特許第6187963号(P6187963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6187963アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187963
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   C25D11/18 301G
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-128642(P2013-128642)
(22)【出願日】2013年6月19日
(65)【公開番号】特開2015-4083(P2015-4083A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼市 秀俊
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−258504(JP,A)
【文献】 特開昭52−88237(JP,A)
【文献】 特開2005−97707(JP,A)
【文献】 特開昭52−15437(JP,A)
【文献】 特開2003−160897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の2価のマンガン塩、並びにスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤及び硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、ニッケル塩を含有しない水溶液からなるアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
【請求項2】
水溶性の2価のマンガン塩を0.1〜300g/L、アニオン性界面活性剤を0.05〜40g/L含有するpH5.3〜6.5の水溶液である請求項1に記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
【請求項3】
マンガン塩が、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、及びメタンスルホン酸マンガンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
【請求項4】
マンガン塩が、酢酸マンガンである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
【請求項5】
アニオン性界面活性剤が、疎水基として、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基、又はこれらの基が互いにエーテル結合若しくはエステル結合で結合した基を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
【請求項6】
アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩及びアルキル硫酸エステル塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜封孔処理液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、液温が65〜85℃である封孔処理液中に、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬することを特徴とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液、及び該封孔処理液を用いる封孔処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜には、汚れ防止、耐食性の向上等を達成するため封孔処理を施すのが一般的である。封孔処理方法としては、沸騰水封孔、水蒸気封孔、常温封孔、酢酸ニッケル水溶液を用いて封孔処理を行う酢酸ニッケル封孔等が知られている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
また、装飾性を高めるために陽極酸化皮膜に染色を行うことがある。染色した陽極酸化皮膜に封孔処理を行う場合、沸騰水封孔又は水蒸気封孔では激しい色抜けや、カブリ、粉ふき、虹、ブルーミングなどと呼ばれる皮膜表面が粉状の層で覆われる外観不良が発生しやすく、常温封孔でも染料の封孔処理液への移行(いわゆる「泣き出し」)が多く発生してカブリ不良となりやすい。このため、陽極酸化皮膜に染色を行った場合の封孔処理方法としては、染料の皮膜への定着率が高く、沸騰水封孔に比べて皮膜の耐食性が得られやすい酢酸ニッケル封孔が特に多く用いられている。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケルアレルギーや微粉末性のニッケル塩の有毒性が問題になっていることから、ニッケル塩を用いない封孔処理方法によって、酢酸ニッケル封孔と同程度の染料定着性及び耐食性を有するアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の染色処理品を製造することが望まれている。
【0005】
また、酢酸ニッケル封孔は、通常、90℃以上の高温の封孔浴を用いて行われており、省エネルギー、封孔浴の高温に対する安全性等の観点から比較的低い温度で封孔可能な封孔処理方法も望まれている。
【0006】
以前から、ニッケル塩を用いない封孔処理方法が提案されている(下記特許文献1、特許文献2等参照)。特許文献1及び2には、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属を含む封孔処理液を用いた封孔処理方法が記載されている。しかしながら、これらの封孔処理方法は、封孔処理液への染料の移行(泣き出し)が非常に多く、酢酸ニッケル封孔を行ったものに比べて、色抜け、色変わり、色ムラ模様等の多いものしか得られないという問題点がある。
【0007】
また、比較的低温での封孔としては常温封孔があるが、常温封孔はフッ化ニッケルなどのニッケル塩を用いて行うものであるためニッケルフリーの封孔処理ではなく、さらに染料染色品への封孔では上記したようにカブリ不良が起こりやすいという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−511972号公報
【特許文献2】特開平5−106087号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】軽金属出版社編 アルミニウム表面技術便覧 金属塩封孔処理の項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ニッケル塩を含有しない封孔処理液であって、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜の外観を損なうことなく、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度の染料定着性を付与でき、さらに耐食性、封孔度等の封孔性能を同程度付与することができ、しかも、酢酸ニッケル封孔を行う場合に比べ、比較的低い温度で封孔処理を行うことが可能な新規なアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理液及び封孔処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を2価のマンガン塩及び特定のアニオン性界面活性剤を含有する封孔処理液に浸漬することによって、皮膜外観を損なうことなく、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度の染料定着性を付与でき、さらに耐食性、封孔度等の封孔性能を同程度付与することができ、しかも、酢酸ニッケル封孔を行う場合に比べ、比較的低い温度で封孔処理を行うことが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液、及び該封孔処理液を用いる封孔処理方法を提供するものである。
項1. 水溶性の2価のマンガン塩、並びにスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤及び硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有する水溶液からなるアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
項2. 水溶性の2価のマンガン塩を0.1〜300g/L、アニオン性界面活性剤を0.05〜40g/L含有するpH5.3〜6.5の水溶液である上記項1に記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
項3. マンガン塩が、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、及びメタンスルホン酸マンガンからなる群より選ばれた少なくとも1種である上記項1又は2に記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
項4. マンガン塩が、酢酸マンガンである上記項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
項5. アニオン性界面活性剤が、疎水基として、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基、又はこれらの基が互いにエーテル結合若しくはエステル結合で結合した基を有するものである上記項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液。
項6. アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩及びアルキル硫酸エステル塩からなる群より選ばれた少なくとも1種である上記項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理液。
項7. 上記項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬することを特徴とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理方法。
項8. 封孔処理液の液温が65〜95℃である上記項7に記載のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔処理方法。
項9. 上記項7又は8に記載の方法により封孔処理されたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品。
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0014】
封孔処理液
本発明の封孔処理液は、2価のマンガン塩、並びにスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤及び硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤からなる群より選ばれた少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有する水溶液からなるものである。
【0015】
2価のマンガン塩としては、水溶性の塩であれば特に限定なく使用できる。このような2価のマンガン塩としては、硫酸マンガン、硝酸マンガン等の無機塩、酢酸マンガン等のカルボン酸塩、メタンスルホン酸マンガン等の有機スルホン酸塩等が好ましく、pH緩衝性のある酢酸マンガンが特に好ましい。これらの2価のマンガン塩は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0016】
本発明の封孔処理液では、2価のマンガン塩の濃度が低すぎる場合には、十分な耐汚染性、耐食性、封孔度等が得られないので好ましくない。また、濃度が高すぎる場合には、カブリなどの外観不良が発生しやすく、やはり好ましくない。よって、このような観点から2価のマンガン塩の濃度は、0.1〜300g/L程度とすることが好ましく、1〜150g/L程度とすることがより好ましい。
【0017】
アニオン性界面活性剤としては、親水基がスルホン酸塩であるスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤、又は親水基が硫酸エステル塩である硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤であれば特に限定なく使用できる。このようなアニオン性界面活性剤としては、疎水基としてアルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基、アルキルナフチル基等を有するスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤、同様の疎水基を有する硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤等が例示される。これらの疎水基は、互いにエーテル結合又はエステル結合で結合したものであってもよい。
【0018】
また、このようなアニオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等のスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤;アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩型アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0019】
アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩等に含まれるアルキル基としては、炭素数6〜30程度の直鎖又は分岐の高級アルキル基が挙げられる。このような高級アルキル基の具体例としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコサニル、トリアコンタニル等が挙げられる。
【0020】
アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等における置換基として含まれるアルキル基としては、炭素数1〜20程度の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコサニル等が挙げられる。
【0021】
また、塩の形態としては、水溶性の塩であれば特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。これらのアニオン性界面活性剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0022】
本発明の封孔処理液では、アニオン性界面活性剤の濃度が低すぎる場合には、十分な耐汚染性、耐食性及び封孔度が得られないので好ましくない。また、濃度が高すぎる場合にはシミ状ムラなどの外観不良が発生しやすく、やはり好ましくない。よって、このような観点からアニオン性界面活性剤の濃度は、0.05〜40g/L程度とすることが好ましく、0.2〜20g/L程度とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の封孔処理液は、pHが5.3〜6.5程度の範囲内にあることが好ましく、5.5〜6.3程度の範囲内にあることがより好ましい。pHがこの範囲内にある場合には、後述する条件で封孔処理を行うことによって、陽極酸化皮膜の外観を損なうことなく染料定着性を向上させることができ、さらに耐食性、封孔度等の封孔性能を向上させることができる。これに対してpHが低すぎると、十分な耐汚染性、耐食性、封孔度等が得られないので好ましくない。一方、pHが高すぎる場合には、カブリなどの外観不良が発生しやすく、やはり好ましくない。封孔処理液のpHは、例えば、酢酸、硝酸、硫酸等の酸類の水溶液;アンモニア水、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の弱アルカリ類の水溶液を用いて上記pH範囲となるように調整すればよい。
【0024】
本発明の封孔処理液は、封孔性能、液の使用実用性等を向上させるために、必要に応じて、pH緩衝剤、pH調整剤、分散剤、防かび剤、錯化剤等の添加剤成分を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酢酸、酢酸塩、硝酸、硝酸塩、アンモニア、アンモニウム塩等のpH緩衝剤又はpH調整剤;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等のスルホン酸系分散剤;安息香酸、安息香酸塩等の防カビ剤;クエン酸、クエン酸塩等の錯化剤などが挙げられる。
【0025】
封孔処理方法
本発明の封孔処理方法では、処理対象物はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品である。
【0026】
処理対象とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜は、一般的なアルミニウム合金に硫酸、シュウ酸等を用いた公知の陽極酸化法を適用して得られたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜であればよい。アルミニウム合金としては特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金を陽極酸化の対象とすることができる。アルミニウム合金の具体例としては、JISに規定されているJIS−A 1千番台〜7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等が挙げられる。
【0027】
アルミニウム合金に施される陽極酸化法としては、例えば、硫酸濃度が100〜400g/L程度の水溶液を用い、液温を0〜30℃程度として、0.5〜4A/dm程度の陽極電流密度で電解を行う方法が挙げられる。
【0028】
また、本発明の封孔処理方法においては、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に染色又は電解着色を施したものを処理対象としてもよい。
【0029】
染色方法としては、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜染色用染料を用いた染色方法であれば、いかなる方法で行われていてもよい。例えば、染料の水溶液にアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を浸漬する方法が挙げられる。染料としては、一般的なアルミニウム合金の陽極酸化皮膜染色用染料を用いることができる。具体的には、クロム含金アゾ系、無含金アゾ系、無含金キサンテン系、無含金アントラキノン系、銅フタロシアニン系、鉄含金アゾ系等の染料が挙げられる。これらの染料は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。
【0030】
電解着色方法としては、公知の着色技術の方法を採用できる。例えば、陽極酸化を行った後、電解着色浴に浸漬し、二次電解を行うことにより陽極酸化皮膜に着色を施すことができる。電解着色浴としては、ニッケル塩−ホウ酸浴、ニッケル塩−スズ塩−硫酸浴などを例示できる。
【0031】
本発明の封孔処理方法では、上記したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品を被処理物として用い、前述した封孔処理液中に被処理物を浸漬すればよい。また、必要に応じて、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜を有する物品に染色、電解着色等を施した後、十分に水洗を行い、前述した封孔処理液中に被処理物を浸漬してもよい。これにより、被処理物のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の染料定着性を向上させることができ、さらに耐食性、封孔度等の封孔性能を大きく向上させることができる。
【0032】
また、本発明の封孔処理方法では、前述した封孔処理液を用いることにより、酢酸ニッケル封孔を行う場合に比べ、比較的低温で封孔処理を行うことができる。封孔処理温度は、酢酸ニッケル封孔を行う場合と同様に90℃以上であってもよく、65〜95℃程度であることが好ましい。熱エネルギー削減、作業安全性、封孔性能等の観点から、70〜85℃程度であることがより好ましい。
【0033】
封孔処理時間は、通常、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚により決定することができる。処理時間が極端に短い場合には十分な耐食性、封孔度、耐汚染性等の向上が認められない。また、処理時間が極端に長い場合には、カブリなどの外観不良が生じ、陽極酸化皮膜の外観を損なうことがあるので好ましくない。このため、封孔処理時間は、通常、膜厚(μm)数×1〜5分程度の封孔処理時間とすればよく、膜厚(μm)数×1.5〜3分程度の封孔処理時間とすることが好ましい。例えば、陽極酸化皮膜の膜厚が10μmであるならば、浸漬時間は15〜30分程度とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の封孔処理液は、ニッケル塩を含有しない、2価のマンガン塩及び特定のアニオン性界面活性剤とを含有する封孔処理液であり、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対して、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いた場合と同程度の染料定着性を付与でき、さらに耐食性、封孔度等の封孔性能を同程度付与することができ、しかも酢酸ニッケル封孔を行う場合に比べ、比較的低い温度で封孔処理を行うことが可能となる。
【0035】
よって、本発明の封孔処理液を用いて封孔処理を行うことによって、ニッケル塩を含有する封孔処理液を用いることなく、染料定着性及び封孔性能に優れたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0037】
以下の製造条件に従って、下記の実施例及び比較例に用いる陽極酸化及び染色を施したアルミニウム合金試験片を製造した。
【0038】
アルミニウム合金の試験片(JIS A1100P板)を弱アルカリ性脱脂液(奥野製薬工業(株)製 トップアルクリーン101(商品名)の30g/L水溶液、浴温:60℃)に3分間浸漬して脱脂し、水洗した後、硫酸を主成分とする陽極酸化浴(遊離硫酸180g/L及び溶存アルミ8.0g/Lを含む)で陽極酸化(浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm、電解時間:30分間、膜厚:約10μm)した。得られた陽極酸化皮膜を水洗し、98%硫酸100mL/Lを含む酸活性浴(浴温:室温)に1分間浸漬して酸活性し、水洗後に下記染料の水溶液(浴温:50℃)に5分間浸漬して染色し、水洗することにより、陽極酸化及び染色を施したアルミニウム合金試験片(以下、「陽極酸化−染色済試験片」という)を得た。
【0039】
ここで、染料及びその濃度は、TACブラック415(クロム含金アゾ系)については2g/L及び10g/L、TACイエロー201(クロム含金アゾ系)については2g/L、TACレッド102(クロム含金アゾ系)については5g/L、TACブルー502(銅フタロシアニン系)については5g/L、TACイエロー4G(無含金アゾ系)については2g/L、TACピンク139(無含金アントラキノン系)については5g/L、TACブラウンRH(鉄含金アゾ系)については5g/Lである。なお、上記染料は、いずれも奥野製薬工業(株)製TAC染料である。
【0040】
実施例1
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸マンガンを30g/L、2−メチル−7−エチルウンデカン−4−硫酸エステルナトリウムを10g/L含み、酢酸でpH5.9に調整した水溶液からなる封孔処理液(浴温:75℃)に20分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0041】
実施例2
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸マンガンを30g/L、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを5g/L含み、酢酸でpH5.9に調整した水溶液からなる封孔処理液(浴温:75℃)に20分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0042】
比較例1
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸ニッケル系封孔剤(奥野製薬工業(株)製 トップシールH−298(商品名))を40mL/L含むpH5.6の水溶液からなる封孔処理液(浴温:90℃)に10分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0043】
比較例2
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、沸騰したイオン交換水からなる封孔処理液に10分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0044】
比較例3
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸マンガンを30g/L含み、酢酸でpH5.9に調整した水溶液からなる封孔処理液(浴温:75℃)に20分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0045】
比較例4
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、2−メチル−7−エチルウンデカン−4−硫酸エステルナトリウムを10g/L含み、酢酸でpH5.9に調整した水溶液からなる封孔処理液(浴温:75℃)に20分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0046】
比較例5
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを5g/L含み、酢酸でpH5.9に調整した水溶液からなる封孔処理液(浴温:75℃)に20分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0047】
試験例
上記実施例1、2及び比較例1〜5で得られた試験片について、以下の方法で染色度合いの判定、耐食性試験及び封孔度試験を行った。その結果を表1〜3に示す。なお、耐食性試験及び封孔度試験の結果は、ブラック415(2g/L)で染色を施した試験片について行ったものである。
1.染色度合いの判定
比較例1の酢酸ニッケルで封孔した試験片の染色度合いを色の濃さ基準「10」として、「0」(無着色)から「10」(濃い着色)の11段階で目視評価した。なお、カブリ不良(試験片の表面が粉状の層で覆われた状態をいう)で色の判定が困難なものは「カブリ」とした。
2.耐食性試験
JIS H 8681−1:1999(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の耐食性試験方法 第1部:耐アルカリ試験−アルカリ滴下試験)に準拠して、各試験片に水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜が溶け去るまでの時間を測定した。秒数が大きいほど、耐食性が高いことを示す。
3.封孔度試験
JIS H 8683−2:1999(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔度試験方法 第2部:リン酸−クロム酸水溶液浸漬試験)に準拠して、各試験片をリン酸−クロム酸水溶液に浸漬し、単位面積あたりの試験片の質量減少を測定した。数値が小さいほど、封孔度が良いことを示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1〜3から明らかなように、実施例1及び2の2価のマンガン塩及びアニオン性界面活性剤を含有する封孔処理液を用いて封孔処理した場合には、比較例1の酢酸ニッケルを含有する封孔処理液を用いて封孔処理した場合に比べて比較的低い温度で封孔処理を行ったにもかかわらず、比較例1と同程度の良好な染料定着性、耐食性及び封孔度を示すことが確認できた。