【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、以下の実施例及び比較例における、複合粒子のXPSの測定方法、複合粒子の灰分の測定方法、並びに、複合粒子の個数平均粒子径及び粒子径の変動係数の測定方法を説明する。
【0054】
〔複合粒子のXPSの測定方法〕
複合粒子に含まれる複合酸化物粒子がリン及びアンチモンの少なくとも一方でドープされた酸化スズを含む場合、複合粒子のX線光電子分光(以下、「XPS」と略記する)の測定は、アルバック・ファイ株式会社製のX線光電子分光装置、商品名「Quantera II」を用いて行った。
【0055】
XPSの測定条件は、
X線源の線種:単色化AlKα線(エネルギー1486.6eV)
検出領域のサイズ:直径100μm
検出深さ:約4〜5nm(取出角45°)
測定スペクトル:ワイドスペクトル、Sn3d5/2ナロースペクトル、O1sナロースペクトル、C1sナロースペクトル
とした。
【0056】
XPSによる、複合粒子表面に存在するSn、O、及びCの各元素の存在量の定量は、各元素の光電子ピーク(Sn3d5/2ピーク、O1sピーク、及びC1sピーク)の面積(ピーク面積)をもとに行った。各元素のピーク面積は、その元素の存在量(at%(原子濃度))および注目電子の感度に比例するので、ピーク面積Aを相対感度係数RSFで割った値は元素の存在量に比例した値となる。よって、Sn、O、及びCの存在量(定量値)は、Sn、O、及びCの存在量の和を100at%とした相対定量によると、次式
C
Sn=(A
Sn/RSF
Sn)/{(A
Sn/RSF
Sn)+(A
O/RSF
O)+(A
C/RSF
C)}
C
O=(A
O/RSF
O)/{(A
Sn/RSF
Sn)+(A
O/RSF
O)+(A
C/RSF
C)}
C
C=(A
C/RSF
C)/{(A
Sn/RSF
Sn)+(A
O/RSF
O)+(A
C/RSF
C)}
(上記式中、C
Sn、C
O、及びC
CはそれぞれSn、O、及びCの存在量(at%)を表し、A
Sn、A
O、及びA
CはそれぞれSn、O、及びCのピーク面積を表し、RSF
Sn、RSF
O、及びRSF
CはそれぞれSn、O、及びCの相対感度係数を表す)
により算出される。
【0057】
なお、複合粒子に含まれる複合酸化物粒子がリン及びアンチモンの少なくとも一方でドープされた酸化亜鉛からなる場合、Sn3d5/2ピークに代えてZn2p3/2ピークのピーク面積を測定すればよい。また、この場合に各元素の存在量を算出するには、上記算出式においてSnの存在量、ピーク面積、及び相対感度係数をZnの存在量、ピーク面積、及び相対感度係数に置き換えればよい。
【0058】
〔複合粒子の灰分の測定方法〕
複合粒子の灰分は、概ね複合粒子中における複合酸化物粒子の含有率に相当する。
【0059】
複合粒子の灰分は、以下のようにして求めた。すなわち、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA装置)(セイコーインスツル株式会社製、商品名「TG/DTA6200」)を用いて、空気雰囲気中、空気流量200ml/minにて、昇温速度10℃/minで500℃まで複合粒子を昇温し、500℃で2時間保持し、重量(質量)減少が認められないことを確認した後、残留物の重量を測定した。そして、昇温前の複合粒子の重量に対する残留物の重量の割合を複合粒子の灰分(%)とした。
【0060】
〔複合粒子の個数平均粒子径及び粒子径の変動係数の測定方法〕
複合粒子の個数平均粒子径は、SEMで撮像することによって得られたSEM画像により算出した。具体的には、倍率10000倍のSEM画像中において30個の複合粒子の直径を測長し、それらの平均値を個数平均粒子径とした。
また、前記の30個の複合粒子の直径を測長した結果から複合粒子の個数基準の粒度分布の標準偏差を求め、以下の数式によって粒子径の変動係数(CV値)を算出した。
【0061】
複合粒子の粒子径の変動係数=(複合粒子の個数基準の粒度分布の標準偏差
÷複合粒子の個数平均粒子径)×100
〔実施例1〕(本発明の一例に係る複合粒子の製造方法)
ヒドロキシ基を有するアゾ系重合開始剤としての2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド](商品名「VA−086」、和光純薬工業株式会社製;以下「VA−086」と称する)5.0g(ビニル系単量体としてのスチレン100重量部に対して5.0重量部)を、アルコール系溶媒としてのメタノール1000gに溶解させて、混合溶液を調製した。
【0062】
次に、調製した混合溶液を攪拌機および温度計を備えた内容量2Lのオートクレーブに入れた。その後、前記混合溶液に対して、複合酸化物粒子としてのリンドープ型酸化スズ粒子のメタノール分散体(メタノール分散ゾル)(商品名「セルナックス(登録商標)CX−S501M」、日産化学工業株式会社製、固形分(リンドープ型酸化スズ粒子の含有量)50重量%、動的光散乱法で測定されたリンドープ型酸化スズ粒子の平均一次粒子径28nm)50gを添加し、次いでビニル系単量体としてのスチレン(St)100gを添加して、単量体混合液を調製した。
【0063】
次に、前記オートクレーブの内部温度を70℃に加温して前記オートクレーブの内容物を攪拌しながら、前記単量体混合液の分散重合を開始した。引き続いて、70℃で20時間加温処理を行いながら前記単量体混合液の分散重合を行い、粒子分散体(粒子のメタノール分散体)を得た。本実施例では、反応系内(オートクレーブ内)における粒子の分散安定性が良好であった。
【0064】
反応終了後、得られた粒子分散体を遠心分離した後、上澄み液を排除し、沈殿物をメタノールにて遠心洗浄した。この遠心洗浄を3回繰り返した後に、沈殿物を乾燥させ、目的の粒子を得た。
【0065】
得られた粒子をSEM、FE−SEM、及びTEMでそれぞれ撮像したところ、得られた粒子は、
図1のSEM画像、
図2及び
図3のFE−SEM画像、並びに
図4のTEM画像に示されるように、重合体粒子としてのスチレン系重合体(ポリスチレン鎖の末端にVA−086が結合したもの)粒子表面がリンドープ型酸化スズで被覆された真球状の複合粒子であることが認められた。また、得られた複合粒子の灰分は、3.7重量%であった。また、得られた複合粒子は、個数平均粒子径が0.78μm、粒子径の変動係数が6.8%であった。
【0066】
また、得られた複合粒子をXPSの測定によって分析したところ、複合粒子の表面に、VA−086に由来するヒドロキシ基及び酸化スズが存在することが確認された。このことから、スチレン系重合体粒子表面をリンドープ型酸化スズが被覆している要因が、スチレン系重合体粒子表面に存在するヒドロキシ基とリンドープ型酸化スズの酸素原子との間の水素結合である可能性が極めて高いと考えられる。
【0067】
〔実施例2〕(本発明の一例に係る複合粒子の製造方法)
VA−086の使用量を1.0g(ビニル系単量体としてのスチレン100重量部に対して1.0重量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的の粒子を得た。本実施例では、反応系内における粒子の分散安定性が実施例1と比較して劣り、スケールの発生が見られた。
【0068】
得られた粒子をSEM及びTEMでそれぞれ撮像したところ、得られた粒子は、
図5のSEM画像及び
図6のTEM画像に示されるように、スチレン系重合体粒子表面がリンドープ型酸化スズで被覆された真球状の複合粒子であることが認められた。また、得られた複合粒子の灰分は、1.0重量%であった。また、得られた複合粒子は、個数平均粒子径が1.25μm、粒子径の変動係数が8.1%であった。
【0069】
〔実施例3〕(本発明の一例に係る複合粒子の製造方法)
VA−086の使用量を10g(ビニル系単量体としてのスチレン100重量部に対して10重量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的の粒子を得た。本実施例では、反応系内における粒子の分散安定性が実施例1と比較して劣り、スケールの発生が見られた。
【0070】
得られた粒子をSEM及びTEMでそれぞれ撮像したところ、得られた粒子は、
図7のSEM画像及び
図8のTEM画像に示されるように、スチレン系重合体粒子表面がリンドープ型酸化スズで被覆された真球状の複合粒子であることが認められた。また、得られた複合粒子の灰分は、0.3重量%であった。また、得られた複合粒子は、個数平均粒子径が0.88μm、粒子径の変動係数が3.3%であった。
【0071】
〔比較例1〕(比較用の製造方法)
VA−086に代えてカチオン性アゾ系重合開始剤である2,2’−アゾビス(プロパン−2−カルボアミジン)・二塩酸(商品名「V−50」、和光純薬工業株式会社製;以下「AIBA」と略記する)を使用したこと以外は実施例2と同様にして、目的の固体生成物を得た。
【0072】
得られた固体生成物をSEM及びTEMでそれぞれ撮像したところ、得られた固体生成物は、
図9のSEM画像及び
図10のTEM画像に示されるように、スチレン系重合体粒子とリンドープ型酸化スズの凝集体とがそれぞれ独立して存在するものであり、複合粒子でないことが認められた。また、得られた固体生成物の灰分は、11.7重量%であった。
【0073】
〔比較例2〕(比較用の製造方法)
VA−086に代えてカチオン性アゾ系重合開始剤であるPEG(ポリエチレングリコール)鎖を有する高分子アゾ系重合開始剤である4,4’−ジアゼンジイルビス(4−シアノペンタン酸)・α−ヒドロ−ω−ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物(商品名「VPE−0201」、和光純薬工業株式会社製)を使用したこと以外は実施例2と同様にして、目的の固体生成物を得た。
【0074】
得られた固体生成物をSEM及びTEMでそれぞれ撮像したところ、得られた固体生成物は、
図11のSEM画像及び
図12のTEM画像に示されるように、非常に多くの凝集物を含むものであり、また、真球状の複合粒子でないことが認められた。また、得られた固体生成物の灰分は、3.4重量%であった。
【0075】
〔リンドープ型酸化スズ被覆率の測定〕
まず、対照として、スチレン単独重合体及びリンドープ型酸化スズを調製した。
【0076】
すなわち、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド]を使用しないこと以外は実施例1と同様にして、スチレン単独重合体を調製した。
【0077】
また、リンドープ型酸化スズ粒子のメタノール分散体(商品名「セルナックス(登録商標)CX−S501M」、日産化学工業株式会社製)からメタノールを揮発させることによって、リンドープ型酸化スズを調製した。
【0078】
これらスチレン単独重合体及びリンドープ型酸化スズと、実施例1〜3で得られた複合粒子について、XPSにより、表面に存在するSn、O、及びCの各元素の存在量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
複合粒子のSn存在量と、スチレン単独重合体のSn存在量及びリンドープ型酸化スズのSn存在量との比較により、複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率(複合粒子表面における複合酸化物粒子による被覆率)を算出した。より詳細には、スチレン単独重合体のSn存在量が0、リンドープ型酸化スズのSn存在量が29.6at%であるため、複合粒子のSn存在量(at%)をリンドープ型酸化スズのSn存在量29.6at%で除することにより、複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率として算出した。実施例1の複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率は70.9%、実施例2の複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率は34.5%、実施例3の複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率は4.4%と算出された。
【0081】
なお、複合粒子に含まれる複合酸化物粒子がリンドープ型酸化スズ以外の複合酸化物からなる場合についても、上記の場合と同様にして複合粒子表面における複合酸化物粒子による被覆率を測定することができる。例えば、複合粒子に含まれる複合酸化物粒子がリン及びアンチモンの少なくとも一方でドープされた酸化亜鉛の粒子である場合、XPSにより複合粒子及び複合酸化物粒子のZn存在量(at%)を測定し、複合粒子のZn存在量(at%)を複合酸化物粒子のZn存在量(at%)で除することにより、複合酸化物粒子による被覆率を算出すればよい。
【0082】
複合粒子のリンドープ型酸化スズ被覆率を、複合粒子の製造に使用した各原料の使用量、並びに、複合粒子の灰分、個数平均粒子径、及び粒子径の変動係数と共に表3にまとめて示す。
【0083】
【表2】
【0084】
以上の結果から、重合開始剤としてヒドロキシ基を有するアゾ系重合開始剤(VA−086)を用いた場合に、真球状のリンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子を製造できることが分かった。また、以上の実施例1〜3の結果の比較から、ビニル系単量体100重量部に対するヒドロキシ基を有するアゾ系重合開始剤(VA−086)の添加量が10重量部の場合よりもその添加量が1重量部の場合の方が、系内の分散安定性、リンドープ型酸化スズ被覆率、及び灰分が向上し、その添加量が1重量部の場合よりもその添加量が5重量部の場合の方が、系内の分散安定性、リンドープ型酸化スズ被覆率、及び灰分がさらに向上することが分かった。
【0085】
〔実施例4〕(フィルムの製造方法)
まず、実施例1で得られた複合粒子(リンドープ酸化スズ被覆重合体粒子)を適量のメタノールに分散させることによって、固形分(複合粒子の含有量)が15重量%である、複合粒子のメタノール分散体(リンドープ酸化スズ被覆重合体粒子のメタノール分散体)を調製した。
【0086】
バインダー樹脂としての水系バインダー樹脂(大同化成工業株式会社製、商品名「E−5221P」、固形分20重量%、ウレタンバインダー)1gに、複合粒子のメタノール分散体1.3g(複合粒子の含有量0.2g)を配合して、均一に分散させて塗工用樹脂組成物を調製した。この塗工用樹脂組成物を50μmのアプリケーターを用いて、基材フィルムとしての厚さ100μmのPETフィルム上に塗布して塗布膜(防眩層)を形成した。70℃の恒温槽で30分間加熱することによりPETフィルム上の塗布膜を乾燥させて、フィルムを得た。
【0087】
〔実施例5〕(フィルムの製造方法)
水系バインダー樹脂の使用量を0.5gに変更したこと以外は実施例4と同様にして、フィルムを得た。
【0088】
〔比較例3〕(比較用フィルムの製造方法)
複合粒子のメタノール分散体1.3gに代えてポリピロール被覆樹脂粒子(メタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物の重合体からなる粒子をポリピロールで被覆したもの、国際公開第2012/042918号の実施例4と同様にして得られた平均粒子径5μmの単分散粒子)0.2gを使用し、水系バインダー樹脂に代えて溶剤系バインダー樹脂(大日精化工業株式会社製、商品名「メジウムVM」、固形分33%)1gを使用したこと以外は実施例4と同様にして、フィルムを得た。
【0089】
実施例4、実施例5、及び比較例3において配合したバインダー樹脂及び添加物の種類及び量を表3に示す。
【0090】
実施例4、実施例5、及び比較例3で得られたフィルムの帯電性を評価するために、JIS K6911:2006の「5.13 抵抗率」の項に従い、絶縁抵抗計(機器名:ハイ・レジスタンス・メータ、株式会社アドバンテスト製)を用いて、これらフィルムの表面抵抗率(単位:Ω/□)を測定した。
【0091】
また、実施例4、実施例5、及び比較例3のフィルムの全光線透過率及びヘイズを、それぞれJIS K 7361−1:1997及びJIS K 7136:2000に従い、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、商品名「NDH 2000」)を使用して測定した。以上のフィルムの特性の測定結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
以上のように、ポリピロール被覆樹脂粒子を用いた比較例3のフィルムは、帯電防止フィルムとして使用できないような高い表面抵抗率1.0×10
15Ω/□を有するのに対し、リンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子を用いた実施例4及び5のフィルムは、帯電防止フィルムとして使用できるような低い表面抵抗率4.8×10
12Ω/□又は1.1×10
11Ω/□を有していた。従って、リンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子を用いたフィルムが良好な帯電防止性を有しており、帯電防止フィルムとして好適に使用できることが分かった。また、このことからリンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子が良好な帯電防止性を有していることが分かった。
【0094】
また、以上のように、リンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子を用いた実施例4及び5のフィルムは、ポリピロール被覆樹脂粒子を用いた比較例3のフィルムと比較して顕著に高い全光線透過率を有していた。従って、リンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子を用いたフィルムが高い透明性を有しており、光学用途のフィルム(防眩フィルム等)として好適に使用できることが分かった。また、このことからリンドープ型酸化スズ被覆重合体粒子が良好な透明性を有していることが分かった。
【0095】
さらに、実施例4及び5のフィルムは、優れた全光線透過率を有するのみならず、比較例3のフィルムと比較して高いヘイズ値を有することから防眩性に優れており、防眩フィルムとして好適に使用できることが分かった。