特許第6188553号(P6188553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188553光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188553
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/15 20060101AFI20170821BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/19 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/21 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/23 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 3/253 20060101ALI20170821BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20170821BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C03C3/15
   C03C3/068
   C03C3/155
   C03C3/19
   C03C3/21
   C03C3/23
   C03C3/247
   C03C3/253
   G02B1/00
   G02B3/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-239214(P2013-239214)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-44724(P2015-44724A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2014年11月7日
【審判番号】不服2016-842(P2016-842/J1)
【審判請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-159619(P2013-159619)
(32)【優先日】2013年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】桃野 浄行
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−231501(JP,A)
【文献】 特開2004−161506(JP,A)
【文献】 特開2013−47168(JP,A)
【文献】 特開2013−63887(JP,A)
【文献】 特開2013−107810(JP,A)
【文献】 特開2013−126935(JP,A)
【文献】 特開2002−249337(JP,A)
【文献】 特開昭53−71115(JP,A)
【文献】 特開昭56−5345(JP,A)
【文献】 特開昭62−100449(JP,A)
【文献】 特表2004−518602(JP,A)
【文献】 特開昭55−116641(JP,A)
【文献】 特開昭56−54251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のモル%で、
成分を35.0%以上54.0%以下、
La成分を10.0%以上30.0%以下、
SiO成分を0%を超え10.0%以下、
ZnO成分 17.0%以上40.0%以下、含有し
Gd成分 0〜5.0%未満
Ta成分 0〜0.1%未満
LiO成分 0〜5.0%
含有し、かつ
Bi成分を含有せず、
モル比Y/(La+Gd)が0.21以上0.85未満であり
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が17.0%以上40.0%以下であり
厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)は420nm以下、分光透過率5%を示す波長(λ)は360nm以下であり、
1.73以上の屈折率(n)、42以上60以下のアッベ数(ν)、1100℃以下の液相温度を有する光学ガラス。
【請求項2】
モル%で、ZrO成分の含有量が10.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)のモル和が10.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学系全体の軽量化及び小型化を図ることが可能な、1.70以上の屈折率(n)を有し、42以上60以下のアッベ数(ν)を有する精密モールドプレス成形可能な高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとして、特許文献1及び2に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249337号公報
【特許文献2】特開2003−201143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学系で用いられるレンズには球面レンズと非球面レンズがあり、非球面レンズを利用すれば光学素子の枚数を削減することができる。また、レンズ以外の各種光学素子にも複雑な形状をした面を備えたものが知られている。しかしながら、従来の研削、研磨工程で非球面や複雑な形状をした面を得ようとすると、高コストで且つ複雑な作業工程が必要であった。そこで、ゴブ又はガラスブロックから得られたプリフォーム材を、超精密加工された金型で直接プレス成形して光学素子の形状を得る方法、すなわち精密モールドプレス成形する方法が現在主流である。
【0006】
また、プリフォーム材を精密モールドプレス成形する方法の他に、ガラス材料から形成されたゴブ又はガラスブロックを再加熱して成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形体を研削及び研磨する方法も知られている。
【0007】
こうした精密モールドプレス成形やリヒートプレス成形に用いられるプリフォーム材の製造方法としては、滴下法によって熔融ガラスから直接製造する方法や、ガラスブロックをリヒートプレスし、或いはボール形状に研削加工して得られた加工品を研削研磨する方法がある。いずれの方法であっても、熔融ガラスを所望の形状に成形して光学素子を得るためには、精密モールドプレス成形を行い易いことと、形成されるガラスに失透が起こり難いことが求められる。
【0008】
また、光学ガラスの材料コストを低減するために、光学ガラスを構成する諸成分の原料費は、なるべく安価であることが望まれる。また、光学ガラスの製造コストを低減するために、原料の熔解性が高いこと、すなわちより低い温度で熔解することが望まれる。ところが、特許文献1及び2に記載されたガラス組成物は、これらの諸要求に十分応えるものとは言い難い。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、精密モールドプレス成形を行い易く、且つ耐失透性が高いプリフォーム材を、より安価に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B成分及びLa成分を含有するガラスにおいて、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にあり、且つ、材料コストの高いGd成分及びTa成分の含有量を低減させながら、ガラス作製時及びプレス成形時に失透が起こり難い光学ガラスを得ることが可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) モル%で、B成分を35.0%以上65.0%以下、La成分を10.0%以上30.0%以下含有し、モル和(Gd+Ta)が7.0%未満であり、1.70以上の屈折率(n)を有し、42以上60以下のアッベ数(ν)を有する光学ガラス。
【0012】
(2) モル%で、
Gd成分 0〜7.0%未満
Ta成分 0〜5.0%未満
である(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3) モル%で、
成分 0〜15.0%
Yb成分 0〜10.0%
である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0014】
(4)Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が10.0%以上40.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(5) モル比Y/(La+Gd)が0超1.00未満である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(6) モル%で、SiO成分の含有量が15.0%以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(7) モル%で、ZrO成分の含有量が10.0%以下である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(8) モル%で、ZnO成分を5.0%以上40.0%以下含有する(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(9) モル%で、
LiO成分 0〜10.0%
NaO成分 0〜15.0%
O成分 0〜10.0%
である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10) モル和(ZnO+2×LiO)が5.0%以上45.0%以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(11) RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以下である(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(12) モル%で
MgO成分 0〜10.0%
CaO成分 0〜10.0%
SrO成分 0〜10.0%
BaO成分 0〜10.0%
である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(13) RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)のモル和が10.0%以下である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(14) モル%で
成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜15.0%
Ga成分 0〜15.0%
TiO成分 0〜20.0%
Nb成分 0〜10.0%
WO成分 0〜10.0%
Bi成分 0〜15.0%
TeO成分 0〜15.0%
SnO成分 0〜3.0%
Sb成分 0〜1.0%
であり、
上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての含有量が0〜15.0モル%である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(15) 1.70以上1.85以下の屈折率(n)を有し、42以上55以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(16) 1100℃以下の液相温度を有する(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(17) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0028】
(18) (17)記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【0029】
(19) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0030】
(20) (18)又は(19)に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、精密モールドプレス成形を行い易く、且つ耐失透性が高いプリフォーム材を、より安価に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の光学ガラスは、モル%で、B成分を35.0%以上65.0%以下、La成分を5.0%以上30.0%以下含有し、モル和(Gd+Ta)が7.0%未満であり、1.70以上の屈折率(n)を有し、42以上60以下のアッベ数(ν)を有する。B成分及びLa成分をベースとすることにより、1.70以上の屈折率(n)及び42以上60以下のアッベ数(ν)を有しながらも、液相温度が低くなり易くなる。また、本願発明者は、1.70以上の屈折率(n)及び42以上60以下のアッベ数(ν)を有するガラスにおいて、材料コストの高いGd成分及びTa成分の含有量を低減させながらも、ガラス作製時及びプレス成形時の失透を低減できることを見出した。従って、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながらも、精密モールドプレス成形を行い易く、且つ耐失透性が高いプリフォーム材を得ることが可能な光学ガラスを安価に得ることができる。
【0033】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0034】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0035】
<必須成分、任意成分について>
成分は、希土類酸化物を多く含む本発明の光学ガラスでは、ガラス形成酸化物として必須の成分である。特に、B成分の含有量を35.0%以上にすることで、ガラスの耐失透性を高め、且つガラスのアッベ数を高められる。従って、B成分の含有量は、好ましくは35.0%、より好ましくは37.0%、さらに好ましくは38.0%を下限とする。
一方、B成分の含有量を65.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、且つ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは65.0%、より好ましくは60.0%、さらに好ましくは57.0%、さらに好ましくは54.0%を上限とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0036】
La成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラスのアッベ数を高める必須成分である。従って、La成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは13.0%を下限とする。
一方、La成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは18.0%、さらに好ましくは16.0%を上限とする。
La成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0037】
Gd成分及びTa成分の合計量は、7.0%未満が好ましい。これにより、これら高価な成分の含有量が低減されるため、ガラスの材料コストを抑えられる。従って、モル和(Gd+Ta)は、好ましくは7.0%未満、より好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。
【0038】
Gd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つアッベ数を高められる任意成分である。
一方で、希土類元素の中でも特に高価なGd成分を7.0%未満にすることで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価に光学ガラスを作製できる。また、これによりガラスのアッベ数の必要以上の上昇を抑えられる。従って、Gd成分の含有量は、それぞれ好ましくは7.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.3%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
Gd成分は、原料としてGd、GdF等を用いることができる。
【0039】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、高価なTa成分を5.0%未満にすることで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価に光学ガラスを作製できる。また、これにより原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解に要するエネルギーが低減されるため、光学ガラスの製造コストをも低減できる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは5.0%未満、より好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.3%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0040】
成分は、0%超含有することで、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、ガラスの材料コストを抑えられ、且つ、他の希土類成分よりもガラスの比重を低減できる必須成分である。従って、Y成分の含有量は、好ましくは0%超とし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.7%、さらに好ましくは2.4%、さらに好ましくは3.1%を下限としてもよい。
一方で、Y成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、且つガラスの耐失透性を高められる。従って、Y成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%を上限とする。
成分は、原料としてY、YF等を用いることができる。
【0041】
Yb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つアッベ数を高められる任意成分である。
一方で、Yb成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価に光学ガラスを作製できる。また、これによりガラスの耐失透性を高められる。従って、Yb成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.3%未満を上限とする。材料コストを低減させる観点で、Yb成分を含有しなくてもよい。
Yb成分は、原料としてYb等を用いることができる。
【0042】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(モル和)は、10.0%以上40.0%以下が好ましい。
特に、この和を10.0%以上にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数がいずれも高められるため、所望の屈折率及びアッベ数を有するガラスを得易くすることができる。従って、Ln成分のモル和は、好ましくは10.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは15.5%、さらに好ましくは17.0%を下限とする。
一方で、この和を40.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの失透を低減できる。従って、Ln成分のモル和は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは25.0%、さらに好ましくは22.0%を上限とする。
【0043】
本発明の光学ガラスは、上述のLn成分のうち2種以上の成分を含有することが好ましい。これにより、ガラスの液相温度がより低くなるため、より耐失透性の高いガラスを得られる。特に、Ln成分として、La成分とY成分を含む2種以上の成分を含有することが、ガラスの液相温度を低くし易くできる点と、安価な光学ガラスを作製できる点で好ましい。
【0044】
La成分及びGd成分の合計量に対する、Y成分の含有量の比率は、0超1.00未満が好ましい。
特に、この比率を0超にすることで、ガラスの材料コストを抑えられ、且つ、他の希土類成分よりもガラスの比重を低減できる。従って、モル比Y/(La+Gd)は、好ましくは0超とし、より好ましくは0.10、さらに好ましくは0.15、さらに好ましくは0.21、さらに好ましくは0.24を下限とする。
一方で、この比率を1.00未満にすることで、ガラスの失透を低減でき、且つ、高屈折率を得易くできる。従って、モル比Y/(La+Gd)は、好ましくは1.00未満、より好ましくは0.85未満、さらに好ましくは0.75未満、さらに好ましくは0.65未満、さらに好ましくは0.50未満とする。
【0045】
SiO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を高められ、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.3%以上、さらに好ましくは2.0%超、さらに好ましくは4.0%超としてもよい。
一方で、SiO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑えられ、且つ屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.8%を上限とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0046】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められ、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。従って、ZrO成分の含有量を、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%超、さらに好ましくは0.3%超としてもよい。
一方で、ZrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0047】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くでき、且つ化学的耐久性を改善できる任意成分である。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは6.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは17.0%、さらに好ましくは20.8%を下限としてもよい。
一方で、ZnO成分の含有量を40.0%以下にすることで、液相温度を低くでき、且つ、ガラス転移点の必要以上の低下による失透を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは33.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは26.0%を上限とする。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0048】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、LiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて失透を低減でき、化学的耐久性を高められる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満とする。
LiO成分は、原料としてLiCO、LiNO、LiCO等を用いることができる。
【0049】
NaO成分及びKO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くでき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、NaO成分の含有量を15.0%以下にし、及び/又は、KO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの失透を低減できる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。また、KO成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%、より好ましく5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
NaO成分及びKO成分は、原料としてNaCO、NaNO、NaF、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0050】
LiO成分の含有量の2倍と、及びZnO成分の含有量との合計値は、5.0%以上45.0%以下が好ましい。
この合計値を5.0%以上にすることで、よりガラス転移点が高く、且つ化学的耐久性の高い光学ガラスを得易くできる。従って、モル和(ZnO+2×LiO)は、好ましくは5.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは19.0%、さらに好ましくは20.0%を下限とする。
一方で、この合計値を45.0%以下にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数を低下し難くできる。従って、モル和(ZnO+2×LiO)は、好ましくは45.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは35.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは25.0%を上限とする。
【0051】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(モル和)は、20.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの失透を低減できる。従って、RnO成分のモル和は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは3.5%を上限とし、さらに好ましくは2.0%未満とする。
【0052】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる任意成分である。
一方で、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、所望の屈折率を得易くし、且つこれらの成分の過剰な含有によるガラスの失透をできる。従って、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料としてMgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO、BaF等を用いることができる。
【0053】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(モル和)は、10.0%以下が好ましい。これにより、所望の高屈折率を得易くできる。従って、RO成分のモル和は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0054】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0055】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかしながら、GeOは原料価格が高いため、その含有量が多いと生産コストが高くなるため、Gd成分やTa成分等を低減することによる効果が減殺される。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.1%を上限とする。材料コストをより低減させる観点では、GeO成分を含有しなくてもよい。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0056】
Al成分及びGa成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を向上でき、且つ熔融ガラスの耐失透性を向上できる任意成分である。
一方で、Al成分及びGa成分の各々の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。従って、Al成分及びGa成分の各々の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
Al成分及びGa成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)等を用いることができる。
【0057】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められ、且つガラスの液相温度を低くすることで耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、TiO成分の過剰な含有による失透を低減でき、ガラスの可視光(特に波長500nm以下)に対する透過率の低下を抑えられる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0058】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高めてアッベ数を小さくでき、且つガラスの液相温度を低くすることで耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Nb成分の含有量を10.0%以下にすることで、Nb成分の過剰な含有による失透を低減でき、且つ、ガラスの可視光(特に波長500nm以下)に対する透過率の低下を抑えられる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0059】
WO成分は、0%超含有する場合に、他の高屈折率成分によるガラスの着色を低減しながら、屈折率を高め、ガラス転移点を低くでき、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、WO成分によるガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0060】
Bi成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、Bi成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは15.0%を上限とし、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0061】
TeO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、TeOは白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは15.0%を上限とし、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0062】
SnO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
一方で、SnO成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%未満とする。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnF等を用いることができる。
【0063】
Sb成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
一方で、Sb量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0064】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0065】
F成分は、0%超含有する場合に、ガラスのアッベ数を高めつつ、ガラス転移点を低くし、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかし、F成分を含有すると、溶融ガラスからのF成分の揮発量が多くなるため、安定した光学恒数が得られ難くなり、均質なガラスが得られ難くなる。
従って、F成分の含有量、すなわち上述した各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とし、最も好ましくは含有しない。
F成分は、原料として例えばZrF、AlF、NaF、CaF等を用いることで、ガラス内に含有することができる。
【0066】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0067】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0068】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0069】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0070】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 15.0〜35.0質量%、
La成分 25.0〜50.0質量%
Gd成分 0〜20.0質量%
Ta成分 0〜15.0質量%
成分 0〜25.0質量%
Yb成分 0〜25.0質量%
SiO成分 0〜8.0質量%
ZrO成分 0〜10.0質量%
ZnO成分 0〜25.0質量%
LiO成分 0〜3.0質量%
NaO成分 0〜8.0質量%
O成分 0〜8.0質量%
MgO成分 0〜3.0質量%
CaO成分 0〜5.0質量%
SrO成分 0〜8.0質量%
BaO成分 0〜10.0質量%
成分 0〜10.0質量%
GeO成分 0〜8.0質量%
Al成分 0〜10.0質量%
Ga成分 0〜20.0質量%
TiO成分 0〜10.0質量%
Nb成分 0〜20.0質量%
WO成分 0〜15.0質量%
Bi成分 0〜35.0質量%
TeO成分 0〜15.0質量%
SnO成分 0〜3.0質量%
Sb成分 0〜3.0質量%
並びに、上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量 0〜5.0質量%
【0071】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1500℃の温度範囲で2〜5時間熔融して攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0072】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70、より好ましくは1.71、さらに好ましくは1.73を下限とする。この屈折率(n)は、好ましくは1.85、より好ましくは1.83、さらに好ましくは1.81、さらに好ましくは1.80を上限としてもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは42、より好ましくは43、さらに好ましくは45を下限とする。このアッベ数(ν)は、好ましくは60、より好ましくは58、さらに好ましくは55を上限とする。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。加えて、このような低分散を有することで、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
従って、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0073】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す波長(λ80)は、好ましくは500nm、より好ましくは450nm、さらに好ましくは420nmを上限とする。
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは400nm、より好ましくは380nm、さらに好ましくは360nm、さらに好ましくは340nmを上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域又はその近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0074】
本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いこと、より具体的には、低い液相温度を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1100℃、より好ましくは1080℃、さらに好ましくは1060℃を上限とする。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、熔融状態からガラスを形成したときの失透を低減でき、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減できる。また、プリフォーム材を安定生産できる温度の範囲が広くなるため、ガラスの熔解温度を低くしてもプリフォーム材を形成でき、プリフォーム材の形成時に消費するエネルギーを抑えられる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、概ね800℃以上、具体的には850℃以上、さらに具体的には900℃以上であることが多い。なお、本明細書中における「液相温度」とは、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1250℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察したときに、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで降温する際の所定の温度は、1180℃〜800℃の間の10℃刻みの温度である。
【0075】
本発明の光学ガラスは、580℃超630℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。
特に、本願発明のような高屈折率低分散の光学ガラスでは、光学ガラスが580℃超のガラス転移点を有することで結晶化が起こり難くなるため、プレス成形時の失透を低減でき、これによりプレス成形に好適なガラスを得られる。特に、屈折率が高くアッベ数の大きなガラスであるほど、ガラスの結晶化が起こり易い傾向があるため、ガラス転移点を580℃超の温度範囲にすることによる効果は顕著である。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは580℃超、より好ましくは585℃超、さらに好ましくは590℃超とする。
一方で、光学ガラスが630℃以下のガラス転移点を有することで、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形し易くできる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは630℃、より好ましくは628℃、さらに好ましくは625℃を上限とする。
なお、ガラス転移点が580℃超であっても、例えば特開2007−186384号公に示すような成形機や金型等を用いることで、プレス用型の表面へのダメージを低減でき、型材の耐久性を高めることが可能なため、580℃超のガラス転移点を有する光学ガラスの精密プレス成形は、一般に行われるものである。
【0076】
本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの比重は5.00[g/cm]以下である。これにより、光学素子やそれを用いた光学機器の質量が低減されるため、光学機器の軽量化に寄与することができる。従って、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは5.00、より好ましくは4.80、好ましくは4.60を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの比重は、概ね3.00以上、より詳細には3.50以上、さらに詳細には4.00以上であることが多い。
本発明の光学ガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定する。
【0077】
[プリフォーム材及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0078】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームを用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォームの形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0079】
本発明の実施例(No.1〜No.74)、比較例(No.A)及び参考例(No.a)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、ガラス転移点(Tg)、液相温度、分光透過率が5%、80%を示す波長(λ、λ80)並びに比重の結果を表1〜表11に示す。ここで、実施例1、3〜5、8、9、11、12、14、19〜23、29、30、43、48〜50、52〜57は参考例とする。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。




































【0080】
本発明の実施例、比較例及び参考例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1500℃の温度範囲で2〜5時間熔融した後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0081】
ここで、実施例、比較例及び参考例のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。ここで、屈折率(n)、アッベ数(ν)は、徐冷降温速度を−25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0082】
実施例、比較例及び参考例のガラスのガラス転移点(Tg)は、横型膨張測定器を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ4.8mm、長さ50〜55mmのものを使用し、昇温速度を4℃/minとした。
【0083】
実施例、比較例及び参考例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)、λ80(透過率80%時の波長)を求めた。
【0084】
実施例、比較例及び参考例のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1250℃で完全に熔融状態にし、1180℃〜800℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察したときに、結晶が認められない一番低い温度を求めた。
【0085】
実施例、比較例及び参考例のガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0086】
【表1】








【0087】
【表2】








【0088】
【表3】








【0089】
【表4】








【0090】
【表5】








【0091】
【表6】










【0092】
【表7】








【0093】
【表8】








【0094】
【表9】








【0095】
【表10】








【0096】
【表11】

【0097】
表に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、モル和(Gd+Ta)が7.0%未満であるため、より安価に得ることが可能である。一方で、比較例(No.A)のガラスは、モル和(Gd+Ta)が8.353%であるため、材料コストの高いものである。
【0098】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が580℃超630℃以下、より詳細には590℃以上630℃以下であり、所望の範囲内であった。一方で、比較例(No.A)及び参考例(No.a)のガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が630℃を超えていた。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1100℃以下、より詳細には1080℃以下であり、所望の範囲内であった。
このため、本発明の実施例の光学ガラスは、Gd成分やTa成分等の材料コストの高い成分を用いなくても、ガラス作製時及びプレス成形時の失透を低減できることが明らかになった。
【0099】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ80(透過率80%時の波長)がいずれも500nm以下、より詳細には450nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも400nm以下、より詳細には340nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、可視短波長の光の透過率が高く、着色し難いことが明らかになった。
【0100】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.70以上、より詳細には1.73以上であり、所望の範囲内であった。また、これらの光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が42以上であるとともに、このアッベ数(ν)は60以下、より詳細には54以下であり、所望の範囲内であった。
【0101】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも比重が5.00[g/cm]以下、より詳細には4.60[g/cm]以下であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、比重が小さいことが明らかになった。
【0102】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながらも、可視短波長における透過率が高く、耐失透性が高く、加熱軟化によるプレス成形を行い易く、且つ比重が小さいことが明らかになった。
【0103】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームをレンズ及びプリズムの形状に精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0104】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。