【実施例1】
【0014】
図1は、本発明のエレベータ用点検装置が点検対象とするエレベータ1の概略構造を要部を透視して示した斜視図である。このエレベータ1は、建物に設備された昇降路2内を乗りかご3が各階床に設置された乗場4(
図1中では最下階のみを示す)の間を昇降運転するもので、昇降路2の下部にはピット5が設けられ、昇降路2の上部には機械室6が設けられている。乗りかご3は、昇降路2の壁に立設されたかご用ガイドレール7に沿って昇降し、機械室6に設置された本体を略図する巻上機14を介して主ロープ13により乗りかご3との間で取り付けられた釣合錘8は、同様に昇降路2の壁に立設された錘用ガイドレール9に沿って昇降する。また、機械室6には、乗りかご3の昇降運転を制御する制御盤12が設置され、乗りかご3を昇降させる巻上機14には主ロープ13が掛けられており、主ロープ13の一端は乗りかご3に取り付けられ、他端は釣合錘8に取り付けられる。その他、機械室6内には略図する調速機の本体が設けられ、調速機における機械室6内の滑車とピット5上に設置された滑車とには調速機ロープ15が架け渡されて昇降路2内の高さ方向に延在している。
【0015】
このエレベータ1では、巻上機14を駆動することにより乗りかご3が昇降するが、各階の乗場4に設けられた乗場ドア(外ドアとも呼ばれる)10は、乗りかご3に対する乗降口となる。乗場ドア10は、乗りかご3が着床した場合に乗りかご3のかごドア(内ドアとも呼ばれる)11に係合し、開閉することで利用者が乗りかご3に乗降することができる。因みに、保守点検員は、保守点検作業時に外部開放手段により乗場ドア10を開けて昇降路2内を点検することが可能であり、同様に専門技術を持つ点検管理者は、強い揺れの地震が発生してエレベータが停止して動かせない状態にあって、現地で復旧のための点検作業を行う際にも乗場ドア10を開けて昇降路2内に後文で説明する点検装置を進入させることが可能である。係る点検装置は、点検管理者が装置を持参しなくても、強い地震が発生してエレベータが停止した後に即座に点検を開始できるように、昇降路2における天井の機械室6内又はピット5床に常設しておくか、或いは乗りかご3におけるかご上又はかご下に常設しておくことが好ましい。例えば点検装置を機械室6内に設置する場合には、機械室6の床面に点検孔を穿孔しておき、昇降路2内へ点検孔を通して投入するようにしても良い。何れにしても、点検装置は、
図1で説明したように乗りかご3が1系統である場合のエレベータ1の他、乗りかご3が複数並設される多系統のエレベータを対象にしても適用可能である。
【0016】
図2は、実施例1に係るエレベータ用点検装置20の基本構成を一部を透視して示した斜視図である。また、
図3は、この点検装置20を飛行時の昇降路2内におけるかご用ガイドレール7及び主ロープ13との位置関係で示した上面方向からの外観図である。この点検装置20は、エレベータの乗りかご3を停止させた状態で昇降路2内におけるエレベータ機器を点検するためのもので、強い揺れの地震が発生してエレベータが停止して動かせなくても、現地で専門技術を持つ点検管理者が復旧のための点検作業を行う際、乗りかご3が停止している位置を確認した後、適切な階の乗場ドア10を開けて点検装置20を昇降路2内に進入させ、点検装置20の飛行を開始させて昇降路2内におけるエレベータ機器の状態を点検することができるものである。
【0017】
具体的に云えば、点検装置20は、乗りかご3が昇降する昇降路2内の空中を昇降路2に設置されたエレベータ機器(例えば
図3に示されるようなかご用ガイドレール7及び主ロープ13)を含む障害物となる対象物に対して非接触で上昇又は下降して飛行する機能を持つ飛行手段22と、この飛行手段22の基体となるプラットホーム35に取り付けられて昇降路2に設置されたエレベータ機器を撮像する機能を持つ撮像手段21と、を備えて構成される。ここでの飛行手段22のプラットホーム35は、内部に閉じた空間を含まない略十字型の外観形状となっており、略十字型のプラットホーム35の中心部に取り付けられた撮像手段21は、昇降路2内の全体の内部を撮像できるものである。
【0018】
このうち、飛行手段22は、昇降路2内に存在する障害物となる対象物を回避して非接触で飛行できるように、自体から昇降路2内に存在する障害物となる対象物までの距離を測定する距離測定手段を備える。この距離測定手段は撮像手段21によって兼用できるもので、そうした場合には昇降路2内のエレベータ機器の3次元的な配置の撮像情報を得るためにレーザスキャナ、タイムオブフライト距離画像センサ、3次元カメラの何れか1つを適用することができる。また、上述した飛行手段22の基体となるプラットホーム35が内部に閉じた空間を含まないことにより、距離測定手段で装置をかご用ガイドレール7、錘用ガイドレール9、略図するテールコードに沿って昇降させることが可能となる他、これらのレールが外れたり、或いは主ロープ13、調速機ロープ15、テールコードが昇降路2内のエレベータ機器に引っ掛かるような状況が発生した場合にもこれらの障害物となる対象物から離脱して昇降飛行を続けることが可能となる。因みに、障害物となる対象物としては、例えば乗場ドア10を含む壁、昇降路2の天井となる機械室6の床、昇降路2の床となるピット5、乗りかご3、釣合錘8、主ロープ13、調速機ロープ15、かご用ガイドレール7、錘用ガイドレール9等が挙げられる。
【0019】
更に、飛行手段22は、撮像手段21により撮像された撮像情報を記録する記録部27と、記録部27に記録された撮像情報を外部へ送信する送信機能を持つ通信部28と、記録部27における撮像情報の記録又は読み出しの動作制御、並びに通信部28を介しての撮像情報の外部への送信動作制御を行うと共に、飛行駆動部に対する駆動指令の受信動作制御、並びに駆動指令に基づく飛行駆動部への駆動制御を行う制御部32と、を備えている。記録部27は、点検完了後に詳細に点検結果を見直すことができるように撮像情報を記録するものである。通信部28は、リアルタイムで点検管理者へ撮像情報を提供して昇降路2内の状況画像を確認できるようにするものである。制御部32は、専門技術者を別途出動させることなく、点検管理者が点検を適確に実施し、点検結果を簡便に確認できるようにするものである。
【0020】
加えて、飛行手段22は、略十字型のプラットホーム35の四方向における端部に設けられた飛行駆動部としてのモータ29a、29b、29c、29dの回転軸にそれぞれ取り付けられた回転羽根30a、30b、30c、30dを持つと共に、各回転羽根30a、30b、30c、30dの最外周には円環状接触保護部が設けられている。この円環状接触保護部は、回転羽根30a、30b、30c、30dに昇降路2の壁面やエレベータ機器が触れた場合でも、即時に回転羽根30a、30b、30c、30dが停止することを防止し、点検装置20(プラットホーム35)の姿勢が崩れることを防止するためのものである。
【0021】
図2を参照して細部構成を具体的に説明すれば、飛行手段22は、略十字型のプラットホーム35の四方向における端部にモータ29a、29b、29c、29dが配置され、これらの回転軸には回転羽根30a、30b、30c、30dが取り付けられており、モータ29a、29b、29c、29dを回転させて回転羽根30a、30b、30c、30dによる下向きの気流を発生させることでプラットホーム35を空中に浮揚させて飛行させることができる。即ち、飛行手段22では、モータ29a、29b、29c、29dの回転数を上げればプラットホーム35を垂直に上昇させることができ、下げれば
プラットホーム35を下降させることができる。各回転羽根30a、30b、30c、30dの最外周に設けられた円環状接触保護部は、仮に回転羽根30a、30b、30c、30dが回転中に昇降路2の壁や昇降路2内のエレベータ機器と接触した場合に接触した箇所が即座に停止し、プラットホーム35の姿勢が崩れてしまうのを防止するためのもので、回転羽根30a、30b、30c、30dの回転状態での接触保護用として働く。
【0022】
ここで、プラットホーム35自体は、なるべく軽量化させるため、発泡スチロール、軽量な樹脂や木材等を材料とすることが望ましい。また、プラットホーム35を空中に浮揚させるために下向きの気流を発生させる際、回転羽根30a、30b、30c、30の回転のみならず、圧縮された空気やガス等の気体を下方に噴射させるようにしても良い。更に、モータ29a、29b、29c、29dを駆動するための電力は、重心を低くするためにプラットホーム35の中央部の下部に設置したバッテリ34によりプラットホーム35の中央部の上部に設置した制御部32を介してモータ29a、29b、29c、29dに対して供給するが、バッテリ34が小型で軽量であればプラットホーム35の中央部の下部以外の箇所に設置しても良い。
【0023】
ところで、飛行手段22は、飛行姿勢を水平に保つための機能を有しており、プラットホーム35の四方向における腕部の中途箇所には、その飛行姿勢(傾斜角度)を検出するための傾斜検出部31a、31b、31c、31dが設けられている。制御部32は、これらの傾斜検出部31a、31b、31c、31dからの傾斜情報を参照し、モータ29a、29b、29c、29dへバッテリ34から供給する駆動電力を制御することで回転羽根30a、30b、30c、30dの回転を制御し、これによってプラットホーム35を水平に保つ。傾斜検出部31a、31b、31c、31dには、例えば多軸加速度センサを用いて重力を検出した結果に基づいて傾き速度を算出するか、或いは多軸ジャイロセンサを用いて傾き速度を検出するようにする場合を例示できる。
【0024】
また、飛行手段22は、水平方向に移動するための機能を有しており、略十字型のプラットホーム35の四方向における端部に設けられたモータ29a、29b、29c、29dはプラットホーム35に対してそれらの回転軸の角度を可変できるように設けられており、制御部32によって回転軸の角度が制御される。ここで、例えば制御部32がモータ29a、29b、29c、29dの同じ方向、同じ角度に変えれば回転羽根30a、30b、30c、30dの回転による下方への気流の向きを変えることができ、その結果プラットホーム35は浮揚状態を保ったまま回転軸を倒した側へ水平移動し、その移動を停止する場合にはモータ29a、29b、29c、29dの回転軸の角度を垂直方向にすれば良い。尚、飛行手段22の水平方向への移動は、ここで説明した構造に限らず、例えばプラットホーム35上に回動可能に設けた略図する別のモータ及びその回転軸に取り付けられた回転羽根によって発生させた水平方向や側方への気流によって行わせるか、或いは圧縮された空気やガス等の気体を水平方向や側方に噴射させて行っても良い。
【0025】
更に、飛行手段22は、昇降路2に設置されたエレベータ機器を含む障害物となる対象物に対して非接触で上昇又は下降して飛行する機能を有しており、略十字型のプラットホーム35の四方向における先端部、上面、下面には、自体から昇降路2内に存在する障害物となる対象物までの距離を例えば超音波、光、マクロ波等により測定する距離測定手段として、近接検出部33a、33b、33c、33d、33e、33fが設けられており、制御部32によって近接検出部33a、33b、33c、33dからの距離情報に基づいてプラットホーム35を水平方向へ移動させると共に、近接検出部33e、33fからの距離情報に基づいてプラットホーム35を上下方向に昇降させる。
【0026】
その他、略十字型のプラットホーム35の四方向の端部における対向する位置には発光部24a及び受光部24h、発光部24c及び受光部24b、発光部24e及び受光部24d、発光部24g及び受光部24fが設けられ、発光部24aからの光が受光部24bに入射されて受光され、発光部24cの光が受光部24dに入射されて受光され、発光部24eの光が受光部24fに入射されて受光され、発光部24gの光が受光部24hに入射されて受光されるようになっている。例えば、
図3を参照すれば、発光部24aからの光線40aが主ロープ13で遮断されたり、或いは発光部24dからの光線40cがかご用ガイドレール7で遮断されると、遮光されない発光部24cからの光線40bを受光する受光部24dや発光部24gからの光線40dを受光する受光部24hと比べ、受光部24b、24fの受光量が大幅に減衰するため、制御部32はプラットホーム35が主ロープ13やかご用ガイドレール7に接近したと判断することができる。そこで、制御部32は、その飛行状態を回避するための移動制御を行ったり、或いはその状態を維持したまま主ロープ13やかご用ガイドレール7に沿った状態でプラットホーム35を昇降させる制御を行うことが可能となる。
【0027】
一方、プラットホーム35の中央部の上部に制御部32及び記録部27を介在させて取り付けられた撮像手段21は、昇降路2内のエレベータ機器を含む障害となる対象物を撮像するビデオカメラやデジタルカメラ等による撮像部23と、昇降路2内の撮像部23による撮像視野を照明するランプや発光ダイオード(LED)等による照明部25と、撮像部23及び照明部25をプラットホーム35に対して回動可能に設置する雲台26と、を備えて構成される。撮像部23が撮像した撮像情報(画像処理機能を持てば画像データとなる)は、制御部32の制御を受けて記録部27により記録された後、記録部27から読み出されてプラットホーム35の中央部の下部のバッテリ34上に取り付けられたアンテナを備えた無線通信機等による通信部28を介して点検管理者が携帯する受像機能を持つ携帯端末の表示画面上に画像化されて表示される。
【0028】
これにより、点検管理者は、昇降路2の壁面に立設されたかご用ガイドレール7や錘用ガイドレール9の状態、乗りかご3や釣合錘8の状態、主ロープ13や調速機ロープ15の他、略図するテールコードの状態を確認し、例えばかご用ガイドレール7の外れや曲損、乗りかご3や釣合錘8の脱レール、主ロープ13やテールコードの昇降路2内のエレベータ機器への引っ掛かり等、エレベータ1の乗りかご3の走行に支障を来す状況が発生しているか否かを画像により確認することができる。特に、飛行手段22により点検装置20を昇降させながら確認することができるため、長い昇降路1であっても全体の状況を簡便にして適確に判断することができる。このとき、飛行手段22が昇降路2内の障害物となる対象物を検出すると自動的に回避して非接触で飛行する機能を持つため、主ロープ13やテールコードの引っ掛かりが発生しているような状況でも、それを自動的に回避して点検を続行することができる。
【0029】
点検装置20による昇降路2内の復旧のための点検作業が終了すると、点検管理者は所定の位置に点検装置20を浮揚させた状態で手で回収するか、或いは乗りかご3上やピット5の所定位置に着陸させて回収して所定の場所で保管することで次回の点検作業に備える。この後、記録部27に記録された撮像情報を再度確認して詳細な点検確認を行うことも可能である。
【0030】
実施例1に係るエレベータ用点検装置20では、乗りかご3が昇降する昇降路2内でエレベータ機器を含む障害物となる対象物とは非接触で上昇又は下降して飛行する飛行手段22に取り付けられた撮像手段21が昇降路2に設置されたエレベータ機器を撮像する機能を持つため、強い揺れの地震発生によりエレベータが停止して動かせなくても、現地で専門技術を持つ点検管理者が復旧のための点検作業を行う際、装置を昇降路2内に投入して飛行手段22で昇降移動させながら撮像手段21で撮像した撮像情報を参照すれば、昇降路2に設置されたエレベータ機器の状況を正確に把握することができる。この結果、昇降路2の長さに係らず迅速且つ適確に昇降路2内におけるエレベータ機器を簡便に点検し、エレベータを早期に復旧できるようになる。