歩行者のトラック1の下方への潜り込みを確実に防止することができる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、トラック1が歩行者に衝突した際、歩行者を保護することができる。
【0049】
また、一度使用すると再使用することができない部品(例えば、インフレータ等)を必要としない簡易な構成なので、作動後に部品交換をすることなく車両用歩行者保護装置10を作動前の状態に復帰させて繰り返し使用することができ、車体の損傷が小さい場合には、運転者等が比較的容易に車両用歩行者保護装置10を作動前の状態に復帰させてトラック1を使用することができる。
【0050】
また、フロントバンパ3には、例えば、衝突した衝突物を路面上へ落とさないように受け止める場合のような高い剛性が要求されないので、一般的な既存のフロントバンパを用いることができる。このため、特別な補強等を必要とせず、コストの上昇を抑えることができる。
【0051】
なお、フロントバンパ3は、フロントアンダーランプロテクタ6に連結されなくてもよく、別個にブラケット等を設けて、該ブラケットを介してフロントバンパ3が車体フレーム7に対して回転可能に支持されてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、衝突検知センサ13とコントローラ29とがトラック1の前部への衝突を回避できない状態を検知することにより、トラック1の前部への衝突を検知する衝突検知手段として機能したが、これに限定されるものではなく、衝突検知手段として加速度センサやタッチセンサ等を設け、実際の衝突を検知してもよい。
【0053】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲では適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0054】
例えば、上記実施形態では、作動機構として作動装置14を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、コイルスプリング33に替えて、フロントバンパ3とフロントアンダーランプロテクタ6とを連結するヒンジ部20にねじりばね等を設け、該ねじりばねによってフロントバンパ3を前方へ付勢してもよい。この場合、展開位置のフロントバンパ3が上記ねじりばねによって路面23に向かって付勢されるので、フロントバンパ3の前方に倒れた歩行者がトラック1の下方へさらに潜り込み難くなる。
【0055】
また、展開位置のフロントバンパ3の他端部(上端部43)側と路面23との接触は、フロントバンパ3と路面23との隙間を狭く抑えていれば、車幅方向に延びる線接触や複数の点接触等であってよい。また、例えば、フロントバンパ3の上端部43側に車幅方向に沿った軸を中心として回転するローラーを設けて、該ローラーが路面23に接触してもよい。この場合、フロントバンパ3と路面23との摩擦抵抗を低減することができる。
【0056】
また、フロントバンパ3の裏面19に衝撃吸収材として衝撃吸収ゴム24を貼付したが、発泡ウレタン等であってもよい。或いは、衝撃吸収材を設けることなく、フロントバンパ3の裏面19の形状を衝撃吸収可能な形状(例えば、アーチ型等)に形成してもよい。