(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ性剥離液を加熱手段及び撹拌手段を具備する耐圧の反応槽に収容する第1の工程と、少なくとも一部は網目状に形成される容器に、表面に塗膜を有する基体を収容して前記反応槽内部に浸漬する第2の工程と、前記アルカリ性剥離液を前記撹拌手段で撹拌しながら120℃以上で前記基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで前記加熱手段で加熱する第3の工程と、前記アルカリ性剥離液によって前記塗膜が剥離し前記反応槽から取り出された前記基体を洗浄する第4の工程と、を備えることを特徴とする塗膜除去方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、処理する温度が低温であるので、硬化してから長時間を経た硬化塗膜を完全に除去することは困難であるという課題があった。また、近年では、より性能の高い塗膜が開発されており、このような低い温度条件で塗膜を剥離することは困難であるという課題もあった。
【0007】
また、特許文献2に記載された従来の技術では、中性又は弱アルカリ性の剥離液を用いているので、接着界面に作用する力が弱く、実施例に示されたような塗装直後の塗膜の除去には適しているが、特許文献1と同様に時間を経て硬化した硬化塗膜の剥離には適していないという課題があった。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、自動車部品等の産業廃棄物となったプラスチック製品表面の塗膜をアルカリ性剥離液を用いてプラスチック製の基体から短時間で完全且つ簡便に剥離して除去することが可能な塗膜除去方法と塗膜除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である塗膜除去方法は、アルカリ性剥離液を加熱手段及び撹拌手段を具備する耐圧の反応槽に収容する第1の工程と、少なくとも一部は網目状に形成される容器に、表面に塗膜を有する基体を収容して反応槽内部に浸漬する第2の工程と、アルカリ性剥離液を撹拌手段で撹拌しながら120℃以上で基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱手段で加熱する第3の工程と、アルカリ性剥離液によって塗膜が剥離し反応槽から取り出された基体を洗浄する第4の工程と、を備えるものである。
上記構成の塗膜除去方法では、第1の工程においてアルカリ性剥離液が加熱手段及び撹拌手段を具備する耐圧の反応槽に収容され、第2の工程において表面に塗膜を有する基体が少なくとも一部は網目状に形成される容器に収容されて、この容器ごと反応層の内部に収容されてアルカリ剥離液に浸漬されるように作用する。このとき、容器は少なくとも一部は網目状に形成されているので、容器内の表面に塗膜を有する基体は網目から浸入するアルカリ性剥離液に接触するように作用する。また、第3の工程では、撹拌手段は反応槽内部のアルカリ性剥離液と表面に塗膜を有する基体を撹拌するように作用し、加熱手段は反応層内部のアルカリ性剥離液及び表面に塗膜を有する基体を120℃以上で基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱して、基体を構成する結晶構造を崩して熱変形させるとともに表面の塗膜の剥離反応を活性化させるように作用する。最後に、第4の工程では、アルカリ性剥離液によって塗膜が剥離し反応槽から取り出された基体を洗浄してアルカリ性剥離液を除去するように作用する。
【0010】
また、請求項2記載の発明である塗膜除去方法は、請求項1記載の塗膜除去方法において、アルカリ性剥離液は濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であるものである。
上記構成の塗膜除去方法では、請求項1に記載の発明の作用に加えて、アルカリ性剥離液は濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液が備える強アルカリ性を発揮するように作用する。
【0011】
そして、請求項3記載の発明である塗膜除去装置は、アルカリ性剥離液を収容可能で加熱手段
及び撹拌手段を具備する耐圧の反応槽と、この反応槽内部に着脱可能に設置され表面に塗膜を有する基体を収容可能でアルカリ性剥離液が浸透可能に少なくとも一部は網目状に形成される少なくとも1個の容器と、反応槽に接続されアルカリ性剥離液を反応槽内との間で供給及び回収可能な貯留槽と、アルカリ性剥離液によって塗膜が剥離し反応槽から取り出された基体を洗浄する洗浄槽を備え
、アルカリ性剥離液は、反応槽内において120℃以上で基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱されるものである。
上記構成の塗膜除去装置では、反応槽は内部に収容されるアルカリ性剥離液を加熱手段を用いて加熱するように作用し、また、高圧になっても耐性を備えるという作用を有する。そして、容器は、表面に合成樹脂等で形成される塗膜を有する基体を収容し、反応槽内部に設置されると形成される網目状によってアルカリ性剥離液を内部に浸透させて表面に塗膜を有する基体と接触させるように作用する。また、貯留槽は、反応槽内から回収されるアルカリ性剥離液を貯留したり、貯留したアルカリ性剥離液を反応槽へ送出したりするように作用する。そして、洗浄槽は、アルカリ性剥離液によって塗膜が剥離して反応槽から取り出された基体を洗浄するように作用する。
さらに、上記構成の塗膜除去装置では、反応槽は撹拌手段を備えて、反応槽内に収容されるアルカリ性剥離液と、反応槽内に設置される容器内の表面に塗膜を有する基体を撹拌するように作用する。
【0012】
また、請求項4に記載の発明である塗膜除去装置は、請求項3に記載の塗膜除去装置において、貯留槽は加熱手段を備えるものである。
上記構成の塗膜除去装置では、請求項3に記載の発明の作用に加えて、貯留槽は加熱手段を備え、貯留槽内に貯留されるアルカリ性剥離液を加熱するように作用する。
【0014】
そして、請求項
5に記載の発明である塗膜除去装置は、請求項3
又は請求項
4に記載の塗膜除去装置において、アルカリ性剥離液は濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であるものである。
上記構成の塗膜除去装置では、請求項3
又は請求項
4に記載の発明の作用に加えて、アルカリ性剥離液は濃度が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液が備える強アルカリ性を発揮するように作用する。
【0015】
最後に、請求項
6に記載の発明である塗膜除去装置は、請求項3乃至請求項
5のいずれか1項に記載の塗膜除去装置において、洗浄槽はスクリューコンベアを備え、洗浄された基体は洗浄槽からスクリューコンベアで搬出されるものである。
上記構成の塗膜除去装置では、請求項3乃至請求項
5のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、洗浄槽のスクリューコンベアは、洗浄槽内を掻き混ぜながら、洗浄された基体を洗浄槽から外部に搬出するように作用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の塗膜除去方法では、表面に塗膜を有する基体をアルカリ性剥離液に浸漬することによって、基体の表面の塗膜を形成する骨格の結合を切断して膨潤させて剥離することができる。しかも、アルカリ性剥離液の温度を120℃以上で基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱するので、塗膜は膨潤しやすく剥離反応を速やかに進行させることができる。また、基体自体も融点を超える温度になるので表面積を減少させるように熱収縮して丸みを帯びた球形状に変化し、この形状変化に伴って接着界面の接着機構は破壊されて基体から塗膜が剥離するので、塗膜の膨潤による剥離に加えて剥離反応をさらに加速させて進行させることができる。また、基体の熱収縮によって、塗膜と分離した基体は丸みを帯びた球形状になるので、加熱溶融加工を必要とするリペレット化が不要となり、そのまま成形機に投入して再利用することが可能となる。
さらに、撹拌装置を備えているので、撹拌によってアルカリ性剥離液と表面に塗膜を有する基体は掻き混ぜられて接触しやすくなり、剥離反応を促進させることができる。また、撹拌することによって基体の溶着が防止され、反応槽内の温度を均一にすることができる。
そして、塗膜が剥離した基体は洗浄されてアルカリ性剥離液を除去することができるので、リペレットとして再利用することができる。
【0017】
また、本発明の請求項2記載の塗膜除去方法では、アルカリ性剥離液が5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液であるので、強アルカリによって塗膜は膨潤しやすくなり塗膜剥離を容易に行うことが可能となる。
【0018】
そして、本発明の請求項3記載の塗膜除去装置では、表面に合成樹脂等で形成される塗膜を有する基体を容器に収容して反応槽に設置すると、反応槽に収容されているアルカリ性剥離液は容器内部に浸透して表面に塗膜を有する基体に接触し、塗膜を形成する骨格の結合を切断して塗膜を膨潤させて、基体から塗膜を剥離することができる。また、反応槽は耐圧で加熱手段を備えているので、高温及び高圧下での処理が可能となり、効果的に剥離反応を進めることが可能となり、短時間で確実に塗膜を基体から剥離することができる。
そして、容器は、少なくとも一部が網目状に形成されているので、アルカリ性剥離液を内部に浸透させる一方で、表面に塗膜を有する基体や、基体から剥離した塗膜を容器の外部に移動させないので、基体や塗膜が反応槽内に散乱することがなく、反応槽内のアルカリ性剥離液を清浄に保持し、繰り返し使用することを可能にしている。
また、貯留槽は、反応槽内のアルカリ性剥離液を回収して貯留することができるので、反応槽内のアルカリ性剥離液を貯留槽に送出してから、反応槽内の容器を外部に取り出すことが可能となり、容器や容器内の塗膜及び基体に付着するアルカリ性剥離液の量を低減することができる。そして、新たに表面に塗膜を有する基体を容器に収容して反応槽に設置したのちに、貯留槽において貯留しておいたアルカリ性剥離液を反応槽へ送出することができるので、アルカリ性剥離液を外部に晒すことなく安全且つ確実に反応槽に注入することができる。
そして、洗浄槽では、基体を洗浄することができるので、基体は、付着したアルカリ性剥離液や塗膜の残渣等を洗浄することができる。
そして、本発明の請求項3記載の塗膜除去装置では、反応槽は撹拌手段を備えているので、反応槽内の容器に収容される表面に塗膜を有する基体とアルカリ性剥離液を撹拌して、表面に塗膜を有する基体にアルカリ性剥離液が浸透したり接触したりしやすくなるので、基体からの塗膜の剥離反応を促進させることができ、その結果、短時間で反応を終了させることが可能となる。
【0019】
また、本発明の請求項4に記載の塗膜除去装置では、貯留槽は加熱手段を備えているので、反応槽内のアルカリ性剥離液が高温である場合は、反応槽から回収して貯留する際に加熱することによって、反応槽で設定された温度に近い温度なるようにアルカリ性剥離液の温度を保持して貯留することが可能となる。したがって、アルカリ性剥離液を再度反応槽に送出する場合は、アルカリ性剥離液を高温の状態で温度を下げることなく反応槽に注入することができるので、新たな塗膜の除去作業を行う場合に、アルカリ性剥離液を低温から高温に加熱する必要がないので、必要なエネルギーが少なく、しかも作業時間も短縮されるので、作業効率が優れたものとなる。
【0021】
そして、本発明の請求項
5に記載の塗膜除去装置では、アルカリ性剥離液に5重量%以上の水酸化ナトリウム水溶液を用いることによって、塗膜に効果的に反応して剥離反応が速やかに進行し、除去作業が容易となる。また、水酸化ナトリウムは安価であるのでコスト的にもメリットが出る。
【0022】
最後に、本発明の請求項
6に記載の塗膜除去装置では、洗浄槽はスクリューコンベアを備えているので、基体はスクリューコンベアによって洗浄槽から搬出することができる。しかも、スクリューコンベアは洗浄槽内を撹拌するので、洗浄を効果的に行うことができる。特に、膨潤して界面が剥離しつつも基体上に残存している塗膜がある場合にはスクリューコンベアの撹拌によって、塗膜は基体から分離除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態に係る塗膜除去装置を
図1に基づき説明する。(特に、請求項3
乃至請求項
6に対応)
図1は、本発明の実施の形態に係る塗膜除去装置の概念図である。
図1において、本実施の形態に係る塗膜除去装置1は、主に、反応槽2と貯留槽3と洗浄槽4から構成される。
反応槽2は、容器5とアルカリ性剥離液9を内部に収容可能な本体6と蓋7を備えており、本体6にはバンドヒーター8が周設されて、本体6の内部を均一に加熱することができるようになっている。なお、本実施の形態では、加熱手段としてバンドヒーター8を用いているが、加熱手段は特に限定されるものでなく、本体6の内部を均一に加熱可能なものであればどのような加熱手段であってもよい。また、反応槽2は1.5MPa程度の耐圧構造であることが好ましく、バンドヒーター8によって加熱されたアルカリ性剥離液の蒸気圧が高くなった場合も耐性を備えているとよい。
そして、容器5は、反応槽2内で破線で表わされているが、反応槽2に着脱可能に設置されるものであり、少なくとも一部は網目状に形成されて、反応槽2に収容されるアルカリ性剥離液9が容器5の内部に浸透できるようになっている。そして、容器5は、試料10を収容可能であり、網目の大きさはこの試料10が容器5の外部に移動しない大きさに設計されている。
試料10は、表面に塗膜29を有する基体28で、例えば、自動車のバンパー部材の廃材を細かく裁断したものである。基体28は特に限定されないが、ポリプロピレン、アクリルブタジエンスチレン(以下、ABSという。)、アクリルニトリルスチレンアクリレート(以下、ASAという。)、ポリエチレン及びポリスチレン等のプラスチック材料である。また、塗膜29はエステル系、ウレタン系、エポキシ系及びユリア系等の合成樹脂系の塗料が硬化して得られる塗膜29である。なお、ポリプロピレンの融点は約160℃、ABSの融点は約120℃、ASAの融点も約120℃である。
また、アルカリ性剥離液9は、所定量のアルカリ性物質を水に溶解して得られるものであり、アルカリ性物質は特に限定されないが、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩が好ましく、反応性や価格を考慮すると、水酸化ナトリウムが好適である。そして、アルカリ性剥離液の濃度は5重量%以上であることが好ましい。なお、本願発明における基体を構成するポリプロピレンやABS、ASAは強アルカリの影響を受け難い材料であり、他のポリエチレンやポリスチレン等のプラスチック材料も同様である。
【0025】
そして、貯留槽3は、内部にアルカリ性剥離液9を貯留可能な本体11と蓋12を備えており、反応槽2に隣接して配置されて、反応槽2と複数の送液管14a〜14fで接続されている。また、貯留槽3の本体11はパイプヒーター13を備えており、貯留槽3の本体11内部に貯留されるアルカリ性剥離液9を加熱することができるようになっている。
符号15a,15bは送液ポンプであり、送液管14内のアルカリ性剥離液9の図中に示される矢印方向への移動を可能にし、符号16a〜16gは仕切弁で、送液管14内でのアルカリ性剥離液9の移動経路を決定するものである。また、符号17は排液タンクであり、必要に応じてアルカリ性剥離液9を貯蔵するためのものである。
【0026】
ここで、反応槽2と貯留槽3との間でアルカリ性剥離液9が供給、回収される際のフローについて説明を加える。貯留槽3のパイプヒーター13で加熱されたアルカリ性剥離液9を反応槽2に供給する場合には、仕切弁16a,16c,16eを開として、その他の仕切弁16を閉とする。そして、送液ポンプ15aは停止させ、送液ポンプ15bを駆動させて、送液管14a,14b,14c,14dを経由して反応槽2にアルカリ性剥離液9を移送する。
逆に、アルカリ性剥離液9を反応槽2から貯留槽3へ回収する場合には、仕切弁16d,16c,16fを開として、その他の仕切弁16を閉とする。そして、送液ポンプ15aは停止させ、送液ポンプ15bを駆動させて、送液管14c,14d,14eを経由して貯留槽3にアルカリ性剥離液9を移送する。あるいは、仕切弁16d,16bを開として、その他の仕切弁16を閉として送液ポンプ15aを駆動させて送液管14c,14b,14a,14fを経由して反応槽2から貯留槽3へ移送してもよい。
また、貯留槽3内でアルカリ性剥離液9を循環させる場合には、仕切弁16a,16bを開として、その他の弁を閉とし、送液ポンプ15aを駆動させて、送液管14a,14fを経由する。反応槽2内でのアルカリ性剥離液9も同様に、仕切弁16d,16c,16eを開とし、その他の弁を閉として、送液ポンプ15bを駆動させて、送液管14c,14d,14eを経由する。
反応槽2から排液タンク17へのアルカリ性剥離液9の廃液は、仕切弁16d,16gを開として、他の仕切弁16は閉として、自由落下で実施可能である。また、貯留槽3から排液タンク17への廃液は、仕切弁16a,16gを開として、他の仕切弁16は閉として、自由落下で実施可能である。
なお、これまでの説明では、一通りの移送の流れのみを説明したが、移送を組み合わせることももちろん可能であり、その際には、仕切弁16の開閉の状態も組み合わせられる。
また、反応槽2、貯留槽3、送液管14及び排液タンク17を形成する材料は特に限定されないが、アルカリ性剥離液9に耐性のある材料で形成されることが好ましい。もちろんライニングを備えて耐性を備えるようにしてもよい。また、反応槽2はアルカリ性剥離液9を高温で用いるため、耐圧性を備える必要があり、鋼製であることが好ましい。
【0027】
そして、洗浄槽4は、洗浄水18を溜めた第1の水槽19、洗浄水20を溜めた第2の水槽21及びスクリューコンベア22を備えている。スクリューコンベア22は一の端部が第1の水槽19の洗浄水18に浸漬され、他の端部が第2の水槽21の上方に位置するように斜設されており、他の端部の近傍には洗浄水供給装置23が設置されてスクリューコンベア22に向けて洗浄水が散水されるようになっている。また、スクリューコンベア22には排水ノズル25が設置されて、スクリューコンベア22からの洗浄水が洗浄水20として第2の水槽21に溜まるようになっている。
ここでもう少し詳細にスクリューコンベア22の構造について説明する。
スクリューコンベア22には、前述のとおり上側の端部近傍に洗浄水供給装置23が設けられているが、この洗浄水は、第2の洗浄槽21に貯留された洗浄水20を用いるとよい。図示されないポンプで第2の洗浄槽21から洗浄水20を汲み、これを洗浄水供給装置23からスクリューコンベア22の内部に向けて散水するとよい。スクリューコンベア22は、その内部にインペラ27を備えたスクリュー26が収容されており、その周囲は円筒状あるいは下側に半円筒状の構造物で覆われている。従って、洗浄水供給装置23は、スクリューコンベア22の外周が円筒状の構造物で覆われている場合には、散水口を設けてそこから散水可能とする必要がある。半円筒状の場合には上側は開いているので散水口がなくとも散水可能である。さらに、スクリューコンベア22の外周の構造物の下側には、洗浄水供給装置23から散水された洗浄水20が排水可能なように排水口が設けられている。排水ノズル25はその排水口に接続されて、洗浄水20を排水する。
スクリューコンベア22はスクリュー26が回転しながら被搬送物(基体28)を移送するため、このような構造を備えたスクリューコンベア22、洗浄水供給装置23及び排水ノズル25によれば、洗浄水20の供給と、被搬送物の洗浄水20による洗浄と、被搬送物の移送と、洗浄水20の第2の洗浄槽21への回収を効率的に行うことが可能である。
本実施の形態においては、第1の洗浄槽19と第2の洗浄槽21の2槽を設けたが、例えば、被搬送物が収容される第1の洗浄槽19のみを設け、この第1の洗浄槽19に洗浄水20を貯留し、ここから図示しないポンプを用いて洗浄水20を汲み、洗浄水供給装置23を介してスクリューコンベア22の内部に向けて散水し、排水ノズル25を介して、第1の洗浄槽19に洗浄を終えた洗浄水20を回収してもよい。
なお、符号30は試料受台であり、スクリューコンベア22から搬出される基体28を受け取り、そのまま移送するものである。
【0028】
続いて、塗膜除去装置1の使用方法について説明する。
図1において、表面に塗膜29を有する基体28の破砕片である試料10を容器5に収容し、反応槽2の本体6の内部に設置する。次に、アルカリ性剥離液9を反応槽2の本体6に注入して、バンドヒーター8で加熱する。この際の加熱温度は、120℃以上の温度で試料10の基体28の種類に応じて決定する。すなわち、基体28が溶融しない程度の温度であり、すなわちそれぞれの基体を構成する材料の融点未満であることが望ましく、具体的には基体28がABS、ASA、ポリエチレン及びポリスチレンの場合は約120℃、ポリプロピレンの場合は約160℃に設定するとよい。このような加熱によって後述の試料10における基体28と塗膜29の剥離反応を促進させることができる。
また、アルカリ性剥離液9は、濃度が5重量%以上になるように所定量のアルカリ性物質を水に溶解して調整することによって得ることができるが、濃度が5重量%以下であると、後述の試料10における基体28と塗膜29の剥離反応が進行しにくくなる。特に、濃度が10重量%から30重量%のアルカリ性剥離液9は剥離反応が迅速に進行し好適である。
反応槽2の本体6に注入されたアルカリ性剥離液9は、容器5の網目を通じて容器5の内部に浸透し、試料10に接触する。そして、アルカリ性剥離液9は、試料10の塗膜29に浸透して骨格の結合を切断し、塗膜29を膨潤させて基体28から剥離する。但し、反応槽2は撹拌装置を備えておらず、静的な状態で剥離反応が進行するので、試料10においては、塗膜29と基体28は剥離するが、基体28上にはまだ塗膜29が乗った状態で容器5内に収容されている。
そして、反応が終了すると、前述のとおり、アルカリ性剥離液9は送液管14c,14d,14eを通じて、貯留槽3に回収される。その際には先に述べたとおり、試料10の塗膜29は基体28から分離していないので、アルカリ性剥離液9を貯留槽3に回収する際に、塗膜29の欠片等が貯留槽3に混入し難く、アルカリ性剥離液9を清浄な状態で貯留槽3に貯留することができる。しかも、試料10は容器5内に収容されているため、たとえ塗膜29と基体28が剥離しかかっていても、容器5内に留めることができる。反応槽2からアルカリ性剥離液9を清浄な状態で貯留槽3に回収できることに対しての容器5の寄与は大きい。
【0029】
反応槽2の本体6内のアルカリ性剥離液9が完全に回収された後に、反応槽2の蓋7を開けて、容器5及び試料10に付着したアルカリ性剥離液の水切りをして外部に取出し、容器5に収容されている試料10を洗浄槽4の第1の水槽19の洗浄水18中に投入する。
貯留槽3では、回収されたアルカリ性剥離液9をパイプヒーター13を用いて加熱する。反応槽2から回収されるアルカリ性剥離液9は、反応槽2において加熱されていたので、反応終了後においても高温になっている。貯留槽3において引き続き加熱することによって、アルカリ性剥離液9の温度が下がらないように保持することができる。したがって、新たな試料10を用いて次の塗膜除去作業を行う場合、貯留槽3から高温のアルカリ性剥離液9を反応槽2に送入することができるので、反応槽2における加熱に要するエネルギーロスが低減されるとともに作業時間も短縮することができる。
【0030】
その後、洗浄槽4において、第1の水槽19に投入された試料10は、付着したアルカリ性剥離液9が第1の水槽19の洗浄水18によって洗浄される。ここで、試料10に付着するアルカリ性剥離液9は少量であるので、第1の水槽19の洗浄水18は極薄いアルカリ性を示す洗浄水18となり、廃水の際には、わずかな中和反応を行えばよく、廃液処理が容易で安全なものとなる。また、試料10は前述のように基体28と塗膜29は剥離しているものの分離していない状態であるが、スクリューコンベア22のスクリュー26の回転によって洗浄水18内で撹拌されて塗膜29と基体28に分離することができる。そして、分離された基体28はスクリューコンベア22の一の端部からスクリュー26のインペラ27にすくい上げられてスクリュー26の回転によって他の端部の方向へ移動し、スクリューコンベア22の他の端部近傍に設置される洗浄水供給装置23から散水される洗浄水によってさらに洗浄されて、スクリューコンベア22の他の端部から試料受台30に搬出される。
なお、第1の水槽19においてスクリュー26の撹拌によって基体28と塗膜29に分離できなかった試料10は、スクリュー26にすくい上げられてインペラ27の中を移動する際に受ける振動や洗浄水供給装置23の洗浄水の水力によって分離させることができる。
また、スクリューコンベア22には排水ノズル25が設けられており、前述のとおり、この排水ノズル25は第2の水槽21に接続されて、主に、洗浄水供給装置23から散水される洗浄水が基体28に接触して洗浄した後排水ノズル25を通じて第2の水槽21に洗浄水20として溜められるようになっている。したがって、第2の水槽21に溜められる洗浄水20は、第1の水槽19の洗浄水18よりもさらに薄い濃度のアルカリ性を示す洗浄水であるので、廃液処理が容易となる。なお、第1の水槽19の洗浄水18及び第2の水槽21の洗浄水20において、試料10から分離した塗膜29を含んでいる場合はろ過等を行って固形物を分取するとよい。
そして、スクリューコンベア22の他の端部から搬出される塗膜29が剥離した基体28は、試料受台30に受け取られて必要に応じて脱水や乾燥等の後処理を施されたり、加熱溶融加工によるリペレット化されたりしてリペレットとなり、各種プラスチック製品の原料として再使用することができる。
【0031】
次に、反応槽の変形例について
図2を参照しながら説明する
。
図2は、本実施の形態に係る塗膜除去装置における反応槽の断面を示す概念図である。なお、
図2において、
図1に記載されたものと同一の部分については同一の符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図2において、反応槽2は、内部に撹拌装置31を備えている。この撹拌装置31は、蓋7の下方から容器5内に垂設される回転軸32と、この回転軸32の下端部に設置される2枚のインペラ33を有している。図示していないが、撹拌装置31は動力源を備えており、動力が供給されると、回転軸32が回転してインペラ33が容器5内を回転し、容器5内の試料10とアルカリ性剥離液9を撹拌する。この撹拌によって、試料10とアルカリ性剥離液9は接触しやすくなり、前述の試料10の塗膜29と基体28の剥離反応を促進させることができ、短時間で反応を終了させることが可能となる。また、撹拌によって試料10において基体28から剥離した塗膜29を分離することができる。塗膜29は基体28よりも小さく、また、撹拌による衝撃によって、細かく砕ける可能性があるので、容器5の網目の大きさを細かくして、塗膜29が容器から外部に移動しないようにすると、貯留槽に回収されるアルカリ性剥離液9に塗膜29の破片が混入することなく、アルカリ性剥離液9を清浄に保持することができる。また、反応槽2から貯留槽へアルカリ性剥離液9を送出する際に、フィルターを設けるようにして、塗膜29を分取するようにすることもできる。
なお、撹拌装置の形状は特に限定されるものでなく、反応槽2の内部を均一に撹拌することができればどのような形態であってもよい。また、撹拌装置31の回転軸32は、蓋7の上部に貫通してもよく、その際には蓋7の上部に動力源を設けることが可能であるが、反応槽2内の圧力に耐えるために、回転軸32の周囲にシール構造を備える必要がある。さらに、回転軸32は順方向のみならず反転可能にすることでより撹拌効果を発揮することが可能である。
【0032】
次に、塗膜除去装置を用いた塗膜除去方法について
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施の形態に係る塗膜除去装置を用いた塗膜除去方法の工程を示す工程図である。なお、前述のとおり、塗膜除去装置は、主に、反応槽、貯留槽及び洗浄槽で構成されており、符号34で示される枠は反応槽で行われる工程であり、符号35で示される枠は貯留槽で行われる工程であり、符号36で示される枠は洗浄槽で行われる工程である。
図3において、塗膜除去装置を用いた塗膜除去方法では、まず、試料となる表面に塗膜を有する基体をステップS1において破砕する。表面に塗膜を有する基体には、ポリプロピレン、ABS、ASA、ポリエチレン及びポリスチレン等のプラスチック材料で形成される基体に合成樹脂系の塗料を用いて塗装をし、合成樹脂製の硬化塗膜を形成したものであり、例えば、自動車のバンパーの廃材が挙げられる。また、破砕する大きさは特に限定されないが、12mmφ程度が好ましく、特に、塗膜が除去された基体を加熱溶融加工を伴うリペレット化を行わずに後述する脱水や乾燥を行ってそのままリペレットとして用いる場合は5〜7mmφ程度が好適である。なお、試料は塗膜除去装置の反応槽及び容器に収容可能な大きさであればよく、必ずしも細かく破砕する必要はなく、破砕しない場合はステップS1は省略することができる。
【0033】
次に、ステップS2において、試料を容器に収容する。この容器はアルカリ性剥離液が浸透可能なように少なくとも一部が網目状に形成されている。なお、ステップS1において破砕する試料の大きさと、容器の網目の大きさを考慮して、破砕した試料が容器の網目から外部に移動しないようにする必要がある。続いて、ステップS3では、試料を収容した容器を反応槽の内部に設置する。
そして、ステップS4では、反応槽にアルカリ性剥離液を注入する。注入するアルカリ性剥離液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等の強塩基であるアルカリ性物質を濃度が5重量%以上となるように所定量を水に溶解して調整することによって得られる。このステップS4では、注入されるアルカリ性剥離液は容器の網目から容器内部に浸透して試料に接触する。アルカリ性剥離液は試料の塗膜表面及び端面から塗膜内部に浸透していき、低温であるので反応は遅いが、塗膜と基体を剥離するように作用していく。したがって、ステップS1において試料を細かく破砕すると、試料の端面が増大するので、アルカリ性剥離液が端面から浸透しやすくなり、剥離反応にも効果的となる。
次に、ステップS5では、反応槽を加熱する。加熱温度は、120℃以上の温度で、試料の基体であるプラスチック材料が溶融しない温度に設定する。従ってそれぞれの基体を構成する材料の融点未満であることが望ましく、ABS、ASA、ポリエチレン及びポリスチレンの場合は約120℃、ポリプロピレンの場合は約160℃が好ましい。加熱によって、アルカリ性剥離液及び試料の温度が上昇し、アルカリ性剥離液の反応性が高まって、塗膜に浸透して塗膜を徐々に膨潤させて基体から塗膜を剥離することができる。なお、ステップS5では、加熱に伴って反応槽内はアルカリ性剥離液の蒸気圧によって高圧となる。
【0034】
そして、ステップS6では撹拌を行う。このステップS6では、反応槽に設置される撹拌装置を用いて反応槽内部を撹拌する。このステップS6の撹拌によって反応槽内部のアルカリ性剥離液と試料は掻き混ぜられて、アルカリ性剥離液と試料が接触しやすくするので、試料の塗膜と基体の剥離反応を促進させることができ、反応時間を短縮することが可能になる。また、撹拌によって、ステップS5の加熱工程において加熱されるアルカリ性剥離液及び試料の温度をより均一に保持させることができるので、反応槽内において均一に剥離反応を進行させることが可能となる。そして、撹拌することによって、試料において基体から剥離した塗膜を基体と分離することができる。なお、撹拌はその効果を期待して選択的に行うものであるが必ずしも行う必要はなく、撹拌工程は省略することができる。
但し、撹拌することの大きな効果としては、基体の融点以上にアルカリ性剥離液の温度が上昇した際でも基体同士の接触による溶着を防止することができることを発明者は新たに見出したので、このことについては実施例を含めて塗膜除去方法の発明の実施の形態として後述する。
剥離反応が終了すると、ステップS7において、反応槽内のアルカリ性剥離液を貯留槽に送出して、ステップS8において、反応槽から試料が収容された容器を取り出す。ステップS7では、アルカリ性剥離液を反応槽から貯留槽に送出しているので、反応槽内の容器及び試料に付着するアルカリ性剥離液を減らすことができる。さらに、ステップS8において十分に水切りを行った後に容器を反応槽から外部に取り出すと、容器及び試料に付着するアルカリ性剥離液の量を最小限に抑えることができるので、試料に付着したアルカリ性剥離液の洗浄処理が簡便となり、また、貯留槽に回収されるアルカリ性剥離液の量の減少を抑えることができる。
【0035】
そして、次に、ステップS9において、容器内の試料を洗浄する。試料の洗浄は、洗浄槽において水洗によって行う。洗浄槽内の洗浄水に容器から試料を取り出して浸漬すると、試料に付着したアルカリ性剥離液は洗浄水に溶解する。前述のように、試料に付着するアルカリ性剥離液は少量であるので、短時間で試料からアルカリ性剥離液を除去することができる。また、洗浄槽に撹拌装置を設置することもできる。洗浄槽に撹拌装置を設置すると、試料を洗浄水中で掻き混ぜながら洗浄できるので、短時間で洗浄作業を行うことができる。なお、試料が基体と塗膜が分離していない状態のときには、撹拌によって基体と塗膜を分離することができる。
次に、ステップS10では、洗浄して塗膜と分離した基体を分取する。基体の分取方法は特に限定されず、ステップS9における洗浄槽内の基体を取り出せればよい。なお、ステップS9において設置する撹拌装置をスクリューコンベアにすると、洗浄槽内を撹拌しながら基体を分取することが可能となる。
【0036】
そして、分取された基体は、ステップS11において、脱水や乾燥を行うことによって再使用可能なリペレットとなる。なお、分取された基体を加熱溶融加工によるリペレット化を行って、リペレットとしてもよい。
一方、洗浄槽内の洗浄水は、洗浄槽内の塗膜等の固形物を取り除いた後に、ステップS12において酸性物質を投入して中和し、廃水する。前述したように、試料に付着するアルカリ性剥離液は少量であるので、洗浄槽内の洗浄水に含まれるアルカリ性物質も少量であり、投入する酸性物質も少量でよい。したがって、中和反応によって生成する塩も少なく、この廃液処理は、環境面においても安全面においても優れたものとなる。
【0037】
次に、反応槽から送出されるアルカリ性剥離液について説明する。ステップS7において反応槽から送出されるアルカリ性剥離液は、ステップS13において貯留槽に回収される。貯留槽は反応槽に隣接されて、反応槽と送液管で接続されているので、反応槽内のアルカリ性剥離液は外部に晒されることなく送液管を通じて安全に貯留槽に回収されて、再度使用するために貯留槽に貯留される。
そして、ステップS14では、貯留槽を加熱する。このステップS14では、貯留槽に設置された加熱手段を用いて内部のアルカリ性剥離液を加熱する。加熱温度は特に限定されないが、アルカリ性剥離液が沸騰しない100℃以下の温度がよい。
そして、ステップS15では、アルカリ性剥離液を反応槽に送出する。このステップS15では、ステップS14において加熱したアルカリ性剥離液を反応槽に送出するので、反応槽においては高温のアルカリ性剥離液を注入することができ、次の塗膜除去作業を行う場合に加熱工程における必要エネルギーが少なくなり、コスト面でも時間面にも有用なものとなる。
本実施の形態においては、ステップS4でアルカリ性剥離液を反応槽内に注入し、ステップS5ではじめて反応槽を加熱するように説明したが、貯留槽内に予めアルカリ性剥離液を貯留しておき、これを加熱してステップS15のように反応槽へ送出してもよい。その場合には予めアルカリ性剥離液は加熱された状態で反応槽内へ導入されるので、ステップS5の加熱に必要なエネルギーは少なくて済むことになる。
【実施例1】
【0038】
以下、本実施の形態に係る塗膜除去装置を用いて塗膜の除去を行った実施例について説明する。
自動車メーカーが異なるポリプロピレン製のバンパー片の廃材を、15重量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、140℃から160℃の温度範囲の温度で、20分から60分の時間撹拌しないで処理した。処理後は流水で洗浄した。
目視によって塗膜の除去状態を判定した結果を表1に、処理前後のバンパー片を
図4に示して後で説明する。
【0039】
【表1】
【0040】
表1において、140℃の温度で20分間の処理時間では、A社及びB社のバンパー片の塗膜は完全に剥離して除去されたが、C社、D社、E社、F社及びH社のバンパー片では一部の塗膜が残存し、G社のバンパー片は塗膜が全面に残存した。また、150℃の温度で30分間の処理時間では、C社のバンパー片の塗膜は剥離して除去することができたが、F社のバンパー片の塗膜は一部残存し、G社のバンパー片の塗膜は全面に残存した。そして、150℃の温度で60分の処理時間では、A社、D社、E社及びH社のバンパー片の塗膜は剥離して完全に除去することができた。さらに、160℃の温度で30分間の処理時間では、F社のバンパー片の塗膜は除去できたが、G社のバンパー片の塗膜は除去できなかった。G社以外のバンパー片は、濃度が15重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて140℃から160℃の温度範囲で20分から60分の時間処理を行うことによって塗膜を基体から完全に剥離して除去することが可能であった。G社のバンパー片についても、160℃で30分間の処理でほとんどの塗膜が除去できているので、さらに処理時間を長くすることによって完全な塗膜除去が可能であると考えられる。
図4(a)は、処理前のH社のバンパー片の写真であり、(b)は150℃で60分間15重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浸漬処理を施した後のH社のバンパー片の写真である。
図4(a)において、処理前のH社のバンパー片は白色の塗膜が表面を覆っているが、
図4(b)において、処理後のH社のバンパー片では、白色の塗膜は完全に剥離しており、基体である黒色のポリプロピレンの表面になっていることがわかる。
このように本実施例においては、バンパー片を細かく破砕しない状態で、しかも撹拌も行わないで、水酸化ナトリウム水溶液中に所定の温度時間条件で浸漬することによって、塗膜は基体から剥離し、塗膜を完全に除去できることがわかった。また、剥離した塗膜はゲル状になっており、流水によって簡単に取り除くことができたので、作業性も良好なものであった。
【実施例2】
【0041】
ポリプロピレン製バンパーの廃材を12mmφ程度に破砕して破砕片として、この破砕片200gを、5重量%、10重量%及び20重量%の3種類の濃度の水酸化ナトリウム水溶液500mLにそれぞれ浸漬し、155℃の温度で10分から120分の時間処理を行った。なお、塗膜除去装置の反応槽は撹拌装置を具備した1Lの容量のものを用いた。また、撹拌の条件は、加熱開始から約200rpmで撹拌したのち、温度が150℃になったところで800rpmで撹拌し、154℃から155℃の温度範囲のときに1200rpmで撹拌した。
図5に結果を示す。
【0042】
図5は、破砕処理したポリプロピレン製バンパーの廃材を水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌する塗膜除去試験を実施した結果を一覧にまとめた図である。
図5において、水酸化ナトリウム水溶液が5重量%の濃度では、処理時間が10分の場合、多くの破砕片の塗膜は除去されているが、一部の破砕片では、ポリプロピレンの基体表面に塗膜が残存している。処理時間を120分にすると、塗膜はほとんど除去できているが、小粒状の塗膜片が全体的に残存している。
また、水酸化ナトリウム水溶液が10重量%の濃度では、処理時間が10分の場合、塗膜はほとんど除去できているが、塗膜の微粉が残存している。処理時間が30分では、処理時間が10分の場合に比べると、塗膜の微粉は減少しているが、少量はまだ残存している。処理時間が60分になると、ほとんど完全に塗膜が除去されている。
そして、水酸化ナトリウム水溶液が20重量%の濃度では、処理時間が10分間で、塗膜はほとんど完全に除去できている。
【0043】
また、塗膜が除去されたポリプロピレンを用いて、リペレットと、このリペレットから引張及び曲げ試験の試験片を射出成形した。リペレット及び射出成形した試験片の写真を
図6に示す。
図6(a)は、ポリプロピレン製バンパーの廃材から得られたリペレットの写真であり、(b)はリペレットを用いて射出成形した試験片の写真である。
図6(a)において、ポリプロピレン製バンパーの廃材から得られたリペレットは、塗膜が完全に除去されており、また、加熱溶融加工を施しているので、整った形状に形成されている。そして、
図6(b)において、リペレットを用いて射出成形した試験片では、表面に塗膜の異物は確認されず良好であった。さらに、図示していないが、このリペレットを用いてバンパーを成形したところ、良好な外観を有する成形品を得ることができた。
このように本実施例においては、破砕して細かくしたポリプロピレン製バンパーの廃材を水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌しながら155℃の温度で加熱処理することで塗膜を除去することができたが、特に、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高いほど、塗膜の除去を短時間で行うことが可能であることがわかった。さらに、塗膜を除去した基体から得られるリペレットは、十分に再利用可能であることがわかった。
【実施例3】
【0044】
ABS製品において塗膜が二層に形成される塗装品を破砕して網目状の容器に収容し、この容器を撹拌装置を具備した反応槽に設置して、濃度が20重量%の水酸化ナトリウム水溶液を注入し、120℃の温度で120分間、1200rpmで撹拌を行った。処理後は水洗して乾燥した。処理前後のABS製品の破砕片の写真を
図7に示す。
図7(a)は、処理前のABS製品(二層塗膜)の破砕片の写真であり、(b)は120℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品(二層塗膜)の破砕片の写真である。
図7(a)において、処理前のABS製品の破砕片は、黒地のABS樹脂に白色の塗膜が形成されている。一方、
図7(b)において、処理後のABS製品の破砕片では、黒色のABS樹脂のみとなっており、白色の塗膜は除去されていることがわかる。なお、120℃の温度で30分間の処理したABS製品の破砕片についても目視による観察を行ったが、この条件では、かなりの塗膜が基体から剥離しておらず残存していた。
【0045】
また、塗膜が三層に形成されるABS製品の塗装品を同じく破砕して網目状の容器に収容し、この容器を撹拌装置を具備した反応槽に設置して、濃度が30重量%の水酸化ナトリウム水溶液を注入し、120℃の温度で120分間、1200rpmで撹拌を行い、処理後は水洗して乾燥した。処理前後のABS製品の破砕片の写真を
図8に示す。
図8(a)は、処理前のABS製品(三層塗膜)の破砕片の写真であり、(b)は120℃で120分間30重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品(三層塗膜)の破砕片の写真である。
図8(a)において、処理前のABS製品の破砕片には、黒地のABS樹脂に白色の塗膜が形成されている。また、
図8(b)において、処理後のABS製品の破砕片では、白色の塗膜がかなり残存しており、三層に形成される塗膜の除去は困難であった。但し、後述するが、加熱温度を融点以上の150℃にすることによって、三層に形成される塗膜についても除去が可能となる。
【実施例4】
【0046】
実施例3とは異なる塗装が施されたABS製品の塗装品を破砕して網目状の容器に収容し、この容器を、撹拌装置を具備した反応槽に設置して、濃度が30重量%の水酸化ナトリウム水溶液を注入し、125℃の温度で120分間、1200rpmで撹拌を行った。処理後は水洗して乾燥した。処理前後のABS製品の破砕片の写真を
図9に示す。
図9(a)は、処理前のABS製品の破砕片の写真であり、(b)は125℃で120分間30重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品の破砕片の写真である。
図9(a)において、処理前のABS製品の破砕片は、灰色地のABS樹脂に銀色の塗膜が付着しているが、
図9(b)において、処理後のABS製品の破砕片では、銀色の塗膜は除去されて灰色のABS樹脂のみとなっている。なお、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を20重量%として、125℃の温度で120分間の処理を行ったところ、図示していないが、塗膜の一部がABS樹脂表面に残存した。
なお、本実施例では水酸化ナトリウム水溶液の温度を125℃と設定しており、これは基体であるABS製品の融点を超えているものである。従って、基体の溶着を防止すべく撹拌装置を具備する反応槽が必須であり、撹拌によってABS製品の溶着を防止している。
【0047】
このように実施例3では、ABS製品の二層塗膜の塗装品では、破砕して加熱下で撹拌処理することによって塗膜を除去することができたが、三層塗膜の塗装品では除去が困難であった。また、実施例4では、アルカリ性剥離液の濃度を濃くすることによって塗膜を除去することが可能であり、塗膜の種類によって剥離反応の進行度合いに違いがあり、加熱温度やアルカリ性剥離液の濃度を調整する必要があることがわかった。
【0048】
以下に、本発明の実施の形態に係る塗膜除去方法を
図10に基づき説明する。(特に、請求項1及び請求項2に対応)
図10は、本発明の実施の形態に係る塗膜除去方法の工程図である。
図10おいて、ステップS101はアルカリ性剥離液収容工程という第1の工程を示しており、この第1の工程では、まず、アルカリ性剥離液を加熱手段及び撹拌手段を具備した耐圧の反応層に収容する。アルカリ性剥離液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩で強塩基であるアルカリ性物質を濃度が5重量%以上になるように所定量を水に溶解して得られるが、これらの強塩基の中でも特に安価で反応性が優れる水酸化ナトリウムが好適である。また、アルカリ性剥離液の濃度は、5重量%以上にする必要があり、5重量%以下であると、後述する基体と塗膜の剥離反応の進行が遅くなる。特に、アルカリ性剥離液の濃度が10重量%から30重量%の範囲内にあると剥離反応が迅速に進行するので好ましい。
なお、反応槽は加熱手段を具備して耐圧製であるが、加熱手段はステップS103の第3の工程において反応層内部のアルカリ性剥離液を加熱するために用いるものであり、このとき発生するアルカリ性剥離液の蒸気に耐えうるように耐圧構造が必要となる。また、反応槽の撹拌手段は、同じくステップS103の第3の工程において、反応槽内を撹拌するためのものである。
【0049】
次に、ステップS102は塗膜基体浸漬工程という第2の工程を示しており、この第2の工程では、少なくとも一部は網目状に形成される容器に、表面に塗膜を有する基体を収容して反応層内部に浸漬する。ここで、表面に塗膜を有する基体において、基体には、ABS及びASA等の融点以上の加熱によって急激に溶融粘度の低下が生じないプラスチック材料を用いることができる。なお、ABSの融点は約120℃であり、ASAの融点も約120℃である。また、塗膜は、エステル系、ウレタン系、エポキシ系及びユリア系等の合成樹脂系の塗料が硬化して形成されたものである。そして、このような表面に塗膜を有する基体を少なくとも一部は網目状に形成される容器に収容して、反応層内部に収容すると、反応層にはステップS101においてアルカリ性剥離液が収容されているので、アルカリ性剥離液が容器の網目部分から内部に浸入していき、表面に塗膜を有する基体に接触する。アルカリ性剥離液は、塗膜を形成する骨格の結合を切断するように作用するので、塗膜を次第に膨潤させていき、基体から塗膜が剥離することができる。
なお、表面に塗膜を有する基体を破砕して細かくしておくと、アルカリ性剥離液との接触面積が増大するので、剥離反応を促進させることができる。また、破砕する大きさは、12mmφ以下が好ましく、特に、塗膜が除去された基体を加熱溶融工程を伴うリペレット化を行わずに、そのままリペレットとして使用する場合は5〜7mmφ程度が好適である。
【0050】
続いて、ステップS103は撹拌・加熱工程という第3の工程を示しており、この第3の工程では、アルカリ性剥離液を撹拌手段で撹拌しながら120℃以上で基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱手段で加熱する。アルカリ性剥離液を120℃以上に加熱することによって、前述の塗膜の膨潤化が促進されて短時間で剥離反応を終了させることができる。さらに、基体の融点よりも20℃以上40℃以下高い温度まで加熱すると、基体を構成するプラスチック材料が表面張力や熱収縮によって表面積が小さくなるように作用するので、塗膜との接着界面においては、接着に関わる結合が切断されて基体から塗膜が剥離される。したがって、塗膜の膨潤化と基体の表面積減少による接着機構の破壊によって、基体と塗膜の剥離反応は、速やかに進行して終了する。また、基体の熱収縮によって、基体の形状は角(かど)が取れて丸くなるので、塗膜分離後の基体を再利用時にそのまま成形機に投入しても問題なく、加熱溶融加工によるリペレット化が不要となる。
また、撹拌手段による撹拌は、反応槽内を掻き混ぜて槽内の温度を均一にし、また、表面に塗膜を有する基体とアルカリ性剥離液が全体的に接触するので、反応槽内で均一に剥離反応を進めるとともに促進させる効果がある。さらに、前述のとおり、基体の融点以上の加熱を行う場合には、基体間の長時間の接触を防止して基体の溶着を防止することができるという大きな効果を発揮し得る。
もちろん、基体の融点以上に加熱する場合には長時間アルカリ性剥離液に浸漬させてしまうと、基体の溶融につながるので塗膜が剥離した後にはなるべく早急に反応槽から取り出して洗浄する次のステップ104に移行することが望ましい。
【0051】
最後に、ステップS104は基体洗浄工程という第4の工程を示しており、この第4の工程では、アルカリ性剥離液によって塗膜が剥離し反応槽から取り出された基体を洗浄する。第3の工程において、剥離した基体と塗膜は、少なくとも一部は網目状に形成される容器において、基体と塗膜が分離して、あるいは基体と塗膜は接着していないが接している状態で保持されている状態に収容されている。この容器を反応槽から取り出して、洗浄水が貯留された洗浄槽等に浸漬して洗浄することによって、基体に付着したアルカリ性剥離液を取り除くことができる。ここで、少なくとも一部は網目状に形成される容器を用いることによって、反応槽から取り出す際に水切りが出来るので、基体や塗膜に付着するアルカリ性剥離液を最小限にすることが可能となる。また、洗浄槽においては、スクリューコンベア等を設置してもよく、スクリューコンベアを設置すると、洗浄槽内を撹拌して洗浄効率を高めるとともに、基体を洗浄槽内から外部に取り出すこととも可能となる。
【実施例5】
【0052】
以下、本実施の形態に係る塗膜除去方法によって塗膜の除去を行った実施例について説明する。
ASAからなる平板の基体表面に黒色の塗膜が形成されたASA製品の塗装品を20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に135℃で120分間、全体の温度を均一化するために200rpm程度でゆっくりと撹拌して浸漬した。処理前後のASA製品の塗装品の写真を
図11に示す。
図11(a)は、処理前のASA製品の塗装品の写真であり、(b)は135℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浸漬処理を施した後のASA製品の塗装品の写真である。
図11(a)において、処理前のASA製品の塗装品は、長方形の形状を有し、表面には黒色の塗膜が形成されている。そして、
図11(b)において、135℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浸漬処理を施すと、黒色の塗膜はごく一部が残存しているがほとんどの塗膜が剥離した。また、形状は大きく変化しており、ASA樹脂の融点以上の135℃での加熱によって、ASA製品は熱収縮等によって熱変形した。
【実施例6】
【0053】
ASA樹脂を基体として用いて表面に黒色の塗膜を有した自動車用部材の廃材を7mmφ以下の大きさに破砕し、この破砕片200gを、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液500mLに浸漬し、135℃及び145℃になるまでそれぞれ加熱し、135℃及び145℃に到達してから60分間保持した。また、135℃の温度設定の場合は実測温度が130℃に到達してから1000rpmで撹拌を行い、145℃の温度設定の場合は実測温度が135℃に到達してから1000rpmで撹拌を行った。その後、水洗して乾燥させた。処理前後のASA製品の破砕片の写真を
図12に示す。
図12(a)は、処理前のASA製品の破砕片の写真であり、(b)は135℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のASA製品の破砕片の写真であり、(c)は左右共に145℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のASA製品の破砕片の写真である。
図12(a)において、処理前のASA製品の破砕片では、灰色地のASA樹脂表面に黒色の塗膜が形成されている。
次に、
図12(b)において、135℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中に撹拌を伴って浸漬すると、一部において塗膜が薄く残存するがほとんどの塗膜は剥離した。また、基体は、ASA樹脂の融点以上の加熱によって熱変形し、形状は丸みを帯びた球形状に変化した。なお、洗浄及び乾燥後の重量を測定したところ、196.48gであり、測定された最高圧力は0.26MPaであった。
そして、
図12(c)において、145℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中に撹拌を伴って浸漬すると、塗膜はASA樹脂から完全に剥離できた。また、右側の写真では、処理後のABS製品の混合片を粗く配置し拡大して撮影しているが、融点以上の温度の加熱によって、熱変形し、形状は全体的に丸みを帯びたものとなった。なお、洗浄及び乾燥後の重量を測定したところ、195.1gであり、測定された最高圧力は0.30MPaであった。
【0054】
このようにASA製品の塗装品では、融点より約15℃高い135℃の温度での加熱下において処理すると、ほとんどの塗膜は剥離するがわずかに塗膜が残存する。一方、融点より約25℃高い145℃の温度での加熱下において処理すると、完全に塗膜を除去することが可能であることがわかった。また、形状も丸みを帯びた球形状に変化するので、リペレットとして有効である。
【実施例7】
【0055】
ABSからなる基体に、顔料や樹脂成分が異なったり、二層や三層等の塗膜構成が異なったりする様々な塗膜が形成されたABS製品を破砕した混合片200gを、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液500mLに浸漬し、120〜150℃の温度範囲で撹拌しながら60〜120分間加熱し、水洗して乾燥させた。処理前後のABS製品の混合片の写真を
図13に示す。
図13(a)は、左右共に処理前のABS製品の混合片の写真であり、(b)は左右共に120℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品の混合片の写真であり、(c)は左右共に140℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品の混合片の写真であり、(d)は左右共に150℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で撹拌処理を施した後のABS製品の混合片の写真である。なお、
図13において、左側の写真はABS製品の混合片が密に詰まった状態で撮影したものであり、右側の写真はABS製品の混合片を粗く配置して倍率を上げて撮影したものである。
図13(a)において、処理前のABS製品の混合片では、黒色地のABS樹脂の表面に黄色、水色、白色及びピンク色の塗膜が形成されており、破砕による鋭利な端面や角(かど)を備える形状になっている。
次に、
図13(b)において、120℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬すると、ピンク色の塗膜は剥離しているが、黄色、水色及び白色の塗膜はABS樹脂の表面に残存しており、塗膜の種類によって剥離の進行が異なることがわかる。また、ABS製品の混合片の形状は
図13(a)と変わらず、鋭利な端面及び角(かど)を有している。
また、
図13(c)において、140℃で120分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬すると、ほとんど全ての塗膜はABS樹脂の表面から剥離することができた。そして、ABS製品の混合片の形状は、鋭利な端面や角(かど)から丸みを帯びた球形状に変化している。
さらに、
図13(d)において、150℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬すると、
図13(b)及び(c)に比べて短時間にもかかわらず、ほとんど全ての塗膜をABS樹脂の表面から剥離することができた。そして、ABS製品の混合片の形状は、
図13(c)よりもさらに端面及び角(かど)が丸みを帯びた球形状になっている。
また、
図14は、125℃で60分間20重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浸漬処理を施した後のABS製品の破砕片の写真である。
図14において、ABS製品の破砕片を融点以上の125℃で60分間、撹拌しないで20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理を施すと、図示するように塗膜が残存した状態で、破砕片同士が溶着し塊状になっている。
【0056】
このようにABS製品の塗装品では、融点近傍の120℃の温度での加熱下において処理すると、塗膜の種類によっては剥離するものもあるが、剥離が困難なものもあった。また、融点より約20℃高い140℃及び約30℃高い150℃の温度での加熱下において処理すると、塗膜の種類や構成に関係なくほぼ完全に塗膜を除去することが可能であった。さらに、ABS樹脂の融点を超える温度では、ABS製品の鋭利な端面及び角(かど)を有する破砕片は丸みを帯びた球形状になり、加熱溶融加工を伴うリペレット化をしなくても、そのまま成形機等に投入することができる。そして、融点以上の加熱下では、撹拌を行わないと、ABS樹脂の溶着が生じるので、撹拌処理が重要であることがわかった。