特許第6188075号(P6188075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188075末梢組織の毛細血管構成細胞の不死化細胞株
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188075
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】末梢組織の毛細血管構成細胞の不死化細胞株
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20170821BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20170821BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20170821BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170821BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/071
   C12N5/077
   !C12N15/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-557555(P2013-557555)
(86)(22)【出願日】2013年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2013052776
(87)【国際公開番号】WO2013118786
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-24854(P2012-24854)
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】川辺 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹原 有史
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 直幸
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−224367(JP,A)
【文献】 特開2001−231549(JP,A)
【文献】 特表2010−539938(JP,A)
【文献】 Mihaela Crisan et al.,A Perivascular Origin for Mesenchymal Stem Cells in Multiple Human Organs,Cell Stem Cell,2008年,Vol. 3, No. 3,p. 301-313
【文献】 Paula Dore-Duffy et al.,Immortalized CNS pericytes are quiescent smooth muscle actin-negative and pluripotent,Microvascular Research,2011年,Vol. 82, No. 1,p. 18-27
【文献】 Nasim Akhtar et al.,The sponge/Matrigel angiogenesis assay,Angiogenesis,2005年,Vol. 5,p. 75-80
【文献】 Ken-Ichi Hosoya et al.,Conditionally Immortalized Retinal Capillary Endothelial Cell Lines (TR-iBRB) Expressing Differentia,Experimental Eye Research,2001年,Vol. 72, No. 2,p. 163-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化周細胞株および不死化間葉系幹細胞様周細胞株を調製する方法:
(a)SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の障害血管の周囲に細胞外マトリックス成分を含むキャリアを留置して調製した、毛細血管を密に含む組織から、細胞を分離する工程、
(b)NG2、PDGFRb、およびNGFRから選ばれる少なくとも1つを発現する細胞を選択し、該細胞を継代培養して不死化細胞株を得る工程、および
(c)不死化細胞株の中から、間葉系細胞への分化能を有さない細胞株を不死化周細胞株として選択し、間葉系細胞への分化能を有する細胞株を不死化間葉系幹細胞様周細胞株として選択する工程。
【請求項2】
さらに、
(d)不死化細胞株の中から、周細胞のマーカーを発現する細胞株を選択する工程
を含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
周細胞のマーカーがPDGFRb、aSMA、ミオカルディン、アンギオポエチン−1、カルポニン、カルデスモン、ang−like4、およびNGFからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記キャリアが、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸から選ばれる1または2以上の細胞外マトリックス成分、もしくはマトリゲル(登録商標)などの再構成基底膜マトリックスを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の調製方法。
【請求項5】
前記キャリアが、コラーゲンまたはコラーゲンゲルを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の調製方法。
【請求項6】
下記工程を含む、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化血管内皮細胞株を調製する方法:
(a)SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の障害血管の周囲に細胞外マトリックス成分を含むキャリアを留置して調製した、毛細血管を密に含む組織から、細胞を分離する工程、および
(b)CD146、rWF、およびCD31から選ばれる少なくとも1つを発現する細胞を選択し、該細胞を継代培養して不死化細胞株を得る工程。
【請求項7】
さらに、
(c)不死化細胞株の中から、血管内皮細胞のマーカーを発現する細胞株を選択する工程を含む、請求項に記載の調製方法。
【請求項8】
血管内皮細胞のマーカーがVEGFR2(Flk1)、vWF、VEGFR1(Flt1)、PECAM1(CD31)、VE−カドヘリン、TIE1、およびTIE2からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項に記載の調製方法。
【請求項9】
前記キャリアが、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸から選ばれる1または2以上の細胞外マトリックス成分、もしくはマトリゲル(登録商標)などの再構成基底膜マトリックスを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の調製方法。
【請求項10】
前記キャリアが、コラーゲンまたはコラーゲンゲルを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の調製方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項の方法で調製した不死化血管内皮細胞株と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で調製した不死化周細胞株とを3次元共培養することにより、毛細血管様構造を調製する方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で調製した不死化間葉系幹細胞様周細胞株を、VEGFを含む培地を用いて3次元培養することにより、毛細血管様構造を調製する方法。
【請求項13】
VEGFを含む培地を用いて3次元培養した後、該培地をVEGFを含有せずTGFを含有する培地に交換して3次元培養する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化血管内皮細胞株、不死化周細胞株、および不死化間葉系幹細胞様周細胞株、ならびにその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血管新生研究においては、対象が微小かつ分布が不規則であるが故に新生血管や毛細血管観察に制限が多く(非特許文献1)、次の(i)〜(iii)のような問題点がある。
(i)組織学的手法では、組織切片での毛細血管の同定には逐次、免疫染色が不可欠であり、全体の血管新生度の客観的評価が困難である。
(ii)二次元に近い分布あるいは透過性のある組織で観察が可能な、限られた臓器(結膜や網膜、脳硬膜)や哺乳類以外の動物(鶏卵羊膜、ゼブラフィッシュなど)を利用することが多く、医学的研究において汎用性のある理想的な実験系は少ない。
(iii)in vitro血管新生アッセイとして、三次元ゲル培養下で、ヒト由来大血管由来内皮細胞などの内皮細胞を用いた管腔形成や、大血管組織切片を用いた組織切片からの血管新生を観察する方法が頻用されているが、ほとんどが未熟な内皮細胞チューブ形成レベルまでの観察なので、本来の目的とする血管新生を評価しているといえない。
【0003】
また、血管細胞を用いたin vitro血管新生アッセイ法は、条件設定の自由度が高く、経時的変化など詳細な観察を可能とするものであるが、従来の分離血管由来細胞には、次の(i)〜(ii)のような問題点がある。
(i)これまで、大量に内皮細胞が調製できる比較的大きな大血管の組織が頻用されている。しかし、大血管由来内皮細胞は、新生血管の内皮細胞と特性が異なり、個体差や細胞分離調製などによる偏りの問題もあり、血管新生を観察する上で理想的なソースとはいえない。
(ii)大血管由来でなく毛細血管由来の内皮細胞や周細胞を分離調製することが理想である。しかし、組織内に存在する毛細血管は多種の他細胞に「紛れ込んで」分布している微小組織であり、特異的に分離する方法が無く、また少量の細胞を継代して増やす過程で、細胞老化など細胞自体の特性が変化してしまう問題もあり、毛細血管由来細胞を効率的かつ安定的に調製することが困難である。
【0004】
このような問題点をうけ、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子発現動物を利用して毛細血管細胞も含め多くの不死細胞株が樹立されている。これまで報告されている血管内皮細胞や周細胞株は、脳あるいは網膜(いずれもラット由来)由来のものに限られ(非特許文献2〜5)、脳眼以外に由来する、多くの臓器疾患に関与する末梢毛細血管由来の細胞株がない。これは、脳や網膜など、結合組織が粗な、あるいは毛細血管が密集している特殊な臓器以外の組織から毛細血管を純枠に精製することが困難であることに起因している。
【0005】
これまでに、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子発現ラットの骨髄から骨髄内皮前駆細胞を分離し、当該細胞を継代培養して不死化血管内皮細胞株が作製されている(特許文献1)。しかし、骨髄内皮前駆細胞から分化させて得た不死化血管内皮細胞株が、どのくらい完全に分化した“内皮細胞”であるのか、本当の内皮細胞と言えるのか、議論がある。また、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子発現ラットの大脳組織をホモジナイズして得た脳毛細血管に由来する不死化血管周皮細胞株(特許文献2)が報告されている。しかし、大脳組織をホモジナイズして遠心分離するという単純な方法によって得られた細胞は、本当に脳毛細血管に由来するものであるのか、不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−231549
【特許文献2】特開2001−224367
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Int.J.Exp.Path 90,195−221,2009
【非特許文献2】Eur.J.Cell Biol.81,145−152,2002.
【非特許文献3】Mol.Pharmacol.61,1289−1296,2002.
【非特許文献4】Exp.Eye Res.72,163−172,2001.
【非特許文献5】Cell Tissue Res.326,749−758,2006.
【非特許文献6】Nature reviews 8,726−736,2008
【非特許文献7】Cell Stem Cell,3,301−313,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、多くの臓器疾患に関与する末梢毛細血管由来の毛細血管構成細胞の不死化細胞株を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、発明者らは毛細血管を密に含む組織を調製し、この組織からコラゲナーゼ酵素液で細胞を分離し、内皮細胞および周細胞に対してある程度の特異性があると言われるマーカー(例えば、それぞれCD146およびNG2)に対する抗体を用いて内皮細胞および周細胞を選別し、継代することにより株化した。
【0010】
すなわち、本発明は、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化周細胞株および不死化間葉系幹細胞様周細胞株の調製方法、ならびにを非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化血管内皮細胞株の調製方法に関する。
【0011】
第1の実施形態において、本発明は、下記工程を含む、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化周細胞株および不死化間葉系幹細胞様周細胞株を調製する方法を提供する:
(a)SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の体内で調製した、毛細血管を密に含む組織から、細胞を分離する工程、
(b)NG2、PDGFRb、およびNGFRから選ばれる少なくとも1つを発現する細胞を選択し、該細胞を継代培養して不死化細胞株を得る工程、および
(c)不死化細胞株の中から、間葉系細胞への分化能を有さない細胞株を不死化周細胞株として選択し、間葉系細胞への分化能を有する細胞株を不死化間葉系幹細胞様周細胞株として選択する工程。
【0012】
上記方法は、必要に応じて、さらに下記の工程を含んでいてもよい:
(d)不死化細胞株の中から、周細胞のマーカーを発現する細胞株を選択する工程。
【0013】
周細胞のマーカーとしては、たとえば、PDGFRb、aSMA、ミオカルディン、アンギオポエチン−1、カルポニン、カルデスモン、ang−like4、NGFを挙げることができる。
【0014】
毛細血管を密に含む組織は、たとえば、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の障害血管の周囲に、細胞外マトリックス成分を含むキャリアを留置し、ここに毛細血管を展開させることで調製することができる。
【0015】
前記キャリアは、たとえば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸から選ばれる1または2以上の細胞外マトリックス成分、もしくはマトリゲル(登録商標)などの再構成基底膜マトリックスを含む。
【0016】
ある態様において、前記キャリアは、コラーゲンまたはコラーゲンゲルである。
【0017】
本発明は、上記した調製方法によって得られる、NG2を発現し、間葉系細胞への分化能を有さない、分離された毛細血管由来の不死化周細胞株を提供する。
【0018】
本発明はまた、上記した調製方法によって得られる、NG2を発現し、間葉系細胞への分化能を有する、分離された毛細血管由来の不死化間葉系幹細胞様周細胞株を提供する。
【0019】
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、さらに、Sca1、CD29、CD44、CD105、およびCD106から選ばれる少なくとも1つの間葉系幹細胞マーカーが陽性であり、かつ、aSMA陽性、CD11bおよびCD45陰性であることにより特徴づけられる。
【0020】
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、内皮細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、および脂肪細胞に分化可能である。
【0021】
第2の実施形態において、本発明は、下記工程を含む、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化血管内皮細胞株を調製する方法を提供する:
(a)SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の体内で調製した、毛細血管を密に含む組織から、細胞を分離する工程、および
(b)CD146、rWF、およびCD31から選ばれる少なくとも1つを発現する細胞を選択し、該細胞を継代培養して不死化細胞株を得る工程。
【0022】
上記方法は、必要に応じて、さらに下記の工程を含んでいてもよい:
(c)不死化細胞株の中から、血管内皮細胞のマーカーを発現する細胞株を選択する工程。
【0023】
血管内皮細胞のマーカーとしては、たとえば、VEGFR2(Flk1)、vWF、VEGFR1(Flt1)、PECAM1(CD31)、VE−カドヘリン、TIE1、およびTIE2を挙げることができる。
【0024】
毛細血管を密に含む組織は、たとえば、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入した非ヒト哺乳動物の障害血管の周囲に、細胞外マトリックス成分を含むキャリアを留置し、ここに毛細血管を展開させることで調製することができる。
【0025】
前記キャリアは、たとえば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸から選ばれる1または2以上の細胞外マトリックス成分、もしくはマトリゲル(登録商標)などの再構成基底膜マトリックスを含む。
【0026】
ある態様において、前記キャリアは、コラーゲンまたはコラーゲンゲルである。
【0027】
本発明は、上記した調製方法により得られる、CD146、rWF、およびCD31を発現する、毛細血管由来の不死化血管内皮細胞株を提供する。
【0028】
第3の実施形態において、本発明は、毛細血管様構造を調製する方法を提供する。前記方法は、本発明の死化血管内皮細胞株と、本発明の不死化周細胞株とを3次元共培養することにより、毛細血管様構造を調製することを特徴とする。
【0029】
あるいは、本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株を、VEGFを含む培地を用いて3次元培養することにより、毛細血管様構造を調製することもできる。この場合、VEGFを含む培地を用いて3次元培養した後、該培地をVEGFを含有せずTGFを含有する培地に交換して3次元培養してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明を用いると、細胞調製は簡略化され、しかも細胞条件(遺伝子背景が単一、個体差なし)が均一化されているので、実験結果のばらつきを最小限に抑えることが期待できる。また、従来の血管研究は多くの場合、様々な動物を用いてきたので、動物愛護の観点からも、研究運営効率の側面からも、適切な継代細胞を用いるin vitroアッセイ法の利用は有益である。
【0031】
毛細血管の形成異常は、腫瘍や網膜症ばかりでなく、動脈硬化や心不全、さらにはインスリン抵抗性など、本邦国民の健康を脅かす重要な難治性疾患の病態に深く関与していることが明らかになってきた。また、最近では再生医療への期待が高まっており、臓器再生の普遍的な必要不可欠な課題として組織内脈管再生構築があり、「血管新生」研究に対する期待が高い。従来の単なる「内皮細胞」を対象とした実験系に対して、毛細血管構成細胞である本細胞株および、これら細胞株を用いるアッセイ法は、毛細血管を正常に維持し、より成熟した血管を再生させるための機序解明のために非常に有用である。
【0032】
さらに、多くの組織内に存在する多分化能をもつ間葉系幹細胞(MSC)は、各種疾患病態における役割や再生医療への応用などに期待されている(Nature reviews 8,726−736,2008)。最近、幹細胞として未分化維持あるいは分化制御の機序はもとより、その組織内の局在も不明な組織MSCの(少なくとも)一部が、毛細血管周細胞として存在していることが明らかになった(Cell Stem Cell,3,301−313,2008)。本細胞株(MSC−PC)および、本細胞株を用いるアッセイ法は、上記の組織由来MSCに関わる疑問の解明につながり、血管新生ばかりでなく、高齢化社会で問題となっている難治性疾患の病態解明(脂肪や骨組織リモデリング(メタボリック症候群、骨粗鬆症)、繊維化障害など)や再生医療の開発(再生細胞ツールの調製)など、幅広い医学、医療分野に有益なツールとして応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、障害血管周囲に形成された毛細血管組織を示す図である。
図2図2は、血管内皮細胞株(c−EC)の、単層増殖(A)、RT−PCRの結果(B)、および3次元培養により得られた管腔(C)を示す図である。
図3図3は、周細胞株(c−PC)の、多層増殖(A)、RT−PCRの結果(B)、および3次元培養により得られた毛細血管様構造(C)を示す図である。
図4図4は、血管内皮細胞株(c−EC)と周細胞株(c−PC)との共培養による毛細血管様構造の形成を示す図である。
図5図5は、間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)が多分化能を有することを示す図である。
図6図6は、間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)による毛細血管様構造の形成を示す図である。
図7図7は、毛細血管内皮細胞株(c−EC)表面への細胞付着能を示す図である。
図8図8は、間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)の生体において多分化能を有することを示す図である。(A)カルディオトキシン障害骨格筋組織への導入による骨格筋細胞への分化、(B)下肢虚血部位の皮下脂肪組織への導入による毛細血管への分化(B1:周細胞への分化、B2:内皮細胞への分化)、(C)皮下脂肪組織への導入による脂肪細胞への分化。
図9図9は、間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)の表面マーカープロファイルを示す図である。
【0034】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2012−24854号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、非ヒト哺乳動物の毛細血管に由来する不死化血管内皮細胞株、不死化周細胞株、および不死化間葉系幹細胞様周細胞株に関する。具体的には、不死化血管内皮細胞株、不死化周細胞株、および不死化間葉系幹細胞様周細胞株、それら細胞株の調製方法、ならびに、それら細胞株により再構築された毛細血管様構造に関する。
【0036】
1. 不死化血管内皮細胞株(c−EC)、不死化周細胞株(c−PC)、および不死化間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)の調製方法
血管内皮細胞(endothelial cell;EC)は、血管の内表面を構成する薄く扁平な細胞である。本発明において、「不死化血管内皮細胞株」または「c−EC」とは、血管内皮細胞としての機能および特性を保持する、不死化された血管内皮細胞クローンをいう。
【0037】
周細胞(pericyte:周皮細胞ともいう)は毛細血管壁を取り巻くように存在する細胞であり、Rouget細胞とも呼ばれる中胚葉性の細胞である。現在、生体内に存在する周細胞は単一種類の細胞からなるものではないと推測されているが、既知のマーカーではその種類を識別することはできない。発明者らは、複数の周細胞株の中から、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)様の分化能を有する細胞株をさらに同定し、「間葉系幹細胞様周細胞株」とした。よって、本発明において、「不死化周細胞株」または「c−PC」とは、周細胞としての機能および特性を保持する不死化された周細胞クローンで、間葉系細胞への分化能を有さない細胞クローンをいい、「不死化間葉系幹細胞様周細胞株」または「MSC−PC」とは、周細胞としての機能および特性を保持する不死化された周細胞で、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、内皮細胞、幹細胞、または神経細胞等の、間葉系に属する細胞への分化能を有する細胞クローンをいう。
【0038】
1.1 毛細血管を密に含む組織の調製
不死化血管内皮細胞株を調製するため、まず、非ヒト哺乳動物の生体内で毛細血管を密に含む組織を調製する。
【0039】
大血管には血管を養う毛細血管(vasa vasorum:脈管の血管)が血管壁外膜から中膜にかけて分布し、血管障害により、プラーク形成し血管壁が肥厚すると、同部位血管の周囲にvasa vasorum血管新生が亢進することが知られている(Am J Physiol 298,H295−305,2010.Cardiovascu Res 75,649−658,2007参照)。そこで、本発明においては、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入したトランスジェニック動物の障害血管周囲に、血管新生の場となる細胞外マトリックス成分を含むキャリアを留置・導入し、ここに毛細血管を展開させることで、毛細血管を密に含む組織を作成する。
【0040】
細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸などの細胞外マトリックス成分、もしくはマトリゲル(登録商標)などの再構成基底膜マトリックスを用いることができる。コラーゲンは誘導体化(アシル化、エステル化)されていてもよく、ゼラチン、コラーゲンゲル、ハイドロゲル等の変性コラーゲンであってもよい。
【0041】
細胞外マトリックス成分を含むキャリアは、新生・展開された毛細血管を含んだ組織として摘出可能な形態であればよく、前記細胞外マトリックス成分から構成されるゲルやスポンジであってもよいし、前記マトリックスを適当な支持体上に被覆したものであってもよい。
【0042】
具体的には、たとえば、コラーゲン被膜した担体(例えばチューブやシート等)、またはコラーゲンゲル等を前記動物の障害血管周囲内に留置することにより、該担体表面またはコラーゲンゲル表面に毛細血管を展開させる。次に、担体表面のコラーゲン被膜またはコラーゲンゲル表面を剥離することにより、毛細血管を密に含む薄膜組織を得ることができる。
【0043】
本発明において、「毛細血管を“密に”含む」とは、脳や網膜内に存在するような、結合組織が粗で、毛細血管が密集して分布している状態をいう。
【0044】
本発明においては、非ヒト哺乳動物として、マウスやラットなどのげっ歯類動物を使用することができる。また、ras遺伝子やc−myc遺伝子等の癌遺伝子、アデノウイルスのE1A遺伝子、SV40ウイルスのラージT抗原遺伝子、またはヒトパピローマウイルスのHPV16遺伝子を導入されたトランスジェニック動物が使用され得るが、本発明においては、特に、SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子を導入されたトランスジェニック動物が好適に使用される。かかるトランスジェニック動物由来の細胞は、生体組織から分離後、低温(32〜34℃)で培養することにより細胞内T抗原は安定発現し、その機能を発揮することにより、継代の過程で本来の細胞の特性を維持させながら不死化することができ、通常培養温度(36〜38℃)で培養することによりT抗原が無効化し、T抗原の影響を極力除外した形で細胞を実験に利用することができる。
【0045】
1.2 細胞の分離
毛細血管を密に含む薄膜組織から、細胞を分離する。細胞の分離は、当業者に周知の方法に従って実施することができ、例えば、コラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ、エラスターゼ、キモトリプシン、およびプロナーゼ等の酵素を用いた処理により分離することができる。
【0046】
1.3 マーカーによる選択と不死化
(1)不死化血管内皮細胞株(c−EC)
分離した細胞の中から、血管内皮細胞のマーカーであるを発現している細胞を選択する。選択の指標とするマーカーは、選択の簡便さの点から細胞表面マーカーであるCD146、rWF、CD31のいずれかが好ましく、なかでも発現量の点から、CD146かrWFが好ましく、CD146が最も好ましい。細胞の選択は、当業者に周知の方法に従って実施することができ、例えば、上記マーカーに対する抗体を用いて細胞をラベルした後、蛍光活性化細胞選別法(FACS)や磁気細胞分離法等に従って、細胞を分離選択することができる。
【0047】
分離した細胞を、内皮細胞用培地を用いて低温で継代培養し、不死化させる。培地は、例えばEGM−2培地やEBM−2培地等、市販の内皮細胞用培地を使用することができる。継代培養は、細胞内T抗原を安定発現させ、その機能を発揮させるため、低温で行う。ここで、低温とは、32〜34℃、好ましくは32.5〜33.5℃、より好ましくは33℃である。
【0048】
血管内皮細胞は細胞外マトリックスに付着して増殖する特性を有する付着細胞であり、本発明の細胞株も同様の性質を有する。それゆえ、培養においては適当な足場を用いることが好ましい。足場は細胞が付着して分裂・増殖し得るマトリックスや基質や担体であれば特に制限されず、たとえば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)、ポリ−D−リジン(poly−D−lysine)等を挙げることができる。とくに、ファイブロネクチンをマトリックスとして用いることが望ましい。
【0049】
(2)不死化周細胞株(c−PC)および不死化間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)
分離した細胞の中から、周細胞のマーカーを発現している細胞を選択する。選択の指標とするマーカーは、選択の簡便さと血管内皮細胞との区別の点から、細胞表面マーカーであるNG2、PDGFRb、およびNGFRが好ましく、特にNG2が好ましい。細胞の選択は、当業者に周知の方法に従って実施することができ、例えば、上記マーカーに対する抗体を用いて細胞をラベルした後、蛍光活性化細胞選別法(FACS)や磁気細胞分離法等に従って、細胞を分離選択することができる。
【0050】
分離したNG2を発現している細胞を、基本培地を用いて低温で継代培養し、不死化させる。基本培地としては、MEM培地、BME培地、DME培地、α−MEM培地、IMEM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI培地、StemSpan培地、StemPro培地及びこれらの混合物を用いることができる。
【0051】
継代培養は、細胞内T抗原を安定発現させ、その機能を発揮させるため、低温で行う。ここで、低温とは、32〜34℃、好ましくは32.5〜33.5℃、より好ましくは33℃である。
【0052】
周細胞および間葉系幹細胞は細胞外マトリックスに付着して増殖する特性を有する付着細胞であり、本発明の細胞株も同様の性質を有する。それゆえ、培養においては適当な足場を用いることが好ましい。足場は細胞が付着して分裂・増殖し得るマトリックスや基質や担体であれば特に制限されず、たとえば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)、ポリ−D−リジン(poly−D−lysine)等を挙げることができる。とくに、コラーゲンをマトリックスとして用いることが望ましい。
【0053】
次に、得られた不死化された細胞株が間葉系細胞(例えば骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、内皮細胞、幹細胞、または神経細胞等)への分化能を有するか否かを確認し、分化能を有さない細胞株を不死化周細胞株、分化能を有するものを不死化間葉系幹細胞様周細胞株として選択する。具体的には、当業者に周知の間葉系細胞への分化培地を用いて細胞株を通常培養温度で培養し、当業者に周知の方法に従って、各間葉系細胞のマーカーの発現を調べ、または細胞の染色を行い、分化したか否かを判断する。ここで、通常培養温度とは36〜38℃、好ましくは37℃である。
【0054】
本発明の一態様では、得られた不死化された細胞株を、脂肪細胞分化培地を用いて37℃で培養し、オイルレッド(Oil Red)染色やFABP4の発現を確認することにより、不死化周細胞株と不死化間葉系幹細胞様周細胞株を選択してもよい。培地は、例えばイソブチルメチルキサンチン(isobutylmethylxanthin,3IBMX)、デキサメタゾン(dexamethasone)、およびインスリン(insulin)等を含むDMEM培地等、市販の脂肪細胞分化培地を使用することができる。オイルレッドで染色され、またはFABP陽性の場合、脂肪細胞へ分化したといえるので、係る細胞株は不死化間葉系幹細胞様周細胞株であり、オイルレッドで染色されず、またはFABP陰性の場合、脂肪細胞へ分化しなかったといえるので、係る細胞株は不死化周細胞株である。
【0055】
また、本発明の別の態様では、得られた不死化された細胞株を、骨芽細胞分化培地を用いて37℃で培養し、アリザリンレッド(Alizarin Red)染色やオステオポンチン(osteopontin)の発現を確認することにより、不死化周細胞株と不死化間葉系幹細胞様周細胞株を選択してもよい。培地は、例えばアスコルビン酸(ascorbic acid)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、およびβ−グリセロリン酸(beta−glycerophosphate)を含むMEM培地等、市販の骨芽細胞分化培地を使用することができる。アリザリンレッドで染色され、またはオステオポンチン陽性の場合、骨芽細胞へ分化したといえるので、係る細胞株は不死化間葉系幹細胞様周細胞株であり、アリザリンレッドで染色されず、またはオステオポンチン陰性の場合、骨芽細胞へ分化しなかったといえるので、係る細胞株は不死化周細胞株である。
【0056】
2. 不死化血管内皮細胞株
上記1の調製方法に従って得られる本発明の不死化血管内皮細胞株は、CD146、rWF、CD31のような血管内皮細胞のマーカーを発現する、毛細血管由来の細胞株であり、血管内皮細胞としての機能および特性を保持する。また、本発明の不死化血管内皮細胞株は、単層化増殖し、アセチル化低密度リポタンパク質(Acetyl LDL)への吸着性を有し、レクチン(Lectin)に結合する。マウス由来細胞の場合、本発明の不死化血管内皮細胞株は、レクチンのうち、バンデイラエアシンプリシフォリアアグルチニン(Bandeiraea simplicifolia agglutinin,BS−1レクチン)に結合する。
【0057】
本発明の不死化血管内皮細胞株は、必要に応じて、さらに、敷石状に単層増殖するコロニーの選択や、既知の血管内皮細胞のマーカーを用いた選択を行い、樹立することができる。例えば、VEGFR2(Flk1)、vWF、VEGFR1(Flt1)、PECAM1(CD31)、VE−カドヘリン(VE−cadherin)、TIE1、およびTIE2からなる群から選択される少なくとも1つの発現を、RT−PCRおよび/またはウエスタンブロッティング法で検出することにより、単離された不死化血管内皮細胞株を同定することができる。
【0058】
例えば、上記1の調製方法に従って得られる不死化血管内皮細胞株のなかから、さらに、敷石状に単層化増殖する細胞株で、VEGFR2(Flk1)陽性、vWF陽性、アセチル化低密度リポタンパク質吸着性および/またはBS−1レクチン結合能を有する細胞を選択し、本発明の不死化血管内皮細胞株としてもよい。
【0059】
本発明の不死化血管内皮細胞株を、VEGFを含有する3次元培地を用いて通常培養温度で培養すると、内皮管腔形成(EC tubing)を生じる。
【0060】
3. 不死化周細胞株(c−PC)および不死化間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)
3.1 不死化周細胞株
上記1の調製方法に従って得られる本発明の不死化周細胞株は、NG2、PDGFRb、NGFRのような周細胞マーカーを発現する、毛細血管由来の細胞株であり、周細胞としての機能および特性を保持するが、間葉系細胞への分化能は有さない。また、本発明の不死化周細胞株は、コンフルエント状態で多層化増殖する。
【0061】
本発明の不死化周細胞株は、必要に応じて、さらに、多層化増殖するコロニーの選択や、既知の周細胞のマーカーを用いた選択を行い、樹立することができる。例えば、PDGFRb、aSMA、ミオカルディン(Myocardin)、アンギオポエチン−1(Angiopoietin−1)、カルポニン(calponin)、およびカルデスモン(caldesmon)からなる群から選択される少なくとも1つの発現を、RT−PCRおよび/またはウエスタンブロッティング法で検出することにより、単離された不死化周細胞株を同定することができる。
【0062】
例えば、上記1の調製方法に従って得られる不死化周細胞株のなかから、多層化増殖する細胞株で、PDGFRb陽性、aSMA陽性、およびミオカルディン(Myocardin)陽性であり、間葉系細胞への分化能を有さない細胞株を選択し、本発明の不死化周細胞株としてもよい。
【0063】
本発明の不死化周細胞株は、継代を続けても形態に変化は見られない。
【0064】
本発明の不死化周細胞株を新生血管と通常培養温度で共培養すると、新生血管の血管内皮周囲に付着して、毛細血管様構造が形成される。
【0065】
3.2 不死化間葉系幹細胞様周細胞株
上記1の調製方法に従って得られる本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、NG2、PDGFRb、NGFRのような周細胞マーカーを発現する、毛細血管由来の細胞株であり、周細胞としての機能および特性を保持し、間葉系細胞への分化能を有する。また、本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、コンフルエント状態で多層化増殖する。
【0066】
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、必要に応じて、さらに、多層化増殖する細胞株の選択、既知の周細胞のマーカーを用いた選択を行い、樹立することができる。例えば、PDGFRb、aSMA、ミオカルディン(Myocardin)、アンギオポエチン−1、カルポニン、およびカルデスモンからなる群から選択される少なくとも1つの発現を、RT−PCRおよび/またはウエスタンブロッティング法で検出することにより、単離された不死化間葉系幹細胞様周細胞株を同定することができる。
【0067】
例えば、上記1の調製方法に従って得られる不死化間葉系幹細胞様周細胞株のなかから、多層化増殖する細胞株で、PDGFRb陽性、aSMA陽性、およびミオカルディン(Myocardin)陽性であり、間葉系細胞への分化能を有する細胞株を選択し、本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株としてもよい。
【0068】
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、(1)間葉系幹細胞マーカーであるSca1、CD29、CD44、CD105、CD106を発現し、(2)周細胞マーカーであるNG2、aSMA陽性、(3)血球系マーカーCD11、CD45陰性という表面マーカープロファイルを有する。したがって、フローサイトメトリー等を用いて、同細胞を同定することができる。
【0069】
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株は、継代を続けると細胞形態が多種になる傾向が観察されるが、40継代以上の継代培養後でも間葉系幹細胞様の多分化能を有している。
【0070】
4.毛細血管様構造の再構築
本発明において、「毛細血管様構造」とは、毛細血管のように、内皮細胞からなるチューブ(ECチューブ)の周囲を周細胞が取り巻いている構造をいい、その直径は約5〜20μmである。
【0071】
4.1 不死化血管内皮細胞株と不死化周細胞株を用いる場合の調製方法
本発明の不死化血管内皮細胞株と不死化周細胞株とを3次元共培養することにより、毛細血管様構造が形成され、毛細血管を再構築することができる。具体的には、VEGF含有3次元ゲル培地を用いて通常培養温度で不死化血管内皮細胞株と不死化周細胞株とを共培養することにより、毛細血管様構造を得ることができる。培地としては、VEGFを添加した基本培地を使用することができ、3次元ゲル培地を調製するためには、例えばマトリゲル(Matrigel)(登録商標)(BD社)等、市販のキットを使用することができる。
【0072】
4.2 不死化間葉系幹細胞様周細胞株を用いる場合の調製方法
本発明の不死化間葉系幹細胞様周細胞株を3次元培養することにより、毛細血管様構造が形成され、毛細血管を再構築することができる。具体的には、VEGF含有3次元ゲル培地を用いて通常培養温度で不死化間葉系幹細胞様周細胞株を培養することにより、毛細血管様構造を得ることができる。その後、培地をTGF−β含有3次元ゲル培地に交換して通常培養温度で培養を続けると、さらに太い成熟した毛細血管様構造を得ることができる。培地としては、VEGFを添加した基本培地およびTGF−βを添加した基本培地を使用することができ、3次元ゲル培地を調製するためには、例えばマトリゲル(Matrigel)(登録商標)(BD社)等、市販のキットを使用することができる。
【実施例】
【0073】
1.新生毛細血管組織の調製
SV40温度感受性変異株tsA58T抗原遺伝子発現マウス(8週歳)の大腿動脈内に、wire(外径0.3mm Cook社)を挿入し血流を再開させることにより障害血管リモデリングモデルを作成する(Arterioscler Thromb Vasc Biol 2010,30,464−470)。障害血管に伴走するようにコラーゲン被膜ポリプロピレン製チューブ(collagen−coated tube;CCT)(外径0.7mm)を留置したのち皮膚を再縫合した。手術2週間後、障害血管外膜および留置したCCT上に新生血管が分布していた(図1A)。このCCTを単離して、CCT表面の被膜を剥離した。この被膜(厚さ200〜500um)には、様々な成熟レベルの新生血管が二次元に密に展開しているのが観察される(図1B,C)。
【0074】
図1Aは、マウス大腿動脈をワイヤー障害し、その近傍にCCTを設置して2週間後、CCT表面に新生血管が形成されている様子を示す。図1Bは、CCT表面に形成された被膜を剥離して得られた、毛細血管が2次元に展開する被膜組織を示す。図1Cは、得られた被膜組織をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した染色像を示し、係る染色像から、様々な成熟レベルの新生血管が存在することがわかる(バー=100μm)。
【0075】
2.毛細血管細胞株の樹立
上記1において単離した被膜から細胞分離用酵素液により細胞成分を分離し、抗CD146抗体(ウサギモノクローナル(rabbit monoclonal)抗体,Abcam)および抗NG2抗体(ウサギポリクローナル(rabbit polyclonal)抗体,Abcam)でラベルしたのち、Magnet Cell Sorting System(Miltenyi Biotec社)によりCD146陽性細胞およびNG2陽性細胞を分離した。それぞれの細胞を、CD146陽性細胞は内皮細胞用培地(Endothelial cell basal medium MV2,PromoCell)を用いて、NG2陽性細胞は基本培地(D−MEM,Gibco)を用いて10継代した後、不死化細胞を再度CD146抗体、NG2抗体/MCSSで分離した後、不死化CD146陽性細胞株およびNG2陽性細胞株を樹立した。CD146陽性細胞のなかから、希釈培養系で単一細胞コロニーを形成させ、単層化増殖する細胞コロニーでVEGFR2(Flk1)、vWF陽性かつアセチル化低密度リポタンパク質(Acetylated LDL−DiI,Biogenesis)吸着性/Lectin(Bandeirea simplicifolia agglutinin(BS−1 lectin)−FITC,Sigma)結合能をもつ細胞株を内皮細胞株(c−EC)として樹立した(図2AおよびB)。同細胞は、3次元ゲル培地下で培養すると、管腔形成能(ECtubing)を有する(図2C)。
【0076】
図2Aは、血管内皮細胞株(c−EC)が、多角形細胞でコンフルエントで単層増殖する様子を示す。図2Aより、c−ECが内皮細胞に特徴的なアセチル化低密度リポタンパク質−Dil(赤)吸着性とレクチン−FITC(緑)結合性を有することがわかる(バー=100μm)。図2Bは、内皮細胞のマーカーであるCD146、フォン・ヴィルブランド因子(von Willebrand factor,vWF)、Flk1(VEGFR2)、およびaSMA(α平滑筋アクチン(α−smooth muscle actin))の遺伝子発現を確認したRT−PCRの結果を示す。c−ECはCD146、vWF、およびFlk1を発現し、aSMAは発現していない。図2Cは、c−ECを、VEGF含有3次元マトリゲル、37℃で培養したときの顕微鏡観察像を示す(バー=100μm)。図2Cより、c−ECをVEGF含有3次元培地下で培養するとチューブ様構造を形成したこと、すなわちc−ECがチュービング形成能を有することがわかる。
【0077】
NG2陽性細胞のなかから、希釈培養系で単一細胞由来の細胞コロニーを形成させた。コンフルエント状態で多層化する細胞コロニー(図3A)でPDGFRb、aSMA、Myocardin陽性を周細胞株(c−PC)として分離した(図3B)。GFP発現c−PC細胞を含む3次元ゲル培地下で、ラット大動脈短軸組織切片を共培養すると、大動脈外膜から発生してきた新生血管内皮の周りにc−PC細胞が取り巻き、毛細血管様構造を形成した(図3C)。
【0078】
図3Aは、周細胞株(c−PC)が、紡錘状細胞で、平滑筋細胞様の“Hill & Valley”状(起伏)の多層増殖する様子を示す(バー=100μm)。図3Bは、周細胞のマーカーであるNG2、周細胞と平滑筋細胞とに共通するマーカーであるPDGFRb、aSMA、ミオカルディンおよびSM22、ならびに内皮細胞のマーカーであるvWFおよびFlk1の遺伝子発現を確認したRT−PCRの結果を示す。c−PCはNG2、PDGFRb、aSMA、ミオカルディン、およびSM22を発現し、vWFおよびFlk1は発現していない。図3Cは、3次元培地下で、c−PCを新生血管(内皮をCD31(赤)で染色)と共培養すると、血管内皮の周囲に周細胞(GFP(緑))が付着して、毛細血管様構造を形成した様子を示す(バー=50μm)。
【0079】
3.毛細血管由来細胞(c−ECおよびc−PC)による毛細血管の再構築
上記2で樹立した細胞をマトリゲル3次元VEGF含培養系でインキュベートすると、c−ECはチュービング形成するが(図4左)、一方で、c−PCは、細胞塊コロニーを形成するのみである(図4右)。c−ECおよびc−PC細胞に対して、組み換えレトロウイルスによりDS−Red(赤蛍光)およびGFP(緑蛍光)発現細胞を作成し、共培養すると、c−EC(Ds−Red)で形成されたチュービングの周囲にc−PC(GFP)が取り囲んで毛細血管様構造を形成した(図4中央)。
【0080】
図4は、3次元ゲル培養下で、血管内皮細胞株(c−EC)を単独培養した場合(左)、周細胞株(c−PC)を単独培養した場合(右)、および血管内皮細胞株(c−EC)と周細胞株(c−PC)とを共培養した場合(中央)の、顕微鏡観察像および蛍光顕微鏡観察像を示す。血管内皮細胞株(Ds−Red(赤)発現)は、内皮管腔形成(ECチュービング)するが、周細胞(GFP(緑)発現)は細胞塊様に増殖した。両細胞を共培養すると、c−ECによって形成されたECチューブの周りにc−PCが接着増殖し、毛細血管(capillary)様構造が形成された(バー=100μm)。
【0081】
4.毛細血管由来間葉系幹細胞様周細胞(MSC−PC)の多分化能
5株のc−PC細胞株のなかで3株は、特に細胞形態が多種になる傾向が強いことに気づき、再度、単一細胞からクローニングさせたところ、同様の特性を維持していた。同細胞は、脂肪細胞分化培地および骨芽細胞分化培地で培養すると、効率的に脂肪および骨芽細胞に分化する能力があることを確認した(図5)。特に脂肪細胞の場合、分化誘導後、7日以内に70〜80%の細胞が分化誘導され、2〜3週間の培養のなかで、脂肪滴を細胞質に大量に蓄える成熟脂肪細胞まで分化することを確認している(図5)。
【0082】
図5は、間葉系幹細胞様周細胞(MSC−PC)の顕微鏡観察像、ならびに該細胞を脂肪細胞分化培地で培養した後のFABP4による免疫染色像とオイルレッド染色像、および該細胞を骨芽細胞分化培地で培養した後のオステオポンチン(osteopontin)による免疫染色像とアリザリンレッド染色像を示す(バー=50μm)。NG2陽性PC細胞株の中で、脂肪細胞分化能(adipogenesis)および骨芽細胞分化能(osteogenesis)を有する細胞株を樹立した。同細胞株を脂肪分化培地で1週間培養すると70〜80%の細胞がFABP4陽性細胞へ、さらに2〜3週間培養すると大量の脂肪滴(オイルレッド染色)を細胞質にもつ成熟脂肪細胞へ分化した。同様に、樹立した細胞株を骨芽細胞分化培地で3週間培養するとオステオポンチン陽性骨芽細胞への分化を認め、細胞塊の一部はカルシウム沈着(アリザリンレッド染色)を認めた(バー=50μm)。
【0083】
同細胞株はVEGF含む内皮細胞用培地で培養するとvWF陽性内皮細胞化し、さらにVEGF含有三次元ゲル培養系で培養すると、単なるECチュービング形成のみならず、その周囲にPC細胞が取り巻く毛細血管様構造を形成した(図6A)。
【0084】
電子顕微鏡で観察すると、一部周囲にPC細胞で囲まれるECチュービング以上の大きな管腔が形成されていた(図6B)。この時点でTGF(transforming growth factor β)で刺激すると、さらに太い血管構造を形成した(図6C)。
【0085】
図6Aは、間葉系幹細胞様周細胞株(MSC−PC)をVEGF含有3次元ゲル内で培養すると、内皮細胞分化が誘導されたこと(A内挿入図)、およびECチューブ周辺に他の周細胞が集積して毛細血管様構造を形成したことを示す。図6Bは、毛細血管様構造を電子顕微鏡を用いて観察した像であり、ECチューブより大きな管腔構造をとり、一部で周細胞がそのチューブ外側に付着しているのが観察される。図6Cは、さらに培地をVEGF(−)TGF(+)培地に交換して2日後の毛細血管様構造であり、Aに比べ、さらに太い成熟した毛細血管様構造が形成されていることがわかる(バー=100μm)。
【0086】
5.c−EC細胞への細胞接着能評価
cECをコンフルエント状態に培養した後、この培地皿に骨髄由来の内皮前駆細胞(EPC)(GFP発現マウス由来)を加えて、6時間後に内皮細胞表面に接着しているGFP陽性EPC細胞数を計測した。内皮との接着に必要な接着分子(インテグリン(integrins))発現が低下しているEPCでは内皮接着性が有意に低下していることが認められた(図7)。
【0087】
図7は、内皮前駆細胞(EPC)の血管内皮への接着能をみるため、c−ECをコンフルエント単層状態に培養し、マウス骨髄より単離したEPC(GFP緑発光)を含む培養液で6時間インキュベートした後、内皮表面に付着しているEPC数を評価した結果を示す。接着分子(インテグリンβ1等)の発現が低下しているEPC(被検体)において、内皮細胞表面への付着能が有意に低下している(バー=50μm、Mean+SEM、p<0.05、n=6)。
【0088】
6.MSC−PCの生体における多分化能評価
マウス組織へのDsRed蛍光標識MSC−PCの導入により、様々な組織への分化を確認した。
(1)骨格筋細胞への分化
SCIDマウス腓腹筋にcardiotoxin(10ug/mouse筋肉注射)処置して、骨格筋を障害させた後、同部位へMSC−PCを導入した。2週間後に骨格筋組織を取出し免疫染色解析を行った。結果を図8Aに示す(バー=50μm)。障害から再生している骨格筋繊維の一部がMSC−PC由来のものであることが確認された(緑=lectin染色=血流のある血管内皮)。
【0089】
(2)毛細血管(内皮細胞および周細胞)への分化
SCIDマウス大腿動脈結紮させた下肢虚血領域において、皮下組織部へMSC−PCを導入した。2週間後に同部位組織を取出し免疫染色解析を行った。結果を図8Bに示す(バー=50μm)。導入細胞(赤色シグナル)は、新生血管の内皮細胞(lectin染色=血流のある血管内皮と重合してオレンジ色になっている)および、周細胞(緑内皮細胞の外側に付着)に分化していることが確認された。
【0090】
(3)脂肪細胞への分化
SCIDマウス皮下脂肪組織へのMSC−PC導入後、2週間目に組織を取出し免疫染色解析を行った。結果を図8Cに示す(バー=50μm)。脂肪組織において導入した細胞(赤色シグナル)が脂肪細胞へ分化していることが確認された(緑=Bodipy染色=脂肪染色)。
【0091】
7.MSC−PCの細胞マーカープロファイル
MSC−PCにおいて、フローサイトメトリー解析により代表的な周細胞および間葉系幹細胞マーカーの発現性を確認した。結果を図9に示す。
【0092】
周細胞マーカー(NG2、aSMA)は陽性であり、Sca1、CD29、CD44、CD105、CD106などの代表的な間葉系幹細胞マーカーはすべて陽性である。また、血球系マーカーであるCD11やCD45は陰性であった。
【0093】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0094】
従来の単なる「内皮細胞」を対象とした実験系に対して、毛細血管構成細胞である本細胞株および、これら細胞株を用いる実験系は、毛細血管を正常に維持するための、また、より成熟した血管を再生させるための機序解明のために非常に有用である。毛細血管の形成異常は腫瘍、網膜症、動脈硬化、心不全、インスリン抵抗性等の重要な難治性疾患の病態に関与していることが明らかとなってきたため、本発明の細胞株およびこれら細胞株を用いる実験系により、これらの疾患の予防薬や治療薬を開発できる可能性がある。また、本発明の細胞株およびこれら細胞株を用いる実験系により、臓器再生に必要な組織内脈管再生構築法を開発できる可能性がある。
【0095】
本細胞株(MSC−PC)および、本細胞を用いる実験系により、組織由来MSCに関わる疑問の解明につながり、上記の血管新生ばかりでなく、高齢化社会で問題となっている難治性疾患病態解明(脂肪や骨組織リモデリング(メタボリック症候群、骨粗鬆症)、繊維化障害など)や再生医療の開発(再生細胞ツールの調製)など、幅広い医学、医療分野に有益なツールとして応用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9