(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188511
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】フラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20170821BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20170821BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22C21/00 J
C22C21/00 E
C22C21/00 D
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-195074(P2013-195074)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-58466(P2015-58466A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
【審査官】
大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−126986(JP,A)
【文献】
特開昭52−101651(JP,A)
【文献】
特開昭50−070251(JP,A)
【文献】
特開昭51−138562(JP,A)
【文献】
特開昭61−007088(JP,A)
【文献】
特開2013−123749(JP,A)
【文献】
特開2012−050992(JP,A)
【文献】
特開2013−233552(JP,A)
【文献】
特開2013−220435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6〜13%(質量%、以下同じ)のSiを含有し、Li:0.004〜0.2%、Be:0.004〜0.2%、Ca:0.001〜0.1%、Ba:0.001〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドし、ろう材の表面にSi含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限し、残部Alおよび不可避的不純物からなる表層材を0.2〜1.0%のクラッド率で設けてなり、表層材はろう付け時に溶融したろう中に溶解して消滅するものであることを特徴とするフラックスレスろう付け用アルミニウ合金ブレージングシート。
【請求項2】
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、9〜13%のSiを含有し、Li:0.004〜0.2%、Be:0.004〜0.2%、Ca:0.001〜0.1%、Ba:0.001〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドし、ろう材の表面にSi含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限し、残部Alおよび不可避的不純物からなる表層材を0.2〜2.0%のクラッド率で設けてなり、該ろう材の厚さが該表層材の厚さの4倍以上であり、表層材はろう付け時に溶融したろう中に溶解して消滅するものであることを特徴とするフラックスレスろう付け用アルミニウ合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記ろう材が、さらにBi:0.004〜0.2%、Sr:0.002〜0.05%、Sb:0.003〜0.07%のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
前記ろう材が、さらにMg:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
前記ろう材が、さらにZn:2.5〜8%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項6】
前記心材がMg:0.2〜1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記心材がMg:0.2〜1.3%を含有し、更に、Fe:1.0%以下、Mn:0.5〜1.8%、Si:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
前記表層材が、さらにZn:2.5〜10%を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項9】
前記表層材の平均結晶粒径が300μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、表層材とろう材との界面、ろう材と心材との界面のうち少なくとも表層材とろう材との界面に、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末、あるいは、アルミニウムとの間で共晶組成を有し、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い共晶温度を有する金属粉末を介在させ、金属粉末の固相線温度以上あるいは共晶温度以上に加熱して、金属粉末中に液相を生じせしめ、少なくともろう材および表層材を接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とするフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項11】
請求項5記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、ろう材が、更に、Zn:2.5〜8%を含有してなり、心材、ろう材および表層材を積層し、積層材を525〜575℃の温度に加熱して、ろう材中に液相を生じせしめ、表層材とろう材およびろう材と心材を接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とするフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製の熱交換器や機械用部品など、細かな接合部を多数有する製品の接合方法としてろう付け接合が広く用いられている。アルミニウム(アルミニウム合金を含む)をろう付け接合するには、表面を覆っている酸化皮膜を破壊して、溶融したろう材を母材あるいは同じく溶融したろう材に接触させることが必須であり、酸化皮膜を破壊するためには、大別してフラックスを使用する方法と真空中で加熱する方法とがあり、いずれも実用化されている。
【0003】
ろう付け接合の適用範囲は多岐に及んでいるが、最も代表的なものとして自動車用熱交換器がある。ラジエータ、ヒータ、コンデンサ、エバポレータ等の自動車用熱交換器の殆どはアルミニウム製であり、その殆どがろう付け接合によって製造されており、そのうち、非腐食性のフラックスを塗布して窒素ガス中で加熱する方法が現在では大半を占めている。
【0004】
近年、電気自動車やハイブリッドカー等での駆動系の変更により、例えばインバータ冷却器のように電子部品を搭載した熱交換器が登場し、フラックスの残渣が問題視されるケースが増えてきている。そのため、インバータ冷却器の一部はフラックスを使用しない真空ろう付け法によって製造されているが、真空ろう付け法は加熱炉の設備費とメンテナンス費が高く、生産性やろう付けの安定性にも問題のあることから、窒素ガス炉中でフラックスを使用しないで接合するニーズが高まっている。
【0005】
このニーズに応えるため、先に発明者は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付け接合する手法として、Mgを含有する心材にLiを添加したAl−Siろう材をクラッドしたブレージングシートを用いる方法を提案した。ろう材に添加したLiと心材から拡散するMgは、ろう材表面のアルミニウム酸化皮膜中に独自の酸化物を形成し、アルミニウム酸化皮膜の破壊を促進する効果を有し、窒素ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくろう付け接合することが可能になる。
【0006】
しかしながら、例えば自動車用熱交換器においてタンクに嵌合されるチューブ継手など、フィレット形成が難しい継手の形成においては、フラックスを用いたろう付け(ノコロックろう付け)によるフィレット形成能力に及ばないため、継手のクリアランスに高い精度が要求されるという問題がある。
【0007】
フラックスを用いたろう付けとフラックスレスろう付けを比較した場合、両者のろう付け性の差は、フラックスによるアルミニウム酸化皮膜の剥離作用にあり、フラックスは、アルミニウム酸化皮膜の亀裂からろう材と酸化皮膜の界面に侵入し、アルミニウム酸化皮膜を取り囲むようにして酸化皮膜をろう材から剥離するものと推定される。
【0008】
このため溶融したろう材は酸化皮膜による拘束を受けることなく、自由にフィレットを形成することができる。フラックスを用いることなく、フラックスろう付けと同等のフィレット形成能力を実現するには、ろう材表面のアルミニウム酸化皮膜を破壊するだけでなく、ろう材表面から剥離する(ろう材と酸化皮膜を分離させる)作用を付加することが不可欠であると考えられる。
【0009】
発明者らは、アルミニウム酸化皮膜をろう材表面から剥離する(ろう材と酸化皮膜を分離する)手法を見出すために、試験、検討を行い、ろう付け加熱時のろう材の溶融に伴って、アルミニウム酸化皮膜を形成しているろう材の最表層を物理的に溶解破壊すると同時に、Liの酸化反応を利用して化学的に脆弱化させ、更には最表層をろうの融液中に完全に溶解させて、アルミニウム酸化皮膜を形成していた土台を実質的に消滅させると、最表層に形成されていたアルミニウム酸化皮膜は土台を失って浮遊した状態になるため、溶融ろうのフィレット形成を妨げないようになり、その結果、フラックスを使用したろう付けに匹敵するフィレット形成能力が得られること、そのためには、ろう材の表面に、ろう付け時に溶解消失する表層材を配置すべきことを見出した。
【0010】
ろう材の表面に表層材を配置することは過去にも提案されているが、これらの提案は、上記のように、アルミニウム酸化皮膜をろう材表面から剥離することを目的としてなされたものではないため、酸化皮膜を脆弱化させることができず、十分なろう付け性を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2012−105797号
【特許文献2】特開2001−300762号公報
【特許文献3】特開2003−126986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の知見に基づいてさらに試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付け接合することができ、フラックスを用いたろう付けと同等以上の優れたろう付け性を得ることを可能とするフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項2によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート、
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、9〜13%
のSiを含有し、Li:0.004〜0.2%、Be:0.004〜0.2%、Ca:0.001〜0.1%、Ba:0.001〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドし、ろう材の表面にSi含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限し、残部Alおよび不可避的不純物からなる表層材を0.2〜2.0%のクラッド率で設けてなり、
該ろう材の厚さが
該表層材の厚さの4倍以上であ
り、表層材はろう付け時に溶融したろう中に溶解して消滅するものであることを特徴とする。
【0014】
請求項2によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1において、前記ろう材のSi含有量が9〜13%で、前記表層材を0.2〜2.0%のクラッド率で設けてなり、前記ろう材の厚さが前記表層材の厚さの4倍以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項3によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1または2において、前記ろう材が、さらにBi:0.004〜0.2%、Sr:0.002〜0.05%、Sb:0.003〜0.07%のうちの1種以上を含有することを特徴とする。
【0016】
請求項4によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記ろう材が、さらにMg:0.05〜0.4%を含有することを特徴とする。
【0017】
請求項5によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記ろう材が、さらにZn:2.5〜
8%を含有することを特徴する。
【0018】
請求項6によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記心材がMg:0.2〜1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0019】
請求項7によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜
5のいずれかにおいて、前記心材が
Mg:0.2〜1.3%を含有し、更に、Fe:1.0%以下、Mn:0.5〜1.8%、Si:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0020】
請求項8によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜7のいずれかにおいて、前記表層材が、さらにZn:2.5〜10%を含有することを特徴とする。
【0021】
請求項9によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜8のいずれかにおいて、前記表層材の平均結晶粒径が300μm以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項10によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1〜9のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、表層材とろう材との界面、ろう材と心材との界面のうち少なくとも表層材とろう材との界面に、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末、あるいは、アルミニウムとの間で共晶組成を有し、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い共晶温度を有する金属粉末を介在させ、金属粉末の固相線温度以上あるいは共晶温度以上に加熱して、金属粉末中に液相を生じせしめ、少なくともろう材および表層材を接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【0023】
請求項11によるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項
5記載のアルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法であって、ろう材が
、更に、Zn:2.5〜8%を含有してなり、心材、ろう材および表層材を積層し、積層材を525〜575℃の温度に加熱して、ろう材中に液相を生じせしめ、表層材とろう材およびろう材と心材を接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付け接合することができ、フラックスを用いたろう付けと同等以上の優れたろう付け性を得ることを可能とするフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6〜13%のSiを含有し、Li:0.004〜0.2%、Be:0.004〜0.2%、Ca:0.001〜0.1%、Ba:0.001〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドし、ろう材の表面にSi含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限し、残部Alおよび不可避的不純物からなる表層材をクラッドしてなり、表層材はろう付け時に溶融したろう中に溶解して消滅するものであることを特徴とする。
【0027】
本発明で用いるろう材は、Si:6〜13%を含有し、Li:0.004〜0.2%、Be:0.004〜0.2%、Ca:0.001〜0.1%、Ba:0.001〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる。Si:6〜13%は実用的なろう材の成分値であり、Siが6%未満では、ろうが不足するとともに流動性も劣るためろう材としての機能が不十分となり、Siが13%を超えると、過剰なろうによって母材の溶解量が増し、ろう材中に粗大な初晶Siが形成され易くなるため、ろう付け時に溶融穴を発生する危険性が高まる。また、ブレージングシート製造時の熱間クラッド圧延において局部溶融に起因して圧延割れが生じるおそれもある。
【0028】
Li、Be、Ca、Baはアルミニウム酸化皮膜を脆弱化するよう機能する成分であり、それぞれ下限値未満ではその効果が十分でなく、それぞれ上限値を超えて含有すると、それらの酸化物が表面を覆うように形成され、ろう付け性が低下するようになる。
【0029】
ろう材中には、ろうの表面張力を低下させたり、流動性を向上させて、ろう付け性を改善するために、Bi:0.004〜0.2%、Sr:0.002〜0.05%、Sb:0.003〜0.07%のうちの1種以上を含有させることができる。それぞれ下限値未満ではその効果が十分でなく、それぞれ上限値を超えて含有すると、ろう材の変色が著しくなったり、間隙充填性に悪影響が出るようになる。
【0030】
また、ろう材中にMg:0.05〜0.4%を含有させることによって、特に短時間加熱におけるアルミニウム酸化皮膜の脆弱化を促進することができる。下限値未満ではその効果が十分でなく、上限値を超えて含有すると、表層に拡散したMgがMgOを形成してろうの濡れ性を阻害したり、溶融ろうの表面張力を過度に低下させて間隙充填性に悪影響を及ぼしたりする。
【0031】
さらに、Znによる濃度勾配が形成し腐食を層状に進行させて貫通寿命を向上させる効果を得るために、ろう材にはZn:2.5〜6%を含有させることもできる。下限値未満ではその効果が十分でなく、上限値を超えて含有すると、ろう付け部が優先的に腐食するようになり、貫通寿命に悪影響を及ぼす。
【0032】
心材については、Mg:0.2〜1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を適用することができる。心材のMg含有量が0.2%未満では、ろう材酸化皮膜の脆弱化効果が乏しくなり、1.3%を超えると心材の融点が下がってろう付け接合が困難になる。
【0033】
心材として、Fe:1.0%以下、Mn:0.5〜1.8%、Si:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を適用することもできる。また、このアルミニウム合金に前記Mg:0.2〜1.3%を含有させることもできる。
【0034】
Mnは強度向上と電位の調整に有効であるが、1.8%を超えて含有すると材料圧延時に割れが生じ易くなる。Siは強度向上に有効であるが、1.0%を超えると融点が低下してろう付け性に悪影響を及ぼす。Feは強度向上に有効であるが、1.0%を超えると、耐食性に悪影響が生じるとともに巨大析出物も発生し易くなる。
【0035】
Cuは強度向上と電位調整に有効であるが、0.5%を超えると粒界腐食し易くなり、融点も低下するので好ましくない。Znは電位の調整に有効であるが、0.5%を超えると自然電極電位が低下し過ぎて腐食による貫通寿命が短くなる。Tiは腐食を層状に進行させる上で有効であるが、0.2%を超えると巨大析出物が生成し易くなり、圧延性や耐食性に支障が生じる。Zrは結晶粒径を大きくする上で有効であるが、0.5%を超えると材料製造時に割れが生じ易くなる。
【0036】
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう付け時に溶解、消失する表層材の作用、効果について説明すると、Al−Si二元系ろう材の溶融は、ろう材中のSi粒子とSi粒子を取り囲むアルミニウムとの共晶溶融反応によって共晶温度の577℃で進行する。溶融ろうはSi粒子の存在していた部分を中心に三次元的に広がっていくため、溶融の初期段階においては、溶融ろうの多い部分(ろう材中の残留固相が少ない部分)と溶融ろうの少ない部分(ろう材中の残留固相が多い部分)が存在する。
【0037】
ろう材中のSi濃度が共晶組成(Si:12.6%)未満の場合は、577℃より温度が上昇しても溶融ろうの多い部分と溶融ろうの少ない部分が存在し、Si濃度が共晶組成を超える場合は、577℃より温度が上昇してもSi粒子が多く存在する部分に発生した溶融ろう中のSi濃度が他の部分に比べてやや高くなるというSi濃度差が僅かな時間において生ずる。ろう材中のSi濃度が共晶組成の場合も、Si粒子の存在位置に応じた溶融ろうの量の差あるいは溶融ろう中のSi濃度差が発生する。
【0038】
アルミニウムの溶解速度は溶出する液相の濃度と量に影響されるため、ろう材の表面に位置する表層材には溶解が速く進む部分と遅く進む部分とが存在することになる。溶解が速く進行する部分では、表面のアルミニウム酸化皮膜の直下の表層材が溶融ろう中に溶出するときの駆動力と溶融ろう自体の流動(初期流動)による駆動力の両方の影響を受けて物理的な破壊が進行すると同時に、溶融ろう中のLiや、心材から拡散してきたMgによる酸化物形成の影響で急激に脆弱化するため、ろうのフィレット形成を妨げる抗力を失う。
【0039】
このようにして、アルミニウム酸化皮膜が脆弱化する領域は、平面的に見れば温度の上昇に伴って面積を拡大するとともに網の目状に連結していく。この不均一で非平衡的な脆弱化の進展こそが、アルミニウム酸化皮膜の破壊と遊離に効果的に作用する。平面的に取り囲まれた非脆弱化領域(アルミニウム酸化皮膜直下の表層材の溶解が完了していない領域)も温度の上昇に伴って脆弱化が進展して面積を縮小化するが、全面が脆弱化するには表層材が全て溶融ろう中に溶解しなければならず、そのため表層材の厚さが制限されることになる。
【0040】
フィレットの形成は、ろう材と相手材が接触した部分を起点として開始され、溶融ろうはその起点に向けて流動する。そのため、フィレット形成の起点にはより多くの融液が集まるため、表層材の溶解とそれによるアルミニウム酸化皮膜の脆弱化はフィレット形成の起点の近傍ではすばやく進行し、フィレットの成長とともに脆弱域が拡大するため、アルミニウム酸化皮膜はフィレット形成の抗力として機能しない。但し、その場合においても、脆弱化が速やかに進行する必要があり、表層材の厚さが制限されることになる。
【0041】
実用的あるいはよく使用されているブレージングシートにおけるろう材のクラッド率は5〜15%の範囲にあり、ろう材の厚さとしては0.005〜0.1mmである。ろう材中のSi濃度は6〜13%の範囲にあり、ろう付け時の到達温度は585〜610℃の範囲にある。表層材を完全に溶融ろう中に溶解させるには上記のパラメータのすべてが影響するが、計算と実験結果から、表層材のクラッド率を0.2〜1.0%に制限することにより表層材の完全な溶解を実現できることが確認された。また、ろう材中のSi含有量が9〜13%の範囲にあり、ろう材厚さが表層材の厚さの4倍以上である条件下では、表層材を完全溶解させるためのクラッド率は最大で2.0%まで許容できることが確認された。
【0042】
表層材の完全な溶解は、フィレットを形成させる部位においても重要であるが、面状に接合する部位(面接合部)においてはさらに重要となる。面接合部において表層材の溶解が完了していない領域(非脆弱化領域)が存在すると、溶融ろうはその部位で面接合することなく、周囲の接合領域と連通する他の部位、例えばフィレット形成部に向けて流動する確率が高くなる。この流動は毛細管現象によるもので、溶融ろうが一体となってより平衡な状態へと位置を変動することを意味する。
【0043】
洩れ不良の完全な防止や熱伝導性の確保のために、完全な面接合状態が要求される製品においては、非脆弱化領域の残存は致命的な問題ともなる。また、フィレット形成部における非脆弱化領域の残存は、フィレット形成を妨げてフィレット形状を不安定にしたり、フィレット切れ等の不良を発生する要因ともなる。そのため表層材の厚さが制限されることになる。
【0044】
一方、ろう付け時に溶解消失する表層材において、アルミニウム酸化皮膜の成長や溶解よりも溶融が優先することは、アルミニウム酸化皮膜の物理的破壊の点で好ましくない。そのため表層材の組成においては、Si含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限する。Znも固相線温度を低下させる元素であるが、Znの単独添加であればその影響は少ないため、Zn:2.5〜10%を耐食性向上のために含有させることができる。
【0045】
表層材がZnを含有していると、ろう付け加熱中にZnが蒸発して近傍の部材に付着し、そこから部材内部へ拡散してZnの濃度勾配が形成される。例えば、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートがチューブを構成する部材の場合、表層材から蒸発したZnはチューブ材と接合する外面フィンの表面に到着してフィンの内部に向けて拡散する。そのためフィンは犠牲陽極効果を発揮し、また、チューブにおいても、蒸発しなかったZnによる濃度勾配が形成されるため、腐食が層状に進行して貫通寿命が延びる。
【0046】
本発明においては、また、表層材の平均結晶粒径を300μm以下にすることにより、表層材が溶融ろうに溶出する際のアルミニウム酸化皮膜の亀裂の進展(結晶粒界に沿った進展)を促し、脆弱化を促進させることができる。
【0047】
本発明では、表層材のクラッド率を0.2〜2.0%としている。このように低いクラッド率は、工場における実生産においては、皮付け性に劣るため、熱間クラッド圧延時に剥離したり破れたりして製造が難しい場合もあり、クラッド材を確実に得るために、表層材とろう材との界面、ろう材と心材との界面のうち少なくとも表層材とろう材との界面に、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末、あるいは、アルミニウムとの間で共晶組成を有し、表層材、ろう材および心材の固相線温度よりも低い共晶温度を有する金属粉末を介在させ、金属粉末の固相線温度以上あるいは共晶温度以上に加熱して、金属粉末中に液相を生じせしめ、少なくともろう材および表層材を接合した後、熱間クラッド圧延する方法を採ることが望ましい。
【0048】
また、Cu:1.0〜3.5%、Zn:2.5〜8%を含有してなるろう材を使用し、心材、ろう材および表層材を積層し、積層材を525〜575℃の温度に加熱して、ろう材中に液相を生じせしめ、表層材とろう材およびろう材と心材を接合した後、熱間クラッド圧延する方法を適用することもできる。このように、熱間クラッド圧延前に、心材、ろう材、表層材の界面を溶融拡散接合することによって、従来法では製造困難であった低クラッド率のクラッド材の製造が容易となる。
【0049】
また、本発明においては、前記のように、耐食性を向上させるために、表層材に10%までの多量のZnを含有させることができる。従来、Zn含有量が8%を超えると熱間クラッド圧延時に割れが生じ易かったが、この問題は界面を溶融拡散接合することによって解消され、最大10%までのZnの含有が可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有する心材、ろう材および表層材を連続鋳造により造塊し、心材については、鋳塊を所定の厚さまで面削し、ろう材と表層材については、鋳塊を所定厚さまで熱間圧延し、心材の片面にろう材と表層材を積層して熱間クラッド圧延し、冷間圧延を経て厚さ0.4mmのアルミニウム合金ブレージングシート(3層材)を作製した。表層材の平均結晶粒径は、S1が300μm、S2が400μm、S3が250μm、S4が180μm、S5が220μm、S6が120μm、S7が110μmであった。なお、表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0052】
表2に示す組成を有する金属粉末はガスアトマイズ法により直径150μm以下に調製されたものを準備した。金属粉末P1はそれ自身の固相線温度が低いもの、金属粉末P2はアルミニウムとの間で低い共晶温度を有するものである。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
一部については、熱間圧延したろう材の上面に金属粉末を配置して、表層材を被せて治具に固定し、窒素ガス雰囲気炉中で所定温度まで加熱して金属粉末を溶融させ、ろう材と表層材を接合した。接合したろう材と表層材を面削した心材の上に積層して、熱間クラッド圧延し、冷間圧延を経て厚さ0.4mmのアルミニウム合金ブレージングシートを作製した。
【0056】
得られたアルミニウム合金ブレージングシートについて、以下の方法に従って間隙充填試験を実施した。
間隙充填試験:脱脂処理後、弱酸でエッチング処理したブレージングシートを水平材とし、3003合金板(厚さ1mm)を垂直材として
図1に示すように組み付けて間隙充填試験片を構成した。内容積0.4m
3の予熱室とろう付け室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用し、間隙充填試験片をろう付け室に装入し、到達温度595℃でろう付け接合した。ろう付け条件は、窒素ガス炉の各室に20m
3/hの窒素ガスを送り込み、450℃から595℃までを約5分で昇温した。加熱終了時のろう付け室の酸素濃度は7〜13ppmであった。ろう付け室にて間隙充填試験片の温度が595℃に到達したら間隙充填試験片を予熱室に移し、予熱室にて570℃まで冷却後、間隙充填試験片を取り出して大気中で冷却した。
【0057】
ろう付け後の試験片に形成されたフィレットの長さとフィレット形状の安定性を3個の試験片で評価し、フィレットの長さが30mm以上で形状が均一なものを優秀(◎)、フィレットの長さが25mm以上で形状が均一なものを実用可能(○)、フィレットの長さが25mm以上で形状が不均一なものまたはフィレットの長さが20mm以上25mm未満のものを実用困難(△)、フィレットの長さが20mm未満のものを不良(×)と評価した。
【0058】
3個のうち2個については、塩水噴霧試験(JIS Z2371に準拠、試験液:5%NaCl、pH:6.8、試験温度:35℃)を実施し、腐食発生部を断面観察して耐食性を評価した。評価は◎(優秀)、○(実用可能)、△(実用困難)とした。結果を表3、表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表3に示すように、本発明に従う試験材1〜36はいずれも、フラックスを用いた場合のろう付け性に匹敵する優れたろう付け性をそなえ、耐食性にも優れていた。
【0062】
これに対して、表4に示すように、試験材101は表層材のSi量とCu量が多いため、ろう材の溶融前に表層材の溶融が進行する結果として、表層材表面のアルミニウム酸化皮膜が十分に除去できず間隙充填試験においてフィレットの形成が不安定となった。試験材102は表層材のMg量が多いため、表層材表面にMgOが形成されてろう付け性が阻害された。試験材103はろう材のSi量が少ないため、間隙充填試験においてフィレットが十分に形成されなかった。
【0063】
試験材104はろう材のLi量が少なく、試験材106はろう材のBe量が少なく、試験材108はろう材のCa量が少なく、試験材110はろう材のBa量が少ないため、いずれも間隙充填試験においてフィレットが短く且つ不均一となり、実用困難なものとなった。
【0064】
試験材105はろう材のLi量が多く、試験材107はろう材のBe量が多く、試験材109はろう材のCa量が多く、試験材111はろう材のBa量が多く、また、試験材112はろう材のBi量が多く、試験材113はろう材のSr量が多く、試験材114はろう材のSb量が多いため、いずれも間隙充填試験においてフィレット形状が不均一となり、実用困難なものとなった。
【0065】
試験材115はろう材のSi量が多いため、熱間クラッド圧延で割れが生じた。試験材116は心材のMg量が多いため、間隙充填試験において心材にエロージョンが生じた。試験材117は表層材の結晶粒径が大きいため、酸化皮膜の脆弱化が不十分となり、ろう付け性が劣っていた。試験材118は表層材を2.0%のクラッド率で設けたにもかかわらず、ろう材の厚さが表層材の厚さの4倍未満であったため、表層材が溶解消滅せず残存し、ろう付け性に劣る結果となった。