【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーンサステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目的ガスが1,3−ブタジエンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスが1−ブテン、ノルマルブタンまたはそれらの混合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載のガス分離材。
炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、前記目的ガスを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された前記目的ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる前記目的ガスを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを分離する方法において、前記分離材が請求項1〜8のいずれか一項に記載のガス分離材であることを特徴とする炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスの分離方法。
前記目的ガスが1,3−ブタジエンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスが1−ブテン、ノルマルブタンまたはそれらの混合物である請求項9に記載の分離方法。
炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記分離膜を通して目的ガスを選択的に透過させることを含む、前記混合ガスよりも目的ガス濃度が高いガスを得る分離方法において、前記分離膜が請求項14または15のいずれかに記載の分離膜であることを特徴とする炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスの分離方法。
【背景技術】
【0002】
炭化水素を含む混合ガス中から、目的の炭化水素ガス(例えば、エチレンおよび1,3−ブタジエン)を分離回収する技術がこれまでに知られている。
【0003】
分離回収したい炭化水素ガスの一例として、エチレンが挙げられる。エチレンは、例えば酸化エチレン、塩化ビニル、アセトアルデヒド、スチレン、ポリエチレンなどの各種合成化学工業品の出発物質として重要な化学物質である。
【0004】
エチレンは、一般にナフサ分解またはエタンの脱水素によって製造される。エチレンは炭素数2の蒸留留分として回収されているが、この蒸留留分中には目的のエチレンの他にエタンなどの化合物も含まれている。したがって、生成物の混合物中から、エチレンを選択的に分離回収することが必要となる。分離のための一つの方法は蒸留であるが、エチレンとエタンの沸点が近いため、高圧低温条件での深冷分離が必要となり、非常に多くのエネルギーを使用する。
【0005】
より省エネルギーでエチレンを分離回収する方法として、吸着による分離が挙げられる。圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。
【0006】
他の分離回収したい炭化水素ガスの一例として、1,3−ブタジエンが挙げられる。1,3−ブタジエンは、例えば合成ゴム製造のための出発物質として、また、非常に多くの化合物の中間体としても有用な化合物である。1,3−ブタジエンは一般にナフサ分解やブテンの脱水素によって製造される。これらの製造方法では1,3−ブタジエンは混合ガスの一成分として得られる。したがって、混合物として得られる生成物中から、1,3−ブタジエンを選択的に分離回収することが必要となる。生成物中の炭素数4の主成分としては、1,3−ブタジエン、イソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ノルマルブタン、イソブタンなどが考えられる。これらは、炭素数が同じであり、沸点も近いため、工業的に採用されている蒸留分離が困難である。
【0007】
他の分離方法の一つとして抽出蒸留法が挙げられるが、この方法は極性溶媒を用いた吸収法であるため、極性溶媒中から1,3−ブタジエンを回収する際に、非常に多くのエネルギーを使用する。したがって、より省エネルギーで1,3−ブタジエンを分離回収する方法として、吸着法による分離が望まれている。
【0008】
しかしながら、従来の多孔性材料(特許文献1)は分離性能が低いため、多段階で分離する必要があり、分離装置の大型化が不可避であった。
【0009】
優れた分離性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化が生じる多孔性金属錯体が開発されている。この多孔性材料をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0010】
この多孔性材料を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0011】
特許文献2〜8および非特許文献1〜3には銅イオン、2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンおよびピラジンからなる金属錯体[Cu
2(pydc)
2(pyz)]が開示されている。これらの文献にはアセチレンやメタンの吸着特性に関しての報告はあるものの、エチレンや炭素数4の炭化水素ガスに関する吸着および分離については何ら言及されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜5の炭化水素ガス、特に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガス、例えばエチレンまたは1,3−ブタジエンを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガス中から、前記目的ガスを分離回収することのできる従来よりも優れた分離材および分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の金属Mのイオン、2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンおよび前記金属Mのイオンに二座配位可能な有機配位子(B)からなる金属錯体を吸着材として用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の[1]〜[19]の実施態様を含む。
【0016】
[1]炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガス中から、前記目的ガスを選択的に分離するガス分離材であって、
2,3−ピラジンジカルボン酸と、
ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛およびカドミウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属Mのイオンと、
下記一般式(1):
【化1】
または下記一般式(2):
【化2】
(式中、Xは−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−S−、−S−S−、−N=N−または−NHCO−のいずれかであり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12はそれぞれ同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基またはハロゲン原子のいずれかである。)で表される、前記金属イオンに二座配位可能な有機配位子(B)からなる金属錯体であって、その組成が下記組成式(I):
M
2+2A
2−2B (I)
(式中、M
2+は前記金属Mのイオンであり、A
2−は2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンであり、Bは前記金属イオンに二座配位可能な有機配位子(B)である。)である金属錯体からなることを特徴とするガス分離材。
[2]前記目的ガスがエチレンまたは1,3−ブタジエンである[1]に記載のガス分離材。
[3]前記金属Mが銅、亜鉛およびカドミウムからなる群から選択される少なくとも1種である[1]または[2]のいずれかに記載のガス分離材。
[4]前記金属Mが銅である[1]または[2]のいずれかに記載のガス分離材。
[5]前記二座配位可能な有機配位子(B)が、一般式(1)においてR
1、R
2、R
3およびR
4がすべて水素原子であるピラジンである[1]〜[4]のいずれか一項に記載のガス分離材。
[6]前記二座配位可能な有機配位子(B)が、一般式(2)において、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12がすべて水素原子であり、Xが−CH
2−CH
2−である1,2−ジ(4−ピリジル)エタン、またはR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12がすべて水素原子であり、Xが−CH
2−CH
2−CH
2−である1,3−ジ(4−ピリジル)プロパンである[1]〜[4]のいずれか一項に記載のガス分離材。
[7]前記目的ガスがエチレンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスがエタンである[1]〜[6]のいずれか一項に記載のガス分離材。
[8]前記目的ガスが1,3−ブタジエンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスが1−ブテン、ノルマルブタンまたはそれらの混合物である[1]〜[6]のいずれか一項に記載のガス分離材。
[9]炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、前記目的ガスを前記分離材に選択的に吸着させる吸着工程と、その後、前記分離材に吸着された前記目的ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる前記目的ガスを捕集する再生工程とを含む、混合ガスから炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを分離する方法において、前記分離材が[1]〜[8]のいずれか一項に記載のガス分離材であることを特徴とする炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスの分離方法。
[10]前記目的ガスがエチレンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスがエタンである[9]に記載の分離方法。
[11]前記目的ガスが1,3−ブタジエンであり、前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスが1−ブテン、ノルマルブタンまたはそれらの混合物である[9]に記載の分離方法。
[12]前記分離方法が圧力スイング吸着法である[9]〜[11]のいずれか一項に記載の分離方法。
[13]前記分離方法が温度スイング吸着法である[9]〜[11]のいずれか一項に記載の分離方法。
[14]多孔質支持体と、前記多孔質支持体の表層部に付着した[1]〜[8]のいずれか一項に記載のガス分離材とを含む分離膜。
[15]高分子材料と、前記高分子材料に混練分散された[1]〜[8]のいずれか一項に記載のガス分離材とを含む分離膜。
[16]炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスを目的ガスとし、前記目的ガスおよび前記目的ガスと同じ炭素数の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離膜に接触させ、前記分離膜を通して目的ガスを選択的に透過させることを含む、前記混合ガスよりも目的ガス濃度が高いガスを得る分離方法において、前記分離膜が[14]または[15]のいずれかに記載の分離膜であることを特徴とする炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスの分離方法。
[17][1]〜[8]のいずれか一項に記載のガス分離材および有機繊維を含む吸着シート。
[18]前記有機繊維がセルロース繊維である[17]に記載の吸着シート。
[19]湿式抄紙法により製造されたものである[17]または[18]のいずれかに記載の吸着シート。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、同じ炭素数の複数の種類の炭化水素を含む混合ガスから炭素−炭素二重結合を有する炭化水素ガス、例えばエチレンまたは1,3−ブタジエンを、従来よりも高い分離性能で分離回収することができる。
【0018】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様および本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0021】
<金属錯体>
本発明の分離材に使用される金属錯体は、2,3−ピラジンジカルボン酸と、
ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛およびカドミウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属Mのイオンと、
下記一般式(1):
【化3】
または下記一般式(2):
【化4】
(式中、Xは−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−S−、−S−S−、−N=N−または−NHCO−のいずれかであり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12はそれぞれ同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基またはハロゲン原子のいずれかである。)で表される、前記金属イオンに二座配位可能な有機配位子(B)からなる金属錯体であって、その組成が下記組成式(I):
M
2+2A
2−2B (I)
(式中、M
2+は前記金属Mのイオンであり、A
2−は2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンであり、Bは前記金属イオンに二座配位可能な有機配位子(B)である。)である金属錯体である。
【0022】
本発明の金属錯体は、金属Mと、2,3−ピラジンジカルボン酸および二座配位可能な有機配位子(B)を主たる構成単位としている。本発明の分離材に用いられる金属錯体は、金属イオン:2,3−ピラジンジカルボン酸:二座配位可能な有機配位子(B)=2モル:2モル:1モルの比率で通常構成されるが、本発明の効果が得られる限り前記比率からの逸脱は許容される。
【0023】
ここでは金属Mから選択される少なくとも1種の金属と、2,3−ピラジンジカルボン酸と二座配位可能な有機配位子(B)とから形成される金属錯体の好ましい例として、下記組成式(II):
[(Cu
2+)
2(pydc
2−)
2(pyz)] (II)
で表される2価の銅カチオン、2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンおよびピラジンからなる金属錯体の構造を
図1に模式的に示す。なお、「pydc」は2,3−ピラジンジカルボン酸、「pyz」はピラジンを示す。この金属錯体は、銅イオンと2,3−ピラジンジカルボン酸ジアニオンが2次元のシート状(層状)構造を構築し、そのシート状構造を二座配位可能な有機配位子(B)が架橋することにより、細孔径がおおよそ3〜4Åの1次元細孔を形成している。この比較的小さな細孔径を利用し、ガス分子をそのサイズの違いで認識させて、比較的サイズの小さな分子を選択的に吸着することができる。より具体的には、例えば炭素数2の炭化水素の中からエチレンを、炭素数4の炭化水素の中から1,3−ブタジエンを選択的に吸着することができる。
【0024】
(金属M)
本発明の金属錯体を構成する金属Mはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛およびカドミウムの中から選択することができる。これらの中でも形成される金属錯体の柔軟性の観点から、銅、亜鉛およびカドミウムが好ましく、銅が最も好ましい。
【0025】
(二座配位可能な有機配位子(B))
本発明に用いられる金属イオンに二座配位可能な有機配位子(B)は下記一般式(1)または(2)で表される。
【化5】
【化6】
(式中、Xは−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2―、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−S−、−S−S−、−N=N−または−NHCO−のいずれかであり、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12はそれぞれ同一または異なっていてもよい、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ホルミル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜4のジアルキルアミノ基、炭素数2〜4のアシルアミノ基またはハロゲン原子のいずれかである。)
【0026】
ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する部位を二箇所持つ配位子を意味する。
【0027】
Xは−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−S−、−S−S−、−N=N−または−NHCO−のいずれかである。目的ガスに応じてXを選択することによって、金属錯体の一次元細孔のサイズを調節して当該目的ガスの選択的吸着を達成することができる。これらの中では本発明の目的ガスの選択的吸着に適したサイズの一次元細孔を形成しやすいことから−CH
2−CH
2−、−CH
2−CH
2−CH
2−および−S−S−が好ましく、−CH
2−CH
2−CH
2−がさらに好ましい。
【0028】
炭素数1〜4のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が挙げられる。該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜4のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基が置換基を有する場合、置換基の数は1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0029】
炭素数2〜4のアルケニル基の例としてはビニル基、アリル基、1−プロペニル基、ブテニル基などが挙げられる。
【0030】
炭素数1〜4のアルコキシ基の例としてはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0031】
炭素数2〜10のアシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
【0032】
炭素数2〜4のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。
【0033】
炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基の例としてはメチルアミノ基が挙げられる。炭素数2〜4のジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が挙げられる。炭素数2〜4のアシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が挙げられる。
【0034】
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0035】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12は、それぞれ独立して水素原子または置換基のない炭素数1〜4のアルキル基であることがガス吸着量の面で好ましく、すべてが水素原子であることがより好ましい。
【0036】
二座配位可能な有機配位子(B)としては、R
1、R
2、R
3、R
4のすべてが水素原子であるピラジン、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12のすべてが水素原子であり、Xが−CH
2−CH
2−である1,2−ジ(4−ピリジル)エタンまたはR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11およびR
12のすべてが水素原子であり、Xが−CH
2−CH
2−CH
2−である1,3−ジ(4−ピリジル)プロパンが好ましい。
【0037】
<分離材>
(金属錯体を含む分離材の製造方法)
本発明の金属錯体は、2,3−ピラジンジカルボン酸と金属Mの塩と該金属Mのイオンに二座配位可能な有機配位子(B)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、溶媒に不溶な結晶として析出させ、これを分離、洗浄して回収することにより、製造することができる。例えば、前記金属塩の水溶液または水を含む有機溶媒溶液と、2,3−ピラジンジカルボン酸および二座配位可能な有機配位子(B)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0038】
本発明の金属錯体を製造する際には前記金属Mの塩を用いることができる。金属塩は単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。これらの金属塩としては、酢酸塩などの有機酸塩、過塩素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0039】
金属錯体を製造するときの2,3−ピラジンジカルボン酸と二座配位可能な有機配位子(B)との混合比率は、2,3−ピラジンジカルボン酸:二座配位可能な有機配位子(B)=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えることがある。
【0040】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(B)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(B)=5:1〜1:5のモル比の範囲内が好ましく、3:1〜1:3のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0041】
金属錯体を製造するときの金属塩、2,3−ピラジンジカルボン酸および二座配位可能な有機配位子(B)の混合比率は、製造される金属錯体中の組成比と異なっていてもよい。金属錯体は、その製造の条件下において熱力学的に安定な構造を取る傾向があるため、金属塩、ジカルボン酸および二座配位可能な有機配位子の比率は、各原料の濃度、反応温度、反応時間、pHなどによって制御することが出来る。
【0042】
金属錯体を製造するための溶液における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になることがある。
【0043】
金属錯体を製造するための溶液における2,3−ピラジンジカルボン酸のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0044】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(B)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しないことがある。
【0045】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。用いる溶媒としては水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシドなどの極性溶媒が好ましく、なかでも、水およびエタノールが好ましい。溶媒に酸または塩基を添加して錯体形成に好適なpHに調節してもよい。
【0046】
反応温度は、−20〜150℃が好ましく、0〜120℃がより好ましい。反応時間は1〜48時間が好ましく、2〜24時間がより好ましい。
【0047】
反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、溶媒による洗浄後、例えば60〜100℃程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。結晶性の高い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が優れている。結晶性を高めるには、酸または塩基を用いて適切なpHに調整すればよい。
【0048】
金属錯体は一般的に成形した分離材として使用される。金属錯体を含む分離材は、例えばビーズ、リング、ストランド、若しくはタブレットに成形した不規則充填物として、または規則構造体、例えば規則充填物、ハニカム体、若しくはモノリスとして使用することができる。
【0049】
<炭化水素ガスの分離方法>
本発明の一実施態様に係る炭化水素ガスの分離方法では、分離対象である目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを本発明の前記分離材と接触させ、目的の炭化水素ガスを前記分離材に選択的に吸着させ、その後、前記分離材に吸着された目的の炭化水素ガスを前記分離材から脱着させて、脱離してくる目的の炭化水素ガスを捕集する。
【0050】
目的の炭化水素ガスとしては、炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜5の炭化水素ガス、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1,3−ブタジエン、1−ペンテン、2−ペンテン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。本発明の分離材は、いくつかの実施態様では、炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガスに対して有利に使用することができ、別の実施態様では、エチレン、プロピレン、1,3−ブタジエンおよび1,3−ペンタジエンに対して有利に使用することができる。本発明の分離材は、特にエチレンおよび1,3−ブタジエンに対して高い選択性を示し、これらの炭化水素ガスを高い分離性能で分離回収することができる。
【0051】
目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンの場合、混合ガスに含まれる他のガスは特に限定されない。沸点が1,3−ブタジエンと近いため従来の分離材では分離が困難な、イソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ノルマルブタン、イソブタンなどの炭素数4の炭化水素、特に1−ブテン、ノルマルブタンまたはそれらの混合物を他のガスとして含む混合ガスから1,3−ブタジエンを分離する際に、本発明の分離材は特に有効である。
【0052】
目的の炭化水素ガスがエチレンの場合、混合ガスに含まれる他のガスは特に限定されない。沸点がエチレンと近いエタンを他のガスとして含む混合ガスからエチレンを分離する際に、本発明の分離材は特に有効である。
【0053】
混合ガスと分離材の接触は目的の炭化水素ガスのみが有効に分離材に吸着される温度、圧力条件を選択することが望ましい。
【0054】
分離方法は、目的の炭化水素ガスが分離材に吸着できる条件で、混合ガスと本発明の分離材とを接触させる吸着工程を含む。目的の炭化水素ガスが分離材に吸着できる条件である吸着圧力および吸着温度は、吸着される物質の種類、装置の設計、製品ガスに要求される純度などに応じて適宜設定することができる。
【0055】
分離方法は、圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法とすることができる。
【0056】
分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、目的ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的ガスをのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、圧力を、吸着圧力から吸着したガスを分離材から脱着させることができる圧力まで減圧する工程(再生工程)を含む。脱着圧力は、吸着される物質の種類、装置の設計、製品ガスに要求される純度などに応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.05〜50kPaが好ましく、0.05〜30kPaがより好ましい。
【0057】
目的の炭化水素ガスが1,3−ブタジエンであり、他のガスが1,3−ブタジエンと同じ炭素数4の炭化水素である混合ガスの場合に本発明の分離材を用いて1,3−ブタジエンを分離する方法を述べる。
【0058】
分離する混合ガス中の1,3−ブタジエンの割合は様々な値を取ることができるが、この割合は混合ガスの供給源に大きく依存する。1,3−ブタジエンの他に、混合ガスは少なくともイソブテン、1−ブテン、2−ブテン、ノルマルブタン、イソブタン等の炭化水素を含み、さらに他の炭化水素を含んでもよい。混合ガスは好ましくは、混合ガス中にある1,3−ブタジエンと他の炭化水素(複数種であってもよい)の体積割合の合計に対して、1,3−ブタジエンを10〜99体積%含む。より好ましくは、1,3−ブタジエンの割合が20〜60体積%である。
【0059】
圧力スイング法の場合、吸着圧力は混合ガス中の1,3−ブタジエン分圧として10〜200kPaが好ましく、30〜100kPaがより好ましい。脱着圧力は0.05〜50kPaが好ましい。また、温度は−10〜100℃が好ましい。温度スイング法の場合、吸着温度は0〜50℃が好ましい。脱着温度は50〜150℃が好ましい。また、圧力は10〜300kPaが好ましい。
【0060】
次に、目的の炭化水素ガスがエチレンであり、他のガスがエタンである混合ガスの場合に本発明の分離材を用いてエチレンを分離する方法を述べる。
【0061】
混合ガスは好ましくは、混合ガス中にあるエチレンと他の炭化水素(複数種であってもよい)の体積割合の合計に対して、エチレンを10〜99体積%含む。より好ましくは、エチレンの割合が20〜80体積%である。
【0062】
圧力スイング法の場合、吸着圧力はエチレンの分圧として200〜2000kPaが好ましく、500〜1000kPaがより好ましい。脱着圧力は5〜100kPaが好ましい。また、温度は−80〜5℃が好ましい。温度スイング法の場合、吸着温度は0〜50℃が好ましい。脱着温度は50〜150℃が好ましい。また、圧力は10〜300kPaが好ましい。
【0063】
目的ガスが1,3−ブタジエンである場合の圧力スイング吸着法について
図2を参照して具体的に説明する。吸着塔AC1およびAC2には本発明の分離材が充填されている。1,3−ブタジエン、ブテン、ブタンなどを含む混合ガス(M)は、混合ガス貯槽MSからコンプレッサーで0.3MPa程度まで加圧されてバルブV1(「V1」と略す。以下同様。)を通り分離材が充填されている吸着塔AC1に供給される。
図10からわかるように1,3−ブタジエン分圧が10kPaを越えると吸着塔AC1内では1,3−ブタジエンが選択的に分離材に吸着される(吸着工程)。一方ブタン、ブテン類は吸着されず、吸着塔AC1から排出される。結果的にブタン、ブテン類が濃縮されたガス(B)は、V7を通り、製品貯槽PS2に送られる。次に吸着塔AC1は、V1、V5、V6およびV7が閉の状態、V2が開の状態で真空ポンプP1により吸気される。
図10からわかるように圧力が2kPaを下回ると吸着塔AC1の分離材に吸着された1,3−ブタジエンを主成分とするガス(BD)が脱着し、製品貯槽PS1に送られる(脱着工程)。同様にして吸着塔AC2についても吸着工程を完了させる。吸着塔AC1の脱着工程を所定時間実施した後、V1、V2、V3、V4、V7およびV8を閉、V5およびV6を開にして、吸着塔AC1と吸着塔AC2の圧力差を利用して吸着塔AC2内の残留混合ガスを吸着塔AC1へ回収する(均圧工程)。均圧工程を行うことで純度を落とすことなく、効率よく各製品ガスを得ることができる。次いで、吸着塔AC2は、V2、V3、V5、V6およびV8が閉の状態、V4が開の状態で真空ポンプP1により吸気され、このとき吸着された1,3−ブタジエンを主成分とするガス(BD)が脱着し、製品貯槽PS1に送られる。吸着塔AC1にはV2、V3、V5、V6およびV8が閉の状態、V1、V7が開の状態で1,3−ブタジエンを含む混合ガス(M)が供給され、再び吸着工程が実施される。吸着塔AC1と吸着塔AC2において、吸着および脱着の操作は、タイマーなどにより適宜設定されたサイクルで交互に繰り返し行われ、各製品ガスは連続的に製造される。
【0064】
目的ガスがエチレン、他のガスがエタンの場合には、例えば吸着圧力を500kPa以上、脱着圧力を50kPa以下とすることで1,3−ブタジエンと同様にエチレンを分離することができる。
【0065】
分離方法が温度スイング吸着法である場合は、目的の炭化水素ガスを含む混合ガスを分離材と接触させ、目的の炭化水素ガスのみを分離材に選択的に吸着させた(吸着工程)後、温度を、吸着温度から吸着したガスを分離材から脱着させることができる温度まで昇温する工程(再生工程)を含む。脱着温度は、吸着される物質の種類、装置の設計、製造効率などに応じて適宜設定することができる。例えば、1,3−ブタジエン分離の場合、脱着温度は0〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましい。エチレン分離の場合、脱着温度は、20〜200℃が好ましく、30〜150℃がより好ましい。
【0066】
分離方法が圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法である場合、混合ガスと分離材とを接触させる工程(吸着工程)と、目的の炭化水素ガスを分離材から脱着させることができる圧力または温度まで変化させる工程(再生工程)を、適宜繰り返すことができる。
【0067】
<分離膜>
上記以外の分離方法として膜分離も挙げられる。分離膜は金属錯体を多孔質支持体の表層部に例えば結晶成長により付着させることで得ることができる。多孔質支持体の材質としては、例えばアルミナ、シリカ、ムライト、コージェライトなどのシリカまたはアルミナとその他の成分よりなる組成物、多孔質の焼結金属、多孔質ガラスなどを好適に用いることができる。また、ジルコニア、マグネシアなどの他の酸化物もしくは炭化珪素、窒化珪素などの炭化物もしくは窒化物などのセラミックス類、石膏、セメントなど、またはそれらの混合物を用いることができる。多孔質支持体の気孔率は、通常30〜80%程度であり、好ましくは35〜70%、もっとも好ましくは40〜60%である。気孔率が小さすぎる場合にはガスなどの流体の透過性が低下するので好ましくなく、大きすぎる場合には、支持体の強度が低下して好ましくない。また、多孔質支持体の細孔径は、通常10〜10,000nm、好ましくは100〜10,000nmである。金属錯体を多孔質支持体の表層部に結晶成長させて得られる分離膜は、金属錯体の原料を含む溶液中に多孔質支持体を含浸させ、必要に応じて加熱することによって得られる。
【0068】
また、分離膜は本発明の金属錯体を高分子材料と混練して高分子材料中に分散し、フィルム状に成形することによっても得ることができる。高分子材料としてはポリ酢酸ビニルポリイミド、ポリジメチルシロキサンなどのガス分離膜用高分子材料が挙げられる。
【0069】
膜分離では目的の炭化水素ガス、例えば1,3−ブタジエンまたはエチレンを含む混合ガスを分離膜に接触させた場合、混合ガス中の各ガスの透過率Pは各ガスの膜への溶解度Sと膜中での拡散係数Dの積で表される。透過率Pが高いガスほど選択的に膜を透過するため、このようなガスを混合ガスから分離回収することができる。よって、炭素−炭素二重結合を有する炭素数2〜5の炭化水素ガス、特に炭素−炭素二重結合を有する炭素数2または4の炭化水素ガス、例えば1,3−ブタジエンまたはエチレンの選択性が高い、本発明の金属錯体を膜化することにより、このような炭化水素ガスを選択的に透過させる膜を得ることができる。例えば、気体不透過性の外管と分離膜からなる内管とを備えた二重管の内管へ混合ガスを通気すると、上記炭化水素ガスが選択的に内管を透過し、外管と内管の間に濃縮されるのでこのガスを捕集することで目的の炭化水素ガスを分離することが可能となる。
【0070】
<吸着シート>
本発明の吸着シートは、本発明のガス分離材である金属錯体および有機繊維を含む。吸着シートに用いる金属錯体の形態としては粒状、粉末状、繊維状、フィルム状、板状など種々の態様が挙げられるが、粉末状であるのが好ましい。金属錯体は平均粒径が1μm〜500μm(より好ましくは5μm〜100μm)のものが好ましく使用できる。なお、本発明において「平均粒径」とは、数累積頻度50%径(メジアン径)であって、例えば、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0071】
本発明の吸着シートに含まれる金属錯体の量は50質量%〜90質量%であるのが好ましい。吸着性能および吸着シートの生産性、金属錯体の脱落等を考慮すると、金属錯体の含有量は60質量%〜80質量%であるのがより好ましい。金属錯体の含有量が50質量%未満では単位質量当たりのガスの吸着効率が悪くなり、一方90質量%を超えると吸着シートの生産性が低下したり、金属錯体の脱落が多くなったりする傾向がある。
【0072】
(有機繊維)
有機繊維は、金属錯体を担持する担体として機能する成分であり、パルプ状の繊維が好ましい。吸着シートに金属錯体を高担持させる観点からは、有機繊維はフィブリル化していることが望ましい。なお、パルプ状とは製紙に用いるために分離、加工した状態を意味する。
【0073】
有機繊維としては、セルロース繊維、ポリエステル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリアミド、レーヨン、アクリル繊維、ポリ乳酸繊維、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンなどが挙げられる。通常は、取り扱いの容易さやコスト等のバランスからセルロース繊維(紙)が好ましい。なお、吸着シートに耐熱性が要求される場合は、より好ましくはアラミド、メタアラミドなどの全芳香族ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミド、ポリアミドイミドまたはポリエーテルケトンから製造された繊維が用いられる。上記有機繊維は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
吸着シートに含まれる有機繊維の量は、5質量%〜20質量%であることが好ましい。有機繊維の含有量が5質量%未満では金属錯体の担持能が不足する傾向があり、一方、20質量%を超えると、吸着シートに含まれる金属錯体の量が相対的に少なくなるため、充分な吸着効果が得られ難くなる虞がある。より好ましくは10質量%〜20質量%であり、さらに好ましくは15質量%〜20質量%である。
【0075】
(その他の成分)
吸着シートにおいては、必要に応じて、金属錯体を有機繊維に担持させるための結合剤として有機バインダーを使用してもよい。有機バインダーとしては、吸着シート製造時、吸着シートに金属錯体を高比率で担持させられるものであれば特に制限されない。具体的な有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、澱粉、ポリアクリロニトリル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0076】
有機バインダーの量は、吸着シートの構成成分の合計100質量%に対して5質量%〜30質量%であるのが好ましい。より好ましくは5質量%〜10質量%、さらに好ましくは5質量%〜7質量%である。有機バインダーが5質量%未満では、金属錯体の有機繊維への定着性や、有機繊維同士の結合性が乏しくなる傾向があり、一方30質量%を超えると、吸着シートにおける金属錯体量が相対的に少なくなるため、十分な吸着効果が得られ難くなる虞がある。
【0077】
好ましい実施形態において、本発明の吸着シートは、金属錯体、有機繊維、および有機バインダー以外の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、吸着シートの機械的強度の向上を目的とするガラス繊維、高分子凝集剤、顔料などが挙げられる。なお、これらの成分の使用量は、吸着シートの構成成分の合計100質量%に対して0質量%〜10質量%とするのが好ましい。より好ましくは3質量%〜7質量%である。
【0078】
本発明の吸着シートの製造方法は特に限定されない。例えば、湿式抄紙法などが挙げられる。湿式抄紙法によりシート状物を作製する場合、まず、金属錯体、有機繊維および任意で用いられる有機バインダーなどのその他の成分を所定の配合比で水中に分散させて分散スラリーを調製する。この際、分散スラリー中における各成分の濃度は、吸着シート中における含有量が上述の範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0079】
次いで、得られた分散スラリーを抄紙機で抄紙し、シート状物を得た後、これを脱水、乾燥することで吸着シートが得られる。脱水、乾燥の方法も特に限定されず、例えば、一対のロール間にシート状物を通過させることによる加圧脱水、天日乾燥、脱水後のシート状物への熱風吹き付けなど、従来公知の方法はいずれも使用することができる。
【0080】
本発明の吸着シートの厚みは0.01mm〜2mmであるのが好ましい。より好ましくは0.1mm〜0.5mmであり、さらに好ましくは0.1mm〜0.3mmである。吸着シートの厚みが薄すぎると金属錯体の担持量を増加させ難く、一方、厚すぎると、ガス分離装置などの吸着エレメントへの加工性が低下する虞がある。また、本発明の吸着シートの坪量は50〜200g/m
2であるのが好ましい。より好ましくは130〜170g/m
2である。坪量が小さすぎる場合は、吸着シートの組織が疎になり、金属錯体の担持量が少なくなるため、充分な吸着性能を発揮し難い場合があり、一方、坪量が大きすぎると吸着シートが厚くなり、吸着エレメントへと加工する際に割れなどの問題が生じ易くなる虞がある。
【0081】
本発明の吸着シートは、金属錯体がその構造やサイズの変化を伴いながら特定種類のガスのみを選択的に吸着でき、また、圧力の変化により特定ガスを吸脱着し得る金属錯体を有しているので、混合ガスから特定のガスを分離する分離性能に優れる。また、吸着シートを構成する成分は比較的柔軟であり、金属錯体の構造変化にも追随することができるため、吸着シートにおいても金属錯体が有する優れた性能を発揮することができる。よって、本発明の吸着シートは、例えば圧力スイング吸着法を用いたガス分離装置における吸着エレメントを構成する吸着シートとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0083】
(1)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を150℃、50Paで6時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
【0084】
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HPおよびBELSORP−18HT
平衡待ち時間:500秒
【0085】
<実施例1>
多孔性金属錯体(1):[Cu
2(pydc)
2(pyz)]の合成
ナスフラスコ(500mL)に硝酸銅三水和物(1.23g、5.0mmol、1.0eq.)、ピラジン(4.05g、50.0mmol、10.0eq.)、および純水(100mL)を加え混合した。得られた青色透明溶液に、2,3−ピラジンジカルボン酸(0.84g、5.0mmol、1.0eq.)の水溶液(80mL)と1N水酸化ナトリウム水溶液(20mL)の混合液を滴下しながら加えた。混合溶液を室温(25℃)で2時間攪拌した後、得られた青色固体を桐山漏斗(登録商標)でろ過し、純水、メタノールで順に洗浄し、乾燥して、青色粉体(多孔性金属錯体(1))を得た(収量:1.32g)。
【0086】
<実施例2>
多孔性金属錯体(2):[Cu
2(pydc)
2(bpp)]の合成
ナスフラスコ(1000mL)に過塩素酸銅六水和物(0.74g、2.0mmol、1.0eq.)、純水(100mL)、およびエタノール(100mL)を加え混合した。得られた青色透明溶液に、2,3−ピラジンジカルボン酸(0.34g、2.0mmol、1.0eq.)、1,3−ジ(4−ピリジル)プロパン(0.20g、1.0mmol、0.5eq.)、1N水酸化ナトリウム水溶液(4mL)、純水(96mL)、およびエタノール(100mL)の混合液を滴下しながら加えた。混合溶液を室温(25℃)で16時間攪拌した後、得られた青色固体を桐山漏斗(登録商標)でろ過し、純水、エタノールで順に洗浄し、乾燥して、青色粉体(多孔性金属錯体(2))を得た(収量:0.71g)。
【0087】
<実施例3>
多孔性金属錯体(3):[Cu
2(pydc)
2(bpa)]の合成
ナスフラスコ(1000mL)に過塩素酸銅六水和物(0.75g、2.0mmol、1.0eq.)、純水(100mL)、およびエタノール(100mL)を加え混合した。得られた青色透明溶液に、2,3−ピラジンジカルボン酸(0.33g、2.0mmol、1.0eq.)、1,2−ジ(4−ピリジル)エタン(0.18g、1.0mmol、0.5eq.)、1N水酸化ナトリウム水溶液(4mL)、純水(96mL)、およびエタノール(100mL)の混合液を滴下しながら加えた。混合溶液を室温(25℃)で16時間攪拌した後、得られた青色固体を桐山漏斗(登録商標)でろ過し、純水、エタノールで順に洗浄し、乾燥して、青色粉体(多孔性金属錯体(3))を得た(収量:0.54g)。
【0088】
<実施例4>
吸着シートの製造
吸着シートにおける組成が、多孔性金属錯体(1)70質量%、有機繊維としてパルプ状セルロース20質量%、有機バインダーとしてPVAを5質量%、無機繊維としてガラス繊維5質量%となるように、湿式抄紙装置を使い、厚み約0.26mm、坪量約150g/m
2のシート状の成形体である吸着シート(1)を製造した。
【0089】
<吸着等温線1>
実施例1で得た多孔性金属錯体(1)について、0℃におけるエチレンとエタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図3に示す。
【0090】
<吸着等温線2>
実施例2で得た多孔性金属錯体(2)について、0℃におけるエチレンとエタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図4に示す。
【0091】
<吸着等温線3>
実施例3で得た多孔性金属錯体(3)について、−78℃におけるエチレンとエタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図5に示す。
【0092】
<比較例1>
代表的な吸着材として、AgX型ゼオライト(シグマアルドリッチジャパン合同会社より入手)について、0℃におけるエチレンとエタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図6に示す。
【0093】
<比較例2>
代表的な吸着材として、13Xゼオライト(ユニオン昭和株式会社製)について、0℃におけるエチレンとエタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図7に示す。
【0094】
図3、
図4、
図5、
図6および
図7の比較より、本発明の金属錯体は0〜1000kPaの圧力範囲においてエチレンを選択的に吸着するので、エチレンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0095】
<実施例5>
吸着管(内径1.0cm×長さ20cm)に、実施例1で得た多孔性金属錯体(1)5.4gを充填した。その後、吸着材の活性化のため、試験前に充填物に対して150℃で加熱真空引きを行った。室温まで冷却した後、純粋なHeガスを用いて780kPaの圧力を作り出し、そしてこの条件下で、エチレン50%とエタン50%との混合物を流量毎分20mLで吸着管に流し込み、吸着管出口のガス組成および流量をガスクロマトグラフィーおよび流量計によりモニタリングした。吸着出口ガスについての各ガス種の流量(mL/分)と時間t(分)との関数を
図8に示す。まず、2つの成分は死容積のHeガスと置換されるため、ガスクロマトグラフィーで成分は検出されなくなる。少し時間が経った後、最初にエタン成分(黒塗り四角)が現れるが、このことはガスクロマトグラフィーによる分析によって検出される。しかしながらエチレン(黒塗り三角)はなお少しの時間、さらに吸着され、そしてより遅い時点でようやく破過に達する。よって、本発明の金属錯体からなる吸着材を用いることにより、エチレンを選択的に吸着することが可能であることがわかる。
【0096】
<吸着等温線4>
実施例1で得た多孔性金属錯体(1)について、エチレンの0℃および25℃における吸脱着等温線を測定した。結果を
図9に示す。
図9より、本発明の金属錯体の吸着開始圧力は温度に依存し、制御可能であることが分かる。この特徴を利用することにより、従来の分離材を用いる場合に比べて、温度スイング吸着法において分離度の向上が可能である。
【0097】
<吸着等温線5>
実施例1で得た金属錯体について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテンおよびノルマルブタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図10に示す。
【0098】
<吸着等温線6>
実施例4で得られた吸着シート(1)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテンおよびノルマルブタンの吸脱着等温線をそれぞれ測定した。結果を
図11に示す。
【0099】
<比較例3>
代表的な吸着材として、NaY型ゼオライト(HS−320、和光純薬工業株式会社より入手)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテンおよびノルマルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を
図12に示す。
【0100】
<比較例4>
代表的な多孔性金属錯体として、Basosiv(商標)M050(シグマアルドリッチジャパン合同会社より入手)について、25℃における1,3−ブタジエン、1−ブテンおよびノルマルブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を
図13に示す。
【0101】
<実施例6>
吸着管(内径1.0cm×長さ20cm)に、実施例1で得た多孔性金属錯体(1)4.8gを充填した。その後、吸着材の活性化のため、試験前に充填物に対して150℃で加熱真空引きを行った。室温まで冷却した後、純粋なHeガスを用いて150kPaの圧力を作り出し、そしてこの条件下で、1,3−ブタジエン38%、1−ブテン31%、ノルマルブタン31%の混合物を流量毎分15mLで吸着管に流し込み、吸着管出口のガス組成および流量をガスクロマトグラフィーおよび流量計によりモニタリングした。吸着出口ガスについての各ガス種の流量(mL/分)と時間t(分)との関数を
図14に示す。まず、3つの成分は死容積のHeガスと置換するため、ガスクロマトグラフィーで成分は検出されなくなる。その後、最初にノルマルブタン成分(黒塗り四角)、次に1−ブテン(黒塗り三角)が現れるが、このことはガスクロマトグラフィーによる分析によって検出される。しかしながら1,3−ブタジエン(黒丸)はなお少しの時間、さらに吸着され、そしてより遅い時点でようやく破過に達する。よって、本発明の金属錯体からなる吸着材を用いることにより、1,3−ブタジエンを選択的に吸着することが可能であることがわかる。
【0102】
<吸着等温線7>
実施例1で得た金属錯体について、25℃における1,3−ブタジエン、イソブテンおよびイソブタンの吸脱着等温線を測定した。結果を
図15に示す。
【0103】
<比較例5>
代表的な吸着材として、NaY型ゼオライトについて、25℃における1,3−ブタジエン、イソブテンおよびイソブタンのそれぞれの吸脱着等温線を測定した。結果を
図16に示す。
【0104】
図10、
図11、
図12、
図13、
図14、
図15および
図16の比較より、本発明の金属錯体は室温において1,3−ブタジエンを選択的に吸着するので、1,3−ブタジエンの分離材として優れていることは明らかである。