(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る研磨パッド及びガラス、セラミックス、及び金属材料の研磨方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る研磨パッドを示す斜視図である。また、
図2は、
図1に示した研磨パッドの要部を示す拡大斜視図であり、
図3は、拡大側面図である。
図1〜
図3に示すように、研磨パッド1は、パッドの支持体となる基材層11と、研磨材料からなる研磨層12とを備えて構成されている。研磨パッド1は、網入りガラスや耐熱ガラスといった工業用のガラス基板の研磨、或いはセラミックス・金属材料からなる大型基板の研磨に用いられる研磨パッドである。研磨パッド1は、全体として例えば直径10mm〜2500mm程度の円板状をなしている。
【0011】
基材層11は、研磨パッド1が一定の強度と可撓性とを有するように、ポリマーフィルム、紙、バルカナイズドファイバー、処理済不織材、処理済布材などによって例えば厚さ1mm程度に構成されている。これらの中でも、ポリマーフィルムを用いることが好ましい。ポリマーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリエステルフィルム、コーポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム等が挙げられる。
【0012】
研磨層12は、例えばバインダと、研磨粒子と、充填剤とを含んで構成され、基材層11の一面側に形成されている。また、研磨層12は、カップリング剤、沈殿防止剤、硬化剤(開始剤)、光増感剤といった各種の成分を含有していてもよい。
【0013】
バインダは、バインダ前駆体から形成される。バインダ前駆体は、未硬化または未重合状態の樹脂を含み、研磨層12の作製にあたって、バインダ前駆体中の樹脂が重合または硬化されてバインダが形成される。バインダ前駆体は、縮合硬化性樹脂、付加重合性樹脂、遊離基硬化性樹脂、及びこれらの組み合わせが用いられる。
【0014】
研磨粒子は、例えばダイヤモンドビーズ研磨粒子である。ここで用いられるダイヤモンドビーズ研磨粒子では、例えば直径25ミクロン以下の約6〜65体積%のダイヤモンド研磨粒子を含む研磨粒子であり、約35〜94体積%の微孔質の非溶融の連続金属酸化物マトリックスに分散されている。金属酸化物マトリックスは、約1,000未満のヌープ硬さを有し、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化チタンからなる群より選択された少なくとも1種類の金属酸化物を含む。
【0015】
研磨層12には、通常、約1重量パーセント以上、好ましくは約2重量パーセント以上のダイヤモンドビーズ研磨粒子が含まれる。また、研磨層12には、より好ましくは約5重量パーセント以上、最も好ましくは約7重量パーセント以上のダイヤモンドビーズ研磨粒子が含まれる。研磨層12には、通常、約30重量パーセント以下、好ましくは約25重量パーセント以下のダイヤモンドビーズ研磨粒子が含まれる。また、研磨層12には、より好ましくは約15重量パーセント以下、最も好ましくは約13重量パーセント以下のダイヤモンドビーズ研磨粒子が含まれる。
【0016】
研磨層12の形成にあたっては、ダイヤモンド研磨粒子を金属酸化物又は酸化物前駆体の水性ゾルと混合し、得られたスラリーを攪拌した脱水液体(例えば2−エチル−1−ヘキサノール)に加える。そして、水を分散スラリーから除去し、これを濾過、乾燥、及び焼成することによって研磨層12が得られる。研磨層12内のダイヤモンドビーズ研磨粒子は、通常は球形状をなし、研磨粒子の作製元のダイヤモンド粒子に比べて少なくとも2倍のサイズとなる。
【0017】
充填剤は、研磨層12の崩壊速度を制御するために用いられる材料である。充填剤は、例えば平均粒子サイズが通常0.01〜100μm、一般に0.1〜40μmの微粒子材料である。研磨中の研磨層12の崩壊速度を制御することは、研磨レートと寿命との釣合いを取るのに重要である。充填剤の充填が多すぎると、研磨層12の崩壊が早すぎ、研磨操作が不十分となるおそれがある。逆に、充填剤の充填が少なすぎると、研磨層12の崩壊が遅すぎ、研磨粒子が鈍くなって研磨レートが低下するおそれがある。
【0018】
研磨層12には、通常、約40重量パーセント以上、より好ましくは約45重量パーセント以上、最も好ましくは50質量パーセント以上の充填剤が含まれる。また、研磨層12には、通常、約60質量パーセント以下の充填剤が含まれる。
【0019】
充填剤としては、例えば金属炭酸塩(炭酸カルシウム(白亜、方解石、泥炭、トラバーチン、大理石、及び石灰石)、炭酸カルシウムマグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム等)、シリカ(水晶、ガラスビーズ、ガラス泡、及びガラスファイバー等)、シリケート(タルク、クレイ(モンモリロン石)長石、マイカ、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、及びケイ酸カリウム等)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウムナトリウム、硫酸アルミニウム等)、石膏、蛭石、木粉、三水和アルミニウム、カーボンブラック、金属酸化物(酸化カルシウム(石灰)、酸化アルミニウム、酸化スズ(例えば酸化第二スズ)、二酸化チタン等)、及び金属亜硫酸塩(亜硫酸カルシウム等)、熱可塑性粒子(ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、ポリプロピレン、アセタールポリマー、ポリウレタン、ナイロン粒子)、及び熱硬化性粒子(フェノール泡、フェノールビーズ、ポリウレタン泡粒子等)等が例示される。
【0020】
充填剤は、ハロゲン化物塩のような塩であってもよい。ハロゲン化物塩としては、塩化ナトリウム、氷晶石カリウム、氷晶石ナトリウム、氷晶石アンモニウム、四フッ化ホウ酸カリウム、四フッ化ホウ酸ナトリウム、フッ化ケイ素、塩化カリウム、及び塩化マグネシウムが例示される。金属充填剤としては、スズ、鉛、ビスマス、コバルト、アンチモン、カドミウム、鉄、チタンが例示される。その他の充填剤としては、硫黄、有機硫黄化合物、グラファイト、及び金属硫化物が挙げられる。
【0021】
次に、上述した研磨層12の構造について説明する。
【0022】
研磨層12は、
図2及び
図3に示すようなタイル構造をなしている。より具体的には、研磨層12のタイル構造は、基材層11上に互いに離間して配列された複数の土台部13と、土台部13上に互いに離間して配列された複数の先端部14とを有している。
【0023】
土台部13は、例えば1cm
2当たり0.01個〜80個の密度となるように基材層11上にマトリクス状に配列されている。各土台部13は、例えば厚さ0.5mm〜2.0mm程度の扁平な略直方体形状をなし、平面視において略正方形状をなしている。土台部13は剛体であり、土台部13の厚さを厚くしすぎると、収縮の影響を受けやすくなるおそれがある。一方、土台部13の厚さを薄くしすぎると、研磨層12が割れ易くなるおそれがある。上記厚さの範囲では、土台部13の強度の確保と収縮の影響の排除とを両立でき、好適である。
【0024】
土台部13の頂面(先端部14が形成される面)30の面積は、例えば3m×4mの長方形のガラス研磨を実施する場合では、通常30mm
2以上、好ましくは50mm
2以上、より好ましくは100mm
2以上、となっている。また、土台部13の頂面30の面積は、通常400mm
2以下、好ましくは300mm
2以下、より好ましくは200mm
2以下となっている。ただし、被研磨体や研削圧力(通常の研削圧力は例えば50〜300g/cm
2程度)によって最適範囲は異なるものとなる。
【0025】
このような範囲を選択することで、土台部13上に十分な数の先端部14を配列することが可能となり、研磨領域を十分に確保できる。また、厚さの場合と同様の観点から、土台部13の面積を大きくしすぎると、基材層11の可撓性が損なわれるおそれがある。一方、土台部13の面積を小さくしすぎると、研磨層12が狭くなり、研磨作業性が低下するおそれがある。したがって、上記面積の範囲では、研磨作業性の確保と基材層11の可撓性の確保とを両立できる。
【0026】
土台部13の頂面30の平面形状は、三角形、矩形、六角形などの多角形、楕円形を含む円形などの中から適宜選択することができる。この平面形状の選定にあたっては、研磨の実施の際に研磨パッド1と被研磨体とが相互もしくは一方の回転運動を伴って接触することを考慮し、等方的な研磨を行い得るような形状であることが好適である。この観点から言えば、土台部13の頂面30の平面形状は、長方形状といった異方性の形状よりも円形状や正方形状といった等方性の形状であることがより好ましい。また、土台部13の頂面30の平面形状に等方性を持たせることにより、先端部14の配列の等方性を許容でき、土台部13上に先端部14を高密度に配置することも可能となる。
【0027】
土台部13の立体形状は、柱状体や錐台状体となっていてもよい。特に、土台部13が錐台状である場合、角部に応力が集中しにくくなると共に、基材層11との接触面積も大きくなるので好適である。
【0028】
ここで、土台部13の面積の選定について、土台部13が正方格子状に配列されている場合を例に説明する。説明の簡単化のため、2次元の面の大小関係の寄与を、一次元の幅の大小関係の寄与に置き換えて説明する。この土台部13の幅寸法の選定にあたっては、被研磨体の表面のうねりの程度、被研磨体の材料強度の程度、被研磨体の外形形状及び寸法、及び先端部14の高さ等を考慮する必要がある。被研磨体の表面のうねりのピッチは、小さいもので1μm程度、大きなものでは1m程度に及ぶ。したがって、例えばうねりのピッチの幅と土台部13の幅とを合わせることで、研磨面を被研磨体の表面により密着させることが可能となる。また、被研磨体が変形の生じにくい材料で形成されている場合には、研磨中に表面のうねりが変化しにくいため、土台部13の幅を小さくしておく方が研磨面を被研磨体の表面に密着させやすい。一方、被研磨体が変形の生じやすい材料で形成されている場合には、研磨中に表面のうねりが変化しやすいため、土台部13の幅を大きくしておく方が研磨面を被研磨体の表面に密着させやすい。
【0029】
また、被研磨体は、小さいものでは例えばφ20mm程度、大きいものでは例えば3m×3m程度に及ぶので、これらの寸法に応じて土台部13の幅を選択することが好ましい。先端部14との関係では、先端部14のアスペクト比が高い場合には、研磨時に先端部14にかかるトルク(土台部13の根元の周りの力のモーメント)が大きくなるため、土台部13の幅を十分に確保して先端部14を保持することが好ましい。
【0030】
隣り合う土台部13同士は、基材層11上に所定の間隔で設けられた溝部15によって仕切られている。溝部15の底部は、例えば
図3に示すように、基材層11上で半径0.8mm程度のR状(ラウンド状)をなしており、底部の頂点部分で基材層11が露出するようになっている。なお、ここでいう基材層11の「露出」とは、溝部15の底部における研磨材料の厚さが実質的に基材層11の可撓性を阻害しない厚さであればよく、必ずしも基材層11が溝部15の底部に完全に露出していなくてもよい。
【0031】
このような溝部15の形成により、土台部13の側面部分は、その根元部分がテーパ形状となっている。研磨パッド1で研磨を行う被研磨体が大型の基板である場合、その剛直性に起因して研磨パッド1に大きな負荷がかかる傾向がある。このため、研磨層12には、基材層11に対する接合強度と、研磨時に加わる応力を緩和する構成とが求められる。そこで、土台部13では、側面部分をテーパ形状にすることにより、基材層11と土台部13との接触面積を確保することができ、基材層11に対する接合強度を確保できる。また、土台部13の根元部分がノッチとならないため、研磨の際に土台部13の根元部分に加わる応力を緩和することができる。
【0032】
土台部13のテーパ形状は、
図3に示したR状のほか、例えば
図4(a)に示す土台部13Aのように、側面全体を傾斜面としたものであってもよく、
図4(b)に示す土台部13Bのように、側面の根元部分のみを傾斜面とした面形状(C面形状を含む)であってもよい。このような形状においても、基材層11と土台部13との接触面積を十分に確保することができ、基材層11と土台部13との接合強度を確保できる。また、土台部13の根元部分がノッチとならないため、土台部13の根元部分における局所の応力集中を防止できる。
【0033】
溝部15の幅は、例えば0.5mm〜3mm程度の範囲で適宜選択される。溝部15の幅が狭すぎると、基材層11の可撓性を低下させるおそれがある。また、被研磨体の研磨を行う際に生じた研磨屑が溝部15内に詰まり易くなり、研磨効率が低下することが考えられる。一方、溝部15の幅が広すぎると、土台部13上に配列する先端部14の単位面積当たりの体積が小さくなり、研磨パッド1の寿命が低下することとなる。したがって、溝部15の幅を上記範囲とすることにより、研磨パッド1の研磨効率の確保及び寿命の確保を両立できる。
【0034】
この溝部15は、隣り合う土台部13間に配列され、基材層11上で溝群を構成している。溝群の形状の要件としては、溝部15同士が互いに連通していること、及び互いに交差する溝部15が存在することが挙げられる。
【0035】
図5に土台部13,14間の溝群の形成例を示す。同図では、説明の便宜上、溝部15をラインで表している。溝群の形態としては、例えば
図5(a)に示すように、直線状の溝部15を格子状に配列した溝群17Aが挙げられる。溝群17Aでは、縦横の溝部15同士が直交した正方格子となっている。この形態は、研磨の実施の際に研磨パッド1と被研磨体とが相互もしくは一方の回転運動を伴う場合でも、研磨の等方性が保たれる点で優れる。溝部15同士の交差角度は、
図5(b)に示す溝群17Bのように、45°〜135°程度としてもよい。この場合であっても、研磨の一定の等方性が保たれる。
【0036】
また、溝部15のラインは、直線状に限られず、
図5(c)に示すように、波線状の溝部15同士を正方格子状とした溝群17Cとしてもよい。さらに、
図5(d)に示すように、同心円状のラインに放射線状のラインを組み合わせた溝群17Dとしてもよく、らせん状のラインに放射線状のラインを組み合わせた溝群17Eとしてもよい。以上のような溝群17を形成することで、研磨の際の研磨屑を溝部15内にスムーズに流すことが可能となり、研磨屑が溝部15内に詰まることによる研磨効率の低下を抑制できる。
【0037】
先端部14は、例えば1cm
2当たり0.05個〜300個の密度となるように土台部13上に配列されている。本実施形態では、先端部14は、例えば基材層11からの高さが3mm程度となるような略四角柱状をなし、土台部13上に2×2のマトリクス状に形成されている。このような構成は、言い換えれば、複数の先端部14が一つの土台部13を共有することによってそれぞれグループ化されていることを意味している。先端部14の頂面(研磨面)は、平面視において例えば3mm×3mm程度の略正方形状をなしている。先端部14の側面部分は、例えば土台部13のテーパ形状と同様の角度でテーパ形状となっていてもよい。
【0038】
土台部13上に形成する先端部14の本数は、以下の点を考慮して適宜変更可能である。先端部14の本数を少なくすると、被研磨体の表面のうねりに起因して、研磨面と被研磨体とが1点あるいは数点で接触し易い。このため、被研磨体の表面の粗削りに適合し易い傾向となる。一方、先端部14の本数を多くすると、被研磨体の表面にうねりがあっても、基材層11の可撓性によって土台部13及び先端部14が被研磨体の表面形状に追従し、研磨面と被研磨体とが多点接触し易い。したがって、研磨量及び研磨速度が大きくなり、仕上げ程度が高まる傾向となる。
【0039】
また、隣り合う先端部14同士は、溝部16によって仕切られている。溝部16の底部は、
図2及び
図3に示すように、土台部13上で半径0.8mm程度のR状(ラウンド状)をなしており、底部の頂点部分で土台部13が露出するようになっている。このように、溝部16の底部をR状とすることにより、先端部14の側面の根元部分がテーパ形状を有することとなる。したがって、先端部14と土台部13との接続面積が確保され、先端部14の高さを高くした場合の先端部14の倒れ強度をより確実に高めることができる。先端部14の高さを高くすることで、研磨層12の体積を十分に確保できるので、研磨パッド1の更なる長寿命化が図られる。
【0040】
なお、先端部14の形状は、柱状体或いは錐台状体であればよく、例えば角柱状、円柱状、楕円柱状、角錐台状、円錐台状、楕円錐台状等の各形状をとり得る。先端部14が錐台状である場合、土台部13の場合と同様に、角部に応力が集中しにくくなると共に、土台部13との接触面積も大きくなるので倒れ強度を一層十分に確保できる。
【0041】
また、溝部16の底部の形状は、R状に限られるものではない。例えば
図6に示す溝部16Aのように、先端部14の側面の根元部分のみを傾斜面とした面形状(C面形状を含む)の底部であってもよい。このような形態においても、先端部14の側面の根元部分がテーパ形状を有することとなる。したがって、先端部14の高さを高くした場合であっても、先端部14の倒れ強度をより確実に高めることができる。
【0042】
また、各先端部14のアスペクト比は、0.2〜10となっている。この範囲では、研磨パッド1の長寿命化を図りつつ、先端部14の倒れ強度を十分に確保できる。アスペクト比を小さくする場合には、研磨時に先端部14にかかるトルクが小さくなり、先端部14の倒れ強度をより確保できる。一方、アスペクト比を大きくする場合には、先端部14の体積を十分確保でき、研磨パッド1をより長寿命化できる。また、溝部16の高さが高くなるので、研削液を溝部16内にスムーズに流すことができ、研磨屑が溝部16内に詰まってしまうことも防止できる。
【0043】
以上のような研磨層12を形成する方法としては、例えば転写法を用いることができる。転写法では、例えば定盤上に上記のタイル構造が施された金型をセットし、次に転写型を作製する。そして、この転写型に硬化型ダイヤモンドスラリーを充填し、基材層11となるフィルムをスラリーにラミネートして結合させる。この後、光照射によってスラリーを硬化させ、フィルムを転写型から剥離すると、基材層11上に研磨層12が形成された研磨パッド1が得られる。研磨層12の形成は、転写法に限られず、研削やロールによる型押しなどによって実施してもよい。
【0044】
図7は、研磨パッド1を用いた研磨方法を示す図である。
図7(a)は、片面研磨の例であり、被研磨体P1は、例えば網入りガラスやセラミック基板である。この例では、弾性体層21を介して研磨パッド1を研磨盤(定盤)22の表面に固定し、被研磨体P1と研磨パッド1との間に研削液を供給しながら研磨盤22を回転させ、荷重をかけながら被研磨体P1の表面を研磨する。被研磨体P1を保持する保持具23についても、研磨盤22と同方向又は逆方向に回転させてよい。
【0045】
また、
図7(b)は、両面研磨の例であり、研磨対象である被研磨体P2は、例えば大型のガラス基板や金属板である。この例では、柔軟性を有する層21を介して研磨パッド1を上下の研磨盤24の表面にそれぞれ固定し、保持具25で保持した被研磨体P2を研磨盤24の間にセットする。そして、被研磨体P2と研磨パッド1との間に研削液を供給しながら研磨盤24を回転させ、荷重をかけながら被研磨体P2の両面を研磨する。このとき、研磨盤24は、互いに逆方向に回転させることが好ましい。
【0046】
上記例において、研磨盤22,24に対する研磨パッド1の取り付けには、例えば感圧型の接着剤を用いることができる。このような接着剤としては、例えばラテックスクレープ、ロジン、ポリアクリレートエステル、アクリルポリマー、ポリブチルアクリレート、ポリアクリレートエステル、ビニルエーテル(例えば、ポリビニルn−ブチルエーテル)、アルキド接着剤、ゴム接着剤(例えば、天然ゴム、合成ゴム、塩素化ゴム)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
また、柔軟性を有する層21としては、例えばポリウレタン発泡体、ゴム、エラストマー、ゴム発泡体等を用いることができる。このような層21を介在させることで、研磨盤22,24に対する研磨パッド1の形状の追従性を向上させることができる。なお、柔軟性を有する層21は、研磨パッド1において基材層11の他面側(研磨層12の反対面側)に予め設けておいてもよい。また、柔軟性を有する層21は必ずしも設ける必要はなく、研磨パッド1を研磨盤22,24に直接取り付けてもよい。
【0048】
研削液としては、例えばアミン、鉱油、灯油、ミネラルスピリッツ、水溶性エマルジョン、ポリエチレンイミン、エチレングリコール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロピレングリコール、アミンボレート、ホウ酸、アミンカルボキシレート、パイン油、インドール、チオアミン塩、アミド、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリエチルトリアジン、カルボン酸、ナトリウム2−メルカプトベンゾチアゾール、イソプロパノールアミン、トリエチレンジアミン四酢酸、プロピレングリコールメチルエーテル、ベンゾトリアゾール、ナトリウム2−ピリジンチオール−1−オキシド、及びヘキシレングリコールのうち1種類以上を含む水ベースの溶液が挙げられる。研削液には、腐食防止剤、殺菌剤、安定化剤、界面活性剤、及び乳化剤などが含まれる場合もある。
【0049】
このような被研磨体Pの研磨を行うにあたって、上述したように、研磨パッド1では、研磨層12が基材層11上に互いに離間して配列された土台部13と、土台部13上に互いに離間して配列された略角柱状の先端部14とを有している。すなわち、この研磨層12では、複数の略角柱状の先端部14が一つの土台部13を共有することによってグループ化され、先端部14の倒れ強度が十分に確保されている。また、この研磨パッド1では、土台部13が溝部15によって互いに分離しており、隣り合うグループ間では研磨材料が無い部分が存在する。このため、全ての先端部14が土台部13で連結されている場合とは異なり、研磨パッド1の可撓性が十分に確保されている。
【0050】
したがって、研磨パッド1では、
図8(a)に模式的に示すように、被研磨体Pを研磨する際に、被研磨体Pの表面のうねりに基材層11が撓んで追従し、これに伴って各土台部13でグループ化されている先端部14の研磨面が被研磨体Pに密着し、好適な研磨を実施することができる。また、研磨パッド1では、土台部13との連結によって土台部13の基材層11からの剥離に起因した先端部13の倒れ強度が確保されていることに加え、基材層11の形状の追従によって先端部13にかかる応力を低減することができる。したがって、先端部14の高さを高くした場合であっても、先端部14の折れや剥離を抑制できる。さらに、先端部14の高さを高くできることで、研磨層12の体積を十分に確保できるので、研磨パッド1の長寿命化も図られる。
【0051】
なお、研磨パッド1では、土台部13が溝部15で分離されていることで、研磨材料中の樹脂を光硬化させる際の収縮による研磨層12の平坦性の低下も抑制でき、先端部14の高さ(タイル高さ)のばらつきを抑えられる。また、土台部13が分離していることで、研磨層12に曲げなどの力が加わった場合でも、研磨材料が無い部分で研磨層12が曲がることによって、研磨層12に亀裂が入ることによる先端部14の倒れ強度の低下も防止できる。
【0052】
さらに、研磨パッド1では、先端部14間の溝部16の底部が土台部13上でR状をなし、土台部13間の溝部15の底部が基材層11上でR状をなしている。このような構成により、研磨パッド1では、先端部14の倒れ強度が一層高められ、先端部14の折れや剥離をより確実に抑制できる。
【0053】
これに対し、例えば
図8(b)に模式的に示すように、全ての先端部54を一つの土台部53で連結した従来の研磨パッド50では、研磨層が一体化することによって基材層51の可撓性が低くなるおそれがある。基材層51の可撓性の低下により、先端部54の研磨面が被研磨体Pの表面のうねりに追従せず、先端部54に応力が過剰にかかって先端部54の折れが発生するおそれがある。また、土台部53が一体化していることで、研磨パッド50に曲げなどの力が加わった場合に、土台部53に亀裂が入ることによって先端部54の倒れ強度が低くなるおそれがある。
【0054】
また、例えば
図8(c)に模式的に示すように、土台部を設けずに全ての先端部64を基材層61上に直接形成した従来の研磨パッド60では、基材層61の可撓性については問題ないものの、先端部64の高さを高くした場合の倒れ強度を十分に確保できなくなる可能性がある。この場合、研磨の際に研磨パッド60にかかる応力が先端部64の根元部分に集中し、先端部64が基材層61から容易に剥離してしまうおそれがある。したがって、研磨パッド1のように複数の先端部14を土台部13によってグループ化する構成を採用することが、研磨パッドの長寿命化、研磨層の平坦性及び可撓性の確保の観点で有用である。
【0055】
また、研磨対象である被研磨体の表面には一定のうねりが存在することは上述したとおりであるが、研磨設備側の研磨盤やコンベアといった部材にも一定のうねりが存在する。研磨盤は通常硬質であるため、うねりを変形させることは困難である。したがって、基材層11に可撓性を持たせ、厚み等の条件を適宜選択することで、研磨パッド1側に変形の余地を持たせることが有効となる。基材層11に十分な可撓性を持たせることで、研磨盤への研磨パッド1の貼り付けの作業性も確保できる。また、特に、基材層11の可撓性だけでは被研磨体の表面のうねり及び研磨設備側のうねりをキャンセルしきれないときには、基材層11の他面側に柔軟性を有する層21を配置することが有効となる。柔軟性を有する層21を研磨パッド1と研磨盤との間に介在させることにより、研磨パッド1側の追従性を更に向上させることができ、一層好適な研磨を実施することが可能となる。
【0056】
以上説明したように、本発明の形態によれば以下のような作用効果を奏する。
【0057】
本発明の一形態は、ガラス、セラミックス、及び金属材料の表面研磨に用いられる研磨パッドであって、基材層と、研磨材料からなると共に基材層の一面側に設けられた研磨層と、を備え、研磨層は、基材層上に互いに離間して配列された複数の土台部と、土台部上に互いに離間して配列された柱状或いは錐台状の先端部と、土台部間に基材層が露出するように設けられた複数の溝部からなる溝群であって各溝が相互に交差した溝群と、を有している。
【0058】
この研磨パッドでは、先端部が一つの土台部を共有することによってグループ化され、先端部の倒れ強度が十分に確保されている。また、この研磨パッドでは、土台部同士が溝部によって互いに分離しており、隣り合うグループ間では研磨材料が無い部分が存在するため、研磨パッドの可撓性が十分に確保されている。したがって、この研磨パッドでは、被研磨体を研磨する際に、被研磨体の表面のうねりに基材層が撓んで追従し、好適な研磨を実施することができる。また、この研磨パッドでは、土台部による連結によって先端部の倒れ強度が確保されていることに加え、基材層の形状の追従によって先端部にかかる応力を緩和することができる。したがって、先端部の高さを高くした場合であっても、先端部の折れや剥離を抑制できる。先端部の高さを高くできることで、研磨層の体積を十分に確保できるので、研磨パッドの長寿命化も図られる。
【0059】
また、他の形態では、土台部の頂面の面積は、30mm
2〜400mm
2である。このような範囲を選択することで、土台部上に十分な数の先端部を配列することが可能となり、研磨領域を十分に確保できる。土台部の面積を大きくしすぎると、基材層の可撓性が損なわれるおそれがある。一方、土台部の面積を小さくしすぎると、研磨作業性が低下するおそれがある。したがって、上記面積の範囲では、土台部の強度の確保と基材層の可撓性の確保とを両立できる。
【0060】
また、他の形態では、先端部間の溝部の底部は、前記土台部上でテーパ形状をなしている。これにより、先端部と土台部との接続面積が確保され、先端部の倒れ強度を一層高めることができる。
【0061】
また、他の態様では、土台部間の溝部の底部は、基材層上でテーパ形状をなしている。このような構成により、基材層と土台部との接触面積を十分に確保することができ、基材層に対する接合強度を確保できる。また、土台部の根元部分がノッチとならないため、研磨の際に土台部の根元部分における局所の応力集中を防止できる。
【0062】
また、他の態様では、基材層は、可撓性を有する材料によって形成されている。基材層に可撓性を持たせることで、研磨パッド側に変形の余地を持たせることが有効となる。これにより、被研磨体の表面のうねりや、研磨パッドを取り付ける定盤等のうねりを吸収でき、好適な研磨を実施できる。また、上述したように、土台部同士の間に研磨材料が無い部分が存在するため、研磨層によって基材層の可撓性が阻害されることも回避できる。
【0063】
また、他の態様では、基材層の他面側に柔軟性を有する層が設けられている。この場合、基材層の可撓性のみでは被研磨体の表面のうねりや、研磨パッドを取り付ける定盤等のうねりを吸収しきれない場合であっても、柔軟性を有する層によって研磨パッド側の追従性を確保でき、好適な研磨を実施できる。
【0064】
また、他の態様では、先端部のアスペクト比は、0.2〜10である。この範囲では、研磨パッドの長寿命化を図りつつ、先端部の倒れ強度を十分に確保できる。アスペクト比を小さくする場合には、研磨時に先端部にかかるトルクが小さくなり、先端部の倒れ強度をより確保できる。一方、アスペクト比を大きくする場合には、先端部の体積を十分確保でき、研磨パッド1をより長寿命化できる。また、先端部間の溝部の高さが高くなるので、研削液を溝部内にスムーズに流すことができ、研磨屑が溝部内に詰まってしまうことも防止できる。
【0065】
また、本発明の一態様は、上記研磨パッドを用いたガラス、セラミックス、及び金属材料の研磨方法であって、基材層の他面側を定盤に固定して研磨層と被研磨体とを接触させ、被研磨体と研磨層との間に研削液を導入しながら、研磨パッドと研削液とを相対的に擦り合わせる工程を含む。
【0066】
この研磨方法では、上述した研磨パッドを用いることにより、被研磨体を研磨する際に被研磨体の表面のうねりや定盤の表面のうねりに基材層が撓んで追従し、好適な研磨を実施することができる。研磨パッド側では、土台部による連結によって先端部の倒れ強度が確保されていることに加え、基材層の形状の追従によって先端部にかかる応力を緩和できる。したがって、先端部の高さを高くした場合であっても先端部の折れや剥離を抑制でき、研磨層の体積を十分に確保できることによって研磨パッドの長寿命化も図られる。
【0067】
続いて、本発明の効果確認試験について説明する。
【0068】
この試験では、研磨層の形状が異なる研磨パッドのサンプルをそれぞれ作製し、タイルの先端をボルトとナットとで挟み込み、引っ張り試験機で下方に引っ張ったときの倒れ強度を測定したものである。
【0069】
図9は、実施例及び比較例に係る研磨パッドのサンプルの形状を示す側面図である。
図9(a)に示す比較例1のサンプルS1では、土台部を設けず、基材層101上に高さ0.8mmの略角柱状の突起部分102を配列して研磨層103とした。また、研磨面の面積は、2.6mm×2.6mmとした。
【0070】
図9(b)に示す比較例2のサンプルS2では、土台部を設けず、基材層101上に高さ5mmの略角柱状の突起部分104を配列して研磨層105とした。また、研磨面の面積は、3mm×3mmとした。
図9(c)に示す比較例3のサンプルS3では、土台部を設けず、基材層101上に高さ5mmの略角柱状の突起部分106を配列すると共に、突起部分106,106間の溝部107の底部を半径0.8mmのR状として研磨層108を設けた。また、研磨面の面積は3mm×3mmとした。
【0071】
図9(d)に示す実施例1のサンプルS4では、基材層101上に高さ1mmの土台部109を配列し、土台部109上に基材層101からの高さが5mmとなるように略角柱状の先端部110を配列して研磨層111を設けた。また、先端部110,110間の溝部112の底部、及び土台部109,109間の溝部113の底部をそれぞれ半径0.8mmのR状とした。研磨面の面積は3mm×3mmとした。
図9(e)に示す実施例2のサンプルS5では、土台部114の高さを2mmとしたこと以外は実施例1と同様の構成として研磨層115を設けた。
【0072】
図10は、その試験結果を示す図である。同図に示すように、突起部分の高さが低い比較例1では当然に高い倒れ強度となったが、土台部によって先端部をグループ化した実施例1の倒れ強度は、土台部の無い比較例2に対して約4倍程度、比較例3に対して約2倍程度に向上した。また、土台部の厚い実施例2の倒れ強度は、実施例1に対して更に1.3倍程度向上した。