(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物又はその一部を、IL27シグナル不活性化関連疾患モデルとして使用する方法であって、
IL27シグナル不活性化関連疾患が、糖尿病、及び糖尿病性合併症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患であり、
前記疾患が、ストレプトゾトシンを前記ノックアウト非ヒト動物に投与することにより誘発させられたものである、前記方法。
IL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下しているノックダウン非ヒト動物又はその一部を、IL27シグナル不活性化関連疾患モデルとして使用する方法であって、
IL27シグナル不活性化関連疾患が、糖尿病、及び糖尿病性合併症からなる群から選択される少なくとも1つの疾患であり、
前記疾患が、ストレプトゾトシンを前記ノックダウン非ヒト動物に投与することにより誘発させられたものである、前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照により
その全体を本明細書に組み込むものとする。
【0017】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、IL27及び/又はIL27受容体(IL27R
)遺伝子の全部又は一部の機能が喪失するように作出されたものである。
【0018】
本発明のノックアウト非ヒト動物にストレプトゾトシンを投与してインスリン産生減少
及び高血糖を誘発させたとき、本発明のノックアウト非ヒト動物に誘発したインスリン産
生減少及び高血糖は、野生型非ヒト動物に誘発したインスリン産生減少及び高血糖と比較
して、重度であることが分かった。また、本発明のノックアウト非ヒト動物にβ1アドレ
ナリン作動薬を投与して心肥大を誘発させたとき、本発明のノックアウト非ヒト動物に誘
発した心肥大は、野生型非ヒト動物に誘発した心肥大と比較して、重度であることが分か
った。これらのことから、本発明の動物は、糖尿病、心不全等に類した病態を表すモデル
動物として使用できる。
【0019】
1.本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部
本発明のノックアウト非ヒト動物とは、該動物のIL27及び/又はIL27R遺伝子
の全部又は一部がその本来の機能を発揮しないように破壊されているか、又は組み換えが
なされている動物を意味する。IL27及び/又はIL27R遺伝子は、ゲノム上の一方
のアリルが機能しないように破壊又は変異されたヘテロノックアウト(ヘテロ接合体)で
もよく、両方のアリルが破壊又は変異されたホモノックアウト(ホモ接合体)でもよい。
本発明のノックアウト非ヒト動物には、このような動物の子孫も含まれる。
【0020】
「遺伝子の全部の機能が失われた」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺
伝子の一部の機能が失われた」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が
野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「その本来の機能を
発揮しない」とは、IL27及び/又はIL27Rの発現自体が行なわれないようにする
か、或いは発現してもタンパク質の活性が低下又は喪失していることを意味する。
【0021】
「ノックダウン」とは、特定の遺伝子の発現量を抑制することを意味する。遺伝子の発
現量の抑制は、例えば、遺伝子の転写量を減少させること、翻訳を阻害することなどによ
り、達成することができる。本発明のノックダウン非ヒト動物とは、該動物IL27及び
/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している動物をいう。
【0022】
IL27遺伝子は、IL27をコードする遺伝子であり、IL27R遺伝子は、IL2
7Rをコードする遺伝子である。IL27は、IL27−p28とEpstein−Ba
rr virus(EBV)−induced gene 3(EBI3)の2つの異な
るサブユニットを含むサイトカインである。一方、IL27受容体(IL27R)は、W
SX−1とglycoprotein 130とのヘテロダイマーで構成される。IL2
7は、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞のような抗原提示細胞で発現する。
【0023】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるIL27遺伝子は、例えば
、EBI3遺伝子、及び/又はIL27−p28遺伝子である。また、本発明においてノ
ックアウト又はノックダウンの対象となるIL27R遺伝子は、WSX−1遺伝子である
。したがって、本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及
び/又はIL27R遺伝子」とは、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX
−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を意味する。本発明におい
てノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及び/又はIL27R遺伝子」
は、好ましくは、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子、又はWSX−1遺伝子であ
る。
【0024】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるEBI3遺伝子、IL27
−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子は公知であり、その塩基配列情報及びアミノ酸配列
情報は、GenBank等のアクセッション番号から知ることができる。以下に、EBI
3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の塩基配列情報及びアミノ酸配
列情報を示すアクセッション番号を例示する。
【0025】
・マウスEBI3遺伝子のDNA配列:NM_015766(配列番号:1)、
・マウスEBI3のアミノ酸配列:NP_056581(配列番号:2)、
・ラットEBI3遺伝子のDNA配列:NM_001109421(配列番号:3)、
・ラットEBI3のアミノ酸配列:NP_001102891(配列番号:4)、
【0026】
・マウスIL27−p28遺伝子のDNA配列:NM_145636(配列番号:5)
、
・マウスIL27−p28のアミノ酸配列:NP_663611(配列番号:6)、
【0027】
・マウスWSX−1遺伝子のDNA配列:NM_016671(配列番号:7)、
・マウスWSX−1のアミノ酸配列:NP_057880(配列番号:8)。
【0028】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる非ヒト動物は、IL27遺
伝子及びIL27R遺伝子を有するヒト以外の動物ならば、いかなる動物でもよいが、非
ヒト哺乳動物が好ましい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ミニブタ、ブタ、ヒ
ツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、サル等が
用いられる。非ヒト哺乳動物のなかでも、病態動物モデル系の作製の面から個体発生及び
生物サイクルが比較的短く、また繁殖が容易なげっ歯動物、とりわけマウス又はラット等
が特に好ましい。
【0029】
本発明において動物の一部とは、当該動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出
物、及び体液を意味し、特に限定されるものではない。非ヒト動物由来の組織としては、
例えば、心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎
盤、筋肉、血管、脳、骨髄、甲状腺、胸腺、乳腺、リンパ節、血液等が挙げられる。
【0030】
本発明において動物由来の細胞としては、上記組織、臓器又は体液に含まれる細胞を意
味し、単離及び培養して得られる培養細胞も含まれる。細胞は、例えば、マクロファージ
、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、リンパ球等の各種の細胞が挙げ
られる。培養細胞としては、初代培養細胞及びその株化細胞の両者を含む。発生段階(胎
生期)における組織、各器官、細胞、破砕物又は抽出物及び体液も非ヒト動物の一部に含
まれる。
【0031】
さらに、動物由来の血液、リンパ液、尿等の体液も本発明において動物の一部に含まれ
る。
【0032】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、ストレプトゾトシンを投与した時などにインスリ
ン産生減少及び高血糖を生じ、その生じたインスリン産生減少及び高血糖は、野生型非ヒ
ト動物に誘発したインスリン産生減少及び高血糖と比較して、重度である。したがって、
本発明のノックアウト又はノックダウン非ヒト動物は、糖尿病又は糖尿病性合併症モデル
動物又はその一部として使用することができる。
【0033】
糖尿病性合併症としては、糖尿病性の神経障害、網膜症、腎症、動脈硬化を含む血管障
害、糖尿病性昏睡等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明のノックアウト非ヒト動物にβ1アドレナリン作動薬を投与した時などに
心肥大を生じ、その生じた心肥大は、野生型非ヒト動物に誘発した心肥大と比較して、重
度である。したがって、本発明のノックアウト又はノックダウン非ヒト動物は、心不全モ
デル動物又はその一部として使用することができる。
【0035】
心不全としては、心肥大、心機能低下、不整脈、心不全関連死等を挙げることができる
。
【0036】
2.ノックアウト非ヒト動物又はノックダウン非ヒト動物の作製
2.1.ノックアウト非ヒト動物の作製
本発明のノックアウト非ヒト動物は、例えば、標準的な方法で作製して入手することが
できる。
標準的な方法としては、例えば、IL27及び/又はIL27R遺伝子とを不活性化さ
せたES細胞を作製することによる方法を挙げることができる。
【0037】
当該方法は、
(a)遺伝子のターゲティングによりIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の全
部又は一部の機能を欠損させたES細胞を作製すること、
(b)ES細胞を用いて、キメラ非ヒト動物を作製すること、
(c)キメラ非ヒト動物を野生型マウスと交配してヘテロノックアウト非ヒト動物を作
製すること、
(d)ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配して、ホモノックアウト非ヒト動物を
作製すること、を含む。
以下、上記各工程について詳細に説明する。
【0038】
工程(a):遺伝子ターゲティング
遺伝子ターゲティングでは、先ず、目的遺伝子(IL27遺伝子及び/又はIL27R
遺伝子)がその機能を喪失させ、或いはその機能が低下するように破壊又は組換えたDN
A断片を作製する。目的遺伝子のターゲティングベクターは、目的遺伝子を破壊すること
により当該遺伝子の全部又は一部を喪失させ、機能を全く失わせるか、或いは機能を低下
させるものである。「遺伝子の全部を喪失させ」とは、遺伝子が完全に失われることを意
味し、「遺伝子の一部を喪失させ」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機
能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「遺伝子の全部
又は一部を喪失させ」とは、目的遺伝子がコードするタンパク質の発現自体が行なわれな
いようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が失われているか、又は野生型と比
較して低下していることを意味する。
【0039】
ターゲティングベクターは、相同組換えを起こさせた後の組換え体のスクリーニングが
容易となるように構築することが好ましい。例えば、ポジティブ−ネガティブ選択をする
ために、ベクターに薬剤耐性遺伝子又は毒素遺伝子などの選択マーカーを連結することが
できる。ポジティブ−ネガティブ選別法は、当分野において周知である。すなわち、ポジ
ティブ選別は、選択マーカー遺伝子が組み込まれなかった細胞は、薬剤を含む培養液で培
養すると、耐性遺伝子を含まないために死ぬことを利用するものであり、ネガティブ選別
法は、組み込みがランダムに起こった細胞では、ネガティブ選別用遺伝子が発現するため
に、細胞が死ぬことを利用するものである。その結果、相同組換えを起こした細胞のみが
生き残り、選別される。
【0040】
選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択用として例えばネオマイシン耐性遺伝子(ne
o)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、
テトラサイクリン耐性遺伝子などを使用することができ、ネガティブ選択用として例えば
ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV−tk)、ジフテリア毒素A遺伝子な
どを使用することができる。
【0041】
上記の方法により作製したターゲティングベクターを用いて、相同組換えを行う。現在
確立されている遺伝子ターゲティング法では、ノックアウト非ヒト動物を作製する場合に
は、ES細胞を使用することが望ましい。ES細胞として、TT2細胞、AB−1細胞、
J1細胞、R1細胞等を適宜選択して使用することができる。
【0042】
相同組換えを起こさせるために、目的遺伝子の機能を喪失させたターゲティングベクタ
ーを細胞中に導入する。ターゲティングベクターを細胞に導入する方法としては、エレク
トロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、リポソーム法な
どを使用することができる。効率、作業の容易性などを考慮して、エレクトロポレーショ
ン法を用いることが好ましい。そして細胞中の目的とするゲノムDNA配列を、ターゲテ
ィングベクターの相同組換えによって置換する。
【0043】
相同組換え効率を高めるために、例えば、バクテリオファージP1由来の組換えシステ
ムであるCre−loxPシステムを使用することができる。Creは組換え酵素であり
、loxPと呼ばれる34塩基の配列を認識して、この部位で組換えを起こさせることが
可能となる。従って、ターゲティングしたい遺伝子(目的遺伝子)をloxP配列とlo
xP配列との間にはさみ、Creリコンビナーゼ遺伝子を特異的プロモーター下流に組み
込むことにより、部位特異的及び時期特異的にCreが産生されてloxPで挟んだ遺伝
子を切り取る(すなわち、目的遺伝子の機能を喪失させる)ことができる。
【0044】
その後、PCR法、サザンブロット法等により、目的遺伝子がターゲティングされてい
るか否かを確認する。
【0045】
PCRにおいて、プライマーは、例えばターゲティングベクターの外側のゲノムDNA
領域上、及びターゲティングベクターの配列のうち薬剤耐性遺伝子上から設計することが
できる。
【0046】
サザンブロット解析は、例えば以下の通り行うことができる。ターゲティングベクター
に含まれないゲノム領域を認識する1又は2種類のプローブを設計する。目的遺伝子ゲノ
ムを含むクローンを適当な制限酵素で処理することにより得られるDNA断片と、上記プ
ローブとのハイブリダイゼーションを行なうことにより、目的遺伝子の破壊の有無を確認
することができる。
【0047】
工程(b):キメラ非ヒト動物の作製
相同組換えの結果得られた組換えES細胞を、8細胞期又は胚盤胞の胚内に移植する。
このES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラ動物を
作製する。
【0048】
ES細胞を胚内に移植する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公
知手法を用いることができる。
【0049】
マウスの場合、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交
配させる。その後、8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる
場合には受精から3.5日目に、それぞれ卵管又は子宮から初期発生胚を回収する。回収
した胚に、相同組換えを行ったES細胞を注入し、キメラ胚を作製する。
【0050】
一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などに
より去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに
対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、その後出産させることによ
りキメラマウスを作製することができる。
【0051】
マウス以外の非ヒト動物についても、上記と同様にして、キメラ非ヒト動物を作製する
ことができる。
【0052】
工程(c):ヘテロノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得たキメラ非ヒト動物の中から、ES細胞移植胚由来の雄キメラ非ヒ
ト動物を選択する。マウスの場合、選択したES細胞移植胚由来の雄マウスが成熟した後
、このマウスを純系マウス系統の雌マウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、
ES細胞に由来するマウス(ES細胞に組み込まれたゲノムを有していたマウス)の被毛
色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認する
ことができる。そして、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された目的遺
伝子欠損ヘテロノックアウト非ヒト動物を繁殖する。
【0053】
工程(d):ホモノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得た目的遺伝子ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配させて、遺
伝子欠損ホモノックアウト非ヒト動物を得ることができる。
【0054】
工程(c)又は(d)においてノックアウト非ヒト動物が得られたことの確認について
は、組織から染色体DNAを抽出しサザンブロット法やPCR法で行うことができる。さ
らに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解
析することもできる。目的遺伝子がコードするタンパク質に対する抗体を用いてウエスタ
ンブロッティングを行なってもよい。
【0055】
また、樹立した動物系統について、ヘテロノックアウト非ヒト動物及びホモノックアウ
ト非ヒト動物の表現型を解析することもできる。表現型の解析は、肉眼的観察、解剖によ
る内部の観察、各臓器の組織切片、X線撮影による観察、行動や記憶の観察、血液検査や
血清生化学検査行う。解析時期は、胎生期から成体までの任意の時期であってよく、特に
限定されるものではない。
【0056】
尚、EBI3遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば、Igawa, T.,
Nakashima, H., Sadanaga, A., Masutani,
K., Miyake, K., Shimizu, S., Takeda, A.,
Hamano, S., Yoshida, H. (2009) Deficien
cy in EBV−induced gene 3 (EBI3) in MRL/l
pr mice results in pathological alterati
on of autoimmune glomerulonephritis and
sialadenitis. Mod Rheumatol 19, 33−41.など
にも記載されている。また、WSX−1遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば
、Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., C
ovey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M.,
Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J.,
Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is
Required for the Initiation of Th1 Respo
nses and Resistance to L. major Infectio
n. Immunity 15, 569−78.などにも記載されている。
【0057】
2.2.ノックダウン非ヒト動物の作製
本発明のノックダウン非ヒト動物は、公知の方法に従って、非ヒト動物のIL27遺伝
子及び/又はIL27R遺伝子の発現を抑制することにより、作製することができる。
【0058】
IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の発現抑制には、例えばRNA干渉(RN
Ai)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。例えば、IL2
7遺伝子及び/又はIL27R遺伝子に対するsiRNA(small interfe
ring RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイル
スベクターに組み込んで非ヒト動物に導入することによりRNAiを引き起こすことがで
きる。
【0059】
RNAiとは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特
異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害
する現象である。例えば、dsRNAを非ヒト動物に導入すると、そのRNAと相同配列
の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
【0060】
(1)siRNA
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a)IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子であれば特に限定されるものでは
なく、任意の領域を全て候補にすることが可能である
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの
、あるいは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23
塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択す
ればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよ
い。
(c) 選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい
。
(d) BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク
質が存在しないことを確認することが好ましい。
【0061】
さらに、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、遺伝子の発現
をより効果的に抑制できることがある。
【0062】
siRNA合成の別法としてDicer法がある。Dicer法の概要とは以下の通り
である。まず、IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の配列のスタートコドンか
ら500 bp〜1 kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセ
ンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製す
る。次に、RNase IIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、こ
のds−RNAを3’末端側に2塩基の突出末端をもつ21−23塩基のsiRNAにプ
ロセッシングさせる。
【0063】
(2)shRNA
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。
shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と
呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有
するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer
等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
【0064】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。
例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると
、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在す
るようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的とな
るIL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は
特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列A
の長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
【0065】
また、IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の発現抑制には、マイクロRNA(
miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的
な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することにより、特定の遺伝子の
発現を抑制することができる。
【0066】
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。その
ように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18〜25塩基(例、約22塩
基)である。
【0067】
3.糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法
本発明は、糖尿病又は糖尿病性合併症を発症した本発明のノックアウト若しくはノック
ダウン非ヒト動物又はその一部(以下、本発明のノックアウト非ヒト動物等とする。)に
、糖尿病又は糖尿病性合併症治療のための薬物の候補物質(被験物質)を接触することに
より、糖尿病治療薬又は糖尿病性合併症治療薬をスクリーニングすることができる。例え
ば、糖尿病又は糖尿病性合併症を発症した本発明のノックアウト非ヒト動物等に薬物候補
物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明の非ヒト動物等において標的とする疾
患と相関関係を有する指標(例えば、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産
生量、血糖値等)を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、糖尿病又は糖尿病
性合併症の症状を軽減又は消滅させるか否かを確認することで、候補物質をスクリーニン
グすることができる。
【0068】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物を候補物質で接触させる方法
としては、例えば、経口投与、静脈注射、塗布、皮下投与、皮内投与、腹腔投与などが用
いられ、試験動物の症状、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。ま
た、候補物質の投与量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することが
できる。
【0069】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部を候補物質で接触させる
方法としては、例えば、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部と
候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させる方法を用いることができる。より具体
的には、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部の培養容器に候補
物質を添加すること、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部と候
補物質とを混合すること、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部
を候補物質の存在下で培養すること等が挙げられる。また、接触させる候補物質量は、投
与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0070】
糖尿病は、例えば、ストレプトゾトシンを投与することにより本発明のノックアウト非
ヒト動物等及び野生型非ヒト動物に誘発させることができる。
【0071】
比較のための対照は、例えば、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物又はその一部
、被験物質を接触させた野生型非ヒト動物又はその一部、糖尿病又は糖尿病性合併症改善
作用を有することが分かっている物質(既知の糖尿病治療薬等)を接触させた野生型非ヒ
ト動物又はその一部、被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウ
ン非ヒト動物又はその一部、既知の糖尿病治療薬等を接触させた本発明のノックアウト若
しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部のいずれをも意味し、目的に応じて少なくと
も1つの対照を適宜選択することができる。
【0072】
ここで、「野生型非ヒト動物又はその一部」とは、IL27遺伝子及びIL27R遺伝
子のいずれもが正常に発現し、機能している非ヒト動物又はその一部を意味する。
【0073】
例えば、対照が被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非
ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン
非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量又は血糖値(以下、
膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等とする。)を測定し、当該測定された膵臓ランゲル
ハンス島の炎症の程度等が、対照における膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等よりも改
善したときは、前記候補物質を、糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬として選択することが
できる。この場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノッ
クダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度が低下(例えば、10%以上、
20%以上、30%以上低下)すること、インスリン産生量が増加(例えば、5%以上、
10%以上、20%以上増加)すること、又は血糖値が低下(例えば、5%以上、10%
以上、20%以上低下)することを意味する。
【0074】
あるいは、対照が被験物質を接触させない野生型非ヒト動物の場合には、候補物質を接
触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島
の炎症の程度、インスリン産生量又は血糖値(以下、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度
等とする。)を測定し、当該測定された膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等が、対照に
おける膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等と同程度まで又はそれよりも改善したときは
、前記候補物質を、糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬として選択することができる。この
場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒ
ト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度が同程度となるか又は低下(例えば、5%以
上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)すること、インスリン産生量が同程度
となるか又は増加(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上増加)す
ること、又は血糖値が同程度となるか又は低下(例えば、5%以上、10%以上、15%
以上又は20%以上低下)することを意味する。
【0075】
候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、
発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラッ
ト、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら
化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質
は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、
有機酸又は無機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)などとの塩が用いられ、とりわけ
生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例え
ば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、或いは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸
、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸
、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
【0076】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、糖尿病又は糖尿病性合併症の症状が緩和若し
くは消失したことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、糖尿病又は糖尿病
性合併症治療薬として選択することが可能である。
【0077】
4.心不全治療薬のスクリーニング方法
本発明は、心不全を発症した本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又
はその一部(以下、本発明のノックアウト非ヒト動物等とする。)に、心不全治療のため
の薬物の候補物質(被験物質)を接触することにより、心不全治療薬をスクリーニングす
ることができる。例えば、心不全を発症した本発明のノックアウト非ヒト動物等に薬物候
補物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物等におい
て標的とする疾患と相関関係を有する指標(例えば、心肥大の程度、心機能、死亡率等)
を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、心不全の症状を軽減又は消滅させる
か否かを確認することで、候補物質をスクリーニングすることができる。
【0078】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物を候補物質で接触させる方法と
しては、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の項で説明した
方法と同様の方法を挙げることができる。
【0079】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部を候補物質で接触させる
方法も、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の項で説明した
方法と同様の方法を挙げることができる。
【0080】
心不全のうち心肥大は、例えば、β1アドレナリン受容体作動薬(例、イソプロテレノ
ール)を投与することにより本発明のノックアウト非ヒト動物等及び野生型非ヒト動物に
誘発させることができる。
【0081】
比較のための対照は、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物、被験物質を接触させ
た野生型非ヒト動物、心不全改善作用を有することが分かっている物質(既知の心不全治
療薬等)を接触させた野生型非ヒト動物、被験物質を接触させない本発明のノックアウト
若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部、既知の心不全治療薬等を接触させた本発
明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部のいずれをも意味し、目
的に応じて少なくとも1つの対照を適宜選択することができる。
【0082】
例えば、対照が被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非
ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン
非ヒト動物の心肥大の程度を測定し、当該測定された心肥大の程度が、対照における心肥
大の程度よりも改善したときは、前記候補物質を、心不全治療薬として選択することがで
きる。心肥大の程度は、例えば、心臓重量(体重補正値)を測定すること、心筋細胞サイ
ズを測定すること等により数値化することができる。この場合の「改善」とは、対照と比
較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度が減少す
ること、例えば、心臓重量(体重補正値)が減少(例えば、2%以上、5%以上、10%
以上、20%以上減少)すること、又は心筋細胞サイズが減少(例えば、2%以上、5%
以上、10%以上、20%以上減少)することを意味する。
【0083】
あるいは、対照が被験物質を接触させない野生型非ヒト動物の場合には、候補物質を接
触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度を測定し
、当該測定された心肥大の程度が、対照における心肥大の程度と同程度まで又はそれより
も改善したときは、前記候補物質を、心不全治療薬として選択することができる。この場
合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト
動物の心肥大の程度が同程度となるか又は減少すること、例えば、心臓重量(体重補正値
)が同程度となるか又は減少(例えば、2%以上、5%以上、10%以上減少)すること
、又は心筋細胞サイズが同程度となるか又は減少(例えば、2%以上、5%以上、10%
以上減少)することを意味する。
【0084】
候補物質としては、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の
項で説明したものと同様のものを挙げることができる。
【0085】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、心不全の症状が緩和若しくは消失したことが
確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、心不全治療薬として選択することが可
能である。
【0086】
発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態
様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに
限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細
書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
尚、下記実施例において、有意差の検定は、分散分析(ANOVA)により行った。
【実施例】
【0087】
実施例1:IL27−p28遺伝子ノックアウトマウスの作製
(1)IL27−p28遺伝子ノックアウトES細胞の作製
Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., C
ovey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M.,
Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J.,
Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is
Required for the Initiation of Th1 Respo
nses and Resistance to L. major Infectio
n. Immunity 15, 569−78.記載の方法に準じて、IL27−p2
8遺伝子ノックアウトES細胞を作製した。
【0088】
すなわち、マウスIL27−p28遺伝子の第1〜第4エクソンをpgkプロモーター
配列に接続されたネオマイシン耐性遺伝子で置換できる構造を持つターゲティングベクタ
ーを作成し、このターゲティングベクターをエレクトロポレーション法により、ES細胞
であるE14細胞に導入した。遺伝子導入細胞の選別のため、ネオマイシン存在下で培養
することにより耐性を獲得した細胞クローンを得た後、PCR法により、正しく相同組み
換えが生じIL27−p28遺伝子第1〜第4エクソンがネオマイシン耐性遺伝子で置換
された細胞クローンを選別し、さらに、サザンブロット法により相同組み換えの確認を行
った。
【0089】
(2)IL27−p28遺伝子欠損キメラマウスの作製
IL27−p28遺伝子欠損キメラマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1
(1)により得られたIL27−p28遺伝子の片側アリール(片側遺伝子)が破壊され
たES細胞をC57BL6マウス由来の杯盤胞に注入、これを偽妊娠マウスに移植するこ
とにより、ES細胞及びC57BL6マウス由来の細胞からなるキメラマウスを得た。毛
色及びサザンブロット法によりIL27−p28遺伝子に変異を持つES細胞の寄与が多
いと推測される雄個体を選別した。
【0090】
(3)IL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスの作製
IL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、
実施例1(2)により得られたキメラマウスをC57BL6雌マウスと交配することによ
り仔を得て、毛色によりIL27−p28遺伝子に変異を持つES細胞由来の仔を選別し
た。さらにこれらの仔の体組織からゲノムDNAを抽出しPCR法及びサザンブロット法
によりIL27−p28遺伝子の片側アリルに変異を持つマウスを選別しヘテロノックア
ウトマウスを得た。
【0091】
(4)IL27−p28遺伝子ホモノックアウトマウスの作製
IL27−p28遺伝子ホモノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、実
施例1(3)により得られたヘテロノックアウトマウスを野生型C57BL/6マウスと
交配し、その仔からヘテロノックアウトマウスを選別、この過程を6回繰り返し、C57
BL/6の遺伝子背景を持つIL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを作成し
た。この雄雌を交配することにより仔を得て、これらの仔の体組織からゲノムDNAを抽
出しPCR法及びサザンブロット法によりIL27−p28遺伝子の両側アリルに変異を
持つマウスを選別しホモノックアウトマウスを得た。
【0092】
尚、以下の実施例において、EBI−3遺伝子ホモノックアウトマウスは、本発明者ら
の研究室で以前作製したものを用いた(Igawa, T., Nakashima,
H., Sadanaga, A., Masutani, K., Miyake,
K., Shimizu, S., Takeda, A., Hamano, S.,
Yoshida, H. (2009) Deficiency in EBV−in
duced gene 3 (EBI3) in MRL/lpr mice resu
lts in pathological alteration of autoim
mune glomerulonephritis and sialadenitis
. Mod Rheumatol 19, 33−41.)。
WSX−1遺伝子ホモノックアウトマウスは、アムジェン社より分与を受けたものを用
いた(Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G.,
Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M
., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J
., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 I
s Required for the Initiation of Th1 Res
ponses and Resistance to L. major Infect
ion. Immunity 15, 569−78.)。
野生型マウスは、C57BL6(Jackson Laboratory社)を用いた
。
【0093】
実施例2:膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量及び血糖値の定量・比
較
野生型マウス、EBI−3遺伝子ノックアウトマウス、及びWSX−1遺伝子ノックア
ウトマウスの各ノックアウトマウスにストレプトゾトシン(シグマ社製)を投与した後、
膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量及び血糖値を、以下のように比較
検討した。
【0094】
(1)空腹時血糖値
ストレプトゾトシン(体重あたり5μg)を1日一回、5日間腹腔内に投与し、投与開
始前(0日目)と、投与開始後7,14,28日後に空腹時の血糖を測定した。空腹時血
糖の測定は、次のように行った。すなわち、12時間絶食後静脈血を採取し、血糖測定器
(商品名:グルコースパイロット;テクニコンインターナショナル社製)で空腹時の血糖
値を測定した。
【0095】
その結果を
図1に示す。
図1はストレプトゾトシン投与前(0日目)と、投与後7,14,21,28日目の空
腹時血糖を示すグラフである。
図1に示されているように、野生型マウス(WT)に比べ
EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及びWSX−1ノックアウトマウス(W
SX
−/−)において、ストレプトゾトシン投与後7,14,21,28日目の空腹時血
糖が高い傾向にある。
【0096】
(2)膵臓ランゲルハンス島のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像
ストレプトゾトシンの投与開始後14日目の膵臓ランゲルハンス島のHE染色像を、次
のようにして得た。すなわち、麻酔下に脱血した後、ホルマリンで還流固定し、膵臓を摘
出した。摘出した膵臓を、ホルマリン固定及び脱水した後、パラフィンに包埋した。その
後、薄切しHE染色し、顕微鏡像をCCDカメラ(商品名:AxioCam;Zeiss
社)で得た。
【0097】
その結果を、
図2の上段(HE)に示す。
【0098】
図2には、野生型マウス(WT)に比べ、EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/
−)及びWSX−1ノックアウトマウス(WSX
−/−)の膵臓ランゲルハンス島に、核
を青紫色に染色された細胞がより多く集積している様子が示されている。このことは、野
生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及びWSX−
1ノックアウトマウス(WSX
−/−)においてより多くの白血球浸潤が生じていること
を示す。
【0099】
(3)膵臓ランゲルハンス島のインスリン前駆体(プロインスリン)に対する蛍光抗体像
ストレプトゾトシンの投与開始後14日目の膵臓ランゲルハンス島のプロインスリンに
対する蛍光抗体像を、次のようにして得た。すなわち、麻酔下に脱血した後、ホルマリン
で還流固定し、膵臓を摘出した。摘出した膵臓をホルマリン固定した後、コンパウンド(
商品名Tissue−Tek OCT compound;Sakura Finete
chnical社製)に包埋し液体窒素で急速凍結した。これを薄切した後、抗プロイン
スリン抗体(タカラバイオ社製)とFITCラベルした2次抗体(ジャクソン社製)を用
いて染色した。蛍光顕微鏡像を冷却CCDカメラ(商品名:AxioCam;Zeiss
社製)で得た。
【0100】
その結果を、
図2の下段(proinsulin)に示す。
【0101】
図2には、EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及びWSX−1ノックアウ
トマウス(WSX
−/−)の膵臓ランゲルハンス島では、蛍光染色されたタンパク質の量
が、野生型マウス(WT)に比べ少ない様子が示されている。このことは、野生型マウス
(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及びWSX−1ノックア
ウトマウス(WSX
−/−)においてプロインスリンがより減少していることを示す。
【0102】
次に、蛍光抗体法により膵臓ランゲルハンス島のインスリン前駆体量(プロインスリン
量)の定量を、次のようにして行った。すなわち、上記で得られた蛍光抗体像から、米国
NIHが無料配布しているNIH Imageソフトで単位面積当たりの蛍光強度を測定
した。
【0103】
その結果を、
図3に示す。
【0104】
図3の縦軸は、野生型マウス(WT)の蛍光強度を1とした相対的蛍光強度を示す。図
3に示されているように、野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(E
BI3
−/−)及びWSX−1ノックアウトマウス(WSX
−/−)においてプロインス
リンが有意に減少している(*:p<0.05)。
【0105】
(4)リコンビナントIL27投与による効果
リコンビナントマウスIL27は、Pflanz, S., J. C. Timan
s, J. Cheung, R. Rosales, H. Kanzler, J.
Gilbert, L. Hibbert, T. Churakova, M. T
ravis, E. Vaisberg, W. M. Blumenschein,
J. D. Mattson, J. L. Wagner, W. To, S. Z
urawski, T. K. McClanahan, D. M. Gorman,
J. F. Bazan, R. de Waal Malefyt, D. Ren
nick, and R. A. Kastelein. 2002. IL−27,
a heterodimeric cytokine composed of EBI
3 and p28 protein, induces proliferation
of naive CD4(+) T cells. Immunity 16:77
9−790.に記載の方法に従って作製した。具体的には、CHO細胞においてFLAG
タグ付マウスIL27発現ベクターを発現させ、培養上清中に分泌されたリコンビナント
マウスIL27を、抗FLAGタグ抗体付ビーズ(シグマ社製)を用いてカラム法で精製
した。
上記作製したものに加え、リコンビナントマウスIL27として、Abnova社の市
販のものも使用した。
【0106】
ストレプトゾトシン(体重あたり5μg)を1日一回、5日間腹腔内に投与した。また
、精製したリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒をストレプトゾトシン投与開始時
から1日一回、7日間腹腔内に投与した。対照溶媒として、チトレート緩衝液(和光純薬
社製)を用いた。リコンビナントマウスIL27の1回の投与量は、500 ng/0.
2 mlであり、対照溶媒の1回の投与量は、0.2 mlである。そして、ストレプト
ゾトシン投与開始前(0日目)と、投与開始後7,14日後に空腹時の血糖を測定した。
【0107】
また、リコンビナントマウスIL27投与による膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度及
びインスリン産生量を、次のように比較検討した。すなわち、膵臓ランゲルハンス島の炎
症の程度は、摘出した膵臓から組織切片を作成し、マクロファージマーカーMOMA2及
びCD4抗原を、ニチレイ社製ヒストファインを用いた免疫組織染色により染色し、顕微
鏡観察によりランゲルハンス島内のMOMA2あるいはCD4陽性細胞の細胞数を計測す
ることにより求めた。ここで、浸潤MOMA2陽性マクロファージ数及び浸潤CD4陽性
Tリンパ球数が多いことは、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度がより重度であることを
示す。また、インスリン産生量は、実施例2(3)と同様にプロインスリン量を測定する
ことにより求めた。
【0108】
その結果を、
図4、
図5及び
図6に示す。
【0109】
図4は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)に
対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時
の、空腹時血糖を示すグラフである。
図4に示されているように、野生型マウス及びEB
I3ノックアウトともにリコンビナントマウスIL27投与により空腹時血糖が低下した
。
【0110】
図5は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)に
対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時
の、MOMA2の染色像を示す図(A)とMOMA2陽性細胞の細胞数を計測した結果を
示すグラフ(B)である。
図5に示されているように、ランゲルハンス島に浸潤したMO
MA2陽性マクロファージ数は野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウ
ス(EBI3
−/−)において多く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生
型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)ともに浸潤マクロ
ファージ数は減少した。このことは、リコンビナントマウスIL27のマクロファージ浸
潤抑制作用を示している。
【0111】
図6は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)に
対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時
の、CD4抗原の染色像を示す図(A)とCD4抗原陽性細胞の細胞数を計測した結果を
示すグラフ(B)である。膵臓ランゲルハンス島に浸潤したCD4陽性Tリンパ球数は野
生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)において多
く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生型マウス(WT)及びEBI3ノ
ックアウトマウス(EBI3
−/−)ともに浸潤CD4陽性Tリンパ球数が減少したこと
を示す。このことは、リコンビナントマウスIL27のCD4陽性Tリンパ球数浸潤抑制
作用を示している。
【0112】
以上の実施例に示したように、EBI−3遺伝子ノックアウトマウス及びWSX−1遺
伝子ノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較して、膵臓ランゲルハンス島の炎
症の程度、インスリン産生減少及び高血糖が、重度であった。また、野生型マウス、EB
I−3遺伝子ノックアウトマウスにおける膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリ
ン産生減少及び高血糖は、リコンビナントIL27を投与することにより軽減された。こ
れらの実施例は、本発明のノックアウト非ヒト動物における糖尿病又は糖尿病性合併症の
状態を指標として、被検物質の中から糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬の候補物質をスク
リーニングできることも示している。
【0113】
実施例3:心肥大の程度の定量・比較
野生型マウス、EBI−3遺伝子ノックアウトマウス、及びWSX−1遺伝子ノックア
ウトマウスの各ノックアウトマウスにβ1アドレナリン作動薬であるイソプロテレノール
(シグマ社製)又は対照溶媒を浸透圧ポンプにより投与した後、心肥大の程度を、以下の
ように定量的に比較検討した。具体的には、浸透圧ポンプ(商品名:Alzet osm
otic pump;Alzet社製)によりイソプロテレノール又は対照溶媒を7日間
投与し、連日、「テイルカフ法」(Models of experimental h
ypertension in mice. Johns C, Gavras I,
Handy DE, Salomao A, Gavras H. Hypertens
ion. 1996 28:1064−1069.)により血圧及び脈拍を測定した。こ
のときのイソプロテレノールの投与量は、30 mg/kg/dayである。また、対照
溶媒は生理食塩水であり、対照溶媒の投与量は、イソプロテレノール溶液と同容量である
。イソプロテレノール又は対照溶媒の投与開始から7日後に麻酔下に心臓超音波法(Ec
hocardiographic evaluation of ventricula
r function in mice. Rottman JN, Ni G, Br
own M. Echocardiography. 2007 24:83−89.)
により心臓パラメーターを測定後LV massを算出した。心臓摘出後、心臓重量(体
重で補正)の測定、及び心臓組織における心筋細胞サイズ(心筋細胞の細胞表面積)の測
定を行った。ここで、心臓重量(体重で補正)の測定及び心筋細胞サイズの測定を、それ
ぞれ、次のようにして行った。心臓重量については、摘出した心臓の重量を電子天秤を用
いて測定した。そして、測定した心臓の重量(mg)を、心臓摘出直前の生存時の時点で測
定したマウスの体重(g)で補正、すなわち、心臓の重量を体重で除することにより求めた
値を、体重補正心臓重量(mg/g)とした。尚、
図7の縦軸では、このように求めた体重補
正心臓重量(mg/g)を数値で示している。心筋細胞サイズについては、摘出心臓から作成
した組織標本の切片をDAKO社製のFITC−lectinで染色した後、染色組織標
本切片を顕微鏡で観察し、これをCCDカメラで撮像し、得た像をNIH Image
software(米国NIHが無料配布)で解析、すなわち、lectinで認識され
る単一細胞面積を測定することにより求めた値を心筋サイズ(nm
2)とした。尚、
図9
では心筋細胞の細胞表面積を、単位nm
2ではなく、単位ピクセルで示しているが、これ
は、上記と同一条件でコンピューター解析して得られた面積を単位ピクセルで示したもの
である。
【0114】
また、リコンビナントマウスIL27(rIL27)を次のように作製し、投与した。
実施例2(4)と同様にして、CHO細胞においてFLAGタグ付マウスIL27発現
ベクターを発現させ、培養上清中に分泌されたリコンビナントマウスIL27を、抗FL
AGタグ抗体付ビーズ(シグマ社製)を用いてカラム法で精製した。
精製したリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又はその対照溶媒(rI
L27(−)をイソプロテレノール又はその対照溶媒の投与開始後1、3、5日後に腹腔
内投与した。リコンビナントマウスIL27の対照溶媒として、チトレート緩衝液(和光
純薬社製)を用いた。リコンビナントマウスIL27の1回の投与量は、500 ng/
0.2 mlであり、その対照溶媒の1回の投与量は、0.2 mlである。
【0115】
その結果を
図7、
図8及び
図9に示す。
【0116】
図7は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及び
WSX−1ノックアウトマウス(WSX
−/−)にイソプロテレノール(ISO(+))
又は対照溶媒(ISO(−))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又
は対照溶媒(rIL27(−))とを投与して7日後に摘出した心臓の重量(体重補正値
)の測定結果を示すグラフである。EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及び
WSX−1ノックアウトマウス(WSX
−/−)において野生型マウスに比べてイソプロ
テレノール投与による心臓重量の増加が大きい傾向にあった。また、イソプロテレノール
(ISO)投与により増加した心重量は、リコンビナントマウスIL27の投与により野
生型マウス(WT)とEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)において抑制され
る傾向にあった。
【0117】
図8は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及び
WSX−1ノックアウトマウス(WSX
−/−)にイソプロテレノール(ISO(+))
又は対照溶媒(ISO(−))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又
は対照溶媒(rIL27(−))とを投与して7日後に心臓を摘出し、摘出した心臓の心
筋細胞サイズの測定結果を示すグラフである。
図8に示されているように、野生型マウス
(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)及びWSX−1ノックアウト
マウス(WSX−1
−/−)ともにイソプロテレノール(ISO)投与により対照溶媒投
与に比して心筋細胞サイズが増加した。ISO投与後の心筋細胞サイズは、野生型マウス
(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3
−/−)で統計学的に優位に大
きく、WSX−1ノックアウトマウス(WSX−1
−/−)において大きい傾向にあった
。また、
図8に示されているように、イソプロテレノール(ISO)投与により増加した心筋細胞
サイズは、リコンビナントマウスIL27の投与により野生型マウス(WT)とEBI3
ノックアウトマウス(EBI3
−/−)において抑制される傾向にあった。
【0118】
また、
図9は、ラット新生児心筋細胞にリコンビナントIL27(rIL27(+))
又は対照溶媒(rIL27(−))を投与し、その心筋細胞を位相差顕微鏡で観察した写
真(
図9A)と、その心筋細胞の細胞表面積を測定した結果を示すグラフ(
図9B)であ
る。
図9に示されているように、イソプロテレノール(ISO)投与による培養心筋細胞
表面積の増加をリコンビナントIL27が抑制した。
【0119】
以上の実施例で示したように、EBI−3遺伝子ノックアウトマウス及びWSX−1遺
伝子ノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較して、心肥大の程度が、重度であ
った。また、野生型マウス、EBI−3遺伝子ノックアウトマウスにおける心肥大の程度
は、リコンビナントIL27を投与することにより軽減された。これらの実施例は、本発
明のノックアウト非ヒト動物における心不全の状態を指標として、被検物質の中から心不
全治療薬の候補物質をスクリーニングできることも示している。