特許第6188697号(P6188697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188697金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188697
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/62 20060101AFI20170821BHJP
   B29C 33/72 20060101ALI20170821BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20170821BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20170821BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B29C33/62
   B29C33/72
   C08L9/00
   C08K5/20
   C08K5/098
   C08L23/16
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-535579(P2014-535579)
(86)(22)【出願日】2013年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2013074568
(87)【国際公開番号】WO2014042199
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-203644(P2012-203644)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】吉村 勝則
(72)【発明者】
【氏名】野村 弘明
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−338185(JP,A)
【文献】 特開2006−171059(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/122955(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/115713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/62
B29C 33/72
B29C 45/00−45/84
H01L 21/56
C08K 5/098
C08K 5/20
C08L 9/00
C08L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−プロピレンゴムと、ブタジエンゴムと、加硫剤と、エルカ酸アミド及びオレイン酸アミドから選ばれる少なくとも1種の一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤と、ポリエチレンワックス系離型剤及び金属石鹸系離型剤であるステアリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の離型剤と、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填剤と、)を含
前記一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤の含有量が、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して3質量部〜60質量部である金型離型回復用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレンワックス系離型剤及び金属石鹸系離型剤であるステアリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の離型剤が、ポリエチレンワックス系離型剤を含み、
前記一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤(NW)と前記ポリエチレンワックス系離型剤(PEW)との含有比(NW:PEW比[質量比])が、1:20〜20:1の範囲である請求項に記載の金型離型回復用樹脂組成物。
【請求項3】
金型離型回復用樹脂組成物中における離型剤の総含有量が、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して20質量部〜50質量部である請求項1又は請求項2に記載の金型離型回復用樹脂組成物。
【請求項4】
金型離型回復用樹脂組成物の形態が、シート状である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金型離型回復用樹脂組成物。
【請求項5】
コンプレッションタイプとして使用される請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金型離型回復用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の金型離型回復用樹脂組成物を、成形金型内部表面に付与する工程と、
前記金型離型回復用樹脂組成物が付与された金型を加熱する工程と、
加熱後の金型離型回復用樹脂組成物を取り出す工程と、
を含む金型離型回復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法に関する。
【0002】
エポキシ樹脂に代表される硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料は、広く集積回路素子等の封止成形作業に用いられている。ところが、この封止成形材料を用いて、集積回路素子等の封止成形作業を長時間続けると、封止成形材料に由来する汚れにより、成形金型内部表面が汚れる不具合が発生する。
このような汚れを放置すると、集積回路素子等の封止成形物の表面に汚れが付着する。そのため、封止成形工程で成形金型内部表面の汚れを取り除く必要がある。具体的には、数百ショットの封止成形を実施するごとに、数ショットの割合で、封止成形材料の代わりに金型清掃用樹脂組成物を用いて成形作業を行うことにより、成形金型内部の表面に付着した汚れを取り除いている。
【0003】
さらに、金型清掃用樹脂組成物を用いて成形金型内部表面の汚れを取り除いた後には、金型離型回復用樹脂組成物を用いて成形作業を行うことにより、成形金型内部の表面に離型性を付与する。このように離型性が付与された後、引き続き数百ショットの封止成形を実施している。
【0004】
このような金型離型回復用樹脂組成物は、従来より提案されている。例えば、特開2010−149358号公報には、未加硫ゴムと滴点が120〜150℃の範囲である離型剤とを含有する金型離型用シートが開示されている。この金型離型用シートでは、洗浄後の金型面に対する離型剤の付与を均一かつ容易に行えるとされている。この金型離型回復用樹脂組成物には、離型剤として例えばアミド系ワックスが用いられている。
【0005】
国際公開第2009/122955号パンフレットには、エチレン−プロピレンゴムとブタジエンゴムとの配合割合(重量比)が90/10〜50/50の未加硫ゴムであり、未加硫ゴムの加硫硬化後の、伸び率と、引張強度と、ゴム硬度(デュロメータ硬さ)と、金型温度175℃における90%加硫時間と、が特定の範囲に規定された金型離型回復用樹脂組成物が開示されている。この金型離型回復用樹脂組成物では、金型に対する離型性の付与とともにボイドやチッピングの発生が解消され、さらに離型回復後の金型離型性が長時間持続できるとされている。この金型離型回復用樹脂組成物には、離型剤として例えば脂肪酸アミドが用いられている。
また、特開2012−201695号公報には、封止用エポキシ樹脂組成物における離型剤として酸化ポリエチレンを用いる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の金型離型回復用樹脂組成物は、成形し、成形金型内部の表面に離型性を付与する工程において、金型離型回復用樹脂組成物が脆いため、成形後に金型離型回復用樹脂組成物自身の割れ、及び成形金型上下面への貼りつきが発生するという問題がある。すなわち、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外す際の作業性を改善するための技術の確立が求められている。
つまり、上記のように成形金型の離型処理に使用される金型離型回復用樹脂組成物は、金型内部表面に離型性を安定的に付与する必要があるため、金型離型回復用樹脂組成物自体が多量の離型剤を含有している。結果、金型離型回復用樹脂組成物自身の強度が低下するためである。
【0007】
また、特開2010−149358号公報には、シート状基材を貼りあわせた金型離型回復用樹脂組成物も開示されている。特開2010−149358号公報に開示されている金型離型回復用樹脂組成物は、離型回復後の成形金型から取り外す際の作業性が改善されるとされている。しかしながら、この金型離型回復用樹脂組成物は、成形金型内部の表面に離型性を付与する工程において、シート状基材と金型離型回復用樹脂組成物とがその界面で剥離されるため、成形金型から取り外す際の作業性の改善効果は不十分である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。このような状況のもと、脆性が改善されて高い強度を有し、成形金型内部の表面に離型性を付与する際の割れの発生及び成形金型の上下面への貼りつきの発生が抑制され、成形金型から取り外す際の作業性に優れた金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)エチレン−プロピレンゴムと、ブタジエンゴムと、加硫剤と、エルカ酸アミド及びオレイン酸アミドから選ばれる少なくとも1種の一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤と、ポリエチレンワックス系離型剤及び金属石鹸系離型剤であるステアリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の離型剤と、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填剤と、)を含前記一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤の含有量が、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して3質量部〜60質量部である金型離型回復用樹脂組成物である。
【0012】
前記ポリエチレンワックス系離型剤及び金属石鹸系離型剤であるステアリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の離型剤が、ポリエチレンワックス系離型剤を含み、前記一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤(NW)と前記ポリエチレンワックス系離型剤(PEW)との含有比(NW:PEW比[質量比])が、1:40〜40:1、好ましくは1:20〜20:1の範囲である()に記載の金型離型回復用樹脂組成物である。
【0016】
(3)金型離型回復用樹脂組成物中における離型剤の総含有量が、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して20質量部〜50質量部である(1)又は(2)に記載の金型離型回復用樹脂組成物である。
(4)金型離型回復用樹脂組成物の形態が、シート状である(1)〜(3)のいずれか1つに記載の金型離型回復用樹脂組成物である。
(5)コンプレッションタイプとして使用される(1)〜(4)のいずれか1つに記載の金型離型回復用樹脂組成物である。
)(1)〜()のいずれか1つに記載の金型離型回復用樹脂組成物を、成形金型内部表面に付与する工程と、前記金型離型回復用樹脂組成物が付与された金型を加熱する工程と、加熱後の金型離型回復用樹脂組成物を取り出す工程と、を含む金型離型回復方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、脆性が改善されて高い強度を有し、成形金型内部の表面に離型性を付与する際の割れの発生及び成形金型の上下面への貼りつきの発生が抑制され、成形金型から取り外す際の作業性に優れた金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の金型離型回復用樹脂組成物及び金型離型回復方法について、詳細に説明する。
【0019】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、エチレン−プロピレンゴムと、ブタジエンゴムと、加硫剤と、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤と、を用いて構成されている。本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、好ましくはポリエチレンワックス系離型剤や金属石鹸系離型剤を含み、さらに必要に応じて他の成分を用いて構成されていてもよい。
【0020】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物においては、特定の離型剤を含むことで、金型離型回復用樹脂組成物自体の強度を高めて、成形金型内部の表面に離型性を付与する工程での割れ、及び成形金型上下面への貼りつきの発生が抑制される。これにより、成形金型から取り外す際の作業性が改善される。
【0021】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される硬化性樹脂組成物の成形工程で発生する金型表面の汚れを取り除いた後に、金型離型回復用樹脂組成物を成形し、成形金型内部表面に離型性を付与する、金型離型回復用樹脂組成物として用いられる。
【0022】
(エチレン−プロピレンゴム)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、少なくとも1種のエチレン−プロピレンゴムを含む。エチレン−プロピレンゴムは、少なくともエチレンとプロピレンとの共重合により、エチレンに由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位を少なくとも含む合成ゴムのことであり、エチレンとプロピレンとが共重合したエチレン−プロピレンゴムのほか、エチレンとプロピレンとジエンモノマーとが共重合したエチレン−プロピレン−ジエンゴムが含まれる。
【0023】
金型離型回復用樹脂組成物に含まれるエチレン−プロピレンゴムは、エチレンに由来する構成単位の含有量の、プロピレンに由来する構成単位の含有量に対する質量比(以下、単に「エチレン/プロピレン比」ともいう)が、55/45(1.22)〜60/40(1.50)の範囲であることが好ましい。エチレン/プロピレン比が55/45以上であることで、加硫後に良好な引張強度が得られる。また、エチレン/プロピレン比が60/40以下であると、原料ゴム強度の温度依存性が抑えられ、加工性を良好に保つことができる。
【0024】
前記エチレン−プロピレンゴムにおけるエチレン/プロピレン比は、金型離型回復用樹脂組成物からHPLC(高速液体クロマトグラフ)を用いて常法によりエチレン−プロピレンゴムを単離して、これをH−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)を用いて、Hの共鳴周波数:500MHzで測定して算出することができる。
【0025】
前記エチレン−プロピレンゴムは、エチレンに由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位に加えて、ジエン成分に由来する構成単位を更に含むことが好ましい。ジエン成分としては、例えば、エチリデンノルボルネン(ENB)、メチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ビニリデンノルボルネン等を挙げることができる。中でも、ジエン成分は、成形金型への離型性の付与性能の観点から、エチリデンノルボルネン及びジシクロペンタジエンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、エチリデンノルボルネンを含むことがより好ましい。
【0026】
前記エチレン−プロピレンゴムがジエン成分に由来する構成単位を更に含む場合、ジエン成分に由来する構成単位の含有率は、総質量中に6.5質量%〜9.5質量%であることが好ましく、7.0質量%〜9.0質量%であることがより好ましく、7.5質量%〜8.5質量%であることが更に好ましい。
また、前記エチレン−プロピレンゴムがジエン成分に由来する構成単位を更に含む場合、エチレン−プロピレンゴムのヨウ素価は、12〜22であることが好ましく、14〜18であることがより好ましい。
【0027】
前記エチレン−プロピレンゴムは、エチレン由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位に加えて、エチリデンノルボルネンに由来する構成単位を、総質量中に6.5質量%〜9.5質量%含むことが好ましく、エチリデンノルボルネンに由来する構成単位を、総質量中に7.0質量%〜9.0質量%含むことがより好ましい。
【0028】
前記エチレン−プロピレンゴムの含有率は、成形金型内部表面への離型性の付与性能と、樹脂組成物の強度と、の観点から、金型離型回復用樹脂組成物中に10質量%〜80質量%であることが好ましく、15質量%〜30質量%であることがより好ましい。前記金型離型回復用樹脂組成物は、エチレン−プロピレンゴムを1種単独でも、また2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0029】
前記エチレン−プロピレンゴムは、例えば三井化学株式会社製の(製品名)EPT4021、EPT4010M、JSR株式会社製の(製品名)EP35、EP65を用いることができる。
【0030】
(ブタジエンゴム)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、ブタジエンゴムの少なくとも1種を含む。
ブタジエンゴムには、特に制限はなく、通常用いられるブタジエンゴムから適宜選択することができる。中でも、成形金型内部表面への離型性の付与性能と、樹脂組成物の強度と、の観点から、シス1,4結合の含有率が90質量%以上であるハイシス構造を有し、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が20〜60であるブタジエンゴムが好ましく、前記ハイシス構造を有し、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が30〜45であるブタジエンゴムがより好ましい。
前記ブタジエンゴムは、1種単独で用いるほか、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記ブタジエンゴムは、例えばJSR株式会社製の(製品名)BRO1、BR51、宇部興産株式会社製の(製品名)UBEPL BR150、UBEPL BR130Bを用いることができる。
【0032】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、前記エチレン−プロピレンゴムと、前記ブタジエンゴムと、を含むため、成形金型内部表面に離型性を付与する際、金型離型回復用樹脂組成物の強度を適切に保つことが可能である。また、後述する離型剤を多量に含んでも、金型離型回復用樹脂組成物の強度を保つことができ、金型離型回復用樹脂組成物が脆くならず、割れ及び成形金型上下面への貼りつきの発生を抑制でき、金型離型回復用樹脂組成物の成形金型からの取り外し作業を容易に行うことができるという優れた特徴を示す。
【0033】
金型離型回復用樹脂組成物に含まれる、前記エチレン−プロピレンゴムの含有量の前記ブタジエンゴムの含有量に対する好ましい質量比(エチレン−プロピレンゴム/ブタジエンゴム比)は、15/85〜45/55の範囲である。前記エチレン−プロピレンゴム/ブタジエンゴム比が15/85以上であると、金型離型回復用樹脂組成物が脆くなりにくい。したがって、例えば離型性の付与作業後、硬化した金型離型回復用樹脂組成物の成形金型からの取り外し作業において、割れの発生等をより軽減することができる。また、前記エチレン−プロピレンゴム/ブタジエンゴム比が45/55以下であると、加熱した成形金型に離型性を付与する際、硬化した金型離型回復用樹脂組成物の成形金型上下面への貼りつきがより抑制され、離型性の付与作業の時間を軽減するのに有効である。
さらに、前記エチレン−プロピレンゴム/ブタジエンゴム比が前記範囲内であると、金型離型回復用樹脂組成物の製造時、後述する離型剤が適切に金型離型回復用樹脂組成物に分散する。そのため、金型離型回復用樹脂組成物の保管中に離型剤がブリードアウトせず、成形金型内部表面への離型性の付与性能の低下、又は性能バラツキの発生を抑制することができる。
【0034】
金型離型回復用樹脂組成物における、前記エチレン−プロピレンゴムの含有量の前記ブタジエンゴムの含有量に対する質量比は、金型離型回復用樹脂組成物をH−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)を用いて、Hの共鳴周波数:500MHzで測定して算出することができる。
【0035】
(加硫剤)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、少なくとも1種の加硫剤を含む。
加硫剤は、通常用いられる加硫剤から適宜選択することができる。加硫剤としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、及び2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド類有機過酸化物、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類有機過酸化物、等が挙げられる。
加硫剤は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、(株)日油製の(商品名)パーヘキサ V−40、パーヘキサ 25B−40等を挙げることができる。
加硫剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用して加硫速度を調整してもよい。
【0036】
加硫剤の金型離型回復用樹脂組成物中における含有量は、加硫剤の種類等に応じて適宜選択することができる。中でも、加硫剤の含有量は、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して、0.1質量部〜6質量部が好ましく、1質量部〜5質量部がより好ましい。加硫剤の含有量が0.1質量部以上であると、成形金型内部表面への離型性の付与性能がより向上する。また、加硫剤の含有量が6質量部以下であると、臭気の発生をより抑制できる傾向がある。
【0037】
(一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤(以下、単に「アミド系離型剤」ともいう。)の少なくとも一種を含む。特定のアミド系離型剤が金型離型回復用樹脂組成物に含まれることにより、金型離型回復用樹脂組成物が脆くならず、強度を高く保つことができるものと推定される。したがって、成形金型内部表面に離型性を付与した後、硬化した金型離型回復用樹脂組成物を成形金型からの取り外す際、金型離型回復用樹脂組成物の割れの発生を抑制し、かつ硬化した金型離型回復用樹脂組成物の成形金型上下面への貼りつきの発生も抑制することができる。そのため、成形金型内部表面に離型性を付与する際の作業性が改善される。
【0038】
アミド系離型剤は、金型清浄時に用いられる金型清掃用樹脂組成物にも広く用いられている。しかしながら、金型清浄後に用いられる金型離型回復用樹脂組成物は、金型清浄時に用いられる金型清掃用樹脂組成物と比較し、成形金型内部表面に離型性を付与するため、多量の離型剤を含む必要がある。例えば、金型清掃用樹脂組成物には、エチレン−プロピレンゴムとブタジエンゴム等の未加硫ゴムの合計量100質量部に対し、通常5質量部程度の離型剤が含まれる。一方、金型離型回復用樹脂組成物は、未加硫ゴムの合計量100質量部に対し、20質量部以上の離型剤が含まれる。離型剤の含有量が20質量部に満たないと、成形金型内部表面への離型性の付与が十分に行えない。しかしながら、樹脂組成物に過剰の離型剤(例えば樹脂組成物の100質量部に対して10質量部以上の離型剤)を含ませると、樹脂組成物自身の強度が低下するという問題がある。このような樹脂組成物を加熱成形すると、脆くなり、成形金型内部表面への離型性の付与後、成形金型から樹脂組成物を取り外す際の作業性が低下する。したがって、金型離型回復用樹脂組成物において、成形金型内部表面への離型性の付与と、離型性の付与後に金型離型回復用樹脂組成物を成形金型から取り外す際の作業性と、の両立は困難であった。
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、適切な離型剤を選択することで、成形金型内部表面への離型性の付与と、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外す際の作業性と、の両方を満足するという優れた特徴を有する。
【0039】
本発明に用いられる一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤は、一価不飽和脂肪酸アミドであるため、融点が低く、かつゴムへの分散性を良好に保つことができる。特に、本発明における一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤は、ゴムへの相溶性が良好で、ゴムへの分散が良好になる点で、炭素数が18〜22である一価不飽和酸のアミド化合物が好ましい。一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤の例としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等が好適に挙げられ、中でも特にエルカ酸アミドが好ましい。例えば、炭素数が18〜22である一価不飽和酸のアミド化合物であるエルカ酸アミド、オレイン酸アミドの融点は、70℃〜85℃である。一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤は、そのゴムの混練時の温度である70℃近辺の温度で良好に溶融し、ゴムに均一に混練される。このことにより、離型剤を金型離型回復用樹脂組成物中に良好に分散させることができ、したがって均一な離型性を付与できる。これに対し、炭素数が18〜22である飽和脂肪酸アミド化合物であるステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドは、融点が100℃〜140℃である。
【0040】
エルカ酸アミドは、金型離型回復用樹脂組成物の強度が向上し、成形金型から取り外す際の作業性が改善される点で好ましい。
例えば、アミド系離型剤を含まない金型離型回復用樹脂組成物は、成形金型内部表面に離型性を付与した後に、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外し、取り外した樹脂組成物の両端を両手で持って180度に折り曲げようとすると、樹脂組成物は脆いため、樹脂組成物に容易に割れが発生してしまう。
本発明者は、金型離型回復用樹脂組成物に一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤、特にエルカ酸アミドを含ませることで、樹脂組成物の両端を両手で持って180度に折り曲げようとしても、樹脂組成物が割れないほど高い強度が得られることを見出した。そのため、本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、成形金型から樹脂組成物を取り外す際の作業性に優れるという特徴を有する。
エルカ酸アミドとしては、例えば、上市されている(株)日油製の(商品名)アルフローP−10、同E−10等を用いることができる。
【0041】
一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤の金型離型回復用樹脂組成物中における含有量は、前記エチレン−プロピレンゴムとブタジエンゴムとの合計100質量部に対して、3質量部〜60質量部が好ましく、より好ましくは10質量部〜50質量部であり、特に好ましくは15質量部〜40質量部である。
【0042】
(ポリエチレンワックス系離型剤)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、さらに、ポリエチレンワックス系離型剤の少なくとも一種を含むことが好ましい。このポリエチレンワックス系離型剤を一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤と併用することによって、金型離型回復用樹脂組成物の脆性に対する改善効果が高く、強度を高く保てると共に、成形金型内部表面への離型性付与効果に優れたものとなる。
【0043】
ポリエチレンワックス系離型剤としては、酸化ポリエチレンワックス、非酸化ポリエチレンワックスが挙げられ、金型離型回復用樹脂組成物が脆くなりにくく、離型性付与により優れる点で、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0044】
前記酸化ポリエチレンワックスとしては、例えば、クラリアント社製のLicoWAX PED521、同191、ビックケミー・ジャパン社製のCERAFLOUR(登録商標)928、同950、三井化学社製の三井ハイワックス 210MP、等を挙げることができる。
【0045】
ポリエチレンワックス系離型剤の金型離型回復用樹脂組成物中における含有量としては、前記エチレン−プロピレンゴムとブタジエンゴムとの合計100質量部に対して、5質量部〜80質量部が好ましく、より好ましくは10質量部〜40質量部である。
【0046】
また、上記のアミド系離型剤とポリエチレンワックス系離型剤とを併用する場合、アミド系離型剤(NW)とポリエチレンワックス系離型剤(PEW)との比(NW:PEW比[質量比])は、1:40〜40:1の範囲が好ましく、1:20〜20:1の範囲がより好ましい。
NW:PEW比が1:40以上の範囲であると、より高い強度が得られ、離型性がより効果的に付与される。また、NW:PEW比が40:1以下の範囲であると、成形金型からの取り外し時作業性の点で有利である。
【0047】
(金属石鹸系離型剤)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、さらに、金属石鹸系離型剤の少なくとも一種を含むことが好ましい。金属石鹸系離型剤は、金型離型回復用樹脂組成物を使用する際に、成形金型への離型性を効果的に付与することができる。更に、金属石鹸系離型剤は、金型離型回復用樹脂組成物自身を製造する際、添加剤を効果的に分散する加工助剤としても機能し、製造時の効率が向上する点で好ましい。
【0048】
金属石鹸系離型剤としては、例えば、ラウリル酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、及びベヘン酸亜鉛からなる群から選択することができる。金属石鹸系離型剤は、一種単独で用いるほか、二種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明に用いられる金属石鹸系離型剤としては、ステアリン酸アルミニウムが特に好ましい。その詳細なメカニズムは不明であるが、金属石鹸系離型剤としてステアリン酸アルミニウムを含む場合、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤と金属石鹸系離型剤との相乗効果により、加熱成形して離型性を付与する作業後の金型離型回復用樹脂組成物の強度がより効果的に向上するためと推定される。
【0050】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、アミド系離型剤、酸化ポリエチレンワックス系離型剤、及び金属石鹸系離型剤以外の離型剤を含んでもよい。このような離型剤としては、例えば、有機脂肪酸エステル系離型剤、合成ワックス離型剤などが挙げられる。
【0051】
離型剤の金型離型回復用樹脂組成物中における総含有量としては、前記エチレン−プロピレンゴムと前記ブタジエンゴムとの合計100質量部に対して、20質量部〜50質量部が好ましく、より好ましくは23質量部〜45質量部である。
【0052】
(その他の成分)
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、上記した成分以外のその他の成分をさらに含有して構成されていてもよい。
【0053】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、金型離型回復用樹脂組成物の強度をより制御しやすくなる点で、無機充填材を含むことが好ましい。無機充填材には、特に制限はなく、通常用いられる無機充填材から適宜選択することができる。無機充填材としては、具体的には、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。中でも、無機充填材としては、金型への傷付けが軽微であり、金型離型回復用樹脂組成物の強度を適度に制御できる点で、シリカ及び酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
金型離型回復用樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて、界面活性剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等のその他の添加剤を更に含むことができる。
加硫助剤としては、例えば、アクリル酸モノマー、硫黄等を挙げることができる。
加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン等のグアニジン系、ホルムアルデヒド−パラトルイジン縮合物、アセトアルデヒド−アニリン反応物等のアルデヒド−アミン系及びアルデヒド−アンモニア系、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジル・ジスルフィド等のチアゾール系等が挙げられる。
加硫促進助剤としては、例えば、マグネシア、リサージ、石灰等が挙げられる。
【0055】
金型離型回復用樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない限り、例えば、弁柄、紺青、鉄黒、群青、カーボンブラック、リトポン、チタンイエロー、コバルトブルー、ハンザイエロー、キナクリドンレッド等の無機もしくは有機の顔料類を更に含んでいてもよい。このような無機もしくは有機の顔料類を用いることで、金型離型回復用樹脂組成物と、離型性の付与作業の前に使用される金型清掃用樹脂組成物と、を識別することが容易になる。
【0056】
金型離型回復用樹脂組成物の調製方法は、特に制約されない。例えば、エチレン−プロピレンゴム及びブタジエンゴムを含む混合生地に、加硫剤と、離型剤と、を添加して混練を行うことで調製することができる。その際、無機充填材等に代表される添加剤を添加することもできる。
混練手段は、特に制限されず、通常用いられる混練手段や混練方法から適宜選択することができる。例えば混練手段としては、例えば、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、ロールミキサー等を挙げることができる。
【0057】
金型離型回復用樹脂組成物の形態は、特に制限されるものではなく、例えばシート状であることが好ましい。金型離型回復用樹脂組成物の形態がシート状であることで、短時間で容易に冷却することが可能になる。また、混練した樹脂組成物を速やかに冷却することで、混練時の予熱による加硫を抑制でき、安定した性能を得ることができる。金型離型回復用樹脂組成物をシート状に成形する場合、その厚さ及び大きさは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、厚さは3mm〜10mmとすることができ、5mm〜7mmであることが好ましい。
【0058】
金型離型回復用樹脂組成物の使用形態は、特に制限されるものではなく、例えば、コンプレッションタイプとして使用することが好ましい。これにより、成形金型内部表面に離型性を付与した後、金型離型回復用樹脂組成物を成形金型から取り外す作業が容易に行える。
【0059】
次に、本発明の金型離型回復方法について説明する。
本発明の金型離型回復方法は、既述の本発明の金型離型回復用樹脂組成物を、成形金型内部表面に付与する工程(以下、「付与工程」ともいう)と、前記金型離型回復用樹脂組成物が付与された金型を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)と、加熱後の金型離型回復用樹脂組成物を取り出す工程と、を有している。金型離型回復方法は、必要に応じて、その他の工程を有していてもよい。
既述した本発明の金型離型回復用樹脂組成物を用いることで、成形金型内部の表面に離型性を付与する際の割れの発生及び成形金型の上下面への貼りつきの発生が抑制され、成形金型から取り外す際の作業性に優れたものとなる。
【0060】
[付与工程]
本発明における付与工程は、金型離型回復用樹脂組成物を成形金型内部表面に付与する工程である。本工程で用いる金型離型回復用樹脂組成物の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
【0061】
金型離型回復用樹脂組成物を、成形金型内部表面に付与する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。付与する方法としては、例えば、シート状に成形した金型離型回復用樹脂組成物を圧縮成形すること、トランスファー成形すること等の公知の方法によって行うことができる。
金型離型回復用樹脂組成物を成形金型内部表面に付与する際には、成形金型のキャビティ部分の一部又は全部の表面を覆うように付与することができる。金型離型回復方法においては、成形時に成形金型内部表面全体に均一に樹脂が行き渡るため、成形金型のキャビティ部分の全部の表面を覆うように、金属清掃用樹脂組成物を付与することが好ましい。
【0062】
[加熱工程]
加熱工程は、成形金型内部表面に付与した金型離型回復用樹脂組成物を加熱する工程である。
加熱方法や加熱条件(温度、時間又は回数等)は、特に限定されるものではなく、金型の形状や種類、本発明に係る金型離型回復用樹脂組成物の種類に応じて、公知の方法や条件を適宜選択することができる。
【0063】
加熱条件のうち、加熱温度としては、例えば、簡便性の観点より、本発明における加熱工程においては、成形加工用樹脂を金型で成形する際と同様の方法及び同等の温度で、金型離型回復用樹脂組成物を加熱することが好ましい。これにより、金型離型のために金型を過熱又は冷却する必要がなく、金型に離型性を付与した後、速やかに金型成形を開始することができる。
加熱工程における温度としては、160℃〜190℃が好ましく、170℃〜180℃がより好ましい。
【0064】
加熱時間としては、金型離型回復用樹脂組成物が充分に加硫し、かつ成形金型内部表面全体に均一に行き渡れば特に制限はない。150秒〜500秒であることが好ましく、180秒〜360秒であることがより好ましい。
【0065】
金型離型回復方法においては、付与工程及び加熱工程を複数回繰り返してもよい。付与工程及び加熱工程の繰り返し回数(以下、「ショット数」ともいう)としては、2回〜7回が好ましく、2回〜5回がより好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明の効果を具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
なお、実施例1及び実施例6は、本発明の参考例である。
【0067】
[実施例1]
3000mlのジャケット付き加圧型ニーダー中に、エチレン−プロピレンゴム(三井化学社製、商品名:EPT4021、エチレン/プロピレン比=55/45)450gと、ブタジエンゴム(JSR社製、商品名:JSR BR01)1050gと、を添加し、冷却しながら約3分間加圧混練した。混合生地はモチ状になり、その温度は約80℃となった。
次いで、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤であるエルカ酸アミド(株式会社日油製、商品名:アルフローP−10)375g、ホワイトカーボン(東ソー・シリカ株式会社製、商品名:Nipsil LP、無機充填材)750g、黒顔料(三菱化学株式会社製、ダイヤブラック)、及び酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:CR−80)75gを加えて約3分間混練した。
最後に、加硫剤として、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート(株式会社日油製、商品名:パーヘキサ V−40、純度40%)90gを加え、引き続き約1分間混練した。この間、混練物温度が100℃を超えないように調節した。得られた混練物を速やかに加圧ロールに通し、シート状に加工すると共に25℃以下に冷却することにより、厚さ6mmのシート状の金型離型回復用樹脂組成物を得た。
【0068】
−評価−
得られた金型離型回復用樹脂組成物について、以下のようにして、成形金型内部表面への離型性の付与効果と、樹脂組成物の強度と、成形金型内部表面に離型性を付与した後に行う樹脂組成物の成形金型からの取り外し作業性と、を評価した。評価結果を表1に示す。
いずれについても、金型温度を175℃とする条件で評価した。
なお、表1の組成における単位は「質量部」であり、「−」は未配合であることを示す。
【0069】
〔成形金型内部表面への離型性の付与効果に関する評価試験〕
市販のビフェニル系エポキシ樹脂成形材料(住友ベークライト株式会社製、商品名:EME−7351T)を用い、先端に超硬合金製のチップが付いたプランジャーを備えたPDIP−14L(8ポット−48キャビティ)の金型で500ショットの成形を行い、成形金型内部表面の汚れを形成した。
この成形金型内部表面に汚れを有する成形金型に、金型清掃用樹脂組成物(日本カーバイド工業株式会社製、商品名:ニカレットRCC IDグレード)を用いて繰り返し成形を行い、成形金型内部表面の汚れを除去した。その後、実施例1で作製した金型離型回復用樹脂組成物を用いて、175℃で加熱してコンプレッション成形することで成形金型内部表面への離型性の付与を行った。離型性の付与を行った後、エポキシ樹脂成形材料の加工の連続成形数(ショット数)で、成形金型内部表面への離型性の付与効果を評価した。
このとき、連続成形数が700回以上であるものを「優」とし、連続成形数が500回以上700回未満であるものを「良」とし、連続成形数が300回以上500回未満であるものを「可」とし、連続成形数が300回未満であるものを「不可」として評価した。
【0070】
〔樹脂組成物の強度に関する評価試験〕
樹脂組成物の強度の評価を以下のように行った。金型離型回復用樹脂組成物を加熱成形し、成形金型内部表面への離型性の付与を行った後、この金型離型回復用樹脂組成物を成形金型から取り外した。取り外した樹脂組成物の長手方向の両端を両手でもち、180度に折り曲げた。このとき、樹脂組成物が割れないものを「優」とし、折り曲げた部位に若干の亀裂が発生するものの、180度に折り曲げることができたものを「良」とし、樹脂組成物が割れる等、180度に折り曲げることができないものを「不可」として評価した。
【0071】
〔成形金型からの取り外し時の作業性に関する評価試験〕
金型離型回復用樹脂組成物を加熱成形することで成形金型内部表面に離型性を付与した後、この金型離型回復用樹脂組成物を成形金型から取り外す際の作業性を評価した。評価は、金型離型回復用樹脂組成物自身の割れや成形金型上下面への貼りつきの発生がなく、成形金型からの取り外し時の作業性が優れるものを「優」とし、金型離型回復用樹脂組成物自身に割れや成形金型上下面への貼りつきがややあるがその程度は小さく、作業性低下がほとんど見られないものを「良」とし、作業性低下はあるが、許容範囲であるものを「可」とし、金型離型回復用樹脂組成物自身の割れや成形金型上下面への貼りつきの発生により、成形金型を改めて清掃する必要があり、作業性が極端に低下したものを「不可」として行った。
【0072】
[実施例2]
実施例1において、金属石鹸系離型剤として、さらにステアリン酸アルミニウム(日東化成工業株式会社製、商品名:Al−St(103))45gを用いた以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様の方法で評価した。
【0073】
[実施例3〜9]
実施例1において、金型離型回復用樹脂組成物の組成を、下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様の方法で評価した。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤に代えて、下記表1に示すように金属石鹸系離型剤であるステアリン酸亜鉛(日油株式会社製、商品名:ジンクステアレートGF−200)375gを用いた以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様にして評価した。
【0075】
[比較例2]
実施例1において、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤に代えて、下記表1に示すように、金属石鹸系離型剤であるステアリン酸亜鉛(日油株式会社製、商品名:ジンクステアレートGF−200)と、酸化ポリエチレンワックス系離型剤(クラリアント社製、商品名:LicoWAX PED521)と、を用い、組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様の方法で評価した。
【0076】
[比較例3]
実施例1において、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤に代えて、下記表1に示すように、金属石鹸系離型剤であるベヘン酸カルシウム(日東化成工業社製、商品名:CS−7)と、酸化ポリエチレンワックス系離型剤(クラリアント社製、商品名:LicoWAX PED521)と、を用い、組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様の方法で評価した。
【0077】
[比較例4]
実施例1において、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤に代えて、下記表1に示すように金属石鹸系離型剤であるベヘン酸カルシウム(日東化成工業社製、商品名:CS−7)を用い、組成を下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして金型離型回復用樹脂組成物を得て、同様の方法で評価した。
【0078】
【表1】

【0079】
前記表1に示す結果から明らかなように、本発明の実施形態であるシート状の金型離型回復用樹脂組成物は、金型離型回復用樹脂組成物の強度が高められ、成形金型内部表面に離型性を付与する工程での割れ及び成形金型上下面への貼りつきが抑制され、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外す際の作業性が改善された。
また、実施例2の結果から判るように、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤であるエルカ酸アミドと、金属石鹸系離型剤であるステアリン酸アルミニウムと、を併用した金型離型回復用樹脂組成物では、強度がより高まり、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外す際の作業性がより効果的に改善された。
さらに、実施例4に示されるように、一価不飽和脂肪酸アミド系離型剤であるエルカ酸アミドと、ポリエチレンワックス系離型剤である酸化ポリエチレンワックスと、を併用した金型離型回復用樹脂組成物では、強度がより高まり、成形金型から金型離型回復用樹脂組成物を取り外す際の作業性にも優れることに加え、実施例2の金型離型回復用樹脂組成物以上に、成形金型内部表面への離型性付与効果に優れたものとなった。これは、さらに金属石鹸系離型剤が含有された実施例3の金型離型回復用樹脂組成物よりも良好な結果が得られた。但し、アミド系離型剤とポリエチレンワックス系離型剤とに加えて更に金属石鹸系離型剤が含有された場合でも、実施例5のように、ポリエチレンワックス系離型剤の含有比率が高くなることにより、成形金型内部表面への離型性付与効果はより改善される傾向がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の金型離型回復用樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される硬化性樹脂組成物の成形工程で発生する成形金型内部表面の汚れを取り除いた後に成形することで、成形金型内部表面に離型性を付与することができる。本発明の金型離型回復用樹脂組成物を用いることで、硬化性樹脂組成物の封止成形を引き続き数百ショット連続して実施できる。
【0081】
日本出願2012−203644の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。