【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/光・量子情報通信用超伝導単一光子検出システムの小型化技術の研究開発 副題;小型2K冷凍システム」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1開口部は、前記ディスプレーサが上死点にあるときの前記ディスプレーサの底面よりも下死点側に備えられていることを特徴とする請求項3に記載の極低温冷凍機。
【発明を実施するための形態】
【0009】
GM冷凍機をはじめとするディスプレーサを備える冷凍機は、シリンダ内でディスプレーサを往復移動させるために、シリンダとディスプレーサとの間にはクリアランスが設けられている。シリンダの低温側端部には冷却ステージが設けられており、このクリアランスの一部は、クリアランス内の冷媒ガスと冷却ステージとの間で熱交換をおこなう熱交換器として機能する。
【0010】
一般にこれらの冷凍機では、膨張空間で膨張した冷媒ガスがクリアランスを通って膨張空間から排気されるときに、冷媒ガスは冷却ステージと熱交換をする。一方で、膨張空間に供給される冷媒ガスは、冷却ステージを冷却するほど低温ではない。このため、膨張空間に冷媒ガスが供給されるときは、冷媒ガスは冷凍に寄与しないにも関わらず、流路抵抗の大きいクリアランスを通ることになる。これは冷凍機の圧力損失の一因となり、ひいては冷凍機の冷凍性能を低下させる原因となる。そこで本発明のある実施形態に係る冷凍機は、ディスプレーサと膨張空間との間の流路抵抗は、ディスプレーサが下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサが上死点UPにあるときよりも小さくなるように構成されている。
【0011】
本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図である。第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、例えば、冷媒ガスとしてヘリウムガスを用いるギフォードマクマホンタイプの冷凍機である。極低温冷凍機1は、ディスプレーサ2と、ディスプレーサ2との間に膨張空間3を形成するシリンダ4と、膨張空間3に隣接するとともに外包するように位置する有底円筒状の冷却ステージ5を備える。冷却ステージ5は、冷却対象と冷媒ガスとの間の熱交換を行う熱交換器として機能する。ディスプレーサ2は、本体部2aと低温端に備えられた蓋部2bとを含む。蓋部2bは、本体部2aと同一の部材で構成されてもよい。また、蓋部2bは、本体部2aよりも熱伝導率が高い材質で構成されてもよい。そうすると、蓋部2bは、蓋部2b内を流れる冷媒ガスとの間で熱交換を行なう熱伝導部としても機能する。蓋部2bには、例えば、銅、アルミニウム、ステンレスなど、少なくとも本体部2aよりも熱伝導率の大きな材料が用いられる。冷却ステージ5は、例えば銅、アルミニウム、ステンレス等により構成される。
【0013】
圧縮機12は、吸気側から低圧の冷媒ガスを回収し、これを圧縮した後に高圧の冷媒ガスを極低温冷凍機1に供給する。冷媒ガスとしては、例えばヘリウムガスを用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0014】
シリンダ4は、ディスプレーサ2を長手方向に往復移動可能に収容する。シリンダ4には強度、熱伝導率、ヘリウム遮断能などの観点から、例えばステンレス鋼が用いられる。
【0015】
ディスプレーサ2の高温端には、ディスプレーサ2を往復駆動する図示しないスコッチヨーク機構が設けられており、ディスプレーサ2はシリンダ4の軸方向にそって往復移動する。
【0016】
ディスプレーサ2は円筒状の外周面を有しており、ディスプレーサ2の内部には、蓄冷材が充填されている。このディスプレーサ2の内部空間は蓄冷器7を構成する。蓄冷器7の上端側および下端側には、それぞれヘリウムガスの流れを整流する上端側整流器9および下端側整流器10が設けられている。
【0017】
ディスプレーサ2の高温端には、室温室8からディスプレーサ2に冷媒ガスを流通する上部開口11が形成されている。室温室8は、シリンダ4とディスプレーサ2の高温端により形成される空間であり、ディスプレーサ2の往復移動に伴い容積が変化する。
【0018】
室温室8には、圧縮機12、サプライバルブ13、リターンバルブ14からなる吸排気系統を相互に接続する配管のうち、給排共通配管が接続されている。また、ディスプレーサ2の高温端よりの部分とシリンダ4との間にはシール15が装着されている。
【0019】
ディスプレーサ2の低温端には、膨張空間3に冷媒ガスを導入する冷媒ガスの吹き出し口16が形成されている。また、ディスプレーサ2の外壁とシリンダ4の内壁との間には、ディスプレーサ2の内部空間と膨張空間3とを結ぶ冷媒ガスの流路となるクリアランスCが設けられている。
【0020】
膨張空間3は、シリンダ4とディスプレーサ2により形成される空間であり、ディスプレーサ2の往復移動に伴い容積が変化する。シリンダ4の外周および底部の膨張空間3に対応する位置には、冷却対象に熱的に接続された冷却ステージ5が配置されている。冷媒ガスは、冷媒ガスの吹き出し口16およびクリアランスCを通って膨張空間3に流入する冷媒ガスにより膨張空間3に供給される。
【0021】
ディスプレーサ2の本体部2aには、比重、強度、熱伝導率などの観点から、例えばフェノール樹脂等が用いられる。蓄冷材は例えば金網等により構成される。なお、
図1は極低温冷凍機1の運転中の状態を示している。そのため、低温により本体部2aの若干の収縮に伴い双方の外径が同一となった状態であるが、常温においては、蓋部2bの外径は本体部2aの外径よりもわずかに小さい。
【0022】
次に、極低温冷凍機1の動作を説明する。冷媒ガス供給工程のある時点においては、ディスプレーサ2は、
図1に示すようにシリンダ4の下死点LPに位置する。それと同時、またはわずかにずれたタイミングでサプライバルブ13を開くと、サプライバルブ13を介して高圧の冷媒ガスが給排共通配管からシリンダ4内に供給される。この結果、ディスプレーサ2の上部に位置する上部開口11から、高圧の冷媒ガスがディスプレーサ2の内部の蓄冷器7に流入する。蓄冷器7に流入した高圧の冷媒ガスは、蓄冷材により冷却されながらディスプレーサ2の下部に位置する冷媒ガスの吹き出し口16およびクリアランスCを介して、膨張空間3に供給される。
【0023】
膨張空間3が高圧の冷媒ガスで満たされると、サプライバルブ13は閉じられる。この時、ディスプレーサ2は、シリンダ4内の上死点UPに位置する。
図2は、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1において、ディスプレーサ2が上死点UPに位置する様子を示す模式図である。ディスプレーサ2がシリンダ4内の上死点UPに位置すると同時、またはわずかにずれたタイミングでリターンバルブ14を開くと、膨張空間3の冷媒ガスは減圧され、膨張する。膨張により低温になった膨張空間3のヘリウムガスは、冷媒ガスは冷却ステージ5の熱を吸収する。
【0024】
ディスプレーサ2は下死点LPに向けて移動し、膨張空間3の容積は減少する。膨張空間3内の冷媒ガスは、冷媒ガスの吹き出し口16およびクリアランスCを通ってディスプレーサ2内に回収される。このときも、冷媒ガスは冷却ステージ5の熱を吸収する。膨張空間3から蓄冷器7に戻った冷媒ガスは、蓄冷器7内の蓄冷材も冷却する。ディスプレーサ2に回収された冷媒ガスはさらに、蓄冷器7、上部開口11を介して圧縮機12の吸入側に戻される。以上の工程を1サイクルとし、極低温冷凍機1はこの冷却サイクルを繰り返すことで、冷却ステージ5を冷却する。
【0025】
第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1およびディスプレーサ2では、冷却ステージ5から進入する熱は、膨張空間3に存在する冷媒ガスを介して、蓋部2bにまで進入する。すなわち、膨張空間3で発生した低温の冷媒ガスが冷媒ガスの吹き出し口16を通過する際に、冷媒ガスと蓋部2bとの間で熱交換が行われる。
【0026】
また、蓋部2bに進入した熱は、さらに蓋部2b内部を膨張空間3に向けて伝達する。上述したように、蓋部2bはディスプレーサ2の低温端に備えられている。このため、蓋部2bは膨張空間3内の低温冷媒ガスと接触しており、冷却ステージ5と冷媒ガスとの間の熱交換効率をさらに向上させることができる。
【0027】
なお、ディスプレーサ2の蓋部2bを、例えばフェノール樹脂等で構成することもある。しかしながら、本体部2aよりも熱伝導率が高い材質で蓋部2bを構成する形態に係る極低温冷凍機1と比較すると、冷媒ガスと蓋との間の熱交換が小さくなり、実質的には熱交換が行われない。そのため、膨張空間3で発生した低温の冷媒ガスと冷却ステージ5との間の熱交換のみで行われることになり、冷却効率が悪化する。したがって、ディスプレーサ2の蓋は本体部2aよりも熱伝導率が高い材質として蓋部2bを構成する方が好ましい。
【0028】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1においては、シリンダ4内でディスプレーサ2が往復移動することで膨張空間3内の冷媒ガスが膨張し、寒冷が発生する。
図1に示すように、ディスプレーサ2の往復移動のために、シリンダ4とディスプレーサ2との間にクリアランスCが設けられている。クリアランスCのうち、冷却ステージ5に隣接する部分は、冷却ステージ5とクリアランスC内の冷媒ガスとの間で熱交換を行なう熱交換器として機能する。
【0029】
続いて、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1におけるディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗について説明する。
【0030】
上述したように、ディスプレーサ2は、シリンダ4内を上死点UPから下死点LPに移動する間に膨張空間3から冷媒ガスを回収する。またディスプレーサ2は、シリンダ4内を下死点LPから上死点UPに移動する間に膨張空間3に冷媒ガスを供給する。
【0031】
ディスプレーサ2が膨張空間3から冷媒ガスを回収するとき、膨張空間3内の冷媒ガスは膨張によって冷却ステージ5よりも低温となっている。冷媒ガスはクリアランスCおよび冷媒ガスの吹き出し口16を通って膨張空間3からディスプレーサ2に至り、この間に冷却ステージ5を冷却する。
【0032】
ディスプレーサ2が膨張空間3に冷媒ガスを供給するとき、冷媒ガスは蓄冷器7の蓄冷材によって冷却されている。しかしながら、ディスプレーサ2が膨張空間3に供給する冷媒ガスは、膨張空間3から回収するときの冷媒ガスと比較すると、温度が高い。そのため、冷却ステージ5の冷却には実質的に寄与しないかもしれない。ディスプレーサ2が膨張空間3に供給する冷媒ガスの温度が冷却ステージ5よりも高い場合には、冷媒ガスは冷却ステージ5に熱を与えてしまうかもしれない。
【0033】
一般に、冷媒ガスの流速を速くすると、冷媒ガスと冷却ステージ5との間の熱交換効率は向上する。圧縮機12が供給する冷媒ガスの供給量は一定なので、冷媒ガスの流速は、クリアランスCの流路面積が狭くなるにしたがって速くなる。そのため、冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2に戻るときは、冷媒ガスがクリアランスCの流路面積が小さい方が冷媒ガスの流速が速くなるので、熱交換効率が高まる。特に、ディスプレーサ2が上死点UPから下死点LPに移動する冷媒ガスの回収工程において、膨張空間3から排出される冷媒ガスの大部分は、回収工程の前半でディスプレーサ2に流入する。そのため、特に冷媒ガスの回収工程の前半(ディスプレーサ2が上死点UPに近い位置にあるとき)における熱交換効率を向上させることが好ましい。一方、冷媒ガスがディスプレーサ2から膨張空間3に流入するときは、圧力損失を少なくするために、クリアランスCの流路抵抗は小さい方が好ましい。
【0034】
そこで第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、
図1および
図2に示すように、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも、ディスプレーサ2の側壁とシリンダ4の内壁との間のクリアランスCが大きく取られている。この結果、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも、クリアランスCの流路面積が大きくなる。クリアランスCの流路面積が小さいほど流路抵抗が大きくなるので、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗は、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも小さくなる。なお、冷媒ガスの回収工程の後半(ディスプレーサ2が下死点LPに近い位置にあるとき)にも、冷媒ガスは膨張空間3から排出される。しかしながら、回収工程の後半で膨張空間3から排出される冷媒ガスの量は、回収工程の前半において膨張空間3から排出される冷媒ガスの量と比較すると、少ない。そのため、回収工程の後半で熱交換効率が低下しても、冷凍性能に与える影響は軽微である。
【0035】
一方、ディスプレーサ2から膨張空間3に供給される冷媒ガスの大部分は、供給工程の前半(ディスプレーサ2が下死点LPに近い位置にあるとき)に供給される。そのため、圧力損失の低下を抑制するためには、供給工程前半におけるクリアランスCの流路抵抗を小さくすることが好ましい。すなわち、回収工程の前半におけるクリアランスCの流路抵抗の平均値が、後半における流路抵抗の平均値よりも大きくなるように構成することで、圧力損失による冷凍能力の低下を抑制しつつ、冷却ステージ5との熱交換効率を向上することができる。
【0036】
以上より、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、冷媒ガスの回収工程の前半において冷媒ガスが冷却ステージ5を冷却するときは冷媒ガスがクリアランスCを通過する際の流速が速くなり、熱交換器における熱交換効率が上昇する。また冷媒ガスが膨張空間3に供給されるときの流路抵抗が小さいため、圧力損失が抑制できる。第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば熱交換器の熱交換効率が上昇し、かつ圧力損失が抑制されるので、冷凍性能を向上することができる。
【0037】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1について説明する。第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1も、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1と同様に、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも小さくなるように構成されている。以下、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1と重複する記載については、適宜省略または簡略化して説明する。
【0038】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図であり、ディスプレーサ2が下死点LPに位置する様子を示す図である。
図3に示すように、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、膨張空間3を構成するシリンダ4の側壁、すなわち冷却ステージ5の側壁中に、バイパス流路17を備える。バイパス流路17は、第1開口部18と第2開口部19とを両端とする流路である。ここで第1開口部18は、第2開口部19よりも上死点UP側に設けられている。
【0039】
図3に示すように、第1開口部18は、ディスプレーサ2が下死点LPにあるとき、吹き出し口16と対向する位置に備えられている。これにより、冷媒ガスがディスプレーサ2から膨張空間3に供給されるとき、冷媒ガスの多くは第1開口部18からバイパス流路17に流入する。バイパス流路17に流入した冷媒ガスは、第2開口部19から膨張空間3に流入する。また冷媒ガスの一部は、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1と同様に、クリアランスCを通って膨張空間3に流入する。
【0040】
このように、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、冷媒ガスがディスプレーサ2から膨張空間3に供給されるときに、ディスプレーサ2から膨張空間3に至るまでの流路として、クリアランスCとバイパス流路17との2系統が存在する。このためディスプレーサ2から膨張空間3に至るまでの流路がクリアランスCだけの場合と比較して、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が小さくなる。なお、バイパス流路17の流路面積をクリアランスCの流路面積よりも大きくする方が、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗がより小さくなるため好ましい。
【0041】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図であり、ディスプレーサ2が上死点UPに位置する様子を示す図である。
図4に示すように、第1開口部18は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、冷媒ガスの吹き出し口16よりも下死点LP側に設けられている。
【0042】
上述したように、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、冷媒ガスは冷却ステージ5を冷却しながら、膨張空間3からディスプレーサ2に回収される。このとき、膨張空間3からディスプレーサ2に至るまでの冷媒ガスの流路はクリアランスCだけである。このため、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときの方が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときよりも大きくなる。結果として、冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2に回収されるときにクリアランスCを通過する際の流速が速くなり、冷却ステージ5の冷却効率が上昇する。
【0043】
冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2に回収される間におけるディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗を大きくする観点から見ると、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、第1開口部18と冷媒ガスの吹き出し口16との距離は長い方がよい。そこで、
図4に示すように、第1開口部18は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、ディスプレーサ2の底面である蓋部2bよりもさらに下死点LP側に備えられてもよい。
【0044】
この場合、
図3に示すように、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときに第1開口部18が吹き出し口16と対向する位置に備えられることを両立させるとより好ましい。これは、冷媒ガスの吹き出し口16とディスプレーサ2の底面までの距離を、ディスプレーサ2のストローク長よりも短くすることで実現できる。これにより、冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2に戻る間は、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗を大きくすることができる。さらに、ディスプレーサ2が下死点LPに到達し、ディスプレーサ2から膨張空間3への冷媒ガスの供給が開始されるときは、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗を小さくすることができる。
【0045】
なお、
図3および
図4に示すように、第2開口部19は、膨張空間3の底面の高さ、すなわち下死点LPの高さに設けられている。ディスプレーサ2から膨張空間3への冷媒ガスの供給が開始されると、ディスプレーサ2は下死点LPから上死点UPに向かって移動する。このため、冷媒ガスの供給が開始されるとすぐに、第2開口部19と対向していたディスプレーサ2の蓋部2bは、第2開口部19よりも上死点側に移動する。
【0046】
ここで第2開口部19は、冷媒ガスの供給時におけるバイパス流路17の出口である。したがって、冷媒ガスの供給開始後すぐに第2開口部19と対向する蓋部2bがなくなることは、バイパス流路17の出口付近における流路抵抗が小さくなることを意味する。これにより、冷媒ガスの供給時におけるディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗を小さくすることができる。
【0047】
以上より、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、冷媒ガスの回収工程の前半における冷媒ガスの流速が速くなり、熱交換器における熱交換効率が上昇する。また冷媒ガスはバイパス流路17を通って膨張空間3に流入するため、冷媒ガスの供給工程の前半におけるディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗は小さくなり、圧力損失が抑制できる。第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば熱交換器の熱交換効率が上昇し、かつ圧力損失が抑制されるので、冷凍性能を向上することができる。
【0048】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1について説明する。第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1も、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1および第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1と同様に、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも小さくなるように構成されている。以下、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1または第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1と重複する記載については、適宜省略または簡略化して説明する。
【0049】
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図であり、ディスプレーサ2が下死点LPに位置する様子を示す図である。
図5に示すように、第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、ディスプレーサ2の底面である蓋部2bに設けられた第2バイパス流路20を備える。第2バイパス流路20は、ディスプレーサ2の内部空間(すなわち、蓄冷器7)と、膨張空間3とを結ぶ冷媒ガスの流路である。
【0050】
ディスプレーサ2が下死点LPにあるとき、ディスプレーサ2から膨張空間3への冷媒ガスの供給が開始する。このとき、冷媒ガスがディスプレーサ2から膨張空間3に供給されるためのルートは、冷媒ガスの吹き出し口16とクリアランスCを通るルートと、第2バイパス流路20を通るルートとの、2系統のルートが存在する。このためディスプレーサ2から膨張空間3に至るまでの流路がクリアランスCだけの場合と比較して、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が小さくなる。
【0051】
第2バイパス流路20の途中、または第2バイパス流路の膨張空間3側の端部には、逆止弁21が設けられている。逆止弁21は、第2バイパス流路20を通って膨張空間3からディスプレーサ2に流れる冷媒ガスを規制する。すなわち、第2バイパス流路20は、ディスプレーサ2から膨張空間3に向かう一方通行の流路である。
【0052】
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図であり、ディスプレーサ2が上死点UPに位置する様子を示す図である。上述したように、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、膨張空間3の冷媒ガスはディスプレーサ2に回収される。このとき、逆止弁21は第2バイパス流路20を通って膨張空間3からディスプレーサ2に流れる冷媒ガスを規制するため、冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2まで至るルートは、クリアランスCおよび冷媒ガスの吹き出し口16を通るルートだけとなる。結果として、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点LPにあるときよりも大きくなる。結果として、冷媒ガスが膨張空間3からディスプレーサ2に戻るときの流速が速くなり、冷媒ガスと冷却ステージ5との間の冷却効率が上昇する。
【0053】
以上より、第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、冷媒ガスの回収工程の前半においては冷媒ガスが冷却ステージ5を冷却するときは冷媒ガスはクリアランスCのみを通過する。このため、冷媒ガスの回収工程の前半における冷媒ガスの流速が速くなり、熱交換器における熱交換効率が上昇する。また冷媒ガスの供給工程の前半において、冷媒ガスは第2バイパス流路20とクリアランスCとの両方のルートを通って膨張空間3に流入する。このため、冷媒ガスの供給工程の前半におけるディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗は小さくなり、圧力損失が抑制される。このように、第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば、熱交換器の熱交換効率が上昇しかつ圧力損失が抑制されるので、冷凍性能を向上することができる。
【0054】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1について説明する。以下では、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機、または第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1と重複する記載については、適宜省略または簡略化して説明する。
【0055】
第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1も、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1、および第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1と同様に、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも小さくなるように構成されている。以下、第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1、第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1、または第3の実施の形態に係る極低温冷凍機1と重複する記載については、適宜省略または簡略化して説明する。
【0056】
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1を示す模式図であり、ディスプレーサ2が下死点LPに位置する様子を示す図である。
図7に示すように、第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1においては、ディスプレーサ2が下死点LPにあるとき、冷媒ガスの吹き出し口16の位置におけるクリアランスCの流路面積が最も広くなる。また、冷媒ガスの吹き出し口16の位置におけるクリアランスCの流路面積は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるとき、最も狭くなる。そして、第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1においては、クリアランスCの流路面積が、最も広くなる箇所から最も狭くなる箇所に至るまで、連続的に減少するように構成されている。
【0057】
このように、第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1のクリアランスCは、ディスプレーサ2がシリンダ4内を下死点LPから上死点UPに移動するとき、移動の前半における流路抵抗の平均値が、移動の後半における流路抵抗の平均値よりも小さくなる。ここで「移動の前半」とは、ディスプレーサ2が下死点LPから上死点LPに、または上死点UPから下死点LPに移動する際の、前半分の移動を意味する。同様に、「移動の前半」とは、ディスプレーサ2が下死点LPから上死点LPに、または上死点UPから下死点LPに移動する際の、後半分の移動を意味する。
【0058】
第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1は、冷媒ガスの供給工程においてディスプレーサ2が下死点LPから上死点UPに移動するときは、クリアランスCの流路抵抗が小さく、圧力損失が抑制される。一方、冷媒ガスが冷却ステージ5を冷却するとき、すなわち冷媒ガスの回収工程においては冷媒ガスの流速が速くなり、熱交換器における熱交換効率が上昇する。このように、第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば、熱交換器の熱交換効率が上昇しかつ圧力損失が抑制されるので、冷凍性能を向上することができる。
【0059】
以上説明したように、実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば、熱交換機における圧力損失を低減することができる。
【0060】
以上、いくつかの実施の形態に基づき本発明を説明したが、これらの実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。これらの実施の形態を任意に組み合わせることによって生じる新たな実施の形態も、本発明に含まれる。例えば第1の実施の形態に係る極低温冷凍機1や第2の実施の形態に係る極低温冷凍機1に、第3の実施の形態に係る第2バイパス流路20および逆止弁21を組み合わせることができる。
【0061】
また、上述した実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0062】
例えば、上述した極低温冷凍機においては、段数が1段である場合を示したが、この段数は2段以上とする等、適宜選択することが可能である。また、実施の形態では、極低温冷凍機がGM冷凍機である例について説明したが、これに限られない。例えば、本発明は、スターリング冷凍機、ソルベイ冷凍機など、ディスプレーサを備える何れの冷凍機にも適用することができる。
【0063】
上記の各実施の形態に係る極低温冷凍機1はいずれも、ディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの方が、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときよりも小さくなるように構成されている。この他、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときのディスプレーサ2と膨張空間3との間の流路抵抗と、ディスプレーサ2が上死点にあるときの流路抵抗とは、同じ大きさであってもよい。この場合、ディスプレーサ2がシリンダ4内を下死点から上死点に移動するとき、移動の前半におけるクリアランスCの流路抵抗の平均値が、後半における流路抵抗の平均値よりも小さくなるように構成されていればよい。
【0064】
例えば、ディスプレーサ2が下死点LPにあるとき、冷媒ガスの吹き出し口16の位置におけるクリアランスCの流路面積は、ディスプレーサ2が上死点UPにあるときの流路面積と変わらないとする。この場合であっても、ディスプレーサ2が下死点LPから上死点UPに向かって移動することで、冷媒ガスの吹き出し口16の位置におけるクリアランスCの流路面積が、ディスプレーサ2が下死点LPにあるときの流路面積よりも広くなればよい。これによりディスプレーサ2がシリンダ4内を下死点LPから上死点UPに移動するとき、移動の前半におけるクリアランスCの流路抵抗の平均値が、移動の後半における流路抵抗の平均値よりも小さくなる。
【0065】
上記のように構成することで、冷媒ガスがディスプレーサ2から膨張空間3に流入するとき、すなわち冷媒ガスの供給工程においては、その前半はクリアランスの流路抵抗が小さく、圧力損失が抑制される。一方、冷媒ガスが冷却ステージ5を冷却するとき、すなわち冷媒ガスの回収工程においては、その前半においてクリアランスCを流れる冷媒ガスの流速が速くなり、熱交換器における熱交換効率が上昇する。このように、第4の実施の形態に係る極低温冷凍機1によれば、熱交換器の熱交換効率が上昇しかつ圧力損失が抑制されるので、冷凍性能を向上することができる。