(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、案内レールは、複数の支持位置が軌道幅方向にばらつくことで波打ってしまう場合がある。このように案内レールが不整により波打ってしまうと、走行する車両の横振動が大きくなり乗り心地が悪化してしまう。そのため、案内レールにおいては、乗り心地の向上を図るために波打ちの更なる低減が望まれている。
しかし、案内レールや、ガイドポストを含む支持構造体は弾性体である。そのため、例えば、案内レール上の一箇所を基準位置まで軌道幅方向に調整すると、新たな荷重の発生や、荷重の解放が生じて、位置調整した箇所以外にも変形が生じてしまう場合がある。位置調整した箇所以外の変形を含めて、案内レールの軌道幅方向の位置ずれを修正するには、試行錯誤が必要となり作業に熟練を要する。また、更なる乗り心地向上を実現するべくずれ量の許容公差を小さく設定すると、作業が複雑化して作業者の負担が増加してしまう。
【0006】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な作業で案内レールの波打ちを低減して車両の乗り心地を向上することができるとともに、作業者の負担を軽減することができる案内レールの位置調整量演算装置、位置調整装置、位置調整方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために以下の構成を採用する。
この発明に係る案内レールの位置調整量演算装置は、長手方向の複数箇所でガイドポストにより支持されて軌条式車両を案内する案内レールの位置調整量演算装置であって、前記案内レールの長手方向の複数の計測点における軌道幅方向のずれ量を取得するずれ量取得部と、前記ガイドポストにより支持される支持点で、それぞれ前記案内レールを単位調整量だけ軌道幅方向に調整した際の前記案内レールの変形分布データを取得する変形分布取得部と、前記ずれ量取得部により取得したずれ量、および、前記変形分布取得部に記憶された前記変形分布データに基づいて、前記ずれ量を目標ずれ量とする前記案内レールの前記支持点における軌道幅方向への位置調整量を演算する演算部と、を備えている。
このように構成することで、軌道幅方向の位置を調整することで生じる案内レールの変形分布が考慮された支持点の位置調整量を演算することができる。そのため、演算部により演算された位置調整量に従って支持点における軌道幅方向の位置を調整するだけで、試行錯誤することなく、効率よく案内レールの軌道幅方向の位置ずれを抑制することができる。その結果、簡単な作業で案内レールの波打ちを低減して車両の乗り心地を向上することができるとともに、作業者の負担を低減することができる。
【0008】
さらに、この発明に係る案内レールの位置調整量演算装置は、上記案内レールの位置調整量演算装置における前記演算部が、前記複数の支持点を単位調整量だけ軌道幅方向に調整した複数の変形分布データを重ね合わせて、複数の計測点における各ずれ量が、それぞれ目標ずれ量となる前記複数の支持点の各位置調整量を求めるようにしてもよい。
このように、各支持点で単位調整量だけ調整した際の複数の変形分布を重ね合わせることで、取得した複数の計測点のずれ量をそれぞれ目標ずれ量とする複数の支持点の位置調整量を同時に求めることができる。その結果、迅速に案内レールの各支持点における位置調整量を求めることができる。
【0009】
この発明に係る位置調整装置は、上記位置調整量演算装置を備えた位置調整装置であって、前記ガイドポストに設けられ、前記案内レールを前記軌道幅方向に位置調整するアクチュエータを具備する位置調整機構と、前記演算部の演算結果に基づいて前記位置調整機構を駆動制御する制御部と、を備えている。
このように構成することで、位置調整量演算装置によって演算された位置調整量に基づいて、案内レールの支持位置における軌道幅方向の位置をアクチュエータにより自動的に調整することができる。その結果、更なる作業者の負担軽減を図ることができる。
【0010】
この発明に係る案内レールの位置調整方法は、長手方向の複数箇所でガイドポストにより支持されて軌条式車両を案内する案内レールの位置調整方法であって、前記案内レールの長手方向の複数の計測点における軌道幅方向のずれ量を取得するずれ量取得工程と、前記案内レールが前記ガイドポストによって支持される支持点で、それぞれ前記案内レールを単位調整量だけ軌道幅方向に調整した際の前記案内レールの変形分布データを取得する変形分布取得工程と、前記複数の計測点におけるずれ量、および、前記案内レールの変形分布データに基づいて、前記ずれ量を目標ずれ量とする前記支持点における前記案内レールの軌道幅方向の位置調整量を演算する演算工程と、を含んでいる。
【0011】
さらに、この発明に係る案内レールの位置調整方法は、上記案内レールの位置調整方法における前記演算工程が、前記演算工程は、前記複数の支持点を単位調整量だけ軌道幅方向に調整した複数の変形分布データを重ね合わせて、複数の計測点における各ずれ量が、それぞれ目標ずれ量となる前記複数の支持点の各位置調整量を求めるようにしてもよい。
【0012】
この発明に係るプログラムは、長手方向の複数箇所でガイドポストにより支持されて軌条式車両を案内する案内レールの位置調整量演算装置として、コンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータを、前記案内レールの長手方向の複数の計測点における軌道幅方向のずれ量を取得するずれ量取得部と、前記ガイドポストにより支持される支持点で、それぞれ前記案内レールを単位調整量だけ軌道幅方向に調整した際の前記案内レールの変形分布データを取得する変形分布取得部と、前記ずれ量取得部により取得したずれ量、および、前記変形分布取得部により取得した前記変形分布データに基づいて、前記ずれ量を目標ずれ量とする前記支持点における前記案内レールの軌道幅方向への位置調整量を演算する演算部と、して機能させる。
【0013】
さらに、この発明に係るプログラムは、上記プログラムにおける前記演算部が、前記複数の支持点を単位調整量だけ軌道幅方向に調整した複数の変形分布データを重ね合わせて、複数の計測点における各ずれ量が、それぞれ目標ずれ量となる前記複数の支持点の各位置調整量を求めてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る案内レールの位置調整量演算装置、位置調整装置、位置調整方法、および、プログラムによれば、簡単な作業で案内レールの波打ちを低減して車両の乗り心地を向上することができるとともに、作業者の負担を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の第一実施形態に係る案内レール5の位置調整量演算装置30、位置調整装置について説明する。
図1は、この発明の第一実施形態における軌道の概略構成を示す正面図である。
図2は、この発明の第一実施形態におけるガイドポストによる案内レールの支持構造を示す斜視図である。
図3は、この発明の第一実施形態における車両と案内レールとを模式的に示す平面図である。
【0017】
この第一実施形態における軌道1は、軌道系交通システムの車両(以下、単に軌条式車両2と称する)の軌道である。軌条式車両2は、例えば、ゴムタイヤが装着された車輪3によって走行可能とされている。
図1に示すように、軌道1は、走行路4と、案内レール5と、ガイドポスト6と、を備えている。
走行路4は、軌条式車両2が走行するコンクリートなどからなる路面を形成している。走行路4は、予め設定された軌道1の線形に沿って形成されている。この走行路4には、車輪3を介して軌条式車両2による荷重が加わる。ここで、この実施形態における軌道1の線形とは、直線および曲線から形成される理想的な案内レール5の設置位置を意味している。
【0018】
案内レール5は、軌条式車両2を案内する部材である。例えば、案内レール5は、曲線路などにおいて、軌条式車両2の台車7に設けられた案内装置8の外軌側の案内輪8aに接触する。この接触により案内輪8aに反力が加わると、案内装置8により車輪が操舵される。この実施形態における案内レール5は、軌道1の幅方向両側にそれぞれ配置される、いわゆるサイドガイド式の案内レール5である。これら一対の案内レール5は、軌道1の幅方向両側において、軌条式車両2の案内輪8aの高さ位置と同位置に配されている。
【0019】
この実施形態における一対の案内レール5は、H形鋼が用いられている。これら一対の案内レール5は、H形鋼のフランジ部11の外側面12が軌道幅方向内側を向くようにして対向配置されている。上述した軌条式車両2の案内輪8aは、これら外側面12から受ける反力を利用して操舵を行う。ここで、軌道1においては、その線形の延びる方向に複数の案内レール5が連なっている。以下の説明においては、複数の案内レール5がその長手方向に連なっているものを単に案内レール5と総称する場合がある。
【0020】
図1、
図2に示すように、ガイドポスト6は、案内レール5をその長手方向の複数箇所で支持する支持機構である。ガイドポスト6は、ポスト本体13と、サポートボルト14と、サポートプレート15と、クリップ16とを備えている。
この実施形態におけるポスト本体13は、案内レール5と同様に、H形鋼が用いられている。ポスト本体13は、一対のフランジ部17のうち一つのフランジ部17の外側面18が軌道1の幅方向内側を向くように上下方向に延びている。また、ポスト本体13は、平板状の脚部19を備えている。この脚部19は、軌道1の基礎コンクリート20に打ち込まれたアンカーボルト21を介して基礎コンクリート20に固定されている。これにより、ポスト本体13が、基礎コンクリート20に剛接合されている。
【0021】
図1〜
図3に示すように、サポートボルト14は、ポスト本体13と、サポートプレート15との間の水平位置すなわち、軌道幅方向の位置を調整するための部材である。サポートボルト14は、軌道幅方向に延びて、一つのポスト本体13と一つのサポートプレート15との間に複数架け渡されている。サポートボルト14の軌道幅方向外側の端部23は、ポスト本体13の軌道幅方向内側のフランジ部17に形成された孔(図示せず)に挿通されている。これら端部23は、例えば、挿通方向の両側からナット22(
図2において、軌道幅方向内側のナット22のみ示す)により挟み込まれることでポスト本体13に剛接合されている。
【0022】
サポートプレート15は、案内レール5を保持するための板材である。サポートプレート15は、その軌道幅方向内側の面が、案内レール5の軌道幅方向外側のフランジ部17の外側面12に当接する。このサポートプレート15には、上述したサポートボルト14の軌道幅方向内側の端部23が貫通される。これらサポートボルト14の軌道幅方向内側の端部24は、上述したポスト本体13に対する軌道幅方向外側の端部23の接合と同様に、ナット25を用いてサポートプレート15に剛接合される。
【0023】
クリップ16は、サポートプレート15と共に案内レール5の軌道幅方向外側のフランジ部11を軌道幅方向両側から挟み込む部材である。クリップ16には、上述したサポートボルト14の端部24が貫通される。このクリップ16と、サポートプレート15とは、上述したサポートボルト14に装着された少なくとも2つのナット25によって軌道幅方向両側から相対的に締め込み可能となっている、これらナット25の締め込みにより、クリップ16およびサポートプレート15は、案内レール5のフランジ部11を挟み込む。このように案内レール5が、クリップ16、および、サポートプレート15により挟み込まれることで、案内レール5は、クリップ16およびサポートプレート15に対して、熱伸びなどによる案内レール5の長手方向への変位を許容可能に固定されている。また、案内レール5は、クリップ16およびサポートプレート15に対して、上下、および、軌道幅方向への変位が規制された状態で固定されている。一方で、ポスト本体13とサポートプレート15との間のサポートボルト14の長さは、ナット22,25の締め込み位置に応じて、可変とされている。つまり、ナット22,25の締め込み位置を変更することで、ポスト本体13に対する案内レール5の軌道幅方向への移動が可能となっている。
【0024】
長手方向で隣り合う案内レール5同士は、互いにガイドレールジョイント26により剛接合されている。ガイドレールジョイント26は、隣り合う案内レール5の各ウェブ部27に対してボルト・ナット等の締結部材28により固定されている。
【0025】
すなわち、上述したように、クリップ16およびサポートプレート15と、サポートボルト14とが剛接合され、サポートボルト14とガイドポスト6とが剛接合されるため、結果としてクリップ16およびサポートプレート15と、ガイドポスト6とが剛接合されることとなる。
ここで、ガイドポスト6における各部材の接合方法は、上述したボルト、ナットによるものに限られない。位置調整が不要な箇所等については、例えば、溶接等により接合するようにしても良い。
【0026】
図4は、この第一実施形態における位置調整量演算装置30の概略構成を示すブロック図である。
図5は、案内レールの支持点および計測点の一例を示す図である。
図3から
図5に示すように、この実施形態における位置調整量演算装置30は、上述したガイドポスト6が案内レール5を支持する箇所(以下、単に支持点31と称す)の位置調整量を演算する装置である。ここで、位置調整量とは、軌道幅方向へ案内レール5の位置を移動させる量のことである。位置調整量は、軌道幅方向の向きが分かるように、例えば、線形に従った案内レールの設置位置の基準位置を「ゼロ」として軌道幅方向内側をプラスの値、輝度幅方向外側をマイナスの値として表しても良い。
【0027】
この実施形態における位置調整量演算装置30は、パーソナルコンピュータ等の汎用のコンピュータからなる。この位置調整量演算装置30は、キーボードやマウス等の手入力装置32と、ディスプレイなどの表示装置33と、手入力装置32および表示装置33が接続される入出力インターフェース34と、を備えている。この位置調整量演算装置30は、インターネットなどを介して外部のネットワークNt等に接続可能な通信インターフェース35と、ディスク型記憶媒体Dsに対してデータの書き込みおよび、読み込みなどを行う記憶/再生装置36と、ワークエリア等として利用されるメモリ37と、を更に備えている。この位置調整量演算装置30は、ハードディスクドライブ装置等の補助記憶装置38と、各種制御処理を行う制御装置39と、を更に備えている。
【0028】
補助記憶装置38は、演算プログラム記憶部41と、OSプログラム記憶部42と、ずれ量記憶部43と、変形分布記憶部44と、演算結果記憶部45と、を有している。
演算プログラム記憶部41は、制御装置39で実行される演算プログラムを記憶する記憶領域である。同様に、OSプログラム記憶部42は、OS(Operating System)のプログラムを記憶する記憶領域である。演算プログラム、および、OSプログラムは、例えば、ディスク型記憶媒体Dsから記憶/再生装置36を介して補助記憶装置38へ記憶される。ここで、演算プログラムと、OSプログラムとを補助記憶装置38へ記憶させる方法は、上記方法に限られない。演算プログラム、および、OSプログラムは、例えば、通信インターフェース35を介して外部の装置から補助記憶装置38へ記憶させるようにしても良い。
【0029】
ずれ量記憶部43は、演算プログラムを実行する際に必要となるずれ量のデータを記憶する記憶領域である。ずれ量のデータとは、例えば、予め設定された案内レール5の線形(以下、単に基準位置と称する)に対する、案内レール5の軌道幅方向の位置のずれ量を複数の計測点46で計測したデータである。ずれ量を計測する複数の計測点46は、案内レール5の長手方向に間隔をあけて配される。計測点46は、支持点31と同じ位置でも良いが、
図5に示すように、異なる位置としても良い。また計測点46の数は、支持点31の数と同数でなくても良い。ずれ量のデータは、例えば、ユーザーによって計測されて手入力装置32から手入力される。これらずれ量のデータは、計測された計測点46の識別情報(言い換えれば、位置情報)と共に記憶される。
【0030】
変形分布記憶部44は、演算プログラムで必要となる変形分布データが予め記憶される記憶領域である。
ここで、
図5に示すように、案内レール5上のある一点を軌道幅方向へ位置調整した場合、弾性体である案内レール5や、弾性体であるサポートボルト14などの支持構造体に弾性変形が生じる。そのため、位置調整をしていない箇所においても、案内レール5が軌道幅方向に変位してしまう。つまり、案内レール5上の一点を軌道幅方向へ変位させると、この変位に伴い案内レール5には変形分布が現れる。このような変形分布は、隣り合う支持点31の間でのみ生じるのではなく、サポートボルト14が変形することなどにより支持点31を越えて現れる。
【0031】
上述した変形分布データは、複数の支持点31をそれぞれ個別に軌道幅方向へ変位させた際の変形分布データである。位置調整の精度は、変形分布データの数が多いほど高くなる。そのため、変形分布データは、必要な精度に応じた数だけ、変形分布記憶部44に記憶される。例えば、位置調整の精度よりも調整の容易さを優先する場合などには、所定の支持点31の調整を行わないことを予め定めて、その位置における変形分布データを省略するようにしてもよい。
【0032】
これら変形分布データは、上記支持点31を予め設定された単位調整量だけ変位させて得られる変形分布データである。これら変形分布データは、予めシミュレーションや実験等により求めることができる。例えば、位置調整量演算装置30として利用するコンピュータによりシミュレーションを行うこともできる。この場合には、そのシミュレーション結果を変形分布として変形分布記憶部44に記憶させることができる。一方で、位置調整量演算装置30の外部装置でシミュレーションを行う場合や、実験等により変形分布を求める場合には、求められた変形分布データは、ディスク型記憶媒体Ds(記憶/再生装置36)、通信インターフェース35、および、手入力装置32等を経由して変形分布記憶部44に記憶させることができる。
【0033】
演算結果記憶部45は、上述した演算プログラムによる演算結果データが記憶される領域である。演算結果データとは、案内レール5の各支持点31を軌道幅方向へ調整する調整量のデータである。この演算結果のデータは、ユーザーが認識できるように、所定のタイミングで演算結果記憶部45から読み出されて表示装置33等に表示される。ここで、演算結果をユーザーへ認識させる方法は、表示装置33への表示に限られない。例えば、プリンタによる印刷、音声出力、携帯端末のディスプレイ表示など、必要に応じて出力形態を選択すればよい。
【0034】
制御装置39は、各種演算を行うCPU(Central Processing Unit;図示せず)を備えている。制御装置39は、演算プログラムを実行することで実現される複数の機能部として、ずれ量取得部47と、変形分布取得部48と、演算部49と、を備えている。
【0035】
ずれ量取得部47は、案内レール5の長手方向における複数の計測点46で計測された軌道幅方向のずれ量を取得する。この実施形態におけるずれ量取得部47は、補助記憶装置38のずれ量記憶部43に記憶されているずれ量のデータを読み出す。ずれ量取得部47により取得した各計測点46のずれ量のデータは、演算部49に入力される。ここで、ずれ量取得部47は、補助記憶装置38のずれ量記憶部43からずれ量のデータを取得する構成に限られず、例えば、手入力装置32に入力されたずれ量のデータを、ずれ量記憶部43を介さずに、メモリ37を介して取得するようにしても良い。
【0036】
変形分布取得部48は、変形分布データを取得する。この実施形態における変形分布取得部48は、補助記憶装置38の変形分布記憶部44に記憶されている変形分布データを読み出す。この変形分布取得部48により取得した変形分布データは、演算部49に入力される。ここで、変形分布取得部48が、補助記憶装置38のずれ量記憶部43から変形分布データを取得する場合について説明した。しかし、変形分布取得部48による変形分布データの取得方法は、上記取得方法に限られるものではない。例えば、予め変形分布のデータが書き込まれたディスク型記憶媒体Dsから記憶/再生装置36を介して変形分布データを取得するようにしても良い。また、予め変形分布データが記憶された外部装置から通信インターフェース35を介して変形分布データを取得するようにしても良い。
【0037】
演算部49は、ずれ量取得部47によって取得したずれ量と、変形分布取得部48によって取得した変形分布データとに基づいて、各測定点におけるずれ量を、目標ずれ量(基準位置)とするための各支持点31における位置調整量を演算する。
【0038】
ここで、ある一つの支持点31を単位調整量だけ軌道幅方向に位置調整した場合、この位置調整による変形の影響は、位置調整した支持点31から離れるほど小さくなり、最終的には変形の影響を無視できるようになる。一つの支持点31の位置調整による変形が影響する範囲(以下、単に対象範囲と称する)は、予め変形分布データに基づいて設定することができる。
この実施形態における演算部49は、対象範囲内にある支持点31の変位による変形分布データのみを演算に用いる。このようにすることで、演算部49による演算の負荷を軽減できる。
【0039】
ここで、上述した制御装置39の各機能部は、いずれも、補助記憶装置38に格納されているプログラムを制御装置39により実行することで実現していたが、それぞれハードウェアにより実現するようにしても良い。また、複数の記憶領域を一つの補助記憶装置38の中に設ける場合について説明したが、この構成に限られない。例えば、複数の補助記憶装置38を設けて、各記憶領域を、個別の補助記憶装置38に設ける等しても良い。
【0040】
この実施形態における位置調整量演算装置30は、上述した構成を備えている。次に、上述した位置調整量演算装置30を用いた案内レール5の位置調整方法について図面を参照しながら説明する。
図6は、この発明の第一実施形態における案内レール5の位置調整方法の工程図である。
ここで作業者は、事前準備として、案内レール5の長手方向の複数の計測点46における軌道幅方向のずれ量を計測する。このずれ量の計測は、案内レール5の長手方向における所定の区間で行われる。さらに、作業者は、計測したずれ量のデータを、位置調整量演算装置30に手入力装置32を介して入力する。入力されたずれ量のデータは、補助記憶装置38のずれ量データ記憶部に記憶される。一方で、補助記憶装置38の変形分布データ記憶部には、調整対象となる軌道1の変形分布データが予め記憶されている。
【0041】
位置調整量演算装置30の制御装置39は、例えば、手入力装置32から軌道1の条件入力など、演算を開始するための操作入力がなされると、変形分布取得部48により、補助記憶装置38から、変形分布データを取得する(ステップS01;変形分布取得工程)。同様に、制御装置39は、ずれ量取得部47により、ずれ量データを取得する(ステップS02;ずれ量取得工程)。ここで、変形分布データを取得した後に、ずれ量データを取得しているが、変形分布データよりも先にずれ量データを取得してもよい。また、制御装置39が並行に処理可能な構成であれば、ずれ量と変形分布データの取得を同時に並行して行なうようにしても良い。
【0042】
次いで、制御装置39は、演算部49にて、取得したずれ量、および、変形分布データに基づいて、これらずれ量をそれぞれ目標ずれ量とするための、各支持点31における軌道幅方向への位置調整量を演算する(ステップS03;演算工程)。その後、制御装置39は、演算した結果である位置調整量のデータを、各支持点31の識別情報と共に、表示装置33に表示する等して、作業者が認識可能な状態とする。
【0043】
作業者は、各支持点31に対して、表示装置33に表示された各支持点31の位置調整量となるように、位置調整作業を行う(ステップS04;支持点位置調整工程)。ここで、支持点31における位置調整は、上述したポスト本体13にサポートボルト14が固定される位置を調整することなどにより行われる。
【0044】
次に、上記制御装置39の演算部49において位置調整量を算出する方法の一例について図面を参照しながら説明する。
図7は、この実施形態における演算部49における演算処理のフローチャートである。
まず、演算部49には、複数の計測点46における案内レール5のずれ量(P(xi)−Po(xi))が入力される(ステップS11)。更に、補助記憶装置38に記憶された案内レール5の変形分布di(xi)が入力される(ステップS12)。ここで、「xi(i=1,2,3・・・N)」は、支持点31の長手方向の配置を意味する。「di(xi)」は、位置xiの支持点31を調整することによって生じる位置iのずれ量(変形分布)を意味する。位置i(i=1,2,3・・・M)は、この実施形態における案内レール5の長手方向における計測点46の配置を意味する。
【0045】
ここで、案内レール5の変形、および、その支持構造体の変形が、共に弾性変形かつ微小変形であると仮定した場合、複数の支持点31を同時に調整した際の案内レール5の変形分布d(x)は、各支持点31を個別に調整した案内レール5の変形分布di(xi)を重ね合わせたものとなる。各支持点31における調整量を「fi(i=1,2,3,・・・N)」とした場合、案内レール5の変形分布di(xi)は、以下の(1)式で表すことができる。
【0047】
現在の案内レール5の位置を調整するには、以下の(2)式を満たす位置調整量fiを求めればよい。これは連立一次方程式であるから、位置調整量fiを算出することが可能である。
【0049】
演算部49は、ずれ量(P(xi)−Po(xi))と、変形分布di(xi)が入力されると、上述した連立一次方程式を解くために、以下の(3)式に示す変形感度行列Dを求める(ステップS13)。「N」は、演算で用いる支持点31の数であり、「M」は、ずれ量を計測する計測点46の数である。そのため、この変形感度行列Dは、M×N行列となる。
【0051】
各計測点46におけるずれ量(P(xi)−Po(xi))は、以下の(4)式のずれ量ベクトルPで表すことができる。
【0053】
ここで、この実施形態においては、上述した基準位置Po(xi)を、各計測点46における目標ずれ量としている。言い換えれば、目標ずれ量は「0」である。そのため、この実施形態における各計測点46で計測されるずれ量Pがそのまま案内レール5を調整すべきずれ量となる。但し、目標ずれ量Po(xi)は、「0」に限られるものではなく、任意の目標ずれ量Po(xi)を、例えば、手入力装置32などにより設定してもよい。
【0054】
一方で、支持点31における位置調整量fiは、以下の(5)式の調整量ベクトルfで表すことができる。
【0056】
すると、ずれ量ベクトルP、調整量ベクトルf、および、変形感度行列Dとは、以下の(6)式の関係が成り立つ。
【0058】
次に、演算部49は、調整量ベクトルfを算出するために、変形感度行列Dの疑似逆行列D+を求める。その際、演算部49は、計測点46の数Mと、支持点31の数Nとを比較して、計測点46の数Mが支持点31の数Nよりも大きいか否かを判定する(ステップS14)。この判定の結果が「Yes」(M>N)の場合には、以下の(7)式を用いて疑似逆行列D+を求める(ステップS15)。
【0060】
そして、この場合、調整量ベクトルfを、以下の(8)式の一般解の形式で求める(ステップS16)。
【0062】
ここで、「I」は単位行列であり、「ω」は冗長変数である。この「ω」を調整することで、例えば、調整する支持点31の数Nを最小化する等、所望の特性を与えることができる。「ω」は、例えば、手入力装置32などから入力される。
(8)式で「ω」を調整することで得られた調整量ベクトルfは、表示装置33などに出力される。
【0063】
一方で、計測点46の数Mが支持点31の数Nよりも大きいか否かを判定した結果が「No」(M≦N)の場合、以下の(9)式を用いて疑似逆行列D+を求める(ステップS17)。
【0065】
この疑似逆行列D+により以下の(10)式に示すように調整量ベクトルfを求める。これは、調整量ベクトルfとして最小二乗法による解を与えることを意味する。
【0067】
上記(10)式により求められた調整量ベクトルfは、表示装置33などに出力される。
作業者は、表示装置33に表示される等した各支持点31における調整量に従って、各支持点31の位置調整を行う。
【0068】
したがって、上述した第一実施形態によれば、ずれ量と、変形分布データとに基づいて、各支持点31における位置調整量を演算するので、軌道幅方向の位置を調整することで生じる案内レール5の変形分布が考慮された支持点31の位置調整量を演算することができる。そのため、演算部49により演算された位置調整量に従って支持点31における軌道幅方向の位置を調整するだけで、試行錯誤することなく、効率よく案内レール5の軌道幅方向の位置ずれを抑制することができる。その結果、簡単な作業で案内レール5の波打ちを低減して軌条式車両2の乗り心地を向上することができるとともに、作業者の負担を低減することができる。
【0069】
さらに、各支持点31で単位調整量だけ調整した際の複数の変形分布を重ね合わせることで、取得した複数の計測点46のずれ量をそれぞれ目標ずれ量とする複数の支持点31の位置調整量を同時に求めることができる。その結果、迅速に案内レール5の各支持点31における位置調整量を求めることができる。
【0070】
次に、この発明の第二実施形態に係る案内レール5の位置調整装置について説明する。ここで、第二実施形態の位置調整装置は、第一実施形態の位置調整量演算装置30による演算結果に基づいて支持点31における案内レール5の軌道幅方向への位置調整を自動的に行う点でのみ第一実施形態と異なる。そのため、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複する説明は省略する。
【0071】
図8は、この実施形態の位置調整装置の概略構成を示すブロック図である。
図8に示すように、この実施形態の位置調整装置51は、位置調整量演算装置30と、複数の位置調整ユニット(位置調整機構)52と、を備えている。
位置調整量演算装置30は、制御装置39と、補助記憶装置38と、メモリ37と、記憶/再生装置36と、入出力インターフェース34と、通信インターフェース35と、位置調整インターフェース54とを備えている。
【0072】
制御装置39は、ずれ量取得部47と、変形分布取得部48と、演算部49と、位置調整制御部53と、を備えている。ずれ量取得部47と、変形分布取得部48と、演算部49とは、上述した第一実施形態と同様の構成である。演算部49は、演算結果である位置調整量のデータを位置調整制御部53に出力する。
【0073】
位置調整制御部53は、演算部49の演算結果である位置調整量に基づいて、位置調整ユニット52の駆動制御を行う。
位置調整インターフェース54は、複数の位置調整ユニット52に対して電気的に接続可能とされる。この位置調整インターフェース54は、位置調整制御部53の制御指令を各位置調整ユニット52に向けて出力する。
【0074】
図9は、第二実施形態における位置調整ユニットの一例を示す断面図である。
位置調整ユニット52は、案内レール5を支持する各ガイドポスト6、より具体的にはポスト本体13に取り付けられている。これら位置調整ユニット52は、それぞれアクチュエータ55を備えている。これら位置調整ユニット52に設けられたアクチュエータ55は、各支持点31における案内レール5の軌道幅方向の位置を調整することが可能となっている。例えば、
図9に示すように、アクチュエータ55としては、雄ネジが形成されたロッド56を正転・逆転させて、ガイドポスト6と、サポートプレート15との距離を増加・減少させる機構を備えるものを採用できる。
【0075】
したがって、上述した第二実施形態の位置調整装置によれば、計測点46におけるずれ量を入力することで、位置調整量演算装置30によって各支持点31における位置調整量が演算される。そして、これら演算された位置調整量に基づいて、案内レール5の支持点31の軌道幅方向の位置がアクチュエータ55により自動的に調整される。そのため、作業者の更なる負担軽減を図ることが可能となる。
【0076】
なお、この発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0077】
例えば、上述した各実施形態においては、ずれ量のデータをずれ量記憶部43に記憶する方法として、作業者が手入力する一例を説明したが、しかし、手入力に限られず、例えば、ずれ量を計測するセンサを各計測点46に設けて、これらセンサの検出データを、通信インターフェース35などを経由して位置調整量演算装置30に入力させて記憶する等の方法を用いても良い。この場合、ずれ量の手入力を省略できるため、作業者の更なる負担軽減を図ることができる。また、第二実施形態の位置調整装置51と、ずれ量を計測する上記センサとを併用した場合には、気温変化による熱伸び等に応じて常に案内レール5の軌道幅方向の位置を調整して波打ちを防止できる。そのため、経時的な乗り心地悪化を抑制することができる。
【0078】
さらに、上述した各実施形態においては、サイドガイド式の案内レール5を一例に説明した。しかし、案内レール5は、長手方向に間隔をあけて設けられたガイドポスト6によって支持される案内レール5に限られない。例えば、センターガイド式の案内レール5であっても良い。
【0079】
また、上述した第一実施形態においては、ポスト本体13とサポートプレート15との距離をサポートボルト14の長さを変化させることで、案内レール5の軌道幅方向の位置を変化させるガイドポスト6について説明した。しかし、ガイドポスト6の支持構造は、案内レール5の軌道幅方向の位置を変化させることが可能であれば、第一実施形態の構成に限られるものではない。また、ポスト本体13および案内レール5は、H形鋼に限られるものではない。例えば、H形鋼に代えて、T形鋼等を用いても良い。
【0080】
さらに、上述した各実施形態においては、コンピュータ読み取り可能なディスク型記憶媒体Dsを説明した。しかし、記憶媒体は、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、等のディスク型に限られず、半導体メモリ37等の記憶媒体を用いても良い。また、コンピュータプログラムは、通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0081】
さらに、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。また、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。