(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数回の超音波送受信により収集された同一位置の反射波データのデータ列を入力データとし、当該入力データに対してフィルタ処理を行なって、クラッタ成分が抑制された出力データを出力するフィルタ処理部と、
前記入力データのパワー値と前記出力データのパワー値とに基づいて、補正値を設定する設定部と、
前記出力データと前記補正値とを用いて、補正された血流情報を求める推定部と、
前記血流情報に基づいて、超音波画像データを生成する画像生成部と、
前記超音波画像データを表示部に表示させる制御部と、
を備える、超音波診断装置。
前記設定部は、前記入力データのパワー値を前記出力データのパワー値で除算した比を計算し、計算した比が所定の比以上である場合、又は、前記出力データのパワー値を前記入力データのパワー値で除算した比を計算し、計算した比が所定の比以下である場合には、前記推定部が出力する血流情報の値が小さくなる補正値を設定する、請求項2に記載の超音波診断装置。
前記設定部は、前記入力データのパワー値を前記出力データのパワー値で除算した比の対数値を計算し、計算した対数値が所定の対数値以上である場合、又は、前記出力データのパワー値を前記入力データのパワー値で除算した比の対数値を計算し、計算した対数値が所定の対数値以下である場合には、前記推定部が出力する血流情報の値が小さくなる補正値を設定する、請求項2に記載の超音波診断装置。
前記設定部は、前記入力データのパワー値が所定のパワー値以上である場合、当該入力データのパワー値を大きい値に補正し、補正後のパワー値と前記出力データのパワー値とを用いて前記補正値を設定する、請求項1〜5のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
前記設定部は、前記入力データのパワー値を、当該入力データのパワー値と当該入力データの周辺に位置する入力データのパワー値との統計値に補正し、補正後のパワー値と前記出力データのパワー値とを用いて前記補正値を設定する、請求項1〜6のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
前記設定部は、前記入力データのパワー値と前記出力データのパワー値とともに、深さ情報を用いて前記補正値を設定する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
複数回の超音波送受信により収集された同一位置の反射波データのデータ列を入力データとし、当該入力データに対してフィルタ処理を行なって、クラッタ成分が抑制された出力データを出力するフィルタ処理部と、
前記入力データのパワー値と前記出力データのパワー値とに基づいて、補正値を設定する設定部と、
前記出力データと前記補正値とを用いて、補正された血流情報を求める推定部と、
前記血流情報に基づいて、超音波画像データを生成する画像生成部と、
前記超音波画像データを表示部に表示させる制御部と、
を備える、画像処理装置。
フィルタ処理部が、複数回の超音波送受信により収集された同一位置の反射波データのデータ列を入力データとし、当該入力データに対してフィルタ処理を行なって、クラッタ成分が抑制された出力データを出力し、
設定部が、前記入力データのパワー値と前記出力データのパワー値とに基づいて、補正値を設定し、
推定部が、前記出力データと前記補正値とを用いて、補正された血流情報を求め、
画像生成部が、前記血流情報に基づいて、超音波画像データを生成し、
制御部が、前記超音波画像データを表示部に表示させる、
ことを含む、画像処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(実施形態)
まず、本実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図1に例示するように、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
【0013】
超音波プローブ1は、超音波の送受信を行なうために、装置本体10に接続される。超音波プローブ1は、例えば、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
【0014】
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0015】
なお、本実施形態は、超音波プローブ1が、被検体Pを2次元で走査する1Dアレイプローブであっても、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブであっても適用可能である。
【0016】
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有する。入力装置3は、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
【0017】
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
【0018】
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。
図1に示す装置本体10は、2次元の反射波信号に基づいて2次元の超音波画像データを生成可能であり、3次元の反射波信号に基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。ただし、本実施形態は、装置本体10が、2次元データ専用の装置である場合であっても適用可能である。
【0019】
装置本体10は、
図1に例示するように、送受信部11と、バッファ12と、Bモード処理部13と、ドプラ処理部14と、画像生成部15と、画像メモリ16と、内部記憶部17と、制御部18とを有する。
【0020】
送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、超音波プローブ1が行なう超音波送受信を制御する。送受信部11は、パルス発生器、送信遅延回路、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定の繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延回路は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。
【0021】
なお、送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
【0022】
また、送受信部11は、アンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延回路、加算器、直交検波回路等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行う。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
【0023】
そして、直交検波回路は、加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-pahse)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、直交検波回路は、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を反射波データとして、バッファ12に格納する。なお、直交検波回路は、加算器の出力信号を、RF(Radio Frequency)信号に変換した上で、バッファ12に格納してもよい。
【0024】
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
【0025】
バッファ12は、送受信部11が生成した反射波データ(I/Q信号)を一時的に記憶するバッファである。具体的には、バッファ12は、数フレーム分のI/Q信号、又は、数ボリューム分のI/Q信号を記憶する。例えば、バッファ12は、FIFO(First-In/First-Out)メモリであり、所定フレーム分のI/Q信号を記憶する。そして、例えば、バッファ12は、新たに1フレーム分のI/Q信号が送受信部11にて生成された場合、生成時間が最も古い1フレーム分のI/Q信号を破棄して、新たに生成された1フレーム分のI/Q信号を記憶する。
【0026】
Bモード処理部13及びドプラ処理部14は、送受信部11が反射波信号から生成した反射波データに対して、各種の信号処理を行なう信号処理部である。Bモード処理部13は、バッファ12から読み出した反射波データ(I/Q信号)に対して、対数増幅、包絡線検波処理、対数圧縮などを行なって、複数のサンプル点それぞれの信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
【0027】
ドプラ処理部14は、バッファ12から読み出した反射波データを周波数解析することで、走査範囲内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理部14は、移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれでドプラデータを生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。本実施形態に係るドプラ処理部14は、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流の平均分散値、血流の平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれで推定する。そして、ドプラ処理部14は、推定した血流情報をドプラデータとして出力する。
【0028】
上記のドプラ処理部14の機能を用いて、本実施形態に係る超音波診断装置は、カラーフローマッピング法(CFM:Color Flow Mapping)とも呼ばれるカラードプラ法を実行可能である。CFM法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行なわれる。かかる超音波送受信により得られる同一位置からの反射波信号(反射波データ)のデータ列は、パケットと呼ばれる。パケットサイズは、1フレームの血流情報を得るために同一方向で行なわれる超音波送受信の回数となる。
【0029】
そして、CFM法では、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、静止している組織、或いは、動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制して、血流に由来する信号を抽出する。そして、CFM法では、この血流信号から血流の速度、血流の分散、血流のパワー等の血流情報を推定する。後述する画像生成部15は、推定結果の分布を、例えば、2次元でカラー表示した超音波画像データ(カラードプラ画像データ)を生成する。そして、モニタ2は、カラードプラ画像データを表示する。
【0030】
ドプラ処理部14は、ドプラデータの生成処理を行なうための処理部として、CTB141と、フィルタ処理部142と、推定部143と、判定部145とを有する。CTB141は、「Corner Turning Buffer」であり、バッファ12から、反射波データの時系列のデータ列を、一時的に記憶する。具体的には、CTB141は、後段の処理が円滑に実行されるように、反射波データのデータ列を時系列に沿った順番で、走査線ごとに並べ替えて格納する。かかる並べ替えは、例えば、後述する制御部18の指示を受け付けた制御回路(図示せず)により行なわれる。
【0031】
フィルタ処理部142は、入力データである同一位置のデータ列に対してMTIフィルタ処理を行なって、クラッタ成分が抑制された出力データを出力する。出力データは、血流成分が抽出された出力データである。推定部143は、出力データから血流情報を推定する。判定部145は、血流情報が、血流に由来する情報であるのか、組織に由来する情報であるのかを判定する。判定部145は、血流に由来する情報であると判定した血流情報を、ドプラデータとして出力する。
【0032】
そして、本実施形態に係るドプラ処理部14は、
図1に示すように、設定部144を有する。設定部144は、血流情報のゲイン補正を行なうための補正値(補正係数)を設定するための処理部である。例えば、設定部144は、計算処理により、かかる補正値を設定するための処理部である。なお、設定部144が行なう処理については、フィルタ処理部142、推定部143及び判定部145が行なう処理とともに、後に詳述する。
【0033】
ここで、
図1に例示するBモード処理部13及びドプラ処理部14は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部13は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部14は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
【0034】
画像生成部15は、Bモード処理部13及びドプラ処理部14が生成したデータから超音波画像データを生成する。画像生成部15は、Bモード処理部13が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部15は、ドプラ処理部14が生成した2次元のドプラデータから血流情報が映像化された2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。画像生成部15は、ドプラ画像データとして、血流情報がカラーで表示されるカラードプラ画像データを生成したり、1つの血流情報がグレースケールで表示されるドプラ画像データを生成したりする。
【0035】
ここで、画像生成部15は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部15は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部15は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部15は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
【0036】
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部15が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成部15は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
【0037】
更に、画像生成部15は、Bモード処理部13が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部15は、ドプラ処理部14が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成部15は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
【0038】
更に、画像生成部15は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成部15が行なうレンダリング処理としては、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部15が行なうレンダリング処理としては、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。
【0039】
画像メモリ16は、画像生成部15が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ16は、Bモード処理部13やドプラ処理部14が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ16が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部15を経由して表示用の超音波画像データとなる。また、画像メモリ16は、送受信部11が出力した反射波データを記憶することも可能である。
【0040】
内部記憶部17は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部17は、必要に応じて、画像メモリ16が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部17が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。また、内部記憶部17は、外部装置から図示しないインターフェースを経由して転送されたデータを記憶することも可能である。
【0041】
制御部18は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部18は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部17から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部13、ドプラ処理部14及び画像生成部15の処理を制御する。例えば、制御部18は、送受信部11を介して超音波プローブ1を制御することで、超音波走査の制御を行なう。
【0042】
また、制御部18は、画像メモリ16や内部記憶部17が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。なお、装置本体10に内蔵される送受信部11等は、集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたプログラムである場合もある。
【0043】
以上、本実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、本実施形態に係る超音波診断装置は、CFM法により、血流像データ(ドプラ画像データ)を生成表示する。通常、CFM法で生成されるドプラ画像データは、組織の形態が描出されるBモード画像データに重畳表示される。例えば、ドプラモードでの走査範囲は、Bモードでの走査範囲の中に設定される。重畳表示を行なう場合、例えば、ドプラモードでの走査範囲で血流が存在する部分は、ドプラ画像データが表示され、当該走査範囲で血流が存在しない部分は、Bモード画像データが表示される。このため、ドプラ画像データを表示する際には、血流が存在しているか、存在していないかを判定する処理が必要となる。
【0044】
かかる判定処理を行なう方法として、最も一般的な方法は、血流信号のパワー値が、所定の一定値以下の場合、当該血流信号をノイズと判定し、表示しない方法である。クラッタ信号は、MTIフィルタにより抑圧されて小さな値になるので、パワー値を用いた判定処理により、クラッタ信号は、表示されなくなる。しかし、臓器の壁や骨等、強反射体の組織からの信号は、振幅が大ききために、当該組織の動きが遅いのにも関わらず、MTIフィルタの通過後も、残存してしまう場合がある。かかる場合、強反射体からの信号は、あたかも血流のように表示されてしまう。
図2A、
図2B及び
図3は、従来技術を説明するための図である。
【0045】
図2A及び
図2Bは、カットオフ周波数以下の遅い速度「V1」に対するクラッタ抑圧能が「−60dB」であるMTIフィルタ特性を有するMTIフィルタを用いた場合を例示している。
図2Aに示す信号100は、血流の振幅強度を基準(0dB)にして振幅強度が「20dB」の組織であり、速度「V1」で移動している組織からの信号を示している。かかる信号100は、MTIフィルタの通過後、振幅強度が「−40dB」に抑圧された信号101となる。その結果、信号101は、血流に由来する信号として抽出されない。また、
図2Aに示す信号102は、MTIフィルタのカットオフ周波数以上の速度「V2」で移動し振幅強度が「0dB」の血流からの信号を示している。かかる信号102は、MTIフィルタの通過後、振幅強度が入力前と同じ(0dB)信号として出力される。すなわち、信号102は、血流に由来する信号として抽出される。
【0046】
これに対して、
図2Bに示す信号200は、血流の振幅強度を基準(0dB)にして振幅強度が「60dB」の組織であり、速度「V1」で移動している組織からの信号を示している。かかる信号200は、MTIフィルタの通過後、振幅強度が「0dB」に抑圧された信号201として出力される。その結果、信号201は、MTIフィルタの通過後も残存する。かかる場合、例えば、壁からの出力信号と血流からの出力信号とが同じ大きさになり、壁からの信号は、あたかも血流のように表示されてしまう。
【0047】
このため、MTIフィルタの出力信号のパワー値ではなく、MTIフィルタの出力信号の速度を調べ、速度が遅い場合には、当該出力信号が血流由来の信号ではないと判断して表示しないという方法が知られている。かかる方法は、フィルタ処理部142に搭載されるMTIフィルタとして、バタワース型のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いる場合、以下の理由により、ある程度有効である。過渡応答対策が必要な有限長のパケットサイズの場合、IIRフィルタの特性が良くないために、強反射体からの信号は、残存する。これにより、パケット内での平均速度が遅くなり、平均速度は、表示しない速度に対応する下限閾値以下になる。
【0048】
一方、近年、MTIフィルタとして、多項式回帰フィルタ(Polynomial Regression Filter)や、適応型MTIフィルタである「Eigenvector Regression Filter」が用いられるようになっている。MTIフィルタは、クラッタを抑圧するためのHPFであり、種々のフィルタが使用可能であるが、これらのフィルタには、以下の利点がある。これらのフィルタは、パケット長よりも長い周期のクラッタ信号を、バタワース型のIIRフィルタに比べて効率的に抑圧することができる。すなわち、これらのフィルタは、強反射体からの信号を血流信号のレベルまで抑圧することができる。しかし、クラッタ抑圧能には限界があるので、これらのフィルタでも、強反射体からの信号をノイズのレベルまで抑圧することはできない。
【0049】
また、バタワース型フィルタが、出力が同じ位相特性を持っているのに対して、多項式回帰フィルタや「Eigenvector Regression Filter」の出力は、データごとに位相特性が異なる。このため、これらのフィルタの出力信号から速度を推定した場合、推定精度が良くない。例えば、動きの遅い組織の壁のMTIフィルタ通過後のデータを自己相関法により速度を推定すると、実際の組織の動きよりも高い速度が検出されてしまう。その結果、上記の方法により、速度が小さい信号を除外しても、強反射体からの信号が残存し、強反射体の組織に血流が存在するような画像データが表示される場合があった。
【0050】
図3の左図は、モニタ2の画面で表示されている指先のBモード画像データAを示している。Bモード画像データAには、
図3の左図に示すように、強反射体である指骨が高輝度で描出されている。また、
図3の右図は、指先のBモード画像データAに重畳表示されたドプラ画像データBを示している。ドプラ画像データBは、例えば、「Eigenvector Regression Filter」を用いて生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データBには、
図3の左図に示すように、強反射体である指骨からの信号が、血流のように描出されている。このように、位相特性が一定でないMTIフィルタを用いると、血流と誤認されたノイズが強反射体にまとわり付くように描出されたドプラ画像データが生成表示される場合があった。また、かかるノイズは、MTIフィルタの位相特性が一定であっても、一定でなくても、超音波プローブ1を動かした場合、顕著に発生する。
【0051】
そこで、本実施形態に係る超音波診断装置は、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避するために、以下に説明するドプラ処理部14の処理を行なう。以下に説明する画像処理方法は、臓器の壁や骨等、強反射体からの組織信号を血流と誤認することを回避するための方法である。特に、以下に説明する画像処理方法は、MTIフィルタとして、多項式回帰フィルタや、「Eigenvector Regression Filter」等の位相特性が一定でないフィルタを用いたことで、出力データのパワー値や速度では、血流に由来する成分か、強反射体に由来する成分かを識別できない場合に、有効な方法である。ただし、以下に説明する画像処理方法は、IIR型のように位相特性が一定のMTIフィルタでも適用可能である。
【0052】
まず、フィルタ処理部142は、複数回の超音波送受信により収集された同一位置の反射波データのデータ列を入力データとし、当該入力データに対してフィルタ処理を行なって、クラッタ成分が抑制された出力データを出力する。例えば、フィルタ処理部142は、MTIフィルタとして、「Eigenvector Regression Filter」を用いる。
【0053】
そして、設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値とに基づいて、補正値を設定する。本実施形態に係る設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値とを用いて、補正値を計算する。具体的には、本実施形態に係る設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値との比に基づいて、補正値を設定する。より具体的には、設定部144は、入力データのパワー値を出力データのパワー値で除算した比を計算する。例えば、入力データのパワー値をクラッタ(clutter)が含まれる情報である「C」とし、出力データのパワー値をドプラ(Doppler)効果に基づいて抽出された情報である「D」と定義する。設定部144は、「CDR=C/D」に基づいて、補正値を計算する。
【0054】
図2Bに示す信号201と信号200との関係から示唆されるように、「CDR=C/D」が大きい場合、入力データは、動きの遅い強反射体を反射源とする反射波信号に由来するデータであると考えられる。すなわち、CDRが大きい場合は、出力データは、クラッタ成分の消え残りである可能性が高い。本実施形態は、CDRが大きい場合は、出力データを抑制する補正値を計算する。これにより、本実施形態は、強反射体が血流と誤認されることを防止する。なお、本実施形態は、上記の論理に基づいて、「CDR’=D/C」から補正値を計算する場合であっても良い。かかる場合、CDR’が小さい場合は、出力データを抑制する補正値を計算する。
【0055】
そして、推定部143は、出力データと補正値とを用いて、補正された血流情報を求める。すなわち、推定部143は、出力データと補正値とを用いて、血流情報を推定する。そして、画像生成部15は、血流情報に基づいて、超音波画像データ(ドプラ画像データ)を生成し、モニタ2は、制御部18の制御により、超音波画像データ(ドプラ画像データ)を表示する。以下、
図4を用いて、上記の処理の一例について説明する。
図4は、本実施形態に係るドプラ処理部の処理を説明するための図である。
【0056】
まず、CTB141から出力された同一位置のデータ列「x」は、
図4に示すように、フィルタ処理部142と設定部144とに入力される。「x」は、上記の入力データである。以下、入力データである「x」を入力データ列と記載する。
【0057】
図4に示すフィルタ処理部142の「MTIフィルタ処理」ブロックでは、入力データ列「x」に対して、MTIフィルタが掛けられて、クラッタ成分が抑圧されたデータ列「y」が出力される。「y」は、上記の出力データである。以下、出力データである「y」を出力データ列と記載する。
【0058】
同時に、
図4に示す設定部144の「入力前パワー計算処理」ブロックでは、入力データ列「x」から入力データのパワー値「P0」が計算される。設定部144は、パワー値「P0」として、入力データ列「x」の平均パワー値、又は、入力データ列「x」の最大パワー値を計算する。ここで、強反射体が血流として誤認されることを確実に防止するためには、「CDR」の値が大きくなることが好適である。パワー値「P0」は、入力データ列「x」の最大パワー値であることが好適である。このため、設定部144は、入力データのパワー値の最大値を用いて補正値を設定する。本実施形態では、設定部144は、入力データのパワー値の最大値を用いて補正値を計算する。なお、本実施形態は、入力データ列「x」の第2位のパワー値等を用いて補正値を計算する場合であっても良い。
【0059】
設定部144は、以下の式(1)により、入力データのパワー値の最大値である「P0」を計算する。
【0061】
なお、式(1)において、「N」は、パケットサイズを示し、「x(k)」は、入力データ列「x」を構成するN個のデータの中で、k番目のデータを示す。kは、1からNの整数となる。また、式(1)において、上付きのアスタリスク「*」は、複素共役を示す。式(1)の「x
*(k)」は、「x(k)」の複素共役値となる。
【0062】
ここで、「P0」は、
図4に示す設定部144の「補正値計算処理」ブロックに入力されても良いが、以下の理由により、
図4に示す「パワー補正処理」ブロックに入力されることが好適である。
【0063】
反射波データ(IQ信号)が強反射体で反射した反射波信号から生成された場合、この反射波信号は、送受信部11の受信回路のあるチャンネルにおいて、アンプ回路やA/D変換器で飽和する可能性がある。飽和したチャンネルからの信号を含む複数のチャンネルからの信号は、加算器に入力される。しかし、デジタルビームフォーミングを行なう加算器では、例えば、正の最大値で飽和したデジタル信号と、負の最大値で飽和したデジタル信号とが整相加算される可能性がある。かかる場合、加算器から出力される整相加算後のデータの振幅は、飽和した最大振幅とはならない。最大パワー値である「P0」は、飽和したデータ列から計算された値である可能性がある。一般的に、カラードプラ用の条件では、臓器の壁や骨のような強反射体からの反射波信号は、送受信部11の受信回路で飽和している場合が多い。そのため、ドプラ処理部14に入力された信号レベルは、実際の信号レベルより小さいことが想定される。
【0064】
そこで、CDRの値が過小評価される可能性を回避するために、
図4に示す「パワー補正処理」ブロックでは、「P0」の値が閾値「Pth」以上の場合には、「P0」の値を大きくするような補正処理を行なう。所定のパワー値である「Pth」は、操作者等により任意の値に設定可能である。
【0065】
例えば、設定部144は、以下の式(2)により、「P0」の補正後の値「P1」を計算する。
【0067】
式(2)では、「P0」が「Pth」より小さい場合、「P0」を、そのまま「P1」として出力する。また、式(2)では、「P0」が「Pth」以上である場合、「P0」に『「P0−Pth」を「n乗」した値』を加算した値を「P1」として出力する。なお、「n」は1以上の実数であり、「n=2」が好適である。なお、式(2)は、あくまでも一例であり、本実施形態は、「P0」の値が閾値「Pth」以上の場合に、「P0」の値を大きくするような補正を行なう式であれば、任意の数式が適用可能である。
【0068】
更に、
図4に示す「パワー補正処理」ブロックでは、「Pthを用いたP0補正」の後、或いは、「Pthを用いたP0補正」の前に、以下に説明する理由により、空間的な補正を行なっても良い。
【0069】
強反射体の近辺からのエコーは、超音波のサイドローブの影響のために、中程度の信号レベルとなると同時に、位相が変化しやすい。一方、MTIフィルタは、位相が変化した信号を強調する特性がある。このため、血流ではない強反射体の近辺からの信号レベルは、MTIフィルタ通過後、大きくなる場合がある。
【0070】
すなわち、強反射体の近辺が反射源である場合、「CDR」の分母の値が大きくなるのに対して、入力データ列「x」から計算された最大パワー値「P0」は、中程度の値となる。また、「P0」を補正した「P1」も、中程度の値となる場合がある。その結果、強反射体の近辺が反射源である場合、「CDR」の値は、組織として判定されない程度まで、小さい値になる可能性がある。かかる場合、強反射体の近辺も血流として誤認される。
【0071】
そこで、
図4に示す「パワー補正処理」ブロックでは、例えば、「P0」に対して、空間的な最大値フィルタ(Max Filter)を掛ける。
図5は、設定部が用いる最大値フィルタの一例を示す図である。例えば、設定部144は、
図5に示すように、「3×3」の最大値フィルタ(Max Filter)を用いる。すなわち、設定部144は、処理対象であるサンプル点(
図5に示す点でハッチングされた矩形を参照)を中心とする「3×3」の9個のサンプル点それぞれで、入力データの最大パワー値を計算する。設定部144は、処理対象であるサンプル点の入力前パワー値を、9個の入力前パワー値の中で最大となるパワー値に変換する。そして、設定部144は、最大値フィルタの出力結果を「P0」とし、式(2)により「P1」を出力する。
【0072】
上記では、「Pthを用いたP0補正」の前に最大値フィルタを掛ける場合を説明した。一方、「Pthを用いたP0補正」の後に最大値フィルタを掛ける場合は、以下の処理となる。例えば、設定部144は、処理対象であるサンプル点を中心とする「3×3」の9個のサンプル点それぞれで、入力データの最大パワー値の補正値を計算する。設定部144は、処理対象であるサンプル点の補正値を、9個の入力前パワー値の中で最大となる補正値に変換する。そして、設定部144は、最大値フィルタの出力結果を「P1」として、後段の「補正値計算処理」ブロックに出力する。なお、設定部144は、最大値フィルタの代わりに、通常の平滑化空間フィルタを掛けても良い。すなわち、空間的な補正を行なう場合、設定部144は、入力前パワー値を、当該入力前パワー値と近隣の入力前パワー値との統計値に補正する。
【0073】
このように、設定部144は、入力データのパワー値が所定のパワー値以上である場合、当該入力データのパワー値を大きい値に補正する。また、設定部144は、入力データのパワー値を、当該入力データのパワー値と当該入力データの周辺に位置する入力データのパワー値との統計値に補正する。これら2つの補正処理は、双方実行される場合であっても、一方のみが実行される場合であっても良い。「パワー補正処理」ブロックで補正を行なう場合、設定部144は、補正後のパワー値と出力データのパワー値とを用いて補正値を設定する。本実施形態では、設定部144は、補正後のパワー値と出力データのパワー値とを用いて補正値を計算する。なお、本実施形態は、「パワー補正処理」ブロックでの補正を行なわない場合であっても良い。
【0074】
設定部144による「P0」及び「P1」の計算と並列して、
図4に示す推定部143の「出力後パワー計算処理」ブロックでは、「MTIフィルタ処理」ブロックから出力された出力データ列「y」から、出力データのパワー値「P2」が計算される。設定部144は、パワー値「P2」として、出力データ列「y」の平均パワー値、又は、入力データ列「x」の最大パワー値を計算する。CDRの値を大きい場合に補正を行なって、組織が血流として表示されることを防止するという観点から、また、
図4の推定部143の「対数変換処理」ブロックで用いられる値が、通常、平均パワー値であることから、パワー値「P2」は、出力データ列「y」の平均パワー値であることが好適である。
【0075】
そこで、推定部143は、以下の式(3)により、出力データのパワー値の平均値である「P2」を計算する。
【0077】
式(3)の「y(k)」は、「y」を構成するN個のデータの中で、k番目のデータを示す。kは、1からNの整数となる。また、式(3)の「y
*(k)」は、「y(k)」の複素共役値となる。
【0078】
なお、本実施形態は、推定部143が、出力データのパワー値の平均値を「対数変換処理」ブロックに出力し、出力データのパワー値の最大値を『
図4に示す設定部144の「補正値計算処理」ブロック』に出力しても良い。また、CDRの値を大きい場合に補正を行なうことから、本実施形態は、推定部143が、出力データのパワー値の平均値ではなく、出力データのパワー値の中央値、最小値等を「補正値計算処理」ブロックに出力しても良い。
【0079】
なお、「P0」及び「P1」の計算と並列して、
図4に示す推定部143の「自己相関演算処理」ブロックでは、「MTIフィルタ処理」ブロックから出力された出力データ列「y」の自己相関値「ac」を、以下の式(4)により計算する。
【0081】
そして、
図4に示す設定部144の「補正値計算処理」ブロックでは、P1及びP2を用いて、補正値を計算する。
【0082】
ここで、「補正値計算処理」ブロックでは、最初に、上述した「CDR」の計算が行なわれる。設定部144は、「C=P1、D=P2」として、以下の式(5)により「CDR」を計算する。
【0084】
そして、設定部144は、「補正値計算処理」ブロックにおいて、「CDR」を元に、「P2」及び「ac」の補正を行なうための補正値「ratio」を計算する。具体的には、「CDR」が、閾値として設定された所定の比「CDRth」以上である場合には、推定部143が出力する血流情報の値が小さくなる補正値「ratio」を計算する。「CDRth」は、操作者等により任意の値に設定可能である。
【0085】
「ratio」は、「P2」及び「ac」それぞれに乗算される補正係数である。例えば、設定部144は、以下の式(6)により「ratio」を計算する。
【0087】
式(6)では、「CDR」が「CDRth」より小さい場合には、「ratio=1」となる。すなわち、「CDR」が「CDRth」より小さい場合には、「P2」及び「ac」は、補正されない。一方、式(6)では、「CDR」が「CDRth」以上の場合には、『「CDRth/CDR」を「m乗」した値』を「ratio」として計算する。「m」は、1以上の実数である。「m」は、「2」程度が好適である。「m」は、操作者等により任意の値に設定可能である。
図6は、補正値の一例を示す図である。
【0088】
図6は、「m=2」である場合に計算される「ratio」を例示している。
図6では、「CDR」をデシベル換算した値を横軸で示し、「ratio」を縦軸で示している。
図6は、「CDRth」が「10
−7(=−70dB)」である場合に計算される「ratio」を例示している。なお、CDRのデシベル値は、パワーに対するデシベル計算式を用いている。
図6に例示する「ratio」により、「CDR」が「10
−7(=−70dB)」以上の場合には、出力パワー値は、減少する。
【0089】
例えば、
図2Bを用いた説明したように、振幅強度が「60dB」の組織の信号200は、カットオフ周波数以下の遅い速度「V1」に対するクラッタ抑圧能が「−60dB」のMTIフィルタにより、振幅強度が「0dB」に抑圧された信号201として出力される。この時、「CDR=−60dB(=10
−6)」である。更に、信号201の出力パワー値は、「ratio=(10
−7/10
−6)
2=0.01(=−20dB)」により「−20dB」と減少して、血流信号より低いレベルになる。なお、ratioのデシベル値は、パワーに対するデシベル計算式を用いている。
【0090】
なお、式(6)はあくまでも一例であり、「CDR」が「CDRth」以上である場合に、血流情報の値が小さくなる補正が行なえるならば、「ratio」は、任意の数式により計算することが可能である。また、本実施形態は、設定部144が、「CDR」の値と「ratio」の値との組み合わせが予め設定されたLUT(Look Up Table)を参照することで、補正値「ratio」を取得することで、補正値の設定処理を行なう場合であっても良い。また、上述したように、設定部144は、出力データのパワー値を入力データのパワー値で除算した比「CDR’=D/C」を計算しても良い。かかる変形例では、設定部144は、「CDR’」が所定の比「CDR’th」以下である場合には、推定部143が出力する血流情報の値が小さくなる補正値「ratio」を設定する。例えば、かかる変形例では、設定部144は、「CDR’」が所定の比「CDR’th」以下である場合には、推定部143が出力する血流情報の値が小さくなる補正値「ratio」を計算する。或いは、かかる変形例では、設定部144が、「CDR’」の値と「ratio」の値との組み合わせが予め設定されたLUTを参照することで、補正値「ratio」を取得することで、補正値の設定処理を行なう。
【0091】
また、本実施形態は、変形例として、設定部144が、入力データのパワー値を出力データのパワー値で除算した比「CDR」の対数値「logCDR」を計算し、計算した対数値「logCDR」が所定の対数値以上である場合、推定部143が出力する血流情報の値が小さくなる補正値「ratio」を設定しても良い。かかる設定処理は、「logCDR」の値と「ratio」の値との組み合わせが予め設定されたLUTを参照することで行われても良いし、「logCDR」を入力して「ratio」が得られる計算式を用いた計算処理により行われても良い。なお、設定部144は、「logCDR」を、「logP1−logP2」の差分処理により求めても良い。
【0092】
また本実施形態は、変形例として、設定部144が、出力データのパワー値を入力データのパワー値で除算した比「CDR’」の対数値「logCDR’」を計算し、計算した対数値「logCDR’」が所定の対数値以下である場合、推定部143が出力する血流情報の値が小さくなる補正値「ratio」を設定しても良い。かかる設定処理は、「logCDR’」の値と「ratio」の値との組み合わせが予め設定されたLUTを参照することで行われても良いし、「logCDR’」を入力して「ratio」が得られる計算式を用いた計算処理により行われても良い。なお、設定部144は、「logCDR’」を、「logP2−logP1」の差分処理により求めても良い。
【0093】
そして、設定部144は、計算した「ratio」を、
図4に示す推定部143の「自己相関補正処理」ブロック及び「パワー補正処理」ブロックに通知する。推定部143は、「パワー補正処理」ブロックにて、「P2」と「ratio」とから、以下の式(7)により補正パワー値「P3」を計算する。
【0095】
また、推定部143は、「自己相関補正処理」ブロックにて、「ac」と「ratio」とから、以下の式(8)により補正自己相関値「ac’」を計算する。
【0097】
推定部143は、
図4に示す「対数変換処理」ブロックにおいて、以下の式(9)により、「P3」から血流情報としてのパワー値「P」を計算する。
【0099】
また、推定部143は、
図4に示す「速度・分散推定処理」ブロックにおいて、以下の式(10)により、「ac’」から血流情報としての速度「V」及び分散「Var」を計算する。
【0101】
なお、式(10)の「atan2」は、「−π〜+π」までの角度を出力する「アークタンジェント関数」であり、「imag」は、「imaginary part」の略であり、複素数から虚数部のみを出力する関数であり、「real」は、複素数から実数部のみを出力する関数である。
【0102】
そして、推定部143は、血流情報「V、Var、P」を判定部145に出力する。なお、推定部143は、全サンプル点について、上記の処理を実行する。
【0103】
判定部145は、推定部143から入力された血流情報「V、Var、P」を、ドプラデータとして出力するか否かを判定する。例えば、判定部145は、血流情報の速度「V」が閾値「V#」より小さい場合、当該血流情報を除外する。或いは、例えば、判定部145は、血流情報のパワー値「P」が閾値「P#」より小さい場合、当該血流情報を除外する。或いは、例えば、判定部145は、血流情報の速度「V」が閾値「V#」より小さい場合、又は、血流情報のパワー値「P」が閾値「P#」より小さい場合血流情報のパワー値「P」が閾値「P#」より小さい場合、当該血流情報を除外する。
【0104】
判定部145からドプラデータとして出力された血流情報は、画像生成部15においてドプラ画像データとして生成され、ドプラ画像データは、モニタ2にて表示される。
【0105】
以下、
図7〜
図10を用いて、本実施形態で行なわれる補正処理の効果について説明する。
図7〜
図10は、本実施形態の効果を説明するための図である。
【0106】
図7について説明する。
図7の左図は、
図3と同様、指先のBモード画像データAを示している。また、
図7の右図は、指先のBモード画像データAに重畳表示されたドプラ画像データB’を示している。ドプラ画像データB’は、
図4等を用いて説明した補正処理により生成表示されたドプラ画像データである。
図3で説明したドプラ画像データBと比較して、ドプラ画像データB’には、
図7の右図に示すように、
図3に示すドプラ画像データBで発生していた「強反射体にまとわり付くノイズ」が消失している。
【0107】
図8について説明する。
図8は、超音波プローブ1を固定した状態で、血流が略存在しない範囲であり強反射体が含まれる範囲をスキャンした場合の画像データを例示している。
図8の左図は、強反射体が描出されたBモード画像データCに重畳表示されたドプラ画像データDを示している。ドプラ画像データDは、本実施形態の補正処理を行なわずに生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データDには、
図8の左図に示すように、強反射体にまとわり付くノイズが発生している。
【0108】
一方、
図8の右図は、Bモード画像データCに重畳表示されたドプラ画像データD’を示している。ドプラ画像データD’は、本実施形態の補正処理を行なって生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データD’には、
図8の右図に示すように、ドプラ画像データDで発生していた「強反射体にまとわり付くノイズ」が消失している。本実施形態の補正処理により、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避できることが、
図7及び
図8で示されている。
【0109】
図9について説明する。
図9は、超音波プローブ1を固定した状態で、血流があり、強反射体が存在しない範囲をスキャンした場合の画像データを例示している。
図9の左図は、Bモード画像データEに重畳表示されたドプラ画像データFを示している。ドプラ画像データFは、本実施形態の補正処理を行なわずに生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データFには、
図9の左図に示すように、血流が描出されている。
【0110】
一方、
図9の右図は、Bモード画像データEに重畳表示されたドプラ画像データF’を示している。ドプラ画像データF’は、本実施形態の補正処理を行なって生成表示されたドプラ画像データである。
図8に示すように、ドプラ画像データFとドプラ画像データF’とには、略同じ血流が描出されている。すなわち、本実施形態の補正処理を行なっても、ドプラ画像データF’に描出される血流には影響が無く、また、本実施形態の補正処理により、別のノイズが発生することが無いことが、
図9で示されている。
【0111】
図10について説明する。
図10は、超音波プローブ1をわずかに動かしている状態で、血流があり、強反射体が存在しない範囲をスキャンした場合の画像データを例示している。
図10の左図は、Bモード画像データGに重畳表示されたドプラ画像データHを示している。ドプラ画像データHは、本実施形態の補正処理を行なわずに生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データHには、
図10の左図に示すように、プローブ移動に起因するノイズが血流のように描出されている。
【0112】
一方、
図10の右図は、Bモード画像データGに重畳表示されたドプラ画像データH’を示している。ドプラ画像データH’は、本実施形態の補正処理を行なって生成表示されたドプラ画像データである。ドプラ画像データH’には、
図10の右図に示すように、プローブ移動に起因するノイズが消失している。本実施形態の補正処理により、微小なプローブ移動に起因するノイズが発生しないことが、
図10で示されている。
【0113】
なお、本実施形態は、出力データ列「y」に対して補正値を用いて補正を行ない、補正出力データ列から血流情報を推定する場合であっても良い。かかる場合、出力データ列「y」の「P2」から計算された「ratio」により、補正出力データ列が計算され、補正出力データ列から血流情報「V、Var、P」が計算される。
【0114】
また、本実施形態は、判定部145が閾値「V#」を用いた判定処理を行なう場合、
図4を用いて説明した処理において、自己相関補正処理を行なって、パワー補正処理を行なわない場合であっても良い。また、本実施形態は、判定部145が閾値「P#」を用いた判定処理を行なう場合、
図4を用いて説明した処理において、パワー補正処理を行なって、自己相関補正処理を行なわない場合であっても良い。最終的に出力される血流情報は、判定部145により決定されることから、上記の内容は、推定部143の処理負荷を低減する場合に好適である。
【0115】
なお、MTIフィルタを通過したクラッタ成分は、設定部144及び推定部143の処理により、低減されている。このため、推定部143が補正値により補正した血流情報をそのまま用いて生成されたドプラ画像データでも、強反射体や強反射体の近辺に位置する組織を血流情報として観察されにくくなっている。従って、本実施形態は、判定部145の判定処理を行なわない場合であっても良い。
【0116】
次に、
図11を用いて、本実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例について説明する。
図11は、本実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、
図11では、走査範囲内のサンプル点の総数が「M」であるとして説明する。また、
図11は、設定部144が計算処理により、補正値を設定する場合を例示したフローチャートである。
【0117】
図11に示すように、本実施形態に係る超音波診断装置の制御部18は、全サンプル点の入力データが格納されたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、入力データが格納されていない場合(ステップS101否定)、制御部18は、格納されるまで待機する。
【0118】
一方、入力データが格納された場合(ステップS101肯定)、制御部18は、「i=1」とし(ステップS102)、サンプル点「i」の処理をドプラ処理部14に開始させる(ステップS103)。まず、設定部144は、入力データのパワー値(例えば、最大パワー値)を計算し(ステップS104)、入力データのパワー値を補正する(ステップS105)。
【0119】
また、フィルタ処理部142は、入力データに対して、MTIフィルタ処理を行ない、出力データを出力し(ステップS106)、推定部143は、出力データのパワー値(例えば、平均パワー値)を計算する(ステップS107)。そして、設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値とからCDRを計算し、CDRに基づいて、補正値を計算する(ステップS108)。
【0120】
また、推定部143は、出力データを用いた自己相関演算処理を行なって、自己相関値を計算する(ステップS109)。そして、推定部143は、補正値を用いて血流情報を推定する(ステップS110)。すなわち、推定部143は、補正値を用いて出力データのパワー値と自己相関値とを補正し、血流情報を推定する。そして、制御部18は、「i=M」であるか否かを判定する(ステップS111)。ここで、「i=M」でない場合(ステップS111否定)、制御部18は、「i=i+1」とし(ステップS112)、ステップS103に戻って、サンプル点「i」の処理をドプラ処理部14に開始させる。
【0121】
一方、「i=M」である場合(ステップS111肯定)、判定部145は、判定処理を行なって、全サンプル点の血流情報を画像生成部15に出力する(ステップS113)。そして、画像生成部15は、血流情報からカラードプラ画像データを生成し(ステップS114)、制御部18の制御により、モニタ2は、カラードプラ画像データを表示し(ステップS115)、処理を終了する。
【0122】
なお、
図11を用いて説明した処理手順は、あくまでも一例であり、
図11に示す各処理の順番は、適宜変更可能である。例えば、判定部145は、1つのサンプル点の血流情報が推定されるごとに、判定処理を行なっても良い。
【0123】
上述したように、本実施形態では、MTIフィルタ処理前後のデータのパワー値の変化に基づいて、強反射体等を反射源とする出力データから推定される血流情報の値が、観察者により視認できない程度まで低下させる補正を行なう。これにより、本実施形態では、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避できる。また、本実施形態では、MTIフィルタ処理前後のデータのパワー値の変化に基づいて、血流に由来する成分か、強反射体に由来する成分かを精度良く識別して、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることで起こる誤診を回避することができる。また、本実施形態では、補正値を用いた補正処理と、パワー値や速度を用いた判定方法とを併用することで、識別精度を更に向上させることができる。
【0124】
なお、上記では、入力データのパワー値と出力データのパワー値との比を用いて、補正値を計算する場合について説明した。ここで、周波数減衰により、深部に位置する反射源からのエコー強度は、減衰する。入力データのパワー値と出力データのパワー値との比であるCDRは、深さ情報の影響がキャンセルされた値である。このため、CDRは、出力データがMTIフィルタを通過したクラッタ成分由来であるか否かを識別する基準として、そのまま用いることができる。
【0125】
一方、例えば、入力データのパワー値と出力データのパワー値との差分値も、出力データがMTIフィルタを通過したクラッタ成分由来であるか否かを識別する基準として用いることができる。すなわち、設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値と差に基づいて、補正値を設定することも可能である。ただし、差分値は、サンプル点の深さに応じた周波数減衰の影響が含まれる値である。このため、差分値を用いる場合、設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値とともに、深さ情報を用いて補正値を計算する。例えば、設定部144は、差分値と深さ情報とを入力として、予め設定されたLUTから、補正値を決定する。或いは、例えば、設定部144は、差分値と深さ情報とを入力として補正値が得られる計算式を用いた計算処理により、補正値を決定する。かかる変形例によっても、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避できる。
【0126】
また、本実施形態は、設定部144が、入力データのパワー値と出力データのパワー値との比や差に基づいて、補正値を設定する場合に限定されるものでは無い。例えば、設定部144は、入力データのパワー値と出力データのパワー値とに補正値が対応付けられたLUTを参照し、処理対象となる入出力データに該当する補正値を取得することで、補正値の設定処理を行なっても良い。なお、かかる変形例では、「深さ情報ごとに入力データのパワー値と出力データのパワー値とに補正値が対応付けられた複数のLUT」を用いることが好適である。かかる場合、設定部144は、処理対象となる入出力データに該当する深さ情報のLUTを参照して、補正値の設定処理を行なう。かかる変形例によっても、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避できる。
【0127】
なお、本実施形態では、上記で説明した画像処理方法が、超音波診断装置で実行される場合について説明した。しかし、上述した画像処理方法は、送受信部11が出力した反射波データ(IQ信号)を取得可能な画像処理装置において実行される場合であっても良い。また、上述した画像処理方法に適用される超音波送受信の走査形態は、血流情報を推定することが可能な反射波データのデータ列を収集可能であるならば、任意の走査形態を用いることが可能である。
【0128】
また、上記の実施形態において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0129】
また、本実施形態で説明した画像処理方法は、予め用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD、USBメモリ及びSDカードメモリ等のFlashメモリ等、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって非一時的な記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0130】
以上、説明したとおり、本実施形態によれば、強反射体の組織に由来する信号が血流として表示されることを回避できる。
【0131】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。