(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188489
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】配電線の電圧制御装置および電圧制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/12 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
H02J3/12
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-176538(P2013-176538)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-239634(P2014-239634A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-99936(P2013-99936)
(32)【優先日】2013年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】植田 喜延
(72)【発明者】
【氏名】寺田 努
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】保坂 直貴
(72)【発明者】
【氏名】塚越 直也
【審査官】
高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−042546(JP,A)
【文献】
特開平09−135535(JP,A)
【文献】
特開2007−143313(JP,A)
【文献】
特開平04−312320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 − 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替えて配電線の電圧を制御する装置であって、
前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算部と、
前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算部と、
前記位相差演算部で演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流であると判定されたときは正符号を出力し、逆潮流であると判定されたときは負符号を出力する逆潮流継電器と、
前記電流実効値演算部で演算された電流実効値に、前記逆潮流継電器から出力される正又は負の符号を掛け合わせた符号付電流実効値を入力とし、該入力された符号付電流実効値に対する目標出力電圧の整定値が、前記符号付電流実効値の負側最大設定値から正側最大設定値にかけて上昇する電圧特性に整定され、目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器と、
を備えたことを特徴とする配電線の電圧制御装置。
【請求項2】
1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替えて配電線の電圧を制御する装置であって、
前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算部と、
前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算部と、
前記位相差演算部で演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流か逆潮流かの判定結果に応じて電圧調整用継電器の整定特性を切り替えるための切替信号を出力する逆潮流継電器と、
前記電流実効値演算部で演算された電流実効値を入力とし、該入力された電流実効値に対する目標出力電圧の整定値が、第1の最小電流設定値から第1の最大電流設定値にかけて上昇する順潮流特性と、第2の最小電流設定値から第2の最大電流設定値にかけて下降する逆潮流特性とに整定され、前記逆潮流継電器からの切替信号によって切り替えられた順潮流特性又は逆潮流特性の目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器と、
を備えたことを特徴とする配電線の電圧制御装置。
【請求項3】
前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、前記符号付電流実効値の正側と負側とで勾配を変更していることを特徴とする請求項1に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項4】
前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、前記順潮流特性と逆潮流特性とで勾配の度合いを変更していることを特徴とする請求項2に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項5】
前記逆潮流継電器は、前記位相差演算部で演算された位相差と前記電流実効値演算部で演算された電流実効値とに基づいて潮流の向きを判定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項6】
前記逆潮流継電器は、前記位相差が90度以上である場合に逆潮流であると判定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項7】
前記逆潮流継電器は、前記位相差が90度以上であり、かつ前記電流実効値が設定値以上である場合に逆潮流であると判定することを特徴とする請求項5に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項8】
前記逆潮流継電器は、前記位相差演算部で演算された位相差が90°+α°(α°は設定した裕度)以上の場合に逆潮流と判定し、それ以外の場合は順潮流と判定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項9】
前記位相差演算部、電流実効値演算部および逆潮流継電器は前記電圧調整用継電器内に内蔵されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項10】
前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、入力電流が零に近い設定範囲において、出力電圧を増減させない領域が設定されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の配電線の電圧制御装置。
【請求項11】
入力電流に対する目標出力電圧の整定値が、入力電流の負側最大設定値から正側最大設定値にかけて上昇する電圧特性に整定され、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器を備え、配電線の電圧を制御する装置における電圧制御方法であって、
位相差演算部が前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算ステップと、
電流実効値演算部が前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算ステップと、
逆潮流継電器が、前記位相差演算ステップで演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流であると判定されたときは正符号を出力し、逆潮流であると判定されたときは負符号を出力するステップと、
乗算器が、前記電流実効値演算ステップで演算された電流実効値に、前記逆潮流継電器から出力された正又は負の符号を掛け合わせて符号付電流実効値を出力するステップと、
前記電圧調整用継電器が、前記出力された符号付電流実効値を入力とし、該入力電流に対応して整定された目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替えるステップと、
を備えたことを特徴とする配電線の電圧制御方法。
【請求項12】
入力電流に対する目標出力電圧の整定値が、第1の最小電流設定値から第1の最大電流設定値にかけて上昇する順潮流特性と、第2の最小電流設定値から第2の最大電流設定値にかけて下降する逆潮流特性とに整定され、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器を備え、配電線の電圧を制御する装置における電圧制御方法であって、
位相差演算部が前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算ステップと、
電流実効値演算部が前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算ステップと、
逆潮流継電器が、前記位相差演算ステップで演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流か逆潮流かの判定結果に応じて電圧調整用継電器の整定特性を切り替えるための切替信号を出力するステップと、
前記電圧調整用継電器が、前記電流実効値演算ステップで演算された実効値を入力とし、前記逆潮流継電器から出力された切替信号によって切り替えられた順潮流特性又は逆潮流特性の目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替えるステップと、
を備えたことを特徴とする配電線の電圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力会社の配電用変電所における、変圧器制御盤に設置される電圧調整用継電器(90リレー)あるいは同機能を有する制御装置の整定方法に係り、配電線の電圧制御装置、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電用変電所においては電圧管理や保護協調の観点から変圧器単位の逆潮流が認められていなかった。そのため、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップ切替制御を行う90リレー(電圧調整用継電器)は、変圧器の潮流方向を上位系統から配電系統に向かう順潮流のみ対応すれば良く、例えば
図17に示すような特性を持たせていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図17において、従来の90リレーは、正の電流実効値を用いてリレー演算を行い、例えば負荷が増加して配電線電流が増加すると配電線への送出電圧が高くなるように変圧器のタップ切替制御を行う。
【0004】
一方、近年のCO
2排出抑制および震災後の原子力発電所停止に伴い、再生可能エネルギー電源の導入の制約となる配電用変電所の逆潮流規制が緩和される方向で検討が行われている。
【0005】
順潮流・逆潮流時の電圧・電流位相関係を
図18に示す。
図18は、電圧位相を基準とした横軸を実軸、縦軸を虚軸とする複素平面に電圧・電流ベクトルを表現した図であり、電圧・電流ベクトルの長さ(絶対値)はp.u.(per unit;単位法)で示している。
【0006】
また、順潮流・逆潮流時の配電線電圧分布を
図19に示す。
図19(b)の横軸は距離、縦軸は電圧の大きさを示している。
【0007】
配電線の潮流と線路インピーダンスの影響により、
図19(b)に示すように順潮流時は電圧が降下し、逆潮流時は電圧が上昇する。
【0008】
尚、従来の配電線電圧制御方法としては、例えば特許文献2、3に記載の方法が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4758375号公報
【特許文献2】特開2006−262555号公報
【特許文献3】特開2007−143313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
配電用変電所において逆潮流が著しくなると、配電線の電圧が上昇するが、前記
図17に示す90リレー特性のままでは正の電流実効値を用いてリレー演算を行っているため、電流が「大きい」と判断し、電圧上昇を増幅するようにタップ切替を行なってしまうので、配電系統の電圧を適正に維持できなくなる。
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、逆潮流発生時に配電線電圧上昇を抑えて適切な電圧制御を行うことができる配電線の電圧制御装置、電圧制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の配電線の電圧制御装置は、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替えて配電線の電圧を制御する装置であって、前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算部と、前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算部と、前記位相差演算部で演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流であると判定されたときは正符号を出力し、逆潮流であると判定されたときは負符号を出力する逆潮流継電器と、前記電流実効値演算部で演算された電流実効値に、前記逆潮流継電器から出力される正又は負の符号を掛け合わせた符号付電流実効値を入力とし、該入力された符号付電流実効値に対する目標出力電圧の整定値が、前記符号付電流実効値の負側最大設定値から正側最大設定値にかけて上昇する電圧特性に整定され、目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器と、を備えたことを特徴としている。
【0013】
また請求項11に記載の配電線の電圧制御方法は、入力電流に対する目標出力電圧の整定値が、入力電流の負側最大設定値から正側最大設定値にかけて上昇する電圧特性に整定され、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器を備え、配電線の電圧を制御する装置における電圧制御方法であって、位相差演算部が前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算ステップと、電流実効値演算部が前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算ステップと、逆潮流継電器が、前記位相差演算ステップで演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流であると判定されたときは正符号を出力し、逆潮流であると判定されたときは負符号を出力するステップと、乗算器が、前記電流実効値演算ステップで演算された電流実効値に、前記逆潮流継電器から出力された正又は負の符号を掛け合わせて符号付電流実効値を出力するステップと、前記電圧調整用継電器が、前記出力された符号付電流実効値を入力とし、該入力電流に対応して整定された目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替えるステップと、を備えたことを特徴としている。
【0014】
また
請求項5に記載の配電線の電圧制御装置は、前記逆潮流継電器は、前記位相差演算部で演算された位相差と前記電流実効値演算部で演算された電流実効値とに基づいて潮流の向きを判定することを特徴としている。
【0015】
また
請求項9に記載の配電線の電圧制御装置は、前記位相差演算部、電流実効値演算部および逆潮流継電器は前記電圧調整用継電器内に内蔵されていることを特徴としている。
【0016】
また
請求項6に記載の配電線の電圧制御装置は、前記逆潮流継電器は、前記位相差が90度以上である場合に逆潮流であると判定することを特徴としている。
【0017】
上記構成によれば、電圧調整用継電器(90リレー)の電圧−電流特性を負の電流領域に拡張し、逆潮流継電器によって潮流方向を判定した結果、順潮流時は正の電流、逆潮流時は負の電流として電圧調整用継電器に導入するようにしたので、逆潮流発生時に配電線電圧上昇を抑えて適切な電圧制御を行うことができる。
【0018】
また請求項2に記載の配電線の電圧制御装置は、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替えて配電線の電圧を制御する装置であって、前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算部と、前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算部と、前記位相差演算部で演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流か逆潮流かの判定結果に応じて電圧調整用継電器の整定特性を切り替えるための切替信号を出力する逆潮流継電器と、前記電流実効値演算部で演算された電流実効値を入力とし、該入力された電流実効値に対する目標出力電圧の整定値が、第1の最小電流設定値から第1の最大電流設定値にかけて上昇する順潮流特性と、第2の最小電流設定値から第2の最大電流設定値にかけて下降する逆潮流特性とに整定され、前記逆潮流継電器からの切替信号によって切り替えられた順潮流特性又は逆潮流特性の目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器と、を備えたことを特徴としている。
【0019】
また請求項12に記載の配電線の電圧制御方法は、入力電流に対する目標出力電圧の整定値が、第1の最小電流設定値から第1の最大電流設定値にかけて上昇する順潮流特性と、第2の最小電流設定値から第2の最大電流設定値にかけて下降する逆潮流特性とに整定され、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替える電圧調整用継電器を備え、配電線の電圧を制御する装置における電圧制御方法であって、位相差演算部が前記配電線の電流と電圧の位相差を演算する位相差演算ステップと、電流実効値演算部が前記配電線の電流の実効値を演算する電流実効値演算ステップと、逆潮流継電器が、前記位相差演算ステップで演算された位相差に基づいて潮流の向きを判定し、順潮流か逆潮流かの判定結果に応じて電圧調整用継電器の整定特性を切り替えるための切替信号を出力するステップと、前記電圧調整用継電器が、前記電流実効値演算ステップで演算された電流実効値を入力とし、前記逆潮流継電器から出力された切替信号によって切り替えられた順潮流特性又は逆潮流特性の目標出力電圧に応じて前記変圧器のタップを切り替えるステップと、を備えたことを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、逆潮流継電器の判定結果に応じて電圧調整用継電器の順潮流特性と逆潮流特性を切り替えているので、電流実効値を負側に拡張することなく、逆潮流発生時の配電線電圧上昇を抑えて適切な電圧制御を行うことができる。
【0021】
また
請求項10に記載の配電線の電圧制御装置は、前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、入力電流が零に近い設定範囲において、出力電圧を増減させない領域が設定されていることを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、潮流方向が例えば頻繁に切り替わって、順潮流と逆潮流の間を行き来する場合は、電圧調整用継電器に設定されている前記出力電圧を増減させない領域が不感帯として作用するので、電圧変動は発生せず安定した制御結果を得ることができる。
【0023】
また
請求項3に記載の配電線の電圧制御装置は、前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、前記符号付電流実効値の正側と負側とで勾配を変更していることを特徴としている。
【0024】
また
請求項4に記載の配電線の電圧制御装置は、前記電圧調整用継電器の出力電圧整定値は、前記順潮流特性と逆潮流特性とで勾配の度合いを変更していることを特徴としている。
【0025】
上記構成によれば、例えば負荷や再生可能エネルギー電源の分布によって、逆潮流側において、順潮流側よりも変電所の電流に対する配電線末端の電圧変化が大きい場合や、逆に順潮流側よりも変電所の電流に対する配電線末端の電圧変化が小さい場合に、良好な電圧制御が行える。
【0026】
また
請求項7に記載の配電線の電圧制御装置は、前記逆潮流継電器は、前記位相差が90度以上であり、かつ前記電流実効値が設定値以上である場合に逆潮流であると判定することを特徴としている。
【0027】
上記構成によれば、電流実効値が設定値未満の小さい領域では、微小な電流変化により順潮流⇔逆潮流が頻繁に入れ替わったり、相対的に検出誤差が大きくなることで、位相差演算部の演算結果に誤差が出やすいが、これらの微小な電流変化や誤差による潮流方向の誤判定や順潮流⇔逆潮流判定のハンチングを防ぐことができ、逆潮流発生を警報出力する場合に不要な発報を防ぐこともできる。
【0028】
また
請求項8に記載の配電線の電圧制御装置は、前記逆潮流継電器は、前記位相差演算部で演算された位相差が90°+α°(α°は設定した裕度)以上の場合に逆潮流と判定し、それ以外の場合は順潮流と判定することを特徴としている。
【0029】
上記構成によれば、位相差演算部の演算誤差を考慮した裕度を持たせているので、逆潮流の誤検出を回避することができる。
【発明の効果】
【0030】
(1)請求項1〜12に記載の発明によれば、逆潮流発生時に配電線電圧上昇を抑えて適切な電圧制御を行うことができる。
(2)請求項2、12に記載の発明によれば、電流実効値を負側に拡張することなく、逆潮流発生時の配電線電圧上昇を抑えて適切な電圧制御を行うことができる。
(3)
請求項10に記載の発明によれば、順潮流と逆潮流の間を行き来する場合でも、電圧変動は発生せず安定した制御結果を得ることができる。これによって、順潮流と逆潮流とで配電線電圧特性が異なる系統や、無効電流の多い系統において電圧制御効果が向上する。
(4)
請求項3、4に記載の発明によれば、逆潮流側と順潮流側で変電所の電流に対する配電線末端の電圧変化が異なる場合に、良好な電圧制御が行える。
(5)
請求項7に記載の発明によれば、潮流方向の誤判定、および順潮流⇔逆潮流判定のハンチングおよび逆潮流警報の不要な発報を防ぐことができる。
(6)
請求項8に記載の発明によれば、位相差に裕度を持たせているので、逆潮流の誤検出を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施例1における90リレーの電圧−電流特性図。
【
図2】本発明の実施例1の要部構成を表し、電流実効値演算のブロック図。
【
図3】本発明の実施例1における逆潮流リレーの特性を示す複素平面図。
【
図4】本発明の実施例1と従来の電圧制御結果の差異を説明するための電圧−電流特性図。
【
図5】本発明の実施例2において、無効電流を多く含む場合の電流位相特性図。
【
図6】本発明の実施例2における90リレーの電圧−電流特性図。
【
図7】本発明の実施例2と実施例1の電圧制御結果の差異を説明するための電圧−電流特性図。
【
図8】本発明の実施例3における、順潮流と逆潮流で配電線の電圧特性が異なる例を示す説明図。
【
図9】本発明の実施例3における90リレーの電圧−電流特性図。
【
図10】本発明の実施例4の要部構成を表し、電流実効値演算のブロック図。
【
図11】本発明の実施例4における逆潮流リレーの特性を示す複素平面図。
【
図12】本発明の実施例5の構成を示すブロック図。
【
図13】本発明の実施例5における90リレーの電圧−電流特性図。
【
図14】位相差演算誤差による逆潮流リレーでの誤判定を説明する複素平面図。
【
図15】本発明の実施例6における逆潮流リレーの特性の一例を示す複素平面図。
【
図16】本発明の実施例6における逆潮流リレーの特性の他の例を示す複素平面図。
【
図18】順潮流・逆潮流時の電圧・電流位相関係を示す複素平面図。
【
図19】順潮流・逆潮流時の配電線電圧分布を示す説明図。
【
図20】従来の90リレーにおける電流実効値演算の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。以下の実施例では、本発明を、1次側が上位系統に、2次側が配電系統に各々接続された変圧器のタップを切り替えて配電線の電圧を制御する90リレー(電圧調整用継電器)に適用した実施例を説明するが、本発明はこれに限らず90リレーと同様の機能を有した装置に適用してもよい。
【実施例1】
【0033】
本実施例1では、90リレー(電圧調整用継電器)の電圧−電流特性を、従来の
図17の特性に代えて、
図1に示すように負の電流領域に拡張し、順潮流時は正の電流、逆潮流時は負の電流として演算することで、逆潮流時に適切な電圧制御を行うことができるように構成した。
【0034】
90リレーに導入される電流の実効値演算は、従来は
図20のように配電線電流を変流器などにより検出した瞬時値を電流実効値演算部11によって実効値演算し、正の電流実効値(符号なし実効値)としていた。
【0035】
これに対し本発明では、実効値演算結果に負の値を持たせるために、
図2に示すように、配電線の電圧(検出電圧の瞬時値)と電流(検出電流の瞬時値)の位相差を位相差演算部12で演算し、その位相差に基づいて、逆潮流リレー(逆潮流継電器)13によって潮流の向きを判定し、順潮流時は1(正符号)、逆潮流時は−1(負符号)を各々出力し、それら正又は負の符号を、乗算器14において前記電流実効値演算部11で演算された正の電流実効値に掛け合わせて、負方向に拡張された実効値、すなわち符号付電流実効値とする。
【0036】
本実施例1における90リレーの電圧−電流特性は
図1に示すように、符号付電流実効値の最小値I
MIN(負値)から最大値I
MAX(正値)にかけて上昇する電圧特性に整定されている。
【0037】
尚、前記電圧−電流特性の傾き度合いは任意に設定するものである。
【0038】
前記逆潮流リレー13の特性は、横軸を実軸、縦軸を虚軸とする複素平面を表す
図3のように、電圧と電流の位相差が90度未満の場合は順潮流であると判定し、90度以上の場合は逆潮流であると判定する。
【0039】
上記実施例1の構成(
図1、
図2)により配電線の電圧を制御した場合と、従来の90リレー(
図17)により配電線の電圧を制御した場合を
図4の電圧−電流特性図とともに説明する。
【0040】
図4において、従来の90リレーでは、逆潮流が発生していると、潮流方向を考慮した実際の電流としてはAの状態であるにも関わらず、Bと判定してしまい、電圧はCに制御される。一方で、本実施例1によると、符号付電流実効値により電流をAと判定するため、Cよりも低い電圧のDに制御することができる。このため、配電系統の電圧上昇を起こしにくくすることができる。
【0041】
尚、90リレーの電圧−電流特性は、
図1におけるI
MINの整定を正にすることで、順潮流時は従来通りに変圧器のタップ切り替え制御を行い、逆潮流時は動作ロックを行うような特性を実現することも可能である。
【0042】
尚、前記実効値演算部11、位相差演算部12、逆潮流リレー13および乗算器14は、90リレー(電圧調整用継電器)に内蔵されていてもよい。
【実施例2】
【0043】
前記実施例1によって配電線電圧を制御した場合、
図5の電流位相特性に示すように、配電線電流に無効電流成分が多く含まれると、潮流の向きが変わる前後において、電流が値を持った状態で符号が変化する(
図2の乗算器14の出力が変化する)ジャンプが発生する可能性がある。
【0044】
そこで本実施例2では、90リレーの電圧−電流特性に、
図6に示すように、順逆潮流の境目に不感帯を持たせるように構成した。
図6において、90リレーの出力電圧整定値は、符号付電流実効値が零に近い正側および負側を含む設定範囲、すなわち負側最小設定値I
N_MINから正側最小設定値I
P_MINまでの範囲を、出力電圧を増減させない(不感帯)領域として設定している。
【0045】
上記実施例2の構成(
図6)により配電線の電圧を制御した場合と実施例1の90リレー(
図1)により配電線の電圧を制御した場合を
図7の電圧−電流特性図とともに説明する。
【0046】
図7において、順潮流と逆潮流の間を行き来するような状態の時に、実施例2の方式ではAとA’の間を行き来することになる。実施例1ではそれに伴い電圧はBとB’の間で制御を行ってしまうために電圧変動の原因となるが、実施例2では電流A⇔A’間で電圧の目標値が変わらないため、安定した制御結果を得ることができる。
【0047】
以上のように実施例2によれば、90リレーの電圧−電流特性に電流ゼロ付近の不感帯領域を設けているため、順潮流と逆潮流で配電線電圧特性の異なる系統や無効電力の多い系統において、電圧制御効果が高められる。
【実施例3】
【0048】
実際の配電線では、
図19のように直線的に電圧が変化するのではなく、負荷や再生可能エネルギー電源の分布によって
図8に示すようにカーブを持って変化することが多く、順潮流側と逆潮流側で90リレーの特性を変更した方が望ましい場合がある。
【0049】
図8は順潮流と逆潮流で配電線の電圧特性が異なる例を表し、
図8(b)の横軸は距離、縦軸は電圧の大きさを示している。
図8は、変電所の電流に対する配電線末端の電圧変化が、順潮流側よりも逆潮流側の方が大きい例を示している。
【0050】
このような場合、90リレーの電圧−電流特性の勾配を、逆潮流側できつくした方が良好な電圧制御が行える。
【0051】
そこで本実施例3では、90リレーの電圧−電流特性を
図9に示すように、符号付電流実効値の負側最大値I
N_MAXから負側最小値I
N_MINまでの範囲で電圧−電流特性の勾配を急に設定した。その他の電流範囲内(負側最小値I
N_MINから正側最大値I
P_MAXまでの範囲内)は
図6と同様に設定されている。
【0052】
図9の特性によって電圧制御を行うことにより、変電所の電流に対する配電線末端の電圧変化が、順潮流側よりも逆潮流側の方が大きい場合に、良好な電圧制御が行える。
【0053】
尚、90リレーの電圧−電流特性において、実施例2(
図6)における不感帯領域の設定幅や、実施例3(
図9)における急勾配の傾き度合いおよび急勾配領域の範囲は、
図6、
図9に限らず任意に設定するものである。
【実施例4】
【0054】
配電線の電流が小さい領域では、相対的に検出誤差が大きくなり
図2の位相差演算部12の演算結果に誤差がでやすい。また、微小な電流変化により順潮流⇔逆潮流間のハンチングを起こす場合もある。そこで本実施例4では、
図10に示すように、逆潮流リレー23の入力に電流実効値演算部11で演算された正の電流実効値を追加し、逆潮流リレー23の特性を、横軸を実軸、縦軸を虚軸とする複素平面を表した
図11のように、電圧と電流の位相差が90度以上で且つ電流実効値が設定値より小さい場合に不感帯を持つ特性とした。そしてこの不感帯領域では順潮流と判定し「1」を出力するものである。
【0055】
このように逆潮流リレー23の特性を、不感帯を有した
図11の特性とすることにより、前記誤差によって逆潮流リレー23が潮流方向を誤って判定することは防止される。また、微小な電流変化によっても引き起こされる順潮流⇔逆潮流判定のハンチングを防ぐことができ、逆潮流発生を警報出力する場合に不要な発報を防ぐこともできる。
【0056】
尚、
図11のように逆潮流リレー23の特性に不感帯を設けても、その不感帯は電流が小さい範囲であるため、90リレーの電圧−電流特性上あまり目標電圧は変わらないことから、不感帯とすることによる問題は生じない。
【実施例5】
【0057】
本実施例5では、逆潮流リレーの潮流方向判定結果を、実施例1〜実施例4のように正、負符号の出力とすることに代えて、
図12に示すように、90リレーにおける目標電圧演算部の90リレー特性切替信号として用いることで、電流実効値を負側に拡張しなくても本発明の効果が得られるように構成した。
図12において、
図2、
図10と同一部分は同一符号をもって示している。
【0058】
30は90リレーにおける目標電圧演算部であり、電流実効値演算部11で演算された電流(符号なし実効値)を入力とし、90リレーの電圧−電流特性に沿った目標電圧を出力する。
【0059】
この目標電圧演算部30で用いる90リレーの電圧−電流特性は、
図13に示すように順潮流と逆潮流の2種類の特性を有しており、順潮流特性は、
図6の正電流領域に示す正側最小設定値I
P_MINに相当する第1の最小設定値から正側最大設定値I
P_MAXに相当する第1の最大設定値にかけて上昇する特性に整定され、逆潮流特性は、
図6の負電流領域に示す負側最小設定値I
N_MINの絶対値に相当する第2の最小設定値から負側最大設定値I
N_MAXの絶対値に相当する第2の最大設定値にかけて下降する特性に整定されている。
【0060】
また、順潮流特性におけるI
P_MINに相当する第1の最小設定値から電流零までの範囲と、逆潮流特性におけるI
N_MINの絶対値に相当する第2の最小設定値から電流零までの範囲とを、出力電圧を増減させない(不感帯)領域として設定している。
【0061】
したがって、
図13の順潮流特性は
図6の正電流領域の電圧特性と等価であり、逆潮流特性は
図6の負電流領域の電圧特性と等価である。
【0062】
33は、位相差演算部12で演算された位相差に基づくか、又は前記位相差および電流実効値演算部11で演算された正の電流実効値に基づいて、潮流の向きを判定し、その判定結果に応じて特性切替指令(切替信号)を出力し、判定結果が順潮流であるときは目標電圧演算部30の90リレー特性を順潮流特性に切り替え、判定結果が逆潮流であるときは目標電圧演算部30の90リレー特性を逆潮流特性に切り替える逆潮流リレーである。
【0063】
前記逆潮流リレー33の入力を、位相差演算部12の出力のみとした場合は、前記
図3に示すリレー特性となる。また、前記逆潮流リレー33の入力を、電流実効値演算部11と位相差演算部12の両方の出力とした場合は、前記
図11に示す不感帯を有したリレー特性となり、この不感帯領域では順潮流と判定するものである。
【0064】
上記のように構成することにより、電流実効値に符号のない従来の演算方式のままで本発明の効果を得ることができる。
【0065】
尚、目標電圧演算部30に設定される90リレーの電圧−電流特性(順潮流特性、逆潮流特性)の傾き度合いは任意に設定されるものである。例えば
図13の逆潮流特性を、
図9の負電流領域の電圧特性のように特性勾配を急に設定してもよい。
【実施例6】
【0066】
前記実施例では、逆潮流リレー13、23の逆潮流判定を
図3、
図11の複素平面の左側の部分、すなわち電圧と電流の位相差が90度以上の場合(
図11では不感帯を除いた部分)に逆潮流であると判定していた。
【0067】
実際には、リレー演算(位相差演算部12の演算)においては、位相角計算結果に誤差が含まれるため、誤った潮流判定を行う可能性がある。
【0068】
例えば、複素平面上で電圧と電流の位相差を示す
図14において、電流Iの真の位相角がA点であるにも関わらず、位相差演算部12の演算誤差によりB点と算出した場合、順潮流であるにも関わらず逆潮流と判定してしまう。
【0069】
そこで本実施例6では、複素平面上で逆潮流リレーの特性を示す
図15のように、逆潮流側の判定位相角に余裕を持たせ、電圧と電流の位相差が90°+α°(α°は設定した裕度)以上の場合に逆潮流であると判定し、それ以外の場合は順潮流と判定するように構成した。
【0070】
また、
図11のように不感帯を持たせたリレー特性においても、複素平面上で逆潮流リレーの特性を示す
図16のように、逆潮流側の判定位相角に余裕を持たせ、電圧と電流の位相差が90°+α°(α°は設定した裕度)以上の場合に逆潮流であると判定し、それ以外の場合は順潮流と判定するように構成した。
【0071】
図15、
図16のように、逆潮流側の位相角に裕度α°を持たせる(逆潮流リレーの特性を、逆潮流検出側にα°オフセットした特性とする)ことによって、前記
図14のように電流Iの真の位相角がA点であるにも関わらず、位相演算部12でB点と算出してしまった場合でも、逆潮流リレーにおいて誤って逆潮流であると判定することはない。
【0072】
前記裕度α°は、例えば基本波特性の位相管理値を基に周波数変動による更なる位相誤差を考慮して設定するものである。
【符号の説明】
【0073】
11…電流実効値演算部
12…位相差演算部
13、23、33…逆潮流リレー
14…乗算器
30…目標電圧演算部