(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188711
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】平坦および湾曲する基板上のフォトニック素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20170821BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20170821BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20170821BHJP
B05D 1/18 20060101ALI20170821BHJP
B05D 1/40 20060101ALI20170821BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302R
B05D3/02 D
B05D3/02 Z
B05D3/00 E
B05D1/18
B05D1/40 A
B05D1/02 Z
【請求項の数】29
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-544893(P2014-544893)
(86)(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公表番号】特表2015-508324(P2015-508324A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】US2012067131
(87)【国際公開番号】WO2013130140
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】61/565,801
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504260058
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】バートル,マイケル・エイチ
(72)【発明者】
【氏名】バーホウム,ムーサ
(72)【発明者】
【氏名】リアセット,ダヴィッド
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−107461(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0149400(US,A1)
【文献】
特開平10−058580(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/076428(WO,A1)
【文献】
特開平09−167374(JP,A)
【文献】
特開2011−037210(JP,A)
【文献】
特開平09−143267(JP,A)
【文献】
特開2005−004038(JP,A)
【文献】
特表2010−522320(JP,A)
【文献】
特開2001−350015(JP,A)
【文献】
特開平05−146748(JP,A)
【文献】
特表2009−502490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に膜を形成するためのゾルゲル方法であって、
被覆基板を作るために前記基板の少なくとも一部分の上にゾルゲル材料の第1の層を析出させるステップであって、前記ゾルゲル材料が分散固体相および溶媒を含み、前記基板は析出中に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧に曝される、析出させるステップと、
前記第1の層を、50℃から200℃の温度を有する高温空気流に1秒から10秒の範囲の時間曝すことにより、前記基板上に析出された前記ゾルゲル材料から前記溶媒を蒸発させるステップと、
1秒から1時間、250℃から500℃の焼成温度で前記第1の層と共に前記基板を焼成するステップと、
前記基板上に第1の膜を収量するために、被覆されて焼成された前記基板をヒートシンクに接触させることまたは一定量の液体に浸すことの少なくとも1つにより、焼成された前記基板を焼成温度から室温以下まで3秒以下の時間で冷却するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記高温空気流が、ブローイングヒートガンによってもたらされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
5秒から10秒間焼成させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
5秒から1分間焼成させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の層が50nmから1000nmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記析出させるステップが、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングまたはドロップキャスティングのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記析出させるステップが、
ゾルゲル溶液を収容する浸漬チャンバ内に前記基板を浸漬するステップと、
前記基板上に前記第1の層を析出させるために所定の速度で前記浸漬チャンバから前記基板を抜き取るステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記浸漬チャンバから前記基板を抜き取るときの前記所定の速度が、前記基板上に選択される厚さを有する前記第1の層を析出するように選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基板上に析出される前記第1の層の前記選択される厚さが、前記ゾルゲル溶液の粘性または前記浸漬チャンバから前記基板を抜き取るときの前記所定の速度のうちの少なくとも1つの影響を受ける、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板が、1cm/分から20cm/分の範囲の実質的に一定の速度で前記浸漬チャンバから抜き取られる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記基板が、浸漬されて抜き取られる間に前記浸漬チャンバ内に閉じ込められる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記冷却するステップが、被覆されて焼成された前記基板をヒートシンクに接触させることである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記基板が実質的に平坦である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記基板が実質的に非平坦である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の層を焼成して冷却した後で前記基板上にゾルゲル材料の第2の層を析出させるステップと、
前記第1の膜および第2の膜を有する基板を収量するために、前記第1の膜および前記第2の層で被覆される前記基板に、蒸発させるステップ、焼成させるステップおよび冷却させるステップを実施するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の層を析出するのに使用される前記ゾルゲル材料が、前記第1の膜を形成するのに使用される前記ゾルゲル材料とは異なる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
複数の交互の第1および第2の膜を前記基板上に形成するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の膜が二酸化ケイ素(SiO2)を含み、前記第2の膜が二酸化チタン(TiO2)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1および前記第2の膜が、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタニウム、セリウム、シリコン、イリジウム、ニッケル、銅または亜鉛のうちの1つまたは複数の金属酸化物から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の交互の第1の膜の各々が実質的に等しい厚さを有し、前記複数の交互の第2の膜の各々が実質的に等しい厚さを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の交互の第1の膜の各々および前記複数の交互の第2の膜の各々が実質的に等しい厚さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の交互の第1の膜の各々が、前記複数の交互の第2の膜の各々の厚さとは異なる厚さを有する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記交互の第1および第2の膜の中で、前記隣接する交互の第1および第2の膜より実質的に厚い少なくとも1つの第1または第2の膜を形成するステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の交互の第1および第2の膜が、1Dフォトニック結晶、ブラッグミラーまたは干渉計のうちの少なくとも1つを一体に形成する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の膜または前記第2の膜のいずれかを形成するために使用される前記ゾルゲル材料に界面活性剤または別の有機化合物を追加するステップと、
前記基板上に少なくとも2つの交互の第1および第2の膜を形成するステップであって、前記界面活性剤または前記別の有機化合物が、前記界面活性剤または前記別の有機化合物を含む、前記第1の膜または第2の膜にメソ多孔性を誘起する、形成するステップと、
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記冷却するステップが、被覆されて焼成された前記基板を一定量の液体に浸すことである、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記一定量の液体がアルコールおよび水を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ゾルゲル材料が、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタニウム、セリウム、シリコン、イリジウム、ニッケル、銅または亜鉛のうちの1つまたは複数の金属酸化物から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の膜内の前記固体相を少なくとも部分的に再結晶化するために、上に前記第1の膜が析出された前記基板を400℃から500℃で1時間熱処理するステップであって、前記冷却するステップの後で実施される、熱処理するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、National Science Foundationによって授与されたAward No.ECS 0609244および米国エネルギー省によって授与された契約番号DE−EE0002768のもと米国政府の補助によりなされた。米国政府は本発明に関する一定の権利を有する。
【0002】
[0002]本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2011年12月1日に出願された米国仮特許出願第61/565,801号明細書の便益を主張する。
【背景技術】
【0003】
[0003]ゾルゲルケミストリが、物理析出手法および化学析出手法に代わる、魅力的に単純で、迅速で、安価な代替的な合成経路として出てきている。合成条件が比較的緩いことおよびゾルゲルケミストリが融通性を有することにより、薄膜、繊維およびモノリスとなるように加工され得る多種多様なコンパウンドに対して扉が開かれた。加えて、分子および/またはコロイドアセンブリ手法(molecular and/or colloidal assembly method)と組み合わせることにより、内部三次元のメソスケールからマクロスケールの周期的フィーチャおよび別の階層構造を有するコンポジットを生成することが可能となる。得られる組成、形態および内部構造がこのように多岐にわたることにより、ゾルゲルケミストリ由来の材料が、触媒作用、分離および吸着から、エレクトロニクスおよびフォトニクスの使用までの広範囲の用途のための魅力的な候補となる。
【0004】
[0004]市場で広く使用するための残される課題は、大きい試料面積(例えば、1cm
2超)にわたって構造的均一性を有しかつ制御されるバッチごとの再現性を有するゾルゲル由来の材料を作ることである。これは特に薄膜ベースの材料および薄膜ベースの用途に当てはまる。ここでは、均一性のレベルおよび薄膜のパラメータの制御のレベルは、原子層堆積、化学蒸着、分子ビームエピクタシおよび種々のスパッタリング技法などの、物理析出手法および化学析出手法では非常に高く設定されている。したがって、商業的用途のためにゾルゲル処理を実行可能な製造代替手段と考える場合、同様の基準を満たす必要がある。ゾルゲルにより薄膜製造での最重要な2つの課題は、クラックが形成されるのを回避すること、ならびに、大きい面積にわたって膜厚さの均一性および再現性を得ることである。これらの問題は両方とも、薄膜の析出(ディップコーティングまたはスピンコーティング、キャスティング)中の溶媒蒸発と、その後の熱処理(焼成、アニーリング)でのそれらの高密度化とに直接に関連する。制御される環境条件下(例えば、湿度、温度が調節される専用クリーンルームで、空気中にダスト粒子がない状態で基板を前処理する)で薄膜析出プロセスを実行することにより、膜の品質を大幅に向上させることを補助することができる。しかし、これらの進歩があるにしても、ゾルゲル由来の薄膜はやはり膜厚さが不均一になる傾向があり(エッジ効果)、熱処理中に収縮したりクラックが形成されたりする傾向がある。
【0005】
[0005]興味深い多様な薄膜コンパウンドの中でもとりわけ、最近、ワイドバンドギャップ半導体チタニアがその優れた化学特性および物理特性により大きな注目を集めている。高い化学安定度および触媒作用によりチタニアは太陽電池および水分解の光陽極の主要な候補となる一方で、高い屈折率と、可視域の電磁波スペクトルでの光透過性との組み合わせも、反射コーティングおよび別の光学コンポーネントを作ることにおいて理想的である。さらに、シリカなどの低屈折率のコンパウンドを用いるスタック形態でチタニア薄膜を交互に析出することにより、リフレクタと、フィルタと、マイクロキャビティとを有する、興味深い一次元(1D)フォトニックバンドギャップ材料を製造することができる。しかし、ゾルゲルの製造で、異なる熱膨張係数を有する異なるコンパウンドを用いて薄膜をこのように層状化することには大きな課題がある。膜処理および熱処理中に交互層内およびインターフェースのところの異なる収縮特性により応力が発生し、それにより大きなクラックが発生したり、層剥れが起こったり、膜厚さが変化したりする可能性がある。
【0006】
[0006]チタニア/シリカ薄膜スタック内にクラックが形成されるのを最小するための戦略は焼成プロセスである。これは高温(900℃〜1000℃)で行われる追加的な短い熱処理ステップである。この焼成プロセスの目的は、900℃におけるシリカおよびチタニアの対向する薄膜応力を利用することである。Rabasteらによる研究およびKozukaらによる研究により、最大800℃でシリカ膜およびチタニア膜の両方で引張応力が発生し、温度を900℃まで上げることによりシリカに圧縮応力は発生することが明らかとなっている。これらの反対の応力によりマルチスタック全体が弛緩され、クラックが形成されることが軽減されることが考察される。この高温アプローチと対照的に、Keszlerらが、適度な温度(300℃)で行われる、アニーリングステップの後の低温(5℃)溶液処理手法を報告している。この方法では、高密度のチタニア薄膜を析出することが可能となる。しかし、この方法では、各析出サイクルでの析出厚さが〜18nmに制限される。各層が数十ナノメートルまたは数百ナノメートルの厚さを有する交互のスタック構造を生成するために(可視域または近赤外線域で機能するフォトニックバンドギャップ材料としての用途で必要とされる)、この方法では等しいコンパウンドの複数の連続する膜を析出する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]本開示は、平坦および非平坦(例えば、凸型または凹型)基板上で製造され得るフォトニック素子と、その製造方法とを説明する。本明細書で説明される方法は、高品質で、大面積の単層および/または複層薄膜材料を製造するための、多用途で、単純で、迅速で、安価なゾルゲル方法を含む。本明細書で説明されるフォトニック素子は、ゾルゲル溶液の層を基板上に析出させ(例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングまたはドロップキャスティング)、約50nmから約500nmの範囲の厚さを有する単一のゾルゲル層を形成することにより、製造される。多様な種類の基板が使用されてよく(例えば、シリコン、ガラス、石英など)、これらの基板は種々の構成を有する(例えば、平坦表面、あるいは、凹型または凸型の幾何形状を有する非平坦表面)。析出の後で、析出された誘電体コンパウンドを固化するための、および、任意選択で結晶化(例えば、クリスタリンアナターゼ、ブルッカイト、または、ルチル形二酸化チタン)を誘発するための熱処理プロシージャが行われる。説明される素子は、単一材料の単層または複層で構成され得るか、あるいは、複数の構造の場合には、2つ以上の材料(例えば、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素の交互層)の複数の交互層で構成され得る。
【0008】
[0008]一実施形態では、基板上に材料層を形成するためのゾルゲル方法が説明される。本方法が、(1)被覆基板を作るために基板の少なくとも一部分の上にゾルゲル材料の層を析出させることを含む。ゾルゲル材料が、分散固体相(シリカまたはチタニア前駆物質材料)と、溶媒(例えば、水、エタノールおよびHCl)とを含む。一実施形態では、本方法が、析出プロセス中に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧に基板を維持することを含むことができる。方法が、(2)ゾルゲル材料の析出された層を高温空気流に曝すことにより、基板上の析出されたゾルゲル材料から溶媒を蒸発させることと、(3)約1秒から約1時間、約250℃から約500℃の温度でゾルゲル材料の析出された層と共に基板を焼成することと、(4)基板上に材料層を収量するために焼成された基板を焼成温度からほぼ室温以下まで約3秒間冷却することとをさらに含む。しかし、冷却時間に関して、焼成された基板およびその上に付着する層を焼成温度からほぼ室温以下まで冷却するのに必要となる時間が、少なくとも部分的に、焼成温度と、析出される膜(複数可)の厚さと、基板の厚さとの関数であることを認識されたい。
【0009】
[0009]一実施形態では、本方法が、第1の層を焼成して冷却した後で基板上にゾルゲル材料の第2の層を析出させることと、上に析出される第1および第2の材料層を有する基板を収量するために、追加の第2の層で被覆される基板に蒸発させるステップ、焼成させるステップおよび冷却させるステップを実施することをさらに含む。一実施形態では、第2の層を析出するのに使用されるゾルゲル材料は、第1の層を形成するのに使用されるゾルゲル材料と等しくても異なっていてもよい。一実施形態では、本方法が、基板上に複数の交互の第1および第2の材料層を形成することをさらに含む。
【0010】
[0010]本発明のこれらのおよび別の目的および特徴が以下の説明および特許請求の範囲によりより完全に明らかとなるか、または、以下に記載される通りに本発明を実践することにより理解され得る。
【0011】
[0011]本発明の上記のおよび別の利点および特徴をさらに明確するために、添付図面に示される本発明の特定の実施形態を参照しながら本発明をより具体的に説明する。これらの図面が本発明の説明される実施形態のみを描いており、したがって本発明の範囲を限定するものとしてみなされないことを認識されたい。添付図面を使用してさらに具体的かつ詳細に本発明の記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】[0012]ステップ1:ディップコーティングと、ステップ2:ドライブローイングと、ステップ3:熱処理(アニーリング)と、ステップ4:衝撃冷却との、ゾルゲル薄膜層を製造するための析出サイクルを示す流れ図である。
【
図2】[0013]シリコン(100)ウエハ上に析出された12個の交互のシリカ/チタニア薄膜層を示す光学顕微鏡図である。
図2Aおよび2Bが、
図1に示される析出サイクルのドライブローイングを含めて製造される(A)、およびドライブローイングステップを排除して製造される(B)試料を示す。
図2Cおよび2Dが、
図1に示される析出サイクルの衝撃冷却ステップを含めて製造される(C)、および衝撃冷却ステップを排除して製造される(D)試料を示す。
【
図3】[0014]シリコン(100)ウエア上に析出されたシリカ(88±2nm:暗い層)およびチタニア(75±2nm:明るい層)の14個の交互層から構成される薄膜ブラッグスタックを示す写真(A)および断面SEM画像(B)である。
図3Cが、
図3Aおよび3Bに示される薄膜ブラッグスタックのための対応する光反射スペクトル(実線)およびシミュレートされるスペクトル(点線)を示す図である。
【
図4】[0015]
図4Aおよび4Bは、平坦なホウケイ酸ガラス基板(A)および湾曲する石英ガラス基板(B)上に析出されたシリカ(88±2nm:暗い層)およびチタニア(75±2nm:明るい層)の12個の交互層から構成される薄膜ブラッグスタックを示す写真である。
図4Cおよび4Dは、平坦なホウケイ酸ガラス基板(C)および湾曲する石英ガラス基板(D)上のスタックの対応する光反射スペクトル(実線)を示す図であり、シミュレートされるスペクトルが点線で与えられる。
【
図5】[0016]12個の交互のシリカ/チタニア層のブラッグスタックの光反射スペクトルを示す図である。このブラッグスタックでは、図に示されるように、シリカ層の厚さが88±2nmで一定維持され、チタニア層の厚さが60±2nmと80±2nmとの間で変化した。
【
図6】[0017]
図6Aはナノ多孔性チタニア薄膜の試料を示すTEM画像である。孔の一部が矢印で示される。
図6Bはシリコン(100)基板上に析出されたチタニア層の異なる屈折率を有する3つの14層のシリカ/チタニアブラッグスタックの光反射スペクトルを示す。チタニア層の屈折率(n)は2.34±0.02、2.1±0.1、および、1.8±0.1である。
【
図7】[0018]シリコン(100)基板上に析出されたファブリーペローマイクロキャビティ構造の断面SEM画像(A)および光反射スペクトル(B)を示す。マイクロキャビティは、それぞれ、シリカの厚さが88±2nmであり、チタニアの厚さが70±2nmである、2つの8層のシリカ/チタニアブラッグスタックの間に挟まれる176±2nmの厚さを有する中央シリカ欠陥層から構成される。568nmの波長位置で光キャビティモード(optical cavity mode)が発生する。シミュレートされるスペクトルが点線で与えられる。
【
図8】[0019]シリコン(100)上に析出された非対称の25層のシリカ/チタニアブラッグスタックを示す断面SEM画像と光反射スペクトルである。シリカ層の厚さが44±2nmで一定に維持され、チタニア層の厚さが68±2nmから88±2nmまで5nmステップで変化して68±nmに戻る。シミュレートされるスペクトルが点線で与えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0020]本開示は、平坦および非平坦(例えば、凸型または凹型)基板上で製造され得るフォトニック素子と、その製造方法とを説明する。本明細書で説明される方法は、高品質で、大面積の単層および/または複層薄膜材料を製造するための、多用途で、単純で、迅速で、安価なゾルゲル方法を含む。本明細書で説明されるフォトニック素子は、ゾルゲル溶液の層を基板上に析出させ(例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングまたはドロップキャスティング)、約50nmから約500nmの範囲の厚さを有する単一のゾルゲル層を形成することにより、製造される。多様な種類の基板が使用されてよく(例えば、シリコン、ガラス、石英など)、これらの基板は種々の構成を有してよい(例えば、平坦表面、あるいは、凹型または凸型の幾何形状を有する非平坦表面)。析出の後で、析出された誘電体コンパウンドを固化するための、および、任意選択で結晶化(例えば、クリスタリンアナターゼ、ブルッカイト、または、ルチル形二酸化チタン)を誘発するための熱処理プロシージャが行われる。説明される素子は、単一材料の単層または複層で構成され得るか、あるいは、複数の構造の場合には、2つ以上の材料(例えば、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素の交互層)の複数の交互層で構成され得る。
【0014】
[0021]一実施形態では、基板上に材料層を形成するためのゾルゲル方法が説明される。本方法が、(1)被覆基板を作るために基板の少なくとも一部分の上にゾルゲル材料の層を析出させることを含む。ゾルゲル材料が、分散固体相(テトラエチルオルトシリケート(TEOS)またはチタニウム(IV)イソプロポキシドなどの、シリカまたはチタニア前駆物質材料)と、溶媒(例えば、水、エタノールおよびHCl)とを含む。一実施形態では、本方法が、析出プロセス中に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧で基板を維持することを含むことができる。方法が、(2)ゾルゲル材料の析出された層を高温空気流に曝すことにより、基板上の析出されたゾルゲル材料から溶媒を蒸発させることと、(3)約1秒から約1時間、約250℃から約500℃の温度でゾルゲル材料の析出された層と共に基板を焼成することと、(4)基板上に材料層を収量するために焼成された基板を焼成温度からほぼ室温以下まで約3秒間冷却することとをさらに含む。しかし、冷却時間に関して、焼成された基板およびその上に付着する層を焼成温度からほぼ室温以下まで冷却するのに必要となる時間が、少なくとも部分的に、焼成温度と、析出される膜(複数可)の厚さと、基板の厚さとの関数であることを認識されたい。
【0015】
[0022]一実施形態では、本方法が、第1の層を焼成して冷却した後で基板上にゾルゲル材料の第2の層を析出させることと、上に析出される第1および第2の材料層を有する基板を収量するために、第1および第2の層で被覆される基板に蒸発させるステップ、焼成させるステップおよび冷却させるステップを実施することをさらに含む。一実施形態では、第2の層を析出するのに使用されるゾルゲル材料は、第1の層を形成するのに使用されるゾルゲル材料と等しくても異なっていてもよい。一実施形態では、本方法が、基板上に複数の交互の第1および第2の材料層を形成することをさらに含む。
【0016】
[0023]一実施形態では、第1の材料層が二酸化ケイ素(SIO
2)を含み、第2の材料層が二酸化チタン(TiO
2)を含む。追加の実施形態では、第1および/または第2の層が、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタニウム、セリウム、シリコン、イリジウム、ニッケル、銅または亜鉛のうちの1つまたは複数の金属酸化物から形成され得る。一実施形態では、種々の酸化状態の金属酸化物が使用され得る。金属酸化物およびそれらの酸化状態の適切な例には、限定しないが、酸化バナジウム(II/III/IV/V)、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)、酸化ニオブ(V)、酸化チタン(II/IV)、酸化セリウム(III/IV)、酸化ケイ素(IV)、酸化イリジウム(IV)、酸化ニッケル(II)、酸化銅(II/III)、酸化亜鉛(II)、および、種々の組み合わせの混合酸化物が含まれる。
【0017】
[0024]一実施形態では、複数の交互の第1および第2の層の各々が実質的に等しい厚さを有する。別の実施形態では、複数の交互の第1および第2の層の少なくとも1つが隣接する交互の第1および第2の層より実質的に厚いかまたは薄い。さらに別の実施形態では、第1または第2の材料の層の厚さは、別の材料の層の厚さが変化する可能性がある間も本質的に一定で維持される。このような析出技術を使用することにより、1Dフォトニック結晶、ブラッグ反射鏡および干渉計などの素子が形成され得る。
【0018】
[0025]一実施形態では、ゾルゲル材料の析出される層が、約10から約100nm(例えば、約50nmから約500nm)、約100nmから約500nm、約100から約400nm、または、約100nmから約200nmの範囲、ならびに、列記される低い数値と高い数値の組み合わせの範囲の厚さを有することができる。
【0019】
[0026]ゾルゲル溶液が種々の技法によって析出され得る。例えば、ゾルゲル溶液を析出するための適切な技法には、限定しないが、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、または、ドロップキャスティングが含まれる。スピンコーティングは薄い層(例えば、約10nm)を作るのに良好に適し、ドロップキャスティングは厚い層(例えば、最大で約1000nm)を作るのに良好に適し、ディップコーティングは中間の厚さを有する層を作るのに良好に適する。
【0020】
[0027]本明細書で説明される方法の一実施形態では、析出されることはゾルゲル溶液を収容する浸漬チャンバ内に基板を浸漬することと、基板上にゾルゲル材料の第1の層を析出させるために所定の速度で浸漬チャンバから基板を抜き取ることとを含む。浸漬チャンバから基板を抜き取るときの所定の速度は、基板上に選択される厚さを有するゾルゲル材料の第1の層を析出するように選択される。基板上に析出されるゾルゲル材料の第1の層の選択される厚さは、ゾルゲル溶液の粘性または浸漬チャンバから基板を抜き取るときの所定の速度のうちの少なくとも1つの影響を受ける。
【0021】
[0028]一実施形態では、基板が、約1cm/分から約20cm/分(例えば、約5cm/分から約15cm/分)の範囲の実質的に一定の速度で浸漬チャンバから抜き取られる。しかし、浸漬チャンバから抜き取るときの所定の速度は、ゾルゲル材料の種類と、ゾルゲル材料の特性(例えば、ゾルゲルの粘性)と、被覆される基板の意図される用途と、析出される層の意図される厚さとなどに応じて変化し得ることが認識されよう。
【0022】
[0029]一実施形態では、基板は、浸漬されて抜き取られる間に浸漬チャンバ内に閉じ込められる。一実施形態では、基板は、浸漬されて抜き取られる間に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧に曝される。
【0023】
[0030]本開示の種々の実施形態によると、基板はいくつかの構成を有することができる。例えば、基板は実質的に平坦または実質的に非平坦であってよい。非平坦の基板の例には、限定しないが、凸型表面、凹型表面、および、円筒形などが含まれる。
【0024】
[0031]一実施形態では、本方法が、第1の層または第2の層のいずれかを形成するのに使用されるゾルゲル材料に界面活性剤または別の有機化合物を追加することと、基板上に少なくとも2つの交互の第1および第2の材料層を形成することとをさらに含むことができる。一実施形態では、界面活性剤または別の有機化合物は、界面活性剤または別の有機化合物を含むゾルゲル材料から形成される層にメソ多孔性を誘起する。
【0025】
[0032]発明者らは、析出プロセス中に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧で基板を維持すること、および、基板上に析出されたゾルゲル材料から溶媒を迅速に蒸発させることにより、いわゆるエッジ効果およびクラック伝搬を抑制することを補助することになることを発見した。エッジ効果を抑制することにより個別の層にわたる均一性を向上させることが可能となり、それにより複層素子の層間の均一性を向上させることができる。同様に、クラックが形成されるのを抑制することにより、より厚い個別の層を形成することが可能となり、それにより、可視スペクトルで機能する複層リフレクタおよび干渉計の製造の速度およびその容易さが大幅に向上する。
【0026】
[0033]例えば、析出中、ゾルゲル材料からの溶媒の蒸発が不均一になることにより溶媒蒸気圧に勾配が生じ、それにより薄膜ネットワークの収縮に差が生じる可能性があり、ネットワークの外側が内側により速く収縮する可能性がある。析出されるゾルゲル材料の収縮に差が生じることにより引張応力が発生し、それにより蒸発時に薄膜が破損する可能性がある。発明者らは、ゾルゲル膜を基板上に析出するプロセス中に実質的に一定の湿度および/または溶媒蒸気圧で基板を維持することにより、このようなクラック伝搬力を抑制することができることを発見した。析出の後、析出されたゾルゲル層に例えばブローイングヒートガン(blowing heat gun)から高温空気流を迅速に当てることができる。析出させるステップおよびその後のドライブローイングステップ中に高い湿度および/または溶媒蒸気圧が一定であることにより溶媒蒸発プロセスが強制的に均一となることに起因して、析出されるゾルゲル膜に収縮の差が生じることが妨げられる。
【0027】
[0034]本明細書で説明される方法は、焼成の後でラピッドクールダウンステップを採用することによりクラックの形成をさらに抑制する(例えば、焼成された基板を焼成温度からほぼ室温以下まで約2秒で冷却することにより)。高速冷却ステップは、例えば、基板をヒートシンクに接触させるかまたは基板を冷たい液(例えば、水とアルコールとの混合物)に浸すことにより達成され得る。1つの理論に縛られずに、この高速冷却ステップでは、層を「固定」することにより、ならびに、各層内で、および、基板と層(複数可)との間で、クラックの形成を始めさせるような熱膨張/収縮の速度に差が生じるような時間を排除することにより、クラックが形成されるのを妨げることができると信じられている。
【0028】
[0035]一実施形態では、冷却には、被覆されて焼成された基板をヒートシンクに接触させることまたは被覆されて焼成された基板を一定量の液体に浸すことのうちの少なくとも1つが含まれる。
【0029】
[0036]一実施形態では、ゾルゲル材料は、バナジウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタニウム、セリウム、シリコン、イリジウム、ニッケル、銅または亜鉛のうちの1つまたは複数の金属酸化物から形成され得る。一実施形態では、一実施形態では、種々の酸化状態の金属酸化物が使用され得る。金属酸化物およびそれらの酸化状態の例には、限定しないが、酸化バナジウム(II/III/IV/V)、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)、酸化ニオブ(V)、酸化チタン(II/IV)、酸化セリウム(III/IV)、酸化ケイ素(IV)、酸化イリジウム(IV)、酸化ニッケル(II)、酸化銅(II/III)、酸化亜鉛(II)、および、種々の組み合わせの混合酸化物が含まれる。
【0030】
[0037]個別の膜の用途の例には、限定しないが、バッテリ内のサーモクロミックフィルムおよび電極類(酸化バナジウム)、フォトクロミックフィルム、エレクトロクロミックフィルム(酸化モリブデン)、エレクトロクロミック膜フィルム(酸化タングステン)、バッテリ内の電極(酸化ニオブ)、光学フィルタおよび反射材、アンチリフレクティブコーティング、ならびに、太陽電池用途(チタン酸化物)、バッテリ内のアンチリフレクティブコーティングおよび電極(セリウム酸化物)、光学コーティング(酸化ケイ素)、アンチリフレクティブコーティングおよび太陽電池用途(酸化イリジウム)、エレクトロクロミックフィルム(酸化ニッケル)、電極類(酸化銅)、ならびに、光学フィルタ、反射材、アンチリフレクティブコーティングおよび太陽電池応用(酸化亜鉛)が含まれる。素子の所望される光学特性および意図される用途によっては、本明細書で説明される材料は交互層の用途でも使用され得る。
【0031】
[0038]本明細書で説明される方法の多用途性は、交互の誘電体コンパウンド(例えば、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素)の高品質(例えば、クラックフリー、可変厚さ、大面積、滑らかな表面)の単層または複層(例えば、30個を超える交互の単層)構造を製造することによって実証される。加えて、層の誘電特性(誘電率または屈折率)は薄膜に空隙構造(メタ多孔性)を組み込むことによって調整され得、メタ多孔性の程度は空隙構造およびサイズによって調整され得、これはわずか数パーセントから最大で90パーセント以上の範囲となり得る。
【0032】
[0039]エッジ効果およびクラックがない状態で約250℃から約500℃の適度な焼成温度で比較的厚い材料を析出する能力により、高品質のゾルゲル複層膜/スタックを、平坦な基板、凹型表面および凸型表面の両方を有する湾曲する基板、および、高温手法に通常は適さないような基板(ホウケイ酸ガラスなど)の上の良好に繰り返し析出することができた。さらに、本明細書で説明される方法は、クラックフリーの単層および複層薄膜を広い面積にわたって析出するのを可能にし、したがって、通常の半導体マイクロ処理製造に使用される/組み込まれる能力を有する。例えば、標準的なシリコンウエアの直径は約25mmから約250mmの範囲であり、300mmおよび450mmのウエアは知られていない。
【0033】
[0040]開示される方法によって製造される試料の用途の一例として、本方法によって得られる非常に高い光学的品質により優良な一次元フォトニックバンドギャップ材料(例えば、1Dフォトニック結晶またはブラッグミラー)として機能する大面積複層スタックを製造するのを可能にすることが示される。ゾルゲルパラメータを調整することで、開示される方法により、複層フォトニック結晶の各層の厚さ、組成および屈折率を個別に予測的に制御するのを可能にする。それにより、近赤外線域および可視域の電磁波スペクトルにわたって調整可能なバンドギャップ位置および個別の調整可能なバンドギャップ幅を有するフォトニック結晶が得られる(メタ多孔性を導入することにより交互層の屈折率の差を制御することにより)。加えて、交互層スタックの対称性を系統的に崩すことにより、ファブリーペロー干渉計などの干渉計を形成するために光キャビティモードが導入され得る。これは、局部的な光学マイクロキャビティを作ることを目的としてスタックの中心層のところの対称性を崩すか(例えば、スタックの中心に厚い層を配置する)あるいは非局在化の光キャビティモードを作るためにスタックの外側からその中心位置まで層の厚さを徐々に縮小(または、拡大)させることにより、達成され得る。
(実施例)
[0041]これらの実施例では、高品質のシリカおよびチタニア薄膜ならびに交互のシリカ/チタニアスタック構造を迅速に製造するためのゾルゲルアプローチが説明される。これらの方法は、膜の品質を損なわせることなくこれらの薄膜および複層構造を平坦な構造および湾曲する構造上に析出するのを可能にする。スタック構造、層の数、および、基板の種類に関係なく、これらの方法によって製造される材料は予測可能に均一な厚さを有し、広い面積にわたってクラックフリーとなる。このゾルゲル方法の多用途性は、平坦な基板および湾曲する基板上で多様な1Dフォトニックバンドギャップ材料を工作することによって得られ、これらには、高品質のブラッグリフレクタおよびフィルタ、ファブリーペローマイクロキャビティ、ならびに、非対称のスタックが含まれる。発明者らにより、これらの構造のフォトニック特性が、析出される膜の厚さおよび順番を制御することにより、ならびに、ナノ多孔性(すなわち、メタ多孔性)を導入することにより個別の層の屈折率を個別に調節することにより、容易に調整され得ることが示される。本明細書で提示されるのは、このゾルゲル析出・処理手法の重要なステップの考察である。同様に、均一な厚さを有するクラックフリーの複層構造を良好に作るために重要であることが分かっているいくつかの新たなプロセスパラメータを紹介する。これらのパラメータは、膜析出の間およびその後における、ならびに、350℃〜500℃のサーマルアニーリングプロセスのすぐ後の衝撃冷却の間およびその後における、制御される溶媒蒸発を含む。製造ステップおよび最終試料を、走査電子顕微鏡検査法(scanning electron microscopy (SEM))、透過電子顕微鏡検査表(transmission electron microscopy (TEM))、可変角度エリプソメトリ測定、X線回折(X−ray diffraction(XRD))、および、光反射分光法によって特徴付けた。測定される光反射スペクトルは、伝達マトリックス法を使用してシミュレートされるスペクトルとさらに比較される。
【0034】
[0042](前駆物質溶液の調製)
60mLのチタニウム(IV)イソプロポキシド(Acros)および65mLのエタノールを30分間激しく撹拌して混合することにより(発熱反応)、チタニア前駆物質溶液を調製した。次に、124mLのエタノール、0.6mLの塩化水素酸および1.15mLの脱イオン水(DI水)の溶液をチタニア溶液に追加してさらに30分間撹拌した。さらに使用する前に、この混合物を室温で少なくとも48時間経年変化させた。105mLのオルトケイ酸テトラエチル(Aldrich)を、12.3mLの水と、76mLのエタノールと、6.3mLのHCl(0.01M)との混合物に追加し、室温で30分間撹拌してシリカ前駆物質溶液を調整した。さらに使用する前に、混合物を60℃で少なくとも48時間経年劣化させた。
【0035】
[0043](薄膜の単層および複層構造の析出)
図1は、4つのステップの薄膜析出サイクル100を示す。ゾルゲル前駆物質溶液を基板10上にディップコーティング110することにより薄膜を析出した。ディップコーティング110の前に、イソプロパノールを用いて基板10をすすいで窒素流中で乾燥させた。基板10をゾル(チタニアまたはシリカ前駆物質溶液)に浸し、12.5cm/分の一定速度で垂直方向に抜き取った110(ステップ1)。ディップコーティングプロセス110のすぐ後で、被覆された基板12を流れる高温空気ストリーム(例えば、ヒートガンによって作られる約100℃〜200℃)中で加熱して、揮発性溶媒を迅速に蒸発させた120(ステップ2)。被覆されて乾燥された基板12を、ステップ130で、マッフル炉内で350℃〜500℃で1分間さらに熱処理した(つまり、焼成させた)(ステップ3)。薄膜析出サイクルの最後のステップで衝撃冷却プロシージャを行った(ステップ4)。これは、被覆された基板12を高温炉から取り出し、室温で基板12をPyrex(登録商標)ガラス基板または金属基板(すなわちヒートシンク)上に配置する150かあるいは基板12を水/イソプロパノールの混合物中に浸漬する160ことにより、達成される。冷却手法の選択は、基板の幾何形状、ならびに、基板とヒートシンクとの間の熱伝達比に依存する。前者の方法は薄いシリコンウエア基板上に析出された薄膜を高速冷却するのを促進するのに十分であった。対して後者の方法は、湾曲する基板、ならびに、厚いシリコンウエハと、石英またはガラススライドとで作られる基板の場合に有利であった。各サイクルで適切なゾルを使用してこのサイクル100を繰り返すことにより、チタニアまたはシリカのシングルコンパウンドの複層および交互のチタニア/シリカ複層スタックを調製した。高結晶性のチタニア層が望まれる場合、この析出プロセスの最後で、複層構造を400℃〜500℃で1時間熱処理することによって、析出プロセスを完了させることができる(図示せず)。
【0036】
[0044](ブラッグスタックおよびファブリーペローマイクロキャビティの製造)
少なくとも6個の交互のシリカ/チタニア二重層(合計で12個の層)を析出することによりブラッグスタック(リフレクタ、フィルタ)を製造した。結果セクションおよび考察セクションでさらに考察されるように、可視域の光学的バンドギャップを調整するのを可能にするために、エタノールを追加して前駆物質溶液を希釈するかまたはディップコーディング速度を変えることにより各層の厚さを制御した。例えば、88±2nmの厚さを有するシリカ層を製造する場合の最初のシリカストック溶液は体積百分率で最初の量の25パーセントまで希釈された。80±2nmのチタニア層を製造するには、ストック溶液をエタノールを用いて体積百分率で10パーセントまで希釈することが必要である。ブラッグスタックの対称性を崩すことにより、つまり、「欠陥層」を導入することにより、ファブリーペロー光学マイクロキャビティを製造した。これは、等しいコンパウンドの2つの層を順番に析出することにより達成された。複層スタックを基準として欠陥層の厚さおよび誘電特性を調整することにより、マイクロキャビティモードの波長位置および品質を調整した。
【0037】
[0045](屈折率の調整)
析出された誘電層に一定程度のナノ多孔性を導入することにより効果的な薄膜屈折率を調整した。これは、ディップコーティングの前に種々の量のブロック共重合体の界面活性剤P123をゾル中で溶解することにより達成された。例えば、屈折率を低下させるためにP123の0.1gから0.5gの間のチタニア層をチタニア前駆物質溶液(上述した)中で溶解した。界面活性剤を追加することにより溶液の粘性の変化を補償することを目的として、析出された層の厚さを一定に維持するためにディップコーティング速度を調整した。試料を熱処理して界面活性剤分子を熱分解的に排除し、不規則なナノ多孔性フレームワークを形成した。次いで、継続される析出サイクルで、交互の前駆物質溶液(例えば、シリカ)によりこのフレームワークを湿潤して、チタニア/シリカのコンポジットの屈折率を基準として、純チタニアによる効果的な屈折率が低下する。
【0038】
[0046](特性化研究)
Bruker D8 Advanced X−Ray Diffractometer(Cu−K α線)により膜の結晶性を決定した。Woolam Variable Angle Spectroscopic Ellipsometerを用いて薄膜の屈折率および厚さを測定した。FEI NovaNano (FEG−SEM630)の顕微鏡およびFEI NovaNano (FEI DB237)収束イオンビーム顕微鏡を用いてSEM研究を行った。FEI Tecnai F30の顕微鏡を用いて、300kVの加速電圧でTEM撮像を行った。TEM測定のために試料を調製するには、鋭いレーザブレードを用いて、Si−waver基板から、析出された薄膜を剥がすことを伴った。次いで、試料をエタノール中に懸濁して、銅のTME試料ホルダ上に分散させた。SEM測定のために試料を調製するには、析出された薄膜スタックに対して垂直に薄膜基板を分割して、試料の露出される断面を垂直のSEM試験片スタブ上に設置することを伴った。SEM研究の間の電荷効果を最小するために、設置された試験片に必要に応じて金の薄層を被覆した。
【0039】
[0047]光反射の顕微鏡検査法およびスペクトル観測
修正した光学顕微鏡(Nikon ME600)を用いて光反射スペクトルを測定した。20x対物レンズ(0.45NA)により、ブロードバンド白色光源のアウトプットの焦点を試料表面に合わせた。等しい対物レンズにより反射光を収集し、CCDカメラを用いて撮像するかまたはOcean Optics USB−4000 UV−VISスペクトロメータへと繊維結合(fiber−couple)させた。基準としてブロードバンドミラー(R>0.96)を使用した。
(光反射スペクトルのシミュレーション)
OpenFiltersを使用して伝達マトリックス手法により光反射スペクトルをシミュレートした。OpenFiltersはグラフィカルインターフェースを組み込むオープンソースソフトウェアであり、GNU General Public Licenseにより無償で利用することができる。
(結果および考察)
[0048]単層および複層ゾルゲルのディップコーティングプロセス
[0049]高品質薄膜の単層および複層構造を製造することにおける大きな課題はクラックが形成されるのを抑制することである。クラックは、析出プロセス中およびその後に起こる薄膜の強度を超える応力の結果として形成される。ゾルゲルケミストリ由来の無機薄膜の場合、多重処理段階でクラックが形成される可能性がある。発明者らは、3つの最も重要な処理段階でこれらの課題に対処するように選択されるゾルゲルディップコーティング手法を設計した。その重要な処理段階は、最初の膜乾燥、プレアニーリングステップ、および、アニーリング(熱処理)プロセスである。高い再現性を有する、クラックフリーの大面積の、シリカおよびチタニアの単層および複層構造、ならびに、これらの2つのコンパウンドの交互層のスタック製造するためのこのプロセスの主要なステップが
図1に概略的に示される。
【0040】
[0050]ステップ110で基板10がゾルゲルから抜き取られるときに開始される排水プロセス中、被覆された基板12上の膜から不均一の溶媒蒸発により圧力勾配が形成される。この勾配により薄膜ネットワークの収縮に差が生じ、それによりネットワークの外部が内部より速く収縮することになる。これにより引張応力の発生につながり、それにより、継続して溶媒が蒸発するときに薄膜が破損する可能性がある。発明者らは、浸漬されたばかりの基板12を高い溶媒蒸気圧の環境内へと抜き取るようにするディップコーティングプロセスを設計することによりこの問題が解消され得ることを発見した。これは、単純に、析出溶液で半分のみ充填された高いガラス瓶を使用することによって達成される(110のところに示されるステップ1)。次いで、上にゾルゲルの薄膜が被覆された状態の、被覆された基板12に対して、例えばヒートガンによって発生される流れる高温空気ストリームを用いて乾燥ステップ120を施し、それにより、溶媒が迅速に均一に蒸発する。発明者らは、これらの2つのステップの組み合わせが、析出された層の中で収縮の差が生じるのに対処し、それによりクラックフリーの膜が形成されることを発見した。加えて、加熱空気流下での高速乾燥ステップ120により、エッジ効果の発生が大幅に低減される。析出された薄膜でのエッジ効果はディップコーティングプロセスに特に関連する既知の現象であり、これは、基板が振動することと、引き抜きプロセス中に析出された膜の中心および縁部のところで溶媒が不均一に蒸発することとにより、生じる。
【0041】
[0051]被覆された基板12の熱処理(ステップ3)が130にところに示される。熱処理130の間、前駆物質溶液の残留溶媒および他の有機コンポーネントが熱分解的に排除され、緩やかに形成される酸化物ネットワークがさらに凝縮される。チタニア膜の場合、熱処理によりさらに、最初は非晶質であるネットワークが部分的に結晶化される。しかし、熱処理中のこれらの反応により膜がさらに収縮し、それに伴って引張応力が増大し、それによりクラックが形成される可能性もある。これに対して、加熱速度が高いことにより、最初に形成するアモルファス酸化物ネットワークの粘弾性が向上することが知られている。このようにネットワークが弛緩されることにより、引張応力が発生することが妨げられ、クラックが形成されることが抑制される。発明者らは、析出されて高温処理された膜を、350℃〜500℃の予加熱されたオーブン内に1秒から1時間(例えば、約1分)配置することにより最良の結果が得られることを発見した。
【0042】
[0052]加熱プロセスと同様に、高品質の膜を作るためにクールダウン段階も選択され得る。一実施形態では、被覆される基板12が、熱処理された被覆された基板12をヒートシンクに接触させることにより迅速に冷却され得る150。別の実施形態では、被覆される基板12は、熱処理された被覆された基板12を一定量の室温または低温の液体(例えば、水/イソプロパノール)の中に配置することにより迅速に冷却され得る160。熱処理のこの段階はしばしば無視されるが、発明者らは、シリカおよびチタニアまたは別の材料の交互層で構成されるクラックフリーの薄膜スタックを製造するためにこの段階が特に重要であることを発見した。
【0043】
[0053]冷却プロセスの際にいくつかのファクタがクラックの形成の原因となる。1つの原因は、交互に析出される層の間および基板と析出される膜との間の膨張係数の差である。クラックの別の原因は薄膜の金属酸化物ネットワークが再組織化されることである。この再組織化は、冷却時にアモルファスネットワークまたはアモルファス/ポリクリスタリンネットワークが相転移し、それにより、膜ネットワークを破損させる可能性がある応力が発生することが原因である。発明者らはクールダウンプロセスを詳細に研究して、加熱段階と同様に、クラックが形成されるのを防止するには高い冷却速度が有利であることを発見した。直観に反するものであるかもしれないが、発明者らは、熱処理130のすぐ後で膜試料を室温まで衝撃冷却することにより最高の結果が得られることを発見した。高温の試料を室温のPyrex(登録商標)ガラス基板または金属基板上に配置する150かまたは高温の試料を水/イソプロパノールの混合物(実験セクションを参照されたい)に浸す160ことにより衝撃冷却が達成された。正確な機構はまだ調査中であるが、発明者らは迅速に冷却することにより界面応力が発生することが最小となることを提案する(交互層の熱膨張係数の差が原因)。加えて、温度消光により高温のアモルファス/ポリクリスタリン相がフリーズ(freeze)され、それにより室温において酸化物ネットワークの高い粘弾性が維持される。
【0044】
[0054]
図2A〜2Dが、シリコン(100)ウエハ上に析出される12個の交互のシリカ/チタニア薄膜層の光学顕微鏡図を示す。
図2Aおよび2Bが、
図1に示される析出サイクル100のドライブローイング(dry−blowing)ステップを含めて製造される(A)、およびドライブローイングステップ120を排除して製造される(B)試料を示す。
図2Aに示される薄膜は実質的に欠陥がない。対照的に、
図2Bに示される薄膜ではクラックまたは別の欠陥が矢印によって強調されている。
図2Cおよび2Dが、
図1に示される析出サイクル100の衝撃冷却ステップ(150または160)を含めて製造される(C)、および衝撃冷却を省略して製造される(D)試料を示す。
図2Cに示される薄膜は実質的に欠陥がない。対照的に、
図2Dに示される薄膜ではクラックまたは別の欠陥が矢印によって強調されている。
(種々の基板上のブラッグスタックの析出)
[0055]高品質の複層構造を製造するときのこのゾルゲルプロセスの効果を実証するために、発明者らは、7個の交互のシリカ/チタニア層(合計で14層)のブラッグスタックを製造した。このブラッグスタックは、上述した薄膜析出サイクル(
図3A)を使用してシリコンウエハ基板上で製造された。ブラッグスタックは例えばウエハの(100)結晶面上で製造され得る。しかし、結晶面はブラッグスタックの品質に影響せず、したがって、ブラッグスタックはウエハの任意のケイ素結晶格子面に適用され得る。500℃で焼成した後で88±2nm(シリカ)および75±2nm(チタニア)の層厚さが得られるように析出パラメータを調整した。この温度では、XRD測定で確認されたように、チタニアネットワークの大部分がアナターゼ多結晶相を形成する。このブラッグスタックの構造的特徴を光学顕微鏡検査法および電子顕微鏡検査法によって検査した。光学撮像により、表面が滑らかであること、および、さらにはマイクロクラックがないことが明らかとなった一方で、断面SEM撮像により、複層スタック(
図3B)全体を通して厚さの均一性が高いことが実証された。
【0045】
[0056]高い構造均一性はまた、1Dフォトニックバンドギャップ材料として機能するブラッグスタックの光学特性に反映される。高品質の1Dフォトニックバンドギャップ構造で予想されるように、この14層の試料は、100パーセントの反射性の広い波長範囲を有する光反射ピークを表示した(
図3C)。発明者らは、一般に、可視域の電磁波スペクトルで100パーセントの反射性を有するバンドギャップを得るのに6個から7個の噛合の二重層が必要であることを発見した。発明者らは、88/75nmのシリカ/チタニアブラッグスタックの場合、ブロード反射バンドが575nmの波長位置を中心とすること、および、直角入射の幅が6200cm
−1(約200nm)であることを測定した。測定された反射データが、計算した反射スペクトル(
図3Cで点線で示される)に良好に一致すること重要である。発明者らは、計算のために、入力パラメータとして、膜厚さ(SEM撮像)、層の数、および、各層の屈折率(偏光法によって決定される)を使用した。
【0046】
[0057]このゾルゲル析出方法が多くの異なる基板に適用され得ることは強調されるべきである。例えば、光学フィルタを作る場合、発明者らは石英またはホウケイ酸ガラス基板を使用した(
図4A)。光学評価により反射フィーチャがほぼ等しいことが明らかとなり、それにより基板に関係なく試料の光学的品質が高いことが確認される(
図4B)。例えば、ホウケイ酸塩基板が、頻繁に使用される高温(900〜1000℃)の焼成手法に適合しないことに留意されたい。さらに、同じブラッグスタックを湾曲の石英基板およびガラス基板上に析出することにより、このゾルゲル方法の多用途性が実証される。
図4Cおよび4Dに示されるように、湾曲する基板上に析出される試料は良好な光学的特性を示しており、したがって、これらは、パラボラ型高出力レーザミラーおよび太陽放射線コレクタのための魅力的な候補である。すべての試料に対して、計算される反射スペクトルも含まれており(点線)それにより、使用される基板に関係なくブラッグスタックがやはり良好な光学的性能を有することが実証される。
(フォトニックバンドギャップの位置および幅の調整)
[0058]ブラッグスタックは1Dフォトニックバンドギャップ材料として振る舞うことから、交互層の屈折率の差および厚さをそれぞれ調節することにより、光反射バンド(バンドギャップ)の幅および位置が調整され得る。バンドギャップ位置を調整する能力は
図5で実証される。格子定数(1つのシリカ/チタニア二重層)を148±2nmから168±2nmまで変化させることにより(5nmステップ)、可視域全体を通して反射バンドがシフトされる。格子定数を変化させることは、シリカ層の厚さを88±2nmを一定に維持しながら各試料のチタニア層の厚さを調整することによった達成された。実験的に、これは、シリカ前駆物質の濃度およびディップコーティングパラメータを一定に維持しながら追加のエタノールを用いてチタニア前駆物質溶液を希釈することによって単純に行われた。エリプソメトリ測定およびSEM断面撮像に応答して希釈の程度が調整された。実験的に得られる反射バンド位置および別の光学フィーチャを検証するためにシミュレーションを使用した。
【0047】
[0059]フォトニックバンドギャップの幅は、交互層の屈折率の差を修正することによって調整され得、一般に、差が小さいほどギャップが狭くなる。このゾルゲル方法によって得られるチタニアおよびシリカの屈折率は固定されるが(チタニアは2.34±0.02、シリカは1.48±0.02)、発明者らは、コンポジット層を製造することにより差を調整することが可能となることを発見した。例えば、所与の量のシリカを用いてチタニア層を希釈することにより、効果的な屈折率が、2.34から、シリカ容積分率(希釈因数)によって与えられる値まで低下する。シリカ層を変化させることなく、希釈されたシリカとチタニアとの層を有するブラッグスタックを構築することにより、屈折率の差が縮小され、それによりバンドギャップが狭くなるはずである。
【0048】
[0060]最初にブロック共重合体の界面活性剤(Pluronic(登録商標) P123)をチタニア前駆物質溶液に追加することによりチタニア層の希釈を達成した。フィルムディップコーティングの後、熱処理中に有機界面活性剤が熱的に排除され、それにより不規則なナノ多孔性のチタニアフレームワークが残される。0.5gのP123を含有する前駆物質溶液から析出されたチタニア膜のTEM画像が
図6に示されており、ナノスケールの多孔性を示している。その後のシリカ層のディップコーティングステップ中、さらに、シリカ前駆物質溶液を用いて多孔性のチタニアフレームワークが湿潤される。シリカの希釈の程度はチタニア層の多孔度によって与えられることから、チタニア前駆物質溶液に混合されるP123の量によって容易に調整される。例えば、P123を0.3gおよび0.5gを追加することにより、それぞれ、2.1±0.1および1.8±0.1の屈折率を有するシリカ−チタニアコンポジット層が得られる。既知の格子定数および層の厚さ(SEM撮像によって測定される)を用いてシミュレートされるブラッグスタックのスペクトルに対して、測定された光反射データをフィッティングすることにより、これらの値が得られた。
図6Bが、交互層の間の屈折率の差が縮小された3つのブラッグスタックの反射バンド幅(フォトニックバンドギャップ)の調整性を示す。
(光学マイクロキャビティおよび非対称のスタックのデザイン)
[0061]このゾルゲルディップコーティング経路の単純性および融通性により、対称性を組み込む複層構造を作ることが容易に可能となる。例えば、
図7Aが、中央の「欠陥層」を有ししたがって周期的なスタックの対称性が崩れている複層スタックの断面SEM画像を示す。この全体の構造は2つのブラッグスタックの間に挟まれる176±2nmの厚さの中心シリカ層で構成され、2つのブラッグスタックの各々が、158±2nmの格子定数と、88±2nm(シリカ)および70±2nm(チタニア)の個別の層厚さとを有する4個のシリカ/チタニア二重層で構成される。2つの連続する88nmのシリカ層を単純にディップコーティングすることにより176nmのシリカ層を製造した。最終的な構造の光反射スペクトルが
図7に示されており、これは、ファブリーペローマイクロキャビティの一般的な特性、すなわち、光反射バンド(フォトニックバンドギャップ)内の狭い高透過率領域(局地的光学モード)を示している。透過ピーク最大値(70パーセントの透過率)が568nmの波長位置に位置し、非偏光光の直角入射のための、5nmである全幅半値(full−width−half−maxim value)、Δλ、を有する。この場合、マイクロキャビティのquality factor、Q=Δλ/λ、が112となる。ブラッグスタックの光学的特性を調整することと同様に、ファブリーペローマイクロキャビティデザインの構造的特徴(格子定数および層厚さ)を修正することにより、局地的空洞モードの波長位置が調整され得る。
【0049】
[0062]興味深い光学的特徴の生成の別の可能性は、複層スタックに非対称性を段階的に導入することである。一例が
図8Aに示される。交互のシリカおよびチタニア膜のこの25層構造では、シリカ層の厚さが44±2nmで一定に維持されたが、チタニア層の厚さが68±2nm(左側の縁部)から88±2nm(中心)まで5nmステップで連続的に増加して、次いで再び68±2nm(右側の縁部)まで連続的に減少する。得られる光反射スペクトル(
図8B)が、400nmと550nmとの間に4つの狭い透過モードの外観を有する興味深い特徴を示しており、これは計算されるスペクトルに良好に一致する。このように精巧な非対称の複層スタックの実験と理論とが一致することにより、1つの層厚さで析出すること正確に制御されていることが示されることに加えて、数十の連続する層にわたってこの単純なゾルゲル析出方法の再現性が確認される。これらのマイクロキャビティ構造および非対称のブラッグスタック内にこのような狭い光学モードが存在することにより、これらの試料が光増幅用途のための興味深い候補となり、発明者らは現在、これらの試料に光源を組み込むための可能性を調査している。
(結論)
[0063]発明者らは、単純で、迅速で、安価で、多用途という、溶液処理の所望される属性をすべて有する、ゾルゲルケミストリベースのディップコーティング手法を開発して、高価な物理析出手法および化学析出手法によって製造される層構造に対抗し得る、高品質の薄膜単層構造および薄膜複層構造を作った。発明者らは、複層スタックにクラックが形成されることおよび構造的不均一性が発生することなどの、ゾルゲル薄膜処理の一般的な制限の原因を考察して、これらの制限を解消するための戦略を導入した。本発明らは、析出直後の膜の制御される均一な溶媒蒸発および高い加熱速度および冷却速度がクラックが形成されるのを防止するのに重要であることを実証した。これは、最大25個の交互層の正確な再現性のある厚さのクラックフリーのシリカ/チタニア複層スタックを製造するのに特に重要であることが分かっている。さらに、発明者らは、このような複層スタックが、構造的特徴を損なわせることなく平坦幾何形さらには湾曲幾何形状の多様な基板上に析出され得ることを示した。
【0050】
[0064]発明者らは、このゾルゲルディップコーティングプロセスを使用して、ブラッグタイプのリフレクタおよびフィルタ、ファブリーペローマイクロキャビティ、および、非対称のスタックを含めた、高品質の光学コンポーネントを製造した。これらのフォトニックバンドギャップベースの構造は、広い反射バンドおよび明確な局地的空洞モードを有する調整可能な光学的特性を示した。フォトニックバンドギャップおよび空洞モードの波長位置は、ディップコーティングプロセス中に層厚さを制御することにより可視域全体を通して容易に調整され得る。多様なチタニア−シリカの比率のチタニア−シリカのナノ構造のコンポジット層を製造することにより光反射バンドの幅を調整することが実証された。さらに、実験的に得られた反射スペクトルを、伝達マトリックス法を使用したシミュレーションから得られる結果と比較した。測定結果と計算結果とが非常に良好に一致することが分かって、それにより製造プロセスが非常に正確で再現性を有することが再び確認された。結論として、この安価で迅速な薄膜処理経路(20層のシリカ/チタニアスタックを2時間未満で製造することができる)と組み合わせたゾルゲルケミストリの多用途性により、本方法が、従来の物理/化学析出技術およびスパッタリング技法の魅力的な代替手段となる。製造された複層フォトニックバンドギャップ構造は優れた構造的特性および光学的特性を有し、光学用途および電子用途で使用するための興味深い候補と考えられる。
【0051】
[0065]本発明は本発明の趣旨または本質的な特性から逸脱することなく別の特定の形態で具体化され得る。説明される実施形態は単に例示的であるとみなされ、限定的であるとみなされない。したがって、本発明の範囲は、上述の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の意味および均等な範囲内にあるすべての変更形態が特許請求の範囲に包含される。