特許第6188027号(P6188027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6188027-不定形耐火物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188027
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/443 20060101AFI20170821BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20170821BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C04B35/443
   C04B35/66
   F27D1/00 N
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-153565(P2014-153565)
(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-30709(P2016-30709A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 宗子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 光広
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−117168(JP,A)
【文献】 特開2009−155166(JP,A)
【文献】 特開2013−209278(JP,A)
【文献】 特開2008−013430(JP,A)
【文献】 特開2012−229139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C04B 38/00−38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式XAl24からなるスピネル質で、前記化学式中のXがZn、Fe、Mg、Ni及びMnのうちのいずれかである多孔質焼結体の粒子を少なくとも含む不定形耐火物であって、前記粒子は、孔径10μm以下の気孔の内、孔径0.01μm以上0.8μm未満の気孔が10vol%以上50vol%以下を占め、前記粒子の粒度分布は粒子径10μm未満が5vol%以上30vol%以下,粒子径10μm以上100μm未満が35vol%以上80vol%以下,粒子径100μm以上1000μm以下が5vol%以上55vol%以下であることを特徴とする不定形耐火物。
【請求項2】
化学式XAl24からなるスピネル質が、MgAlであることを特徴とする請求項1記載の不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル質の多孔質焼結体からなる不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物や断熱材は、複数のパーツ同士の接合、またはパーツ間の隙間の充填に、耐火モルタルを用いて、所定の形状を作製することも多い。
【0003】
例えば特許文献1には、主成分としてアルミナとマグネシアを配合し、1000℃以上の高温における使用中にアルミナとマグネシアを反応させ、膨張性のあるスピネルを生成させる煉瓦目地充填材が記載されている。
【0004】
ところで、1000℃以上の高温領域で熱伝導率の上昇が抑制され、耐熱性にも優れた断熱材の材料として、マグネシアスピネルのセラミックス多孔体が注目されつつある。
【0005】
特許文献2または3に、所定の気孔径分布を有するスピネル質セラミックス多孔体は、伝導伝熱及びふく射伝熱を抑制できること、それにより1000℃以上の高温での耐熱性にも優れた断熱材として使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−302539号公報
【特許文献2】特開2012−229139号公報
【特許文献3】特開2013−209278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、モルタル自身にも、1000℃以上の高温領域で、熱伝導率の上昇が抑制され、耐熱性にも優れたものが求められる傾向にある。
【0008】
特許文献1に記載の発明は、高温での亀裂発生が抑制されており、強度や耐久性には優れているといえる。しかし、高温下での断熱性については、十分対応できているものとは言えなかった。
【0009】
また、上記の特許文献2,3に記載のスピネル質セラミックス多孔体を、耐火モルタル(目地材)として適用した場合も、その最適な形態が十分解明されていなかったので、必ずしも良好な特性が得られていなかった。
【0010】
本発明は、上記技術的課題に鑑み、とりわけ耐火モルタルとして好適であり、かつ、任意に成形可能である、高温での断熱性に優れた不定形耐火物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る不定形耐火物は、化学式XAl24からなるスピネル質で、前記化学式中のXがZn、Fe、Mg、Ni及びMnのうちのいずれかである多孔質焼結体の粒子を少なくとも含む不定形耐火物であって、前記粒子は、孔径10μm以下の気孔の内、孔径0.01μm以上0.8μm未満の気孔が10vol%以上50vol%以下を占め、前記粒子の粒度分布は粒子径10μm未満が5vol%以上30vol%以下,粒子径10μm以上100μm未満が35vol%以上80vol%以下,粒子径100μm以上1000μm以下が5vol%以上55vol%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温領域でも低い熱伝導率を維持した軽量な不定形耐火物、好適には、高温での使用時においても熱伝導率が低く抑えられた耐火モルタルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例における粒度分布を示すグラフである。
図2】本発明の一実施例における気孔径分布を、大気雰囲気で1500℃×3時間の熱処理前後で比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、化学式XAl24からなるスピネル質で、前記化学式中のXがZn、Fe、Mg、Ni及びMnのうちのいずれかである多孔質焼結体の粒子を少なくとも含む不定形耐火物であって、前記粒子は、孔径10μm以下の気孔の内、孔径0.01μm以上0.8μm未満の気孔が10vol%以上50vol%以下を占め、前記粒子の粒度分布は粒子径10μm未満が5vol%以上30vol%以下,粒子径10μm以上100μm未満が35vol%以上80vol%以下,粒子径100μm以上1000μm以下が5vol%以上55vol%以下である。
【0015】
本発明は、化学式XAl24からなるスピネル質からなる多孔質焼結体の粒子を少なくとも含む不定形耐火物である。ここで、「少なくとも含む」とは、XAl24からなる多孔質焼結体の粒子を必須の構成要件とし、それ以外の材料も、本発明の効果を損なわない範囲で、適時選択の上添加されることを排除しない、とするものである。
【0016】
不定形耐火物が耐火モルタルの場合は、化学式XAl24からなる多孔質焼結体の粒子に対して、各種の有機バインダーを添加したものが挙げられる。有機バインダーの例は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ウレタン、デンプン、等である。
【0017】
上記の耐火モルタルの例では、有機バインダーの添加量は、使用目的や使用状況によって適時設定されるが、好適には、固形分に対して0.5wt%以上20wt%以下である。さらに、有機バインダーと共に水を添加してもよい。
【0018】
ただし、不定形耐火物の添加物としては、化学式XAl24中にSiまたはCaが15wt%以上含まれると、後述する微小気孔の生成が阻害される懸念があるので、これらの元素を含む材料、例えば、粘土鉱物の添加は好ましいものとは言えない。
【0019】
化学式XAl24、好適にはMgAl24(マグネシアスピネル)は、高温での粒成長や粒界の結合によって生じる気孔の形状や大きさの変動が小さく、熱伝導率の変動を抑制する効果を長期間維持できるので、高温での使用に適する。なお、前記化学組成及びスピネル質の構造は、例えば、粉末X線回折法により測定及び同定できる。
【0020】
気孔容積割合は、多孔質焼結体粒子の気孔径分布から求めることができ、前記気孔径分布は、JIS R 1655「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」により測定できる。
【0021】
孔径10μm以下の気孔の内、孔径0.01μm以上0.8μm未満の、いわゆる微小気孔が10vol%以上50vol%以下を占めることで、単位体積当たりの気孔数を多くすることができ、粒界におけるフォノン散乱量が増加し、伝導伝熱を抑制する効果が得られる。
【0022】
前記微小気孔の占める割合が10vol%未満では、単位体積当たりの粒界数が少なく、伝導伝熱を抑制する効果が十分でなくなる。一方、前記微小気孔の占める割合が50vol%を超えると、例えば多孔質焼結体全体の気孔率65vol%以上の場合において、ふく射伝熱の抑制に適した孔径0.8μm以上10μm以下の気孔の量が少なくなる。そして相対的に、粗大気孔の占める割合が多くなるため、ふく射伝熱を抑制することが困難となる。
【0023】
なお、孔径10μm以下の気孔の内、孔径0.8μm以上10μm以下の気孔が占める割合については、特に制限を設けない。マイクロメートルオーダーの粒子径で構成される本発明の粒子では、気孔率と微小粒子の存在割合が決まれば、その他の気孔の割合もほぼ限定されるので、厳密に制約を設ける必要がないためである。
【0024】
孔径10μm超の粗大気孔が全体の気孔に占める割合についても、特に制限を設けるものではない。一体成形体と異なり、マイクロメートルオーダーの粒子径の集合体で構成される本発明の不定形耐火物は、粒子間の空隙の存在により、粗大気孔に対して厳密に制約を設ける必要がないためである。
【0025】
ここで、本発明に係る粒子の集合体におけるタップかさ密度が、0.4g/cm以上0.8g/cm以下であると、さらに好ましい。タップかさ密度は、JIS R 1628−1997「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」を参照して測定できる。
【0026】
通常、粒子を充填すると、粒子間の空隙が多数存在する。前述の通り、大きい気孔の占める割合が多いと、ふく射伝熱を抑制することが困難となるので、大きい気孔に相当する空隙が少なくなるようにすることが、本発明の実施においては好ましい。
【0027】
タップかさ密度は、粒子間の空隙をできるだけ排除して測定される。従って、本発明に係る粒子の集合体の密度をタップかさ密度で評価し、適切な範囲で管理することで、密度の最適化において、本発明の優れた断熱性も併せて担保することができる。
【0028】
本発明に係る気孔容積割合を有する粒子の集合体のタップかさ密度が、0.4g/cm以上0.8g/cm以下の範囲であれば、粗大気孔の占める割合が少ない状態で、気孔率60vol%以上を容易に得ることができる。
【0029】
タップかさ密度が0.4g/cm未満では、空隙の存在比が多くなるので、本発明の優れた断熱性を発揮する事がやや難しい傾向にある。また、0.8g/cm超では、本発明の断熱性を抑制する効果を維持しつつ、60vol%以上の気孔率を得ることは容易には実施できない。
【0030】
本発明に係る粒子の粒度分布は、粒子径10μm未満が5vol%以上30vol%以下,粒子径10μm以上100μm未満が35vol%以上80vol%以下,粒子径100μm以上1000μm以下が5vol%以上55vol%以下である。
【0031】
ここで、「粒子径10μm未満」とは、測定可能な粒子径の下限の範囲で10μm未満の粒子を全て含むものとする。
【0032】
粒度分布は、公知の測定手法、測定装置を用いて評価出来る。一例として、本発明の一実施形態では、レーザ回折式粒子径分布測定装置(島津製作所製)で測定を行っている。図1は、本発明の一実施例(実施例1)における粒度分布を示すグラフである。
【0033】
前述の気孔容積割合と、上記の粒度分布の範囲を併せ持つことで、熱伝導率を低く抑えられ、かつ、密度の小さい軽量な不定形耐火物が効果的に得られる。言い換えると、気孔容積割合と粒度分布を適切な範囲に設定しないと、このような効果は得られない。
【0034】
たとえば、ほぼ同じ粒径のMgAl24のみでは、本発明のような気孔分布を得るのは困難である。これは、小さい粒径のみでは気孔率を高くできず、大きい粒径のみでは微小気孔が全気孔の大半を占める気孔分布を得ることが難しいためである。
【0035】
また本発明に係る不定形耐火物は、1000℃以上1500℃以下の高温域における熱伝導率が0.4W/(m・K)以下であると好ましい。このような1000℃以上の高温域でも熱伝導率が増加することなく抑制されている断熱材は、高温域での使用においても断熱効果の変動が少ない。
【0036】
図2は、本発明に係る不定形耐火物の一実施形態(実施例1)において、大気中で1500℃×3時間の熱処理前後で気孔率分布を比較したグラフである。図2からも明らかなように、本発明に係る不定形耐火物は、熱処理前後での気孔径分布の変動が少ないものである。
【0037】
なお、1000℃以上1500℃以下における熱伝導率が0.3W/(m・K)以下であると、さらに好ましい。
【0038】
上記のような本発明に係る不定形耐火物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の多孔質焼結体の製造方法を適用できる。例えば、気孔構造の形成や調整は、造孔材や起泡剤の添加等により行うことができる。
【0039】
また、本発明に係る不定形耐火物は、断熱特性を著しく劣化させる、等の悪影響がない限りにおいて、様々な変形が可能である。例えば、各種の繊維や骨材が粒子の中または粒子間に存在していてもよい。あるいは、本発明の粒度分布の範囲内で、粒度分布の異なる2種類以上のモルタルとして、使用部位によって適時使い分けてもよい。
【0040】
好適には、本発明の一実施形態に準ずるブロック状のMgAl24からなる多孔質焼結体を複数用意し、これらを接合するのに本発明に係る不定形耐火物である耐火モルタルを用いて作製した断熱材は、耐火モルタルも含めた全体が、軽量かつ高温でも低い熱伝導率が維持されたものである。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0042】
(実施例1〜6、比較例1〜3)
水硬性アルミナ粉末(BK−112;住友化学株式会社製)11molに対して、酸化マグネシウム粉末(MGO11PB;株式会社高純度化学研究所製)9molの割合で混合し、これに水硬性アルミナと酸化マグネシウムの合計重量に対して等倍の重量の純水を加え、均一に分散させてスラリーを調製した。そして、造孔材を前記スラリーに対して30〜70vol%の範囲で混合し、造孔材の径及び添加量を適宜変更することで、下記表1の実施例1〜6、比較例1〜3にそれぞれ示すような気孔構成を有するように調整し、成形および乾燥し、大気中、1500℃で3時間焼成後、これらの多孔質焼結体を得た。
【0043】
これらの多孔質焼結体を、市販の粉砕機を用いて粉砕し、粒度分布が、粒子径10μm未満が15vol%,粒子径10μm以上100μm未満が50vol%,粒子径100μm以上1000μm以下が30vol%になるように調整して、多孔質焼結体の粒子を作製した。これら各粒子を50wt%、純水48wt%、ポリビニルアルコール2wt%混合して、不定形耐火物として、下記表1の実施例1〜6、比較例1〜3にそれぞれ示すような耐火モルタルを作製した。
【0044】
ここで、上記で得られた各多孔質焼結体について、X線回折(X線源:CuKα、電圧:40kV、電流:0.3A、走査速度:0.06°/s)にて結晶相を同定したところ、いずれもマグネシアスピネル相が観察された。
【0045】
上記実施例1〜6、比較例1〜3について、水銀ポロシメータを用いた気孔容積、JIS R 2616を参考にした熱伝導率、1500℃×3時間,大気中で熱処理を行った後の気孔率、タップかさ密度をそれぞれ測定し、これらの各種評価結果を、下記表1にまとめて示す。なお、気孔率の測定はJIS R 2614を参考にした。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示した評価結果から、本発明にかかる実施範囲においては、1000℃以上での熱伝導率が、比較例1〜3より低く抑えられていることがわかる。
【0048】
実施例1〜6は、1000℃から1500℃における熱伝導率は、0.4W/(m・K)を下回っており、より断熱性に優れているといえる。
【0049】
実施例1,2,4〜6は、1000℃から1500℃における熱伝導率が、0.3W/(m・K)を下回っており、さらに断熱性に優れているといえる。これは、微小気孔の割合を30vol%以下に抑えつつ、気孔率を75vol%超とした場合での、顕著な効果といえるものである。
【0050】
なお、上記実施例は、MgAlからなるスピネル質セラミックスの場合であるが、上述したとおり、本発明ではZnAl、FeAl、NiAl、MnAlのいずれかのスピネル質セラミックスであっても同様の効果が得られる。これらは、順に、ZnO+Al、Fe+Al、NiO+Al、MnO+Alの組み合わせによる多孔質セラミックス原料を用いること以外は、上述したMgAlとほぼ同様にして製造することができる。
【符号の説明】
【0051】
なし。
図1
図2