特許第6188085号(P6188085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188085
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】硝酸製造方法および硝酸製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/38 20060101AFI20170821BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20170821BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C01B21/38
   B01D53/56 400
   B01J19/12 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-30507(P2015-30507)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-150888(P2016-150888A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2016年2月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神原 信志
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 宣是
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−256056(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/132842(WO,A1)
【文献】 特開2004−243289(JP,A)
【文献】 特開2012−207536(JP,A)
【文献】 特開昭63−267423(JP,A)
【文献】 川原将史他,172nmXe2エキシマーランプによるNO2の除去に関する研究,化学反応討論会講演要旨集,日本,2007年 6月12日,Vol.23,p.59
【文献】 Masaharu TSUJI et al.,Efficient Conversion of NO2 into N2 and O2 in N2 or into N2O5 in Air by 172-nm Xe2 Excimer Lamp at Atmospheric Pressure,Chemistry Letters,日本,社団法人日本化学会,2007年 2月 3日,Vol.36, No.3,p.376-377,doi:10.1246/cl.2007.376
【文献】 K.UENO et al.,NOx Treatment in Diesel Engine Combustion Exhaust Gases by Vacuum Ultra-Violet Irradiation,Annual report - Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena,米国,2007年,Vol.2,p.521-524
【文献】 J. YE et al.,The use of vacuum ultraviolet irradiation to oxidize SO2 and NOx for simultaneous desulfurization and denitrification,Journal of Hazardous Materials,2014年,Vol.271,p.89-97,doi: 10.1016/j.jhazmat.2014.02.011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/38
B01D 53/56
B01J 19/12
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物から硝酸を製造する硝酸製造方法であって、
窒素酸化物と水と酸素とを含む被処理ガスに175nmよりも短い波長の紫外線を含む光を照射する光照射工程を備えており、
前記被処理ガス中の水と酸素とに前記光を照射することによりOラジカルおよびOHラジカルを生成し、このOラジカルおよびOHラジカルを窒素酸化物と反応させて硝酸を製造する硝酸製造方法であって、
前記被処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する水分濃度の比が1:5以上であることを特徴とする硝酸製造方法。
【請求項2】
前記被処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する酸素濃度の比が1:4以上であることを特徴とする請求項1に記載の硝酸製造方法。
【請求項3】
前記被処理ガスに照射する光が、中心波長172nmの光を放出するエキシマ光源からの光であることを特徴とする請求項1または2に記載の硝酸製造方法。
【請求項4】
前記窒素酸化物と水と酸素を含む被処理ガスが燃焼器の排ガスであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の硝酸製造方法。
【請求項5】
窒素酸化物から硝酸を製造する硝酸製造装置であって、
光反応器と、当該光反応器に窒素酸化物と水と酸素とを含む被処理ガスを供給する被処理ガス供給手段と、前記光反応器内に配置されており175nmよりも短い波長の紫外線を含む光を発生させる光源と、を備えており、
前記被処理ガス供給手段は、窒素酸化物の濃度に対する水分濃度の比が1:5以上である被処理ガスを供給し、供給された前記被処理ガスに前記光を照射して前記被処理ガス中の水および酸素からOラジカルおよびOHラジカルを生成し、さらに生成したOラジカルおよびOHラジカルを窒素酸化物と反応させることによって硝酸を製造することを特徴とする硝酸製造装置。
【請求項6】
前記光源が、中心波長が172nmである光を放出するエキシマ光源であることを特徴とする請求項に記載の硝酸製造装置。
【請求項7】
前記被処理ガス供給手段が燃焼器に接続されており、燃焼器の排ガスを光反応器に供給する排ガス供給手段であることを特徴とする請求項またはに記載の硝酸製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸製造方法および硝酸製造装置に関する。特に、水素キャリアエネルギーとなるアンモニアの原料とすべく、硝酸を高効率かつ安価に製造する硝酸製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光、風力等の再生可能エネルギーは、自然現象に由来するため季節や時間による変動が大きく、電力需要と供給のピークが一致しないという本質的な課題がある。また、大規模太陽光発電は広大な土地面積を必要とすること、風力発電は適する地域が洋上であったり沿岸部であることから、両者ともにエネルギー消費地と距離的に離れており、その送電線の敷設もコスト面で課題を有する。
【0003】
これらの課題を解決するために、最近、エネルギーキャリアシステムが提案されている。ここでいうエネルギーキャリアシステムとは、再生可能エネルギーによって生産される電力を用いて水素を含有する化学物質であるアンモニアを製造し、液化アンモニアとして貯蔵する工程と、液化アンモニアを電力消費地に輸送し、必要に応じて液化アンモニアを水素に転換して燃料電池車に供給したり、燃料電池で発電する工程とで構成される。
【0004】
このエネルギーキャリアシステムは、再生可能エネルギーによって生産される電力をその場で液化アンモニアとして貯留できる。このため送電線が不要であり、また電力の不安定さを解消する方法を容易に構築でき、上記の再生可能エネルギーの本質的課題を解決することができる。
【0005】
エネルギーキャリアシステムを具現化する技術として、例えば特許文献1では、太陽光で発電した電力で水素を製造する方法が示されている。また例えば特許文献2では、水素と窒素からアンモニアを合成するための方法が示されている。特許文献1の方法と特許文献2の方法を組み合わせることによって、太陽光で発電した電力を水素に変換し、その水素を原料としてアンモニアを合成して貯留することができる。しかしながら特許文献1と特許文献2の技術を組み合わせた場合、電力からアンモニアへの総合変換効率は10パーセント程度である。そこで、より総合変換効率の高いアンモニア合成法が望まれている。
【0006】
本発明者らは、硝酸を原料とすればアンモニアを高い変換効率で合成できることに着眼し、その第一段階として硝酸の製造方法についての検討を進めた。硝酸を製造する方法として、たとえば特許文献3の方法が知られている。特許文献3は、ガス中のNOxの分離除去を解決すべき課題とした技術であって、NOxを含むガスに水蒸気を供給して加湿ガスを作成し、この加湿ガスに紫外線を照射することでNOxから硝酸を生成し、結果として脱硝を行うことを特徴とする。
【0007】
特許文献3は、一酸化窒素または二酸化窒素の濃度が10〜100ppmのガスを、硝酸化による脱硝処理を行う被処理ガスとして用いている。特許文献3では、この被処理ガスに10%の水蒸気を添加して得た加湿ガスを気密チャンバに導入する。気密チャンバでは、圧力を2.67kPaに減圧し、加湿ガスに低圧水銀ランプから発生する紫外線を照射して、硝酸を生成する。特許文献3では、常温で約30分間、紫外線を照射する反応時間を経過させると、一酸化窒素と二酸化窒素がほぼ除去され、硝酸が生成されることが開示されている。
【0008】
特許文献3の脱硝装置に用いられている低圧水銀ランプの主な発光スペクトルは185nmと254nmの紫外線であることが知られている。特許文献3の脱硝装置では、波長が185nmと254nmの紫外線の照射が、以下の式1から式4に示される反応をおこし、NOxから硝酸が生成されると考えられる。
【数1】
【0009】
式1から式3の反応速度は比較的速いが、式4の反応には温度依存性があり、常温での反応速度は遅くなる。このため、特許文献3の技術を硝酸の製造に適用した場合には、硝酸転化率98%とするために、バッチ処理で毎回30分程度の長い反応時間を要することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014−203274号公報
【特許文献2】特開2013−209685号公報
【特許文献3】特開2004−243289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に開示される脱硝技術を硝酸の製造技術に適用する場合、比較的低濃度のNOxガスを原料に用いる必要があり、また減圧条件下で長時間反応を行う必要がある。このため、より高濃度のNOxを含むガスを用いて大量の硝酸を製造するための、より効率良く連続的な硝酸製造技術が求められている。高濃度のNOxを含むガスから、高効率で連続的に硝酸を製造する技術は、エネルギーキャリアシステムに好適に適用可能となる。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、硝酸を従来よりも短時間の反応時間で、連続的に、高効率かつ安価に製造する硝酸製造方法及び硝酸製造装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、窒素酸化物と水と酸素を含むガスに、従来紫外線の光源として用いられてきた低圧水銀ランプから発生するよりも波長の短い紫外線を照射することによって上記課題を解決できることを見いだして、本発明を完成させるに至った。請求項1記載の硝酸製造方法は、窒素酸化物から硝酸を製造する硝酸製造方法であって、窒素酸化物と水と酸素とを含む被処理ガスに175nmよりも短い波長の紫外線を含む光を照射する光照射工程を備えており、被処理ガス中の水と酸素とにこの光を照射することにより、OラジカルおよびOHラジカルを生成し、このOラジカルおよびOHラジカルを窒素酸化物と反応させて硝酸を製造することを特徴とする。
【0014】
請求項にかかる硝酸製造方法は、被処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する水分濃度の比が1:5以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項にかかる硝酸製造方法は、被処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する酸素濃度の比が1:4以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項にかかる硝酸製造方法は、被処理ガスに照射する光が、中心波長172nmの光を放出するエキシマ光源からの光であることを特徴とする。
【0017】
請求項にかかる硝酸製造方法は、窒素酸化物と水と酸素を含む被処理ガスが燃焼器の排ガスであることを特徴とする。
【0018】
本発明はまた、窒素酸化物から硝酸を製造する硝酸製造装置を提供する。請求項記載の硝酸製造装置は、光反応器と、この光反応器に窒素酸化物と水と酸素とを含む被処理ガスを供給する被処理ガス供給手段と、光反応器内に配置されており175nmよりも短い波長の紫外線を含む光を発生させる光源と、を備えている。本発明の硝酸製造装置の被処理ガス供給手段は、窒素酸化物の濃度に対する水分濃度の比が1:5以上である被処理ガスを供給する。供給された前記被処理ガスに前記光を照射して前記被処理ガス中の水および酸素からOラジカルおよびOHラジカルを生成し、さらに生成したOラジカルおよびOHラジカルを窒素酸化物と反応させることによって硝酸を製造することを特徴とする。
【0019】
請求項にかかる硝酸製造装置は、被処理ガス供給手段が燃焼器に接続されており、燃焼器の排ガスを光反応器に供給する排ガス供給手段であることを特徴とする。
【0020】
請求項にかかる硝酸製造装置は、光源が中心波長が172nmである光を放出するエキシマ光源であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の硝酸製造装置および硝酸製造方法は、窒素酸化物と水と酸素を含む被処理ガスに175nmよりも短い波長の光を照射することで、短時間の反応時間で連続的に高効率かつ安価に硝酸を製造する方法を提供する。
【0022】
本発明の硝酸製造方法および硝酸製造装置は、硝酸製造の原料となる窒素酸化物と水と酸素を含む被処理ガスを燃焼器の排ガスから得ることによって、硝酸を一層安価に製造することができる。
【0023】
本発明の硝酸製造方法は、被処理ガス中の窒素酸化物に対する水の濃度比を5以上とすることで、OHラジカルを十分に生成させ、硝酸を一層高効率に製造することができる。同様に、被処理ガス中の窒素酸化物に対する酸素との濃度比を4以上とすることで、Oラジカルを十分に生成させ、硝酸を一層高効率に製造することができる。水と酸素とを十分に供給することで、高濃度のNOxを含む被処理ガスから効率よく硝酸を製造することができる。
【0024】
本発明の硝酸製造方法は、被処理ガスに、中心波長172nmの光を放出するエキシマ光源からの光を照射するのが特に好ましい。中心波長172nmの光によって、OラジカルとOHラジカルを十分に生成させ、被処理ガス中の窒素酸化物をラジカル気相反応によってより短時間の反応時間で連続的且つ高効率に硝酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の硝酸製造装置を模式的に示す図である。
図2】実施例1の被処理ガスに含まれる水分濃度と硝酸転化率との関係を示すグラフである。
図3】実施例2の被処理ガスに含まれる酸素濃度と硝酸転化率との関係を示すグラフである。
図4参考例の被処理ガスに含まれる水分濃度と硝酸転化率との関係を示すグラフである。
図5】実施例における一酸化窒素流量と硝酸転化率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る好適な硝酸製造方法と硝酸製造装置の実施形態について列記する。本実施形態における硝酸製造装置10は、窒素酸化物と水と酸素とを含む燃焼器からの排ガスを被処理ガスとして用いている。
【0027】
図1は、本発明の硝酸製造装置10の構成を模式的に示すブロック図である。硝酸製造装置10は、一端側にガス供給口2を備えており且つ他端側にガス排出口3を備えている円筒状の光反応器1と、光反応器1の中心に設けられる光源4と、光源用の電源5とを備えている。これに加えて本実施形態の硝酸製造装置10は、図示されない燃焼器に接続されて燃焼器から排出される排ガスを光反応器1に供給する被処理ガス供給手段6を備えている。
【0028】
ここでいう燃焼器とは、ガス燃焼器、油燃焼器、石炭燃焼器、廃棄物燃焼器、バイオマス燃焼器、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、炭化炉、セメントキルンなど、排ガスが発生する任意の燃焼器が対象となる。
【0029】
燃焼器の排ガスは、通常、窒素酸化物と水と酸素を含むため、被処理ガス供給手段6を経由して、そのままガス供給口2から光反応器1の内部に供給することができる。例えば、石炭火力発電に利用される石炭燃焼器の排ガスは、窒素酸化物濃度200ppm、水分濃度12vol%、酸素濃度5vol%程度を含み、窒素酸化物と水と酸素を含む被処理ガスとして適している。もし、水や酸素を含まない排ガスを被処理ガスとして用いる場合には、被処理ガス供給手段6に水と空気を供給して混合比を調整する調整部を設けることで、容易に窒素酸化物と水と酸素とを含むガスを供給することができる。
【0030】
排ガス中のダストは、光源4に付着して光の照射を妨げる可能性があるため、事前に除去しておくことが望ましい。燃焼器からの排ガスは、通常は、電気集塵機やバグフィルター、セラミックフィルターなどで除塵されているためダストを事前除去する必要がなく、そのまま被処理ガス供給手段6を経由してガス供給口2から光反応器1の内部に供給できる。排ガスにダストが多く含まれる場合には、被処理ガス供給手段6に除塵部を設け、容易にダストの少ない排ガスを供給することができる。
【0031】
本実施形態では、光反応器1内の中心部に配置される光源4として、175nmよりも短い波長の紫外線を放射する光源4を用いている。光源4の具体例として、重水素ランプ(中心波長120〜170nm)、ArBrエキシマランプ(中心波長165nm)、Xeエキシマランプ(中心波長172nm)、ArClエキシマランプ(中心波長175nm)などが適用可能である。
【0032】
発明者らは、175nmよりも短い波長の光のエネルギー(以下、フォトンエネルギーとも言う)が、被処理ガスに含まれる酸素と水とに吸収されたとき、以下に示す特有の反応でOラジカルとOHラジカルとを生成し、このOラジカルとOHラジカルとが硝酸の生成反応の反応速度に大きく寄与することを見いだして、光源として最適な光の波長を特定するにいたった。
【0033】
【数2】
【0034】
175nmより短い波長の紫外線のフォトンエネルギーは7.1eVより大きい。酸素分子は、175nmより短い波長の紫外線を吸収したとき、式5に示すように解離して、非常に活性度の高いO(1D)ラジカル(一重項酸素原子)を高濃度で生成する。
【0035】
一方、水は、従来多用される波長185nmと254nmの紫外線よりも、175nm未満の波長の紫外線をより高い比率で吸収する。150nm以上175nm未満の波長の紫外線を照射された水は、式6に示すOHラジカル(ヒドロキシラジカル)を、従来より高濃度で生成する。
【0036】
175nmよりも短い波長の紫外線を照射することで、酸素と水とからそれぞれ高濃度で生成されるO(1D)ラジカルとOHラジカルとは以下に示す硝酸生成反応を著しく加速する。すなわち、O(1D)ラジカルとOHラジカルは、以下の式7〜式10のラジカル気相反応によって、窒素酸化物、特に一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)とを硝酸に転化させる。ラジカル気相反応の反応速度は常温においても著しく速い。このためガス供給口2から供給された排ガスが光反応器1を通過する間に、排ガスに含まれる窒素酸化物は瞬時に硝酸に転化し、結果、連続的に硝酸を高効率に製造することができる。NOとNOの濃度に対して、O(1D)ラジカルおよびOHラジカルの濃度が十分に高ければ式7〜式10の反応速度が増す。そこで、O(1D)ラジカルおよびOHラジカルの濃度を高めるために、排ガス中の水分濃度と酸素濃度とを、窒素酸化物の濃度に対して十分に高くなるように制御することが好ましい。
【0037】
【数3】
【0038】
なお、175nmよりも短い波長の紫外線が酸素に照射された場合、上記したように、O(1D)酸素原子を高濃度に生成されるが、O(3P)酸素原子も生成される。よって、式2〜式4の硝酸を生成する反応も発生する。しかしながら、上記したように、O(1D)ラジカル、OHラジカルによる反応からなる硝酸生成反応は急速に発生するため、結果的に175nmよりも短い波長の紫外線を用いる場合、式7〜式10による硝酸生成反応が支配的となる。
【0039】
光源4の電源5には、再生可能エネルギーによって生産される電力を利用することができる。したがって、本発明の硝酸製造方法は、再生可能エネルギーによって生産される電力を硝酸という化学物質に変換する方法とも言える。また、排ガス中の窒素酸化物を硝酸として除去することにもなるため、本発明の硝酸製造方法は、排ガスの脱硝装置としても利用できる。
【0040】
光源4の放射照度を調節したり、光源4の長さと光反応器1の長さを変更したり光源4を複数設置することによって、式5と式6でそれぞれ生成するO(1D)ラジカルとOHラジカルの生成量を変化させることで、硝酸の生成量を調整することができる。
【0041】
光反応器1に供給される排ガスの温度は、光源4の材質に悪影響を及ぼさない温度範囲とするために、常温から200℃であることが望ましい。通常、燃焼器から排出される排ガスは、大気に排出される前に150℃以下に調整されている。このような排ガスは、調温することなくそのまま被処理ガス供給手段6を経由してガス供給口2に供給できる。もし排ガス温度が200℃を超えている場合は、被処理ガス供給手段6にガス冷却部を設けることで、容易に200℃以下とすることができる。排ガスの温度は、式7〜式10の硝酸を生成するラジカル気相反応速度に影響を及ぼさないため、室温であってもよい。
【0042】
光反応器1のガス排出口3の下流に、ガス冷却手段を付加することによって、生成した硝酸を液体で回収することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施形態を具現化した硝酸製造方法と硝酸製造装置とを用いた実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0044】
(実施例1)
内径(R1)80mm、長さ(L1)100mmの光反応器1の中央に、1台のXeエキシマランプ4を配置した硝酸製造装置10を用いて、硝酸を製造した。使用したXeエキシマランプ4は、中心波長が172nmの光を発生するランプである。ここでは、ランプ径(R2)40mm、発光長(L2)100mm、ランプ面出力36mmW/cmのXeエキシマランプを用いている。
【0045】
本実施例において硝酸製造装置10に供給した被処理ガスは、一酸化窒素1500ppmと酸素8.3vol%とを含んでおり、且つ水分濃度を0vol%から9vol%までの4水準で変化させた4種類のガスである。これら4種類の室温の被処理ガスを、それぞれ流量1.0L/minで硝酸製造装置10に供給し、Xeエキシマランプ4の光を照射した。図2に、それぞれの被処理ガスの一酸化窒素が硝酸(HNO)に転化した割合、すなわちHNO転化率を示す。ここで、HNO転化率は、以下の式11で計算される。
【0046】
【数4】
【0047】
図2に示したとおり、被処理ガスに含まれる水分濃度が高まるにつれて硝酸転化率が高くなり、水分濃度4.2vol%の被処理ガスで硝酸転化率は最大(97.2%)となった。そしてそれ以上水分濃度の高い被処理ガスを供給しても、硝酸転化率の変化はみられなかった。また、水分濃度が0vol%のとき、硝酸転化率は0%であった。これは、NOを硝酸に転化するにはOHラジカルが必要であること、および効率良く硝酸を得るにはNO濃度よりも高い濃度の水が必要であることを示している。
【0048】
硝酸転化率の実用上の目安は50%以上とされており、図2に示した結果から、実施例2の被処理ガスに必要な水分濃度は0.75%以上となる。以上の結果から、NO濃度に対するHO濃度の好ましい比は、5以上であることが明らかとなった。
【0049】
(実施例2)
実施例1と同一の硝酸製造装置10を用いて、硝酸製造時のNO濃度に対するO濃度の好ましい比を検証した。本実施例において硝酸製造装置10に供給した被処理ガスは、一酸化窒素1500ppmと水9.5vol%とを含み、且つ酸素濃度を0vol%から16vol%までの7水準で変化させた7種類のガスである。これら7種類の室温の被処理ガスを、それぞれ流量2.0L/minで硝酸製造装置10に供給し、Xeエキシマランプ4の光を照射した。図3に、それぞれの被処理ガスのHNO転化率を示す。
【0050】
図3に示したとおり、供給する被処理ガスの酸素濃度が高まるにつれて、硝酸転化率は急激に増加する。その後酸素濃度4.0vol%以上の被処理ガスを供給すると、酸素濃度の上昇に対する硝酸転化率の変化が微増に転じた。また、酸素濃度0vol%のとき、硝酸転化率は26%と低かった。これは、NOを効率良く硝酸に転化するにはOラジカルが必要であること、および効率良く硝酸を得るためにNO濃度よりも高い濃度の酸素が必要であることを示している。
実施例1と同様に、硝酸転化率の実用上の目安を50%以上とすると、図3に示した結果から、被処理ガスに必要な酸素濃度は0.6%以上となる。以上の結果から、NO濃度に対するO濃度の好ましい比は、4以上であることが明らかとなった。
【0051】
(参考例)
実施例1、2と同一の硝酸製造装置10を用いて、酸素濃度0vol%として水分濃度を変化させた時の硝酸転化率を検証した。これはすなわち、式10の反応効率の検証である。参考例において硝酸製造装置10に供給した被処理ガスは、一酸化窒素1500ppm、且つ水分濃度を0vol%から9vol%までの4水準で変化させた4種類のガスである。これら4種類の室温の被処理ガスを、それぞれ流量1.0L/minで硝酸製造装置10に供給し、Xeエキシマランプ4の光を照射した。図4に、それぞれの被処理ガスのHNO転化率を示す。
【0052】
図4に示したとおり、4水準のガスの硝酸転化率は概ね26%で変化がなかった。すなわち、式10の反応効率は26%程度であり、OHラジカルだけでは効率良く硝酸を得られないことを示している。したがって、効率良く硝酸を得るためには、一酸化窒素に酸素と水分を共存させることによって、式5と式6のラジカル生成反応と、式7〜式9の逐次ラジカル気相反応と、式10のラジカル気相反応とを併発させることが好ましい。
【0053】
(実施例3)
内径(R1)43mm、長さ(L1)1200mmの光反応器の中央に1台のXeエキシマランプ4を配置した硝酸製造装置10を用いて、硝酸を製造した。本実施例で使用したXeエキシマランプ4は、中心波長が172nmの光を発生する、ランプ径(R2)19mm、発光長(L2)850mm、ランプ面出力40mmW/cmのランプである。
【0054】
本実施例において硝酸製造装置10に供給した被処理ガスは、水分6.5vol%と酸素8.3vol%とを含んでおり、且つ一酸化窒素の濃度を70ppmから3500ppmまでの7水準で変化させた7種類のガスである。これら7種類の室温の被処理ガスを、それぞれ流量20.0L/minで硝酸製造装置10に供給し、Xeエキシマランプ4の光を照射した。光反応器1にガスが滞留する時間は3.3秒である。
【0055】
図5に、それぞれの被処理ガスのHNO転化率を示す。図5では、硝酸製造装置の処理能力を確認するために横軸を一酸化窒素流量(g/h)で示してある。本実施例の硝酸製造方法によると、一酸化窒素流量1.9g/hの時、硝酸転化率は98.4%となり、高効率に一酸化窒素から硝酸を製造できることが明らかとなった。このとき、一酸化窒素濃度は1200ppm、圧力は101.3kPaであった。また、このときの被処理ガスの光反応器1内の滞留時間すなわち反応時間が3.3秒と極めて短かった。以上のことから、本実施例の硝酸製造装置10を用いることで、連続的に硝酸を製造できることが明らかとなった。なお、本実施例の硝酸製造装置10では、一酸化窒素の流量がさらに増加すると、硝酸転化率は徐々に減少する。しかしながら、Xeエキシマランプ4のフォトンエネルギーを調節したり、Xeエキシマランプ4の長さと光反応器1の長さを変更したり、Xeエキシマランプ4を複数設置することによって、生成するOラジカルとOHラジカルの生成量を変化させて硝酸の生成量を調整することが可能である。
【0056】
実施例3の硝酸製造方法は、ラジカル気相反応式7〜式10により、常温・常圧で極めて短い時間で硝酸の生成反応を進行させることができる。この方法は、従来の低圧水銀ランプによって254nmと185nmの波長の光を照射する硝酸製造方法と比較すると、有意に短時間かつ高効率な硝酸の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る硝酸製造方法及び硝酸製造装置は、ガス燃焼器、油燃焼器、石炭燃焼器、廃棄物燃焼器、バイオマス燃焼器、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、炭化炉、セメントキルンなど、排ガスが発生する任意の燃焼器に適用して、硝酸を製造することが可能である。また、エキシマ光源の電源に、再生可能エネルギーによって生産される電力を利用することにより、再生可能エネルギーを硝酸として貯留することに利用可能である。さらに、排ガス中の窒素酸化物を硝酸として除去することで排ガスの脱硝装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 光反応器
2 ガス供給口
3 ガス排出口
4 光源(Xeエキシマランプ)
5 電源
6 被処理ガス供給手段
10 硝酸製造装置
図1
図2
図3
図4
図5