特許第6188569号(P6188569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6188569-電極材料とその利用 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188569
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電極材料とその利用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20170821BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20170821BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170821BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01M4/86 T
   H01M4/92
   H01M8/12
   H01M8/02 Y
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-266976(P2013-266976)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-122287(P2015-122287A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−517859(JP,A)
【文献】 特開2002−003218(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0172726(US,A1)
【文献】 特開2007−179916(JP,A)
【文献】 特開2008−041411(JP,A)
【文献】 特開2006−080006(JP,A)
【文献】 特開平07−029574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極支持型固体酸化物形燃料電池の燃料極支持層形成用の電極材料であって、
遷移金属および遷移金属化合物のうちの少なくとも一つの遷移金属成分と、
一般式:12AeO・7Al …(1)
(式中、AeはCaおよびSrの少なくとも1種の元素である)
で表されるマイエナイト化合物と、を含み、
前記遷移金属成分と前記マイエナイト化合物との合計に占める前記マイエナイト化合物の割合は、40質量%以上50質量%以下である、電極材料。
【請求項2】
前記遷移金属成分は、Co,Ni,Cu,Ag,WおよびPtから選択される1種または2種以上の元素を含む、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記Aeは、少なくともCaを含む、請求項1または2に記載の電極材料。
【請求項4】
当該電極材料を焼成して得られる焼成物の25℃〜1000℃の温度範囲における熱膨張係数が、9×10−6/K以上12×10−6/K以下に調整されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項5】
さらに、分散媒を含み、
前記遷移金属成分と前記マイエナイト化合物とが、前記分散媒に分散されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極材料を用いて形成された燃料極支持層を備える、燃料極支持型固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料とその利用に関する。詳しくは、固体酸化物形燃料電池の燃料極に好適に用いることができる電極材料と、これを用いて形成される燃料極および固体酸化物形燃料電池等に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell,以下、単に「SOFC」という場合がある。)は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、そして、多様な燃料の使用が可能であるなどの利点を有している。SOFCの単セルは、本質的な構成として、酸素イオン伝導体からなる緻密な層状の固体電解質を基本とし、この固体電解質の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成された多層構造が基本とされている。
ここで、空気極が形成された側の固体電解質の表面には、空気等に代表されるO(酸素)含有ガスが供給され、燃料極が形成された側の固体電解質の表面には、H(水素)に代表される可燃性燃料ガスが供給される。そして一般的な動作においては、空気中のOガスがカソードで電気化学的に還元されてO2−アニオンとなり、固体電解質を通過して、燃料極に到達する。そして、このO2−アニオンが燃料極においてHガス燃料を酸化するのに伴い、外部負荷に電子を放出し、電気エネルギーが発生される。
【0003】
かかるSOFCにおいて、固体電解質材料としては、イオン伝導性、安定性および価格のバランスの良好なイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が広く用いられている。また、燃料極材料としては、酸化ニッケル(NiO)およびイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の混合物(例えば、NiO/YSZサーメット)が一般に用いられている。そして、空気極材料としては、一般的に、ランタンストロンチウムコバルタイト((LaSr)CoO;LSC),ランタンストロンチウムマンガナイト((LaSr)MnO;LSM)等のペロブスカイト型酸化物や、ランタンストロンチウム鉄コバルタイト((LaSr)(CoFe)O;LSCF)等の酸素イオン−電子混合導電性材料が用いられている。なお、固体電解質材料と空気極材料との反応を防止する目的で、ガドリニウムドープセリア(GDC)等からなる反応抑止層が固体電解質材料と空気極材料との間に設けられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−236749号公報
【特許文献2】国際公開第2010/090266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなSOFCは、小型化および低コスト化に向けて、多層構造のセルの薄層化が進んでいる。セルの薄層化は、SOFCの内部抵抗を下げ得る点でも望ましい。しかしながら、従来より燃料極、固体電解質および空気極を構成するのに使用されている材料は、互いの熱膨張係数差が大きい。例えば、SOFCの燃料極を構成するのに主として用いられているNiO/YSZサーメットは、例えば、25℃〜1000℃の温度範囲における熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion:CTE,以下、単に「CTE」と記す場合がある。)が13〜14×10−6/K程度と大きく、例えば、固体電解質材料であるYSZのCTEが10×10−6/K程度であるのに比較すると大きな差がある。したがって、SOFCの製造において、上記材料から構成される多層構造の未焼成セルを焼成する際に、熱膨張差によりセルに反りが発生するという問題があった。かかるセルの反りは、燃料極支持型のSOFCにおいては、最も厚みのある燃料極支持体の厚みを薄くすることで特に顕著となる。また、かかるセルの反りはセルに応力集中をもたらし、セルの強度低下や生産性の低下等の原因となり得るため、実用上解決すべき重大な課題である。
【0006】
本発明は上記の従来の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、SOFCの燃料極を構成するに適した電極材料を提供することである。また、本発明の他の目的は、かかる電極材料を用いてなる燃料極と、さらにはかかる燃料極を備えたSOFCとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するものとして、ここに開示される発明は、電極材料を提供する。かかる電極材料は、遷移金属および遷移金属化合物のうちの少なくとも一つの遷移金属成分と、一般式:12AeO・7Alで表されるマイエナイト化合物と、を含むことを特徴としている。なお、ここで、式中のAeはCaおよびSrの少なくとも1種の元素である。
上記の遷移金属成分は、例えば、YSZやGDC等の酸化物と共に、SOFCの燃料極材料として従来より用いられている材料である。かかる遷移金属成分は、固体電解質材料であるYSZの単体に比べてCTEが大きい。一方で、マイエナイト化合物は、高温においても結晶構造が比較的安定であり、遷移金属成分と反応することなく、またそのCTEは遷移金属成分に比べて十分に低い。したがって、ここに開示される電極材料においては、従来のYSZやGDC等の酸化物に代えて、マイエナイト化合物を用いるようにし、遷移金属成分を含む電極材料の熱膨張係数を適切な値に調整するようにしている。これにより、特に、燃料極支持型のSOFCなどにおいて顕著にみられる、熱膨張差に起因して発生するセルの反りの問題を、低減または解消することができる。
【0008】
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記遷移金属成分は、Co,Ni,Cu,Ag,WおよびPtから選択される1種または2種以上の元素を含むことを特徴としている。
かかる構成によると、高い電気伝導性を有するとともに、SOFCの運転温度において高い水素解離能力を有する電極材料が提供される。
【0009】
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記Aeは、少なくともCaを含むことを特徴としている。
これにより、例えば、ここに開示される電極材料をより安価に安定して提供することが可能とされる。
【0010】
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、上記遷移金属成分と、上記マイエナイト化合物との合計に占める上記マイエナイト化合物の割合が、80質量%以下であることを特徴としている。
これにより、例えば、かかる電極材料を用いて形成される電極の熱膨張係数を電極材料の特性を過度に損ねることなく好適に調整することができる電極材料が提供される。
【0011】
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、当該電極材料を焼成して得られる焼成物の25℃〜1000℃の温度範囲における熱膨張係数が、9×10−6/K以上12×10−6/K以下に調整されていることを特徴としている。
かかる構成によると、例えば、SOFCの燃料極材料として好適な電極材料が提供される。特に、遷移金属成分と、ジルコニア、YSZ、セリアおよびGDC等の酸化物とのサーメットのCTEとの整合性を備える電極材料が提供される。
【0012】
ここに開示される電極材料の好ましい一態様において、さらに、分散媒を含み、上記遷移金属成分と、上記マイエナイト化合物とが分散媒に分散されていることを特徴としている。
かかる構成によると、当該電極材料を印刷や塗布するなどして目的の電極を形成することができ、取り扱いや成形性に優れた電極材料が提供される。
【0013】
ここに開示される電極材料は、上記のとおり、高温においても物性が安定しており、また、固体電解質材料等とCTEの整合性が良いという利点を有する。したがって、かかる電極材料は、例えば、SOFCの燃料極を構成する燃料極材料として好適に用いることができる。あるいは、SOFCの燃料極の集電部材を構成する燃料極集電材料としても好適に用いることができる。かかる利点を生かし、他の側面において、ここに開示される発明は、上記の電極材料を用いて形成された燃料極を備えるSOFCをも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】燃料極支持型SOFC(単セル)を備えたSOFCシステムの一形態を説明する断面模式図である。
図2】スタック状のSOFC(単セル)を備えたSOFCシステムの一形態を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けないSOFCの一般的な構成や、製造プロセス、作動方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示される電極材料は、本質的に、遷移金属および遷移金属化合物のうちの少なくとも一つの遷移金属成分と、マイエナイト化合物とを含むものとして特徴づけられる。すなわち、この遷移金属成分に、マイエナイト化合物が混合されていることで、この電極材料のCTEが好適に調整されている。以下、かかる構成の電極材料について詳細に説明する。
【0017】
[マイエナイト化合物]
ここに開示される電極材料において特徴的なマイエナイト化合物は、下記の一般式(1)で表される代表組成を有している。
一般式:12AeO・7Al …(1)
なお、ここで式中、AeはCaおよびSrの少なくとも1種の元素である。Aeは、上記の通りカルシウム(Ca)またはストロンチウム(Sr)であり得る。これらの元素はいずれか一方が単独で含まれていても良いし、両方が組み合わされて含まれていても良い。なかでも、Caが含まれている形態が好ましい。Aeとして2種以上の元素が含まれる場合には、さらに、Caがより高い含有率で含まれているのが好適である。
【0018】
かかるマイエナイト化合物は、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を備えている。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成している。そしてこのケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸素イオンで占められている。ここで、ケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有している。そのため、ケージ内の酸素イオンは、特にフリー酸素イオンと呼ばれることがある。このマイエナイト化合物は、通常は導電性を示さないが、例えば、特許文献1および2に開示されるように、フリー酸素イオンの一部または全部を電子と置換することで導電性が付与される。ここに開示される電極材料において、上記マイエナイト化合物は、いわゆる導電性マイエナイト化合物または非導電性マイエナイト化合物であり得る。
【0019】
かかるマイエナイト化合物の25℃〜1000℃の温度範囲における熱膨張係数(CTE)は、約5×10−6/Kであり得る。かかるマイエナイトを後述の遷移金属および遷移金属化合物の少なくとも一つに加えることで、電極材料のCTEを所望の値に好適に調整することができる。
【0020】
[遷移金属成分]
ここに開示される電極材料は、遷移金属、あるいはその遷移金属化合物から選択される少なくとも一つの遷移金属成分を含んでいる。換言すると、かかる遷移金属成分は、元素周期律表の3族〜11族に属する遷移金属元素を主要成分とする金属またはその化合物であり得る。ここで、金属とは、当該遷移金属元素の単体、または他の金属元素および/または半金属元素からなる合金、固溶体、金属間化合物等の金属的性質を示す物質を包含する意味である。また、ここでいう化合物とは、当該遷移金属元素と非金属元素との化合物(典型的には、酸化物、窒化物等)を包含する意味である。かかる遷移金属成分は、SOFCの運転環境である高温の還元雰囲気で高い電気伝導度を示すとともに、高い水素解離能力(水素酸化活性であり得る)を有していることから、特にSOFCの燃料極用材料として好適に用いることができる。例えば、典型的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等の3d遷移元素や、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),オスミウム(Os),イリジウム(Ir),白金(Pt),金(Au),銀(Ag)の貴金属元素などの金属またはその化合物が挙げられる。なかでも、Co,Ni,Cu,Ag,WおよびPtの単体や、これらの合金、酸化物等は、上記環境においてより高い電気伝導性を示し得る点でここに開示される技術の遷移金属成分として好ましい。これらの遷移金属成分は、いずれか1種が単独で含まれていても良いし、2種以上が組み合わされて含まれていても良い。上記の特性と、価格の面等を考慮すると、遷移金属はNiまたはPtであるのが好ましく、そしてかかる電極材料は、Ni,酸化ニッケル(NiO),Pt,Pt合金を含むことが好ましい。より好ましくはNiOであり得る。NiOが他の遷移金属および遷移金属化合物の少なくとも一つと共に含まれる場合には、かかるNiOがより高い含有率で含まれているのが好適である。
【0021】
ここに開示される電極材料においては、上記の遷移金属成分に、マイエナイト化合物がごく少量でも混合されることで、電極材料のCTEは遷移金属成分のCTEよりも低い値に調整され得る。また、マイエナイト化合物がごく少量でも混合されることで、かかる電極材料を用いて形成されたSOFCの焼成時の反りが低減され得る。かかる観点から、マイエナイト化合物は、遷移金属成分とマイエナイト化合物との合計に占めるマイエナイト化合物の割合が、0質量%を超過していればよく、所望のCTEや反り量等を実現し得る割合まで配合することができる。例えば、マイエナイト化合物の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。なお、遷移金属成分の組成等にもよるため一概には言えないが、マイエナイト化合物の割合は、多すぎるとSOFCの運転環境において遷移金属成分の電子伝導性が損なわれるおそれがあるために好ましくない。したがって、必ずしもこれに限定されるものではないが、マイエナイト化合物の割合は、例えば、おおよそ80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であるのがより好ましく、例えば、60質量%以下とすることができる。例えば、マイエナイト化合物の割合をかかる範囲とすることで、電極材料のCTEが好適に調整され、例えばSOFCのセルの焼成による反りの発生が抑制され得る電極材料とすることができる。
【0022】
かかる電極材料において、上記のマイエナイト化合物および遷移金属成分の形態については特に限定されない。典型的には、粉末形態のものが扱いやすいことから好ましく用いられる。かかる粉末の形態は、代表的には、略球状であるが、いわゆる真球状のものに限られない。球状以外には、例えば、フレーク形状や破砕形状、造粒形状、不規則形状のものであっても良い。また、これらのマイエナイト化合物、遷移金属成分の粉末の粒径についても特に制限されない。例えば、当該粉末を構成する粒子の平均粒径が20μm以下であるものが適当であり、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上5μm以下であり、例えば1μm±0.5μmであり得る。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径;以下、D50と略記する場合もある。)を意味する。
【0023】
また、本発明の目的を損なわない限り、ここに開示される電極材料に、上記のマイエナイト化合物や遷移金属成分以外の成分や、不可避的な不純物が含まれることは許容される。電極材料において実質的に電極を構成する成分としては、好ましくは、上記一般式(1)で示されるマイエナイト化合物の単相と、高純度(例えば、純度99%以上)の遷移金属成分とが混合されたものであり得る。しかしながら、例えば、かかる電極材料の調製において、実質的に電極を構成する成分に、意図しない不純物が含まれたりすることは十分にあり得る。このような場合においても、かかる材料が電極を構成する主たる成分であれば、かかる材料は本発明の電極材料に包含することができる。なお、限定的なものではないが、おおよその目安として、電極材料全体を100質量%としたとき、例えば、質量比で10質量%以下、典型的には5質量%以下、例えば3質量%以下(1質量%以下であり得る)の割合で他の成分(マイエナイト化合物および遷移金属成分以外の成分等)を含むものであり得る。
【0024】
[電極材料の調製方法]
ここに開示される電極材料は、その調製方法について特に制限はなく、例えば、典型的には、粉末状のマイエナイト化合物と、粉末状の遷移金属成分とを、混合することで調製することができる。なお、粉末状のマイエナイト化合物や、粉末状の遷移金属成分の調整または入手方法については、特に制限されず、例えば公知の各種の手法に準じることができる。
具体的には、例えば、マイエナイト化合物の製造方法については、乾式法や、湿式法等が代表的なものとして知られている。マイエナイト化合物は、一般的な非導電性のものとして調製されてもよいし、導電性が付与されるように調製されてもよい(特許文献1および2参照)。
なお、非導電性のマイエナイト化合物の製造方法を例にして説明すると、乾式法とは、例えば、粉末状のマイエナイト化合物の金属構成成分の原料化合物を化学量論組成で乾式混合し、仮焼して固相反応させる方法である。かかる原料化合物は、例えば、上記の一般式で示されるAeおよびAlの各元素の化合物(例えば、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)であってもよい。
【0025】
また、湿式法とは、当該マイエナイト化合物の金属構成成分を化学量論比で全て含む混合溶液を作り、かかる混合溶液から目的のマイエナイト化合物を析出させる方法である。代表的には、共沈法や噴霧法が挙げられる。共沈法は、構成成分を化学量論比で全て含む混合溶液に対し、沈澱形成液を添加して目的の金属元素を化学量論比で含む水酸化物を共沈させ、この共沈物を乾燥、仮焼する方法である。また、噴霧法は、構成成分を化学量論比で全て含む混合溶液をアトマイザー等を利用して噴霧し、液滴化した状態で、かかる液滴を乾燥、仮焼する方法である。湿式法において用いる原料化合物としては、上記の一般式で示されるAeおよびAlの各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、蓚酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
かかる電極材料は、そのまま単独で、あるいは焼結助剤、造孔材等の添加剤と共に所望の形態に成形し、焼成することで、目的の電極等の構成部材を作製することができる。
かかる成形に際しては、例えば、粉末状の電極材料をそのまま成形してもよいし、あるいは、粉末状の電極材料を分散媒中に分散したペースト(インク、スラリーなどを包含する)の形態に調製して用いるようにしても良い。すなわち、ここに開示される電極材料は、実質的に電極を構成する成分以外の成分として、例えば、上記の遷移金属成分とマイエナイト化合物とを分散し得る分散媒を含んでいても良い。かかる分散媒としては、ここに開示される遷移金属成分とマイエナイト化合物とを良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられている各種の分散媒を特に制限なく使用することができる。典型的には、かかる分散媒としては、ビヒクルと、粘度調整のための有機溶媒との混合物を考慮することができる。かかる有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤の1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分はペーストを調製するのに良好な粘性および塗膜形成能(例えば、印刷性や、基板に対する付着性等を含む。)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれているのが好ましい。なお、かかる分散媒には、分散剤や可塑剤等のこの種の分散媒に一般的に使用され得る任意の添加剤が含まれていても良い。
【0027】
かかる分散媒の割合は、例えば、燃料電池の構成部材の形態やその成形に採用する手法等に応じて、適宜調整することができる。例えば、スクリーン印刷やドクターブレード法等の手法によりSOFCの燃料極用グリーンシートを成形する場合を例にすると、かかる分散媒が、ペースト全体(すなわち、遷移金属成分およびマイエナイト化合物と、分散媒との合計)に占める割合は、5質量%以上60質量%以下程度とすることができ、好ましくは7質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、例えば、ペースト全体の1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは1質量%以上10質量%以下程度、より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度の割合とすることが例示される。かかる構成とすることで、例えば、粉末状の電極材料を均一な厚さの層状体(例えば、塗膜)として形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、さらにかかる成形体から溶媒を除去するのに長時間を要することがないために好適である。特に、薄層化が進められるSOFCの空気極のグリーンシート(未焼成段階の成形体)を好適に形成することができる。
【0028】
なお、ペースト状に調製するに際し、遷移金属成分、マイエナイト化合物および分散媒の混合には、例えば、公知の三本ロールミル等を用いることができる。ペースト状の電極材料は、所望の用途に応じて適切な粘度に調整することによって、塗布または印刷等の形態で電極材料を所望の位置に所望の形態にて簡便に供給することが可能となる。例えば、極精密に寸法が管理されたSOFCの燃料極や、複雑な形状の部位を有するインターコネクタ等の用途の成形体を簡便かつ好適に成形することができる。なお、ここに開示される電極材料でSOFCの燃料極を形成する場合、燃料極の全体をかかる電極材料で構成しても良いし、その一部のみをかかる電極材料で構成するようにしても良い。ここに開示される電極材料は、粉末状のものを所定の形態に圧縮成形する等して成形体(例えば、所望の形状のペレット)として用いることもできる。
【0029】
[電極材料の使用方法]
上記のようにして準備した電極材料の成形体は、従来のこの種の構成部材と同様に焼成することができる。この場合の焼成温度は、例えば1000℃〜1400℃程度とすることができる。ただし、かかる焼成を、他の構成部材の焼成と同時に行う場合等には、焼成温度を適宜変更することができる。
また、ここに開示される電極材料は、高温において良好な電気伝導性および水素分離能力を示すことに加え、一般的なSOFCの固体電解質材料であるジルコニア系酸化物と熱膨張係数が近く調整され得る。そして、かかる固体電解質材料などとも反応性が低いことから、SOFCの燃料極を構成するために好ましく用いることができる。また、ここに開示される電極材料は、SOFCの燃料極の作動条件である高温の還元雰囲気において、燃料極における水素の酸化反応や触媒作用をも示し得る。したがって、かかる電極材料を燃料極に用いれば、電極(燃料極)/電解質/気相(水素含有ガス)が接する三相界面だけでなく、電極(燃料極)自体の表面においても電極反応が進行しうるため、例えば、高い電極活性を示し得るために好ましい。すなわち、かかる電極材料は、例えば、SOFCの中でも600℃〜700℃程度の比較的低温で作動される低温型SOFCの構成部材として好ましく考慮することができる。かかる構成部材としては、具体的には、SOFCの燃料極のほかに、燃料極集電体およびこれらの接合用材料等を挙げることができる。なお、本明細書でいう集電体とは、SOFCにおいては、インターコネクタ、セパレータなどとも呼ばれる構成部材であって、例えば一方のセルの空気極と他方のセルの燃料極とを電気的に接合したり、一つの空気極あるいは燃料極と他の構成部材とをSOFCの運転環境において電気的に接続したりする部材であり得る。
以下、ここに開示される電極材料を用いて構成されるSOFCの具体的な実施態様を示しながら、本発明が提供するSOFCについて説明する。
【0030】
[実施態様1]
かかる実施態様における固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムは、図1に示される、燃料極支持型のSOFCの単セル10を備えている。この単セル10は、多孔質構造の燃料極(アノード)40の表面(上面)に、順に、酸化物イオン伝導体からなる緻密な層状の固体電解質30、多孔質構造の反応防止層25および多孔質構造の空気極(カソード)20が形成されることで構成されている。SOFCの作動時には、燃料極40を通じて燃料極40側の固体電解質30表面に燃料ガス(典型的には水素(H))が、空気極20を通じて空気極20側の固体電解質30表面に酸素(O)含有ガス(典型的には空気)が、それぞれ供給される。一般的な動作においては、酸素(O)含有ガス中のOガスが空気極20で還元されてO2−アニオンとなり、固体電解質30を通って燃料極20に移動し、Hガス燃料を酸化する。そしてかかる酸化反応に伴い、電気エネルギーを発生させている。
【0031】
本実施形態において、かかる燃料極支持型のセル10は、以下のようにして構築した。すなわち、燃料極材料として、平均粒径0.5μmのマイエナイト化合物粉末と平均粒径0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末とを、NiO:マイエナイト化合物=60:40の質量比で混合し、混合粉末とした。この混合粉末と、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)と、造孔材(カーボン粒子、平均粒径:約5μm)と、可塑剤(フタル酸ジブチル)と、溶剤(アルコール)とを、58:8.5:5:4.5:24の質量比で配合し、混合することで、ペースト状の燃料極形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極形成用組成物をキャリアシート上にドクターブレード法によりシート状に塗布、乾燥させて、厚みが0.5mm〜1mmの燃料極グリーンシートを形成した。
【0032】
次に、固体電解質材料として、平均粒径0.5μmの8YSZ粉末と、バインダ(エチルセルロース;EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、ペースト状の固体電解質層形成用組成物を調製した。これを上記燃料極グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約10μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
また、反応防止層材料として、平均粒径0.5μmの10%ガドリニウムドープセリア(10GDC)粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、ペースト状の反応防止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約5μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
このようにして用意した積層グリーンシートを、1350℃で共焼成することで、SOFCのハーフセルを得た。
【0033】
次いで、SOFCの空気極材料として、平均粒径0.5μmのランタンストロンチウム鉄コバルタイト(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8;LSCF)粉末と、平均粒径0.5μmのマイエナイト(12CaO・7Al)粉末とを、LSCF:マイエナイト=90:10の質量比で混合し、電極材料を用意した。
なお、LSCF粉末は、La,SrCO,Fe,Coを化学量論比で湿式混合した後、大気雰囲気中、1000℃〜1400℃で焼成し、ボールミルを用いて湿式粉砕することで用意した。
また、マイエナイト粉末は、CaCOおよびAlを化学量論比で湿式混合した後、大気雰囲気中、1100℃〜1400℃で焼成し、ボールミルを用いて湿式粉砕することで用意した。
【0034】
上記で用意した電極材料を、溶媒(α−テルピネオール)およびバインダ(EC)と共に、80:17:3の質量比率で混練することにより、ペースト状の空気極形成用組成物を調製した。これを上記で用意したSOFCのハーフセルの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚み30μmの空気極層グリーンシートを形成した。次いで、これを1100℃で焼成して空気極20を焼成し、SOFCを得た。
【0035】
なお、固体電解質30としては、上記の8%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)の他に、例えば、ガドリニアドープセリア(GDC)、ランタンガレート(LaGaO)からなるものが例示される。
燃料極40を構成する材料としては、上記の遷移金属成分(NiO)とマイエナイト化合物(12CaO・7Al)との組み合わせからなる混合物(サーメット)以外に、様々な態様を考慮することができる。例えば、具体的には、遷移金属成分としては、コバルト(Co)、酸化コバルト(CoO,Co,Co),銅(Cu),酸化銅(CuO,CuO),銀(Ag),酸化銀(AgO,AgO),タングステン(W),酸化タングステン(WO,W,WO,WO),白金(Pt),白金−パラジウム合金,白金−ロジウム合金等が考慮される。なお、特に必要ではないが、ここに開示される電極材料には、さらに上記に例示されたような固体電解質材料が混合されていてもよい。固体電解質材料が含まれる場合、かかる固体電解質材料はマイエナイト化合物よりも少ない量であるのが好ましい。
【0036】
また、空気極20を構成する材料としては、上記のLSCFに変えて、例えば、以下の導電性ペロブスカイト型酸化物を用いることができる。すなわち、具体的には、(LaSr)MnO、(LaCa)MnOに代表されるランタンマンガネート(LaMnO)系ペロブスカイト型酸化物や、LaCoO、(LaSr)CoO、(LaSr)(CoFe)O等に代表される、ランタンコバルタイト(LaCoO)系のペロブスカイト型酸化物、さらには、(LaSr)(TiFe)O等に代表される、ランタンチタネート(LaTiO)系のペロブスカイト型酸化物からなるものが例示される。なお、ここに列挙した一般式は、当業者において慣用的に使用されているように、かかる酸化物を構成する主元素の組み合わせを簡略的に示すものであって、実際の電極材料の組成を示すものではない。また、上記に示した主元素以外の元素をドープするようにしても良い。
【0037】
[実施態様2]
かかる実施態様における固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムは、SOFCのスタックセル100を備えている。図2に、スタックセル100の一形態の分解斜視図を模式的に示す。かかるスタックセル100は、SOFC(単セル)10A,10Bが、インターコネクタ50を介して複数層積み重なったスタックとして構成されている。単セル10A,10Bは、層状の固体電解質30の両面が、それぞれ層状の燃料極(アノード)40と空気極(カソード)20とで挟まれたサンドイッチ構造を備えている。図面中央に配されるインターコネクタ50Aは、その両面を二つの単セル10A,10Bで挟まれており、一方のセル対向面52がセル10Aの空気極20と対向(隣接)し、他方のセル対向面54がセル10Bの燃料極40と対向(隣接)している。かかる燃料極40は、ここに開示される電極材料から構成されている。また、インターコネクタ50は、例えば、SUS430等の耐熱合金,Crofer(ティッセンクルップ),ZMG(日立金属)等の金属材料や、LaCrO系のセラミックス材料等から構成されている。インターコネクタ50の、セル対向面52には複数の溝が形成されており、供給された酸素含有ガス(典型的には空気)が流れる空気流路53を構成している。同様に、反対側のセル対向面54にも複数の溝が形成されており、供給された燃料ガス(典型的にはHガス)が流れるための燃料ガス流路55を構成している。かかる形態のインターコネクタ50では、典型的には空気流路53と燃料ガス流路55とが互いに直交するように形成されている。また、燃料極40とインターコネクタ50との接合に際し、本実施態様においては、燃料極40の表面にここに開示されたペースト状の電極材料を塗布した後、インターコネクタ50を重ね合わせるようにし、両者に間隙が生じてHガス燃料の漏れが生じないようにされている。なお、燃料極40とインターコネクタ50との接合は、NiメッシュやNiエキスパンドメタルなどを介して実施することもできる。一般的な動作においては、酸素(O)含有ガス中のOガスが空気極54で還元されてO2−アニオンとなり、固体電解質を通って燃料極40に移動し、Hガス燃料を酸化する。そしてかかる酸化反応に伴い、電気エネルギーを発生させている。
なお、以上のSOFCシステムの製造方法は、従来公知の製造方法に準じればよく特別な処理を必要としないため、詳細な説明は省略する。
【0038】
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0039】
[電極材料の用意]
SOFCの燃料極材料として、サンプル1〜6の電極材料を用意した。
まず、燃料極材料として、平均粒径0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と平均粒径0.5μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8mol%Y−ZrO、以下「8YSZ」と示す。)粉末とを、NiO:8YSZ=60:40の質量比で混合することで、サンプル1の電極材料を用意した。
次に、下記の表1に示される割合で、酸化ニッケル(NiO,平均粒径0.5μm)粉末と、マイエナイト(12CaO・7Al,平均粒径0.5μm)粉末とを混合することで、サンプル2〜6の電極材料を用意した。
なお、マイエナイト粉末は、CaCOおよびAlを化学量論比で湿式混合した後、大気雰囲気中、1100〜1400℃で焼成し、ボールミルを用いて湿式粉砕することで用意した。
【0040】
[SOFCの作製]
上記で用意したサンプル1〜6の電極材料を用いて、φ100mm程度の円形の燃料極支持型のSOFCを以下の手順で作製した。なお、本実施形態における燃料極支持型のSOFCの燃料極は、2層構成とし、より下層側の支持体部分をここに開示される電極材料により構成した。すなわち、まず、上記で用意したサンプル1〜6の電極材料と、造孔材(カーボン粒子)、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)、可塑剤および溶媒(エタノールとトルエンとの3:1混合溶媒)とを、順に58:5:8.5:4.5:24の質量比率で混練することにより、ペースト状の燃料極支持体形成用組成物1〜6を調製した。次いで、この燃料極支持体形成用組成物をキャリアシート上にドクターブレード法によりシート状に塗布、乾燥させて、厚みが0.4mmの燃料極支持体グリーンシートを形成した。なお、サンプル1の電極材料を用いた燃料極支持体形成用組成物1については、厚みが1mmの燃料極支持体グリーンシート(以下、かかるサンプルに関する標記を「サンプル1」のようにする)も形成するようにした。
なお、ここで用意した燃料極形支持体成用組成物1〜6は、下記の熱膨張係数の評価にも用いた。
【0041】
燃料極材料として、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、平均粒径0.5μmのガドリニウムドープセリア(GDC)粉末と、バインダ(エチルセルロース;EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、48:32:2:18の質量比率で混練することにより、ペースト状の燃料極形成用組成物を調製した。これを上記の燃料極支持体グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約10〜20μmの燃料極グリーンシートを形成した。なお、GDCに代えて、YSZを用いることもできる。
【0042】
固体電解質材料として、平均粒径0.5μmの8YSZ粉末と、バインダ(エチルセルロース;EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、ペースト状の固体電解質層形成用組成物を調製した。これを上記燃料極グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約10μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
【0043】
また、反応防止層材料として、平均粒径0.5μmの10%ガドリニウムドープセリア(10GDC)粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(α−テルピネオール;TE)とを、65:4:31の質量比率で混練することにより、ペースト状の反応防止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚みが約5μmの反応防止層グリーンシートを形成した。
このようにして用意した積層グリーンシートを、1350℃で共焼成することで、サンプル1および1〜6のSOFCのハーフセルを得た。
【0044】
次いで、空気極材料として、平均粒径0.5μmのランタンストロンチウム鉄コバルタイト(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8;LSCF)粉末、バインダ(EC)および溶剤(α−テルピネオール;TE)を80:3:17の質量比率で混練することにより、ペースト状の空気極形成用組成物を調製した。これを上記で用意したSOFCのハーフセルの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給することで、厚み30μmの空気極層グリーンシートを形成した。なお、空気極形成用組成物の印刷条件は、印刷圧を2MPaで一定とした。次いで、これを1100℃で焼成して空気極を焼成し、サンプル1および1〜6のSOFCを得た。
【0045】
[熱膨張係数:CTE]
上記で用意した空気極形成用組成物1〜6を、焼成後の寸法が4mm×5mm×20mmとなるように成形し、1100℃で焼成することで、CTE測定用の試験片を作製した。熱膨張係数は、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用い、大気中、室温(25℃)〜1000℃の温度範囲にて示差膨張方式にて測定した平均線膨張率から求めた値である。かかる熱膨張係数の測定は、JIS 1618:2002のファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法に準じて実施した。得られた結果を、表1のCTEの欄に示した。
【0046】
[焼成時の反り量の評価]
上記のSOFCの作製において、積層グリーンシートを1350℃で共焼成してSOFCのハーフセルを得た際の、ハーフセルの反り量を測定した。反り量の測定は、ハーフセルの中心部の断面形状を、レーザ変位計(株式会社キーエンス製、LK‐G82)により3次元レーザ測定することで行った。また、反り量は、共焼成後のSOFCハーフセルについて、反応防止層の表面の最も高い位置と最も低い位置との差として定義した。反り量の測定結果は、サンプル1の電極材料を用い、燃料極支持体グリーンシートの厚みを1mmとしたハーフセル(サンプル1)の反り量を100(基準)とする相対値として、表1の「反り量」の欄に示した。
【0047】
[空気極印刷性の評価]
上記のSOFCの作製において、共焼成後のSOFCのハーフセルに対し、空気極形成用組成物をスクリーン印刷した際の、印刷性を評価した。すなわち、各電極材料を用いたハーフセルを10枚ずつ用意し、それぞれに空気極形成用組成物をスクリーン印刷した際に、ハーフセルにクラックや割れ等の不良が発生したかどうかを確認した。その結果を、表1の「空気極印刷性」の欄に示した。なお、表1の空気極印刷性の欄に示した評価記号は、以下の内容を意味する。
◎:ハーフセル10枚中、クラックや割れの発生なし。
○:ハーフセル10枚中、クラックや割れの生じたハーフセルが2枚以下。
△:ハーフセル10枚中、クラックや割れの生じたハーフセルが4枚以下。
×:ハーフセル10枚中、クラックや割れの生じたハーフセルが5枚以上。
【0048】
[発電性能]
上記で作製したサンプル1および1〜6のSOFCを下記の条件で運転させた際の出力密度を測定し、電圧0.8Vにおける出力(W/cm)を発電性能として、表1に示した。
運転温度:700℃
燃料極供給ガス:Hガス(50ml/min)
空気極供給ガス:Air(100ml/min)
【0049】
【表1】
【0050】
[評価]
表1に示されるように、従来の電極材料1を用いると、燃料極支持体グリーンシートの厚みを1mmと厚く形成した場合(サンプル1)には、SOFCの形成に影響の出る程度の反りは発生しなかった。しかしながら、燃料極支持体グリーンシートの厚みを0.4mmと薄くする(サンプル1)と、厚み1mmの場合に比べて4倍もの反りが焼成により発生してしまった。かかるハーフセルの大きな反りは、後工程の空気極の印刷時にハーフセルの割れや、クラックの発生を誘起することが確認された。
一方の、マイエナイトを加えた電極材料2〜6を用いて燃料極を形成することで、厚み0.4mmと薄いハーフセルであっても、焼成時の反りを大幅に低減して形成できることが確認できた。これは、従来の電極材料により形成される燃料極の熱膨張係数が13.5×10−6/Kと高いのに対し、本発明の電極材料2〜6では熱膨張係数が13×10−6/K以下と低く調整されており、例えば、固体電解質層の熱膨張係数である約10×10−6/Kに適切に整合させられたことによるものと考えられる。
【0051】
また、従来の電極材料1には、水素酸化活性を示すNiO粉末の焼結防止、熱膨張率の整合等の目的で、8YSZ粉末を用いている。8YSZ粉末等のこの種の粉末は抵抗が高い。したがって、8YSZに代えてマイエナイトを用いることで、導電性が極端に低下することはなく、例えば、サンプル1とサンプル3との比較から解るように、SOFCの発電性能は却ってよくなる傾向にあることが確認できた。
なお、生産性を高める観点からは、マイエナイトは、NiOとマイエナイトとの総量に対しておおよそ80質量%程度の割合まで添加できることが確認できた。なお、より良好な発電性能を得るには、例えば、マイエナイトは、NiOとマイエナイトとの総量に対しておおよそ70質量%以下程度の割合で添加するのが好ましい。このように、本発明の電極材料2〜6によると、ハーフセルの反りを低減できることから、後工程の空気極の形成も良好に実施でき、高性能なSOFCを生産性良く製造できることが確認できた。
【0052】
以上のことから、ここに開示される電極材料は、例えば、遷移金属またはその酸化物に、マイエナイト化合物が配合されている。これにより、例えば、粒状の遷移金属またはその酸化物の高い水素酸化活性を損なうことなく、かかる粒子間の焼結を防止し、また電極材料全体の熱膨張係数を調整し得る。したがって、かかる電極材料を用いてSOFCの燃料極を形成することで、SOFCの燃料極と固体電解質層との熱膨張差をより高いレベルで適切に調整することができ、SOFCの薄層化を好適に実現することができる。このことから、ここに開示される電極材料はSOFCの燃料極とインターコネクタ自体や、この燃料極とインターコネクタとの間に配設される集電体、および、これらの部材間との接合材を構成するのにも、好ましく用いることができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0053】
10,10A,10B 単セル
20 空気極(カソード)
25 反応防止層
30 固体電解質
40 燃料極(アノード)
50,50A インターコネクタ
52,54 セル対向面
53 空気流路
55 燃料ガス流路
100 スタックセル
図1
図2