特許第6188214号(P6188214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188214
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】湿式施工用補修剤及びその補修方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20170821BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/16 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-240667(P2013-240667)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-101489(P2015-101489A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】小野沢 光雄
(72)【発明者】
【氏名】大沢 一輝
(72)【発明者】
【氏名】落合 伸康
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−023192(JP,A)
【文献】 特開平11−236276(JP,A)
【文献】 特開2002−201477(JP,A)
【文献】 特開2003−261388(JP,A)
【文献】 特開昭53−030124(JP,A)
【文献】 特開2007−145890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
C10B 29/06
F27D 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が0.01〜5.0mmのシリカ15〜45質量%と粒子径が0.05〜5.0mmのアルミナ40〜70質量%から成る耐火性骨材と、微粉末状フリット2〜7質量%と顆粒状低融点化合物1〜4質量%から成る融剤と、アルミナセメント3〜13質量%から成る粉末状成分100重量部に対し、
珪酸アルカリ溶液から成る液状成分を10〜25重量部の割合で含有することを特徴とする湿式施工用補修剤。
【請求項2】
上記液状成分として水を0.5〜15重量部の割合で更に含有することを特徴とする請求項1に記載の湿式施工用補修剤。
【請求項3】
上記微粉末状フリットが粒子径0.001〜0.07mmで融点600〜900℃の硼珪酸系ガラスであり、上記顆粒状低融点化合物が粒子径0.1〜1mmの硼酸及び/又は酸化硼素であり、
これらの平均粒子径の比(顆粒状低融点化合物/微粉末状フリット)≧10であることを特徴とする請求項1又は2に記載の湿式施工用補修剤。
【請求項4】
上記珪酸アルカリ溶液が珪酸ソーダ溶液又は珪酸カリウム溶液でありSiO/RO(Rはアルカリ金属)モル比が3〜4で、固形分(SiO+RO(Rはアルカリ金属))濃度が30〜40質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の湿式施工用補修剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の湿式施工用補修剤の粉末状成分と液状成分を混合し、得られた湿式施工用補修剤をこの混合開始から1時間以内に室温〜100℃で対象とする耐火物に施工し、1〜1.5時間で乾燥・硬化させることを特徴とする補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼・コークス炉の炉前プレート、各種工業炉(焼却炉キルン、流動床ボイラのサイクロン及び加熱炉等)のキャスタブル耐火物や耐火煉瓦等の補修において、室温〜低温域での施工に用いられる湿式施工用補修剤及びその補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種工業炉の炉壁等のライニングや補修方法としては、操業を一旦停止して室温〜低温域雰囲気で補修作業を実施する方法(冷間施工)が一般である。また、鉄鋼・コークス炉のように操業を停止せずに補修する方法は熱間施工と称される。
冷間施工の適用は水分を多量に使用する施工(半乾式、湿式)に限られるが、これには吹付け施工や流し込み施工があり、また部分的な少量施工を行う塗布施工も知られている。
一方、熱間施工は、多量の水分が水蒸気爆裂を起こす危険性を有するため、水分を少量しか用いない施工(乾式、半乾式)に限られ、吹付け施工や塗布施工が主流である。
【0003】
吹付け施工には、乾式施工法(ドライ施工法)、半乾式施工法(セミドライ施工法)及び湿式施工法(ウェット施工法)があるが、乾式施工は主として熱間施工でのみ行われている。
かかる乾式吹付け施工法には、施工体の耐用性が劣る上に、リバンドロスや発塵による作業環境の悪化等の問題がある。
【0004】
また、半乾式吹付け法は、予め必要施工水分量の一部を吹付け材料とミキサーで混練したものを吹付けノズルまで空気輸送し、ノズル内で残余の水又は硬化剤を添加して吹き付ける施工法である。
この施工法においては、発塵防止やリバンドロスの減少という点ではある程度の改善はみられるが、基本的には水と材料をノズル部で瞬時的に混合しなければならないため、その混合度合は良好ではなく、水量も変動し易い。その結果、吹き付け材の付着性、施工体の均質性及び充填性が悪く、施工体組織は不均一である。
【0005】
湿式吹付け法は、必要施工水分量の全部を事前に吹付け材料と混練したものを吹付け機やポンプ等で吹付ける施工法である。
この施工法の従来例としては、特許文献1、特許文献2及び特許文献3等に開示されたものがある。これらは何れも混練された材料が常温硬化性でなく、施工体組織の緻密性に劣り、耐用性はかなり悪い。
また、特許文献4に記載の施工法では、混練物表面に珪酸アルカリ溶液を少量添加して保形性と接着性を向上させようとしている。しかし、これら従来例では施工体組織の緻密性と圧縮強度に重点がおかれ、特に接着強度は殆どなく実際には凹凸部に付着しているだけである。
【0006】
一方、流し込み法は、湿式吹付け法と同様に、必要施工水分量の全部を事前に吹付け材料と混練したものを型枠内に流し込む方法である。この方法で用いる補修剤は、アルミナセメント類を主成分にしており、乾燥・硬化に1日以上の時間を要する場合が殆どである。
流し込み法の従来例としては、特許文献5に記載のものがある。この方法では、有機性発泡剤や発泡助剤によりガスを発生させて成形体組織内に通気孔を形成するが、これが脱気孔となり爆裂が起こる危険性を軽減させようとしている。
なお、塗布施工は湿式吹付け材や流し込み材を用いてコテ等で均す補修方法である。
【0007】
上述のように、これら従来の乾式〜湿式吹付け施工法では、発明の主眼が施工体組織の緻密性と圧縮強度に重点がおかれ、特に接着強度は殆どなく実際には凹凸部に付着しているだけである。
また、従来の各種無機質を用いた流し込み材は、強度、耐食性及び耐摩耗性を重要視し、特に圧縮強度、曲げ強度及び熱間強度を重視したものである。その反面、接着強度は弱く、施行体が大きな塊として落下するのを防止するためアンカーボルト等の鉄筋の設置が不可欠である。
【0008】
唯一、接着強度に重点をおいた従来例としては、熱間・乾式施工法であるが、特許文献6に記載のものがある。
この方法は、コークス炉炭化室の炉床に、微粉末状フリットと顆粒状低融点化合物を含有する粉体状補修剤を敷いて補修する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭62−21753号公報
【特許文献2】特公平2−33665号公報
【特許文献3】特公平2−1795号公報
【特許文献4】特開平9−315872号公報
【特許文献5】特公平6−31177号公報
【特許文献6】特開2007−145890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献6のような従来の粉体状補修剤に珪酸アルカリ溶液を加えて湿式施工しようとすると、混合と同時にゲル化・硬化が始まるため、通常の湿式施工を行うことが不可能である。従って、かかる補修剤を用いて湿式施工したい場合は、補修剤を1cm厚みに敷いた後、その補修剤表面に珪酸アルカリ溶液を滴下して浸透・硬化させるしかない。
ところが、この滴下法では、珪酸アルカリ溶液の浸透厚みが限られるため凹凸面や粉体状補修剤厚みのばらつきによって接着強度が大きく左右される欠点があり、厚みのある多量の補修が一度にできないため作業性が極度に悪いという欠点を有し実用的ではない。
【0011】
ところで、コークス炉前プレートは、通常は室温〜60℃の表面温度を有するが、コークスの取り出し時には灼熱コークスの一部がこのプレート上に落下するため急激に高温にさらされ、やがてコークスに水をかけられて急冷却される。
このように、コークス炉前プレートは、この急加熱―急冷却サイクルの過酷条件を繰り返すため損傷が激しいが、上記従来の湿式施工用補修剤は数週間程度ですぐ破損してしまい、室温から高温の広い温度域において要求される高い接着強度や耐久性は実現されていない。
【0012】
また、上記従来の湿式施工用補修剤は、常温硬化性でなく施工体組織の緻密性に劣り、耐用性はかなり悪い。また、施工体組織の緻密性と圧縮強度に重点がおかれており、特に接着強度は殆どなく実際には凹凸部に付着しているだけであり、接着強度を確保するためには金属母材にアンカーボルト等の鉄筋を溶接する必要がある。
【0013】
これに対し、珪酸アルカリ溶液を添加すると硬化が速まるが、多量添加すればあまりにも即座に硬化するため作業性が悪く、接着強度や熱間強度が悪くなる。これは、珪酸アルカリ溶液のゲル化が混合初期から急激に発生し、混合終期にはゲル化が終了し、そのゲル化物を混合粉砕しているためである。また、珪酸アルカリ溶液の多量添加については、特にナトリウム(Na)やカリウム(K)成分が熱間強度及び耐食性等に弊害であると考えられている。
【0014】
このように、現時点においては、かかる珪酸アルカリ溶液の弊害を解消し、室温において短時間で乾燥・硬化し、且つ広い温度域(室温から高温)において高接着強度とともに高圧縮強度を達成し耐用性にも富む補修剤及び補修方法は実現されていない。
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、室温から高温の広い温度域において高い接着強度と圧縮強度を実現し、且つ耐食性及び耐摩耗性も優れた湿式施工用補修剤及びその補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、珪酸アルカリと、所定の融剤成分、アルミナセメント成分及び骨材成分を用いるとともに、これらの粒度や組成を適切に調整することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の湿式施工用補修剤は、粒子径が0.01〜5.0mmのシリカ15〜45質量%と粒子径が0.05〜5.0mmのアルミナ40〜70質量%から成る耐火性骨材と、微粉末状フリット2〜7質量%と顆粒状低融点化合物1〜4質量%から成る融剤と、アルミナセメント3〜13質量%から成る粉末状成分100重量部に対し、
珪酸アルカリ溶液から成る液状成分を10〜25重量部の割合で含有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の湿式施工用補修剤の好適形態は、上記液状成分として水を0.5〜15重量部の割合で更に含有することを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の湿式施工用補修剤の他の好適形態は、上記微粉末状フリットが粒子径0.001〜0.07mmで融点600〜900℃の硼珪酸系ガラスであり、上記顆粒状低融点化合物が粒子径0.1〜1mmの硼酸及び/又は酸化硼素であり、
これらの平均粒子径の比(顆粒状低融点化合物/微粉末状フリット)≧10であることを特徴とする。
【0020】
更にまた、本発明の湿式施工用補修剤の更に他の好適形態は、上記珪酸アルカリ溶液が珪酸ソーダ溶液又は珪酸カリウム溶液でありSiO/RO(Rはアルカリ金属)モル比が3〜4で、固形分(SiO+RO(Rはアルカリ金属))濃度が30〜40質量%であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の補修方法は、上述のような湿式施工用補修剤の粉末状成分と液状成分を混合し、得られた湿式施工用補修剤をこの混合開始から1時間以内に室温〜100℃で対象とする耐火物に施工し、1〜1.5時間で乾燥・硬化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、珪酸アルカリと、所定の融剤成分、アルミナセメント成分及び骨材成分を用いるとともに、これらの粒度や組成を適切に調整することとしたため、室温から高温の広い温度域において高い接着強度と圧縮強度を実現し、且つ耐食性及び耐摩耗性も優れた湿式施工用補修剤及びその補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】補修剤の調製及び施工法の一例を示す側面及び斜視説明図である。
図2】補修剤の接着・圧縮強度の試験法を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の湿式施工用補修剤について説明する。
本発明の湿式施工用補修剤は、珪酸アルカリ溶液を多量添加しても即座に硬化することはなく、典型的には、混合・施工後、短時間(約1〜1.5時間)で硬化するものであり、融剤及び珪酸アルカリの接着成分、アルミナセメント成分並びに耐火性骨材成分の粒子径や配合を適切に調整したものであり、珪酸アルカリ溶液添加の弊害を解消し得るもので、しかも室温〜高温の広い温度域において、高接着、高強度で耐用性に富む補修を実現する(施工体を形成する)。
【0025】
本発明の湿式施工用補修剤において、珪酸アルカリは、低温では単独で存在するが高温(約600℃以上)では反応性が高く、すぐに周辺の成分(補修しようとする耐火物である母材(被補修物)と施工体内のシリカ、アルミナを主成分とする骨材成分及び他のバインダー成分)と化学反応を起こす。
この反応生成物は、温度と時間・日数の経過とともに高融点物質へと変化するため、高接着、高強度で耐用性に富む施工体を形成するようになる。
【0026】
上述のように、本発明の補修剤は、粉末状成分100重量部に対し珪酸アルカリ溶液から成る液状成分を10〜25重量部の割合で含有するものである。
そして、上記の粉末状成分は、粒子径が0.01〜5.0mmのシリカ15〜45質量%と粒子径が0.05〜5.0mmのアルミナ40〜70質量%から成る耐火性骨材と、微粉末状フリット2〜7質量%と顆粒状低融点化合物1〜4質量%から成る融剤と、アルミナセメント3〜13質量%から成り、また、必要に応じて水0.5〜15重量部を液状成分として追加することができる。
なお、本願において、「粒子径」の数値範囲は、対象とする粒子が、上限値に対応する目開きを有する篩を通過し且つ下限値に対応する目開きを有する篩を通過しないことを意味する。
【0027】
ここで、粉末状成分におけるシリカ(SiO)は構成成分となる粉末であって、SiOの粒度径は0.01〜5.0mmの範囲であり、好ましくは0.05〜3.0mmの範囲であり、特に限定するものではないが、好適な具体例としては珪石粉、3〜7号硅砂及びシャモット粉を挙げることができる。
【0028】
また、アルミナ(Al)はSiOとともに構成成分となる粉末であって、Alの粒子径は0.05〜5.0mmの範囲であり、好ましくは0.15〜3.5mmの範囲であり、特に限定するものではないが、好適なのは焼成ボーキサイト、電融アルミナ及び焼結アルミナである。
【0029】
シリカ及びアルミナの粒子径につき、それぞれ0.01〜5.0mmの範囲及び0.05〜5.0mmの範囲としたが、この範囲の下限よりも粒径が小さ過ぎると、比表面積の増大により充填密度が小さくなり(気孔率が高くポーラスになり)、さらに接着剤成分が希釈(減少)されるため、補修剤層全体の強度が低くなり易い。
即ち、補修剤の比表面積が増大すると、接着剤(バインダー)成分、特に微粉末のフリットが補修剤中で希釈され易くなり、期待する補修剤層全体の強度が得られない。なお、接着剤成分を多量にして強度を改善させようとしても、焼成後に収縮や亀裂が発生し易くなるため好ましくない。また、上記範囲の上限よりも粒径が大き過ぎると、比表面積の減少により充填密度が大きくなるが、施工体表面が凹凸になり易くなるため好ましくない。
【0030】
次に、微粉末状フリットは、粉末状接着成分として機能する融剤であって、一般に良く知られている硼珪酸系ガラス(SiO、B、Al、CaO、NaO、KO等)や、さらにZrOが添加されたジルコン系ガラス、硼珪酸系ガラスにMgO、SrO、BaO等も配合したガラスが使用でき、粒子径が0.001〜0.07mm、融点が600〜900℃の硼珪酸系ガラスを好適に使用することができる。
【0031】
また、顆粒状低融点化合物も、粉末状接着成分として機能する融剤であって、硼酸及び/又は酸化硼素が好ましいが、特に限定するものではなく、硼酸及び/又は酸化硼素を多量に含有する類似の融点を有する化合物を使用してもよく、粒子径が0.1〜1mmの硼酸及び/又は酸化硼素を好適に使用することができる。
【0032】
更に、アルミナセメントとしては、一般品であり特に限定するものではないが、JISの1号が適している。代表的な化学組成は、SiOが0〜10質量%、CaOが20〜40質量%、Alが40〜80質量%、Feが0〜20質量%である。
【0033】
一方、液状成分における珪酸アルカリ溶液は、液体状の接着成分として機能するが、具体的には珪酸ソーダ溶液又は珪酸カリウム溶液を好適に使用できる。
また、SiO/RO(Rはアルカリ金属)モル比が3〜4で、固形分(SiO+RO(Rはアルカリ金属))濃度が30〜40質量%であるものを好ましく使用することができる。特に汎用品の珪酸ソーダ溶液である3〜5号水ガラスが好ましい。
【0034】
本発明の湿式施工用補修剤においては、上述のように粉末状接着成分を構成するフリット及び低融点化合物の粒子径と平均粒子径について、それぞれ0.005〜0.05mm(平均粒子径0.02〜0.04mm)、及び0.2〜0.8mm(平均粒子径0.4〜0.6mm)とすることが好ましい。
また、それらの平均粒子径の比を、(顆粒状低融点化合物/微粉末状フリット)≧10とすることが好ましい。
【0035】
このように、2種の粉末状接着剤成分の平均粒子径に10倍以上の較差をつけることにより2種成分を補修剤中で別々に配置でき、これによって、接着性を支配する因子である融点及び高温粘性(高温溶融時の粘性・粘着性・流動性・浸透性)等の物性を2種が別々に発揮することができ、両者物性の利点を幅広い温度域で引き出すことが可能になる。
換言すると、2種の接着剤成分の粒子径が類似する場合、補修剤中では2種成分の中間の物性を発揮するあたかも1種の成分として作用してしまい、狭い温度域でしか適用できない。これに対し、2種の接着剤成分の粒子径が明らかに異なる場合は2種の物性ピークを双子山にすることができる。
そして、低融点化合物は低温〜中温域の接着剤として、フリットは中温〜高温域での接着剤として作用する。低融点化合物としては、フリットに比べ明らかに融点が低く、高温粘性が低く、浸透性が高い化合物が好適に選択され、その点で硼酸及び/又は酸化硼素を始め、これらを主成分とする化合物を好ましく使用できる。
【0036】
本発明の湿式施工用補修剤において、液体状接着成分を構成する珪酸アルカリ溶液は、粉末状接着成分2種、特に低融点化合物と接触することで徐々にゲル化・硬化反応を起こすようになる。
珪酸アルカリ溶液は硬化速度を速める作用を発揮し、室温域から高温域に亘って接着強度や圧縮強度の向上に大きく影響を与える。一般に、硬化速度は上記のSiO/ROモル比が低い方が遅く、SiO/ROモル比が大きい方が速い。
【0037】
本発明においては、上記モル比が3〜4のものを好適に使用する。また、ゲル化・硬化反応は粉末状接着成分2種、特に低融点化合物の配合量にも関係し、その量が多い程、硬化速度が速い。
本発明の補修剤の硬化速度は、代表的には、セメントミキサー等の室温混合時の品質保持時間として最大約1時間、補修施工後の放置(乾燥・硬化)時間としては約1〜1.5時間(施工量、施工厚み、雰囲気温度条件による幅)を目標としている。
【0038】
珪酸アルカリ溶液のゲル化・硬化反応は、例えば珪酸ソーダNaO・nSiO(n=3)で表わされる化合物の場合には、次の式に示すように珪酸ソーダの一部が加水分解して苛性ソーダと珪酸ゾルとに分解する。
NaO・3SiO+HO⇔NaOH+NaHSiO+2SiO
NaO・3SiO+3HO⇔NaOH+NaHSiO+2HSiO
更に一部が加水分解を起こして
NaHSiO+HO⇔NaOH+HSiO
となり、第1段階でSiO、NaHSiO及びHSiOがコロイド粒子(ゾル)を形成し、第2段階ではこれら粒子が互いに集合して連続的な構造を作り、水を通して広がりゲル化に至る。
【0039】
さらに、液体状接着成分を構成する珪酸アルカリ溶液は、低温域から高温域に亘って接着強度、圧縮強度の向上に大きく影響を与える。珪酸アルカリ溶液は液体状であるため、混合時は補修剤全体に均一に分布し、吹付け・塗布・流し込み施工時は母材や周辺耐火物に一部浸透してからゲル化・乾燥・硬化して室温〜低温域の接着強度と圧縮強度に寄与する。その時、粉体状接着成分2種の殆どは施工体内に存在するが、極少量は母材や周辺耐火物にも浸透する。
乾燥・硬化後、昇温させた場合、珪酸アルカリ溶液は室温〜中温域ではゲル化による硬化反応を起こすが、中温〜高温域においては母材や周辺耐火物や施工体中に存在する近傍のSiO、Al、CaO及びMgO等を始め、殆ど全ての成分と化学反応を起こして高融点化合物へと変化し、接着強度と圧縮強度に寄与する。
【0040】
粉体状接着成分2種は、上述のように、それぞれ低温〜中温域、中温〜高温域で作用して接着強度と圧縮強度に寄与する。
即ち、上記3種の接着成分の主たる役割は、液体状接着成分(珪酸アルカリ溶液)が室温〜高温域に、低融点化合物が低温〜中温域に、フリットが中温〜高温域における接着強度と圧縮強度に寄与するというものである。
【0041】
アルミナセメントは強度強化剤であり、室温においては乾燥・硬化反応に、昇温後は全ての温度域において、主として圧縮強度に寄与するものである。
また、シリカとアルミナは補修剤の主成分となる骨材粉末で、粒度と配合量により施工体の接着強度や圧縮強度を始め、亀裂防止、低収縮及び耐摩耗性等の物性に影響を与える。
【0042】
本発明においては、粉末状成分の主成分である耐火性骨材として上記所定の粒径及び配合量のシリカ粒子及びアルミナ粒子を用いることにより、フリット、低融点化合物、アルミナセメント及び珪酸アルカリ溶液等の成分の物性(融点、高温粘性、強度強化性、浸透性、ゲル化・乾燥・硬化性)を有効かつ最大限に引き出すことが可能にできる。
【0043】
また、このように耐火性骨材を選定することにより、珪酸アルカリ溶液の短所(熱間強度、耐食性)を短時間に無害化することができる。
即ち、一般に珪酸アルカリ溶液のアルカリ成分は、熱間強度や耐食性に悪影響を与えると言われているが、中温〜高温域においては母材や周辺耐火物や施工体中に存在する近傍のSiO、Al、CaO及びMgO等を始め、殆ど全ての成分と化学反応して徐々に高融点化し、また一部のアルカリ成分は蒸発して、施工体組織は時間の経過に従い高融点化合物へと変化する。
珪酸アルカリ溶液の短所(熱間強度、耐食性)の無害化に要する時間は、温度条件にも依存するが、高温域では数十時間である。
【0044】
次に、本発明の補修方法について説明する。
本発明の補修方法は、以上に説明した湿式施工用補修剤を用いる方法であって、当該補修剤の粉末状成分と液状成分を混合し、得られた湿式施工用補修剤をこの混合開始から1時間以内に室温〜100℃で対象とする耐火物に施工し、約1〜1.5時間で乾燥・硬化させる方法である。
【0045】
ここで、補修剤の粉末状成分と液状成分との混合は、典型的には、補修の施工開始直前に行えばよい。また、補修対象である耐火物としては、特に限定されるものではないが、キャスタブル耐火物や耐火煉瓦、特にこれらの表面を挙げることができる。
【0046】
なお、本発明の補修方法は、湿式施工法に属し、流し込み法やコテ塗布法等の適用が可能であるが、好ましくは、垂直面施工は流し込み法、水平面施工はコテ塗布法、また傾斜面の場合は傾斜角度や現場状況により、どちらかの方法を選択した方が良い。
本発明の補修方法は、湿式吹付け法にも適用可能であるが、吹付け機やポンプ等で吹付けると、所定部位以外への飛散やリバウンドを多少起こすことがある。本発明の補修剤は、短時間で乾燥・硬化するタイプであり、且つ高接着強度タイプのため、飛散やリバウンドを起こし易い湿式吹付け法はできれば避けた方が好ましい。
【0047】
上述のように、本発明の湿式施工用補修剤は、セメントミキサー等での混合開始から約1時間は施工可能である。
また、粉末状成分と液状成分との混合物に対しては、所望の流動性に応じて、粉末状補修剤100重量部に対して1〜5重量部の水をさらに追加して使用することもできる。
混合1時間以上はゲル化が急速に進行して乾燥・硬化が速まるため、1時間以内に施工する必要がある。流し込みや塗布で施工した後、補修剤量や施工厚み、混合時間、施工雰囲気温度等の条件で多少異なるが、代表的には約1〜1.5時間で乾燥・硬化し、補修が完了する。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1〜7、比較例1〜6)
図1に示すように、テニスボールのスチール缶φ75mmを正方形枠(59×59×高さh20mm、接着部面積S=34.8cm)に切断加工し、シャモットレンガ2(66×73×厚さ20mm)上に乗せた。
次に、表1に示す各例の粉末状成分100gに対し、液状成分(水ガラス及び/又は水)を20〜27g添加し薬サジで混合撹拌した(補修剤の調製)。数分毎に軽撹拌しながら10分後に補修剤3をスチール枠1に充填した。充填後、室温にて約1時間自然乾燥してから40℃で18時間乾燥し、次いで、電気炉に入れ、室温から昇温して所定焼成温度で3時間保持した。しかる後、電気炉内で1晩放冷し、各例の補修物を得た。得られた補修物を下記の物性評価に供し、得られた結果を表1及び表2に示す。
【0050】
なお、表1に示したのは、焼成温度900℃の場合の外観観察、収縮率、接着強度、圧縮強度及び耐摩耗性等の物性評価を実施した結果である。
一方、表2に示したのは、低温域(40℃、1日)から300℃〜1100℃(3hr保持)までの広い温度域における接着強度と圧縮強度を調査した結果である。なお、高温焼成後の補修剤のサイズ:約59×59×13mmである。
【0051】
比較例1は、粉末状成分として特開2007−145890号公報に記載のものを用い、液状成分として水ガラスを用いて混合した例であり、混合直後にすぐ硬化してしまったため中止した。
そのため、比較例2は、比較例1と同じ粉末状成分と液状成分を用い、粉末状成分(半分量:50g、約1cm厚み)の表面に液体部(半分量)を滴下(混合せずにシャワーリング)、同様な操作を繰り返して2cm厚に施工した例である。一度に2cm厚で滴下すると液体部が浸透しきれないため、各半分量で2回実施した。
また、比較例6はアルミナセメントを多量含有する配合例である。
【0052】
<性能評価>
[外観観察]
焼成後の補修剤の外観、特に補修剤表面の状態(亀裂や膨れや凹凸の有無)を目視観察して相対評価した。
判定の基準は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや悪い、×:明らかに悪い、とした。
【0053】
[収縮率]
900℃焼成前後の補修剤の寸法、すなわち補修剤立方体の中央水平方向2点(長さL)、同地点の縦方向4点(高さh)をノギスにて測定し、L、h方向の平均収縮率を算出した。
判定の基準は、◎:L<0.5%且つh<1%、○:Lhの一方が◎△、△:L=0.5〜1%、且つh=1〜2%、×:L>1%、又はh>2%、とした。
【0054】
[接着強度]
図2に示すように、焼成後のレンガ2・補修剤3を垂直に立て、補修剤接着面に沿って支点が平行になるように万能試験機(最大強度1,000kgf)をセットし(レンガ面から補修剤を剥がすようにセットし)、接着強度[kgf]を測定した。なお、接着面は約59×59mm≒34.8cmである。
【0055】
[圧縮強度]
図2に示すように、接着強度測定後、レンガ2の表面から剥離した補修剤3を垂直に立て、万能試験機(最大強度1,000kgf)により圧縮強度[kgf]を測定した。なお、接着面がきれいに剥がれた場合の圧縮面は約59×13mm≒7.67 cmである。
【0056】
[耐摩耗性]
900℃焼成後の補修剤をレンガから切断し、所定のサイズの切断面積(約31×31mm、S=9.5〜9.8cm2)を作成し、この切断面をサンドペーパー(P−100、230×280mm)の半面上で手圧にて500回往復研磨して評価した。
判定の基準は、◎:摩耗減量<0.5g、○:摩耗減量=0.50〜0.69g、△:摩耗減量=0.70〜0.99g、×:摩耗減量≧1g、とした。
【0057】
[作業性]
補修剤の混合から施工終了までの作業時間と、施工終了から乾燥・硬化時間より相対評価した。
判定の基準は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや悪い、×:明らかに悪い、××:極度に悪い、とした。
【0058】
[総合評価]
各評価を相対評価した。
判定の基準は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや悪い、×:明らかに悪い、とした。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
[試験結果]
表1に示すように、900℃焼成した場合、本発明の実施例1〜7は比較例1〜6に比べ、全ての物性が優れており、特に接着強度が優れていることが判る。
表2に示すように、低温(40℃)から高温(1100℃)までの接着強度と圧縮強度についても、本発明の実施例1〜7は比較例1〜6に比べ、全ての温度域において優れた強度を有していることが判る。
【0062】
<実機試験>
廃油、廃プラ等を燃料とする焼却炉キルン(キルン全長:12.5m、キルン内径:1.8m)で、出口から2m奥付近、出口から4m奥付近、中央部付近において、室温において施工面積約1m(厚み5〜10cm)の補修を実施した。翌日、重油焚きから操業を開始し、通常運転に移行して経過観察した。得られた結果を表3に示す。
【0063】
[評価方法]
通常、このキルンの操業運転は約30〜45日程度で停止して補修を繰り返すハードな操業条件であり、その都度、目視観察して補修剤の評価を実施した。
判定の基準は、◎:非常に良い、○:良い、△:やや悪い、×:明らかに悪い、とした。
【0064】
【表3】
【0065】
[試験結果]
本発明の実施例3、5、7と比較例2、5を用いて実機試験を実施した結果を示す。通常、30〜45日程度で補修を繰り返すハードな操業条件であるが、本発明の補修剤は長期間の補修効果が持続しており、耐久性に優れた補修剤であると言いうる。
【0066】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、本発明の補修剤の構成成分であるシリカ化合物やアルミナ化合物については、シリカ、アルミナを主成分とし、Mg、Ca、Fe等を少量含有する鉱物(例えば、カオリン等のクレー類)を少量(2〜5質量%)配合しても使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の補修剤は、室温から高温までの幅広い温度範囲において、しかも急加熱においても高い接着強度と圧縮強度を有する補修剤である。特に接着性能が格段に優れており、アンカーボルトが無いか又は少ない母材の補修に適している。通常の補修剤によれば大きな塊で剥離し易い部位の補修に適用でき、コークス炉前プレートの補修や、サイクロンの流動砂の衝撃が激しい部位等に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 スチール枠
2 レンガ
3 補修剤
図1
図2