(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、耐蝕性、耐久性に優れるとともに、重量が軽く施工性がよい、可撓性があるため耐震性に優れるといった利点から、水道水等を供給するに際してポリエチレン管が採用されている。ポリエチレン管が建物壁や基礎等の構造物を貫通する場合において、
図21に示すように、地盤上の1点に集中するような地盤変位が鉛直方向に作用した場合、構造物Kと地盤Gの境界で剪断力が発生し、ポリエチレン管10の曲げ歪みが最大となり、構造物Kから離れるにしたがって、歪みは減少する。この場合にポリエチレン管が吸収できる地盤変位量は、ガス導管耐震設計指針に基づき数1に示されている。
【0003】
【数1】
【0004】
ここに、ΔV:管軸直角方向の地盤変位吸収量cm
D:管の外径cm
E:管の等価弾性係数N/cm
2
I:管の断面二次モーメントcm
4
κ:地盤反力係数N/cm
3
ε0:管の基準歪
み
ポリエチレン管の場合において、計算する際の物性は、ガス導管耐震設計指針に記載のポリエチレン管の考え方に従い、以下の通りとし、計算した結果を表1に示す。
1.管の等価弾性係数Eは、管の弾性係数の1/2である50kN/cm
2を採用する。2.管の基準歪み
ε0 は、管の降伏歪み(10%)とする。
3.管の単位面積当たりの地盤拘束力τは、0.98N/cm
2とする。
4.地盤反力係数κは、κ=82.3/D
0.75N/cm
3で算出する。
【0005】
【表1】
【0006】
一方、東日本大震災において、構造物と埋設地盤との10cm以上の地盤変位が確認されていることから、10cm以上の地盤変位吸収能力が要望されることを考慮すれば、ポリエチレン管が単独で吸収できる地盤変位吸収量が不足していることは、表1から明らかである。
【0007】
また、地震等によって局地的な地盤変位が生じた際の対策としては、伸縮可撓継手が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した伸縮可撓継手は、接続対象を鋳鉄管とするものであり、ポリエチレン管に適用するためには、ポリエチレン管の一部を鋳鉄管に置換しなければならず、作業が複雑になり、作業に多くの時間を必要とするものとなる。特に、管径が一致しない場合には、さらに複雑になる。また、接続箇所が増える分漏水の可能性も大きくなる他、建物壁等の構造物に受口部材又は挿口部材を固定する等の工事が必要となり、伸縮可撓継手そのものが高価であることと相俟ってコストがかさむという問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、構造物を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の地盤変位吸収能力を向上させることのできるポリエチレン管の耐震構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、構造物を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の耐震性を向上させる
耐震構造であって、
前記ポリエチレン管の外径よりも大きな内径を有
するさや管が、構造物外側の
埋設土中のポリエチレン管を構造物
外面から所定長さ以上にわたって覆
っており、
前記さや管は0.5m以上の長さを有して、該さや管の一端部が構造物外面に固定され
、前記ポリエチレン管と
前記さや管との間に
、クッション層又は空気層若しくはクッション層及び空気層が
設けられたことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、構造物に設けられた貫通孔を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の耐震性を向上させる耐震構造であって、前記貫通孔の内径よりも大きな内径を有し、構造物外側の埋設土中のポリエチレン管を構造物から所定長さ以上にわたって覆うさや管の一端部が構造物外面に固定され、前記ポリエチレン管と前記さや管との間に、クッション層又は空気層若しくはクッション層及び空気層が設けられた構成であってもよい。
【0013】
また、本発明は、構造物を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の耐震性を向上させる耐震構造であって、前記ポリエチレン管の外径よりも大きな内径を有し、構造物外側のポリエチレン管を構造物から所定長さ以上にわたって覆うさや管の一端部が構造物外面に固定され、前記ポリエチレン管と前記さや管との間に、クッション層又は空気層若しくはクッション層及び空気層が設けられ、前記さや管の他端部には、設定曲率半径に拡開された拡開部が備えられた構成であってもよい。地盤変位に伴ってポリエチレン管が変形し、さや管に接触した場合、さや管の拡開部に沿って曲げ変形することから、ポリエチレン管の曲がりに伴う歪みの発生を抑制することができるとともに、点接触による屈曲点の発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明は、構造物を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の耐震性を向上させる耐震構造であって、前記ポリエチレン管の外径よりも大きな内径を有し、構造物外側のポリエチレン管を構造物から所定長さ以上にわたって覆うさや管が構造物外面に固定され、前記ポリエチレン管と前記さや管との間に、クッション層又は空気層若しくはクッション層及び空気層が設けられ、前記さや管は一端部にフランジが設けられ、該フランジはアンカーボルトを介して構造物に固定され、構造物外面とフランジとの間に板フランジが配設され、構造物外面と板フランジとの間及び板フランジとポリエチレン管の外周面との間にそれぞれシール材が配設された構成であってもよい。
【0015】
上記本発明によれば、ポリエチレン管の管軸直角方向の地盤変位が発生したとき、構造物と地盤との境界面において、ポリエチレン管を覆うさや管に一次的に剪断力が作用し、地盤と直接接触していないポリエチレン管に剪断力は作用せず、ポリエチレン管の地盤変位吸収能力を大きく向上させることができる。また、クッション層又は空気層若しくはクッション層及び空気層によって埋設土や不明水がさや管内部に浸入することを防止できる。この場合、さや管としては、構造物と地盤の境界面において、ポリエチレン管に剪断力が作用しないように、ポリエチレン管の外径よりも大きな内径を有すればよいことから、特に材質は限定されず、塩ビ管、ポリエチレン管、ポリプロピレン管、鋼管等を採用することができる。
【0016】
本発明において、さや管の一端部にフランジを設け、フランジがアンカーボルトを介して構造物に固定されることが好ましい。これにより、さや管を構造物に一体に固定することができる。
【0017】
この場合、フランジとしては、さや管にTSフランジや板フランジ、フランジアダプター等のフランジ部材を設けてもよいし、さや管の一端部を鍔返しすることによってフランジを形成してもよい。なお、フランジ部材の接合に際しては、さや管の材質に合わせて接着や融着等の適宜の手段が採用される。また、フランジをルーズフランジや割りフランジとすると、アンカーボルトとの周方向の位置合わせが容易となり、さらに好ましい。さらに、構造物外面とフランジとの間にシール材が配設されると、構造物とフランジとの間を確実に密封することができ、さや管内部に不明水や埋設土が浸入するのを防止することができる。
【0018】
本発明において、構造物外面とフランジとの間に板フランジを配設し、構造物外面と板フランジとの間及び板フランジとポリエチレン管の外周面との間にそれぞれシール材が配設されることが好ましい。これにより、構造物と板フランジとの間及び板フランジとポリエチレン管との間を確実に密封することができ、さや管内部に不明水等が浸入するのを防止することができる。
【0019】
本発明において、ポリエチレン管の軸心に対してさや管の軸心が同一軸心上に配置されることが好ましい。これにより、ポリエチレン管の軸心直角方向の地盤変位が発生した場合、何れの方向の地盤変位に対してもポリエチレン管の変形吸収能力を均等に確保することができる。
【0020】
本発明において、ポリエチレン管の軸心に対してさや管の軸心が上下方向に変位して配置されることが好ましい。これにより、ポリエチレン管の軸心直角方向の沈下又は隆起が予測される場合において、予測される地盤変位に対するポリエチレン管の変形吸収能力を、同一軸心上に配置する場合に比較して向上させることができる。
【0021】
本発明において、ポリエチレン管の外径をD1mm、さや管の内径をD2mm、その長さをLmmとするとき、管軸直角方向の目標地盤変位吸収量Xmmに対し、D2−D1>1/3・X、かつ、L>2Xであることが好ましい。これにより、目標地盤変位吸収量に対して、使用するポリエチレン管の外径に基づいて、さや管の内径及び長さを簡易的に求めることができる。
【0022】
本発明において、前記クッション層がポリエチレン管に巻かれたシート状フォーム又はエアパッキンであることが好ましい。これにより、さや管内部に埋設土等の浸入を防止するクッション層を予め形成することができる。
【0023】
本発明において、前記クッション層がポリエチレン管とさや管との空間に注入された発泡剤による発泡体であることが好ましい。これにより、さや管内部に埋設土等の浸入を防止するクッション層を予め形成することができる。
【0024】
本発明において、前記クッション層がポリエチレン管に嵌挿された円筒状発泡体であることが好ましい。これにより、さや管内部に埋設土等の浸入を防止するクッション層を予め形成することができる。
【0025】
本発明において、前記空気層がポリエチレン管の他端部に装着されたゴムスポンジによって形成されることが好ましい。これにより、さや管内部に埋設土等の浸入を防止する空気層を予め簡単に形成することができる。
【0026】
本発明において、前記さや管の先端部にキャップ部材が装着されることが好ましい。これにより、キャップ部材を介してさや管の先端部を密閉することができることから、さや管内への埋設土等の浸入を一次的に防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、構造物を貫通するポリエチレン管の管軸直角方向の地盤変位吸収能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のポリエチレン管の耐震構造の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図1のポリエチレン管の耐震構造の変形例を示す断面図である。
【
図3】本発明のポリエチレン管の耐震構造の解析モデル図である。
【
図4】普通地盤における沈下量と管最大歪みとの関係を示す解析図である。
【
図5】普通地盤におけるさや管長さと管最大歪みとの関係を示す解析図である。
【
図6】沈下量300mmにおける構造物からの距離と管歪みとの関係を示す解析図である。
【
図7】さや管なしの場合において、普通地盤、軟弱地盤での沈下量300mmにおける管変位を示す解析図である。
【
図8】長さ1mのさや管の場合において、普通地盤、軟弱地盤での沈下量300mmにおける管変位を示す解析図である。
【
図9】長さ1mのさや管、普通地盤の場合において、さや管の管径を変えて沈下量と管最大歪みとの関係を示す解析図である。
【
図10】沈下量300mmの場合において、さや管長さを変えて地盤弾性率と誤差(30%)を修正した管最大歪みとの関係を示す解析図である。
【
図11】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例1を示す断面図である。
【
図12】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例2を示す断面図である。
【
図13】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例3を示す断面図である。
【
図14】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例4を示す断面図である。
【
図15】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例5を示す断面図である。
【
図16】
図15のポリエチレン管の耐震構造におけるキャップ部材の変形例を示す部分断面図である。
【
図17】
図15のポリエチレン管の耐震構造におけるキャップ部材の他の変形例を示す部分断面図である。
【
図18】本発明のポリエチレン管の耐震構造の実施例6を示す断面図である。
【
図19】本発明のポリエチレン管の耐震構造の変形実施例を示す平面図である。
【
図20】
図19のポリエチレン管の耐震構造の変形例を示す平面図である。
【
図21】構造物を貫通するポリエチレン管に管軸直角方向の地盤変位が発生した場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図1には、本発明のポリエチレン管の耐震構造の一実施形態が示されている。
【0031】
この耐震構造は、建物壁や基礎等の構造物Kを貫通するポリエチレン管10と、構造物K外面に固定され、ポリエチレン管10の外径よりも大きな内径を有して構造物外側のポリエチレン管10を構造物Kから所定長さ以上にわたって覆うさや管20と、ポリエチレン管10の外周面とさや管20の内周面との空間に充填されたクッション層30とから構成され、さや管20の一端部には、フランジ21、具体的には、TSフランジ211が接着されており、TSフランジ211が構造物Kの外面にアンカーボルト22を介して一体に固定されている。
【0032】
これにより、ポリエチレン管10の管軸直角方向の地盤変位が発生したとき、構造物Kと地盤Gとの境界面において、ポリエチレン管10は地盤Gと直接接触していないため、ポリエチレン管10に剪断力は作用せず、地盤変位吸収能力を向上させることができる。また、ポリエチレン管10とさや管20との空間には、クッション層30が充填されることにより、空間内に埋設土や不明水が浸入することを防止できる。
【0033】
クッション層30を形成する材料としては、軟質ウレタンフォーム、軟質ウレタン、エアーパッキン、発泡ポリエチレンを挙げることができる。
【0034】
なお、ポリエチレン管10が貫通する構造物Kの貫通孔には、ポリエチレン管10の外周面との間にモルタルが充填されるとともに、シリコンシーラント23が充填されており、構造物Kとポリエチレン管10との間を密封し、埋設土や不明水が構造物Kの内部に浸入することを防止している。
【0035】
また、さや管20のTSフランジ211の、構造物K外面と接する外面には、パッキン24が配設されており、構造物Kとフランジ21との間を密封することができ、さや管20内部に埋設土や不明水が浸入するのを防止できる。
【0036】
さらに、さや管20を構造物Kに固定するに際して、さや管20の一端部を鍔返しによってフランジを形成し、該フランジを構造物Kにアンカーボルト22を介して固定してもよい。
【0037】
ところで、前述した実施形態においては、ポリエチレン管10の軸心に対してさや管20を同一軸心上に軸心が位置するように構造物Kの外面に固定した場合を例示したが、
図2に示すように、ポリエチレン管10の軸心に対してさや管20の軸心が鉛直方向に変位した位置に配置してもよい。例えば、地盤条件よって沈下が予測される場合には、ポリエチレン管10の軸心よりも軸心が下方に位置するように、さや管20を構造物Kに固定することが好ましい。この場合には、同一軸心上に設ける場合に比較して、地盤沈下方向の変位吸収能力hが向上する。また、さや管20の内径を小さくすることもできる。
【0038】
ここで、ポリエチレン管10の外径D1と、さや管20の内径D2及び長さLとの適正な関係を把握するため、コンピュータ(使用ソフト:ABAQUC6.11)を用いて解析した。
(解析による検討)
図3に示すように、さや管(呼び径300mmの硬質塩化ビニル管(肉厚管)=VP300:外径318mm、肉厚15.1mm、長さ0m、0.5m、1.0m、1.5mの4種類)の中にポリエチレン管(呼び径75mm:外径89mm、肉厚8.1mm、長さ4.5m)を同一軸心上に配置し、固定端側が揃っている構造とする。
【0039】
地盤を表現するため、管の上下方向にそれぞれ弾性ばねを設定した。地盤のサイズは、ポリエチレン管の表面から上0.6m、下1.0mである。
【0042】
なお、境界条件は次の通りである。
1.ポリエチレン管、さや管の左端点を完全固定
2.下側地盤ばねの下側節点を完全固定
3.上側地盤ばねの上側節点を鉛直方向以外に固定
4.上側地盤ばねの上側節点を鉛直方向に強制変位(10,20,30,40cm)
5.ポリエチレン管とさや管の摩擦係数0.1
また、その他と条件としては、
・さや管、ポリエチレン管は降伏応力に達した後は破壊するとし、剛性(弾性率)を0とした。
・埋設土は普通地盤と軟弱地盤を考慮し、地盤弾性率をそれぞれ10MPa、1MPaとした。
【0043】
なお、土に関しては、地盤弾性率から地盤反力係数に換算して入力した。
【0044】
地盤反力係数κ=F/u=σ・A/u=E・ε・A/u=E・A/D=E・L・D/H ここに、F:力、u:変位、σ:応力、A:面積、ε:歪み、E:地盤弾性率、H:土の深さ、L:管の長さ、D:管の直径
(解析結果)
解析結果を表3、表4に示す。表3は、普通地盤(地盤弾性率E=10MPa)の場合の沈下量とポリエチレン管に発生する最大歪み%を示し、表4は、軟弱地盤(地盤弾性率E=1MPa)の場合の沈下量とポリエチレン管に発生する最大歪み%を示すものである。
【0047】
表より、地盤条件により発生歪みが大きく異なり、軟弱地盤より普通地盤の方がポリエチレン管に発生する歪みが大きいことがわかる。
【0048】
また、
図4に、普通地盤での沈下量とポリエチレン管に発生する最大歪みの関係を示す。
図4にガス導管耐震設計指針の数1から逆算した点■を併記するが、本解析では、地盤条件を地盤弾性率E=10とすれば、数1の計算式よりも約30%歪みが大きくなる(安全側の結果となっている)ことがわかる。
【0049】
さらに、
図5に普通地盤におけるさや管長さと最大歪みの関係を示すが、さや管の長さが長いほど発生歪みは小さくなる。ただし、さや管の長さが長くなれば経済的に不利となるため、目標地盤変位吸収量に対して適切な長さが存在することがわかる。
【0050】
さらにまた、
図6に普通地盤、軟弱地盤での30cm沈下時の管歪みを示す。
図6から構造物からの距離が遠くなるほど歪みが減少することがわかる。
【0051】
さらに、
図7(a)、(b)にさや管なしの場合において、普通地盤、軟弱地盤での30cm沈下時の管変位を示し、
図8(a)、(b)にさや管の長さが1mの場合において、普通地盤、軟弱地盤での30cm沈下時の管変位を示す。
【0052】
次に、さや管の内径は大きいほど優位であることは明白であるが、どの程度の内径が必要か検討するため、さや管としてVP管(呼び径200mm(VP200)、250mm(VP250)、300mm(VP300))を用いて同様の解析を実施した。その結果を
図9に示す。
【0053】
なお、解析条件は、さや管の長さL=1m、普通地盤とした。
【0054】
図9から、ある沈下量(20cm)までは、ポリエチレン管に発生する最大歪みは変わらないが、沈下量30cmでは、VP200とポリエチレン管が接触し、歪みが大きくなり、沈下量40cmでは、VP250とポリエチレン管が接触し、歪みが大きくなる結果となった。したがって、目標地盤変位吸収量Xに対し、最適なさや管内径寸法があることがわかる。
【0055】
これを踏まえて、目標地盤変位吸収量Xを300mmとし、普通地盤でも歪みが10%程度(ポリエチレン管の降伏歪み=許容歪み)であることとし、ポリエチレン管が呼び径75mm(外径89mm)であるとき、さや管として、VU管(硬質塩化ビニル管(肉薄管))を用い、呼び径250mm(VU250)で長さが1mとした。同様に他のサイズにおいても、目標地盤変位吸収量Xを300mmとし、普通地盤においても歪みが10%程度であることとし、同様の解析を他サイズでも実施した。その結果を表5に示す。
【0057】
この場合、目標地盤変位吸収量が300mmより小さければさや管の長さLは短くでき、その内径D2も小さくできる。
【0058】
一方、
図10に、ガス導管耐震設計指針の数1と解析の誤差(30%)を修正し、地盤弾性率と管歪みの関係をさや管の長さL毎に示す。
図10によれば、呼び径75mmのポリエチレン管は、軟弱地盤において、L=1.0mとL=0.5mとの間であるL=0.7mで歪みが10%になる(点●で示す)ことにより、さや管の長さと目標地盤変位吸収量との比700/300=2.3から、L>2Xを得た。
【0059】
また、地盤条件によりさや管の撓み量が異なるため(
図8参照)、さや管とポリエチレン管を同一軸心上に配置することで、地盤条件での対応範囲が広がるものとなる。ただし、予め地盤条件が沈下と把握されている場合には、さや管の軸心をポリエチレン管の軸心に対して下方にずらして配置すれば、さや管の内径寸法を小さくすることもできる。
【0060】
さらに、表5は、さや管とポリエチレン管を同一軸心上に配置した場合を示している。ここで、呼び径150mmのポリエチレン管の場合、D2−D1=133mmとなるが、軸心をずらすことにより、100mmでも十分対応可能なため、D2−D1>1/3・Xを得た。
【0061】
これらのことから、管直角方向の目標地盤変位吸収量Xmmに対して、D2−D1>1/3・Xで、L>2Xを満たすようにポリエチレン管の外径D1、さや管の内径D2及び長さLを選択すればよい。
(実施例)
図11に実施例1を示す。この実施例は、ポリエチレン管10(呼び径75mm(外径D1=89mm)、長さ1700mm)を、一端部にTSフランジ211を接着したさや管20(内径D2=250mm、長さL=1000mmのVU250)に挿通し、前後にそれぞれ400mm、300mm突出させるとともに、ポリエチレン管10及びさや管20を同一軸心上に配置し、それらの空間にクッション層30を形成して製造され、施工現場に輸送される。そして、さや管20のTSフランジ211の外面には、パッキン24が配設されている。
【0062】
この耐震構造は、施工現場において、ポリエチレン管10の先端部を構造物Kの貫通孔に挿入するとともに、構造物Kの貫通孔とポリエチレン管10の外周面との間にモルタル及びシリコンシーラント23を充填した後、TSフランジ211を構造物Kの外面にアンカーボルト22を介して固定すればよい。次いで、ポリエチレン管10の各端部をそれぞれ構造物Kの外側に埋設された図示しない埋設本管及び構造物K内部に敷設された図示しない導入本管にそれぞれ接続する。
【0063】
ポリエチレン管10とさや管20との間にクッション層30を形成するには、例えば、シート状の軟質ウレタンフォームやエアパッキンをポリエチレン管10に巻き付けてさや管20に挿入する案、円筒状軟質ウレタンフォームをポリエチレン管10に被せ、さや管20に挿入する案、ウレタン等のプラスチックフォームを注入し、発泡させる案等を挙げることができる。
【0064】
図12に実施例2を示す。この実施例におけるポリエチレン管10及びさや管20の寸法は、実施例1と同一であるが、TSフランジ211と構造物Kとの間に板フランジ212を介在し、構造物Kに対して板フランジ212及びTSフランジ211の順に重ねてアンカーボルト22を介して固定するものである。この場合、板フランジ212の外面にポリエチレン管10の外径よりも大きな外径のパッキン24を配設するとともに、その内周面にパッキン25を配設し、構造物Kと板フランジ212との間及び板フランジ212とポリエチレン管10との間をそれぞれパッキン24,25を介して密封し、埋設土や不明水が構造物Kの内部やさや管20の内部に浸入するのを防止することが好ましい。
【0065】
図13に実施例3を示す。この実施例におけるポリエチレン管10及びさや管20の寸法は、実施例1と同一であるが、クッション層30を形成することなく、さや管20の他端部にゴムスポンジ26を装着して空気層40を形成し、埋設土等の浸入を防止するものである。すなわち、さや管20の空気層40に埋設土等が浸入して堆積すると、さや管20内におけるポリエチレン管10の曲がり範囲が制約され、所望の性能を発揮できないおそれがあるが、ゴムスポンジ26を配設することにより、このような事態を防止することができる。
【0066】
図14に実施例4を示す。この実施例は、ポリエチレン管10(呼び径50mm(外径D1=60mm)、長さ1300mm)を、一端部に板フランジ212を融着したさや管20(呼び径200mm(外径D2=216mm)、長さL=500mmのポリエチレン管)に挿通し、前後にそれぞれ500mm、300mm突出させるとともに、ポリエチレン管10及びさや管20を同一軸心上に配置し、さや管20の先端側及び基端側にそれぞれクッション層30A,30Bを形成するとともに、先端側クッション層30A及び基端側クッション層30Bとの間に空気層40を形成して製造される。
【0067】
ここで、基端側クッション層30Bは発泡スチロール(弾性率3MPa)、先端側クッション層30Aは発泡ウレタン(弾性率1MPa)であって、基端側クッション層30Bの弾性率≧先端側クッション層30Aの弾性率に設定されている。これにより、地盤変位に対してポリエチレン管10の応力集中を抑制することができる。すなわち、先端側クッション層30Aは、地盤変位が発生した際にポリエチレン管10の曲がりによる変位が大きい部位を支持することから、ポリエチレン管10の曲がりを阻害しないように柔らかい材質がよい。一方、基端側クッション層30Bは、地盤変位が発生した際にポリエチレン管10の曲がり初めの変位の小さい部位であることから、先端側クッション層30Aと同じ弾性率か、又は、大きく(硬く)てよい。
【0068】
図15に実施例5を示す。この実施例は、ポリエチレン管10(呼び径50mm(外径D1=60mm)、長さ1400mm)を、一端部にフランジアダプター213をバット融着したさや管20(呼び径200mm(外径D2=216mm)、長さL=500mmのポリエチレン管)に挿通し、前後にそれぞれ400mm、500mm突出させるとともに、ポリエチレン管10及びさや管20を同一軸心上に配置し、さや管20の先端側及び基端側にそれぞれクッション層30A,30Bを形成するとともに、先端側クッション層30A及び基端側クッション層30Bとの間に空気層40を形成し、さらに、さや管20の先端部にキャップ部材27を装着して製造される。
【0069】
この場合、キャップ部材27は、EPDMゴム(厚み1.5mm)製の略漏斗(ロート)状成形品であり、ゴムバンド28を介してさや管20の先端部に固定されている。
【0070】
なお、クッション層30A,30Bは、前述した実施例4と同一である他、フランジアダプター213にルーズフランジ214を設け、ルーズフランジ214を介して構造物K外面に固定される。
【0071】
これにより、キャップ部材27を介してさや管20の先端部を閉鎖することができることから、埋設土等のさや管20内への浸入をキャップ部材27を介して一次的に防止することができる。
【0072】
なお、キャップ部材27は、柔軟性を有する材料であれば特に限定されず、例えば、エラストマー、その他のゴム、軟質樹脂等を採用することができる。また、さや管20に対するキャップ部材27の固定方法としては、ゴムバンド28以外に、PPバンド、紐を利用した締結や接着剤による接着等を利用することができる。また、キャップ部材27の弾性によって脱落しないならば、結束具等を利用せずに装着するのみでも構わない。
【0073】
また、キャップ部材27としては、
図16、
図17に示すように、浅い円筒状や蛇腹ブーツ状に形成してもよい。
図16に示す浅い円筒状のキャップ部材27では、さや管20の先端からの突出代を可及的に抑えることができ、埋設本管及び構造物Kとの間隔が少ない場合に好適に採用することができる。
図17に示す蛇腹ブーツ状のキャップ部材27では、地盤変位に伴ってポリエチレン管10が変形した場合、その変形にキャップ部材27も追従して変形することから、ポリエチレン管10とキャップ部材27との間に隙間を発生させることがなく、埋設土等の浸入を防止できる。
【0074】
図18に実施例6を示す。この実施例は、ポリエチレン管10(呼び径50mm(外径D1=60mm)、長さ1900mm)を、一端部にフランジアダプター213をバット融着するとともに、他端部が半径600mmでラッパ状に拡開する拡開部20aに形成したさや管20(呼び径200mm(外径D2=216mm)、長さL=1000mmのポリエチレン管)に挿通し、前後にそれぞれ700mm、200mm突出させるとともに、ポリエチレン管10及びさや管20を同一軸心上に配置し、それらの空間にクッション層30を形成して製造される。
【0075】
このようなさや管20によれば、地盤変位に伴ってポリエチレン管10が変形した場合、さや管20の拡開部20aの曲率半径に沿って曲げ変形し(
図18鎖線状態参照)、ポリエチレン管10の曲がりに伴う歪みの発生を抑制することができるとともに、屈曲点が発生することを抑制することができる。
【0076】
図19に変形例を示す。この変形例は、エルボ状のさや管20A内にエルボ状のポリエチレン管10Aを配設して構成される。具体的には、一端部に鍔返しによるフランジ21を設けたポリエチレン管(内径D2=250mm、長さL=870mm)を中間位置で管軸に対して45度で切断するとともに、切断端面同士をバット融着してエルボ状のさや管20Aを形成する。また、ポリエチレン管101(外径D1=89mm、長さ395mm)をエルボ11とEF継手12を介して接合するとともに、エルボ11側からエルボ状のさや管20Aにフランジ21側管口を通して挿入する一方、エルボ状のさや管20Aの他方の管口を通してポリエチレン管102(外径D1=89mm、長さ295mm)を挿入し、エルボ状のさや管20A内において、ポリエチレン管102をエルボ11とEF継手12を介して接合することにより、エルボ状のさや管20A内にエルボ状のポリエチレン管10Aを配置する。そして、エルボ状のさや管20Aのフランジ21側管口から250mm、他方の管口から150mmエルボ状のポリエチレン管10Aの各管端部をそれぞれ突出させるとともに、エルボ状のポリエチレン管10A及びエルボ状のさや管20Aを同一軸心上に配置し、それらの空間にクッション層30を形成して製造されたものである。
【0077】
この場合、エルボ状のさや管20Aの一端部に鍔返しによってフランジ21を形成する場合を例示したが、フランジアダプター213(
図15参照)をバット融着することでフランジ21を形成してもよい。
【0078】
なお、施工現場において、エルボ状のさや管20A内でポリエチレン管102及びエルボ11をEF継手12を介して接合する場合、さや管20Aの長さによっては、接合作業が困難な場合がある。その際には、
図20に示すように、ポリエチレン管102及びエルボ11の接合位置に対応してエルボ状のさや管20Aに予め作業用開口20bを形成しておき、作業用開口20bを通してポリエチレン管102及びエルボ11の接合作業を行ない、接合作業の終了後、作業用開口20bをシール材(図示せず)を介して蓋体201によって閉鎖すればよい。