特許第6188259号(P6188259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6188259
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/04 20060101AFI20170821BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20170821BHJP
   B23H 1/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B23H7/04 Z
   B23H7/02 A
   B23H1/02 C
   B23H7/02 R
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-111429(P2016-111429)
(22)【出願日】2016年6月3日
【審査請求日】2016年11月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
(72)【発明者】
【氏名】荒井 祥次
(72)【発明者】
【氏名】戸村 俊輔
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5031073(JP,B2)
【文献】 特開平06−071516(JP,A)
【文献】 特開2011−255504(JP,A)
【文献】 特許第2939310(JP,B2)
【文献】 特開平08−001438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/04
B23H 1/02
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油系放電加工液を加工媒体とするワイヤ放電加工装置において、ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に直列に接続され放電を誘起するための電圧を供給する直流電源と、当該直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子と放電電流を持続させる範囲で十分に大きい抵抗値を有する電流制限抵抗との直列回路と、前記直列回路と前記加工間隙との間に直列に設けられる複数のスイッチング素子のブリッジ回路でなる極性切換回路と、を含んでなる副電源回路と、前記副電源回路に並列に設けられ、前記加工間隙に直列に接続され主たる放電電流を供給するための電圧を供給する直流電源と、当該直流電源と前記加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子と、を含んでなる主電源回路と、セカンドカット以降の加工工程において両極性パルスにおける正極性パルスと逆極性パルスの各供給時間またはパルス数の比率が放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して正極性パルスだけによる加工に比べて加工速度が大きくなる適する比率であって所定期間中前記比率に従うようにしながら加工間隙の平均加工電圧がサーボ基準電圧に適応するように前記平均加工電圧に対応して前記正極性パルスと逆極性パルスとが供給されるように前記副電源回路の前記スイッチング素子と前記極性切換回路の前記スイッチング素子とを操作する制御装置と、を有するワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、基準となる初期設定の前記比率で加工したときの予め設定されている所定のサンプリング期間における放電の発生頻度を測定して放電の発生頻度が増加するように前記比率を決定してから、バリの発生度合と前記比率との関係を示す基礎データに基づいて放電の発生頻度の増加を優先するように予め規定されている前記比率の範囲内で先に決定した前記比率をバリの発生度合を最も小さくすることができる前記比率に変更し、変更した前記比率で前記両極性パルスが供給されるように前記副電源回路の前記スイッチング素子と前記極性切換回路の前記スイッチング素子とを操作することを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記サンプリング期間中、所定の両極性パルスの比率を基準にして所定単位期間毎に両極性パルスの比率を徐変しながら各所定単位期間における放電の発生頻度をそれぞれ計測し、放電の発生頻度が最大になる望ましい両極性パルスの比率に収束させて、両極性パルスの比率を決定することを特徴する請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極性パルスと逆極性パルスを供給するワイヤ放電加工装置に関する。特に、本発明は、油系放電加工液を加工媒体とするワイヤ放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電一発当たりの放電エネルギが大きいほど放電痕が大きくなるので、理論的に、加工結果としての加工速度と加工面粗さは相反する。可能な限り短い加工時間で所望の面粗さを得るために、一般的に、ワイヤカットにおいては、大まかに被加工物を切断する荒加工工程と、荒加工工程で取り残された部位を除去して加工形状を整えるとともに所望の加工面粗さを得るための1回以上の仕上げ加工工程との複数の加工工程に分けて1つの加工を行なうようにされている。
【0003】
放電加工においては、放電ギャップにおいて加工に適する火花放電を発生させるために要求される絶縁度を維持することができる高い比抵抗値を有する加工媒体として、ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に放電加工液を供給している。放電加工液には、油を主成分とする油系放電加工液と、水を主成分とする水系放電加工液がある。以下、油系放電加工液を加工媒体とする放電加工を単に油加工といい、水系放電加工液を加工媒体とする放電加工を水加工という。
【0004】
油系放電加工液は、水系放電加工液に比べてイオン化しにくく、絶縁回復が速いので、加工間隙において絶縁度を維持しやすい。そのため、油加工においては、水加工に比べて放電が安定して均一に繰返し発生するとともに、同一の電気的加工条件において放電ギャップがより小さくなる。その結果、油加工では、水加工に比べてより高い加工形状精度と加工面粗さを得ることができる。また、鉄系の被加工物の場合には、錆の発生を抑制することができる。油加工に適する放電加工回路を備えたワイヤ放電加工装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
しかしながら、油加工では、水加工に比べて平均加工電流が小さくなる傾向にあるので、加工速度が遅くなる。油加工において、加工速度をより大きくするために、放電一発毎の放電エネルギを大きくして取り量を増大させるようにすると、加工面粗さが低下するとともに、放電反発力によるワイヤ電極の振幅がより大きくなって被加工物の側面に意図せずに形成される湾曲した形状、いわゆる太鼓形状における湾曲の大きさが大きくなる。その結果、所望の加工形状精度と加工面粗さを得るまでの加工工程数を多くしなければならなくなり、かえって加工時間が長くなるおそれがある。
【0006】
所定期間における放電の繰返し周波数(以下、放電周波数という)を高くして所定期間における加工量を増大させ、加工効率を向上させることによって放電エネルギを大きくすることなく加工時間を短縮させることが可能である。しかしながら、油加工の場合、放電が発生したときの高熱によって油系放電加工液の含有成分が炭化して分解生成物が生成され、被加工物の加工部位における走行するワイヤ電極の導入側にバリと称される付着物が発生する。所定期間における放電回数が多いほど、バリの発生がひどくなり、加工部位を塀のような形で覆って加工結果を悪化させることがある。
【0007】
水加工においては、加工間隙を消イオンしにくく、加工間隙における比抵抗値が低下すると漏れ電流が流れやすくなり、加工間隙に電圧を印加してから放電が発生するまでの不特定の放電待機時間が極端に短く加工に寄与しない放電の発生頻度が増加する。そのため、期待するほど加工効率が向上しないことがある。また、被加工物が超硬合金である場合は、電解現象によってバインダであるコバルトが溶出して、加工面の表面に変質層が形成され、被加工物の強度が低下することが知られている。
【0008】
例えば、特許文献2は、正極性パルスと逆極性パルス(負極性パルス)を交互に供給するワイヤ放電加工装置を開示している。正極性パルスと逆極性パルスを供給することによって、望ましくない放電の発生頻度を低くして、加工効率の低下を抑えることができる。また、超硬合金の被加工物を加工するときは、加工間隙における見掛け上の電位差を可能な限り小さくして電解現象を防ぐことができる。ただし、水加工における加工形状精度と加工面粗さが油加工に比べて向上するというわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5031073号公報
【特許文献2】特許第2939310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的には、加工速度を重視して水加工が行なわれている。加工形状精度と加工面粗さは、研磨のような"超仕上げ加工"によって向上させることができる。また、水系放電加工液は、油系放電加工液に比べて取扱いが容易である。しかしながら、例えば、超仕上げ加工を施すことが困難な加工形状である場合、高度な熟練技術を有する作業者が必要であるとともに、より多くの作業時間が要求される。このようなときは、加工速度よりも加工形状精度と加工面粗さを優先して、しばしば、油加工が行なわれる。
【0011】
被加工物の端面を加工する仕上げ加工工程では、荒加工工程に比べて取り代が格段に小さい。そのため、水加工によってファーストカットを行なってから、油加工によってセカンドカット以降を行なうようにして加工効率の低下を抑えながら、高い加工形状精度と加工面粗さを得る加工方法が知られている。このような水油加工において、セカンドカット以降の油加工における加工速度をより大きくすることができるならば、高精度の加工全体の加工効率の向上が期待できる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、油加工において加工速度を向上させるワイヤ放電加工装置を提供することを主たる目的とする。また、本発明は、油加工においてバリの発生を抑制するワイヤ放電加工装置を提供することを目的とする。本発明のワイヤ放電加工装置によって得ることができるいくつかの利点については、発明の詳細な説明において、その都度、詳しく記述される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のワイヤ放電加工装置は、上記課題を解決するために、油系放電加工液を加工媒体とするワイヤ放電加工装置において、ワイヤ電極(EL)と被加工物(WP)とで形成される加工間隙に直列に接続され放電を誘起するための電圧を供給する直流電源(V1)と、直流電源(V1)と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子(SW1)と放電電流を持続させる範囲で十分に大きい抵抗値を有する電流制限抵抗(R1)との直列回路と、直列回路と加工間隙との間に直列に設けられる複数のスイッチング素子(SW3)のブリッジ回路でなる極性切換回路(3)と、を含んでなる副電源回路(1)と、副電源回路(1)に並列に設けられ、加工間隙に直列に接続され主たる放電電流を供給するための電圧を供給する直流電源(V2)と、直流電源(V2)と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子(SW2)と、を含んでなる主電源回路(2)と、セカンドカット以降の加工工程において両極性パルスにおける正極性パルスと逆極性パルスの各供給時間またはパルス数の比率が放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して正極性パルスだけによる加工に比べて加工速度が大きくなる適する比率であって所定期間中比率に従うようにしながら加工間隙の平均加工電圧がサーボ基準電圧に適応するように平均加工電圧に対応して正極性パルスと逆極性パルスとが供給されるように副電源回路(1)のスイッチング素子(SW1)と極性切換回路(3)のスイッチング素子(SW3)とを操作する制御装置(6)と、を有するようにされる。
【0014】
上記ワイヤ放電加工装置の制御装置(6)は、基準となる初期設定の比率で加工したときの予め設定されている所定のサンプリング期間における放電の発生頻度を測定して放電の発生頻度が増加するように比率を決定してから、バリの発生度合と両極性パルスの比率との関係を示す基礎データに基づいて放電の発生頻度の増加を優先するように予め規定されている比率の範囲内で先に決定した両極性パルスの比率をバリの発生度合を最も小さくすることができる前記比率に変更し、変更した比率で両極性パルスが供給されるように副電源回路のスイッチング素子と極性切換回路のスイッチング素子とを操作することを特徴とする。
【0015】
特に、制御装置(6)は、サンプリング期間中、所定の両極性パルスの比率を基準にして所定単位期間毎に両極性パルスの比率を徐変しながら各所定単位期間における放電の発生頻度をそれぞれ計測し、放電の発生頻度が最大になる望ましい両極性パルスの比率に収束させて、両極性パルスの比率を決定することを特徴する。
【0016】
上記括弧内の符号は、本発明の実施の形態のワイヤ放電加工装置における符号と一致する。ただし、符号は、説明の便宜上付したものであり、本発明を実施の形態のワイヤ放電加工装置に限定するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイヤ放電加工装置は、油加工において、正極性パルスと逆極性パルスとが含まれる電圧パルスを繰返し供給する両極性パルスによる加工を行なうことができる。特に、正極性パルスと逆極性パルスを放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して適する比率に基づく供給時間またはパルス数で正極性パルスと逆極性パルスが供給されるように放電加工回路の各スイッチング素子が操作される。そのため、高精度の油加工において、加工速度が向上するとともに、バリの発生が抑制されて、加工品の品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のワイヤ放電加工装置の放電加工回路の基本の構成を示す回路図である。
図2】本発明のワイヤ放電加工装置の制御装置の構成を示すブロック図である。
図3】本発明のワイヤ放電加工装置における加工間隙の極間電圧と放電電流、および複数の信号の関係を示すタイミングチャートである。
図4】セカンドカットにおける両極性パルスによる加工と正極性パルスだけによる加工と逆極性パルスだけによる加工の各加工における放電の発生頻度の遷移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明のワイヤ放電加工装置における基本の放電加工回路が示されている。図2には、図1に示される放電加工回路の各スイッチング素子を操作する制御装置が示されている。実施の形態のワイヤ放電加工装置は、それぞれ異なる特徴を有する複数の放電加工回路の中から所要の放電加工回路を使用することによって、油加工と水加工とを選択的に実施することができる。ただし、図1および図2において、本発明を実施するために必要ではない放電加工回路は、図示省略されている。
【0020】
以下の説明において、正極性パルスは、直流電源のプラス側に被加工物が接続され、マイナス側にワイヤ電極が接続されているときに加工間隙に供給される電圧パルスのことをいい、逆極性パルスは、直流電源のマイナス側に被加工物が接続され、プラス側にワイヤ電極が接続されているときに加工間隙に供給される電圧パルスのことをいう。また、両極性パルスとは、正極性パルスと逆極性パルスとが含まれるパルス列のことをいう。
【0021】
ただし、本発明のワイヤ放電加工装置においては、極性切換回路が副電源回路の中に設けられており、正極性パルスによる加工とは、副電源回路から正極性の方向に電圧が印加され、主電源回路から正極性の方向に主たる放電電流が供給される加工のことをいい、逆極性パルスによる加工とは、副電源回路から逆極性の方向に電圧が印加され、主電源回路から正極性の方向に主たる放電電流が供給される加工のことをいう。
【0022】
油加工においては、放電一発毎に加工間隙における十分な絶縁回復を得ることができるとともに、被加工物が超硬合金であるときの電解現象によるコバルトの溶出が生じない。極性を除いて電気的加工条件が基本的に同じであるとき、正極性パルスによる加工のほうが逆極性パルスによる加工よりも放電一発毎の取り量が多くなるので、理論上、正極性パルスだけによる加工のほうが、両極性パルスによる加工よりも加工速度が大きい。そのため、油加工においては、基本的に交番電流を供給する要求がない。
【0023】
一方で、油加工においては、工具電極が黄銅で被加工物が鉄系合金または超硬合金である場合、放電エネルギが比較的大きい正極性パルスによる加工において、バリが多く発生しやすい。そのため、加工速度を犠牲にして、バリの発生を抑制することができる逆極性パルスによる加工が行なわれることがある。何れにしても、ワイヤカットの油加工では、両極性パルスによる加工は、殆ど行なわれていない。
【0024】
本発明では、所定期間における正極性パルスと逆極性パルスの各供給時間の比率によっては、両極性パルスによる加工の加工速度を相対的に大きくすることができることが判明した。例えば、図4に示される実験結果によると、両極性パルスによる加工では、正極性パルスまたは逆極性パルスだけの加工に比べて所定のサンプリング期間中の放電の総数が相当多く、所定単位期間当たりの放電の数の変動幅が小さい。放電待機時間が所定の基準値よりも短い放電の発生頻度が各加工で大体同じであることから、加工間隙の状態がより安定し、放電待機時間が長い有効放電が増加していると推定できる。
【0025】
実施の形態の油系放電加工液を加工媒体とするワイヤ放電加工装置は、図1に示されるように、副電源回路1と、主電源回路2と、極性切換回路3と、極間電圧検出器4と、放電電流検出器5と、制御装置6と、を備える。副電源回路1と主電源回路2は、それぞれ放電加工回路である。制御装置6は、図2に示されるように、数値制御装置10と、加工制御装置20と、パルス発生装置30と、ゲート回路40とを含んでなる。なお、数値制御装置10を除く制御装置6と各放電加工回路を合わせて加工電源装置ということがある。
【0026】
副電源回路1は、加工間隙に放電を誘起するための放電加工回路である。副電源回路1は、ワイヤ電極ELと被加工物WPで形成される加工間隙に直列に接続される直流電源V1と、直流電源V1と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子SW1との電流制限抵抗R1との直列回路と、その直列回路と加工間隙との間に設けられる逆流阻止ダイオードD1と、を含んでなる。また、副電源回路1は、極性切換回路3を含む。
【0027】
副電源回路1の電圧可変の直流電源V1は、加工に寄与する火花放電を誘起する電圧を加工間隙に供給する。直流電源V1の出力電圧は、火花放電が誘発するために必要な放電ギャップの大きさに依存する。直流電源V1の出力電圧は、放電を発生させる十分な大きさで、電気的加工条件に従って電流制限抵抗R1における不要なエネルギの損失が可能な限り小さいように決められる。
【0028】
電流制限抵抗R1は、副電源回路1から供給される電流を制限するものであって、加工間隙に放電が発生してから主電源回路2から主たる放電電流が供給されるまでの間に電流が途切れないように持続させることができる範囲で可能な限り電流値を小さくする十分に大きい抵抗値を有する。スイッチング素子SW1と電流制限抵抗R1との直列回路は、電流値を任意に変えることができるように、複数並列に設けることができる。
【0029】
主電源回路2は、主たる放電電流を供給するための放電加工回路である。主電源回路2は、副電源回路1に対して並列に設けられる。主電源回路2は、加工間隙に直列に接続される直流電源V2と、直流電源V2と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子SW2と、スイッチング素子SW2と加工間隙との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードD2と、を含んでなる。主電源回路2の電圧可変の直流電源V2は、主たる放電電流を供給するために必要な電圧を加工間隙に供給する。
【0030】
主電源回路2の中には、電流値を規定する電流制限抵抗が設けられておらず、スイッチング素子SW2のオンオフによって電流値が一定に維持される。そのため、主電源回路2は、放電電流検出器5の検出抵抗Riを含む可能な限り小さい抵抗値を有し、抵抗によるエネルギの損失が最小限度に抑えられている。
【0031】
実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、主電源回路2のスイッチング素子SW2は、直流電源V2のプラス極と被加工物WPとの間に直列に設けられるスイッチング素子と、直流電源V2のマイナス極とワイヤ電極ELとの間に直列に設けられるスイッチング素子との直流電源V2を挟んで直列に接続される一対のスイッチング素子でなる。
【0032】
極性切換回路3は、副電源回路1の直流電源V1と加工間隙との間に直列に接続される4個のスイッチング素子SW3のブリッジ回路でなる。直流電源V1のプラス極と被加工物WPとの間に設けられるスイッチング素子と直流電源V1のマイナス極とワイヤ電極ELとの間に設けられるスイッチング素子との一対のスイッチング素子SW3Pが正極性側のスイッチを構成し、直流電源V1のプラス極とワイヤ電極ELとの間に設けられるスイッチング素子と直流電源V1のマイナス極と被加工物WPとの間に設けられるスイッチング素子との一対のスイッチング素子SW3Nが逆極性側のスイッチを構成する。
【0033】
極間電圧検出器4は、加工間隙の電圧を検出する検出器である。極間電圧検出器4は、例えば、 サンプリングホールド回路とデジタルコンパレータを含む図示しない検出回路を備えている。検出回路は、検出抵抗Rvから極間電圧Vgを得て平均加工電圧を検出し、所定の周期で平均加工電圧のデータを制御装置6に出力している。
【0034】
また、極間電圧検出器4は、加工間隙に放電が発生したことを検出する検出器である。極間電圧検出器4は、加工間隙に並列に設けられる検出抵抗Rvと差動増幅器4Aとを含んでなる。差動増幅器4Aは、検出抵抗Rvから得る極間電圧Vgを予め設定されている基準電圧Vrと比較する。差動増幅器4Aは、極間電圧Vgが基準電圧Vrを超えた後に極間電圧Vgが基準電圧Vr以下に降下したときに、加工間隙に放電が発生したことを示す放電発生検出信号S1を出力する。差動増幅器4Aは、放電発生信号S1を出力してから所定時間後にリセットされて放電発生信号S1の出力を反転する。
【0035】
放電電流検出器5は、主電源回路2を流れる放電電流を検出する検出器である。放電電流検出器5は、検出抵抗Riと差動増幅器5Aとを含んでなる。検出抵抗Riは、主電源回路1の直流電源V2と加工間隙との間に直列に設けられる。検出抵抗Riは、放電電流を検出するために必要十分な範囲で可能な限り小さい抵抗値を有する。差動増幅器5Aは、検出抵抗Riの両端の電位差から放電電流Iを検出し、予め設定されている基準電流Irと比較する。差動増幅器5Aは、放電電流Iが基準電流Irに達したときに電流検出信号S2を出力し、所定時間後に電流検出信号S2の出力を反転する。なお、検出子として、検出抵抗Riに代えて、直接電流を検出するホール素子(電流プローブ)を設けることができる。
【0036】
制御装置6は、両極性パルスにおける正極性パルスと逆極性パルスの各供給時間またはパルス数の比率(以下、単に両極性パルスの比率という)が放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して適する比率で正極性パルスと逆極性パルスとが供給されるように、副電源回路1のスイッチング素子SW1と極性切換回路3のスイッチング素子SW3とを操作する手段である。また、制御装置6は、主電源回路2のスイッチング素子SW2を操作する。
【0037】
実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、具体的に、制御装置6は、予め設定されている所定のサンプリング期間における放電の発生頻度を測定(モニタリング)して、放電の発生頻度が増加するように両極性パルスの比率を決定する。その後、制御装置6は、放電の発生頻度の増加を優先するように、予め規定されている比率の範囲内で、バリの発生度合と両極性パルスの比率との関係を示す基礎データに基づいて先に決定した両極性パルスの比率を変更し設定し直す。
【0038】
放電の発生頻度は、所定期間における電圧パルスの総数に対する有効放電の発生回数から計算して得ることができる。電圧パルスの総数は、副電源回路1による電圧の印加回数に相当するので、放電周波数から得ることができ、あるいはスイッチング素子SW1をオンオフ制御するスイッチング信号またはゲート信号の数を計数することによって得ることができる。また、放電の発生回数は、例えば、極間電圧検出器4から出力される放電発生信号S1の数を計数することによって得ることができる。
【0039】
所定のサンプリング期間における両極性パルスの比率に対する有効放電の発生頻度は、例えば、図4に示されるように表わすことができる。加工の進行を妨げる現象が発生しない限り、逆極性パルスによる加工に比べて正極性パルスによる加工のほうが加工速度が大きい。そこで、制御装置6は、初期設定の所定の両極性パルスの比率を基準にして一旦正極性パルスが大きくなるように徐変し、その後は、所定単位期間毎に両極性パルスの比率を徐変しながら各所定単位期間における放電の発生頻度をそれぞれ計測し、放電の発生頻度が最大になる望ましい両極性パルスの比率に収束させて、両極性パルスの比率を仮に決定する。
【0040】
加工をするたびに得ることができる所定単位期間におけるそのときの両極性パルスの比率に対応する放電の発生頻度のデータは、そのとき設定されている電気的加工条件のデータと共に制御装置6の図示しない記憶装置に記憶させておくことができる。そのため、加工を繰り返すことによって、設定されている電気的加工条件に対応する望ましい両極性パルスの比率の目安をより容易に得ることができるようになる。
【0041】
したがって、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、放電の発生頻度をモニタリングする前に基準となる初期設定の両極性パルスの比率をより適する両極性パルスの比率に変更し、変更した両極性パルスの比率に対して加工速度をより大きくできるかどうかを判断してから比率を徐変していくようにプロセスを変えることができ、両極性パルスの比率を決定するまでの時間を短縮することができる。
【0042】
バリの発生度合と両極性パルスの比率の関係を示す基礎データは、例えば、両極性パルスの比率を含む電気的加工条件の組合せと、その電気的加工条件で加工をしたときのバリの発生度合を指数化して示す数値のデータと、を関連付けて1つのデータベースとして記憶装置に保存されている。基礎データをデータベース化しているので、他のデータベースとデータを共有するようにすることができるとともに、ある程度の数のサンプルデータで殆どの加工において適する両極性パルスを得ることができる。基礎データのサンプルデータは、予めテスト加工を行なうことによって収集する。
【0043】
放電の発生頻度の増加を優先させるような予め規定されている両極性パルスの比率の範囲は、先に決定した両極性パルスの比率を変更することによって期待される加工速度を得ることができなくなるということがないように、両極性パルスによる加工のときに加工間隙の状態が安定し放電の発生頻度が確実に増加することが判明している安全な比率の範囲である。言い換えると、予め規定されている両極性パルスの比率の範囲外で加工したときは、正極性パルスだけで加工したときに比べて加工速度が期待するほど大きくならないか、かえって加工速度が低下する可能性がある。
【0044】
予め規定されている両極性パルスの比率の範囲は、具体的には、テスト加工によって電気的加工条件の組合せ毎に決めることが望ましい。ただし、実験によって得られている放電の発生頻度のデータによると、少なくともセカンドカット以降の加工工程における使用頻度が比較的高い電気的加工条件の組合せによる加工においては、正極性パルスの比率が40%以上60%以下の範囲であるならば、加工速度を大きくすることができる点で、両極性パルスによる加工の効果を十分に得ることが判明している。
【0045】
実施の形態のワイヤ放電加工装置において、両極性パルスの比率は、所定期間における複数の正極性パルスの供給時間の総和と複数の逆極性パルスの供給時間の総和の比率である。両極性パルスの供給方法として、望ましくは、制御装置6は、所定単位期間毎に両極性パルスの比率に従うようにしながら加工間隙の平均加工電圧に対応して正極性パルスと逆極性パルスとを自動的に選択して順次供給する。その結果、平均加工電圧がサーボ基準電圧に適応して加工間隙の距離が適正に維持され、加工間隙の状態がより安定して放電が発生しやすくなることが期待できる。
【0046】
特に、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、本発明の作用効果を得ることができる範囲で、両極性パルスの供給方法を選択して実施することができる。例えば、所定の両極性パルスの比率に対応して予め決められている順序で正極性パルスと逆極性パルスを連続して供給するようにすることができる。具体的に、所定の両極性パルスの比率が60%であるとする場合、正極性パルスを3回供給してから逆極性パルスを2回供給するようにしたり、あるいは、正極性パルスを5回、逆極性パルスを3回、その後、正極性パルスと逆極性パルスを1回ずつ供給したりするように、予め決められた順序で両極性パルスが供給される。
【0047】
また、例えば、両極性パルスの比率に対応して放電一発毎の各電圧パルスのパルス幅を変えて供給するようにすることができる。具体的に、所定の両極性パルスの比率が60%であるとする場合、電気的加工条件のオン時間が3μsecであるとき、正極性パルスの幅を3μsecとし、逆極性パルスのパルス幅を2μsecとして、正極性パルスと逆極性パルスとを交互に供給する。
【0048】
予め両極性パルスを供給する順序を決めておく供給方法、あるいは放電一発毎の各電圧パルスのパルス幅を変える供給方法は、それぞれ利点を有する。ただし、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、正極性パルスか逆極性パルスかに関わらず、主たる放電電流が正極性の方向に供給されることから、加工間隙の状態の安定度が低下するので注意が必要であり、加工工程あるいは加工条件に対応して供給方法を使い分けるとよい。
【0049】
実施の形態のワイヤ放電加工装置の制御装置6は、表示装置と入力装置を含む操作パネルを備えており、マンマシンインターフェースの機能を有する数値制御装置10を含んでいる。数値制御装置10は、操作者によって指定されるNCプログラムの中のNCコード(命令)に従って電気的加工条件を含む加工条件のデータを数値制御装置10の記憶装置から取得する。加工条件がNCプログラムに直接記録されている場合は、数値制御装置10は、加工条件のデータをNCプログラムから取得することができる。
【0050】
所望の放電加工に適する加工条件は、複数の種類のパラメータがあり、加工工程毎に加工条件が与えられる。電気的加工条件は、例えば、ピーク電流値、オン時間、オフ時間、電源電圧、サーボ基準電圧、極性である。電気的加工条件の極性のパラメータに「両極性」のパラメータを与えることによって、選択的に両極性パルスによる加工を行なうことができる。このとき、電気的加工条件の「両極性パルスの供給方法」に特定の数値を与えることによって、両極性パルスの供給方法を選択することができる。
【0051】
複数の種類の電気的加工条件のパラメータは、電気的加工条件以外の他の種類の加工条件とともに「加工条件番号」によって"加工条件列"のデータとして1組のデータにまとめられ、ワイヤ電極ELと被加工物WPの組合せ毎に複数組の電気的加工条件の組合せのデータがデータベースとして数値制御装置10の記憶装置に記憶されている。所望の放電加工に適する電気的加工条件は、NCプログラムに記録されている加工条件番号によって指定される。加工条件は、基本的に、実数値ではなく、予め定められた規則に基づく固有のパラメータの値で設定される。
【0052】
加工制御装置20は、放電加工回路の動作を制御する手段である。加工制御装置20は、数値制御装置10から送信されてくる電気的加工条件のデータを受け取ってセットする。加工制御装置20は、電気的加工条件に基づいて放電加工回路の直流電源V1と直流電源V2を操作して、それぞれの出力電圧を電気的加工条件に対応する電圧値に設定する。また、加工制御装置20は、電気的加工条件に基づいて極間電圧検出器4と放電電流検出器5を操作して、基準電圧Vrおよび基準電流Irに相当する基準電圧Viをそれぞれ所定の電圧値に設定する。
【0053】
加工制御装置20は、放電加工回路のスイッチング素子SWをオンオフ制御するために、電気的加工条件の複数の種類のパラメータ、具体的には、ピーク電流、オン時間、オフ時間、または放電周波数のパラメータの値からパラメータの値に対応する実数値を求めて、実数値のデータをパルス発生装置30に送る。
【0054】
加工制御装置20は、両極性パルスによる加工を行なうときは、両極性パルスの比率を放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して決まる適する比率であるように演算して設定し、設定した両極性パルスの比率のデータをパルス制御装置30に送る。なお、加工制御装置20に代えて、数値制御装置10によって両極性パルスの比率を演算し設定するように変形することができる。
【0055】
比率が決められている電圧パルスの供給時間には、不特定の放電待機時間が含まれている。また、放電一発毎の取り量が相当大きい荒加工工程においては、電気的加工条件によるが、正極性パルスだけによる加工に対して両極性パルスによる加工のほうが加工速度に優れるとは限らない。そのため、実施の形態のワイヤ放電加工装置は、セカンドカット以降でより効果が期待でき、とりわけ、放電痕の大きさにある程度ばらつきがあることが許容される中仕上げ加工工程において有益である。
【0056】
実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、両極性パルスの比率のパラメータは、例えば、所定期間における電圧パルスの総供給時間に対する正極性パルスの供給時間に対する占有率(%)で与えられる。具体的に、「60」というパラメータの値が与えられたときは、所定期間における電圧パルスの総供給時間に対する占有率が60%であって、このときの正極性パルスと逆極性パルスの供給時間の比率(両極性パルスの比率)は、60%と40%、言い換えると3対2である。
【0057】
油加工における両極性パルスによる加工が正極性パルスだけによる加工に比べて加工速度が速くなることがあったとしても、水加工における加工速度よりも速くなるというわけではない。したがって、放電の発生頻度とバリの発生度合との関係を探究して両極性パルスの理想的な比率を追求することに利益があるとしても、実加工においては、油加工における加工速度を容易に向上できるなら、最良の比率ではないが、正極性パルスと逆極性パルスの比が1対1であってよい。そのため、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、両極性パルスの比率の初期値が50%に設定されている。
【0058】
パルス発生装置30は、所定の電気的加工条件に従う放電加工回路の各スイッチング素子SWをオンオフ制御するためのスイッチング信号をゲート回路40に出力する。ゲート回路40は、スイッチング信号に基づいて各スイッチング素子SWを選択的にスイッチ動作させるゲート信号を出力する。パルス発生装置30は、オン時間とオフ時間を計数する図示しない複数の時間カウンタを備えている。また、パルス発生装置30は、正極性パルスの供給時間を計数する正極性側の時間カウンタと、逆極性パルスの供給時間を計測する逆極性側の時間カウンタを備えている。
【0059】
パルス発生装置30は、加工制御装置20から送信される電気的加工条件のデータを受け取ってオフ時間とオン時間の各時間カウンタにそれぞれ各時間をセットする。また、パルス発生装置30は、両極性パルスによる加工を行なうときは、正極性側の時間カウンタと逆極性側のカウンタにそれぞれ所定の両極性パルスの比率に基づく所定時間における供給時間をセットする。なお、正極性パルスと逆極性パルスをパルス数に基づいて配分するときには、時間カウンタを転用してパルス数を計測するように変形する。
【0060】
パルス発生装置30は、スイッチング素子SW1にスイッチング信号を出力したときに、そのときの極性に対して選択的にクロック信号CT1またはクロック信号CT2によって正極性側または逆極性側の時間カウンタの計数を開始し、スイッチング信号の出力を停止したときに時間カウンタの計数を中断する。端的にいうと、スイッチング素子SW1のゲート信号GSが"H"である時間をカウントしている。
【0061】
実施の形態のパルス発生装置30は、スイッチング素子SW1のスイッチング信号を停止したときにクロック信号OFによってオフ時間の計数を開始し、スイッチング素子SW1にスイッチング信号を出力したときにオフ時間の計数を中断する。また、パルス発生装置30は、スイッチング素子SW2にスイッチング信号を出力したときにクロック信号ONによってオン時間の計数を開始し、スイッチング素子SW2のスイッチング信号を停止したときにオン時間の計数を中断する。
【0062】
ゲート回路40は、パルス発生装置30から所定のタイミングで出力されるスイッチング信号を基準にして放電加工回路における各スイッチング素子SWの仕様に対応して各スイッチング素子SWをスイッチ動作させるためのゲート信号を出力している。図2は、ゲート回路40の構成を簡略化して示しており、例えば、各スイッチング素子SWを正常にオンオフ動作させるために要求されるカウンタ、増幅器、クロック、遅延回路が図示省略されている。
【0063】
以下に、図3に示されるタイミングチャートに基づいて実施の形態のワイヤ放電加工装置の両極性パルスを供給する動作を説明する。実施の形態のワイヤ放電加工装置の場合、制御装置において、電気的加工条件の極性のパラメータが「両極性」に選択設定されているときに、そのときの加工における放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して適する比率を自動的に設定し、適する比率で正極性パルスと逆極性パルスが供給されるようにスイッチング素子を操作する。
【0064】
加工制御装置20は、両極性パルスの比率を初期値に設定して開始する。実施の形態のワイヤ放電加工装置において、両極性パルスの比率の初期値は、所定単位期間における電圧パルスの総供給時間に対する正極性パルスの供給時間の占有率として50%に設定されている。なお、放電一発毎の電圧パルスのパルス幅がほぼ一定であるとみなすときには、所定単位期間中の供給時間をパルス数に換算することができるので、電圧パルスの総パルス数に対する正極性パルスのパルス数の占有率として設定することもできる。
【0065】
加工開始直後は、初期設定の両極性パルスの比率に従って加工を行なう。加工制御装置20は、極間電圧検出器4から出力される放電発生信号S1の計数を開始する。予め設定されている所定単位期間経過後、加工制御装置20は、数値制御装置10の記憶装置に保存されている放電周波数のデータから所定単位期間における電圧パルスの総数を得るとともに、放電発生信号S1の計数値から放電の発生回数を得て、有効放電の発生頻度を計算する。
【0066】
加工制御装置20は、所定のサンプリング期間中に、複数の所定単位期間において、両極性パルスの比率を所定の変動幅または変化率で徐々に変化させながら、放電の発生頻度をモニタリングする。加工制御装置20は、所定のサンプリング期間後、モニタリングした複数の放電の発生頻度のデータから望ましい両極性パルスの比率を決定する。
【0067】
次に、加工制御装置20は、先に決定した両極性パルスの比率をバリの発生度合と両極性パルスの比率との関係を示す基礎データに基づいてバリの発生度合が小さくなる比率に変更する。このとき、加工速度に関して正極性パルスだけによる加工に対して十分な利益を得るために、放電の発生頻度の増加を優先するように予め規定されている比率の範囲内で両極性パルスの比率を変更する。
【0068】
より具体的には、加工制御装置10は、基礎データのデータベースから先に決定した両極性パルスの比率に対するバリの発生度合を抽出し、予め規定されている比率の範囲内で、抽出したバリの発生度合を最も小さくすることができる両極性パルスの比率を検索する。そして、加工制御装置20は、先に決定した両極性パルスの比率を基礎データから取得した比率に変更し、設定し直す。
【0069】
加工制御装置20は、最終的に設定された両極性パルスの比率のデータをパルス発生装置30に送る。パルス発生装置30は、設定されている両極性パルスの比率から正極性パルスと逆極性パルスの各供給時間を計算して、正極性側の時間カウンタと逆極性側の時間カウンタに各供給時間をセットする。例えば、所定の正極性パルスの比率が60%で1msecの所定期間中に休止時間の総和が500μsecであるときは、正極性側の時間カウンタに300μsecがセットされ、逆極性側の時間カウンタに200μsecがセットされる。
【0070】
パルス発生装置30は、電気的加工条件に従うオフ時間後の時刻t1に、副電源回路1のスイッチング素子SW1と極性切換回路3のスイッチング素子SW3Pにスイッチング信号を出力する。同時に、パルス発生装置30は、正極性側の時間カウンタの計数を開始する。スイッチング信号がゲート回路40に入力されると、ゲート回路40から出力されるゲート信号GSとゲート信号GPが共に"H"になる。
【0071】
時刻t1でスイッチング素子SW1とスイッチング素子SW3Pがオンすると、加工間隙に正極性の方向に副電源回路1の直流電源V1の電圧が印加される。不特定の放電待機時間後の時刻t2で加工間隙に放電が発生すると、副電源回路1から電流制限抵抗R1で制限された小さい電流が加工間隙に正極性の方向に流れる。
【0072】
極間電圧Vgが基準電圧Vrまで降下したときに、極間電圧検出器4が加工間隙に放電が発生したことを示す放電発生信号S1をパルス発生装置に出力する。パルス発生装置30は、放電発生信号S1を加工制御装置20に送るとともに、放電発生信号S1に基づいてスイッチング素子SW2にスイッチング信号を出力する。このとき、加工制御装置20は、放電発生信号S1によって放電の発生回数をカウントアップする。所定の遅延時間後に極間電圧検出器4がリセットされて放電発生信号S1の出力が停止する。
【0073】
スイッチング信号がゲート回路40に入力されると、ゲート回路40のゲート信号GMが"H"になり、スイッチング素子SW2がオンする。同時に、主電源回路2から主たる放電電流Iが加工間隙に正極性の方向に供給されて被加工物WPが加工される。このとき、パルス発生装置30は、オン時間の計数を開始する。なお、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、オン時間は、放電時間に相当する。
【0074】
時刻t3で放電電流Iが所定の基準電流Irに達すると、放電電流検出器5が電流検出信号S2を出力する。電流検出信号S2は、インバータを通してアンドゲートに入力されるので、ゲート信号GMが"L"に反転して、スイッチング素子SW2がオフする。
【0075】
時刻t3に前後してオン時間の計数値が設定値に達すると、パルス発生装置30は、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2をオンオフ制御するスイッチング信号の出力を停止する。そのため、ゲート回路40から出力されているゲート信号GSとゲート信号GMが"L"に反転して、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2が共にオフする。その結果、放電電流Iが降下して正極性パルスによる放電電流パルスの供給が終了する。このとき、パルス発生装置30は、正極性側の時間カウンタの計数を停止する。
【0076】
パルス発生装置30は、時刻t3に前後してオン時間の計数値が所定の設定値に達したときからオフ時間の計数を開始する。なお、オフ時間は、電気的加工条件として設定される休止時間に相当する。パルス発生装置30は、オフ時間中に予め決められている供給方法に従って次に供給する電圧パルスが正極性パルスか逆極性パルスであるかを決定する。
【0077】
ここでは、所定期間後に、正極性側の時間カウンタの計数値と逆極性側の時間カウンタの計数値とから正極性パルスと逆極性パルスの比率が所定の比率になるように正極性パルスと逆極性パルスの配分を決めるとともに、所定期間中、極間電圧検出器4から取得できる平均加工電圧と電気的加工条件のサーボ基準電圧に基づいて加工が安定するように正極性パルスと逆極性パルスを選択して供給するようにしている。
【0078】
例えば、次に供給する電圧パルスが逆極性パルスであるときは、パルス発生装置30は、副電源回路1のスイッチング素子SW1と極性切換回路3のスイッチング素子SW3にスイッチング信号を出力する。ゲート回路40は、ゲート信号GPとゲート信号GNをそれぞれ反転させて極性を切り換える。ゲート信号GPとゲート信号GNとを切り換える間に僅かなデッドタイムΔtが設けられており、所定のオフ時間が経過する時刻t4の直前にスイッチング素子SW3Pを先にオフする。パルス発生装置30は、時刻t4において、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW3Nをオンするように、スイッチング信号を出力する。
【0079】
パルス発生装置30は、時刻t4で加工間隙に逆極性の方向に電圧を印加すると同時に逆極性側の時間カウンタの計数を開始する。不特定の放電待機時間後の時刻t5に加工間隙に放電が発生すると、加工間隙に逆極性の方向に電流制限抵抗R1で制限される小さい電流が流れる。逆極性の方向の極間電圧Vgが基準電圧Vrまで降下すると、極間電圧検出器4が放電発生信号S1を出力すると、放電発生信号S1によってゲート回路40のゲート信号GMが"H"になり、主電源回路2のスイッチング素子SW2がオンすると、主たる放電電流Iが正極性の方向に供給される。
【0080】
主電源回路2から主たる放電電流Iが供給されるとき、副電源回路1から加工間隙に逆極性方向に小さい電流が流れているので、放電電流Iの立上がりが遅れる。そのため、オン時間が相対的に短く設定されているとき、放電電流Iが所定の基準電流Irに達する前の時刻t6でオン時間の計数値が設定値に達してスイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2が共にオフする。その結果、ピーク電流値が低く平均加工電流値の小さい放電電流パルスが供給される。パルス発生装置30は、時刻t6で逆極性側の時間カウンタの計数を停止する。
【0081】
例えば、次に正極性パルスが供給される場合、時刻t7で放電電流Iが所定のピーク電流値に到達したときに、放電電流検出器5が電流検出信号S2を出力してゲート信号GMが"L"に反転する。そのため、スイッチング素子SW2がオフして放電電流Iが降下する。前後して、オン時間の計数値が計数値に達し、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2が共にオフするので、放電電流Iは、図3の点線で示されるように降下して正極性パルスによる放電電流パルスの供給が終了する。
【0082】
このとき、仮に、図3に示されるように、オン時間の設定値が同じでピーク電流値の設定値がオン時間に対して相対的に小さいピーク電流値Isであったとすると、時刻t7よりも前の時刻において放電電流Iがピーク電流値Isに到達して、放電電流検出器4から電流検出信号S2が出力される。そのため、ゲート回路40のゲート信号GMが"L"に反転して、主電源回路2のスイッチング素子SW2がオフする。その結果、放電電流Iが降下し始める。
【0083】
設定されているオン時間が経過する時刻t7よりも前に放電電流検出器4がリセットされて電流検出信号S2の出力が停止すると、ゲート信号40のゲート信号GMが"H"に反転してスイッチング素子SW2がオンする。そのため、放電電流Iが再び上昇して、放電電流パルスが持続する。このように、設定されるピーク電流値が相対的に小さいときは、ピーク電流値に対して長いパルス幅を有する台形波の放電電流パルスが供給される。
【0084】
時刻t7を経過した休止時間中、制御装置6は、設定されている両極性パルスの比率になるように正極性パルスと逆極性パルスを選択して次の電圧パルスを供給する。例えば、制御装置6が次に供給する電圧パルスとして正極性パルスを選択したときは、時刻t8において、放電加工回路において、副電源回路1のスイッチング素子SW1がオンする。このとき、スイッチング素子SW3Pがオンしたままであって極性切換回路3は作動しない。その結果、加工間隙に正極性パルスが供給される。
【0085】
実施の形態のワイヤ放電加工装置は、加工間隙に放電が発生してから設定されているオン時間を計数することによって放電一発毎の放電電流パルスのパルス幅を一定にするオンクランプ方式で放電電流を供給している。設定されているオン時間が短くオンクランプ方式で放電電流を供給することが困難な場合は、放電の発生と無関係にスイッチング素子をオンオフするマルチ発振方式で放電電流を供給する必要があるが、放電の発生頻度の測定の方法を変えるだけで、マルチ発振方式であっても本発明を実施することができる。
【0086】
以上に説明されるように、実施の形態のワイヤ放電加工装置においては、逆極性パルスを供給することによって放電エネルギの小さい放電が繰返し発生しているが、平均加工電圧がサーボ基準電圧に近付くようにされながら、放電の発生頻度が比較的多くなる比率で正極性パルスと逆極性パルスとが選択的に供給されているので、結果的に、正極性パルスだけによる加工に比べて加工速度が向上し、バリの発生が抑制される。
【0087】
本発明は、具体的に説明されている実施の形態のワイヤ放電加工装置の構成に限定されることなく、すでにいくつかの例が示されているように、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で多様に変形が可能である。また、本発明のワイヤ放電加工装置は、選択的に両極性パルスによる加工以外の加工を実施することができ、あるいは選択的に水加工と組み合わせて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、ワイヤカットの油加工に適用できる。とりわけ、セカンドカット以降の中仕上げ加工工程に適する。本発明は、油加工による高精度加工の加工速度をより大きくし、加工不良の発生を抑制し、ワイヤ放電加工の進歩に寄与する。
【符号の説明】
【0089】
1 副電源回路
2 主電源回路
3 極性切換回路
4 極間電圧検出器
5 放電電流検出器
6 制御装置
10 数値制御装置
20 加工制御装置
30 パルス発生装置
40 ゲート回路
【要約】
【課題】ワイヤカットの油加工でバリの発生を抑制し加工速度を向上すること。
【解決手段】
副電源回路1は、直流電源V1と、直流電源V1と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子SW1と電流制限抵抗R1との直列回路と、逆流阻止ダイオードD1、極性切換回路3と、を含む。極性切換回路3は、複数のスイッチング素子SW3のブリッジ回路でなる。主電源回路2は、副電源回路1と並列に設けられ、直流電源V2と、直流電源V2と加工間隙との間に直列に設けられるスイッチング素子SW2と、逆流阻止ダイオードD2と、を含んでなる。制御装置6は、正極性パルスと逆極性パルスの供給時間の比率が放電の発生頻度とバリの発生度合に対応して適する比率で両極性パルスが供給されるように副電源回路1と主電源回路2と極性切換回路3の各スイッチング素子SWを操作する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4