特許第6188300号(P6188300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188300
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電気的筋肉刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   A61N1/32
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-211804(P2012-211804)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-64735(P2014-64735A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名郷根 正昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲雄
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−194520(JP,A)
【文献】 特開2011−188926(JP,A)
【文献】 特開2001−293097(JP,A)
【文献】 特開2010−057804(JP,A)
【文献】 特開2009−213687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に当接される電極を備え、第1電気信号生成手段で生成された低周波の第1の電気信号に第2電気信号生成手段で生成された高周波の第2の電気信号を重畳して前記電極から出力することで、皮膚に電気刺激を与える電気的刺激装置において、
前記第1の電気信号は、所定時間ごとに振幅電圧が階段状に増加しかつ階段状に減少する階段状波形が正負両方向に交互に連続して繰り返される階段波であり、
前記第2の電気信号は、前記第1の電気信号よりも短い周期の矩形波を複数含むパルスが断続的に繰り返されるパルス波である電気的刺激装置。
【請求項2】
前記第1の電気信号の周期の一部に、前記第2の電気信号の前記パルスを重畳させる請求項1に記載の電気的刺激装置。
【請求項3】
少なくとも前記第1の電気信号の振幅電圧が最大となる水平領域に、前記第2の電気信号の前記パルスを重畳させる請求項2に記載の電気的刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉トレーニング及び廃用性症候群等による筋萎縮の予防並び治療、筋肉の疼痛の治療において電気刺激を効率よく行うことができる電気的刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気信号を外部より神経組織や筋組織に与え、筋肉を収縮させることにより、運動機能を改善させたり、運動機能を強化する電気的筋肉刺激(Electrical Muscle Stimulation: EMS)法は、アスリートの筋肉トレーニングや、廃用性症候群や筋萎縮性疾患患者のリハビリテーションなどで、一定の効果を上げている。EMS法による電気刺激は、本来ならば随意的に行われる筋肉の収縮を、中枢神経支配とは関係なく起こさせる。従って、体が静止状態であっても、筋肉に対して、一定の運動を行っているのと同じ負荷をかけることができる。その結果、体を激しく動かす運動を行うことなく筋繊維を太く強化させ、また、脊髄損傷や、筋萎縮性側索硬化症などにより、運動ニューロンからの刺激が断絶された筋組織においても、無作為による筋組織の萎縮を防ぐことができる。
【0003】
電気刺激により誘導される筋肉の収縮の仕方は、刺激として用いる電気の出力(強さ)、周波数、波形、パルス幅、刺激時間の長さ等によって、異なることが知られている。
【0004】
一般に、筋肉トレーニングに用いられている電気刺激方法は、中周波と呼ばれる1,000Hz以上(具体的には2,500Hz)の交流正弦波を断続して発振させるバースト波を用いている。
【0005】
この中周波によれば、筋肉に電流が流れ筋肉の最大収縮が得られるとともに、筋組織周辺に存在する神経線維の細胞膜の脱分極を引き起こすため、被施行者が痛みを感じにくいというメリットがある。また、中周波による電気刺激は、皮膚に電極を貼付し、経皮的に深部の筋組織に刺激を与えその効果を発揮することが知られている。
【0006】
これに対して、廃用性症候群等による筋萎縮の予防並びに治療に用いられるEMS法は、治療的電気刺激法 (Therapeutic Electrical Stimulation:TAS法)と呼ばれる。TAS法としては、現在主に二つの刺激方法が行われている。一つの方法は、4,000Hz前後の周波数がわずかに異なる2以上の電流を同時に流し、生体内で生じる干渉電流で刺激を行う干渉電流型低周波による刺激である。もう一つの方法は、1,000Hz以下で、単極性又は双極性の低周波のパルス電流を用いる刺激方法である。これらもまた、皮膚に電極を貼付し、経皮的に深部の筋肉の刺激を与える。
【0007】
さらに、筋肉トレーニング等の負荷運動においては、筋肉に軽度の負荷をかけた状態で、さらに強い負荷をかけることがより効率的で好ましいとされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−213687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、単一周波数による刺激は、繰り返し行われることにより、筋線維の適応、つまり、刺激に対する慣れを引き起こし、トレーニング効果が得られにくくなるという課題も残されている。
【0010】
本発明の課題は、筋組織に対して、筋肉トレーニング及び廃用性症候群等による筋萎縮の予防並びに治療、および筋肉の疼痛の治療において、刺激に対する慣れを引き起こすことなく、また電気刺激をより効率よく様々な筋線維に同時に行うことができる電気的刺激装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は、鋭意研究を重ねた結果、低周波の第1の電気信号に、第1の電気信号よりも高周波の第2の電気信号を重畳して電気刺激を与える際に、第1の電気信号を、所定時間ごとに階段状に振幅電圧が増減する階段状波形が正負両方向に交互に連続して繰り返される階段波とし、第2の電気信号を、第1の電気信号よりも短い周期の矩形波を複数含むパルスが断続的に繰り返されるパルス波とすることにより、刺激に対する慣れを引き起こすことなく、また従来の電気的刺激法の利点を損なうことなく、より効率的に様々な筋線維に同時に電気刺激を与えることができ、筋肉トレーニング及び廃用性症候群等による筋萎縮の予防並びに治療、および筋肉の疼痛の治療の効果を高める電気的刺激装置を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様に関する。
【0013】
項1.皮膚に当接される電極を備え、第1電気信号生成手段で生成された低周波の第1の電気信号に第2電気信号生成手段で生成された高周波の第2の電気信号を重畳して前記電極から出力することで、皮膚に電気刺激を与える電気的刺激装置において、
前記第1の電気信号は、所定時間ごとに階段状に振幅電圧が増減する階段状波形が正負両方向に交互に連続して繰り返される階段波であり、
前記第2の電気信号は、前記第1の電気信号よりも短い周期の矩形波を複数含むパルスが断続的に繰り返されるパルス波である電気的刺激装置。
項2.前記第1の電気信号の周期の一部に、前記第2の電気信号の前記パルスを重畳させる項1に記載の電気的刺激装置。
項3.少なくとも前記第1の電気信号の振幅電圧が最大となる水平領域に、前記第2の電気信号の前記パルスを重畳させる項2に記載の電気的刺激装置。
【発明の効果】
【0014】
低周波の第1の電気信号による第1電気刺激と高周波の第2の電気信号による第2電気刺激とを組み合わせた電気的刺激装置を用いることにより、刺激に対する慣れを引き起こすことなく、また従来の電気的刺激法の利点を損なうことなく、より効率的に様々な筋線維に同時に多様な電気刺激を与えることができ、筋肉トレーニング及び廃用性症候群等による筋萎縮の予防並びに治療の効率を高めることができる。
【0015】
さらに、第1電気刺激として、階段波(第1の電気信号)による刺激を与えることにより、筋組織近傍の神経線維の細胞膜が暫定的な脱分極を起こすため、強い高周波パルス波(第2の電気信号)による第2電気刺激を与えても痛みを感じず、被施行者の負担を軽減することができる。
【0016】
より具体的な効果としては、
(1)筋肉トレーニングにおいては、階段波(第1の電気信号)による第1電気刺激により、筋肉に軽度の刺激をかけつつ、高周波パルス波(第2の電気信号)による第2電気刺激により、より強い刺激を与えることで、電気刺激に対する筋肉の適応を引き起こすことなく、効率的に筋肉を強化する効果、
(2)廃用性症候群等による筋萎縮の予防及び治療においては、運動ニューロンからの刺激が断絶された筋肉に対して、高周波パルス波(第2の電気信号)による第2電気刺激により、規則的又は不規則に電気刺激を与えることにより、随意運動に近い筋肉の動きを引き起こすとともに、階段波(第1の電気信号)による第1電気刺激により、筋肉に軽度の刺激をかけ続けるため、筋線維が細く萎縮することを防ぐ効果、
(3)上記筋肉の収縮効果により、感覚神経線維であるGIa、及びGIb線維を刺激し痙性を改善する、又は末梢循環を改善させ、浮腫、疼痛を改善する等の二次的効果、
が挙げられる。
【0017】
さらに、本発明は、骨格筋(横紋筋)の他、靱帯、腱の強化にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電気的刺激装置のブロック図である。
図2】第2の電気信号の出力波形図である。
図3】第1の電気信号の出力波形図である。
図4図1の電気的刺激装置により出力される電気信号の出力波形図である。
図5図1の電気的刺激装置により出力される電気信号の他の実施形態を表す出力波形図である。
図6図1の電気的刺激装置により出力される電気信号の他の実施形態を表す出力波形図である。
図7図1の電気的刺激装置により出力される電気信号の他の実施形態を表す出力波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電気的刺激装置の構成を示すブロック図である。図1において、符号1は制御手段としてのCPU(中央演算処理装置)である。このCPU1は周知のように、入出力手段、記憶手段および演算処理手段などを内蔵しており、記憶手段に記憶された制御シーケンスに従って所定のパターンの電気信号を人体(図示せず)に与えて電気刺激を与えるようになっている。
【0020】
CPU1からは、2系統の出力電圧指示信号と制御信号とが出力されるようになっている。これら2系統の出力電圧指示信号および制御信号のうち、1系統の信号は低周波の第1の電気信号の生成に用いられ、他の1系統の信号は高周波の第2の電気信号の生成に用いられる。
【0021】
出力電圧制御回路2,3は、CPU1から出力される出力電圧指示信号に対応した直流電圧を、第1、第2の電気信号生成手段6,7にそれぞれ出力する。出力電圧制御回路2,3は、図示しない電源から出力される所定の直流電圧により作動し、出力電圧指示信号に対応した所定の電圧レベルを有する可変出力信号を、それぞれ第1、第2の電気信号生成手段6,7に供給する。
【0022】
第1の電気信号生成手段6および第2の電気信号生成手段7は、出力電圧制御回路2,3からの各出力電圧を、定電流駆動回路4およびパルス電流駆動回路5から供給される駆動信号に基づいて、所定振幅および所定周波数を有する電気信号に変換するものである。
【0023】
第1の電気信号生成手段6は、一次側と二次側とを絶縁したトランス9を備えており、トランス9の一次巻線9Aの一端が出力電圧制御回路2の可変出力信号ラインに接続されるとともに、定電流駆動回路4にトランス9の一次巻線9Aの他端が接続されている。トランス9の二次巻線9Bの両端は、それぞれ出力端子たる一対の電極11,12に接続されている。
【0024】
一方、第2の電気信号生成手段7は、一次側と二次側とを絶縁したトランス10を備えている。トランス10の一次巻線10Aの一端が出力電圧制御回路3の可変出力信号ラインに接続されるとともに、パルス駆動回路5にトランス10の一次巻線10Aの他端が接続されている。トランス10の二次巻線10Bの両端は、それぞれ出力端子たる一対の電極11,12に接続されている。
【0025】
パルス電流駆動回路5は、CPU2からの制御信号に基づき、後述する第1の電気信号よりも短い周期の矩形波(オンパルス)を複数含むパルスを断続的に繰り返し出力する駆動信号を、第2の電気信号生成手段7のトランス10の一次巻線10Aに出力する。これにより、第2の電気信号生成手段7では、パルス電流駆動回路5からの駆動信号と出力電圧制御回路3からの可変出力信号とで、トランス10の二次巻線10Bに、図2に示すように、所定の時間幅t1および振幅aを有する矩形波(オンパルス)を複数含むパルスPが所定の時間間隔t3毎に正負両方向に交互に出力されるパルス波形の電圧が誘起されて、第2の電気信号(高周波パルス)HFが生成される。そして、この第2の電気信号HFは電極11,12間に供給される。なお、ここで、振幅aは、CPU2からの指令によって、出力電圧制御回路3からの可変出力信号を可変することで大きさを適宜調整可能である。また、各矩形波の時間幅t1や時間間隔t2、パルスPの時間間隔t3も、CPU2からの指令によって、パルス電流駆動回路5からの駆動信号を可変することで長さを適宜調整可能である。
【0026】
定電流駆動回路6は、CPU2からの制御信号に基づき、所定時間ごとに階段状に振幅電圧が増減する階段波形を正負両方向に交互に連続して出力する駆動信号を、第1の電気信号生成手段6のトランス9の一次巻線9Aに出力する。これにより、第1の電気信号生成手段6では、定電流駆動回路4からの駆動信号と出力電圧制御回路2からの可変出力信号とで、トランス10の二次巻線10Bに、図3に示すように、振幅Aを有し、所定の時間幅T1および所定の段差A1で振幅電圧が階段状に増減する階段状波形Sが正負両方向に交互に連続して出力される階段波形の電圧が誘起されて、第1の電気信号LFが生成される。そして、この第1の電気信号LFは電極11,12間に供給される。なお、ここで、振幅Aは、CPU2からの指令によって、出力電圧制御回路3からの可変出力信号を可変することで大きさを適宜調整可能である。また、階段状波形Sの各段差A1および各時間幅T1、また、周期Tは、CPU2からの指令によって、定電流駆動回路4からの駆動信号を可変すること、例えば、波形中の立上り時点および立下り時点における電流値を変更することで各段差A1の大きさを適宜調整可能であり、立上らせるタイミングおよび立下らせるタイミングを変更することで各時間幅T1の長さを適宜調整可能である。
【0027】
このように、低周波の第1の電気信号LFと高周波の第2の電気信号HFとは、別々の電気信号生成手段6,7により生成されるが、両信号ともに共通の電極11,12間に出力されるため、電極11,12間において両信号は重畳される。したがって、低周波の第1の電気信号LFに高周波の第2の電気信号HFが重畳された電気信号を電極11,12間から人体に与えることができる。
【0028】
低周波の第1の電気信号LFに高周波の第2の電気信号HFを重畳させる方法としては種々の方法が考えられる。例えば、図4に示すように、第1の電気信号(階段波)LFの正負両方向の各階段状波形Sに対し、振幅電圧が最大となる水平領域に、第2の電気信号HFのパルス(矩形波群)Pをそれぞれ重畳させることができる。この場合、当該水平領域の全時間幅にわたってパルス(矩形波群)Pを重畳させてもよいし、一部(中央部、前半部、後半部)の時間幅だけにパルス(矩形波群)Pを重畳させてもよい。
【0029】
また、図5に示すように、第1の電気信号LFの各階段状波形Sの各段の水平領域に第2の電気信号HFのパルス(矩形波群)Pをそれぞれ重畳させることもできる。また、図6に示すように、第1の電気信号LFの各階段状波形Sについて、一段おきにその水平領域に第2の電気信号HFのパルス(矩形波群)Pをそれぞれ重畳させることもできる。また、図7に示すように、第1の電気信号LFの正方向の各階段状波形Sに対してのみ、振幅電圧が最大となる水平領域に、第2の電気信号HFのパルス(矩形波群)Pをそれぞれ重畳させることもできる。なお、図5および図6においても、第1の電気信号LFの正方向の各階段状波形Sに対してのみ第2の電気信号HFのパルス(矩形波群)Pをそれぞれ重畳させることができる。
【0030】
このようにして、第1の電気信号LFの周期T、振幅A、時間幅T1および段差A1、および、第2の電気信号HFの振幅a、時間幅t1、時間間隔t2およびパルスの時間間隔t3をそれぞれ適宜調整することで、色々な電気刺激モードに応じた種々の電気信号を人体に与えることができる。
【0031】
なお、電気信号が実際に出力される際には、電気刺激モードが装置に表示されるとともに、CPU1に内蔵されたタイマ(図示せず)が時間を計測し、その結果を装置に表示されるように構成されるのが好ましい。また、装置には、種々の電気刺激モードの中から特定の電気刺激モードを選択できるスイッチが複数備えられていて、これに対応して、選択された電気刺激モードが装置に表示されるとともに、CPU1により、選択された電気刺激モードに対応する電気信号が電極11,12間に供給されるように構成されるのが好ましい。
【符号の説明】
【0032】
6 第1電気信号生成手段
7 第2電気信号生成手段
11,12 電極
P パルス
S 階段状波形
LF 第1の電気信号
HF 第2の電気信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7