(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6187986
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
E02D17/20 104Z
E02D17/20 103E
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-148020(P2015-148020)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2016-199988(P2016-199988A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-79635(P2015-79635)
(32)【優先日】2015年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393010215
【氏名又は名称】山下 譲二
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(72)【発明者】
【氏名】山下 譲二
【審査官】
竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−174598(JP,A)
【文献】
実開昭55−85137(JP,U)
【文献】
特開平10−183626(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/005098(WO,A2)
【文献】
国際公開第2009/150515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22−5/80、17/00−17/20、29/02
E04B 1/38−1/61
F16B 13/00−37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱躯体の表面に被取付部材を取り付けるのに用いる加圧固定アームであって、
所定の根入れ深さを有するアンカー部と、
一端部に前記アンカー部が貫通する穴を有し、他端部に加圧部を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、
前記被取付部材の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して傾斜させて打ち込まれ、その頭部が前記被取付部材から外部に所定長さ露出させて設置された前記アンカー部の頭部が、前記穴に通され、
前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被取付部材の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧部が押し付けられことで前記被取付部材の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、
前記加圧力により発生した反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として与えられ、この偶力が与えられた前記アンカー部と、前記被取付部材の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、
この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保される、
ことを特徴とする加圧固定アーム。
【請求項2】
前記穴と前記アンカー部とがネジ構造で連結された、
ことを特徴とする請求項1に記載された加圧固定アーム。
【請求項3】
前記加圧部に、前記加圧力によって撓りやすくするための空隙が形成された、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された加圧固定アーム。
【請求項4】
前記加圧部に押しボルト部材が備えられた、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に加圧固定アーム。
【請求項5】
土塊様の脆弱躯体の表面を被覆保護する被覆保護材を設置するのに用い、又は前記表面に各種の機具を設置するのに用いる加圧固定アームであって、
所定の根入れ深さを有するアンカー部と、
板状又は棒状のアーム材で、このアーム材の一端部に前記アンカー部が貫通する穴を有し、他端部に押しボルト部材を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、
前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて打ち込まれ、その頭部が前記被覆保護材又は前記機具の表面から所定長さ露出するように設置された前記アンカー部の頭部に、前記加圧力伝達アーム部の前記穴が装着され、
前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被覆保護材又は前記機具の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧力伝達アーム部の前記押しボルト部材が推進されることで前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押しつけられることにより、
前記加圧力により発生した反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として与えられ、この偶力が与えられた前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、
この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保される、
ことを特徴とする加圧固定アーム。
【請求項6】
脆弱躯体の表面を被覆保護する被覆保護材を設置するのに用い、又は前記表面に各種の機具を設置固定するのに用いる加圧固定アームであって、
所定の根入れ深さを有するアンカー部と、
板状又は棒状をしたアーム材で、このアーム材の一端部を前記アンカー部の頭部の雄ネジ部と結合するための雌ネジ穴、又は前記アンカー部の頭部の雄ネジ部に貫通させてナットで結合するための穴を有し、他端部に加圧部を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、
前記アンカー部の前記頭部に前記アーム材を結合したものが、前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜して打ち込まれ、前記加圧部が前記被覆保護材又は前記機具の表面に所定距離先行して接触し、さらに、前記所定距離前記アンカー部を打ち込むことで前記加圧部に所定の加圧力が発生して前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、
前記加圧力の反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として作用し、前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、
この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保される、
ことを特徴とする加圧固定アーム。
【請求項7】
請求項5に記載の加圧固定アームを用い、
前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて前記アンカー部を打ち込み、その頭部が前記被覆保護材又は前記機具の表面から所定長さ露出するように前記アンカー部を設置し、
前記アンカー部の頭部に、前記加圧力伝達アーム部の前記穴を装着し、
前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被覆保護材又は前記機具の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧力伝達アーム部の前記押しボルト部材を推進し、前記被覆保護材又は前記機具の背面を前記脆弱躯体に押し付けることにより、
前記加圧力により発生した反力を、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の
頭部へ偶力として与え、この偶力を与えた前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体を挟み込むように加圧して第2反力を生じさせ、
この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力を確保する、
ことを特徴とする脆弱躯体に対処するアンカー工法。
【請求項8】
請求項6に記載の加圧固定アームを用い、
前記アンカー部の頭部に前記アーム材を結合したものを前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて打ち込み、前記加圧部が前記被覆保護材又は前記機具の表面に所定距離先行して到達し、さらにアンカー部を打ち込み前記所定距離を推進させることで前記加圧部に所定の加圧力が発生して前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、
前記加圧力の反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として作用し、前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、
この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力を確保する、
ことを特徴とする脆弱躯体に対処するアンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、普通のコンクリートに比較して強度と密度が低く、逆に、透水性が高い気泡混合軽量土(FCB)等で構築された脆弱躯体の表面を被覆保護するために取り付けられていた被覆保護材等が剥落してしまうことを抑止し、かつ、その修復にも資することが可能な加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
気泡混合軽量土(FCB)等で構築された脆弱躯体の頂部に道路が舗設される場合がある。この場合、寒冷地において大量に散布された融雪剤(塩化カルシウム等)から溶出した高濃度の塩水が躯体内部に侵入して飽和状態に蓄積されると、被覆保護材を躯体に結合している連結鋼材が異常に早く腐食破断する。
【0003】
従来から知られるアンカー工法としては、接着系(ケミカル)アンカー工法や金属系アンカー工法等が存在するが、いずれも躯体が高い強度と密度を備え、躯体の毛細管が滞水していないことが適用の絶対条件であることが知られる。したがって、上述したような脆弱躯体へ、従来のアンカー工法が適用できないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】桑原ら、「温室用基礎としての斜杭の引き抜き特性に関する基礎実験」、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告(2003)、Vol.55、pp.23-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者は、土塊様の脆弱躯体へ適用可能なアンカー工法を創作する過程で、上記非特許文献1に接した。この非特許文献1では「温室用基礎としての斜杭の引き抜き特性に関する基礎実験」と題し、特定の斜杭が土壌に対する引き抜き特性において優れている旨の報告がなされている。そうすると、土壌を土塊様の脆弱躯体と類似するものと見立てることにより、特定の斜杭の構造が土塊様の脆弱躯体へ適用できる新規なアンカーの構造を創作するためのヒントとなる可能性が出てきた。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑み提案され、例えば、土塊様の脆弱躯体の表面を被覆保護するために取り付けられていた被覆保護材が剥落してしまうことを抑止し、かつ、剥落した被覆保護材を土塊様の脆弱躯体へ修復可能となる加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、脆弱躯体の表面に被取付部材を取り付けるのに用いる加圧固定アームであって、所定の根入れ深さを有するアンカー部と、一端部に前記アンカー部が貫通する穴を有し、他端部に加圧部を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、前記被取付部材の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して傾斜させて打ち込まれ、その頭部が前記被取付部材から外部に所定長さ露出させて設置された前記アンカー部の頭部が、前記穴に通され、前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被取付部材の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧部が押し付けられことで前記被取付部材の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、前記加圧力により発生した反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として与えられ、この偶力が与えられた前記アンカー部と、前記被取付部材の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保される、ことを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記穴と前記アンカー部とがネジ構造で連結された、ことを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記加圧部に、前記加圧力によって撓りやすくするための空隙が形成された、ことを特徴とする。
【0010】
本発明は、前記加圧部に押しボルト部材が備えられた、ことを特徴とする。
【0011】
本発明は、土塊様の脆弱躯体の表面を被覆保護する被覆保護材を設置するのに用い、又は前記表面に各種の機具を設置するのに用いる加圧固定アームであって、所定の根入れ深さを有するアンカー部と、板状又は棒状のアーム材で、このアーム材の一端部に前記アンカー部が貫通する穴を有し、他端部に押しボルト部材を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて打ち込まれ、その頭部が前記被覆保護材又は前記機具の表面から所定長さ露出するように設置された前記アンカー部の前記頭部に、前記加圧力伝達アーム部の前記穴が装着され、前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被覆保護材又は前記機具の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧力伝達アーム部の前記押しボルト部材が推進されることで前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押しつけられることにより、前記加圧力により発生した反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として与えられ、この偶力が与えられた前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保されることを特徴とする。
【0012】
本発明は、脆弱躯体の表面を被覆保護する被覆保護材を設置するのに用い、又は前記表面に各種の機具を設置固定するのに用いる加圧固定アームであって、所定の根入れ深さを有するアンカー部と、板状又は棒状をしたアーム材で、このアーム材の一端部を前記アンカー部の頭部の雄ネジ部と結合するための雌ネジ穴、又は前記アンカー部の頭部の雄ネジ部に貫通させてナットで結合するための穴を有し、他端部に加圧部を備えた加圧力伝達アーム部と、からなり、前記アンカーの前記頭部に前記アーム材を結合したものが、前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜して打ち込まれ、前記加圧部が前記被覆保護材又は前記機具の表面に所定距離先行して接触し、さらに、前記所定距離前記アンカー部を打ち込むことで前記加圧部に所定の加圧力が発生して前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、前記加圧力の反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として作用し、前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力が確保される、ことを特徴とする。
【0013】
本発明は、上記加圧固定アームを用い、前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて前記アンカー部を打ち込み、その頭部が前記被覆保護材又は前記機具の表面から所定長さ露出するように前記アンカー部を設置し、前記アンカー部の前記頭部に、前記加圧力伝達アーム部の前記穴を装着し、前記アンカー部が打ち込まれている前記脆弱躯体内部が背面に控える前記被覆保護材又は前記機具の所定位置へ、所望の加圧力で前記加圧力伝達アーム部の前記押しボルト部材を推進し、前記被覆保護材又は前記機具の背面を前記脆弱躯体に押しつけることにより、前記加圧力により発生した反力を、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として与え、この偶力を与えた前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体を挟み込むように加圧して第2反力を生じさせ、この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力を確保することを特徴とする脆弱躯体に対処するアンカー工法に係る。
【0014】
本発明は、上記加圧固定アームを用い、前記アンカー部の頭部に前記アーム材を結合したものを前記被覆保護材又は前記機具の所定位置から前記脆弱躯体内部へ、前記表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させて打ち込み、前記加圧部が前記被覆保護材又は前記機具の表面に所定距離先行して到達し、さらにアンカー部を打ち込み前記所定距離を推進させることで前記加圧部に所定の加圧力が発生して前記被覆保護材又は前記機具の背面が前記脆弱躯体に押し付けられることにより、前記加圧力の反力が、前記加圧力伝達アーム部を介して前記アンカー部の頭部へ偶力として作用し、前記アンカー部と、前記被覆保護材又は前記機具の背面とで前記脆弱躯体が挟み込むように加圧されて第2反力が生じ、この第2反力によって前記アンカー部の引き抜き抵抗力を確保する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る加圧固定アームは、所定の根入れ深さを有するアンカー部と、一端部にアンカー部が貫通する穴を有し、他端部に加圧部又は押しボルト部材を備えた加圧力伝達アーム部とからなる。加圧力伝達アーム部は、板状又は棒状のアーム材であってもよい。したがって、本発明は、所定長のアンカー部と板状又は棒状の加圧力伝達アーム部という2つの部材で達成されるので、非常に簡便に構成することができる。
【0016】
ちなみに、本発明は、たとえ押しボルト部材を含めても3部材で達成されるものとなる。このような構成の加圧固定アームを用い、被取付部材(被覆保護材又は機具)の所定位置から脆弱躯体内部へ、脆弱躯体の表面の垂線に対して0〜45度の範囲で傾斜させてアンカー部を打ち込み、その頭部が被覆保護材又は機具の表面から所定長さ露出するようにアンカー部を設置する工程を経る。さらに、アンカー部の頭部に、加圧力伝達アーム部の穴を装着する工程を経る。続いて、アンカー部が打ち込まれている脆弱躯体内部が背面に控える被覆保護材又は機具の所定位置へ、所望の加圧力で加圧力伝達アーム部の加圧部又は押しボルト部材を推進し、被覆保護材又は機具の背面を脆弱躯体に押しつける工程を経る。そして、これらの工程により、加圧力により発生した反力を、加圧力伝達アーム部を介してアンカー部の頭部へ偶力として与え、この偶力を与えたアンカー部と、被覆保護材又は機具の背面とで脆弱躯体を挟み込むように加圧して第2反力を生じさせ、この第2反力によってアンカー部の引き抜き抵抗力を確保することができる。すなわち、これらの工程を経ることにより、脆弱躯体に対処するアンカー工法を構築することができる。
【0017】
したがって、本発明に係る加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法を適用し、脆弱躯体を被覆保護する被覆保護材に対し、躯体から引き剥がそうとする台風時の風力や地震時の地震力を遙かに上回る加圧力(プレストレス)を与えることにより、自ずと施工の過程で安全性能を確保することが可能となる。また、本発明は、脆弱躯体の表面に設置される機具に対しても、躯体から引き剥がそうとする台風時の風力や地震時の地震力を遙かに上回る加圧力を与えて、安全性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る加圧固定アームの構成を概略で説明する概略説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る加圧固定アームが保護壁パネルで表面が被覆保護された脆弱躯体に適用された例を、断面図で説明する断面説明図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る加圧固定アームが保護壁パネルで表面が被覆保護された脆弱躯体に適用された例を、側面図で説明する側面説明図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る脆弱躯体に対処するアンカー工法を適用するため、保護壁パネルに打ち込むアンカー用のガイド穴を形成している過程を説明する説明画像図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るアンカー工法において、保護壁パネルから所定長露出したアンカーの頭部に加圧力伝達アームを装着する過程を説明する説明画像図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るアンカー工法において、保護壁パネルを貫通させてアンカーを脆弱躯体に打ち込む過程を説明する説明画像図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るアンカー工法において、所望の加圧力で加圧力伝達アームの押しボルト部材を推進し、保護壁パネルの背面を脆弱躯体に押しつける過程を説明する説明画像図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るアンカー工法が適用され、偶力が与えられたアンカーと、保護壁パネルの背面とで脆弱躯体が挟み込むように加圧されて反力が生じ、この反力によって前記アンカーの引き抜き抵抗力が確保される状態を説明する説明画像図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係るアンカー工法が適用され、偶力が与えられたアンカーと、保護壁パネルの背面とで脆弱躯体が挟み込むように加圧されて反力が生じ、この反力によって前記アンカーの引き抜き抵抗力が確保される状態を説明する説明図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る加圧固定アームの加圧力伝達アームの外観が示され、(a)が第1実施形態に係る加圧固定アームの加圧力伝達アームの外観斜視図、(b)が第2実施形態に係る加圧固定アームの加圧力伝達アームの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法に関する第1実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する第1実施形態は、本発明の構成を具現化した例示に過ぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。なお、以下の第1実施形態では、保護壁パネルが表面に被覆保護されている脆弱躯体に適用した加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法を説明する。
【0020】
本発明は、普通のコンクリートに比較して強度と密度が低く、逆に、透水性が高い気泡混合軽量土(FCB)等で構築された脆弱躯体に適用可能な加圧固定アーム及びこれを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法に係る。本発明に係る加圧固定アーム1を適用すれば、
図1〜
図3に示すように、例えば、脆弱躯体Bの被取付部材として脆弱躯体Bを被覆保護する被覆保護材としての保護壁パネルPに対し、躯体Bから引き剥がそうとする台風時の風力や地震時の地震力を遙かに上回る加圧力を与えて安全性能を確保することができる。特に、この安全性能は、本発明に係る加圧固定アーム1を用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法の施工の過程で自ずと確保されるものとなる。なお、被取付部材は、保護壁パネルPの他、各種の機具(
図4参照)であってもよい。
【0021】
加圧固定アーム1は、所定の根入れ深さ、例えば、径の20倍以上の根入れ深さ又は、10cm〜100cm程度の根入れ深さを有するアンカー2を備える。さらに、板状又は棒状、例えば、板状のアーム材で途中に屈曲部31が形成され、この屈曲部31を介した一方の板片部である一端部32にアンカー2が貫通する穴32aを有し、アーム材の他方の板片部である他端部33に押しボルト4を備えた加圧力伝達アーム3を備えている(
図10(a)参照)。
【0022】
他端部33には押しボルト4が貫通する穴が設けられている。押しボルト4は他端部33において、レンチ等でその先端が穴を貫通するようにして推進されることで、先端41が保護壁パネルPを加圧することになる。
【0023】
第1実施形態において、屈曲部31の一端部32に対する他端部33の角度は135〜180度の鈍角である。本発明においてアーム材は、屈曲部31の一端部32に対する他端部33の角度が180度となる平板材であることが許容される。また、上述のように加圧力伝達アーム3は板状であっても、棒状であっても構わない。
【0024】
図1〜
図3において、脆弱躯体Bに適用された加圧固定アーム1は、アンカー2が保護壁パネル1の所定位置から脆弱躯体B内部へ、脆弱躯体Bの表面の垂線に対して0〜45度の範囲、例えば、
図1等において30度に傾斜させて打ち込まれている。特に、その頭部21が保護壁パネルPの表面から所定長さ(例えば、2〜8cm)露出するように設置される。アンカー2の頭部21には、加圧力伝達アーム3の穴32aが装着されている。
【0025】
さらに、加圧力伝達アーム3に備えられた押しボルト4が、アンカー2が打ち込まれている脆弱躯体B内部を背面に控える保護壁パネルPの所定位置へ所望の加圧力で推進されることで、保護壁パネルPの背面が脆弱躯体Bに押しつけられる。押しボルト4を推進する加圧力は、例えば、トルク付きレンチを使用することにより所望の加圧力を設定することができる。例えば、250〜500ニュートン(N)、さらには500〜1000ニュートン(N)の加圧力で押しボルト4を推進することができる。
【0026】
これにより、保護壁パネルPには上記加圧力により反力が発生し、この反力が加圧力伝達アーム3を介してアンカー2の頭部へ偶力として与えられる。偶力が与えられたアンカー2は、保護壁パネルPの背面とで脆弱躯体Bを挟み込むように加圧し、この挟み込むような加圧力に対し脆弱躯体Bにおいて第2反力が生じる。この第2反力に基づきアンカー2には、引き抜き抵抗力が備わることとなる。しかも、その引き抜き抵抗力は、押しボルト4に設定した加圧力と、ほぼ同じ値の力として得られる。
【0027】
以下、
図4〜
図8に基づき、本発明に係る加圧固定アームを用いた脆弱躯体に対処するアンカー工法について簡単に説明していく。
【0028】
まず、
図4に示すように、保護壁パネルPの所定位置に脆弱躯体B内部へ向けて、脆弱躯体Bの表面の垂線に対して0〜45度の範囲の所定角度に傾斜させた穴を形成する。この穴は、アンカー2を打ち込むためのガイド穴である。
【0029】
次に、
図5に示すように、その頭部21が保護壁パネルPの表面から所定長さ露出するようにして、このガイド穴にアンカー2を打ち込む。アンカー2の頭部21に、加圧力伝達アーム3の穴32aを装着する。
【0030】
さらに、
図6に示すように、護壁パネルPの所定位置から脆弱躯体B内部へ向けて開けたガイド穴へアンカー2を更に深く打ち込んでいく。アンカー2をガイド穴に深く打ち込んだら、
図7に示すように、トルク付きレンチに所望の加圧力(例えば、500N)を設定した上で、このトルク付きレンチで加圧力伝達アーム3に備えた押しボルト4を保護壁パネルPへ向けて推進する。これにより保護壁パネルPの背面は、
図8に示すように、脆弱躯体Bに押しつけられる。
【0031】
図8において、加圧固定アーム1が適用された脆弱躯体Bでは、上記加圧力により反力が発生し、この反力は加圧力伝達アーム3を介してアンカー2の頭部21へ偶力として与えられている。さらに、この偶力が与えられたアンカー2は、保護壁パネルPの背面とで脆弱躯体Bを挟み込むようにして加圧することになる。この加圧に対して脆弱躯体Bでは、押しボルト4の推進による加圧で発生するのと異なる第2反力が生じる。そして、この第2反力は、アンカー2の引き抜き抵抗力として備わることとなる。特に、アンカー2の引き抜き抵抗力は設定したトルク付きレンチの加圧力とほぼ同じ値で得られるのである。
【0032】
ここで、脆弱躯体から保護壁パネルを剥がそうとする力の例として、台風時に発生する負の風圧力と、地震時に発生する地震慣性力が想定される。これに基づき、強風時に大規模地震が発生したものと仮定し、加圧固定アームのアンカーの最大の引き抜き荷重を計算したので、以下に説明する。
【0033】
計算条件は、以下のとおりである。
(1)壁面高さ(h) h=15.00m
(2)保護壁パネル1枚あたりの面積(s) s=0.27(平方m)
(3)保護壁パネル1枚あたりの重量(w) w=21(kg)
(4)地震慣性力(kh) kh=0.24
なお、保護壁パネルは、900mm×300mmの矩形とする。
【0034】
保護壁パネル1枚当たりが負担する風圧力(P)を求める。
P=605.7504(Nf)
なお、『道路土木障壁工指針(平成24年度版)』(4−2−7風荷重)において示される数値[空気密度1.23(kg/m
3)、設計基準風速40(m/s)、抗力係数1.2、ガスト応答係数1.9等]を代入して求めた。
【0035】
保護壁パネル1枚当たりが負担する地震慣性力(Gh)を求める。
Gh=9.8×w×kh=49.392(Nf)
【0036】
パネル1枚当たりの最大荷重(Fmax)は、以下のとおりとなる。
Fmax=P+Gh=655.1424(Nf)
【0037】
そうすると、パネル1枚あたり2本の加圧固定アームを適用したとき、アンカー1本あたりの引き抜き最大強度(F)は、以下のとおりとなる。
F=655.1424/2=327.5712(Nf)
【0038】
本発明では、トルク付きレンチで例えば、500Nの加圧力を設定して押しボルト4を推進したとき、500Nとほぼ同じ値のアンカーの引き抜き抵抗力を確保することができる。一方で、アンカー1本あたりの引き抜き最大強度(F)は、上述のように、327.5712(Nf)で良い。したがって、本発明のアンカー工法を適用し、脆弱躯体を被覆保護する被覆保護材に対し、躯体から引き剥がそうとする台風時の風力や地震時の地震力を遙かに上回る加圧力(プレストレス)を与えることで、自ずと施工の過程で安全性能を確保することが可能となると理解される。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態に係る加圧固定アームを図面に基づいて説明する。
図9及び
図10(b)は、本発明の第2実施形態に係る加圧固定アームの加圧力伝達アームが示されている。なお、以下の説明では、第1実施形態に係る加圧固定アーム1と異なる構成のみが説明され、同じ構成の説明が省略されている。
【0040】
図10(b)に示されているとおり、加圧力伝達アーム103は、一端部132の穴132aが雌ネジ構造であり、一方、アンカー部2が雄ネジ構造であることにより、穴132aとアンカー部2とがネジ構造で連結される。また、加圧力伝達アーム103は、他端部133である加圧部105に、加圧力によって撓りやすくするための空隙106が形成されている。なお、加圧力伝達アーム103は、一端部132の穴132aが雌ネジ構造である場合の他、穴132aに通されたアンカー部2をナット(図示省略)で結合する構造であってもよい。
【0041】
以下、本発明の第2実施形態に係る加圧固定アームを用いた脆弱躯体Bに対処するアンカー工法について、第1実施形態と異なる箇所について簡単に説明していく。
【0042】
図9に示されているとおり、加圧力伝達アーム103の一端部132に形成された雌ネジの穴132aと、雄ネジ構造のアンカー部2とを連結する。その際、アンカー部2の頭部121が一端部132から所定の長さ(例えば、1〜3cm)露出させ、保護壁パネルPに形成されたガイド穴にアンカー2を打ち込む。そして、加圧部105が保護壁パネルPの表面に所定距離(例えば、1〜2cm)先行して接触させる(
図9における符号Y参照)。
【0043】
さらに、アンカー2を深く打ち込み(
図6参照)、加圧部105を保護壁パネルPに押し付ける。これにより保護壁パネルPの背面は、脆弱躯体Bに押し付けられる(
図9参照)。
【0044】
加圧固定アームが適用された脆弱躯体Bでは、加圧力により反力が発生し、この反力は加圧力伝達アーム103を介してアンカー2の頭部21へ偶力として与えられている。さらに、この偶力が与えられたアンカー2は、保護壁パネルPの背面とで脆弱躯体Bを挟み込むようにして加圧することになる。この加圧に対して脆弱躯体Bでは、加圧部105の押し付けによる加圧で発生するのと異なる第2反力が生じる。そして、この第2反力は、アンカー2の引き抜き抵抗力として備わることとなる。
【0045】
以上、本発明について出願人が最良であると信じる実施形態をいくつか詳述したが、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、上記実施形態に限定されることなく、種々の設計変更を行うことが可能である。上記実施形態では、本発明を用い、脆弱躯体の表面に保護壁パネルが被覆保護され、保護壁パネルが剥落してしまうことを抑止し、かつ、剥落した保護壁パネルを脆弱躯体へ修復可能とする例について説明した。しかしながら、このような例に限定されず、脆弱躯体に所定の機具が設置された例に本発明を適用し、その機具が剥落してしまうことを抑止し、かつ、剥落した機具を脆弱躯体へ修復可能とすることができる。
【0046】
また、
図4〜
図8において、アンカーにナットが付された形態が開示されているが、このナットは、アンカーを脆弱躯体へ打ち込みやすくする目的で設けたに過ぎず、本発明において必須の構成とはならないものである。その他、加圧固定アームを構成する構成部品の材質等は限定されず、用途に応じて適した材質の金属、その他の材料を採用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1・・・・・・・・・加圧固定アーム
2・・・・・・・・・アンカー
21,121・・・・頭部
3,103・・・・・加圧力伝達アーム
31・・・・・・・・屈曲部
32,132・・・・一端部
32a、132a・・穴
33,133・・・・他端部
4・・・・・・・・・押しボルト
41・・・・・・・・先端
105・・・・・・・加圧部
106・・・・・・・空隙
B・・・・・・・・・脆弱躯体
P・・・・・・・・・保護壁パネル