(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
単眼鏡及び双眼鏡等で代表される光学的な観測を目的とした望遠鏡を手で保持しつつ観察対象を観察するために前記望遠鏡を操作する場合、特に望遠鏡を航空機及び車両等に持ち込んでこれを使用する場合に、航空機及び車両等による振動等が筐体に加わり、それが原因で手振れとなるが、手振れにより光軸に対する観察対象からの光束の出射角度が変動し、その結果として観察対象の観察像(光学像)がぶれたり、解像度が悪くなる等、観察像が劣化してしまうことがある。光学装置例えば単眼鏡及び双眼鏡等の望遠鏡に伝わる振動がたとえ小さくても、望遠鏡においては視界が狭いこと、及び接眼レンズによって対物レンズの像が拡大されて観察されることにより、最終的には視覚に訴える光学像が劣化して観察されるので、望遠鏡の倍率が大きくなるにしたがって、振動等によって生じる光軸に対する光束の射出角度の変動及び観察される光学像の劣化を無視することができない。
【0003】
これまでに、望遠鏡に加わる手振れによって光軸に対する光束の射出角度が変動し、この変動によって観察される観察像が劣化することを補償する像安定化装置が種々提案されている。
【0004】
従来の手振れ補償機能付き望遠鏡として、例えば特許文献1に開示された像安定光学装置は、左右一対の対物レンズと、左右一対の接眼レンズと、左右一対の対物レンズ及び左右一対の接眼レンズの間に配置された左右一対の正立プリズムからなる光学系を持ち、この左右一対の正立プリズムを保持する一つのプリズム保持枠と、対物レンズと接眼レンズとの中間において、光軸に対して垂直な平面内で互いに直交する二軸を中心として回動可能にプリズム保持枠を支持するジンバル懸架装置と、ジンバル懸架装置に取り付けられているジャイロモータとを備えている。
【0005】
特許文献1に開示された像安定光学装置は、左右一対の正立プリズムを一つのプリズム保持枠で保持し、このプリズム保持枠を持つジンバル懸架装置を一つのジャイロモータで駆動しているので、駆動機構を簡略化することができる。
【0006】
しかしながら、この像安定光学装置が光学装置の横方向の振動に対応するときには、左右の正立プリズムの中心、つまり特許文献1における第1図及び第4図に示される交点Oで垂直方向の軸回りにプリズム保持枠を回転させると、例えば左光学系の正立プリズムが対物レンズ側に移動し、右光学系の正立プリズムが接眼レンズ側に移動するので、左光学系の対物レンズと正立プリズムとの間の距離と、右光学系の対物レンズと正立プリズムとの間の距離とが相違することになり、結果として右光学系を通じての見え方と左光学系を通じての見え方とが異なることになる。言い換えると、この特許文献1に記載された像安定光学装置は、左右方向の振動を処理するときには、右光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係と左光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係との同一性がなくなり、右光学系での見え方と左光学系での見え方とが相違するという問題点を有している。
【0007】
特許文献2に開示される像安定化装置は、光学系については前記特許文献1に記載された像安定光学装置と同じであり、左右一対の対物レンズと、左右一対の接眼レンズと、左右一対の対物レンズ及び左右一対の接眼レンズの間に配置された左右一対の正立プリズムと、この左右一対の正立プリズムを保持するプリズム保持枠と、対物レンズと接眼レンズとの中間において、光軸に対して垂直な平面内で互いに直交する二軸を中心として回転可能にプリズム保持枠を支持するジンバル懸架装置とを備え、このプリズム保持枠に配置された角速度情報検出手段により望遠鏡に加わる振動によって発生するところの、このジンバル懸架装置の回転角度情報を検出し、この検出値に基づき、振動による像ブレを補正するように前記ジンバル懸架装置を所定の位置にまで戻すように回動させるようにしている。
【0008】
この特許文献2に記載された像安定化装置では、ジンバル懸架装置のアクチュエータとして、ジャイロモータの代わりにジンバル軸を回転させる回転型モータを用いた駆動機構を採用しているので、軽量化、小型化を達成し、また消費電力も小さくて済むことになっているが、特許文献1に記載された像安定光学装置と同様に、左右方向の振動成分がある場合は、右光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係と左光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係との同一性が失われて、右光学系での見え方と左光学系での見え方とが異なってしまうという問題点が解決されていない。
【0009】
特許文献3に記載された観察用光学機器(双眼鏡)は、左右一対の対物レンズと、左右一対の接眼レンズと、左右一対の対物レンズ及び左右一対の接眼レンズの間に配置された左右一対の可変頂角プリズムと、機器本体の振れを検出するセンサーと、左右一対の可変頂角プリズムをそれぞれ駆動する複数のアクチュエータと、センサーで検出された振れに応じて各アクチュエータの駆動量を定める制御回路とを備えている。
【0010】
特許文献4に記載された手振れ補正機構付き双眼鏡は、左右一対の対物レンズと、左右一対の接眼レンズと、左右一対の対物レンズ及び左右一対の接眼レンズの間に配置された左右一対の補正レンズと、機器本体の振れを検出するセンサーと、左右一対の補正レンズを同時に駆動するアクチュエータと、センサーで検出された振れに応じてアクチュエータの駆動量を定める制御回路とを備えている。
【0011】
前記特許文献3及び特許文献4に記載された像安定化の手段は機構が小型になるとの利点があるものの、特許文献1,2の例に比べて補正可能なブレ量は小さく限界があり、特許文献1,2の方式は実用的に利用される範囲が広い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明の課題は、正立プリズムを対物レンズと接眼レンズとの間に配置した単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系に適用可能であり、前記正立プリズムを、単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系の光軸に直交し、且つ互いに直交する2軸の回りに回動させることで、手振れによって生じる観察像の劣化を補償するために像安定化装置を構成する主要要素のジンバル懸架装置を駆動する、小型で軽量で低コストの駆動手段を提供することにある。
更に言うと、この発明の課題は、単眼鏡及び双眼鏡等の光学装置が振動等を受けることで生じる手振れによって、光学装置の光軸に対する観察物体から射出される光束の射出角度が変動することによって生じる観察像の劣化を補償する単眼鏡及び双眼鏡の像安定化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するための手段は、
(1)正立プリズムを対物レンズと接眼レンズとの間に配置した単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系に適用可能な、手振れによって生じる観察像の劣化を補償する像安定化装置であって、
対物レンズと接眼レンズとを固設した筺体に、前記対物レンズと接眼レンズとを通る光軸に対して左右方向に延びる回動軸を持つように装着されたジンバル懸架装置を備え、
前記回動軸は前記光軸に直交する、互いに共通の回動軸線を有し、
前記ジンバル懸架装置は、前記回動軸により回動可能に支持され、且つ正立プリズムを固設する正立プリズム支持枠と、正立プリズムまたは正立プリズム支持枠に装着され、且つ手振れで生じる正立プリズムの角度変位を検出する角速度検出素子と、正立プリズム支持枠を回動させるボイスコイルモータとを備え、
前記ボイスコイルモータは、中空コイルの中心部に位置検出素子を装着した中空コイル部材を装着した第1のヨーク部と、この第1のヨーク部の中空コイルが装着された面に垂直方向に磁界を生成する永久磁石を装着した第2のヨーク部とを備え、第1のヨーク部と第2のヨーク部とが所定間隔のギャップを以って相対向するように、かつ相対的に可動可能に配置されることを特徴とする像安定化装置であり、
(2)正立プリズムを対物レンズと接眼レンズとの間に配置した単眼鏡光学系又は双眼鏡光学系に適用可能な、手振れによって生じる観察像の劣化を補償する像安定化装置であって、
対物レンズと接眼レンズとを固設した筺体に、前記対物レンズと接眼レンズとを通る光軸に対して左右方向に延びると共に該光軸に直交し、互いに共通する第一の共通回動軸線を有する第一の回動軸と、上下方向に延びると共に該光軸に直交し、互いに共通する第二の共通回動軸線を有する第二の回動軸とを持つように装着されたジンバル懸架装置を備え、
前記ジンバル懸架装置は、2本の回動軸のうちの第1の回動軸を持った外枠と、外枠の内側に装着された2本の回動軸のうちの第2の回動軸を持った正立プリズムを固設する正立プリズム支持枠とを有し、正立プリズムまたは正立プリズム支持枠には手振れで生じる正立プリズムの角度変位を検出する角速度検出素子と、外枠および正立プリズム支持枠をそれぞれ回動させる2基のボイスコイルモータとを備え、
前記ボイスコイルモータそれぞれは、中空コイルの中心部に位置検出素子を装着した中空コイル部材を装着した第1のヨーク部と、この第1のヨーク部の中空コイルが装着された面に垂直方向に磁界を生成する永久磁石を装着した第2のヨーク部とを備え、第1のヨーク部と第2のヨーク部とが所定間隔のギャップを以って相対向するように、かつ相対的に可動可能に配置されることを特徴とする像安定化装置であり、
(3)ボイスコイルモータを構成する第2のヨーク部に対面する第1のヨーク部の面の形状が、第2のヨーク部に装着した永久磁石の、第1のヨーク部に対向する面の形状と同じであることを特徴とする前記(1)、又は(2)に記載の像安定化装置であり、
(4)前記第1のヨーク部と第2のヨーク部とが分離して成ることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の像安定化装置であり、
(5)ジンバル懸架装置の外枠に中空コイルの中心部に位置検出素子を備えた中空コイル部材を装着した第1のヨーク部を固設し、前記第1のヨーク部に対向して、永久磁石を装着した第2のヨーク部を筐体側に固設し、またジンバル懸架装置の正立プリズム支持枠に永久磁石を装着した第2のヨーク部を固設し、この第2のヨーク部に対向して配置され、かつ中空コイルの中心部に位置検出素子を備えた中空コイル部材を装着した第1のヨーク部をジンバル懸架装置の外枠に固設したことを特徴とする前記(2)記載の像安定化装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係る像安定化装置は、単眼鏡や双眼鏡の光学装置に加わる手振れによって生じる観察像の劣化を補償することが出来、しかも像安定化装置の設計自由度の制約が少なく、ジンバル駆動機構が簡単でコストの削減及び小型化を図ることが出来るので、レーザー測距装置などにも適用可能で、広い分野での利用が可能になる。
【0016】
また、この発明の他の効果として、双眼鏡に適用した場合には双眼鏡光学系の正立プリズムを個別のジンバル懸架装置に装着しているので、特許文献1,2の技術的な問題点、すなわち双眼鏡の像安定化装置で左右方向の振動を補償する場合は、右光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係と左光学系を構成する複数の光学部品相互の位置関係との同一性が失われて、右光学系での見え方と左光学系での見え方とが異なるという問題点も解決した像安定化装置を提供することが出来る。
【0017】
なお、この発明に係る像安定化装置は、振動や動揺による観察像の劣化を補償する機能を有する、正立プリズムを装着したジンバル懸架装置を、簡単な構成である小型のボイスコイルモータで駆動するので、上下方向のみの振動成分による観察像の劣化を補償する簡易型の望遠鏡及び双眼鏡にも適用可能である。
この発明に係る像安定化装置は、ジンバル懸架装置の外枠に中空コイルの中心部に位置検出素子を備えた中空コイル部材を装着した第1のヨーク部を固設し、前記第1のヨーク部に対向して、永久磁石を装着した第2のヨーク部を筐体側に固設し、またジンバル懸架装置の正立プリズム支持枠に永久磁石を装着した第2のヨーク部を固設し、この第2のヨーク部に対向して配置され、かつコイルの中心部に位置検出素子を備えた中空コイル部材を装着した第1のヨーク部をジンバル懸架装置の外枠に固設することによって、駆動信号系のケーブルの配線を簡略化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明に係る単眼鏡としての像安定化装置の例を示し、
図2は、この発明に係る双眼鏡としての像安定化装置の例を示す。
【0020】
この発明に係る像安定化装置は、例えば
図1に示されるように、筐体8に対して回動自在に装着したジンバル懸架装置10に装着した正立プリズム1を筐体8に固設した光軸6を持った対物レンズ2と接眼レンズ3との間に配置した単眼鏡光学系4を有するので、筐体8に手振れが加わった場合でも、正立プリズムは手振れが加わる前の初期位置を維持することができる。
この発明に係る像安定化装置が、双眼鏡に適用される場合には、例えば
図2に示されるように、
図1で示した一対の単眼鏡の像安定化装置4、4´が、それぞれの光軸6、6´が平行になるように、連結部材Rで連結して成る双眼鏡5に組み込まれる。
【0021】
なお、この発明に係る像安定化装置は、単眼鏡及び双眼鏡に適用されるが、
図1で示されるように、単眼鏡に適用された像安定化装置における光学系と、
図2で示されるように、双眼鏡に適用された像安定化装置における光学系とは同一であるから、以下における像安定化装置の詳細な説明は、単眼鏡を例として行う。
【0022】
この発明に係る像安定化装置は、筐体に与えられた振動又は搖動により生じる観察像の劣化を補償すべく正立プリズムを装着したジンバル懸架装置を回動させる駆動手段としてのボイスコイルモータを備え、前記ボイスコイルモータは後述のように、分離して対向配置される第1のヨーク部と第2のヨーク部を持ち、第1のヨーク部には中空コイルの中心部に位置検出用の位置検出素子、例えば磁気感応素子を装着した中空コイル部材を装着し、第2のヨーク部には永久磁石を装着し、第1のヨーク部と第2のヨーク部とを所定間隔のギャップを持つよう対向配置し、第1のヨーク部と第2のヨーク部とが相対的に可動可能な構造を有している。
この発明においては、直線運動を実現するために採用されるボイスコイルモータをジンバル懸架装置に組み込むことにより、ジンバル懸架装置における回動運動乃至搖動運動を実現する。
【0023】
前記正立プリズム1としては、シュミット(Schmidt)の正立プリズム、アッベ(Abbe)の正立プリズム等を挙げることができる。
図1においてはシュミットの正立プリズムが示されている。シュミットの正立プリズム1は、プリズム1aとプリズム1bとを有し、プリズム1bにダハ面が形成されているので、入射光軸と出射光軸とが同一直線上に位置することになる。以下の説明は、シュミットの正立プリズムを用いた場合に関する。
【0024】
図1に示すジンバル懸架装置10は、
図5に示すように光軸6に直交する左右方向の回動軸52と、上下方向の回動軸51を持つが、前記2つの回動軸51,52と光軸6との交点が対物レンズと接眼レンズとの間の中央点にある。換言すれば、対物レンズ2から正立プリズム1の入射面までの光学距離Lと、正立プリズム1の入射面から出射面までの機械的距離Mと、前記正立プリズム1の出射面から接眼レンズ3までの光学距離Nとの和S(S=L+M+N)の1/2だけ対物レンズ2又は接眼レンズ3から変位した点に前記交点が位置するように設定されている。実際には、対物レンズ系及び接眼レンズ系のいずれも肉厚を有する複数枚のレンズによって構成されているので、前記ジンバル懸架装置の2つの回動軸51,52の位置は厳密には、対物レンズ系の後側主点から前記正立プリズムの入射面までの光学距離と、前記正立プリズムの入射面から出射面までの間の機械的距離と、前記正立プリズムの出射面から接眼レンズ系の前側主点までの光学距離との和の1/2だけ対物レンズ2の後側主点又は接眼レンズ3の前側主点から変位した点にあることになる。正立プリズムを用いた像安定化装置の原理については、特許文献1に詳述されているので省略する。
【0025】
従来の技術では、ジンバル懸架装置を駆動する手段としては、ジンバル懸架装置を懸架する軸を駆動する回転型のモータと、ポテンションメータのような位置検出装置とを用いていたが、軸を駆動する回転型モータとしてはジンバルを構成する枠に比べて比較的大きな形状のものが必要であり、取付位置やモータの直径、厚み等の形状の制約もあり、像安定化装置の小型軽量化には限界があった。この発明では、ジンバル懸架装置を駆動する手段として、
図4に示すような比較的薄い一対の板状の第1のヨーク部41及び第2のヨーク部42を備え、位置検出素子36を組み込んだ構造を持つボイスコイルモータを用いる。この発明では、このような構造を有するボイスコイルモータを採用することにより、ボイスコイルモータの装着位置が自由に選べることができるようになる。その結果として、この発明の像安定化装置を採用することにより、この像安定化装置を組み込んで光学装置は、設計上の自由度が増え、小型軽量化を達成することができる。
【0026】
図3は一般的なボイスコイルモータの一例を示すもので、
図3(a)は該ボイスコイルモータの断面図、
図3(b)は平面図、
図3(c)は該ボイスコイルモータに使用される永久磁石の構成を示す平面図、
図3(d)はその側面図を示す。
図3に示されるように、一般的なボイスコイルモータは、U字型の鉄心からなる固定ヨーク31と、該固定ヨークの内側の対向する1面に装着された永久磁石32と固定ヨーク31の内側の他の1面で構成されるギャップ34内で移動可能な中空コイル33と、中空コイル33の中央部に設置した位置検出素子36で構成される。なお35は中空コイルを支持するプリント基板等の支持板を示す。
【0027】
永久磁石32は
図3(c),(d)に示されるように板状の強力な磁石で構成される。永久磁石は、厚み方向に着磁され、着磁の方向は板状領域の中央部を境としてN、Sで示すように逆方向に着磁されている。
【0028】
このような永久磁石32を固定ヨーク31の内側の一面に
図3(a)に示されるように装着することにより固定ヨーク31内の磁界は、中空コイル33の移動工程の中間部分を境として互いに逆方向に、かつ固定ヨーク31のギャップ34を持った対向面に垂直な方向に生成される。
【0029】
したがって、このような磁界を有する固定ヨーク31内に、中空コイル33を
図3に示す如く配置し、この中空コイル33に電流を流すと、中空コイル33は電流の方向に応じて
図3(b)の矢印で示す方向に移動することが出来る。
【0030】
したがって、前記中空コイル33を支持する支持板35に、図示されていない被移動部材を連結することで被移動部材をリニア駆動することが出来る。
【0031】
また、前記中空コイル33の中心部に位置検出素子36としてホール素子や磁気抵抗素子のような磁気感応素子を配置することで、可動する中空コイル33の位置を検出する位置検出信号を出力することが出来る。
【0032】
本発明に適用する好適なボイスコイルモータは、
図4(a)で示されるように、前記U字型の固定ヨークに代わって、板状の形状を持つ2つに分離して対向配置される分離型の第1のヨーク部41と第2のヨーク部42とを持ち、第1のヨーク部41は、中空コイル33の中心部に位置検出用の位置検出素子36、例えば磁気感応素子を装着した中空コイル33を装着し、第2のヨーク部42には板状の永久磁石32を装着し、第1のヨーク部と第2のヨーク部とを所定間隔のギャップ44を持つよう対向配置し、第1のヨーク部41と第2のヨーク部42とが相対的に可動可能な構造を特徴としている。なお、
図4に示される永久磁石32は、
図3に示される永久磁石32と同様である。
【0033】
中空コイル33は、支持板43を介して第1のヨーク部41に固着しており、支持板43には位置検出用素子36も装着しており、中空コイル33に電流を流すと電流の方向によって、第2のヨーク部42を固定子とすれば、第1のヨーク部41は中空コイル33と一体となって移動子となり、例えば
図4(b)の矢印方向に移動する。
【0034】
また、前述の第1のヨーク部41を固定子とすれば、相対的に第2のヨーク部42が可動子として永久磁石と共に移動し、第2のヨーク部42を固定子とすれば、相対的に第1のヨーク部41が可動子して移動する。
【0035】
図4に於いて、第1のヨーク部41の、第2のヨーク部42に相対向する面の平面形状を永久磁石32の、第1のヨーク部41に相対向する面の平面形状と同じ形状にすると、中空コイルに通電しない状態では、
図4(a)に示すように第1のヨーク部41と第2のヨーク部42とがそれぞれの対向面における中心を一致させて対向配置した状態(正対状態)となる。したがって、正対状態を実現することにより第1のヨーク部41及び第2のヨーク部42の初期位置の安定化が図られる。この場合、第1のヨーク部41の前記平面形状は永久磁石32における第1のヨーク部41に対向する面と同形状が望ましいが、前記正対状態を実現することができる限り厳密に同じ形状でなくともよい。
【0036】
図5に、
図1で示した単眼鏡の主要構成部の斜視図を示し、
図6に
図5で示したジンバル懸架装置の対物レンズ側から見た端面図を示す。この端面図は正面図でもある。なお、図面が煩雑になるのを避けるため、
図5では
図1で示した筐体8は省略して図示していない。
【0037】
図5、及び
図6に於いて、ジンバル懸架装置10は、
図6の正面視で略方形の枠体に形成され、且つ左右方向に延びた回動軸52を持つ外枠53と、前記外枠53の枠内に収容可能な大きさとなるように略方形の枠体に形成され、且つ上下方向に延びた回動軸51を持つ正立プリズム支持枠54とを備え、正立プリズム支持枠54は、その内側に正立プリズム1を取り付け、外枠53の内側に装着されている。正立プリズム支持枠54の持つ回動軸51は外枠53に設けられた軸受55に連結しており、正立プリズム支持枠54は回動軸51を中心として回動する。また、図に於いて左右方向に延びた回動軸52を持つ外枠53は筐体8に固設された軸受56に連結しており、外枠は水平な回動軸52を中心として回動する。
【0038】
図5、及び
図6では、ジンバル懸架装置10の外枠53には左右方向に延びた回動軸52が取付けられ、正立プリズム支持枠54には上下方向に延びた回動軸51が取付けられているが、上下方向に延びた回動軸を取付けた外枠と、左右方向に延びた回動軸を取り付けた正立プリズム支持枠とを有する構造を持つジンバル懸架装置を用いても本発明が奏する同様な効果が得られるので、このようなジンバル懸架装置も本発明の技術的範囲に属する。
【0039】
上記ジンバル懸架装置10の正立プリズム支持枠54、外枠53を回動させるために、駆動装置として、
図4で説明した分離型のヨークを持ったボイスコイルモータを2基使用する。外枠53を駆動する第1のボイスコイルモータ57は、
図6に示すように外枠53における右側の縦桟の外側側面に中空コイル33aを装着した第1のヨーク部41aを固設し、第1のヨーク部41aに対面して、永久磁石32aを持った第2のヨーク部42aを筐体側8に固設する。
【0040】
正立プリズム支持枠54を駆動する第2のボイスコイルモータ58は、
図6に示すように正立プリズム支持枠54の下側横桟の下面に中空コイル33bを装着した第1のヨーク部41bを固設し、この第1のヨーク部41bに対面して、永久磁石32bを持った第2のヨーク部42bを外枠53の下側横桟の上面に固設する。
【0041】
また、このジンバル懸架装置の正立プリズム支持枠54、または正立プリズム支持枠54に装着される正立プリズム1には、プリズムの水平、垂直軸回りの回転を検出する2軸角速度検出素子59(
図5参照)が装着されており、正立プリズムの軸回り回転角速度を出力する。
【0042】
この発明に係る像安定化装置におけるボイスコイルモータは、2軸角速度検出素子59により検出される角速度情報と、ボイスコイルモータの中空コイルに内蔵された回転位置検出素子36(
図4)の水平軸方向及び垂直軸方向の角度位置情報に基づいて、たとえば
図7に示される上下、左右のボイスコイルモータ駆動回路により駆動される。
【0043】
さらに詳しくジンバル懸架装置によって像安定化装置を操作する手段を説明すると、ジンバル懸架装置に装着された正立プリズムは、手振れによって初期の光軸上の位置から回動して移動するが、正立プリズム又は正立プリズムを保持する支持枠に装着された角速度検出素子によって検出された角速度情報と、ボイスコイルモータの中空コイルに装着した位置検出素子例えば回転位置検出素子で検出した正立プリズムの角度移動量とから、正立プリズムの移動量情報を演算してボイスコイルモータを駆動することで、正立プリズム移動量を補償し、正立プリズムの初期位置の姿勢を保持する。
【0044】
図7におけるGain比率調整回路は、2軸角速度検出素子からの角速度情報に基づく角速度帰還ループのGainと、ジンバル懸架装置を水平及び垂直軸方向に駆動するボイスコイルモータ内の位置検出素子からの角度位置情報に基づく位置決め帰還ループのGainとの比率によって、像安定化装置としての単眼鏡に適した特性となるように角速度帰還ループのGainと位置決め帰還ループのGainとの比率が調整されるように構成される。位相補償フィルターとGain調整回路とは、全体のGainを上げすぎると発振して音または熱となってエネルギーを無駄に消費してしまうことを防止するために、発振しない程度で閉ループGainを調整するとともに、フィルターの特性を調整して応答性、残存誤差及び位相余裕等を改善する。ボイスコイルモータドライブ回路は、BTL(Bridged Transformer Less)回路や、H-bridge回路の出力段を飽和電圧の小さなMOS-FETとしたり、PWM駆動したりすることにより、電源利用効率を改善したMotor-Drive-ICで構成することが出来る。
【0045】
上記の駆動回路は、2軸角速度センサーを用いているが単軸角速度センサーを正立プリズム支持枠と外枠に1基ずつ計2基用いても良い。
【0046】
図1に於いて説明した対物レンズと接眼レンズとの間に回動可能な正立プリズムを配置した像安定化装置では、正立プリズムの回動範囲は5度程度と小さいので上述のようなボイスコイルモータをジンバル懸架装置の駆動装置として効果的に適用可能である。
【0047】
図4で説明した、ヨーク分離型のボイスコイルモータをジンバル懸架装置の駆動装置として使用した場合は、中空コイルを装着した第1のヨーク部と永久磁石を装着した第2のヨーク部は、どちらを固定子として使用し、どちらを可動子として使用しても同様な効果が得られるので、取付場所に関しても複数の構造態様を取ることが出来、設計上の自由度が大きく利用価値が高い。特に、ボイスコイルモータにおけるヨークを分離型にすることにより、つまりヨーク分離型のボイスコイルモータを採用すると、小さな空間にこのボイスコイルモータを設置することができ、ジンバル懸架装置の回動運動を実現することができ、像安定化装置及びこの像安定化装置を組み込んだ光学装置の小型化を実現することができる。さらに、このボイスコイルモータに位置検出素子を組み込むことにより、ボイスコイルモータ自体を小型化することができる。
【0048】
図8に2基のボイスコイルモータでジンバル懸架装置を駆動する他の実施例を示す。
図8に示されるように、ジンバル懸架装置10の外枠53を駆動するボイスコイルモータ57は、筐体8側に永久磁石32aを装着した第2のヨーク部42aを固定子として固着し、永久磁石32aに対向して中空コイル33aを装着した第1のヨーク部41aを所定間隔のギャップをもって外枠53に移動子として固着し、ジンバル懸架装置10の正立プリズム支持枠54を駆動するボイスコイルモータ58は、永久磁石32bを装着した第2のヨーク部42bを移動子として正立プリズム支持枠54に固着し、永久磁石32bに対向して中空コイル33bを装着した第1のヨーク部41bを所定間隔のギャップをもって外枠53に固定子として固着している。
【0049】
図8に示されるボイスコイルモータを装架する像安定化装置にあっては、ボイスコイルモータドライブ回路から中空コイル部材33a、33bに通電する電源線61aと、中空コイル部材33a、33bの中央部に配置される位置検出素子(図示してない)の位置信号線61bとを外枠53にまとめて配設することができ、配線をジンバル懸架装置の外枠のみに集中できるので、
図8に示すようにジンバル懸架装置の外枠53と正立プリズム支持枠54に配線が交差することなく簡単かつコンパクトにまとめることが出来、組立も容易になると同時に信頼性を向上させることが出来るという大きな利点がある。
【0050】
特許文献1にも記載されているように、単眼鏡や双眼鏡に加わる振動や、搖動は上下方向の成分が圧倒的に多い。したがって、手振れの上下方向の成分に起因する観察像の劣化を補償するだけでも実用に耐える簡易型の像安定化装置を得ることが出来る。
【0051】
この発明に係る簡易型の像安定化装置の他の実施例の斜視図を
図9に、
図9の対物レンズ側より見た端面図を正面図として
図10示す。
図10に示される簡易型の像安定化装置は、像安定化の上下方向の手振れ成分に対する観察像の劣化を補償する。
図5に示される、水平方向と垂直方向とに回動軸を持った2軸のジンバル懸架装置を備えた像安定化装置に対して、
図10に示される像安定化装置は、水平方向の回動軸のみを持った1軸ジンバル懸架装置を有する。理解を容易にするため、図における符号は、
図5と同じものを用いる。
【0052】
図9、10に示すように、対物レンズ2と接眼レンズ3とは筐体8(
図1及び
図2参照、
図9では図示してない)に固設し、筐体8に対して上下方向に回動自在に装着された左右方向に延びる水平軸52を持つ正立プリズム支持枠54aに前記正立プリズム1を固設する。
【0053】
前記正立プリズム支持枠54aは、
図5に示す内枠54に相当するもので、正立プリズム1は、取付補助部材62を介して正立プリズム支持枠54aに固着されている。
【0054】
像安定化装置は、正立プリズム1、または正立プリズム1を固設する正立プリズム支持枠54aに、筐体8に与えられた上下方向の手振れ成分を検出する角速度検出素子59aを装着し、正立プリズム支持枠54aを回動させる手段としてのボイスコイルモータ57aを備え、前記ボイスコイルモータ57aはコイルの中心部に位置検出用の位置検出素子(図示せず。)を装着した中空コイル部33aを装着した第1のヨーク部41aと、永久磁石32aを装着した第2のヨーク部42aを所定間隔のギャップを持つよう対向配置し、第1のヨーク部41aと第2のヨーク部42aとが相対的に可動可能な構造を有するボイスコイルモータ57でジンバル懸架装置10を回動させる構造を有する。
【0055】
前記角度検出素子59aは手振れの上下方向の成分を検出する1軸角速度検出素子でよく、
図7に示すボイスコイルモータの駆動回路の上部のみの1回路だけを用いれば良い。