特許第6188170号(P6188170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188170グロープラグの故障診断方法及びグロープラグ故障診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188170
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】グロープラグの故障診断方法及びグロープラグ故障診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 19/02 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F02P19/02 321Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-553439(P2015-553439)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(86)【国際出願番号】JP2014080608
(87)【国際公開番号】WO2015093219
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-263249(P2013-263249)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 友洋
(72)【発明者】
【氏名】須田 敬久
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−233661(JP,A)
【文献】 特開2009−099638(JP,A)
【文献】 特開2011−125130(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/000621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロープラグが、バッテリとグランドとの間に、通電制御用半導体素子及びシャント抵抗器と共に直列接続されて設けられる一方、前記グロープラグの通電制御を可能とするために前記通電制御用半導体素子の動作制御可能に構成されてなる演算制御部と、前記シャント抵抗器の電圧を前記演算制御部へ供給可能に構成されてなる計測回路とが、前記シャント抵抗器と共に同一の筐体内に設けられ、前記シャント抵抗器の両端の電圧が、前記演算制御部による前記グロープラグの電圧、電流の認識に供されるよう構成されてなるグロープラグ故障診断装置におけるグロープラグの故障診断方法であって、
前記計測回路を介して得られた前記シャント抵抗器の電圧を、前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正電圧とすると共に、前記シャント抵抗器の所定の標準値を前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正抵抗値とし、
前記シャント補正電圧を前記シャント補正抵抗値で除し、その除算結果を前記グロープラグの電流であるグロー電流とし、
前記グロー電流が所定の閾値を越える場合に、前記グロープラグの故障と判断し、
前記計測回路は、前記筐体内の温度を検出する温度検出素子と、前記シャント抵抗器の両端の電圧を増幅、出力する演算増幅器と、前記演算増幅器の出力電圧をディジタル値として前記演算制御部へ入力するアナログ・ディジタル変換器と、を有してなり、
前記シャント補正電圧は、前記演算増幅器及びアナログ・ディジタル変換器を介して得られる前記シャント抵抗器の両端子間の電圧に増幅・変換補正係数を乗じて算出され、前記増幅・変換補正係数は、前記筐体内温度を入力として増幅・変換補正係数算出式により算出され、前記増幅・変換補正係数算出式は、前記筐体内温度の変化による前記演算増幅器の特性変動をも含んだ前記アナログ・ディジタル変換器の出力値を、前記筐体内温度の変動が生じても、前記シャント抵抗器の両端子間の正しい電圧値が得られるよう補正するための補正係数を算出可能に予め設定されたものであり、
前記シャント補正抵抗値は、前記筐体内の温度と標準温度との温度差と前記シャント抵抗器の温度係数との乗算値を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に乗じ、その乗算結果を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に、前記温度係数の正負に応じて加減算して求められたものであることを特徴とするグロープラグの故障診断方法。
【請求項2】
グロープラグが、バッテリとグランドとの間に、通電制御用半導体素子及びシャント抵抗器と共に直列接続されて設けられる一方、前記グロープラグの通電制御を可能とするために前記通電制御用半導体素子の動作制御可能に構成されてなる演算制御部と、前記シャント抵抗器の電圧を前記演算制御部へ供給可能に構成されてなる計測回路とが、前記シャント抵抗器と共に同一の筐体内に設けられ、前記シャント抵抗器の両端の電圧が、前記演算制御部による前記グロープラグの電圧、電流の認識に供されるよう構成されてなるグロープラグ故障診断装置であって、
前記演算制御部は、
前記計測回路を介して得られた前記シャント抵抗器の電圧を、前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正電圧として算出すると共に、前記シャント抵抗器の所定の標準値を前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正抵抗値として算出し、
前記シャント補正電圧を前記シャント補正抵抗値で除し、その除算結果を前記グロープラグの電流であるグロー電流とし、
前記グロー電流が所定の閾値を越える場合に、前記グロープラグの故障と判断するよう構成されてなり、
前記計測回路は、前記筐体内の温度を検出する温度検出素子と、前記シャント抵抗器の両端の電圧を増幅、出力する演算増幅器と、前記演算増幅器の出力電圧をディジタル値として前記演算制御部へ入力するアナログ・ディジタル変換器と、を有してなり、
前記シャント補正電圧は、前記演算増幅器及びアナログ・ディジタル変換器を介して得られる前記シャント抵抗器の両端子間の電圧に増幅・変換補正係数を乗じて算出され、前記増幅・変換補正係数は、前記筐体内の温度を入力として増幅・変換補正係数算出式により算出され、前記増幅・変換補正係数算出式は、前記筐体内の温度の変化による前記演算増幅器の特性変動をも含んだ前記アナログ・ディジタル変換器の出力値を、前記筐体内の温度の変動が生じても、前記シャント抵抗器の両端子間の正しい電圧値が得られるよう補正するための補正係数を算出可能に予め設定されたものであり、
前記シャント補正抵抗値は、前記筐体内の温度と標準温度との温度差と前記シャント抵抗器の温度係数との乗算値を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に乗じ、その乗算結果を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に、前記温度係数の正負に応じて加減算して求められたものであることを特徴とするグロープラグ故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において用いられるグロープラグの故障診断方法及びグロープラグ故障診断装置に係り、特に、故障診断の信頼性、精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関に用いられるグロープラグの動作状態、特に、その温度はディーゼルエンジン等の始動性などに大きな影響を与えることがあるため、高い精度での温度制御が求められると共に、信頼性の高いグロープラグの故障診断が求められ、これに応えるべく、種々の制御方法、装置が提案、実用化されていることは良く知られている通りである(例えば、特許文献1等参照)。
かかるグロープラグ診断の基本的な手法としては、例えば、グロープラグの電流を検出し、その値が所定の閾値を超えている場合に故障と判断する手法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−180812号公報(第7−13頁、図1図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来のグロープラグの故障診断は、次述するように必ずしも満足する信頼性が得難いという問題がある。
すなわち、上述の従来のグロープラグの故障判断は、グロープラグの電流が、グロープラグの故障と判断できる閾値を超えているか否かによって行われるものであるが、故障判断の基準となる閾値は、グロープラグ制御装置が用いられる温度範囲、例えば、−40℃〜105℃を考慮して、試験結果やシミュレーション結果を基に好適な一つの値を設定して用いるものとなっている。
【0005】
ところが、上述のようにして定められた好適な閾値であっても、実際には、個々のグロープラグの温度特性や制御回路の温度特性ばらつきに十分対応できるものではなく、なかには故障判断の閾値が適切ではなく、誤診断となる場合も皆無ではない。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、グロープラグの温度特性や制御回路の温度特性のばらつきに影響されることなく、信頼性の高いグロープラグの故障診断を可能とするグロープラグの故障診断方法及びグロープラグ故障診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るグロープラグの故障診断方法は、
グロープラグが、バッテリとグランドとの間に、通電制御用半導体素子及びシャント抵抗器と共に直列接続されて設けられる一方、前記グロープラグの通電制御を可能とするために前記通電制御用半導体素子の動作制御可能に構成されてなる演算制御部と、前記シャント抵抗器の電圧を前記演算制御部へ供給可能に構成されてなる計測回路とが、前記シャント抵抗器と共に同一の筐体内に設けられ、前記シャント抵抗器の両端の電圧が、前記演算制御部による前記グロープラグの電圧、電流の認識に供されるよう構成されてなるグロープラグ故障診断装置におけるグロープラグの故障診断方法であって、
前記計測回路を介して得られた前記シャント抵抗器の電圧を、前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正電圧とすると共に、前記シャント抵抗器の所定の標準値を前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正抵抗値とし、
前記シャント補正電圧を前記シャント補正抵抗値で除し、その除算結果を前記グロープラグの電流であるグロー電流とし、
前記グロー電流が所定の閾値を越える場合に、前記グロープラグの故障と判断し、
前記計測回路は、前記筐体内の温度を検出する温度検出素子と、前記シャント抵抗器の両端の電圧を増幅、出力する演算増幅器と、前記演算増幅器の出力電圧をディジタル値として前記演算制御部へ入力するアナログ・ディジタル変換器と、を有してなり、
前記シャント補正電圧は、前記演算増幅器及びアナログ・ディジタル変換器を介して得られる前記シャント抵抗器の両端子間の電圧に増幅・変換補正係数を乗じて算出され、前記増幅・変換補正係数は、前記筐体内温度を入力として増幅・変換補正係数算出式により算出され、前記増幅・変換補正係数算出式は、前記筐体内温度の変化による前記演算増幅器の特性変動をも含んだ前記アナログ・ディジタル変換器の出力値を、前記筐体内温度の変動が生じても、前記シャント抵抗器の両端子間の正しい電圧値が得られるよう補正するための補正係数を算出可能に予め設定されたものであり、
前記シャント補正抵抗値は、前記筐体内の温度と標準温度との温度差と前記シャント抵抗器の温度係数との乗算値を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に乗じ、その乗算結果を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に、前記温度係数の正負に応じて加減算して求められたものとして構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るグロープラグ故障診断装置は、
グロープラグが、バッテリとグランドとの間に、通電制御用半導体素子及びシャント抵抗器と共に直列接続されて設けられる一方、前記グロープラグの通電制御を可能とするために前記通電制御用半導体素子の動作制御可能に構成されてなる演算制御部と、前記シャント抵抗器の電圧を前記演算制御部へ供給可能に構成されてなる計測回路とが、前記シャント抵抗器と共に同一の筐体内に設けられ、前記シャント抵抗器の両端の電圧が、前記演算制御部による前記グロープラグの電圧、電流の認識に供されるよう構成されてなるグロープラグ故障診断装置であって、
前記演算制御部は、
前記計測回路を介して得られた前記シャント抵抗器の電圧を、前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正電圧として算出すると共に、前記シャント抵抗器の所定の標準値を前記筐体内の温度に基づいて補正してシャント補正抵抗値として算出し、
前記シャント補正電圧を前記シャント補正抵抗値で除し、その除算結果を前記グロープラグの電流であるグロー電流とし、
前記グロー電流が所定の閾値を越える場合に、前記グロープラグの故障と判断するよう構成されてなり、
前記計測回路は、前記筐体内の温度を検出する温度検出素子と、前記シャント抵抗器の両端の電圧を増幅、出力する演算増幅器と、前記演算増幅器の出力電圧をディジタル値として前記演算制御部へ入力するアナログ・ディジタル変換器と、を有してなり、
前記シャント補正電圧は、前記演算増幅器及びアナログ・ディジタル変換器を介して得られる前記シャント抵抗器の両端子間の電圧に増幅・変換補正係数を乗じて算出され、前記増幅・変換補正係数は、前記筐体内の温度を入力として増幅・変換補正係数算出式により算出され、前記増幅・変換補正係数算出式は、前記筐体内の温度の変化による前記演算増幅器の特性変動をも含んだ前記アナログ・ディジタル変換器の出力値を、前記筐体内の温度の変動が生じても、前記シャント抵抗器の両端子間の正しい電圧値が得られるよう補正するための補正係数を算出可能に予め設定されたものであり、
前記シャント補正抵抗値は、前記筐体内の温度と標準温度との温度差と前記シャント抵抗器の温度係数との乗算値を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に乗じ、その乗算結果を、前記シャント抵抗器の前記標準温度における抵抗値に、前記温度係数の正負に応じて加減算して求められるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グロープラグの駆動回路等が設けられた筐体内の温度に対応して補正されたグロー電流が得られるようにしたので、グロープラグの温度特性や制御回路の温度特性のばらつきに影響されることなく、信頼性の高いグロープラグの故障診断が可能となり、信頼性の高い装置を提供することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態におけるグロープラグ故障診断装置の構成例を示す構成図である。
図2図1に示されたグロープラグ故障診断装置において実行されるグロープラグ故障診断処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるグロープラグ故障診断装置は、グロープラグ駆動制御装置によって実現されるものとなっており、図1には、かかるグロープラグ駆動制御装置の構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ、本発明の実施の形態におけるグロープラグ故障診断装置を実現するグロープラグ駆動制御装置(以下「GCU」と称する)100について説明する。
本発明の実施の形態におけるGCU100は、通電駆動回路51と、計測回路52と、演算制御部(図1においては「CPU」と表記)53とに大別されて構成されたものとなっている。なお、これら通電駆動回路51、計測回路52、及び、演算制御部53は、適宜な筐体(図示せず)内に収納されるものとなっている。
【0011】
通電駆動回路51は、通電制御用半導体素子2と、シャント抵抗器3とを主たる構成要素として、グロープラグ1の通電制御が可能に構成されたものとなっている。
すなわち、まず、通電制御用半導体素子2は、例えば、MOS FETなどが用いられ、そのドレインは、車両用バッテリ4の正極に、ソースは、シャント抵抗器3を介してグロープラグ1の正極側に接続され、グロープラグ1の負極側は、アースに接続されたものとなっている。また、通電制御用半導体素子2のゲートには、演算制御部53からの制御信号が印加されるようになっており、通電制御用半導体素子2の導通、非導通が制御可能となっている。
【0012】
一方、計測回路52は、演算増幅器5と、アナログ・ディジタル変換器(図1においては「A/D」と表記)6と、温度検出素子7とを主たる構成要素として、シャント抵抗器3における電圧降下がディジタル信号として演算制御部53に供給可能に構成されたものとなっている。
すなわち、まず、演算増幅器5には、シャント抵抗器3の両端の電圧が入力されるようになっており、その入力電圧は、次段のアナログ・ディジタル変換器6の入力に適した電圧に増幅され、出力されるようになっている。そして、演算増幅器5の出力電圧は、アナログ・ディジタル変換器6によりディジタル値として演算制御部53に入力されるようになっている。
【0013】
温度検出素子7は、GCU100内(換言すれば、筐体内)の温度、換言すれば、シャント抵抗器3、演算増幅器5、アナログ・ディジタル変換器6等のGCU100内の電子部品が晒されている雰囲気温度(周囲温度)を検出するため、GCU100内の適宜な位置に設けられているものである。かかる温度検出素子7としては、具体的には、例えば、NTC(negative temperature coefficient)などが好適である。
この温度検出素子7の出力信号は、演算制御部53に入力され、演算制御部53においてディジタル信号に変換されて、演算制御部53において実行される後述のグロープラグの故障診断処理に供されるようになっている。
【0014】
演算制御部53は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、先の通電制御用半導体素子2へ対する制御信号を出力するためのインターフェイス回路(図示せず)などを主たる構成要素として構成されたものとなっているものである。
【0015】
ここで、本発明の実施の形態におけるグロープラグ1は、いわゆる閉ループ制御により駆動制御されるものとなっている。
具体的には、まず、演算制御部53において、計測回路52により入力されたシャント抵抗器3の電圧降下の大きさと、予め把握されているシャント抵抗器3の抵抗値とからシャント抵抗器3を流れる電流が、グロープラグ1を流れる電流として演算算出される。そして、グロープラグ1の実際の印加電圧を、上述の算出された電流値で除することでグロープラグ1の実際の抵抗値が求められる。
【0016】
ここで、グロープラグ1の印加電圧は、車両用バッテリ4の電圧値から、通電制御用半導体素子2における電圧降下、シャント抵抗器3の電圧降下を減算したものとして求められる。通電制御用半導体素子2の電圧降下は、予め把握されて定数として設定されたものが用いられるようになっている。
【0017】
演算制御部53には、グロープラグ1の抵抗値とグロープラグ1の温度(グロープラグ温度)との相関関係が、例えば、抵抗・温度相関マップとして記憶されており、上述のようにして求められたグロープラグ1の抵抗値に対するグロープラグ温度がその抵抗・温度相関マップから求められる。
一方、演算制御部53は、エンジン制御用の電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)200からグロープラグ1の設定温度及びベースとなるグロープラグ1の印加電圧が指示されるようになっている。この設定温度は、エンジン制御用の電子制御ユニット200において、エンジンの動作状況に応じて決定されるものである。また、ベースとなるグロープラグ印加電圧は、エンジン制御用の電子制御ユニット200において、各グロープラグ設定温度及びエンジンの動作状況に応じて、予め把握されているグロープラグ1の電気的特性に基づいて設定された演算式やマップ等を用いて定められるようになっているものである。
【0018】
演算制御部53においては、エンジン制御用の電子制御ユニット200から入力されたグロープラグ設定温度と、上述のようにして求められたグロープラグ温度との相関関係から、エンジン制御用の電子制御ユニット200から入力されたべースとなるグロープラグ印加電圧に対する補正電圧が求められるようになっている。そして、ベースとなるグロープラグ印加電圧が補正電圧分だけ補正され、グロープラグ1の最終的な印加電圧とされる。
【0019】
一方、演算制御部53による通電制御用半導体素子2の駆動制御は、PWM制御により行われるようになっており、演算制御部53においては、グロープラグ1の印加電圧が、上述のようにして補正された所要の電圧となるように、通電制御用半導体素子2に印加されるPWM信号のデューティが演算処理により算出され、通電制御用半導体素子2へ印加されることで、その導通、非導通が制御されるようになっている。
【0020】
次に、上述の演算制御部53によって実行されるグロープラグの故障診断処理の手順について、図2に示されたサブルーチンフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、図2に示されたサブルーチンフローチャートは、演算制御部53において従来同様実行されるグロープラグ1の通電駆動制御などと共に演算制御部53において実行される種々のサブルーチン処理の一つとなっているものである。
【0021】
しかして、演算制御部53による処理が開始されると、最初に、シャント抵抗器3の両端子間の電圧(シャント電圧)の読み込みが行われる(図2のステップS102参照)。
すなわち、シャント抵抗器3の電圧が、演算増幅器5及びアナログ・ディジタル変換器6を介してディジタル値として演算制御部53に取り込まれ、適宜な記憶領域に記憶、保持されることとなる。
【0022】
次いで、GCU100内の温度(筐体内温度)の読み込みが行われる(図2のステップS104参照)。すなわち、温度検出素子7の出力信号が、演算制御部53に取り込まれ、筐体内温度として適宜な記憶領域に記憶、保持されることとなる。
【0023】
次いで、抵抗補正係数Krと増幅・変換補正係数Kdの算出が行われる(図2のステップS106参照)。
ここで、抵抗補正係数Krは、筐体内温度変化を考慮したシャント抵抗器3の実抵抗値を後述するように演算算出する際に用いられる補正係数であり、増幅・変換補正係数Kdは、筐体内温度変化を考慮したアナログ・ディジタル変換器6の正しい出力値を後述するように演算算出する際に用いられる補正係数である。特に、増幅・変換補正係数Kdは、筐体内温度変化による演算増幅器5の出力信号の変動をも包含したものである。
【0024】
本発明の実施の形態においては、グロープラグ1の実抵抗値を算出するために用いられるシャント抵抗器3の抵抗値や、演算増幅器5、アナログ・ディジタル変換器6の出力値が、その周囲の温度によって変化することに鑑みて、シャント抵抗器3の標準抵抗値、アナログ・ディジタル変換器6の出力値の標準値を、筐体内温度に対応して温度補正し、筐体内温度が考慮された、換言すれば、筐体内温度に対応したシャント抵抗器3の抵抗値及びアナログ・ディジタル変換器6の出力値を得、これをグロープラグ1の実抵抗値の算出に用いることで、従来に比して正確なグロープラグ1の実抵抗値の算出を可能としている。
【0025】
筐体内温度を考慮したシャント抵抗器3の抵抗値(シャント補正抵抗値)Rsは、温度変化に対する抵抗素子の一般的な特性に準じて、下記する式1により求めることができる。
【0026】
Rs=Rc(1±TCR×ΔT)・・・式1
【0027】
ここで、Rcは、シャント抵抗器3の標準温度(例えば、24℃)における抵抗値(標準抵抗値)である。また、TCRは、抵抗補正係数Krである。さらに、ΔTは、上述の標準温度とステップS104で得られた筐体内温度との差である。またさらに、上記式1における符号±は、シャント抵抗器3の温度係数が負の温度係数か、正の温度係数かによって択一的に選択されるものである。
【0028】
抵抗補正係数Krは、筐体内温度により変化するものであり、本発明の実施の形態においては、抵抗補正係数マップ、又は、抵抗補正係数算出式によって先のステップS104で取得された筐体内温度に対する抵抗補正係数Krが求められるようになっている。
すなわち、抵抗補正係数マップは、予め試験やシミュレーション結果に基づいて、種々の筐体内温度に対する抵抗補正係数Krが、筐体内温度を入力パラメータとして読み出し可能に構成されたものであり、演算制御部53の適宜な記憶領域に予め記憶されたものとなっている。また、抵抗補正係数算出式は、抵抗補正係数マップ同様に、予め試験やシミュレーション結果に基づいて、筐体内温度を引数として、抵抗補正係数Krが算出できるよう設定された式である。
【0029】
一方、筐体内温度を考慮したアナログ・ディジタル変換器6の出力信号は、演算増幅器5の筐体内温度変化に伴う増幅率や入出力オフセットの変化をも包含して、下記する式2により求めることができる。
なお、本発明の実施の形態においては、演算増幅器5とアナログ・ディジタル変換器6の双方を併せた増幅率は1に設定されている。したがって、下記の式2で得られる電圧値は、演算増幅器5とアナログ・ディジタル変換器6を介したシャント抵抗器3の両端の電圧となる。
【0030】
VT=f(Tu)×Vs・・・式2
【0031】
ここで、VTは、筐体内温度を考慮したアナログ・ディジタル変換器6のディジタル出力値に相当するアナログ電圧値(シャント補正電圧)である。また、Vsは、ステップS102で読み込まれたシャント抵抗器3の両端の電圧である。
また、f(Tu)は、先の増幅・変換補正係数Kdを算出する増幅・変換補正係数算出式であり、Kd=f(Tu)と表されるものである。このf(Tu)は、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて設定されたもので、Tuは、先のステップS104で得られた筐体内温度である。
すなわち、f(Tu)は、筐体内温度の変化による演算増幅器5の特性変動をも含んだアナログ・ディジタル変換器6のディジタル出力値の変動が生じても、シャント抵抗器3の両端の電圧について、本来の正しい値が得られるよう筐体内温度を入力パラメータとして増幅・変換補正係数Kdが定められるよう試験結果やシミュレーション結果に基づいて設定されたものである。
【0032】
上述のようにして抵抗補正係数Kr、及び、増幅・変換補正係数Kdが求められた後は、これら抵抗補正係数Kr、及び、増幅・変換補正係数Kdを用いてシャント補正抵抗値、及び、シャント補正電圧の算出が行われる(図2のステップS108参照)。
すなわち、まず、シャント補正抵抗値Rsは、先の式1により求められる。
次いで、シャント補正電圧VTは、先の式2によって求められる。
【0033】
次に、グロープラグ1に流れる電流が算出される(図2のステップS110参照)。
すなわち、グロープラグ1を流れる電流(グロー電流)Igは、シャント抵抗器3を流れる電流でもあるので、下記する式3により求められる。
【0034】
Ig=VT/Rs・・・式3
【0035】
ここで、VTは、ステップS108で得られたシャント補正電圧、Rsは、ステップS108で得られたシャント補正抵抗値である。
次いで、ステップS112において、上述のグロー電流Igを基にグロープラグの故障判定が行われることとなる。
すなわち、グロー電流Igが所定の閾値Kを超えているか否かが判定され、所定の閾値を超えていないと判定された場合(NOの場合)には、正常であるとされ(図2のステップS114参照)、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻り、グロープラグ1の通電制御が継続されることとなる。
【0036】
一方、ステップS112においてグロー電流Igが所定の閾値Kを超えていると判定された場合(YESの場合)には、グロープラグ1は故障と判定され(図2のステップS116参照)、図示されないメインルーチンへ戻り、従来同様、警報表示等の警報処理や、必要に応じてグロープラグ1への通電制御の停止等の処理が実行されることとなる。
【0037】
なお、ステップS112における閾値Kは、従来同様、グロープラグ駆動制御装置100が用いられる温度範囲、例えば、−40℃〜105℃を考慮して、試験結果やシミュレーション結果を基に、最も好適な値として設定されたものである。
本発明の実施の形態においては、先に述べたようにグロー電流Igは、グロープラグ駆動制御装置100の筐体温度に対応して補正されたシャント抵抗器3の両端の電圧VT及び抵抗値Rsに基づいて求められたものであるため、従来と異なり、閾値K自体が、グロー電流Igの適否を判断する基準として適切で無くなるようなことが確実に回避され、ステップS112における判定は、従来と異なり、精度が高く、信頼性の高いものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
信頼性の高いグロープラグの故障診断が所望されるグロープラグを備えたエンジンを用いる車両などに適する。
図1
図2