特許第6188616号(P6188616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188616
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20170821BHJP
【FI】
   F16H57/04 B
   F16H57/04 J
   F16H57/04 N
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-66504(P2014-66504)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-190512(P2015-190512A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 光将
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−180308(JP,A)
【文献】 実開昭62−13261(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側のドライブピニオンギヤより下方に配置されると共に該ドライブピニオンギヤと噛合するデフリングギヤと、該デフリングギヤに連結されるデファレンシャルギヤと、前記デフリングギヤおよび前記デファレンシャルギヤを収容するケースと、前記ケース内を前記デフリングギヤおよび前記デファレンシャルギヤが配置されるデフ室と作動油を貯留する作動油貯留室とに区画する区画部材とを備える動力伝達装置において、
前記区画部材は、前記ケースの第1ケース部材とにより前記作動油貯留室を形成すると共に、前記ケースの第2ケース部材とにより前記デフ室を形成し、
前記第1ケース部材は、前記ドライブピニオンギヤの回転軸を回転支持するベアリングを支持するベアリング支持部と、前記ベアリングに作動油を供給する作動油供給孔とを有し、
前記区画部材は、前記ベアリングの下方で前記ベアリングから流れ落ちる作動油を前記作動油貯留室に導くために前記ベアリング支持部より前記デフ室側に膨らむように湾曲して前記ベアリングより前記デフリング側に位置する延出湾曲部を有する、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記延出湾曲部は、前記ベアリングの回転軸から伸ばした垂直線が含まれる範囲に亘って湾曲している部分が形成されている、
動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記延出湾曲部の湾曲している部分は、前記ベアリングの回転軸から鉛直方向に伸ばした垂直線より前記ドライブピニオンギヤの前進時の回転方向側の第1範囲が、前記湾曲している部分の前記垂直線より前記第1範囲とは反対側の第2範囲より大きくなるよう形成されている、
動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか1つの請求項に記載の動力伝達装置であって、
前記区画部材は、筒状の筒上部と、前記筒上部の端面から径方向外側に延びるフランジ部と、を有し、
前記延出湾曲部は、前記フランジ部から前記デフリングギヤの側面に沿って形成されている、
動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれか1つの請求項に記載の動力伝達装置であって、
前記延出湾曲部は、前記デフリングギヤの回転軸の軸方向から見て、前記デフリングギヤの外周縁に沿って円弧状に形成されている、
動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれか1つの請求項に記載の動力伝達装置であって、
前記延出湾曲部は、前記デフリングギヤの回転軸の軸方向から見て、前記ベアリング支持部と重なるように形成されている、
動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、詳しくは、入力側のドライブピニオンギヤより下方に配置されると共に当該ドライブピニオンギヤと噛合するデフリングギヤと、デフリングギヤに連結されるデファレンシャルギヤと、デフリングギヤおよびデファレンシャルギヤを収容するケースとを備える動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置として、変速機構の入力軸と平行に配置されるカウンタ軸と、カウンタ軸の下方に配置されると共に当該カウンタ軸の出力ギヤと噛合するリングギヤ(デフリングギヤ)を有する差動装置(デファレンシャルギヤ)と、変速機構や差動装置を収納するケース部材と、当該ケース部材内を上記差動装置が配置されるデフ室とオイル(作動油)を貯留しておく貯留室とに区画するデフ区画部材とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この動力伝達装置のデフ区画部材は、ケース部材の一部と、当該ケース部材から上記リングギヤの外周面に沿って延設されたリブ部材と、ケース部材の反対側から差動装置を覆うと共にリブ部材の内周面に密着するように配置される半球状のリザーバプレートとから構成される。これにより、この動力伝達装置では、デフ区画部材によって貯留室からデフ室内へのオイルの流入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/121861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置では、リザーバプレートをリブ部材の内周面に完全に密着させることは困難であり、リザーバプレートとケースの内面との間にも隙間が形成されてしまう。このため、リザーバプレートとリブ部材との隙間やリザーバプレートとケースの内面との隙間から貯留室内のオイルがデフ室内に流入する。デフ室内に滞留するオイルは、作動装置のリングギヤにより掻き上げられて潤滑や冷却に用いられるが、デフ室内に滞留するオイル量が多くなると、リングギヤに作用するオイルの撹拌抵抗が大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明の動力伝達装置は、デフリングギヤおよびデファレンシャルギヤが配置されるデフ室内に作動油が流入するのを抑制し、作動油がデフ室に滞留することによってデフリングギヤに作用する作動油の撹拌抵抗が大きくなるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の動力伝達装置は、
入力側のドライブピニオンギヤより下方に配置されると共に該ドライブピニオンギヤと噛合するデフリングギヤと、該デフリングギヤに連結されるデファレンシャルギヤと、前記デフリングギヤおよび前記デファレンシャルギヤを収容するケースと、前記ケース内を前記デフリングギヤおよび前記デファレンシャルギヤが配置されるデフ室と作動油を貯留する作動油貯留室とに区画する区画部材とを備える動力伝達装置において、
前記ケースは、前記区画部材により前記作動油貯留室が形成される第1ケース部材と、前記区画部材により前記デフ室が形成される第2ケース部材とを有し、
前記第1ケース部材は、前記ドライブピニオンギヤの回転軸を回転支持するベアリングを支持するベアリング支持部と、前記ベアリングに作動油を供給する作動油供給孔とを有し、
前記区画部材は、前記ベアリングの下方を超えるまで延出すると共に前記ベアリングから流れ落ちる作動油を前記作動油貯留室に導くために前記ベアリング支持部より前記デフ室側に膨らむように湾曲する延出湾曲部を有する、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の動力伝達装置では、ケースは、区画部材により作動油貯留室が形成される第1ケース部材と、区画部材により前記デフ室が形成される第2ケース部材とを有する。第1ケース部材は、ドライブピニオンギヤの回転軸を回転支持するベアリングを支持するベアリング支持部と、ベアリングに作動油を供給する作動油供給孔とを有し、区画部材は、ベアリングの下方を超えるまで延出すると共にベアリングから流れ落ちる作動油を作動油貯留室に導くためにベアリング支持部よりデフ室側に膨らむように湾曲する延出湾曲部を有する。これにより、ベアリングから流れ落ちる作動油は、延出湾曲部により作動油貯留室に導かれる。このため、デフリングギヤおよびデファレンシャルギヤが配置されるデフ室内に作動油が流入するのを抑制することができ、作動油がデフ室に滞留することによってデフリングギヤに作用する作動油の撹拌抵抗が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明による動力伝達装置20の概略構成図である。
図2図1の動力伝達装置20に含まれる自動変速機25の各変速段とクラッチおよびブレーキの作動状態との関係を示す作動表である。
図3】コンバータハウジング220にリザーバプレート70を取り付けた状態を示す説明図である。
図4】トランスアクスルケース240にリザーバプレート70を配置した状態を示す説明図である。
図5図3におけるA−B線に沿った断面を示す説明図である。
図6図3におけるA−C線に沿った断面を示す説明図である。
図7図3におけるD−E線に沿った断面を示す説明図である。
図8】リザーバプレート70の外観を示す外観図である。
図9】リザーバプレート70の外観を示す外観図である。
図10】リザーバプレート70の外観を示す外観図である。
図11図7におけるF−G線に沿った断面を示す説明図である。
図12図3の延出湾曲部73の上端部73b近傍を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明のよる動力伝達装置20の概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動式の車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を左右の駆動輪(前輪)DWに伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、コンバータハウジング220(第1ケース部材)や当該コンバータハウジング220に連結されるトランスアクスルケース240(第2ケース部材)を含むトランスミッションケース22や、コンバータハウジング220内に収容される流体伝動装置(発進装置)23、オイルポンプ24、トランスアクスルケース240内に収容される自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)40、デファレンシャルギヤ(差動機構)50等を含む。
【0012】
流体伝動装置23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸26に接続された出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c等を有するトルクコンバータとして構成される。ただし、流体伝動装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
【0013】
オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して図示しない油圧制御装置へと圧送する。
【0014】
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30と、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1とを含む。
【0015】
第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリア34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリア34は、入力軸26に一体回転可能に接続されている。また、第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリア34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
【0016】
第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリア39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト28を介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリア39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリア39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
【0017】
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリア39とを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC4は、ピストン、複数の摩擦板や相手板、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリア34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
【0018】
ブレーキB1は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキ(摩擦係合要素)である。ブレーキB2は、油圧サーボを含むバンドブレーキあるいは多板摩擦式ブレーキとして構成されており、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリア39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリア39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧ブレーキである。また、ワンウェイクラッチF1は、例えばインナーレースやアウターレース、複数のスプラグ等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際にスプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
【0019】
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、図示しない油圧制御装置による作動油の給排を受けて動作する。図2に、自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
【0020】
ギヤ機構40は、自動変速機25の第2遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結されるカウンタドライブギヤ41と、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定されると共にカウンタドライブギヤ41に噛合するカウンタドリブンギヤ43と、カウンタシャフト42に形成(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)44と、ドライブピニオンギヤ44よりも下方に配置される(図3参照)と共に当該ドライブピニオンギヤ44に噛合するデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)45とを有する。なお、デフリングギヤ45は、はすば歯車として構成されている。
【0021】
デファレンシャルギヤ50は、図1図3図6に示すように、一対(2個)のピニオンギヤ51と、それぞれドライブシャフト28に固定されると共に一対のピニオンギヤ51に直角に噛合する一対(2個)のサイドギヤ52と、一対のピニオンギヤ51を支持するピニオンシャフト53と、一対のピニオンギヤ51および一対のサイドギヤ52を収容すると共に上述のデフリングギヤ45が連結(固定)されるデフケース54とを有する。本実施形態において、各ピニオンギヤ51および各サイドギヤ52は、すぐばかさ歯車として構成される。また、ピニオンギヤ51のそれぞれとデフケース54との間には、ピニオンワッシャ55が配置され、サイドギヤ52のそれぞれとデフケース54との間には、サイドワッシャ56が配置される。そして、デフケース54は、トランスミッションケース22により軸受81,82を介してドライブシャフト28と同軸に回転自在に支持される。
【0022】
続いて、動力伝達装置20におけるデフリングギヤ45やデファレンシャルギヤ50の周辺の構造について説明する。図3は、コンバータハウジング220にリザーバプレート70を配置した状態を示す説明図であり、図4は、トランスアクスルケース240にリザーバプレート70を取り付けた状態を示す説明図である。また、図5は、図3におけるA−B線に沿った断面を示す説明図であり、図6は、図3におけるA−C線に沿った断面を示す説明図であり、図7は、図3におけるD−E線に沿った断面を示す説明図である。図3中の左上の破線の円はドライブピニオンギヤ44を示し、中央の破線の円はデフリングギヤ45を示す。また、図3中の一点鎖線は作動油貯留室65における作動油の液面を示し、矢印はドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の回転方向を示す。
【0023】
これらの図面に示すように、コンバータハウジング220およびトランスアクスルケース240を含むトランスミッションケース22の内部は、図8図10に示すリザーバプレート70により、デフリングギヤ45およびデファレンシャルギヤ50が配置されるデフ室60と、作動油を貯留する作動油貯留室65とに区画される。なお、以下の説明において、「上」および「下」は、それぞれ動力伝達装置20が車両に搭載された状態での鉛直方向における「上」または「下」を示すものとする。
【0024】
コンバータハウジング220は、図3に示すように、トランスアクスルケース240に組み付ける際のハウジング側合わせ面(第1ケース合わせ面)221を有する。このハウジング側合わせ面221の底部近傍から図中右方向にリザーバプレート70の外縁に沿って略90度上までの範囲には、ハウジング側合わせ面221に沿ってリザーバプレート70の厚み程度だけ内側に段差したハウジング側段差面223が形成されている。コンバータハウジング220には、図7に示すように、ドライブピニオンギヤ44が形成(或いは固定)されたカウンタシャフト42を回転自在に支持する図示しない軸受に用いられるベアリング42aを回転自在に支持するベアリング支持部225と、このベアリング42aに作動油を供給する作動油供給孔226とが形成されている。ベアリング支持部225には、ベアリング42aから流れ落ちる作動油を下方に導くための樋として機能するリブ225a,225b(図11参照)が形成されている。なお、図11は、図7におけるF−G線に沿った断面を示す説明図である。
【0025】
トランスアクスルケース240は、図4に示すように、コンバータハウジング220に組み付ける際のケース側合わせ面(第2ケース合わせ面)241を有する。トランスアクスルケース240には、底部近傍から図中右方向に略45度の角度で直線状に中央側に延びるリブ242(図4および図5参照)が形成されている。
【0026】
リザーバプレート70は、図8図10に示すように、筒状部71と、筒状部71から径方向外側に延出されたフランジ部72とを含む。リザーバプレート70は、筒状部71に形成されたボルト孔76aとフランジ部72に形成された2つのボルト孔76b,76cを用いて、図3に示すように、3つのボルト86a〜86cによりコンバータハウジング220に取り付け固定される。これら筒状部71およびフランジ部72から構成されるリザーバプレート70は、鉄などの金属部材をプレス加工により形成される。なお、リザーバプレート70は、樹脂により射出成形により成形されてもよい。
【0027】
筒状部71は、図5および図6に示すように、デファレンシャルギヤ50のデフケース54の外周面の一部に沿って延在するように形成され、主に、デフケース54の一方のサイドギヤ支持部(コンバータハウジング220により軸受81を介して支持される部分)を除く部分を囲む。筒状部71のコンバータハウジング220側の端部と当該コンバータハウジング220との間には、リザーバプレート70がトランスミッションケース22に固定された状態で若干のクリアランスが画成される。
【0028】
フランジ部72は、筒状部71のトランスアクスルケース240側の端部から径方向外側に向けて延出される。また、フランジ部72および筒状部71の上部には、カウンタシャフト42を回転自在に支持する図示しない軸受と干渉しないように切欠部70sが形成されており、これにより、フランジ部72は、筒状部71の周囲において円弧状(略C字状)に延在する。図3に示すように、フランジ部72の底部から底部を含んで図中右方向に向かって略90度上までの外縁部には第1シール部77が形成されている。第1シール部77は、コンバータハウジング220のハウジング側段差面223に当接することにより第1シール部77のシールを確保する。また、フランジ部72の第1シール部77より図中左方向に向かって略60度上までの外縁部には第2シール部78が形成されている。第2シール部78は、図3図4図8図10に示すように、外縁が直線状に形成されており、外縁がトランスアクスルケース240のリブ242に当接しやすいようにリブ242側に突出するように形成されている。このため、第2シール部78がリブ242により押圧されて弾性変形し、第2シール部78のシールをより良好に確保する。
【0029】
フランジ部72には、カウンタシャフト42を支持する軸受に用いられているベアリング(図7参照)42aの下方を受けるように延出して切欠部70sの一部をなす延出湾曲部73が形成されている。延出湾曲部73は、図8図10に示すように、デフ室60側に湾曲する溝状の湾曲部73aが上端部73bまで形成されている。延出湾曲部73の上端部73bは、図7に示すように、ベアリング42aを回転自在に支持するようコンバータハウジング220に形成されたベアリング支持部225よりデフ室60側に膨らむように形成されている。このため、作動油供給孔226から供給されてベアリング42aの回転中心から流れ落ちる作動油は、延出湾曲部73の上端部73bにより作動油貯留室65側に導かれる。このとき、ベアリング支持部225のリブ225a,225bは、作動油を延出湾曲部73の上端部73bに導く樋として機能する。
【0030】
図12は、図3における延出湾曲部73を拡大して示す説明図である。図中、3つの一点鎖線のうちの中央の一点鎖線はベアリング42aの中心からの垂直線を示し、両側の一点鎖線は上端部73bの湾曲している範囲を示す。図示するように、延出湾曲部73の上端部73bの湾曲は、ベアリング42aの中心からの垂直線よりドライブピニオンギヤ44の回転方向(図中左方向)の範囲L1は、ベアリング42aの中心からの垂直線より反対側(図中右方向)の範囲L2より大きくなるよう形成されている。ベアリング42aから流れ落ちる作動油は、カウンタシャフト42やドライブピニオンギヤ44の回転方向の運動成分が含まれるため、ベアリング42aの中心からの垂直線より回転方向に流れ落ちる。上述したように、実施形態の延出湾曲部73の上端部73bの湾曲を、範囲L1が範囲L2より大きくなるよう形成するのは、ベアリング42aの中心からの垂直線より回転方向に流れ落ちる作動油を作動油貯留室65側に導くためである。これにより、作動油のより多くを作動油貯留室65に導くことができる。
【0031】
以上説明した実施形態の動力伝達装置20によれば、リザーバプレート70のカウンタシャフト42を支持する軸受に用いられているベアリング42aの下方に、これを受けるけるように延出すると共に、ベアリング42aを支持するベアリング支持部225よりデフ室60側に膨らむように延出湾曲部73を設けることにより、ベアリング42aの回転中心から流れ落ちる作動油を作動油貯留室65に導くことができる。しかも、コンバータハウジング220のベアリング支持部225に樋の機能をなすリブ225a,225bを設けるから、より多くの作動油を作動油貯留室65に導くことができる。さらに、延出湾曲部73の上端部73bの湾曲を、ベアリング42aの中心からの垂直線よりドライブピニオンギヤ44の回転方向の範囲L1が反対側の範囲L2より大きくなるよう形成することにより、カウンタシャフト42やドライブピニオンギヤ44の回転によりその方向の運動成分を有する作動油をより多く作動油貯留室65に導くことができる。これらの結果、作動油がデフ室60に流入するのを抑制することができ、作動油がデフ室60に滞留することによりデフリングギヤ45に作用する作動油の撹拌抵抗が大きくなるのを抑制することができる。
【0032】
もとより、本実施形態の動力伝達装置20では、リザーバプレート70のフランジ部72の底部を含む外縁部分に第1シール部77を形成し、第1シール部77がコンバータハウジング220のハウジング側段差面223に当接することにより第1シール部77のシールを確保し、フランジ部72の底部から第1シール部77の反対側に第2シール部78を形成し、第2シール部78がトランスアクスルケース240のリブ242に当接して押圧されることにより第2シール部78のシールを確保する。第2シール部78は直線状に形成されているから、リブ242に押圧されて変形しても、外縁が円弧状或いは曲線状のものに比して、リブ242との接触状態を維持することができ、シールをより良好に保持することができる。これらの結果、作動油貯留室65からデフ室60への作動油の流入をより良好に抑制することができ、デフリングギヤ45に作用する作動油の撹拌抵抗をより低減することができる。
【0033】
本実施形態の動力伝達装置20では、コンバータハウジング220のベアリング支持部225に樋の機能をなすリブ225a,225bを設けるものとしたが、リブに代えて溝を設けるものとしてもよい。また、こうしたリブや溝を設けないものとしても差し支えない。
【0034】
本実施形態の動力伝達装置20では、延出湾曲部73の上端部73bの湾曲を、ベアリング42aの中心からの垂直線よりドライブピニオンギヤ44の回転方向の範囲L1が反対側の範囲L2より大きくなるよう形成するものとしたが、上端部73bの湾曲をドライブピニオンギヤ44の回転方向の範囲L1と反対側の範囲L2が同一となるように形成してもよい。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【0036】
本発明の動力伝達装置において、前記ベアリング支持部には、前記ベアリングから流れ落ちる作動油を前記延出湾曲部に導く樋状のリブが形成されているものとすることもできる。こうすれば、より多くの作動油を延出湾曲部に導いて作動油貯留室に流入させることができる。
【0037】
本発明の動力伝達装置において、前記延出湾曲部は、湾曲している部分のうち前記ベアリングの回転軸から伸ばした垂直線より前記ドライブピニオンギヤの回転方向側の第1範囲は、前記湾曲している部分の前記第1範囲に含まれない第2範囲より大きくなるよう形成されているものとすることもできる。こうすれば、ドライブピニオンギヤの回転方向の運動成分を有する作動油のより多くを延出湾曲部に導いて作動油貯留室に流入させることができる。
【0038】
本発明の動力伝達装置において、前記第1ケース部材には、第1ケース合わせ面と前記第1ケース合わせ面の底部近傍に該第1ケース合わせ面から内側に段差する第1段差面とが形成されており、前記第2ケース部材には、前記第1ケース合わせ面に整合する第2ケース合わせ面と前記第2ケース合わせ面の底部近傍から前記区画部材の外縁に沿って中央に延びるリブとが形成されており、前記区画部材には、外周部のうち底部を含んで該底部から一方向に向かった第1底部範囲には前記第1段差面に当接してシールする第1シール部が形成されていると共に、外周部のうち前記第1底部範囲の底部側の端部近傍から他方向に向かった第2底部範囲には径方向に延出して前記リブに当接する第2シール部が形成されているものとすることもできる。こうすれば、区画部材の第1シール部が第1段差面に当接して第1シール部のシールを確保し、第2シール部が第2ケース部材のリブに当接して第2シール部のシールを確保することができる。これにより、デフリングギヤおよびデファレンシャルギヤが配置されるデフ室への作動油の流入をより良好に抑制し、デフリングギヤに作用する作動油の撹拌抵抗をより低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、動力伝達装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
20 動力伝達装置、22 トランスミッションケース、23 流体伝動装置、23c ロックアップクラッチ、23o ワンウェイクラッチ、23p ポンプインペラ、23s ステータ、23t タービンランナ、24 オイルポンプ、25 自動変速機、26 入力軸、28 ドライブシャフト、30 第1遊星歯車機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33a,33b ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリア、35 第2遊星歯車機構、36a 第1サンギヤ、36b 第2サンギヤ、37 リングギヤ、38a ショートピニオンギヤ、38b ロングピニオンギヤ、39 プラネタリキャリア、40 ギヤ機構、41 カウンタドライブギヤ、42 カウンタシャフト、42a ベアリング、43 カウンタドリブンギヤ、44 ドライブピニオンギヤ、45 デフリングギヤ、45a 歯先、45b 歯元、50 デファレンシャルギヤ、51 ピニオンギヤ、52 サイドギヤ、53 ピニオンシャフト、54 デフケース、55 ピニオンワッシャ、56 サイドワッシャ、60 デフ室、65 作動油貯留室、70 リザーバプレート、70s 切欠部、71 筒状部、72 フランジ部、73 延出湾曲部、73a 湾曲部、73b 上端部、76a,76b,76c ボルト孔、77 第1シール部、78 第2シール部、81,82 軸受、86a,86b,86c ボルト、220 コンバータハウジング、221 ハウジング側合わせ面、223 ハウジング側段差面、225 ベアリング支持部、225a,225b リブ、226 作動油供給孔、240 トランスアクスルケース、241 ケース側合わせ面、242 リブ、B1,B2 ブレーキ、C1,C2,C3,C4 クラッチ、F1 ワンウェイクラッチ。
図1
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図12