(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6188256
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】船舶用舵
(51)【国際特許分類】
B63H 25/38 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
B63H25/38 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-60035(P2016-60035)
(22)【出願日】2016年3月24日
【審査請求日】2016年3月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】牧野 功治
(72)【発明者】
【氏名】増田 聖始
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竹春
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直也
(72)【発明者】
【氏名】高岸 憲璽
【審査官】
岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−132937(JP,A)
【文献】
特開平04−176792(JP,A)
【文献】
米国特許第4653418(US,A)
【文献】
特開平06−305487(JP,A)
【文献】
特開平04−043192(JP,A)
【文献】
特開平04−043193(JP,A)
【文献】
特開平02−293296(JP,A)
【文献】
特開2002−274490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のプロペラ後方に設けられた船舶用舵であって、
前記船舶に固定され下方に延びるラダーホーンと、
前記ラダーホーンの後方に取り付けられ、舵軸を中心に所定の舵角範囲で操舵可能な方向舵と、
前記ラダーホーンに取り付けられ、前記船舶の幅方向両側に間隔を隔てて位置し、鉛直方向に延びる少なくとも1対のフィンと、を備え、
プロペラの軸線上の舵コード長に対して、
フィンコード長は、前記舵コード長の5〜30%の範囲であり、
前記フィンの前記ラダーホーンの外面からの間隔は、前記舵コード長の3〜15%の範囲であり、
1対の前記フィンは、前記ラダーホーンの全高にわたって鉛直方向に延び、
前記フィンは、前記船舶の進行方向成分を有する揚力を発生し、かつ前記舵角範囲で前記方向舵における流れの剥離を抑制する、船舶用舵。
【請求項2】
前記フィンを前記ラダーホーンに取り付けるステーを有する、請求項1に記載の船舶用舵。
【請求項3】
前記フィンの断面形状は、翼形であり、
進行方向に前記揚力を発生するキャンバー又は迎え角を有する、請求項1に記載の船舶用舵。
【請求項4】
前記フィンは、前記舵軸の近傍、又は前記舵軸よりも前方に位置する、請求項1に記載の船舶用舵。
【請求項5】
前記フィンは、前記方向舵の前記舵角範囲の外側に位置する、請求項1に記載の船舶用舵。
【請求項6】
前記フィンの下端は、前記プロペラの前記軸線よりも上方に位置する、請求項1に記載の船舶用舵。
【請求項7】
前記ステーの断面形状は、翼形であり、前記進行方向成分を有する揚力を発生する、請求項2に記載の船舶用舵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のプロペラ直後に設けられた船舶用舵に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の多くが水中に舵(以下、「船舶用舵」)を有し、舵によって水流の流れを変えて進行方向を変更又は調節する。船舶用舵は、大型船では船体後部の船底付近に取り付けられ、船体中心軸に対する角度を左右に変えることができる。プロペラを持つ船舶では舵の多くがプロペラ直後に位置し、前進回転中のプロペラが生み出す強い水流の向きを右、又は左方向へと変えることで船体の向きを変える。
【0003】
上述した船舶用舵の性能を高めるために、種々の提案がすでにされている(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
特許文献1の「フラップ付き舵」では、水面上方に上端部の一部が露出する可動フラップを舵板の後縁に付設する。このフラップを鉛直方向にすきまを介して上下方向に複数に分割して構成する。
【0005】
特許文献2の「船舶用舵装置」では、船体に舵板を回動可能に支持するラダーホーンの両側にフィンを設け、このフィンを前進翼とするとともに、従来に比べ翼厚を厚くする。これにより、プロペラ面での流れを遅くし、プロペラ面流場の改善による伴流率及び推進器効率比の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−48373号公報
【特許文献2】特開2006−123849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
船舶用舵は、舵面積を大きくすれば、舵直圧力が増大して操縦性は良くなるが、推進性能が悪化する。そのため、舵面積を大きくすることなく舵直圧力を増大させることが、従来から望まれている。
【0008】
本発明はかかる要望を満たすために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、舵面積を大きくすることなく舵直圧力を増大させ、かつ船舶の推進性能を改善することができる船舶用舵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、船舶のプロペラ後方に設けられた船舶用舵であって、
前記船舶に固定され下方に延びるラダーホーンと、
前記ラダーホーンの後方に取り付けられ、舵軸を中心に所定の舵角範囲で操舵可能な方向舵と、
前記ラダーホーンに取り付けられ、前記船舶の幅方向両側に間隔を隔てて位置し、鉛直方向に延びる少なくとも1対のフィンと、を備え、
プロペラの軸線上の舵コード長に対して、
フィンコード長は、前記舵コード長の5〜30%の範囲であり、
前記フィンの前記ラダーホーンの外面からの間隔は、前記舵コード長の3〜15%の範囲であり、
1対の前記フィンは、前記ラダーホーンの全高にわたって鉛直方向に延び、
前記フィンは、前記船舶の進行方向成分を有する揚力を発生し、かつ前記舵角範囲で前記方向舵における流れの剥離を抑制する、船舶用舵が提供される。
【0010】
前記フィンを前記ラダーホーンに取り付けるステーを有する。
【0011】
前記フィンの断面形状は、翼形であり、
進行方向に前記揚力を発生するキャンバー又は迎え角を有する。
【0012】
前記フィンは、前記舵軸の近傍、又は前記舵軸よりも前方に位置する。
【0013】
前記フィンは、前記方向舵の前記舵角範囲の外側に位置する。
【0015】
前記フィンの下端は、前記プロペラの前記軸線よりも上方に位置する。
【0016】
前記フィンは、前記ラダーホーンの全高さにわたって設けられている。
【0017】
前記ステーの断面形状は、翼形であり、前記進行方向成分を有する揚力を発生する。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の構成によれば、ラダーホーンにフィンを取付けることで、プロペラ後方の排除厚影響が大きくなり、プロペラ前後の流れ(伴流)がフィンのない時よりも遅くなり、有効伴流が改善され、プロペラ効率が向上する。
【0019】
また、プロペラの回転流中にあるフィンが進行方向成分を有する揚力を発生するので、舵の抗力を低減し、揚抗比を改善することができる。
【0020】
さらに、フィンが舵角範囲で方向舵における流れの剥離を抑制するので、舵を大きく切った時に剥離を抑えることができ、従来の舵より舵直圧力を増加させることができる。
【0021】
従って、本発明により、舵面積を大きくすることなく舵直圧力を増大させ、かつ船舶の推進性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明による船舶用舵の実施例1を示す図である。
【
図4】実施例1の方向舵の舵力計測試験の結果を示す図である。
【
図5】本発明による船舶用舵の実施例2を示す図である。
【
図6】実施例1,2の船舶用舵の推進性能試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明による船舶用舵10の全体構成図である。この図において、(A)は側面図、(B)は(A)のB−B矢視図である。
【0025】
本発明の船舶用舵10は、船舶1のプロペラ2の後方に設けられた舵である。
【0026】
図1において、本発明の船舶用舵10は、ラダーホーン12、方向舵14、及び少なくとも1対のフィン16を備える。
【0027】
ラダーホーン12は、船舶1の後部に固定され下方に延びる。
図1(B)に示すように、ラダーホーン12の水平断面は、上流側が流線形に形成され、流れに対する抵抗を低減するようになっている。また、その下流側は、上流側に凹んだ円弧状の凹面に形成され、その凹面に方向舵14の上流側が位置する。
また、
図1(A)に示すように、ラダーホーン12は、その下端に下流側に突出した水平支持部12aを有する。
【0028】
方向舵14は、ラダーホーン12の後方に取り付けられ、舵軸15を中心に揺動可能に構成されている。舵軸15は、この例では、ラダーホーン12の水平支持部12aに設けられた鉛直軸である。
この例において、ラダーホーン12と方向舵14は、全体として矩形であり、その上部上流側にラダーホーン12が位置し、その後方に舵軸15を介して方向舵14が舵軸15を中心に所定の舵角範囲で操舵可能に構成されている。所定の舵角範囲は、例えば±35°である。
【0029】
方向舵14の水平支持部12aより上方は、その前縁がラダーホーン12の下流側の凹面内に収容された円弧面であり、ラダーホーン12と共に左右対称の対称翼形状となっている。
また、方向舵14の水平支持部12aより下方は、方向舵14のみで、一体かつ左右対称の対称翼形状となっている。
なお、ラダーホーン12又は方向舵14の構成は、上述した例に限定されず、その他の構成であってもよい。
【0030】
少なくとも1対のフィン16は、ラダーホーン12に取り付けられ、船舶1の幅方向両側に間隔を隔てて位置し、鉛直方向に延びる。なお、フィン16は1対に限定されず、それ以上でもよい。また、鉛直方向とは、厳密な意味での鉛直に限定されず、鉛直に対し傾斜してもよい。この傾斜角度は、前後方向又は幅方向に例えば5〜15°傾斜させてもよい。
【0031】
図1において、本発明の船舶用舵10は、さらに、フィン16をラダーホーン12に取り付けるステー18を有する。
ステー18は、フィン16の長さ方向(
図1(A)で上下方向)に間隔を隔てて複数(少なくとも2以上)を設け、フィン16の振動を防止するようになっている。
【0032】
以下、説明の都合上、
図1における、プロペラ2の軸線と舵軸15の交点を原点Oとし、進行方向をX軸、幅方向左向きをY軸、鉛直上向きをZ軸とする。
また、プロペラ2の直径をプロペラ径Dp、プロペラ2の軸線上の方向舵14の進行方向長さを舵コード長CR、フィン16の前縁から後縁までの長さをフィンコード長CFとする。
【0033】
図1において、1対のフィン16は、Z軸に沿って、Z座標がZminからZmaxの範囲に鉛直方向に延びる。
また、各フィン16は、後縁のX座標がXf、Y座標がYfに位置決めされ、フィン16の外向きの回転角度が迎え角αに設定されている。
【0034】
図2は、
図1(B)の部分拡大図である。この図において、(A)は方向舵14が最大の舵角(この例で35°)の場合を示している。また、(B)は
図2(A)のさらに拡大図である。
【0035】
図1及び
図2において、フィン16は、進行方向成分を有する揚力Fを発生し、かつ所定の舵角範囲(例えば±35°の範囲)で方向舵14における流れの剥離を抑制するように設定されている。
【実施例1】
【0037】
図3は、本発明による船舶用舵10の実施例1を示す図である。この図において、(A)は側面図、(B)は(A)のB−B矢視図である。
この例において、1対のフィン16は、Z軸に沿って、ラダーホーン12の全高にわたって鉛直方向に延びる。すなわち、1対のフィン16は、ラダーホーン12の最下端(Zmin≒0.4×Dp)からラダーホーン12の最上端(Zmax≒1.1×Dp)の範囲に鉛直方向に延びる。
【0038】
また、各フィン16は、後縁のX座標Xfが0、Y座標Yfが0.15×CRに位置決めされ、フィン16の外向きの回転角度(迎え角)αが5°に設定されている。
【0039】
この例において、フィン16の断面形状は、翼形である。この翼形は、幅方向外向きにキャンバーを有し、かつ幅方向外向きに膨らんだ形状を有する。
また、この例において、フィン16は、方向舵14の揺動範囲(プロペラ2の軸線から±35°)の外側に位置する。
【0040】
図4は、実施例1の方向舵14の舵力計測試験の結果を示す図である。
この図は、舵角を±30°の範囲で変化させたときの、舵直圧力係数を示している。
なお、「舵直圧力係数」とは、舵角に対する舵直圧力の傾きであり、舵の効きを示している。
この図から、実施例1の方向舵14の舵直圧力係数は、フィン16の無い舵(以下、「フィンなし舵」と呼ぶ)に対して、3%増加しており、舵の効きが向上していることがわかる。
【実施例2】
【0041】
図5は、本発明による船舶用舵10の実施例2を示す図である。この図において、(A)は側面図、(B)は
図5(A)のB−B矢視図である。
この例において、1対のフィン16は、Z軸に沿って、Z座標がZmin=0.3×DpからZmax=0.6×Dpの範囲に鉛直方向に延びる。
また、各フィン16は、後縁のX座標がXf=0.20×CR、Y座標がYf=0.15×CRに位置決めされ、フィン16の外向きの回転角度(迎え角)αは0に設定されている。
【0042】
この例において、フィン16の断面形状は、翼形である。この翼形は、幅方向内向きにキャンバーを有し、かつ幅方向内向きに膨らんだ形状を有する。
【0043】
図6は、実施例1,2の船舶用舵10の推進性能試験の結果を示す図である。
この図は、フィン16の無い舵(「フィンなし舵」)を100とした場合の、実施例1,2の必要馬力を示している。
この図から、フィンなし舵と比較して、馬力低減率が、実施例1で0.7%、実施例2で0.5%であり、必要馬力が低減していることがわかる。
【0044】
上述したように、フィン16の断面形状は、好ましくは翼形であり、進行方向成分を有する揚力Fを発生するキャンバー又は迎え角αを有する。
また、フィン16は、舵軸15の近傍、又は舵軸15よりも前方(上流側)に位置することが好ましい。
また、フィン16は、方向舵14の所定の舵角範囲の外側に位置することが好ましい。
【0045】
なお、船舶用舵10は、船舶1のプロペラ後方に位置するため、船舶用舵10に流入する流れは、複雑な回転流、又はクロス流となっている。
そのため、左右のフィン16は、同一でなく、相違してもよい。すなわち、少なくとも1対のフィン16は、翼形でなくてもよく、キャンバーの方向が相違してもよく、非対称であってもよく、高さ方向に同一形状でなくてもよい。
【0046】
また上述した実施例から、フィンコード長CFは、舵コード長CRの10%で性能向上が確認されている。フィンコード長CFは、舵コード長CRの5〜30%の範囲で、同等以上の効果が予測できる。
また、フィン16の幅方向中心からの距離は、舵コード長CRの15%で性能向上が確認されており、この場合のラダーホーン12の外面からの間隔は、舵コード長CRの約4%である。しかし、フィン16のラダーホーン12の外面からの間隔は、舵コード長CRの3〜15%の範囲でも、同等以上の効果が予測できる。
【0047】
また、フィン16のプロペラ2の軸線からの高さは、プロペラ径Dpの少なくとも30〜60%の範囲を含むのがよい。さらに、フィン16は、ラダーホーン12の全高さにわたって設けられていることが好ましい。なお、方向舵14の舵角範囲の外側に位置する限りで、フィン16をラダーホーン12の下方まで設けてもよい。
また、ステー18の断面形状は好ましくは翼形であり、フィン16と同様に、進行方向成分を有する揚力Fを発生することが好ましい。
【0048】
上述した本発明の構成によれば、ラダーホーン12にフィン16を取付けることで、プロペラ後方の排除厚影響が大きくなり、プロペラ前後の流れ(伴流)がフィン16のない時よりも遅くなり、有効伴流が改善され、プロペラ効率が向上する。
【0049】
また、プロペラ2の回転流中にあるフィン16が進行方向成分を有する揚力Fを発生するので、舵の抗力を低減し、揚抗比を改善することができる。
【0050】
さらに、フィン16が舵角範囲で方向舵14における流れの剥離を抑制するので、舵を大きく切った時に剥離を抑えることができ、従来の舵より舵直圧力を増加させることができる。
【0051】
従って、本発明により、舵面積を大きくすることなく舵直圧力を増大させ、かつ船舶1の推進性能を改善することができる。
【0052】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
CR 舵コード長、CF フィンコード長、Dp プロペラ径、
F 揚力、O 原点、α 迎え角、1 船舶、2 プロペラ、
10 船舶用舵、12 ラダーホーン、12a 水平支持部、
14 方向舵、15 舵軸、16 フィン、18 ステー
【要約】
【課題】舵面積を大きくすることなく舵直圧力を増大させ、かつ船舶の推進性能を改善することができる船舶用舵を提供する。
【解決手段】船舶に固定され下方に延びるラダーホーン12と、ラダーホーン12の後方に取り付けられ、舵軸15を中心に所定の舵角範囲(例えば±35°)で操舵可能な方向舵14と、ラダーホーン12に取り付けられ、船舶の幅方向両側に間隔を隔てて位置し、鉛直方向に延びる少なくとも1対のフィン16とを備える。フィン16は、好ましくは翼形であり、進行方向成分を有する揚力Fを発生し、かつ舵角範囲で方向舵14における流れの剥離を抑制する。
【選択図】
図2