特許第6188248号(P6188248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188248
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】荷役機械用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 9/18 20060101AFI20170821BHJP
   B60T 1/14 20060101ALI20170821BHJP
   B61H 7/12 20060101ALI20170821BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B66C9/18
   B60T1/14
   B61H7/12 B
   F16D63/00 L
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-178245(P2015-178245)
(22)【出願日】2015年9月10日
(65)【公開番号】特開2017-52623(P2017-52623A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】591082591
【氏名又は名称】三陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】柴原 和則
【審査官】 大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−028067(JP,A)
【文献】 特開2009−174662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/00 − 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール(R)の上面(Ra)に圧接分離自在なブレーキシュー(8)と、軸心(L22)を上下方向に有するシリンダバレル(22)と、該シリンダバレル(22)に上下動自在に内嵌されたピストン(23)と、ロッド挿通孔(25d)を有するシリンダヘッド(25)と、該ロッド挿通孔(25d)に挿通されて上記ピストン(23)の押圧力を上記ブレーキシュー(8)に伝達する円柱状のロッド(24)と、を備え、
上記ピストン(23)と上記ロッド(24)の間、及び、上記ロッド(24)と上記ブレーキシュー(8)の間、は水平面内微動可能当接手段(7)を介して当接して、上下方向の力を伝達すると共に、水平方向の力の伝達を軽減するように構成し
上記ブレーキシュー(8)を上方へ常時弾発付勢するためのコイルバネ(59)と、上記ブレーキシュー(8)に下端部が取着すると共に上記コイルバネ(59)の上端が上部に当接して該コイルバネ(59)が巻設状に配設される柱部材(60)と、を備え、
上記コイルバネ(59)及び上記柱部材(60)を、上記ロッド(24)の近傍かつ該ロッド(24)の軸心(L24)廻りに複数本配設し、さらに、上記柱部材(60)の上端が、非制動状態で、上記シリンダヘッド(25)を挿通して上記シリンダバレル(22)の内部にまで達するように設けたことを特徴とする荷役機械用制動装置。
【請求項2】
上記レール(R)の長手方向に沿った制動接線力(Fa)を受ける一対の規制用固定ブロック(32)(32)を、上記ブレーキシュー(8)の前面(8e)・後面(8f)に当接可能に配設した請求項1記載の荷役機械用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役機械用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レールに沿って走行するコンテナクレーンに付設する制動装置は、油圧シリンダのピストンロッドを突出させることで、ブレーキシューをレール上面に押し付けて制動するように構成していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−63384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、クレーン走行中や、レールが上下方向にうねる(不陸)など変形している場合に、ブレーキシューを押し付けると、油圧シリンダのバレル内周面と、ピストンロッドのピストン部と、の間で拗れが生じて、適切な制動力を発揮できないといった問題や、油圧シリンダの伸縮がスムーズにできなくなって、耐久性の低下や故障の原因となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、適切な制動力を常に安定して発揮できると共に故障が少なく耐久性に優れる荷役機械用制動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の荷役機械用制動装置は、レールの上面に圧接分離自在なブレーキシューと、軸心を上下方向に有するシリンダバレルと、該シリンダバレルに上下動自在に内嵌されたピストンと、ロッド挿通孔を有するシリンダヘッドと、該ロッド挿通孔に挿通されて上記ピストンの押圧力を上記ブレーキシューに伝達する円柱状のロッドと、を備え、上記ピストンと上記ロッドの間、及び、上記ロッドと上記ブレーキシューの間、は水平面内微動可能当接手段を介して当接して、上下方向の力を伝達すると共に、水平方向の力の伝達を軽減するように構成し、上記ブレーキシューを上方へ常時弾発付勢するためのコイルバネと、上記ブレーキシューに下端部が取着すると共に上記コイルバネの上端が上部に当接して該コイルバネが巻設状に配設される柱部材と、を備え、上記コイルバネ及び上記柱部材を、上記ロッドの近傍かつ該ロッドの軸心廻りに複数本配設し、さらに、上記柱部材の上端が、非制動状態で、上記シリンダヘッドを挿通して上記シリンダバレルの内部にまで達するように設けたものである。
また、上記レールの長手方向に沿った制動接線力を受ける一対の規制用固定ブロックを、上記ブレーキシューの前面・後面に当接可能に配設したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、荷役機械の走行中やレールが変形している場合に、ブレーキシューをレール上面に押し付けた際にブレーキシューが受ける水平方向の力(反力)や振れ、傾動や芯ズレを、シリンダバレルやピストンに大きく作用させず、拗れを防止して、耐久性を向上させると共に故障を少なくできる。スムーズかつ迅速にブレーキシューをレール上面に押し付けることができると共に適切な制動力を安定して発揮できる。保守点検や部品交換を効率良く容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の荷役機械用制動装置の実施の一形態を示す側面図である。
図2】ブレーキユニットの一例を示し、非制動状態の断面正面図である。
図3】非制動状態の断面側面図である。
図4】要部分解斜視図である。
図5】制動状態の断面正面図である。
図6】制動状態の断面側面図である。
図7】油圧回路の一例を示し、非制動状態の油圧回路図である。
図8】制動状態の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示の実施形態に基づき本発明を詳説する。
本発明に係る荷役機械用制動装置は、図1に示すように、コンテナクレーン等の軌道走行型の荷役機械9の基台部91に付設されるものであって、レールRの上面Raに圧接分離自在なブレーキシュー8を有するブレーキユニットYaと、アキュムレータAを有する油圧ユニットYbと、を備えている。ブレーキユニットYaと油圧ユニットYbは図示省略の油圧配管にて作動油が送流可能に接続されている、
【0010】
図2乃至図4に於て、ブレーキユニットYaは、基台部91の下面91bに固着される取付ベース1と、取付ベース1の下面1bに固着される板状の上ベース21と、軸心L22を上下方向に有する円筒状のシリンダバレル22と、シリンダバレル22に上下動自在に内嵌される短円柱状のピストン23と、ピストン23の押圧力をブレーキシュー8に伝達する円柱状のロッド24と、ロッド挿通孔25dを中心に有する板状のシリンダヘッド25と、ロッド24が上下動自在に内嵌されるロッドガイド孔31dを中心に有する下ベース31と、ブレーキシュー8を上方へ常時弾発付勢するためのコイルバネ59(図4に於ては図示省略)と、を備えている。
【0011】
ブレーキシュー8は、下ベース31の下面側(下方位置)に配設され、レール上面Raに圧接して摩擦力により制動力を発揮する摩擦部材(パッド)81と、摩擦部材81の上面に接着材等の固設手段によって一体状に固着される板状のバッキングプレート82と、摩擦部材81が固着しているバッキングプレート82がボルト等の連結具によって交換自在に取着される側面視コの字状のパッドシュー(シュー本体)83と、備えている。
【0012】
ピストン23とロッド24とブレーキシュー8(パッドシュー83)は、水平面内微動可能当接手段7を介して順次当接して、上下方向の力を伝達するように構成している。
水平面内微動可能当接手段7とは、ボルト部材等の連結具、溶接、圧入や嵌合、圧潰やカシメ、螺着、接着剤、等の固着手段にて固着せずに、当接のみを行って、(積み木のように)上下方向に積み上げて(積層させて)組み立てていることである。
【0013】
即ち、ピストン23の水平面状の下面23bとロッド24の水平面状の上面24aを固着せずに当接のみで上下方向の力を受けるようにして、その相互当接水平面内の前後左右方向の微動(ラジアル方向の滑りや摺動)を可能に構成し、さらに、ロッド24の水平面状の下面24bとブレーキシュー8の水平面状の上面8a(パッドシュー83の上面83a)を固着せずに当接のみで上下方向の力を受けるようにして、その相互当接水平面内の前後左右方向の微動を可能に構成している。
【0014】
しかも、ピストン23とロッド24とブレーキシュー8が上下方向に移動しても、その当接状態が常に保持され、上下に離間しないように、コイルバネ59の弾発付勢力でブレーキシュー8を下方からロッド24に押し付けると共にロッド24を下方からピストン23に押し付けている。また、自重や作動油によって、ピストン23を上方からロッド24に押し付けると共にロッド24を上方からブレーキシュー8に押し付けている。
【0015】
コイルバネ59は、ロッド24の外周面近傍かつロッド24の軸心L24廻りに等間隔に複数本配設している。本数は4本以上8本以下とするのが、組立が容易であると共に十分な弾発付勢力を得ることができて望ましい。
コイルバネ59は、ブレーキシュー8の上面8aに上方突出状に立設されて下ベース31を挿通する柱部材60と、下ベース31と、によって、上下伸縮自在に保持されている。
【0016】
柱部材60は、上部にコイルバネ59の上端が当接するバネ押さえ用の外鍔部60aを有し、ロッド軸心L24廻りに等間隔に複数本(コイルバネ59と同数)配設され、軸(柱)部にコイルバネ59が外嵌状(巻設状)に配設されている。
そして、柱部材60は、パッドシュー83に下端部が螺着(固着)すると共に上端部に抜け止め頭部を有するボルト形状の芯部材61(図4に於ては図示省略)と、芯部材61に外嵌状に配設されると共にコイルバネ59が外嵌状(巻設状)に配設される円筒状のスプリングガイド62と、芯部材61の抜け止め頭部とスプリングガイド62の上端部によって挟圧保持され上記外鍔部60aを形成する円形板状のスプリング押さえ部材63と、を備えている。
【0017】
下ベース31は、ロッドガイド孔31dと、ロッドガイド孔31dの軸心廻りに等間隔に形成され柱部材60が挿通する貫通孔31gと、貫通孔31gと同心状に配設されその貫通孔31gよりも大径のバネ収容孔部31fと、を有し、バネ収容孔部31fの底面(貫通孔31gとの段差面)でコイルバネ59の下端を支持している。
【0018】
そして、非制動状態で、柱部材60を、シリンダヘッド25のロッド挿通孔25dに挿通させ、さらに、柱部材60の上端が、シリンダバレル22の内部にまで達するように設けている。
したがって、レールRの不陸を考慮したブレーキシュー8の上下方向の移動量に対応するために長いコイルバネ59を用いても、ブレーキユニットYaの上下寸法を小さく(コンパクトに)できる。
【0019】
さらに、ブレーキユニットYaは、下ベース31に固着されブレーキシュー8の前面8e・後面8fに、夫々、当接可能に(摺接可能に又は微小寸法をもって離間して)配設した前後一対の規制用固定ブロック32,32と、上ベース21の下面と下ベース31の左右側面に夫々固着される左右一対の左右側壁部材34,34と、左右側壁部材34,34の前後面に夫々固着される前後一対の前後壁部材33,33と、を備えている。
【0020】
前後一対の規制用固定ブロック32,32は、下ベース31の下面31bに形成した前後一対の(左右方向に沿った)凹溝部31e,31eに差し込まれて垂設状にボルト部材等の連結具で固着されている。
そして、一対の規制用固定ブロック32,32は、ブレーキシュー8の鉛直面状の前面8e・後面8f(パッドシュー83の前面83e・後面83f)と当接可能に対面状に配設される鉛直面状の当り面32g,32gを有している。
【0021】
シリンダヘッド25は、複数の長いボルト形状のベース連結部材70,70(図4に於ては図示省略している)によって、上ベース21に吊り下げ状に固着されている。
上ベース21に設けた段付き孔(ザグリ孔)の段差面に、ベース連結部材70の頭部を係止させ、ベース連結部材70の下端部のネジ部を、シリンダヘッド25に設けた雌ネジ孔に螺着している。ベース連結部材70の締め付けにて、上ベース21とシリンダヘッド25とがシリンダバレル22を上下方向に挟圧して保持しつつ、相互に固着されている。
【0022】
上ベース21とシリンダバレル22とピストン23とロッド24とシリンダヘッド25で油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)を形成し、上ベース21は、油圧アクチュエータのバレル底部(バレル上蓋部)と、シリンダヘッド25と下ベース31を吊り持ちするための固定基台部と、を併用している(一体とした)部材である。
また、シリンダヘッド25と下ベース31は、ボルトや溶接等で固着しておらず、上下方向の隙間を形成している(シリンダヘッド25が下ベース31に対して浮いている)。
【0023】
そして、上ベース21とシリンダバレル22とピストン23と密閉用シールに囲まれる空間が、作動油が流入可能な油室となる。(なお、図2図3図5図6に於て、作動油を多数の点々で図示している。)
また、上ベース21は、油室と外部を連通するための作動油送流用の油路21eと、油室内にエアが溜まるのを防止するエア抜き路21fを有している。なお、油路21eと、油圧ユニットYbを接続する配管は図示省略している。
【0024】
また、上記密閉用シールとは、ピストン23の上部の外周凹溝内に装着され、ピストン23とシリンダバレル22の間から作動油が漏れるのを防止するU字乃至V字状シールリング等のピストンシールリング71(図4に於ては図示省略)や、シリンダバレル22の上面に形成された上方開口環状凹溝内に装着され、シリンダバレル22と上ベース21の間から作動油が漏れるのを防止するためのOリング等のバレルシール(図4に於ては図示省略)である。
【0025】
また、ピストン23は、外周面に形成した幅広の外周凹溝に装着される低摩擦性樹脂(例えば、PTFE)から成る断面C字状のピストンウエアリング73(図4に於ては図示省略)を介してシリンダバレル22に上下動自在に内嵌されている。
また、ロッド24は、外周面に形成した外周凹溝に装着される低摩擦性樹脂(例えば、PTFE)から成る断面C字状のロッドウエアリング74(図4に於ては図示省略)を介してロッドガイド孔31dに上下動自在に内嵌されている。
【0026】
左右側壁部材34,34を上ベース21と下ベース31とに固着し、前後壁部材33,33を上ベース21及び下ベース31に直接的に取着せず左右側壁部材34,34に取着することで、制動時に、固定ブロック32,32が受けた力を、下ベース31から左右側壁部材34,34と上ベース21と取付ベース1を介して荷役機械9で受けるように構成している。
そして、制動時に、上ベース21と下ベース31とが相対的に異なる前後方向(レールRの長手方向)に移動しようとするような力が発生した場合に、その力を、主として、左右側壁部材34,34で受けるようになる。したがって、前後壁部材33,33は、左右側壁部材34,34よりも剛性や強度が必要なく、軽量かつ薄いカバー形状にできる。
例えば、左右側壁部材34,34を、左右厚み寸法が、15mm以上40mm以下(例えば、38mm)の金属プレートで形成した場合、前後壁部材33,33は、前後厚み寸法が1.5mm以上4mm以下(例えば、3.2mm)の金属製薄板材(鋼板)で形成でき、軽量化できると共に製造コストを低減できる。
【0027】
次に、図1に於て、油圧ユニットYbは、作動油を蓄えるための貯油タンクTと、電動モータMと、電動モータMにて駆動するポンプPと、作動油を蓄圧可能なアキュムレータAと、を備えている。図示省略するが、油圧ユニットYbには、荷役機械走行用等の電源から電力を受けるための電源コードが接続されている。
【0028】
さらに、油圧ユニットYbは、図7に示すように、励磁状態で、ブレーキユニットYaの油路21e(油室)と貯油タンクTを連通させると共に、図8に示すように、停電等の非励磁状態でブレーキユニットYaの油路21eとアキュムレータAを連通させる電磁切換弁Vと、アキュムレータAからポンプPへ作動油が流れるのを防止する逆止弁Kと、を備えている。アキュムレータAとポンプPは逆止弁Kを介して油圧配管にて接続されている。
【0029】
また、図7の電磁切換弁Vの励磁状態において、アキュムレータA内の油圧(蓄圧)が第1所定圧未満になった場合に電動モータMを駆動させて貯油タンクTからポンプPにてアキュムレータAへ作動油を供給するための第1圧力検知手段E1と、アキュムレータA内の油圧(蓄圧)が第1所定圧よりも高い第2所定圧に達した場合に電動モータMを停止させて貯油タンクTからポンプPによるアキュムレータAへの作動油の供給を停止するための第2圧力検知手段E2と、を備えている。
第1圧力検知手段E1及び第2圧力検知手段E2は、油圧用の圧力スイッチであって、アキュムレータAと電磁切換弁Vとを接続する油圧配管内の圧力を読み取る(検出する)ことで、アキュムレータA内の蓄圧を監視し、設定した圧力値になると、電気回路(電源回路)において通電(ON)又は非通電(OFF)にするものである。
【0030】
次に、本発明の荷役機械用制動装置の作用(使用方法)について説明する。
図2及び図3図7に示すように、荷役機械9の走行状態や走行可能状態において、ブレーキユニットYaは、ブレーキシュー8の下面8b(摩擦部材81の下面81b)が、コイルバネ59の弾発付勢力によってレール上面Raから所定ストローク寸法Sだけ、上方に離間している。
【0031】
また、図7に示すように油圧ユニットYbは、電磁切換弁Vが励磁されており、ブレーキユニットYaの油路21eと貯油タンクTとを作動油が送流可能な連通状態とし、アキュムレータA及びポンプPと、油路21eは非連通状態に保持している。
【0032】
そして、停電が発生すると、図8に示すように、電磁切換弁Vが非励磁状態となって流路が切換わり、アキュムレータAと、ブレーキユニットYaの油路21eと、を連通状態にする。アキュムレータAに蓄圧されていた作動油がブレーキユニットYaの油路21eへ供給される。なお、アキュムレータAから吐出する作動油は、逆止弁KによってポンプPへ流れず、また、停電中であるため、第1圧力検知手段E1が第1所定圧未満になったことを検知しても、電動モータMとポンプPは駆動しない(できない)。
【0033】
図5図6に示すように、油圧ユニットYbの油路21eを介して油室(シリンダバレル22)内に、アキュムレータAからの作動油が流入すると、ピストン23が下方へスライド移動し、ロッド24を介して、ブレーキシュー8をコイルバネ59の弾発付勢力に抗して下方へ押圧する。ブレーキシュー8の下面8bが、レール上面Raに圧接し、制動力を発揮する。
【0034】
また、荷役機械9が走行している場合に、ブレーキシュー8がレール上面Raに圧接すると、ブレーキシュー8にはレールRの長手方向に沿った制動接線力(走行反対方向へ働く制動時の反力)Faを受ける。
例えば、荷役機械9が前方側Xへ走行している場合に、ブレーキシュー8がレール上面Raに圧接すると、ブレーキシュー8には後方側Zへ押されるような制動接線力Faを受けるが、ブレーキシュー8の後面8fが後方側の固定ブロック32(32B)に当接して、ブレーキシュー8が後方側Zへ(走行反対方向へ)大きく移動するのを防止している。
また、荷役機械9が後方側Zへ走行している場合に、ブレーキシュー8がレール上面Raに圧接すると、ブレーキシュー8には前方側Xへ押されるような制動接線力Faを受けるが、ブレーキシュー8の前面8eが前方側の固定ブロック32(32A)に当接して、ブレーキシュー8が前方側Xへ(走行反対方向へ)大きく移動するのを防止している。
また、下ベースの貫通孔31gと柱部材60の間に、十分な間隙を形成し、ブレーキシュー8が受ける制動接線力Faが、柱部材60を介して下ベース31に伝達しないように構成している。
【0035】
さらに、ブレーキシュー8が受ける制動接線力Faや、レールRの変形による水平方向の力(反力)や振れ、傾動や芯ズレ等により、ブレーキシュー8が、前後左右に微動しても、ブレーキシュー8の上面8aと、ロッド24の下面24bとが、水平面内微動可能当接手段7を介して当接している(固着手段にて固着していない)ため、その微動による水平方向の力は、ブレーキシュー8とロッド24の間で滑り(摺動)によって軽減され、水平方向の力は、ロッド24へ僅かに伝達、あるいは、伝達されず、ロッド24とロッドガイド孔31dの間で同心が保持され、拗れが発生しない。
【0036】
さらに、ピストン23とロッド24とは別部品であり、ロッド24とピストン23が水平面内微動可能当接手段7を介して当接している(固着手段にて固着していない)ため、ロッド23が受けた僅かな水平方向の力は、ロッド24とピストン23の間で発生する滑りによって軽減され、ピストン23へ極微小に伝達、又は、伝達されず、ピストン24とシリンダバレル22の間で同心が保持され、拗れが発生しない。
【0037】
即ち、ブレーキシュー8の水平方向の微動が直接的にピストン23に伝達されず、ピストン23が作動油から受ける下方への押圧力が拗れにより損失することがなく、適切にブレーキシュー8へ伝達できる。スムーズな押し付けが実現され、耐久性が向上すると共に故障の発生が低減する。
【0038】
また、油圧によって、ブレーキシュー8をレール上面Raに圧接するので、レールRが上下方向にうねっている状態(不陸状態)である場合に、ブレーキシュー8とレール上面Raとの上下間隙寸法が変化しても、適切な押圧力を常に安定して発揮できる。
つまり、大型バネにて押圧する装置のように、レール不陸により上下間隙寸法が変化して、大型バネの伸長量が変化し、押圧力が変わってしまうという問題が無い。
【0039】
また、停電から電力が復旧して、電磁切換弁Vが励磁状態になると、図7に示すように、ブレーキユニットYaの油路21eとアキュムレータAが非連通(遮断)状態になると共に、ブレーキユニットYaの油路21eと貯油タンクTが連通状態になる。
【0040】
油路21eと貯油タンクTが連通状態になると、作動油に押圧力(油圧)が解除されるため、図2図3に示すように、直ぐに、コイルバネ59の伸長が開始し、上方への弾発付勢力によってブレーキシュー8をレール上面Raから分離すると共に、上方弾発付勢力が、ブレーキシュー8からロッド24、ピストン23へと、順次、伝達され、ピストン23が上昇して、油室内の作動油を、貯油タンクTへ排出させる。つまり、電磁切換弁Vが励磁状態になると即座に制動を解除する。
【0041】
さらに、第1圧力検知手段E1が、アキュムレータAの内圧(油圧)が第1所定圧未満になったと検知することで、電動モータMがポンプPを駆動させ、貯油タンクTからアキュムレータAへ作動油を供給する。第1所定圧以上になっても第2所定圧未満であれば、電動モータMは駆動を継続する。
そして、第2圧力検知手段E2が、アキュムレータAの内圧(油圧)が第2所定圧に達したことを検知することで、電動モータMが停止し、ポンプPによる貯油タンクTからアキュムレータAへの作動油の補充が終了して、制動前と同じ状態に復帰する。
【0042】
このように、停電になると、自動的に電磁切換弁Vが切り替わって、電気が使用できなくても、アキュムレータAからの作動油のみで制動力を発揮するので、地震や火災、台風等の災害や故障等による停電(電源トラブル)が発生した場合に逸走を防止する緊急停止用として、非常に有効である。
【0043】
なお、上述のように、停電時に電磁切換弁Vが切り替わって、緊急停止させる場合に限らず、荷役機械9の通常作業において、一旦停止(停車)させるために、操作者の意思(所定操作)によって、電磁弁切換弁Vを非励磁状態に切り換えるように構成しても良い。
つまり、緊急停止用(逸走防止用)に限らず、電源正常(非停電)状態の停車用(パーキングブレーキ)として使用するも良い。
【0044】
なお、本発明は、設計変更可能であって、ブレーキユニットYa及び油圧ユニットYbの荷役機械9への付設位置は、図例に限らず自由である。第1圧力検知手段E1及び第2圧力検知手段E2を、油圧用圧力センサとし、設定圧力を検知すると、電動モータMを制御するための電気信号を発信するように構成しても良い。
【0045】
以上のように本発明の荷役機械用制動装置は、レールRの上面Raに圧接分離自在なブレーキシュー8と、軸心L22を上下方向に有するシリンダバレル22と、シリンダバレル22に上下動自在に内嵌されたピストン23と、ロッド挿通孔25dを有するシリンダヘッド25と、ロッド挿通孔25dに挿通されてピストン23の押圧力をブレーキシュー8に伝達する円柱状のロッド24と、を備え、ピストン23とロッド24とブレーキシュー8は、水平面内微動可能当接手段7を介して順次当接して、上下方向の力を伝達するように構成したので、荷役機械9の走行中や、レールRが変形している場合に、ブレーキシュー8をレール上面Raに押し付けた際にブレーキシュー8が受ける水平方向の力(反力)や振れ、傾動や芯ズレを、シリンダバレル22やピストン23に大きく作用させず、拗れを防止して、耐久性を向上させると共に故障を少なくできる。スムーズかつ迅速にブレーキシュー8をレール上面Raに押し付けることができると共に適切な制動力を安定して発揮できる。保守点検や、密閉用シールやウエアリング等の部品交換を効率良く容易に行うことができる。
【0046】
また、レールRの長手方向に沿った制動接線力Faを受ける一対の規制用固定ブロック32,32を、ブレーキシュー8の前面8e・後面8fに当接可能に配設したので、ブレーキシュー8がレールRの長手方向(前後方向)に大きく移動することなく、拗れや部材の変形を防止でき、スムーズな上下移動を実現できる。
【0047】
また、ブレーキシュー8を上方へ常時弾発付勢するためのコイルバネ59を、ロッド24の近傍かつロッド24の軸心L24廻りに複数本配設したので、特注品のような大型バネを組み付ける必要がなく、製造を容易かつ迅速に行えると共に製造コストを低減できる。ブレーキユニットYaの上下寸法を小さくできる。ブレーキシュー8を押し上げる力が安定し、ブレーキシュー8を水平面状に保持したまま上昇させることができる。
【符号の説明】
【0048】
7 水平面内微動可能当接手段
8 ブレーキシュー
8e 前面
8f 後面
22 シリンダバレル
23 ピストン
24 ロッド
25 シリンダヘッド
25d ロッド挿通孔
32 固定ブロック
59 コイルバネ
60 柱部材
Fa 制動接線力
L22 軸心
L24 軸心
R レール
Ra レール上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8