(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。
なお、本実施形態ではとくに断りがなければ、負極活物質を含む層を負極活物質層と呼び、集電体上に負極活物質層を形成させたものを負極と呼ぶ。
【0018】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質と、バインダーとを含んでいる。そして、上記負極活物質が、以下の要件(A)、(B)、および(C)を満たしている。
(A)黒鉛粉末を核材とし、上記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部が、上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料により被覆されている
(B)窒素吸着BET法による比表面積が0.8m
2/g以上5.3m
2/g以下である
(C)JIS K6217−4に準拠して測定したジブチルフタレート(以下、DBPとも呼ぶ。)吸収量が32cm
3/100g以上45cm
3/100g以下である
【0019】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を構成する材料について説明する。
【0020】
(負極活物質)
本実施形態の負極活物質は、黒鉛粉末を核材とし、上記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部が上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料により被覆されている。とくに黒鉛粉末のエッジ部が上記炭素材料により被覆されていることが好ましい。黒鉛粉末のエッジ部が被覆されることにより、エッジ部と電解液との不可逆的な反応を抑制することができ、その結果、不可逆容量の増大による初期の充放電効率の低下をより一層抑制することができる。
ここで、上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料とは、例えば、ソフトカーボン、ハードカーボンなどのアモルファスカーボンである。
【0021】
核材として用いる黒鉛粉末としては、例えば、天然黒鉛、石油系および石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛が挙げられる。本実施形態においては、これらの黒鉛粉末を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、コストの点から、天然黒鉛が好ましい。
【0022】
ここで、天然黒鉛とは、鉱石として天然に産出する黒鉛のことをいう。本実施形態の核材として用いる天然黒鉛は、産地や性状、種類はとくに限定されない。
また、人造黒鉛とは、人工的な手法で作られた黒鉛および黒鉛の完全結晶に近い黒鉛をいう。このような人造黒鉛は、例えば、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料にして、焼成工程、黒鉛化工程を経ることにより得られる。
【0023】
本実施形態の負極活物質は、焼成工程により炭素化されて上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料となる有機化合物と、上記黒鉛粉末とを混合した後に、上記有機化合物を焼成炭素化することによって作製することができる。
【0024】
上記黒鉛粉末と混合する有機化合物は、焼成することによって炭素化して、上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料が得られるものであればとくに限定されないが、例えば、石油系タール、石炭系タールなどのタール;石油系ピッチ、石炭系ピッチなどのピッチ;ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリルなどの熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂などの熱硬化性樹脂;セルロースなどの天然樹脂;ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
本実施形態においては、これらの有機化合物は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの有機化合物は、必要に応じて、溶媒により溶解または分散させて用いてもよい。
上記有機化合物の中でも、価格の点からタールおよびピッチが好ましい。
【0025】
本実施形態の負極活物質の窒素吸着BET法による比表面積は、0.8m
2/g以上5.3m
2/g以下であり、好ましくは0.9m
2/g以上5.0m
2/g以下である。
比表面積を上記上限値以下とすることにより、不可逆容量の増大による初期の充放電効率の低下を抑制することができる。また、比表面積を上記上限値以下とすることにより、後述する負極スラリーの安定性を向上させることができる。
比表面積を上記下限値以上とすることにより、リチウムイオンを吸蔵・放出する面積が大きくなり、レート特性を向上させることができる。
また、比表面積を上記範囲内とすることにより、バインダーの結着性を向上させることができる。
【0026】
本実施形態の負極活物質のJIS K6217−4に準拠して測定したDBP吸収量は、32cm
3/100g以上45cm
3/100g以下であり、好ましくは34cm
3/100g以上43cm
3/100g以下である。
DBP吸収量を上記範囲内とすることにより、リチウムイオンの拡散性が向上するため、レート特性を向上させることができる。また、DBP吸収量を上記範囲内とすることにより、バインダーの結着性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態の負極活物質における有機化合物由来の炭素材料の割合(以下「被覆量」と呼ぶ。)は、負極活物質を100質量%としたとき、好ましくは0.7質量%以上8.0質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以上7.0質量%以下であり、とくに好ましくは0.8質量%以上6.5質量%以下である。
炭素材料の被覆量を上記上限値以下とすることにより、リチウムイオンを吸蔵・放出する面積が大きくなり、レート特性を向上させることができる。
炭素材料の被覆量を上記下限値以上とすることにより、不可逆容量の増大による初期の充放電効率の低下を抑制することができる。また、炭素材料の被覆量を上記下限値以上とすることにより、後述する負極スラリーの安定性を向上させることができる。
【0028】
ここで、炭素材料の被覆量は、熱重量分析により算出することができる。より具体的には、熱重量分析計(例えば、パーキンエルマ社製TGA7アナライザ)を用いて、酸素雰囲気下、昇温速度5℃/minにて負極活物質を900℃まで昇温したとき、質量減少が始まった温度から、質量減少割合が緩やかになり、その後質量減少が加速する温度までの減少質量を被覆量とすることができる。
【0029】
本実施形態の負極活物質のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における平均粒子径d
50は、好ましくは9μm以上30μm以下であり、より好ましくは12μm以上27μm以下であり、とくに好ましくは15μm以上25μm以下である。
【0030】
本実施形態の負極活物質は、上記黒鉛粉末を被覆している上記炭素材料からなる被覆層の平均厚みが、好ましくは0.5nm以上15nm以下であり、より好ましくは1nm以上10nm以下である。
ここで、上記炭素材料からなる被覆層の平均厚みは、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)画像を撮り、ノギスを用いて測定することができる。
【0031】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、上記の要件(A)、(B)、および(C)をいずれも満たす負極活物質を含むことにより、初期の充放電効率とレート特性との間のトレードオフの関係を改善することができ、その結果、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0032】
(負極活物質の製造方法)
本実施形態の負極活物質は、例えば、以下の(1)〜(4)の工程により製造することができる。
【0033】
(1)上記黒鉛粉末と上記有機化合物を、必要に応じて溶媒とともに混合機などを用いて混合する。こうすることによって、上記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部に有機化合物を付着させる。
【0034】
(2)溶媒を用いた場合は、得られた混合物を必要に応じて撹拌しながら加熱し、溶媒を除去する。
【0035】
(3)上記混合物を、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、あるいは非酸化性雰囲気下で加熱して、付着させた有機化合物を炭化させる。そうすると、上記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部が、上記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料により被覆された負極活物質が得られる。
【0036】
この工程の加熱処理の下限温度は、有機化合物の種類や熱履歴によって適宜決定されるためとくに限定されないが、通常は900℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上である。
また、この工程の加熱処理の上限温度は、有機化合物の種類や熱履歴によって適宜決定されるためとくに限定されないが、通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1800℃以下である。
昇温速度、冷却速度、熱処理時間なども有機化合物の種類や熱履歴によって適宜決定される。
【0037】
また、本実施形態においては、黒鉛粉末の上記有機化合物による被覆処理を行った後、被覆層を炭化する前に、被覆層を酸化処理してもよい。被覆層を酸化することにより、被覆層の高結晶化を抑制することができる。
【0038】
(4)得られた負極活物質を、必要に応じて、粉砕、解砕、分級処理などをおこない所望の物性を有する負極活物質に調整する。この工程は、上記(3)の工程の前におこなってもよいし、上記(3)の工程の前後両方でおこなってもよい。また、被覆前の黒鉛粉末に、粉砕、解砕、分級処理などをおこなってもよい。
【0039】
本実施形態の負極活物質を得るためには、上記の各工程を適切に調整することが重要である。ただし、本実施形態の負極活物質の製法は、上記のような方法に限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態の負極活物質を得ることができる。
【0040】
(バインダー)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極に含まれるバインダーは、負極活物質同士および負極活物質と集電体とを結着させる役割をもつ。
【0041】
本実施形態のバインダーは電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有していればとくに限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、ポリイミドなどが挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記バインダーの中でも、ポリフッ化ビニリデンまたはスチレンブタジエンゴムが好ましい。
【0042】
バインダーの使用方法はとくに限定されないが、溶剤に溶解して用いてもよいし、水系媒体に分散させて用いてもよい。環境に優しい点から、水系媒体に上記バインダーを分散させて用いる、いわゆる水系バインダーが好ましい。
【0043】
バインダーを溶解する上記溶剤としては、バインダーを溶解できるものであればとくに限定されないが、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシドなどが挙げられる。これらの溶剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でもN−メチルピロリドンが好ましい。
【0044】
バインダーを分散させる水系媒体については、バインダーを分散できるものであればとくに限定されないが、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを使用できる。これらの中でも、蒸留水やイオン交換水が好ましい。また、水には、アルコールなどの水と親水性の高い溶媒を混合させてもよい。
【0045】
(増粘剤)
バインダーとして水系バインダーを使用する場合、塗布に適した流動性を確保する点から、増粘剤を併用することが好ましい。そのため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、さらに増粘剤を含んでいてもよい。本実施形態の増粘剤としては、後述するリチウムイオン二次電池用スラリーの塗工性を向上させるものであればとくに限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーなどが挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でもカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0046】
(導電助剤)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、さらに導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては電子伝導性を有しており、電極の導電性を向上させるものであればとくに限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック、カーボンブラック、気相法炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。
【0047】
(負極)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、負極の全体(後述する集電体を除く)を100質量部としたとき、負極活物質の含有量は好ましくは93質量部以上98.9質量部以下であり、とくに好ましくは95.1質量部以上97.9質量部以下である。バインダーの含有量は好ましくは0.5質量部以上3.0質量部以下であり、とくに好ましくは1.0質量部以上2.5質量部以下である。
また、増粘剤を含む場合、増粘剤の含有量は好ましくは0.5質量部以上2.0質量部以下であり、とくに好ましくは0.8質量部以上1.7質量部以下である。また、導電助剤を含む場合、導電助剤の含有量は好ましくは0.1質量部以上2.0質量部以下であり、とくに好ましくは0.3質量部以上1.2質量部以下である。
負極の配合が上記範囲内であると、電極の歩留まりと、得られるリチウムイオン二次電池の電池特性のバランスがとくに優れる。
【0048】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(後述する集電体を除く)の厚みはとくに限定されないが、通常は5μm以上300μm以下である。負極の厚みが上記範囲内であると、電極の生産性や電池特性のバランスが優れる。
【0049】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(後述する集電体を除いた部分)の密度(以下、電極密度と呼ぶ。)はとくに限定されないが、通常は0.5g/cm
3以上1.8g/cm
3以下の範囲である。
【0050】
<リチウムイオン二次電池用負極の製造方法>
つづいて、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極100の製造方法について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン二次電池用負極100の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極100はとくに限定されないが、例えば、以下の(1)および(2)の2つの工程を経て得ることができる。
(1)上記活物質と、上記バインダーと、必要に応じて上記増粘剤と、上記導電助剤とを混合することによりリチウムイオン二次電池用負極スラリーを調製する。
(2)リチウムイオン二次電池用負極スラリーを集電体101上に塗布して乾燥する。
以下、各工程について説明する。
【0051】
(リチウムイオン二次電池用負極スラリーを調製する工程)
はじめに、本実施形態の負極スラリーを調製する工程について説明する。本実施形態の負極スラリーは、上記バインダーと、必要に応じて上記増粘剤と、上記導電助剤とを混合機により混合して、溶剤または水系媒体に分散または溶解させることにより得られる。
なお、上記溶剤または水系媒体としては、とくに限定されないが、上述したバインダーに用いる溶剤または水系媒体と同様のものを用いることができる。
このとき、用いられる混合機としては、ボールミルやプラネタリーミキサーなど公知のものが使用でき、とくに限定されない。
【0052】
(負極スラリーを集電体上に塗布して乾燥する工程)
つづいて、得られた負極スラリーを集電体101上に塗布して乾燥することにより、負極活物質層103を形成する。
負極スラリーの塗布方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法などが挙げられる。これらの中でも、負極スラリーの粘性などの物性および乾燥性に合わせて、良好な塗布層の表面状態を得ることが可能となる点で、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法が好ましい。
【0053】
負極スラリーは、集電体101の片面のみ塗布しても両面に塗布してもよい。集電体101の両面に塗布する場合は、片面ずつ逐次でも、両面同時に塗布してもよい。また、集電体101の表面に連続で、あるいは、間欠で塗布してもよい。塗布層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさに応じて、適宜決定することができる。
【0054】
塗布した負極スラリーの乾燥方法は、一般的な方法を用いることができる。とくに、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。乾燥温度は50℃以上350℃以下の範囲が好ましく、50℃以上200℃以下の範囲がとくに好ましい。
【0055】
(集電体)
本実施形態の負極の製造に用いられる集電体101としてはとくに限定されないが、価格や入手容易性、電気化学的安定性などの観点から、銅が好ましい。また、集電体101の形状についてもとくに限定されないが、厚さが0.001mm以上0.5mm以下の範囲で箔状のものを用いることができる。
【0056】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極100は、必要に応じてプレスして電極密度を上げてもよい。プレスの方法としては、公知の方法を用いることができるが、とくに金型プレス法やカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、とくに限定されないが、0.2t/cm
2以上3t/cm
2以下の範囲が好ましい。
【0057】
本実施形態に係る負極活物質層103の厚みや密度は、電池の使用用途などに応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0058】
<リチウムイオン二次電池>
つづいて、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池150について説明する。
図2は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン二次電池150の構造の一例を示す断面図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池150は、上述したリチウムイオン二次電池用負極100と、電解質層110と、正極130とを少なくとも備えている。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池150は公知の方法に準じて作製することができる。例えば、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極100、正極130、電解液、セパレーターなどを用いて、公知の方法にしたがって製造される。電極は、積層体や捲回体が使用できる。外装体としては、金属外装体やアルミラミネート外装体が適宜使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型などいずれの形状であってもよい。
【0059】
(正極)
本実施形態のリチウムイオン二次電池に使用する正極活物質は用途に応じて適宜選択されるが、リチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が容易におこなえるように電子伝導度が高い材料が好ましい。例えば、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物などのリチウムと遷移金属との複合酸化物;TiS
2、FeS、MoS
2などの遷移金属硫化物;MnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2などの遷移金属酸化物、オリビン型リチウムリン酸化物などが挙げられる。
オリビン型リチウムリン酸化物は、例えば、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも1種の元素と、リチウムと、リンと、酸素とを含んでいる。これらの化合物はその特性を向上させるために一部の元素を部分的に他の元素に置換したものであってもよい。
【0060】
これらの中でも、オリビン型リチウム鉄リン酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物が好ましい。これらの正極活物質は作用電位が高いことに加えて容量も大きく、大きなエネルギー密度を有する。
【0061】
正極用集電体としては、例えばアルミニウム箔を用いることができる。
また、正極用集電体は、スラリーからの腐食を防止するために導電性薄膜によりコーティングしてもよい。導電性薄膜としては耐腐食性があり、電気化学的に安定なものであればとくに限定されないが、例えば、上述した導電助剤にポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを混合したものが挙げられる。
【0062】
また、本実施形態における正極130は、公知の製造方法により製造することができる。
【0063】
電解質層110は、例えば、電解液とセパレーターを含む。
【0064】
電池の電解液中の電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、LiClO
4、LiBF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、CF
3SO
3Li、CH
3 SO
3Li、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0065】
電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであればとくに限定されるものではなく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホランなどのスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
セパレーターとしては多孔性基材が好ましい。セパレーターの形態は、膜、フィルム、不織布などが挙げられる。
セパレーターとしては、多孔性セパレーター、片面または両面上にゲルポリマーがコーティングされた多孔性セパレーターなどがある。多孔性セパレーターとしては、例えば、ポリプロピレン系、ポリエチレン系などのポリオレフィン系多孔性セパレーター;ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などのセパレーターが挙げられる。
ゲルポリマーとしては電解液含浸時にゲル化可能であればとくに限定されない。例えば、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。また、ゲルポリマーのセパレーターへの形成方法は公知の方法を使用できる。例えば、ゲルポリマーを溶媒に溶解させた後にこれをセパレーター上にコーティングする。
【0067】
本実施形態のリチウムイオン二次電池150を製造する方法は、とくに限定されず、公知の方法の中から適宜選択することができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池150のセル形状は、とくに限定されず、いかなる形状であってもよい。例えば、ボタン型、円筒型、角型などのセル形状が挙げられる。
【0068】
また、複数対の正負電極とセパレーターが積層された内部構成とすることが好ましく、この場合、公知のスタック積層型、捲回型、折り返し積層型などの方式を採用することができる。
【0069】
本実施形態のリチウムイオン二次電池150の外装材としては、例えば、金属缶、アルミラミネート樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0070】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例では、部はとくに特定しない限り質量部を表す。
【0072】
(実施例1)
(負極活物質の作製)
負極活物質は以下のように作製した。以下、平均粒子径d
50はMicrotrac社製、MT3000装置により測定し、比表面積は、Quantachrome Corporation社製、Quanta Sorbを用いて、窒素吸着法にて求めた。
【0073】
平均粒子径d
50が20μm、比表面積が7.0m
2/gの天然黒鉛を核材として使用した。
この天然黒鉛粉末99.0質量部と、平均粒子径d
50が35μm 、軟化温度80℃の石炭系ピッチ粉末1.0質量部とを、Vブレンダーを用いた単純混合により固相で混合した。
得られた混合粉末を黒鉛るつぼに入れ、窒素気流下1300 ℃ で1時間熱処理して、負極活物質を得た。
【0074】
(負極活物質の物性)
得られた負極活物質の比表面積は4.8m
2/gであった。また、負極活物質のDBP吸収量を、JIS K−6217−4に示されている方法により求めた結果、DBP吸収量は、37cm
3/100gであった。
さらに、パーキンエルマ社製TGA7アナライザを用いて、以下の方法により、炭素材料の被覆量を見積もった。まず、負極活物質50mgを用いて純酸素50ml雰囲気下、昇温速度5℃/minにて900℃まで昇温したところ、430℃近傍で質量減少が始まり、550℃近傍までで0.8質量%分が減少したところで減少割合が緩やかになり、その後質量減少が加速した。この結果から、得られた負極活物質中の炭素材料の被覆量は0.8質量%と見積もった。
また、得られた負極活物質について、透過電子顕微鏡(TEM)画像を撮り、ノギスを用いて被覆層の平均厚みを測定したところ、被覆層の平均厚みは5nmであった。また、黒鉛のエッジ部分に集中的に被覆層が存在していた。
【0075】
(負極の作製)
負極は以下のように作製した。負極活物質としては、上記負極活物質を使用した。
はじめに、カルボキシメチルセルロース(以下、CMC)を1.0質量%含む水溶液を、上記負極活物質中に投入・攪拌した。次いで、均一なスラリーとなった段階で、バインダーとしてスチレン・ブタジエン共重合体を40質量%含むエマルジョン水溶液を投入し、さらに攪拌した。その後、厚さ10μmの銅箔の両面に、単位面積当たりの容量が等しくなるように均一に塗布して、乾燥させ、CMCを1質量%、スチレン・ブタジエン共重合体を1.5質量%含む負極を作製した。この負極をロールプレスで1.6g/cm
3に圧縮成型した。
【0076】
(負極評価用のリチウムイオン二次電池の作製)
正極活物質としてLi(Li
0.1Mn
1.9)O
4、とLiNi
0.85Co
0.15O
2を質量比で85:15に混合したものを用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いた。
正極活物質95質量部とポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合して、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることによりスラリーを調製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、厚さが95μmになるように均一に塗布して、乾燥させた。その後、ロールプレスで圧縮成型した。
【0077】
セパレーターとしては、厚さ25μmの微多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。また電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比で30:70で混合し、リチウム塩としてLiPF
6を1.0mol/Lとなるように溶解した電解液に、ビニレンカーボネート(以下、VC)を1質量%添加したものを使用した。
【0078】
上記のように作製した正極と負極を各々5cm(幅)×6cm(長さ)に切り出した。このうち、一辺5cm×1cmはタブを接続するための未塗布部であり、活物質層は5cm×5cmである。幅5mm、長さ3cm、厚み0.1mmのアルミ製の正極タブを正極未塗布部に長さ1cmで超音波溶接した。同様に、正極タブと同サイズのニッケル製の負極タブを負極未塗布部に超音波溶接した。6cm×6cmのポリエチレンおよびポリプロピレンからなるセパレーターの両面に上記負極と正極を活物質層がセパレーターを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。2枚の7cm×10cmのアルミラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により幅5mmにて接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体の一方の短辺より1cmの距離となるように上記電極積層体を挿入した。上記電解液を0.203g注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により幅5mmで封止することで、ラミネート型電池を作製した。この際、電極の電解液含浸性が不十分であると、熱融着部分に電解液が残存してしまうことで封止が不十分になり、絶縁不良となることがあるが、本実施例では含浸性は十分であり、融着部分を十分に封止することができた。作製した電池の容量は70mAhであった。
【0079】
(実施例2〜10、比較例1〜5)
石炭系ピッチ粉末の割合および熱処理温度を表1に記載のものに変えた以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質、電極および電池を作製した。得られた各負極活物質の物性は表1に示す。
【0080】
(剥離強度試験)
電池作製に使用した電極を用いて、以下の手順により剥離強度を測定した。ロールプレスに圧縮成型する前の電極を幅12mm、長さ5cmにわたって切り取り、電極の集電体側にセロハンテープを貼り付けた。次いで、電極を固定し、JISK6854−2に準じ、テープを50mm /minの速度で180°方向に剥離した。そのときの強度(N/m)を10回測定し、その平均値を剥離強度とした。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
【0081】
(電池特性評価)
次に、作製した各電池を用いて充放電試験をおこなった。25℃雰囲気において、上限電圧4.2V、充電電流70mA、合計充電時間150分の条件で定電流・定電圧充電をおこなった。その後、下限電圧3.0V、放電電流70mAの条件で定電流放電(1C放電)をおこなった。次いで、10分間の休止時間を設けた後、下限電圧3.0V、放電電流14mAの条件で再び定電流放電(0.2C放電)をおこなった。充電容量に対する1C放電時の放電容量および0.2C放電容量の合計容量(充放電効率)を計算した。また、1C放電時の放電容量および0.2C放電容量の合計容量に対する1C放電時の放電容量の割合(1C/0.2Cレート)を計算した。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
【0082】
【表1】
【0083】
この出願は、2012年6月4日に出願された日本特許出願特願2012−127013を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
<付記>
(付記1)
負極活物質と、バインダーと、を含み、
前記負極活物質が、以下の要件(A)、(B)、および(C)を満たす、リチウムイオン二次電池用負極。
(A)黒鉛粉末を核材とし、前記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部が、前記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料により被覆されている
(B)窒素吸着BET法による比表面積が0.8m2/g以上5.3m2/g以下である
(C)JIS K6217−4に準拠して測定したジブチルフタレート吸収量が32cm3/100g以上45cm3/100g以下である
(付記2)
付記1に記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記負極活物質を100質量%としたとき、熱重量分析により算出される前記炭素材料の被覆量が、0.7質量%以上8.0質量%以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記3)
付記1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記負極活物質のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における平均粒子径d50が9μm以上30μm以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記4)
付記1乃至3いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記黒鉛粉末を被覆している前記炭素材料からなる被覆層の平均厚みが、0.5nm以上15nm以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記5)
付記1乃至4いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記黒鉛粉末のエッジ部が、前記炭素材料により被覆されている、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記6)
付記1乃至5いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記負極活物質が、前記黒鉛粉末に有機化合物を付着させた後、前記有機化合物を焼成して炭化することにより得られるものである、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記7)
付記1乃至6いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記黒鉛粉末が、天然黒鉛を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記8)
付記1乃至7いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記炭素材料が、アモルファスカーボンを含む、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記9)
付記1乃至8いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極において、
前記バインダーが、水系バインダーである、リチウムイオン二次電池用負極。
(付記10)
負極活物質と、バインダーと、を含み、
前記負極活物質が、以下の要件(A)、(B)、および(C)を満たす、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(A)黒鉛粉末を核材とし、前記黒鉛粉末の表面の少なくとも一部が、前記黒鉛粉末よりも結晶性の低い炭素材料により被覆されている
(B)窒素吸着BET法による比表面積が0.8m2/g以上5.3m2/g以下である
(C)JIS K6217−4に準拠して測定したジブチルフタレート吸収量が32cm3/100g以上45cm3/100g以下である
(付記11)
付記10に記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記負極活物質を100質量%としたとき、熱重量分析により算出される前記炭素材料の被覆量が、0.7質量%以上8.0質量%以下である、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記12)
付記10または11に記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記負極活物質のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における平均粒子径d50が9μm以上30μm以下である、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記13)
付記10乃至12いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記黒鉛粉末を被覆している前記炭素材料からなる被覆層の平均厚みが、0.5nm以上15nm以下である、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記14)
付記10乃至13いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記黒鉛粉末のエッジ部が、前記炭素材料により被覆されている、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記15)
付記10乃至14いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記負極活物質が前記黒鉛粉末に有機化合物を付着させた後、前記有機化合物を焼成して炭化することにより得られるものである、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記16)
付記10乃至15いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記黒鉛粉末が、天然黒鉛を含む、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記17)
付記10乃至16いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記炭素材料が、アモルファスカーボンを含む、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記18)
付記10乃至17いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極スラリーにおいて、
前記バインダーが、水系バインダーである、リチウムイオン二次電池用負極スラリー。
(付記19)
付記1乃至9いずれか一つに記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質層と、正極とを少なくとも備えた、リチウムイオン二次電池。