【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2014年3月7日に送付された日本セラミックス協会2014年年会予稿集 2014年3月7日から3月19日まで、日本セラミックス協会のサイト(http://member.ceramic.or.jp/taikai/yokou_login.php)にて公開された予稿インターネット公開 2014年3月19日に開催された日本セラミックス協会2014年年会 「墨汁含有溶液の噴霧凍結乾燥によるリチウムイオン電池用正極材Li▲2▼FeSiO▲4▼/C粉末の合成」 ○岩瀬寛明、志田賢二、松田元秀、藤田由季子、山室成樹、福井武久
【文献】
河口沙也加ほか,リチウムイオン電池用Li2MSiO4(M=Fe,Mn)系正極材料の合成,平成23年度合同学術講演大会 講演概要集,日本金属学会九州支部、日本鉄鋼協会九州支部、軽金属学会九州支部,2011年 6月11日,P.50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極材料の一つとして、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系のLiMPO
4や、オリビン型でポリアニオン系のLiMSiO
4(非特許文献1)、オリビンに類似するポリアニオン系のLi
2MSiO
4が提案されている(非特許文献2,なお、MはMn、Feなどの遷移金属元素を示す)。特に、2電子反応が可能な組成式を持つポリアニオン系化合物のLi
2MSiO
4は、主な構成元素であるFe又はMnと、Siとが地殻内に豊富に存在することから、実用化した後の有用性が高いと考えられる。この化合物の製造方法例としては、例えば特許文献1や非特許文献2のような合成方法の提案がされている。ただし、Li
2MSiO
4は電子導電性及びリチウムイオンの拡散性がLiCoO
2に比べると低く、高い電池特性を得るにはカーボンブラックなどの炭素材料と混合して正極材に用いることが提案されている(特許文献2[0027])。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、正極活物質としてLi
2MSiO
4を十分に反応させるには、導電物質となる炭素材料がLi
2MSiO
4に対して、できるだけムラ無く分散されている必要がある。しかし、単純に混合させるだけでは、偏りが生じてしまい、未反応領域が残りやすく、Li
2MSiO
4のもつ電池容量が充分に利用できないおそれがあった。
【0006】
そこでこの発明は、正極材料としてLi
2MSiO
4を用いるにあたり、製造工程を大きく増やすことなく、導電物質となる炭素材料との分散を向上させ、利用できる電池容量を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、Li
2MSiO
4の原料とカーボンコロイド溶液中に分散させた分散液を調製した上で、これを一旦乾燥した後に仮焼処理を行った後、焼成することによって上記の課題を解決したのである。
【0008】
コロイド溶液中に分散させたカーボン粒子と、焼成前の原料とを液中で分散混合させることで、これを乾燥して得られる焼成前の準備状態で高い分散性を確保したものとなる。これを焼成すると、生成するLi
2MSiO
4とカーボンとが十分に接触して、電極反応に寄与しないLi
2MSiO
4の領域が残存しにくく、利用できる電池容量を十分に確保した複合体を得られる。
【0009】
また、一旦乾燥した後、本焼成の前に仮焼処理を行うことにより原料である酢酸塩や硝酸塩を予め分解しておくことで、焼成時の純度が向上する。
【発明の効果】
【0010】
この発明により、均一性の高い正極材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明にかかる実施形態を詳細に説明する。
この発明は、Li
2MSiO
4の製造にあたり、原料を、カーボンコロイド溶液中に分散させてカーボンと混合させた混合液を、乾燥した後に焼成する、Li
2MSiO
4の製造方法である。ここで、Mは周期律表第四周期の遷移金属を表す。Li
2MSiO
4は、オリビンに類似した結晶構造を有するポリアニオン系シリケート化合物である。
【0013】
上記原料とは、Li源と遷移金属源とSi源とのそれぞれである化合物である。なお、Liと遷移金属とSiのうち複数を含む化合物が含まれていても実施可能であるが、反応の均一性及び配合のし易さのため、それぞれの元素は別の化合物を原料としている方がよい。
【0014】
この発明で用いるLi源には、リチウム塩化合物を用いることができる。特に、カーボンコロイド溶液や後述するコロイダルシリカとの混合を進行させ易くするために、水溶液として使用できる水溶性であることが好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。このようなリチウム塩化合物としては、例えば酢酸リチウム2水和物、硝酸リチウム3水和物などが挙げられ、特に、混合のし易さと得られる物質の均一性から酢酸リチウム2水和物がもっとも好ましい。
【0015】
一方、遷移金属源も同様に、遷移金属の塩化合物を用いることができ、水溶性であると好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。この発明で好適にLi
2MSiO
4化合物を生成できる遷移金属元素Mとしては、第四周期の遷移金属元素の中でも特にFe、Mnが挙げられる。Fe源としては、例えば酢酸鉄(II)や硝酸鉄(III)9水和物が挙げられる。Mn源としては、例えば酢酸マンガン(II)4水和物が挙げられる。ただし、リチウム源として用いるリチウム塩化合物と混合した際に、不溶性の塩を生じないものであることが必要であり、上記リチウム塩化合物と同じ酸の塩であると好ましい。
【0016】
これらのリチウム源及び遷移金属源は、一旦それぞれを水中に分散、溶解させてから混合させてもよいし、始めからカーボンコロイド溶液や後述するコロイダルシリカに混合させても良い。ただし、薄すぎると混合後の乾燥に時間がかかりすぎるため、それぞれの濃度が0.1mol/l以上であると好ましい。
【0017】
また、Si源としては、SiO
2の粒子を用いると好ましく、それがコロイダルシリカの形態であるものを用いるとより好ましい。このコロイダルシリカとは、液中にSiO
2の粒子がコロイド状に分散している分散液である。この発明で用いるコロイダルシリカの液中におけるSiO
2の重量平均粒子径は、1nm以上であると好ましく、4nm以上であるとより好ましい。重量平均粒子径が1nm未満となることは現実的ではなく、そのような材料を得ること自体が困難である。一方で10nm以下であると好ましく、6nm以下であるとより好ましい。10nmを超えるコロイダルシリカでは、含まれるSiO
2粒子が十分に他の成分の溶質と混合されず、均一な相が得られにくくなってしまう。
【0018】
上記コロイダルシリカに含まれるSiO
2の含有量は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上であるとより好ましい。少なすぎると乾燥時に時間が掛かりすぎてしまう。一方で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。30質量%を超えるとコロイドが十分に分散せずに凝集してしまうおそれがあり、リチウム源及び遷移金属源との混合も進みにくく、混合が不充分になって相の均一性が低下するおそれがある。
【0019】
上記コロイダルシリカのpHは2.0以上4.0以下であることが好ましい。この範囲から外れると、コロイドが安定せず、凝集を起こしたり、他の成分が混入したりして混合が十分に進まなくなるおそれがある。なお、pHをこの範囲に調整するためにクエン酸などのpH調整剤を添加しておいてもよい。
【0020】
上記コロイダルシリカが含有するSiO
2は、高純度であるほど好ましい。コロイダルシリカは通常、珪酸ナトリウムを原料として製造されるため、Naが残存することが多い。また、それ以外の製造手法では、アルカリ金属やアルカリ土類金属が混入するおそれがある。これらの残存するアルカリ金属やアルカリ土類金属は、得られるLi
2FeSiO
4の均一性を悪化させる原因となるため、含有量が低いほど望ましい。具体的には、上記コロイダルシリカに含まれるSiO
2中の含有量が質量比で200ppm以下であると好ましく、100ppm以下であるとより好ましい。
【0021】
これらを分散・溶解させるカーボンコロイド溶液は、カーボンの粒子が水中にコロイドとして分散しているものである。このカーボンとしては、具体的にはケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラックや、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0022】
上記カーボンコロイド溶液中に占めるカーボンの量は、合成するLi
2MSiO
4に対して10質量%以上であると好ましい。10質量%未満であると、後述する本焼成時に還元力が足りず、40質量%以上であると、還元力が強すぎて、焼成しても安定して単相のLi
2MSiO
4を得ることが困難になる。
【0023】
上記のカーボンは炭素の粒子であり、単独ではコロイドとして分散しにくいため、上記カーボンコロイド溶液は、分散を補助するための水溶性ポリマーを含有すると好ましい。水溶性ポリマーがカーボンの粒子面に吸着し、カーボン粒子を親水性にするため、より均一に溶液中に分散する。この水溶性ポリマーとしては、澱粉、寒天、ゼラチン、膠、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、その他アクリル酸系共重合体などを用いることが出来る。このような水溶性ポリマーを有するカーボンコロイド溶液としては、例えば墨汁が挙げられる。
【0024】
上記のリチウム源、遷移金属源、及びSi源を、基本的には化学量論比に従って上記カーボンコロイド溶液と混合する。すなわち、リチウム源を2当量、遷移金属源を1当量、コロイダルシリカを1当量となるように混合することが好ましい。ただし、得られる化合物に含まれるリチウム量は1当量以上2当量以下であれば以下の手順によって実用的な量のLi
2−xMSiO
4を生成することができる。また、遷移金属源とSi源との当量比は1:1からある程度ずれていても同様の結晶点群に属する化合物Li
2−xM
1−ySi
1+yO
4を製造可能である。ここで、0≦x≦1であり、−0.5≦y≦+0.5である。
【0025】
混合の順番としては、特に制限されない。固体粒子からなる原料をカーボンコロイド溶液に直接投下して溶解混合させてもよいし、一旦溶解して水溶液にしてから混合してもよい。水溶性でない原料を用いる場合でも、水中に分散させた分散液を用いてもよい。また、Si源としてコロイダルシリカを用いる場合はそのまま混合できる。
【0026】
混合後は乾燥して水を除去する必要がある。乾燥方法は単純に静置による乾燥でも可能だが、時間を短縮するために、100℃前後での加熱を行ったり、凍結乾燥法などにより瞬間的な乾燥を行ったりするとよい。特に噴霧凍結乾燥法によると、乾燥後の混合原料の粉体が凝集しにくく、本焼成時に均一な粉末を得やすいので望ましい。
【0027】
いずれの方法であっても、乾燥後に得られた混合原料に対して、本焼成の前に、予め酢酸塩や硝酸塩を分解しかつ水溶性ポリマーを燃焼させておく仮焼処理を行っておく。この仮焼処理により、本焼成の際に一酸化炭素や窒素酸化物やその他のガスが発生しなくなるので、原料の一部が還元されて生成率が低下することを抑制でき、単相を形成させやすくなる。また、水溶性ポリマーの燃焼に伴うガスの発生による本焼成への悪影響を回避できるために、焼成により得られる電極材料の再現性がよくなる。
【0028】
上記仮焼処理の温度は、原料のうちリチウム源及び遷移金属源として用いる化合物が熱分解してガスを発生する温度以上であり、かつ上記水溶性ポリマーの燃焼温度以上であると、上記の効果を得ることが出来る。使用するリチウム源、遷移金属源の種類にもよるが、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩のいずれかである場合、300℃以上であると好ましく、350℃以上であるとより好ましい。一方で、550℃以下が好ましく、520℃以下であるとより好ましい。この範囲で仮焼処理すれば、上記の効果を得ることが出来る。また、同様の温度範囲で生物由来の水溶性ポリマーは燃焼させることができ、400℃以上であればアクリル系重合体も燃焼させることができる。一方で、焼成温度に近すぎるとガス発生とともに焼成も進んでしまうため、焼成温度より50℃以上低いことが好ましく、100℃以上低いことがより好ましい。
【0029】
なお、上記仮焼処理は、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気、又はそれらの混合雰囲気などの不活性雰囲気中で行うことが望ましい。酸素存在下で上記の温度まで加熱すると、カーボンが燃焼してしまうおそれがあるためである。
【0030】
また、上記仮焼処理の温度を維持する時間は、3分以上であるとよく5分以上であると好ましい。3分未満ではガスが十分に抜けきらないおそれがある。一方で、1時間を超えて仮焼処理の温度を維持していると、焼成反応が一部で開始されてしまうおそれがあるため、1時間以下であることが好ましい。
【0031】
その後、アルゴン雰囲気下、又はアルゴン/水素雰囲気下で本焼成する。この発明にかかる方法によると、還元雰囲気下で無くても均一性の高い材料を得ることができる。
【0032】
上記の本焼成の温度は600℃以上が好ましく、700℃以上であるとより好ましい。600℃未満では不均一な遷移金属が残存しやすい。一方で、900℃以下が好ましく、800℃以下であるとより好ましい。高温すぎると粒子が粗大化して好ましくない。
【0033】
上記の本焼成の時間は3時間以上であると好ましい。3時間未満では相変化が不充分になるおそれが高くなる。一方で、20時間以下であると好ましく、15時間以下であるとより好ましい。長すぎるとその分負荷が大きいだけでなく、粒子が粗大化して好ましくない。
【0034】
上記の本焼成により、Li
2MSiO
4とカーボンコロイド溶液に由来する炭素とが十分に分散混合された焼成体を得ることが出来る。こうして得られた焼成体を正極材料として用いると、均一分散されたカーボンにより、材料全体に対して高い導電性がムラ無く発揮されるため、電池容量を最大限に発揮させることが出来る。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
リチウム源として、酢酸リチウム2水和物(ナカライテスク(株)製:20604−35、純度>98%、分子量102.02)を0.433g、遷移金属源であるFe源として酢酸鉄(II)((株)ワコーケミカル製:351−10952、分子量173.93)を0.1g、同じくFe源として硝酸鉄(III)9水和物(ナカライテスク(株)製:19514−55、純度>99%、式量404.0)を0.637g、シリカ源としてコロイダルシリカ(日産化学工業(株)製:スノーテックスOXS(20質量%:重量平均粒子径4〜6nm、pH3.0、Na含有量:83μg/g)1.178mlを、カーボンコロイド溶液である墨汁((株)呉竹製:BA4、炭素濃度約6質量%、水溶性ポリマー(膠)を微量含有)1.295gを蒸留水50mlに溶解させた。
【0037】
得られた混合溶液を、東京理化器械(株)製:FD−50を用いた噴霧凍結乾燥法(Spray-Freeze-Drying method:SFD法)により凍結乾燥して、乾燥された混合粉末を得た。
【0038】
<仮焼温度の検討>
仮焼処理の前に、仮焼温度の設定についての検証を行った。
上記カーボンコロイド溶液と、そのカーボンコロイド溶液を上記の噴霧凍結乾燥法で凍結乾燥させた粉末について、酸素存在下において加熱とともに重量変化を観測した。熱分析にはBruker AXS製:TG−DTA2000SAを用いて測定した。その結果を
図1に示す。凍結乾燥後のカーボンコロイド溶液(「CC乾燥」と記載)が、250℃〜300℃で一旦重量低下が見られるため、300℃以上であれば墨汁に含まれる水溶性ポリマーを燃焼飛散させられることが確認できた。一方で、500℃を越えると急激に重量が減少し、酸素存在下では燃焼が進んでしまうことが確かめられたため、500℃未満で仮焼処理を行う必要があると確かめられた。なお、カーボンコロイド溶液(CC溶液)は100℃未満で大きく重量減少がみられるが、これは水の蒸発による。さらに、CCを除く出発原料は、250〜300℃で大きく重量減少し、さらに400〜450℃で重量減少した後はほぼ一定となった。このため450℃までで硝酸塩及び酢酸塩の分解が完了していると推察される。そこで、仮焼処理の温度を450℃と設定した。
【0039】
上記混合溶液の噴霧凍結乾燥後の粉末を、アルゴン雰囲気下、450度で30分間処理して、仮焼処理を行った。この状態で日本電子(株)製:JSM−7600Fを用いてFE−SEM観察することで拡大写真を撮影した。その写真を
図2に示す。
【0040】
仮焼処理後の粉末を、酸素分圧を制御したアルゴンガスフロー中で700℃、5時間に亘って熱処理を行って焼成して混合粉末を得た。この混合粉末について、XRD分析機((株)リガク製: 試料水平型多目的X 線回折装置UltimaIV)を用いて、得られた資料のXRD分析を行った。その結果を
図3に示す。(a)はLi
2FeSiO
4のICDDデータ(No.01−077−4374)であり、(b)が測定した値である。結晶層として単斜晶のLi
2FeSiO
4が生成していることが確かめられた。
【0041】
また、得られた焼成後の混合粉末についてもFE−SEM観察を行った。その結果を
図4に示す。粉末の粒径は50nm程度で均一性の高い外観が観測された。さらに日本電子(株)製:JEM−2000FXを用いてTEM観察したものを
図5に示す。
図5によると、この混合粉末は、Li
2FeSiO
4とアモルファスカーボンが複合化したものであることが確認された。