(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
OCTで生体を測定する場合、一般的に測定対象内部からの反射光は測定対象の表面からの反射光、あるいはカバーガラスや細胞の培養容器などの測定対象保持部と測定対象の界面からの反射光に比べて非常に小さい。例として
図1のように培養液で満たされた培養容器内の細胞を測定する場合について考える。典型的な培養容器(ポリスチレン製)の屈折率は1.59、細胞の屈折率は1.37程度であり、これらの値より培養容器と細胞の界面の反射率を見積もると約0.55%となる。それに対して細胞と培養液の界面の反射率は、培養液の屈折率を1.33程度とすると0.022%程度となる。異なる細胞同士の界面や、細胞内部の反射率はこれよりもさらに小さいと考えられる。
図2に、光軸方向分解能が5μmのOCT装置を用いて
図1に示したzスキャン軸に沿って信号を取得した場合の波形の例を示した。ここでは2つの反射点(培養容器底面及び細胞の頂点)は光路長換算で10μm離れているとした。
図2より、培養容器底面に対応するピークの振幅が非常に大きいため、細胞の頂点からの信号が埋もれてしまい識別が困難であることが分かる。
【0007】
このように、従来のOCT装置では測定対象の表面あるいは測定対象保持部と測定対象の界面からの強い反射光を検出してしまうため、当該強い反射光が発生する領域近傍の構造を鮮明に可視化することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するために、光源から出射されたレーザ光を信号光と参照光と制御光とに分岐し、対物レンズによって信号光を測定対象に集光して照射し、測定対象によって反射もしくは散乱された信号光を制御光と合波することにより被制御信号光を生成し、被制御信号光を参照光と合波させて互いに位相関係が異なる複数の干渉光を生成し、それらを検出する。信号光の集光位置は集光位置走査部により走査する。また、制御光のデフォーカスは、信号光に含まれる測定対象の表面あるいは測定対象保持部から反射された光と同じデフォーカスを有するように制御し、制御光の位相は信号光と180°異なるように制御する。
【0009】
これにより、制御光成分と測定対象表面あるいは測定対象保持部からの反射光成分が相殺されるため、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造を鮮明に可視化することができる。
【0010】
一例として、第1の光束を測定対象に集光する対物レンズの開口数を0.4以上とした。
【0011】
これにより、広帯域光源あるいは波長走査型光源を用いることなく、従来のOCT装置と同等かそれ以上の光軸方向の空間分解能を達成可能である。
【0012】
一例として、制御光に球面収差を付与する球面収差付与部を設けることとした。
【0013】
これにより、制御光と測定対象表面あるいは測定対象保持部からの反射光の干渉効率が向上するため、測定対象表面あるいは測定対象保持部からの反射光の寄与をより抑制することが可能となる。
【0014】
一例として、レーザ光の波長をλ、対物レンズの開口数をNAとするとき、制御光のデフォーカス量と、信号光に含まれる測定対象の表面あるいは測定対象を保持する保持部から反射された光のデフォーカス量との差異が0.856λ/(NA)
2以下となるように制御光のデフォーカス量を制御する。
【0015】
これにより、制御光と測定対象の表面あるいは測定対象保持部からの反射光の干渉効率向上するため、測定対象表面あるいは測定対象保持部からの反射光の寄与をより抑制することが可能となる。
【0016】
一例として、レーザ光を2分岐し、分岐された一方の光束の光路中に挿入されたレーザ光に対してほぼ透明な平板からの反射光を制御光として用いることとし、透明な平板の光軸方向の位置を制御することにより制御光のデフォーカスを制御することとした。
【0017】
これにより、簡素で小型な光学系構成において、制御光成分と測定対象表面あるいは測定対象保持部からの反射光成分が相殺し、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造を鮮明に可視化することができる。
【0018】
一例として、干渉光学系において干渉光を4つ生成し、これら4つの干渉光は信号光と参照光の干渉位相が互いに略90度の整数倍だけ異なり、信号光と参照光の干渉位相が互いに略180度異なる干渉光の対を電流差動型の光検出器によって検出し、得られた2つの検出信号に対して例えば二乗和の演算を施すこととした。
【0019】
これにより、信号光と参照光の位相差に依存しない、信号光の強度に比例した安定した信号を得ることができる。また、得られた2つの検出信号の比をとり逆正接の演算を施すことにより、信号光の位相情報を取得することも可能となる。さらに、電流差動型の検出器を用いているため、参照光の強度を大きくしても検出器が飽和しにくくなり、電流差動型の検出器を用いない場合よりも信号のSN比を大きくすることができる。
【0020】
一例として、光路長変調部によって信号光と参照光の光路長差を、信号光の集光位置の走査により発生する信号光の光路長の変化速度よりも高速に変調させ、干渉光学系において干渉光を2つ生成し、これらの干渉光を電流差動型の光検出器によって検出し、検出信号に対して包絡線検波を行うこととした。
【0021】
これにより、少ない検出器で所望の信号を取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、測定対象の表面あるいは測定対象保持部からの反射光の影響を抑制し、測定対象の表面あるいは測定対象保持部近傍の構造を可視化可能な光計測装置を提供することが出来る。
【0023】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
[実施例1]
図3は、本発明による光計測装置の基本的な実施例を示す模式図である。
【0027】
光源301からレーザ光が出射される。レーザ光はコリメートレンズ302によって平行光に変換され、光学軸方向を調整可能なλ/2板303によって偏光方向を回転させられた後、偏光ビームスプリッタ304によって2分岐される。偏光ビームスプリッタ304によって2分岐された一方の光束は参照光として偏光ビームスプリッタ324に入射する。偏光ビームスプリッタ304によって2分岐された他方の光束は光学軸方向を調整可能なλ/2板306によって偏光方向を回転させられた後、偏光ビームスプリッタ307によって信号光と制御光に2分岐される。
【0028】
信号光は光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/4板308を透過して偏光状態をp偏光から円偏光に変換された後、開口数が0.4以上の対物レンズ309によってサンプル容器311に配置された測定対象312に集光して照射される。ここで、対物レンズ309は制御部323による制御のもとで対物レンズアクチュエータ310によって走査され、これにより対物レンズ309による信号光の集光位置(測定位置)の走査がなされる。測定対象から反射又は散乱された信号光は再び対物レンズ309を通過した後、λ/4板308によって偏光状態が円偏光からs偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ307へ入射する。
【0029】
制御光はピエゾ素子313に取り付けられたミラー314によって反射され、光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/4板315を透過し偏光状態をs偏光から円偏光に変換された後、対物レンズ309と同一の対物レンズ316によって裏面に反射膜が蒸着された平板318に照射される。平板318で反射した制御光は再び対物レンズ316を通過した後、λ/4板315によって偏光状態を円偏光からp偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ307へ入射する。ここで、平板318の厚みと材料は、平板318によって制御光に付与される球面収差が、サンプル容器311によってサンプル容器からの反射光に付与される球面収差と等しくなるように設定されている。平板318としては、例えばサンプル容器311と同一の容器を用いてもよい。
【0030】
制御光と信号光は偏光ビームスプリッタ307によって合波され、合波された光は光学軸方向を調整可能なλ/2板319によって偏光方向を回転された後、偏光ビームスプリッタ320によって2分岐される。偏光ビームスプリッタ320によって2分岐された光束の一方は集光レンズ321によって集光されて検出器322で検出される。偏光ビームスプリッタ320によって2分岐された光束の他方は被制御信号光として偏光ビームスプリッタ324へ入射する。
【0031】
ここで、制御光の位相は、検出器322で検出される光束の強度が最大となるように制御部323がピエゾ素子313を駆動することによって制御される。また、制御光のデフォーカスは、信号光に含まれるサンプル容器311の底面(より正確にはサンプル容器311と測定対象312の界面)からの反射光のデフォーカスと等しくなるように、制御部323が対物レンズアクチュエータ317を駆動することによって制御される。
【0032】
被制御信号光と参照光は偏光ビームスプリッタ324によって合波され、合成光が生成される。合成光はミラー325を反射した後、ハーフビームスプリッタ326、λ/2板327、λ/4板328、集光レンズ329a,329b、ウォラストンプリズム330,331から成る干渉光学系333へ導かれる。
【0033】
干渉光学系333へ入射した合成光は、ハーフビームスプリッタ326によって透過光と反射光に2分岐される。透過光は光学軸が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/2板327を透過した後、集光レンズ329aによって集光され、ウォラストンプリズム330によって偏光分離されることにより互いに位相関係が180度異なる第一の干渉光と第二の干渉光が生成される。第一の干渉光と第二の干渉光は電流差動型の光検出器334によって検出され、それらの強度の差に比例した信号336が出力される。
【0034】
一方、反射光は光学軸が水平方向に対して約45度に設定されたλ/4板328を透過した後、集光レンズ329bによって集光され、ウォラストンプリズム331によって偏光分離されることにより互いに位相関係が180度異なる第三の干渉光と第四の干渉光が生成される。ここで、第三の干渉光は第一の干渉光に対して位相が90度異なる。第三の干渉光と第四の干渉光は電流差動型の光検出器335によって検出され、それらの強度の差に比例した信号337が出力される。このようにして生成された信号336,337は信号処理部338に入力され、演算されることにより信号光の振幅に比例した信号が得られる。この信号を元に形成された測定対象の断層画像が画像表示部339に表示される。
【0035】
次に、被制御信号光が生成されるまでの光学系の機能について説明する。測定対象及びサンプル容器の底面から反射された後に偏光ビームスプリッタ307へ入射する時点での信号光のジョーンズベクトルを次のように表わす。
【0037】
ここで、E
sigは測定対象から(対物レンズの焦点位置から)反射された信号光成分の複素振幅を、E
strはサンプル容器の底面から反射された信号光の複素振幅を表わしており、これらは一般に異なるデフォーカス量を有している。また、平板318を反射した後に偏光ビームスプリッタ307へ入射する時点での制御光のジョーンズベクトルを次のように表わす。
【0039】
ここで、制御光E
regの位相及びデフォーカス量はピエゾ素子313及び対物レンズアクチュエータ317によって制御されている。式(1)で表わされる信号光と式(2)で表わされる制御光が偏光ビームスプリッタで合波されることにより生成される光束のジョーンズベクトルは次式で表わされる。
【0041】
λ/2板319の光軸方向の角度をθ度とすると、λ/2板319透過後の光束のジョーンズベクトルは以下のように表わされる。
【0043】
これより、偏光ビームスプリッタ320を透過後に検出器322で検出される信号I
FBは、次のように表わされる。
【0045】
ここでr=(x,y)は光束断面の座標ベクトル、Dは検出領域を表し、∫
Ddrは光束内全域での積分演算を意味する。φ
sig,φ
str,φ
regはそれぞれ測定対象から反射された信号光の波面、サンプル容器底面から反射された信号光の波面、制御光の波面を表わしており、それぞれの光束の位相情報とデフォーカス情報を含んでいる。上述のように、制御光のデフォーカスは、サンプル容器底面から反射された信号光のデフォーカス量と常に等しくなるように対物レンズアクチュエータ317によって制御されている。言い換えると、φ
regとφ
strの空間座標rの絶対値の2乗に依存する成分は等しくなるように制御されている。上記デフォーカス量の制御は、対物レンズ316の光軸方向の動きを対物レンズ309の光軸方向の動きと同期させることによって実施することができる。
【0046】
また、制御光の位相はピエゾ素子313によって式(5)で表わされるI
FBが最大となるように制御される。式(5)において、制御光の位相によって値が変化する項は第4項及び第5項である。第4項は制御光と測定対象から反射した信号光の干渉を表しており、|E
sig|≪|E
reg|,|E
str|であるため、第5項の寄与に比べて小さい。さらに、制御光と測定対象から反射した信号光成分はデフォーカス量が異なるため、検出器322上でリング状の干渉縞が形成されており、検出器322上で一様に強め合いもしくは弱め合うことがない。これにより、第5項は第4項に比べて制御光の位相変化に対する値の変化割合が小さい。従って、ピエゾ素子313による制御光の位相制御は近似的に式(5)中の第5項を最大化するように実施される。従って、デフォーカス制御と位相制御の結果、制御光の波面とサンプル容器の底面からの信号光成分の波面の関係はφ
reg=φ
strとなる。
【0047】
一方、偏光ビームスプリッタ320を反射することにより生成される被制御信号光のジョーンズベクトルは、φ
reg=φ
strの関係を用いると以下のように表すことができる。
【0049】
式(6)より、λ/2板306の光軸方向の角度調整によって制御光の強度(|E
reg|
2)を調整、あるいはλ/2板319の光学軸方向の角度調整によりtan2θの値を調整することにより、|E
reg|tan2θ≒|E
str|が満たされるようにすることで、サンプル容器からの反射光を制御光と相殺させることが可能であることが分かる。このような調整は、事前にサンプル容器の反射率を測定しておくことで容易に実施することができる。
【0050】
被制御信号光は偏光ビームスプリッタ324によって参照光と合波され、生成された被制御信号光と参照光の合成光はミラー325によって反射された後、干渉光学系333へ入射する。干渉光学系333へ入射する時点での合成光のジョーンズベクトルは
と表すことができる。ここで、E
refは参照光の複素電場振幅、E’
sigは被制御信号光の複素電場振幅であり、|E
reg|tan2θ≒|E
str|を用いると近似的に以下の式で表される。
【0052】
ハーフビームスプリッタ326を透過し、さらにλ/2板327を透過した後の合成光のジョーンズベクトルは次のようになる。
【0054】
ウォランストンプリズム330によって式(9)で示される合成光はp偏光成分とs偏光成分に偏光分離された後、電流差動型の光検出器334によって差動検出されるので、検出信号336は以下のように表される。
【0056】
ここで、φ’
sig,φ
refはそれぞれ複素数E’
sig,E
refを極座標表示で表した際の位相である。簡単のため検出器の変換効率は1とした。
【0057】
一方、ハーフビームスプリッタ326で反射され、さらにλ/4板328を透過した後の合成光のジョーンズベクトルは次のようになる。
【0059】
ウォランストンプリズム331によって、式(11)で示される合成光はp偏光成分とs偏光成分に偏光分離された後、電流差動型の光検出器335によって差動検出されるので、検出信号337は以下のように表される。
【0061】
これらの出力に対して、信号処理部338にて以下の演算を行うことにより、位相に依存しない、被制御信号光の強度に比例した信号が得られる。
【0063】
上記のように干渉光学系333では位相が互いに90度づつ異なる4つの干渉光を生成して検出することにより位相に依存しない信号を得るが、原理的には生成される干渉光が3つ以上であれば干渉光がいくつであっても同様の信号を得ることができる。例えば、位相が互いに60度づつ異なる3つの干渉光を生成して検出することにより、式(13)に示されるのと同一の信号を得ることができる。
【0064】
本実施例においては、信号光に対してデフォーカスと位相が制御された制御光を重ね合わせることで、信号光に含まれるサンプル容器からの反射光を相殺させることができる。
【0065】
本実施例のOCT装置を用いて
図1に示した測定対象からの反射信号を取得した結果の例を
図4及び
図5に示した。垂直分解能は
図2に示した従来のOCT装置の測定結果の場合と同様に、5μmである。
図4と
図5はいずれも本実施例のOCT装置による測定結果であるが、
図5は参照光強度の大きさあるいは検出器のゲインの大きさを
図4の場合よりも大きくした場合の結果である。
【0066】
図4では、
図2の従来のOCT装置を用いた場合とは異なりサンプル容器からの強い反射が抑制されているため、z=10μmの位置に細胞からの反射に対応するピークを確認することができる。これにより、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造を鮮明に可視化することができる。また、サンプル容器からの強い反射光が抑制されたことにより検出器が飽和しにくくなったため、参照光の強度や検出器のゲインを増大させることにより、
図5に示したように測定対象からの信号を増幅させることが可能となる。これにより、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造をより鮮明に可視化することができる。
【0067】
次に、本発明のOCT装置の空間分解能について述べる。ここで、光軸方向の空間分解能は、対物レンズを光軸方向に走査した際に得られる単一反射面に対応するピークの半値全幅として定義する。焦点位置が反射面からzだけずれた際の式(13)に対応する信号は以下の式により表わされる。
【0069】
上記の式より、単一反射面からの信号の半値全幅、すなわち光軸方向の空間分解能は近似的に以下のように表わされる。
【0071】
ここで、λはレーザ光の波長、NAは対物レンズ309の開口数である。一般的にOCT装置で利用される光の波長はヘモグロビンにも水にも吸収されにくい600nmから1300nm程度である。例えば対物レンズの開口数を0.4以上とすると、波長600nm〜1300nmでの光軸方向の空間分解能は約3.3μm〜約7.2μmとなり、従来のOCT装置と同等かそれ以上の高い光軸方向の分解能を達成できる。
【0072】
また、本実施例においては、平板318によって制御光に付与される球面収差が、サンプル容器311によってサンプル容器からの反射光に付与される球面収差と等しくなるように平板318の光束が通過する領域の厚みが設定されているため、制御光とサンプル容器からの反射光の干渉効率が向上する。これにより、サンプル容器からの反射光をより高精度に相殺させ、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造をより鮮明に可視化することができる。
【0073】
また、本実施例においては、以下の演算を行うことにより参照光の位相を基準にした信号光の位相情報を取得することも可能である。
【0075】
信号光の位相情報の活用方法としては、非特許文献1に挙げられているような細胞の活性度のイメージングなどが挙げられる。
【0076】
最後に、本発明におけるデフォーカス制御に要求される精度について述べる。制御光とサンプル容器からの反射光のデフォーカス量(対物レンズの焦点位置から反射面までの距離)をそれぞれz
reg,z
strとすると、制御光とサンプル容器からの反射光の間の干渉効率は以下の式で表わされる。
【0078】
ここで、Δz=z
reg−z
strである。従って、例えばサンプル容器からの反射光の寄与を従来の10%以下にする場合には、式(17)の値が0.95以上でなければならない。このとき、許容可能なデフォーカス制御のずれ量Δzは
と表わされる。ここで、φ
0はsincφ
0=0.95を満たす定数であり、約0.5519である。従って、この値を代入すると式(18)の右辺は、0.856λ/(NA)
2と表され、式(18)の右辺の値は、例えばλ=0.780μm、NA=0.4のときには0.86μmとなり、これは対物レンズアクチュエータ317の制御により実現可能な値である。式(17)の値を0.95以上とすることによりサンプル容器からの反射光の寄与が従来の10%以下となるため、従来よりも測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造をより鮮明に可視化することができる。
【0079】
[実施例2]
図6は、本発明による光計測装置の別の実施例を示す模式図である。なお、
図3に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施例は第一の実施例と制御光の生成方法及び制御光のデフォーカス調整方法が異なる。
【0080】
光源301からレーザ光が出射される。レーザ光はコリメートレンズ302によって平行光に変換され、光学軸方向を調整可能なλ/2板303によって偏光方向を回転させられた後、偏光ビームスプリッタ304によって2分岐される。偏光ビームスプリッタ304によって2分岐された一方の光束は信号光として光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/4板308を透過して偏光状態をs偏光から円偏光に変換された後、開口数が0.4以上の対物レンズ309によってサンプル容器311に配置された測定対象312に集光して照射される。ここで、対物レンズ309は制御部323による制御のもとで対物レンズアクチュエータ310によって走査され、これにより対物レンズ309による信号光の集光位置(測定位置)の走査がなされる。測定対象から反射又は散乱された信号光は再び対物レンズ309を通過した後、λ/4板308によって偏光状態を円偏光からs偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ304へ入射する。
【0081】
偏光ビームスプリッタ304によって2分岐された他方の光束は参照光として光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/4板501を透過し偏光状態をp偏光から円偏光に変換された後、ピエゾ素子313に取り付けられたミラー314によって反射され、対物レンズ309と同一の対物レンズ502によって集光されつつ平板用アクチュエータ504によって光軸方向の位置が制御されたレーザ光に対してほぼ透明な平板503へ入射する。平板503へ入射された参照光の一部は、平板503の(光束の入射方向から見て)裏面によって制御光として反射され、再び対物レンズ502を透過してミラー314によって反射されてλ/4板501によって偏光状態を円偏光からs偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ304へ入射する。ここで、平板503の厚みと材料は、制御光の球面収差がサンプル容器(より正確にはサンプル容器311と測定対象312の界面)からの反射光が有する球面収差と等しくなるように設定されている。
【0082】
制御光と信号光は偏光ビームスプリッタ304によって合波され、合波された光は光学軸方向を調整可能なλ/2板509によって偏光を回転させられた後、偏光ビームスプリッタ324によって2分岐される。偏光ビームスプリッタ324によって2分岐された光束の一方は集光レンズ321によって集光されて検出器322で検出される。偏光ビームスプリッタ324によって2分岐された光束の他方は被制御信号光となる。
【0083】
ここで、制御光の位相は、検出器322で検出される光束の強度が最大となるように制御部323がピエゾ素子313を駆動することによって制御される。また、制御光のデフォーカスは、信号光に含まれるサンプル容器311の底面(より正確にはサンプル容器311と測定対象312の界面)からの反射光のデフォーカスと等しくなるように、制御部323が平板用アクチュエータ504を、対物レンズアクチュエータ310と同期するように駆動することによって制御される。さらに、制御光の球面収差は上述のように平板503の厚みと材料によって調整される。
【0084】
平板503へ入射されて平板503を透過した参照光は、平板505を透過して対物レンズ309と同一の対物レンズ506によって平行光に変換され、ミラー507で反射され、光学軸方向が水平方向に対して約−22.5度に設定されたλ/4板508によって偏光状態を円偏光からs偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ324に入射する。ここで、平板505の光束が通過する領域の厚みと材料は、平板503の光束が通過する領域の厚みと等しい。これにより、参照光の有する球面収差が信号光の球面収差と等しくなり、信号光と参照光の干渉効率の低下を防ぐことができる。被制御信号光と参照光は偏光ビームスプリッタ324によって合波され、合成光が生成される。合成光は、ハーフビームスプリッタ326、λ/2板327、λ/4板328、集光レンズ329a,329b、ウォラストンプリズム330,331から成る干渉光学系333へ導かれる。その後の動作は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0085】
本実施例においては、透過型の素子(平板503)によって制御光を生成するため、実施例1と比べて簡素で小型な光学系で測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造を鮮明に可視化することができる。
【0086】
本実施例では制御光を生成するための平板503を参照光の光路中に挿入したが、平板503を信号光の光路中に挿入しても同様の機能を達成できる。この場合、対物レンズ502,506、平板503,505、平板用アクチュエータ504は偏光ビームスプリッタ304とλ/4板308の間に挿入され、λ/4板308と対物レンズ309の間に信号光の位相を制御する素子を挿入して信号光の位相を制御することで信号光と制御光の間の位相差が制御される。
【0087】
また本実施例においては、平板503によって制御光に付与される球面収差が、サンプル容器311によってサンプル容器からの反射光に付与される球面収差と等しくなるように平板503の光束が通過する領域の厚みを設定しておくことにより、制御光とサンプル容器からの反射光の干渉効率が向上する。これにより、サンプル容器からの反射光をより高精度に相殺させ、測定対象表面あるいは測定対象保持部近傍の測定対象の構造をより鮮明に可視化することができる。
【0088】
[実施例3]
図7は、本発明による光計測装置の別の実施例を示す模式図である。なお、
図3に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施例は、干渉光学系で生成される干渉光が2つであるという点、及び参照光の位相を高速に変調するためのピエゾ素子を有しているという点において実施例2と異なる。
【0089】
光源301からレーザ光が出射され、被制御信号光と参照光が合波されることにより合成光が生成されるまでの構成は実施例2とほぼ同様である。ただし、ミラー507が参照光の位相を高速に変調するためのピエゾ素子601に搭載されているという点で異なる。合成光はλ/2板603、集光レンズ604、ウォラストンプリズム605から成る干渉光学系602へ導かれる。干渉光学系602へ入射した合成光は、光学軸が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/2板603を透過した後、集光レンズ604によって集光され、ウォラストンプリズム605によって偏光分離されることにより互いに位相関係が180度異なる第一の干渉光と第二の干渉光が生成される。第一の干渉光と第二の干渉光は電流差動型の光検出器334によって検出され、それらの強度の差に比例した信号336が出力される。信号336は以下の式で表される。
【0091】
本実施例では、信号取得時にピエゾ素子601を駆動して対物レンズ309の走査により発生する信号光の位相変化よりも高速に参照光の位相を変調する。
図8〜10は、本実施例のOCT装置を用いて対物レンズ309をz方向に走査した際に検出される信号について説明する図である。ここでは、
図8のように測定対象に反射面が3つ存在する場合の検出信号を
図9、
図10に示している。
【0092】
図9は、ピエゾア素子601を駆動しない場合の信号の模式図である。この場合には、ある反射面からの信号の包絡線に含まれる波の数は近似的に(信号のピーク幅)÷(波長)により与えられる。信号のピーク幅はレーザ光の波長をλ、対物レンズのNAとしたときにλ/NA
2と表わされるから、(信号のピーク幅)÷(波長)=1/NA
2となる。例えばNA=0.6の場合、この値は約2.8である。従って、包絡線の周波数と、それに含まれる波の周波数が2.8倍程度しか異ならないため包絡線検波の適用が困難であり、検出信号を元に画像データを生成することができない。一方で、ピエゾ素子601を駆動する場合には、
図10に示したような信号が得られる。この場合には、信号光の焦点位置が反射面を通過する間に参照光の位相が高速変調されているので、ある反射面からの信号の包絡線に含まれる波の数が位相変調のスピードに応じて増加する。これにより、包絡線の周波数とそれに含まれる波の周波数が大きく異なるため、包絡線検波の適用が可能となり検出信号を元に画像データを生成することができる。すなわち、本実施例においては、実施例2とは異なり検出信号から包絡線検波により所望の信号を取得することができるため、実施例2よりも少ない検出器で同様の機能を実現することが出来る。
【0093】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。