特許第6188061号(P6188061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188061
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】トンネル計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 7/06 20060101AFI20170821BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01C7/06
   G01C15/00 104A
   G01C15/00 103A
   G01C15/00 105S
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-132542(P2013-132542)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7567(P2015-7567A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年8月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506359532
【氏名又は名称】地球観測株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】394017446
【氏名又は名称】マック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 行茂
(72)【発明者】
【氏名】小泉 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】宮原 宏史
(72)【発明者】
【氏名】安井 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】岡村 正典
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−031529(JP,A)
【文献】 特開平11−145887(JP,A)
【文献】 特開2011−209094(JP,A)
【文献】 特開2006−266911(JP,A)
【文献】 特開2000−004469(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0224056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00− 9/14
G01B 11/00−11/30
G01C 1/00− 1/14
G01C 5/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルにおいて、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を計測するためのトンネル計測システムであって、
自動車に搭載されたトータルステーションと、該トータルステーションによって計測された、周方向に間隔をおいてトンネル内壁面に複数箇所に取り付けられると共に、トンネルの延長方向に設定された計測断面毎にトンネル内壁面に順次配設されたターゲットの計測データを、管理用コンピュータに転送する無線転送装置と、切羽と管理用コンピュータとの間に所定の距離をおいてトンネル坑内に複数設置された無線中継器とを含んで形成されており、
前記トータルステーションは、リモート水準機構と自動整準台とを含んで構成される自動整準部を介在させて、前記自動車に搭載されており、
前記無線転送装置から転送される計測データは、通信品質が最良になる無線中継器に転送されてから前記管理用コンピュータに無線で転送されるようになっており、
前記管理用コンピュータは、トンネル坑外の現場詰所に設けられており、前記無線転送装置から転送される計測データは、通信品質が最良になる無線中継器に転送されてから、トンネル坑外に向けて無線中継器に順次中継されて前記管理用コンピュータに無線で転送されるようになっており、
前記リモート水準機構は、据付け基盤と、該据付け基盤の上方に配置されるX方向傾斜盤と、該X方向傾斜盤の上方に配置されるY方向傾斜盤と、据付け基盤とX方向傾斜盤との間に介在して設けられた下部支柱及び下部ジャッキ機構と、X方向傾斜盤とY方向傾斜盤との間に介在して設けられた上部支柱及び上部ジャッキ機構とを含んで構成されており、前記Y方向傾斜盤の上面には、前記リモート水準機構と共に自動整準部を構成する、前記自動整準台が一体として固定されており、作業員による操作によって、下部ジャッキ機構や上部ジャッキ機構の伸縮を制御することで、前記Y方向傾斜盤が水平又は略水平に配置されるように調整できるようになっているトンネル計測システム。
【請求項2】
前記トータルステーションは、前記自動整準部と前記自動車の間に昇降機構を介在させて、前記自動車に搭載されている請求項1記載のトンネル計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル計測システムに関し、特に、山岳トンネルにおいて、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を計測するためのトンネル計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルにおいて、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を計測して、その後の挙動を追跡することは、例えばトンネルの安全性を判断したり、安定したトンネル覆工体を形成するために重要である。例えば、トンネル内壁面の地山の変位を計測して、変位量が好ましくは1〜2週間に1mm程度となることで、掘削後の地山が安定したと判断されて、覆工コンクリートが施工されるようになっている。
【0003】
トンネル内壁面の地山の変位を計測する従来の方法では、掘削後に吹付けコンクリートによって覆われたトンネル内壁面の所定の位置に、複数のターゲットを配設し、これらのターゲットを、作業の邪魔になり難い位置として、トンネル肩部に固定したトータルステーションで視準したり、測定作業毎に、三脚を用いて作業員がトンネル坑内の路盤上に据え付けたトータルステーションで視準したりすることによって行われていた(例えば、特許文献1参照)。また、トータルステーションで測定したターゲットの三次元座標を、例えばトンネル坑外の現場事務所に設けた管理コンピュータに、情報通信端末やトンネル坑内の無線通信基地局を介して、無線通信によって転送することでトンネル内壁面の地山の変位を管理することも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−99670号公報
【特許文献2】特開2008−298432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トンネル内壁面の地山の変位を計測する従来の方法によれば、トンネル肩部に固定したトータルステーションで視準する方法では、視準する距離が長くなると、トンネルの延長方向に間隔をおいて配設された複数のターゲットが同時に視野に入り易くなって、別のターゲットと誤認して視準してしまうおそれがある。また、作業の邪魔になり難いトンネル肩部には、風管等が配置されていることから、これらの風管等との位置関係によっては、ターゲットが風管に隠れて測定できない箇所が生じる場合がある。さらに、トンネルの掘削によって切羽との距離が例えば50m以上程度となったら、トータルステーションの固定位置を前方に盛替える必要があるため、例えば4〜5日に1回程度は、手間のかかる盛替え作業が生じることになる。通常は1日3〜6m程度の掘削進行だが、1日8〜10m程度の高速掘削が可能になる場合もあり、その場合、固定位置の盛替えの頻度がもっと短くなり、2〜3日に1回になることがあって、手間のかかる作業が増えることになる。さらにまた、切羽の発破の際には何らかの防護が必要となり、障害物があると測定不能となる。
【0006】
一方、測定作業毎にトータルステーションを据え付けて視準する方法では、作業員がトータルステーションを抱えながら移動して、その都度路盤上に三脚を用いて据え付け直す必要があることから、トンネル内壁面の変位の計測に相当の時間と手間がかかることになる。また、トータルステーションは、据付け高さが1.5m程度となるように据え付けられるため、周辺の重機などの陰に隠れて見通しが利かなくなることによって、ターゲットを視準し難くなる場合がある。
【0007】
さらに、トンネル内壁面の変位の計測は、トンネル掘削の進行方向に向けて順次計測位置を変えながら計測してゆくことのみならず、例えばトンネル上部のアーチ部及び側壁部を先行して掘削してから、後続してインバート部の掘削が行なわれる場合には、インバート部の掘削によっても地山が変動することがあるため、トンネルの坑口側に戻ってトンネル内壁面の変位を計測する必要を生じることになる。このため、従来の方法によれば、トータルステーションの固定位置を盛替える回数や、作業員が三脚を抱えながら移動してトータルステーションを据え付け直す回数が多くなって、長さに対して幅の狭い線状の構造物である山岳トンネルに対する内壁面の変位の測定が、断続的になり易くなることで、トンネル内壁面の地山の変位を精度良く計測したり、効率良く計測することが困難になる。
【0008】
本発明は、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間の山岳トンネルのトンネル内壁面の地山の変位を、複数のターゲットをトータルステーションによって迅速に且つ正確に視準させて、効率良く且つ精度良く計測できると共に、計測された計測データを管理用コンピュータにスムーズに転送することのできるトンネル計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、山岳トンネルにおいて、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を計測するためのトンネル計測システムであって、自動車に搭載されたトータルステーションと、該トータルステーションによって計測された、周方向に間隔をおいてトンネル内壁面に複数箇所に取り付けられると共に、トンネルの延長方向に設定された計測断面毎にトンネル内壁面に順次配設されたターゲットの計測データを、管理用コンピュータに転送する無線転送装置と、切羽と管理用コンピュータとの間に所定の距離をおいてトンネル坑内に複数設置された無線中継器とを含んで形成されており、前記トータルステーションは、リモート水準機構と自動整準台とを含んで構成される自動整準部を介在させて、前記自動車に搭載されており、前記無線転送装置から転送される計測データは、通信品質が最良になる無線中継器に転送されてから前記管理用コンピュータに無線で転送されるようになっており、前記管理用コンピュータは、トンネル坑外の現場詰所に設けられており、前記無線転送装置から転送される計測データは、通信品質が最良になる無線中継器に転送されてから、トンネル坑外に向けて無線中継器に順次中継されて前記管理用コンピュータに無線で転送されるようになっており、前記リモート水準機構は、据付け基盤と、該据付け基盤の上方に配置されるX方向傾斜盤と、該X方向傾斜盤の上方に配置されるY方向傾斜盤と、据付け基盤とX方向傾斜盤との間に介在して設けられた下部支柱及び下部ジャッキ機構と、X方向傾斜盤とY方向傾斜盤との間に介在して設けられた上部支柱及び上部ジャッキ機構とを含んで構成されており、前記Y方向傾斜盤の上面には、前記リモート水準機構と共に自動整準部を構成する、前記自動整準台が一体として固定されており、作業員による操作によって、下部ジャッキ機構や上部ジャッキ機構の伸縮を制御することで、前記Y方向傾斜盤が水平又は略水平に配置されるように調整できるようになっているトンネル計測システムを提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
また、本発明のトンネル計測システムは、前記トータルステーションが、前記自動整準部との間に昇降機構を介在させて、前記走行車両に搭載されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトンネル計測システムによれば、切羽を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間の山岳トンネルのトンネル内壁面の地山の変位を、複数のターゲットの各々をトータルステーションによって迅速に且つ正確に視準させて、効率良く且つ精度良く計測できると共に、計測された計測データを管理用コンピュータにスムーズに転送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル計測システムの説明図である。
図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル計測システムの説明図である。
図3】自動整準部を介在させて走行車両に搭載されるトータルステーションの、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図4】トータルステーションを搭載した走行車両の他の形態を例示する略示側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル計測システム10は、図1及び図2に示すように、例えば幅が8〜13m程度、高さが7〜12m程度の大きさの略半円形状の中空断面を有する数キロ程度の延長の山岳トンネル11を、例えばNATM工法によって山間部に形成する際に、発破等を行って切羽12を掘削してから、トンネル内壁面の地山を覆って吹付けコンクリートを吹き付けた後、覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を、トータルステーション13によって効率良く計測して管理するためのシステムとして採用されたものである。本実施形態では、トンネル計測システム10を用いてトンネル内壁面の地山の変位を継続的に計測して、例えば1〜2週間に1mm程度の変位しか計測されなくなったら、掘削後の地山の変位が収束して地山が安定したと判断して、覆工コンクリートを施工すると共に、当該覆工コンクリートが施工されるスパンの地山の変位の計測を、順次終了するようになっている。
【0017】
また、本実施形態のトンネル計測システム10では、トンネル内壁面に配設された複数のターゲットをトータルステーション13によって視準して地山の変位を継続的に計測する際に、視準するのに適切な位置にトータルステーション13をスムーズに設置できるようにして、例えば障害物を回避しながら各々のターゲットを視準するまでの時間を短縮することで、効率良く且つ精度良く、トンネル内壁面の地山の変位を連続的に計測できるようにする機能を備えると共に、トータルステーション13を設置した位置が、相当の施工延長を有する山岳トンネル11のいずれの領域であっても、トータルステーション13によって計測された計測データを、例えばトンネル坑外の現場詰所15の管理用コンピュータ16に、スムーズに転送できるようにする機能を備える。さらに、計測データの転送を無線で行うことで、例えば通信ケーブル等を用いてデータの転送を有線で行う場合に必要とされる、ケーブル等の敷設や、発破によって破損したり劣化したケーブル等の補修や、発破を行う際のケーブル等の防護などの作業を不要にすることが可能になる。これらによって、山岳トンネル11の急速施工を可能にすると共に、急カーブの施工にも、容易に対応できるようにする機能を備える。
【0018】
そして、本実施形態のトンネル計測システム10は、図1及び図2に示すように、山岳トンネル11において、切羽12を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間のトンネル内壁面の地山の変位を計測するためのトンネル計測システムであって、走行車両14に搭載されたトータルステーション13と、トータルステーション13によって計測された、トンネル内壁面に配設されたターゲット(図示せず)の計測データを、例えばトンネル坑外の現場詰所15に設置した管理用コンピュータ16に転送する無線転送装置17と、切羽12と管理用コンピュータ16との間に所定の距離をおいて複数設置された無線中継器18とを含んで形成されており、トータルステーション13は、好ましくはリモート水準機構19と自動整準台20とを含む自動整準部を介在させて、走行車両14に搭載されており、無線転送装置17から転送される計測データは、通信品質が最良になる好ましくは最寄りの無線中継器18に転送されてから、例えばトンネル坑外に向けて無線中継器18に順次中継されて現場詰所15の管理用コンピュータ16に転送されるようになっている。
【0019】
本実施形態では、トンネル計測システム10を構成するトータルステーション13は、距離を測る光波測距義と、角度を測るセオドライとを組み合わせた機能を備える公知の測量機器であり、視準点までの距離と角度とを同時に計測することにより、得られた角度と距離から視準点の平面的な位置や三次元的な位置を容易に計測できると共に、例えば三次元座標が既知の基準点を視準することによって、トータルステーション自らの位置を三次元座標により容易に特定できるようになっている。またトータルステーション13は、トンネル内壁面に配設された反射プリズムや反射シートによるターゲットの中心を、自動的に見つけ出して測定する機能を備える自動視準・自動追尾タイプのモータ−搭載型トータルステーションであることが好ましい。
【0020】
トンネル内壁面に配設されてトータルステーション13によって視準されるターゲットは、例えば反射プリズムや反射シートからなる公知の視準部材であり、例えば特開平5−99670号公報に記載されるように、貼付板やボルトや磁石体等を用いて、吹付けコンクリートが吹き付けられたたトンネル内壁面の所定の位置に、固定した状態で容易に取り付けることができる。本実施形態では、ターゲットは、山岳トンネル11の同じ断面内に、周方向に間隔をおいて複数箇所に取り付けられると共に、1日に例えば3〜6m程度の掘削速度で行われる切羽12の掘削の進行に伴って、例えばトンネルの延長方向に5〜20m程度のピッチで設定された計測断面毎に、順次配設されることになる。
【0021】
トータルステーション13によって計測されたターゲットの計測データを転送する無線転送装置17は、例えば無線転送ユニットが組み込まれたパーソナルコンピュータからなり、トータルステーション13から取り込んだ各々のターゲットの計測データを、後述する無線中継器18を介して、トンネル坑外の現場詰所15の管理用コンピュータ16に適宜転送できるようになっている。
【0022】
本実施形態では、トンネル計測システム10を構成する走行車両14は、好ましくはワンボックスタイプの自動車となっており、天井部分に設置台を設けて、この設置台にトータルステーション13を、後述するリモート水準機構19と自動整準台20とを含む自動整準部を介在させて、安定した状態で搭載できるようになっている。走行車両14として自動車を用いることにより、トンネル坑内の路盤上の、ターゲットの視準に適した任意の位置に当該自動車14を素早く移動させて、トータルステーション13を迅速に据え付けることが可能になる。また、自動車14の天井部分に設けた設置台にトータルステーション13を搭載したことにより、トータルステーション13の視準高さを、作業員の目線よりも高い、路盤から例えば2.5m以上の高さに配置することが可能になって、ターゲットの視準のし易さを向上させることが可能になる。
【0023】
トータルステーション13と走行車両14との間に配置される自動整準部を構成するリモート水準機構19は、本実施形態では、図3(a)、(b)に示すように、走行車両14の天井部分の設置台に据付けられる据付け基盤19aと、この据付け基盤19aの上方に配置されるX方向傾斜盤19bと、このX方向傾斜盤19bの上方に配置されるY方向傾斜盤19cと、据付け基盤19aとX方向傾斜盤19bとの間に介在して設けられた下部支柱19d及び下部ジャッキ機構19eと、X方向傾斜盤19bとY方向傾斜盤19cとの間に介在して設けられた上部支柱19f及び上部ジャッキ機構19gとを含んで構成されている。Y方向傾斜盤19cの上面には、リモート水準機構19と共に自動整準部を構成する、自動整準台20が一体として固定されている。
【0024】
X方向傾斜盤19bは、Y方向(図3(a)の紙面の前後方向)の両側の側辺部分の中央部において、据付け基盤19aから立設する下部支柱19dの上端部と回転可能に各々ヒンジ連結されている。下部ジャッキ機構19eは、X方向に延設配置されて、一方の端部が、据付け基盤19aの下部支柱19dを挟んだ一方の側の端部の上面側に回転可能にピン結合されていると共に、他方の端部が、X方向傾斜盤19bの下部支柱19dを挟んだ他方の側の端部の下面側に回転可能にピン結合されている。これによって、X方向傾斜盤19bは、下部ジャッキ機構19eを伸縮させることで、据付け基盤19aに対して、下部支柱19dの上端部を中心とした任意の角度でX方向に傾斜させることができるようになっている(図3(a)参照)。
【0025】
Y方向傾斜盤19cは、X方向(図3(b)の紙面の前後方向)の両側の側辺部分の中央部において、X方向傾斜盤19bから立設する上部支柱19fの上端部と回転可能に各々ヒンジ連結されている。上部ジャッキ機構19gは、Y方向に延設配置されて、一方の端部が、X方向傾斜盤19bの上部支柱19fを挟んだ一方の側の端部の上面側に回転可能にピン結合されていると共に、他方の端部が、Y方向傾斜盤19cの上部支柱19fを挟んだ他方の側の端部の下面側に回転可能にピン結合されている。これによって、Y方向傾斜盤19cは、上部ジャッキ機構19gを伸縮させることで、X方向傾斜盤19bに対して、上部支柱19fの上端部を中心とした任意の角度でY方向に傾斜させることができるようになっている(図3(b)参照)。
【0026】
これらによって、リモート水準機構19は、下部ジャッキ機構19eや上部ジャッキ機構19gの伸縮を制御することで、自動整準台20が固定されたY方向傾斜盤19cが水平又は略水平に配置されるように、容易に調整できるようになっている。すなわち、リモート水準機構19は、好ましくはリモートコントローラ21(図2参照)を用いた、例えば走行車両14から降りた作業員による操作によって、無線転送装置を兼ねるパーソナルコンピュータ17のデイスプレイに表示された、X方向傾斜盤19bやY方向傾斜盤19cの画像や、これらの傾斜盤19b,19cに取り付けた傾斜センサーからのデータ等を見ながら、Y方向傾斜盤19cが水平又は略水平に配置されるように、容易に調整できるようになっている。
【0027】
トータルステーション13と走行車両14との間に自動整準部を構成するリモート水準機構19が配置されていることにより、自動整準台20によってトータルステーション13が水平に据え付けられるように容易に自動整準できる傾きとして、例えば±4°程度以内の傾斜角度となるように、自動整準台20が固定されたY方向傾斜盤19cの傾きを、容易に調整することが可能になる。またこれによって、自動整準台20よるトータルステーション13の自動整準が、精度良くスムーズに行われるようにすることが可能になる。
【0028】
リモート水準機構19のY方向傾斜盤19gに固定されてトータルステーション13との間に介在する自動整準台20は、載置された測量機器の整準がずれた時に自動で整準をする機能を備える、トータルステーション13と組み合わせて用いる公知のオートステージであり、スイッチを入れるだけで高精度に自動整準することができるようになっている。このような自動整準台20として、例えば±4°程度以内の傾斜角度を、10秒程度の精度で自動整準することか可能な既存の自動整準台を用いることができる。
【0029】
また、本実施形態では、例えば自動整準部を構成するリモート水準機構19の据付け基盤19aと、走行車両14の天井部分の設置台との間に介在させて、スライド移動機構(図示せず)を設けることもできる。スライド移動機構は、例えばリモートコントローラ21からの操作によって、走行車両14の設置台に対して、リモート水準機構19の据付け基盤19aを、水平又は略水平な面に沿って前後左右にスライド移動させることができるようになっている。スライド移動機構が設けられていることにより、障害物を避けるようにしながら、トータルステーション13によってさらに容易にターゲットを視準することが可能になる。
【0030】
切羽12と管理用コンピュータ16との間に複数設置される無線中継器18は、無線転送装置17や、トンネルの掘進方向前方側に隣接する他の無線中継器18から転送されてくる、トータルステーション13によって計測されたターゲットの計測データを受信して、トンネルの掘進方向後方側又は前方側に隣接する他の無線中継器18や、現場詰所15の管理用コンピュータ16に転送する機能を備える、公知の種々の送受信機器を用いることができる。無線中継器18は、山岳トンネル11の狭隘で長いトンネル坑内においても、計測データの送受信が支障なく確実に行なわれるように、切羽12の掘削の進行に伴って、例えば100〜300m程度の間隔をおいて設置することが好ましい。本実施形態では、所定の距離として、好ましくは200mの間隔をおいて複数の無線中継器18が設置されている(図1参照)。
【0031】
トンネル坑外の現場詰所15に設置される管理用コンピュータ16は、例えば無線受信ユニットが組み込まれたパーソナルコンピュータからなり、無線転送装置17から無線中継器18を介して転送されてくる、トータルステーション13によって計測されたターゲットの計測データを受信して、取り込むことができるようになっている。管理用コンピュータ16bには、公知の各種のトンネル施工管理用のプログラムが組み込まれており、例えば所定の計測断面に取り付けられたターゲットの計測データを、それ以前に取り込まれた同じのターゲットの計測データと比較することによって、当該計測断面におけるトンネル内壁面の地山の変位を容易に管理することができるようになっている。
【0032】
本実施形態のトンネル計測システム10によって、トンネル内壁面の地山の変位を計測するには、例えば作業員がワンボックスタイプの自動車である走行車両14を運転して、所定の計測断面に取り付けたターゲットをトータルステーション13によって視準するのに適した、工事用の重機等を避けることが可能な所望の据付け箇所まで移動する。所望の据付け箇所まで移動したら、好ましくは作業員がエンジンを止めて自動車14から降りることで、乗車している作業員の体重移動等によって自動車14が僅かでも揺れ動いてトータルステーション13による視準に影響が及ぶのを、回避できる状態とする。しかる後に、自動車14から降りた作業員が、リモートコントローラ21を操作して、自動整準部のリモート水準機構19を稼働制御することにより、自動整準台20が固定されたY方向傾斜盤19cが、水平又は略水平に配置されるように調整する。
【0033】
Y方向傾斜盤19cが水平又は略水平に配置されるように調整したら、リモートコントローラ21から自動整準部の自動整準台20のスイッチを入れることで、トータルステーション13は、これの基準軸が水平又は鉛直に方向付けされるようにスムーズに自動整準される。トータルステーション13を自動整準したら、リモートコントローラ21からトータルステーション13のスイッチを入れることで、トータルステーション13は、例えばトンネル坑内の不動点に設置された、三次元座標が既知の好ましくは複数の基準ターゲットを視準して、トータルステーション13自らの位置を三次元座標として計測する。しかる後に、トータルステーション13は、所定の計測断面に取り付けられたターゲットを自動的に見つけ出して視準することにより、各々のターゲットの中心位置を、三次元座標として計測する。計測されたターゲットの計測データは、上述のように、無線転送装置17から無線中継器18を介して転送されて、例えばトンネル坑外の現場詰所15に設置された管理用コンピュータ16に取り込まれ、取り込まれた計測データによって、トンネル内壁面の地山の変位が管理される。
【0034】
そして、上述の構成を備える本実施形態のトンネル計測システム10によれば、切羽12を掘削してから覆工コンクリートが打設されるまでの間の山岳トンネル11のトンネル内壁面の地山の変位を、複数のターゲットの各々をトータルステーション13によって迅速に且つ正確に視準させて、効率良く且つ精度良く、連続的に計測することが可能になると共に、計測された計測データを管理用コンピュータ16にスムーズに転送することが可能になる。
【0035】
すなわち、本実施形態によれば、トンネル計測システム10は、走行車両14に搭載されたトータルステーション13と、トータルステーション13によって計測されたターゲットの計測データをトンネル坑外の管理用コンピュータ16に転送する無線転送装置17と、切羽12と管理用コンピュータ16との間に複数設置された無線中継器18とを含んで構成されており、トータルステーション13は、リモート水準機構19と自動整準台20とを含む自動整準部を介在させて走行車両14に搭載されているので、走行車両14を運転して、所定のターゲットを精度良く視準するのに適した所望の据付け箇所まで、トータルステーション13を素早く移動させることが可能になると共に、据付け箇所に移動したトータルステーション13を自動整準部のリモート水準機構19と自動整準台20とによって迅速に整準させることが可能になって、据付け箇所に移動させてトータルステーション13を整準した後に、ターゲットを視準して計測データを得るまでの時間を、例えば1〜2分程度に留めて、山岳トンネル11のトンネル内壁面の地山の変位を、効率良く且つ精度良く計測することが可能になる。
【0036】
また、本実施形態によれば、切羽12と管理用コンピュータ16との間に、計測データを確実に転送するのに適した所定の距離をおいて、複数の無線中継器18がトンネル坑内に設置されているので、トンネルの掘削が進行して、地山が安定していない切羽12の近傍部分から例えばトンネル坑外の管理用コンピュータ16までの距離が長くなっても、切羽12の近傍部分で計測したトンネル内壁面の計測データを、これらの無線中継器18を介して、無線転送装置17から管理用コンピュータ16まで確実に且つ安定した状態で転送することが可能になる。
【0037】
さらに、例えば切羽12から離れた施工領域において、例えば山岳トンネル11のインバート部が後続して掘削された際に、インバート部の掘削の影響によるトンネル内壁面の変位を計測するために、トンネルの坑口側に戻って、切羽12から離れた部分の計測断面のターゲットを視準し直す必要を生じた場合でも、走行車両14によってトータルステーション13を所望の据付け箇所まで迅速に移動させて、上述と同様に効率良く且つ精度良く、連続的にトンネル内壁面の変位を計測することが可能になると共に、計測された計測データは、無線転送装置17から通信品質が最良になる最寄りの無線中継器18に転送してから、例えばトンネル坑外の管理用コンピュータ16に転送することで、上述と同様に確実に且つ安定した状態で転送することが可能になる。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、トンネル坑内のいかなる箇所の計測断面のターゲットも素早く視準して測定することが可能となると共に、通信品質が最良になる最寄りの無線中継器18を介して計測データを転送することで、施工中のトンネル坑内の全体のトンネル内壁面の変位を、シビアに管理することが可能になる。またこれによって、山岳トンネル11の急速施工を可能にすると共に、急カーブの施工にも、容易に対応することが可能になる。
【0039】
図4は、トータルステーション13を搭載した走行車両の他の形態を例示するものである。図4に示す走行車両14’は、一般乗用車となっており、これの天井部分に設けられた設置台には、昇降機構22によって昇降する昇降台23が取り付けられており、この昇降台23の上に、リモート水準機構19と自動整準台20とを含む自動整準部を介在させて、トータルステーション13が搭載されている。すなわち、トータルステーション13は、自動整準部のリモート水準機構19との間に昇降機構22を介在させて、走行車両14’に搭載されている。昇降機構22は、リモートコントローラ21(図2参照)からの操作によって、昇降台23の高さ位置を任意に調整できるようになっている。
【0040】
トータルステーション13が昇降機構22を介在させて走行車両14’に搭載されていることにより、トータルステーション13の視準高さを調整することが可能になって、障害物等を避けながらターゲットを視準し易くなることで、さらに効率良く且つ精度良くトンネル内壁面の地山の変位を計測することが可能になる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、走行車両は、自動車に限定されることなく、トータルステーションを搭載してトンネル坑内を速やかに移動可能な、その他の種々の車両であっても良い。自動整準部は、上述のリモート水準機構と自動整準台とを含むものである必要は必ずしもなく、トータルステーションを傾いた状態から水平な状態に遠隔操作によって整準することが可能な、その他の種々の整準機構を採用することができる。
【0042】
また、本発明のトンネル計測システムによって地山の変位が計測されるトンネル内壁面は、所定のトンネル断面における周方向の壁面である必要は必ずしもなく、例えば切羽面を計測対象のトンネル内壁面とすることにより、例えば次に発破が行なわれるまでの間の切羽面の変位を計測することもできる。
【0043】
さらに、本発明のトンネル計測システムは、切羽を掘削して覆工コンクリートが打設され後においても、例えば覆工コンクリートにターゲットを設置して、トンネル覆工後のトンネル内壁面の変位を計測するシステムとして、そのまま利用することもできる。
【符号の説明】
【0044】
10 トンネル計測システム
11 山岳トンネル
12 切羽
13 トータルステーション
14,14’ 走行車両(自動車)
15 現場詰所
16 管理用コンピュータ
17 接合プレート
18 無線中継器
19 リモート水準機構(自動整準部)
20 自動整準台(自動整準部)
21 リモートコントローラ
22 昇降機構
23 昇降台
図1
図2
図3
図4