特許第6188733号(P6188733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キー メディカル テクノロジーズ インコーポレイテッドの特許一覧 ▶ メンタック カリッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188733
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】改良されたポリマーおよび眼科利用方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20170821BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61F2/16
   A61L27/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-560944(P2014-560944)
(86)(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公表番号】特表2015-515294(P2015-515294A)
(43)【公表日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】US2013027710
(87)【国際公開番号】WO2013134007
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2016年2月25日
(31)【優先権主張番号】13/411,836
(32)【優先日】2012年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507188902
【氏名又は名称】キー メディカル テクノロジーズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】315003697
【氏名又は名称】メンタック カリッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】メンタック カリッド
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246673(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/142782(WO,A2)
【文献】 特表2009−528076(JP,A)
【文献】 実公昭51−045350(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階を含むことを特徴とする、移植前レンズの移植後ジオプターの測定方法:
その剛性および屈折率がその水和状態に依存するポリマーを含む眼内レンズ(IOL)を用意する段階;ここで、前記ポリマーが、2−フェニルエチルアクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる第1の親水性モノマー及び第2の親水性モノマーを含み、更に、前記第1及び第2の親水性モノマーの1つが、前記ポリマー中に70質量%の量で存在する;
移植前の前記レンズを、水和液に、前記IOLポリマーが、前記IOLポリマーが移植後に得るであろう水和状態と実質的同等である水和状態に水和するのに十分な時間長で暴露する段階;及び
前記実質的に水和したレンズのジオプター値を測定する段階。
【請求項2】
前記IOLポリマーが、3質量%〜15質量%の範囲内のEWCを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記IOLポリマーが、4質量%〜10質量%の範囲内のEWCを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、紫外線吸収性物質をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、ベータ−(4−ベンゾトリアゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート、4−(2−アクリルオキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2′−メタクリルオキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5’−メタクリルオキシ−エチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3′−tert−ブチル−5′−(3−ジメチルビニルシリルプロポキシ)−2′−ヒドロキシフェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾール、2−(3′−アリル−2′−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert′−ブチル−2′−ヒドロキシ−5’−[3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾールおよび2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾールからなる群から選ばれる紫外線吸収性物質を含む、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記紫外線吸収性物質が、ビニルアントラセンまたはその誘導体である、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、眼科利用において特に有用な新規材料並びに該新規材料の製造および使用方法に関する。さらに詳細には、本発明は、眼内レンズ、コンタクトレンズおよび他の眼科用インプラントの製造において使用するのに特に適する、比較的軟質で、工学的に透明な、折り畳み可能な高屈折率材料、並びに該材料の製造および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
1940年代以降、眼内レンズ(IOL)の形の光学装置は、疾患または損傷した天然接眼レンズの代りとして使用されてきている。殆どの場合、眼内レンズは、例えば白内障の症例におけるような疾患または損傷天然レンズの外科摘出時に、眼球内に移植される。数十年間、そのような眼内レンズを製造するための好ましい材料は、硬質でガラス状ポリマーであるポリ(メチルメタクリレート) (PMMA)であった。
【0003】
より軟質でより可撓性のIOLが、圧縮、折り畳み、圧延加工または他の変形されるべきその能力故に、近年普及してきている。そのような軟質IOLは、眼球の角膜の切開によるその挿入前に変形可能である。眼球中への上記IOLの挿入後、上記IOLは、上記軟質材料の記憶特性のために、その元の折り畳み前の形状に戻る。上述したようなより軟質でより可撓性のIOLは、4.0mm未満、即ち、PMMAから製造したIOLのような硬質IOLを移植するのに必要な5.5〜8.0mmの切開よりもはるかに小さい切開によって眼球内に移植し得る。大きめの切開が硬質IOLにおいて必要であるのは、そのレンズを、上記非可撓性IOL視覚部の直径よりも僅かに大きい角膜内の切開によって挿入しなければならないからである。従って、硬質IOLは、市場においてあまり一般的ではなくなってきている;何故ならば、大きめの切開は、時折、乱視誘発のような術後合併症発症の増大と関連していることが判明しているからである。
【0004】
小切開白内障手術における最近の進歩によって、人工IOLにおいて使用するのに適する軟質で折り畳み可能なポリマー材料の開発に益々の重点がおかれている。一般に、これらの材料は、3つのカテゴリー、即ち、ヒドロゲル類、シリコーン類および低ガラス転移温度アクリル類の1つに属する。
【0005】
IOL移植のさらなる最近の進歩は、IOLインジェクターを使用してIOLを眼球内に移植することである。PynsonへのUS 2007/0060925号 “Preloaded IOLS Injector and Methods”;VaqueroへのUS 2005/0222578号 “IOL Injector”およびVaquero等へのUS 7,988,701号 “Preloaded IOL Injector”を参照されたい;これらの特許文献の各々は、参考として、その全体を本明細書に取り込む。残念なことに、IOLのインジェクター移植は、一般に、より硬質の、従って、一般により取扱い可能であるIOLであるほど、よりスムーズに(即ち、より低い術的困難性でもって)進行する。
【0006】
従って、手術目的においては、より硬質のレンズが推奨される。通常、このことは、完全水和よりも低い水和のポリマーポリマーを注入することを意味する。周知のように、IOLの移植後水和は、場合によっては、予期に反して、レンズの屈折率(RI)を変化させる。この変化は、医師および注入可能なIOL移植に手術結果に関しての不確実性を背負わせる。本発明は、1つの局面において、移植後水和可能または水和性IOLポリマーに関しての、特に、IOLインジェクターを使用して移植を実施する場合の上記手術結果の不確実性を低減または排除している。
【0007】
一般に、高水分含有量ヒドロゲル材料は、比較的低い屈折率を有し、最小切開サイズに関してはヒドロゲル材料を他の材料よりもあまり望ましくないものにしている。低屈折率材料は、所定の屈折力を得るためには厚めのIOL視覚部を必要とする。シリコーン材料は、高水分含有量ヒドロゲルよりも高い屈折率を有するが、眼球内で折り畳み位置に置いた後速く開き過ぎる傾向を有する。折り畳みレンズの速過ぎる開きは、潜在的に、角膜内皮を損傷しおよび/または天然水晶体嚢および関連小帯を破損し得る。低ガラス転移温度アクリル材料は、これらアクリル材料が、典型的には、高屈折率を有し、例えば水晶体嚢中に挿入したとき、シリコーン材料よりも遅く且つ制御可能に開くので望ましい。残念なことに、低ガラス転移温度アクリル材料は、当初水を殆どまたは全く含有せず、生体内では数溜まりの水(pockets of water)を吸収し、光反射または“グリスニング(glistenings)”をもたらす。さらにまた、アクリルポリマーメモリーの温度感受性のために、理想的な折り畳みおよび開き特性を達成することは困難である。
【0008】
1996年1月2日に公告された米国特許第5,480,950号は、IOLの製造において使用するための少なくとも57%の水和平衡含水量(“EWC”)を有する高屈折率ヒドロゲル材料を教示している。該高屈折率ヒドロゲル材料は、N−ビニルピロリドン、4−ビニルピリミジンおよびビニルピリジンの混合物から製造した架橋ポリマーであって、90%までの平衡含水量および乾燥状態における1.560〜1.594の屈折率を有する。説明されているようなIOLは、水和状態では移植されない。むしろ、上記IOLは、乾燥し、折り畳み且つ引伸ばした状態で移植し、その場で水和させている。眼球内で使用するときの水和状態での屈折率は、提示されていない。米国特許出願広報2002/0049290号は、高屈折率(RI)眼科用ヒドロゲル材料に関する。
【0009】
1997年12月2日に公告された米国特許第5,693,095号は、高屈折率低含水量IOL材料を教示している。この特定の特許において教示されている材料は、少なくとも150%の伸びを有するアクリル材料である。そのような伸び特性を有する材料から製造したIOLは、折り畳んだとき、亀裂、引裂きまたは分裂することはない。しかしながら、そのような低含水量アクリル材料は、IOL装置として製造し使用するとき、他の材料よりも生体適合性が低いことが判明している。
【0010】
過去10年間において、疎水性ポリマーが、IOLの製造において、一定の成功でもって使用されてきている。眼科業界は、このタイプのポリマーを、良好な物理的性質および眼内環境における受け入れ可能な生体適合性を有するものとして受入れてきている。しかしながら、通常の疎水性ポリマーから製造した現在のIOLは、眼液中での貧弱な光学安定性(例えば、グリスニング、光学アーチファクト(optical artifact))および低屈折率に遭遇している。疎水性ポリマーの嵩中での望ましくない粒子および沈着物の形成は、抑制されていない水分収着およびその後の相分離に起因する。高RI (> 1.51)を有するコポリマーを製造するのに現在使用されている通常のホモポリマーは、変動量の散在形の水を吸収し、相分離、かすみおよびグリスニングをもたらす。
【0011】
現在、グリスニングおよび沈着物形成に耐える折り畳み可能な高RI IOLポリマーは存在しない。グリスニングの形成に耐えることが知られている組成物は、移植前の水和を必要とする。このことは、折り畳み性、切開サイズおよび装填前の包装を制約し、IOLの包装方法に速急に選択することとなる。さらに重要なことに、約3質量%〜約15質量%の範囲内の値を有するEWCを含むポリマーによって製造されたIOLは存在していない。何ら理論によって拘束することは望まないが、この群のポリマーはグリスニングに対してもっと耐性であると信じている。本発明においては、5〜15%のEWCを有する無グリスニングIOLを製造するための組成物および方法を提供する。
【発明の概要】
【0012】
発明の要約
本発明は、限定するものではないが、折り畳み可能なIOL用途に特に適する新規な群の高RIポリマーである。本発明の材料は、眼液中で光学的に安定であり、望ましくない光学アーチファクトの形成に耐える。本発明のコポリマーの上記独自の性質は、親水性ポリマーを極めて疎水性のポリマーマトリックス中に取込ませることによって得られ、上記コポリマーが約3質量%〜約15質量%の範囲内、好ましくは約4質量%〜約10質量%の範囲内の特定のEWCを有することを可能にする。さらに、吸収させる限られた量の水分を上記マトリックス内で良好に分布させ、良好に分散させて、従来技術組成物において認められるマクロ相分離を防止している。結果は、安定な光学的性質を有する光学的に透明な材料である。
【0013】
そのような組成物が眼球内での移植時に変化する屈折光学力を有するIOLをもたらすことは良く理解されている。本発明のもう1つの局面は、屈折光学力の変化を、包装のための乾燥および滅菌の前に、水和状態のIOLジオプターを測定することによって実験的に予測することである。従って、このさらなる局面においては、本発明は、眼内レンズの“移植後(after implantationまたはpost-implantation)”屈折率/ジオプターの測定方法である。この方法においては、上記レンズ、通常は(常にではないが)、眼内レンズは、製造後、実質的に脱水状態にあって、角膜の切開によって眼球中に、例えば、IOLインジェクターにより移植するのに十分に取扱い可能であるようにする。製造後の上記レンズは、例えばレンズを食塩水中で、例えば24時間室温でソーキングすることによって水和する。水和レンズのジオプターは、レンズポリマーが、レンズを眼球中に移植するときにレンズが得るであろう水和状態と同等の水和状態にある間に測定する。その後、IOLのジオプターを、眼球外でその水和状態において測定する。その後、レンズを少なくとも部分的に十分に脱水して、滅菌し、レンズが例えばIOLインジェクターによって移植するのに十分に取扱い可能であるまでの実質的な乾燥状態において保存する。移植IOLは、その場合、眼球中に、インジェクターを使用し角膜切開によって移植する。その後、移植し、部分脱水したIOLを、眼球内で、IOLが、IOLを移植前に水和させている間の測定によって得られた実質的に同じ屈折率(しいてはジオプター)と平衡するまで水和する。本発明のこの実施においては、移植後水和IOL屈折率は、ほぼ100%の確実性でもって得られると同時に、インジェクターまたはインジェクターベースIOL移植方法の全ての利点も得られる。
【0014】
1つの局面においては、本発明は、下記の段階を含むことを特徴とする、移植前レンズの移植後ジオプターの測定方法である:
その剛性および屈折率がその水和状態に依存するポリマーを含む眼内レンズ(IOL)を用意する段階;
移植前の上記レンズを、水和液に、上記IOLポリマーが、上記IOLポリマーが移植後に得るであろう水和状態と実質的同等である水和状態に水和するのに十分な時間長で暴露する段階;
上記実質的に水和したレンズのジオプター値を測定する段階;
上記レンズを部分的に脱水してその取扱い特性を高める段階;
上記部分脱水IOLを眼内に移植する段階;および、
上記部分脱水レンズを、移植後の眼球内で、上記部分脱水レンズが移植前に測定したレンズのジオプター値に実質的なジオプター値(the diopter value substantially that of the lens measured pre-implantation)を得るまで水和することを可能にする段階。
【0015】
本発明は、眼内レンズ(“IOL”)、コンタクトレンズ並びに他の眼科および光学用途に特に適応し得る新規なコポリマーに関する。本発明の材料から製造したIOLは、極めて高い屈折率を有し、ほぼ室温において機械加工または成形し得る。本発明のIOLは、折り畳んで、小切開を介しての挿入によって、さらなる加工または水和を必要とすることなく、眼球の欠損天然レンズと交換して使用し得る。本発明の材料の特定の利点は、抑制されていない水収着を防止する上記材料の独特のハイブリッド特性である。
【0016】
調整可能で均一な比較的高い含水量と予想外の高屈折率を有し、眼内レンズ(IOL)または他の眼科装置、例えば、限定するものではないが、コンタクトレンズ、人工角膜移植片および角膜輪またはインレーとしての使用に特に適する折り畳み可能な眼科レンズ材料は、本発明の第1の領域である。
【0017】
本発明は、芳香族モノマーおよび/またはカルバゾールおよび/またはナフチル成分、カルバゾール、ナフタレンまたはナフチル基および/または疎水性モノマーを含む限られた量のモノマーを含むコポリマー組成物に関する。カルバゾールおよび/またはナフチル成分モノマーは、上記コモノマーに加えて、上記コモノマーの屈折率を高め且つ上記コポリマー材料が青色光(475nmまでの)波長を遮断する能力を増強する。一般に500μN/cm (50ダイン/cm)以下の範囲内の表面張力を有するモノマーを使用して極めて疎水性のマトリックスを生成させる。親水性ポリマーを添加して、抑制された水収着のための親水性相を生成させる(以下で説明する方法において)。
【0018】
従って、本発明の1つの目的は、高屈折率を有する生体適合性IOL材料を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、高屈折率および抑制された水収着を有するIOL材料を提供することである。
本発明のさらにもう1つの目的は、生体内での上記レンズの力の正確なターゲッティングを可能にする方法を提供することである。
本発明のさらにもう1つの目的は、製造するのが比較的簡単であるIOL材料を提供することである。
【0019】
本発明のこれらおよび他の目的並びに利点(そのうちの幾つかは詳細に説明し、他は詳細には説明しない)は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
高屈折率を有する本発明の材料は、製造業者が薄めのIOLを製造するのを可能にするのに望ましい。薄いIOLまたは薄いIOL光学素子は、執刀医が切開サイズを最小にするのを可能にする上で重要である。外科的切開サイズを最小に保つことは、術中外傷および術後合併症を減じる。また、薄いIOLは、前房および毛様溝のような眼球中のある種の解剖学的部位を順応させるのにも重要である。IOLは、無水晶体眼および有水晶体眼双方の視力を増強するためには前房内に配置し、有水晶体眼の視力を増強するためには毛様溝内に配置し得る。
【0021】
本発明の好ましい材料は、該材料の折り畳みまたは変形を可能にして該材料から製造したIOLを眼球中にできる限り最小の切開によって導入できるようにするのに必要な可撓性を有する。
【0022】
本発明の新規な材料は、少なくとも2種のモノマー成分(疎水性モノマーおよび親水性モノマー)を含むコポリマー、トリマー、テトラマー等である。一般に、UV吸収剤のような架橋剤を含ませる。
【0023】
上記組成物は、芳香族、カルバゾールおよびナフチル成分を含有する第1モノマーを含むマルチマーを含む;上記芳香族/カルバゾール/ナフチル成分モノマーは、上記組成物中に、少なくとも25%、好ましくは約35〜80%までの濃度で存在する。
【0024】
上記組成物は、さらに、疎水性ホモポリマーを含む第2モノマーを含む;疎水性は、500μN/cm (50ダイン/cm)以下の表面張力を有するホモポリマーとして定義し、上記第2モノマーは、上記コポリマー中に、少なくとも約20質量%、好ましくは約50〜60質量%の量で存在する。
【0025】
上記組成物は、その場合、少なくとも約10質量%、好ましくは約20〜30質量%の疎水性モノマーを含む。上記組成物は、その場合、架橋用モノマーを含む;該架橋用モノマーは、10質量%までの範囲内、好ましくは約1質量%〜約8質量%の濃度で存在する。
【0026】
適切な親水性モノマー(即ち、そのホモポリマーが本発明に従って親水性であるところのモノマー)としては、限定するものではないが、2−ヒドロキシ−エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、N−オルニチンアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N−フェニルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、アクリル酸、ベンジルメタクリルアミド、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、グリセロールモノアクリレート、2−スルホエチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、フルフリルアクリレート、フルフリルメタクリレートおよびメチルチオエチルアクリルアミドがある。
【0027】
適切な疎水性モノマー(即ち、そのホモポリマーが本発明に従って疎水性であるところのモノマー)としては、限定するものではないが、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−デシルアクリレート、n−デシルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、イソデシルアクリレート、イソデシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ビニルラウレート、ビニルステアレート、1−ヘキサデシルアクリレート、1−ヘキサデシルメタクリレート、n−ミリスチルアクリレート、n−ミリスチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリルアミド、ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソトリデシルアクリレート、イソオクチルメタクリレートおよびイソトリデシルメタクリレートがある。
【0028】
適切な架橋剤としては、例えば、限定するものではないが、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMDA)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートがあり、エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。適切な開始剤としては、例えば、限定するものではないが、アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シアノシクロ−ヘキサン)、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシ 2−エチルヘキサノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシピバレート、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ペンタンジオンペルオキシド、ジ(n−プロピル)ペルオキシジカルボネート、t−アミルペルオキシネオデカノエートおよびt−ブチルペルオキシアセテートがあり、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)が好ましい。適切な紫外線吸収剤としては、例えば、限定するものではないが、ベータ−(4−ベンゾトリアゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート、4−(2−アクリルオキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、
2−(2′−メタクリルオキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3′−tert−ブチル−5′−(3−ジメチルビニルシリルプロポキシ)−2′−ヒドロキシフェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾール、2−(3′−アリル−2′−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5’−(3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾールおよび2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾールがあり、ベータ−(4−ベンゾトリアゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレートが好ましい紫外線吸収剤である。
【0029】
UV吸収剤は、必要に応じて、上記コポリマー組成物に添加し得る。新規で好ましいUV/青色光吸収剤、即ち、ビニルアントラセンを上記コポリマー組成物に添加し得る。また、ビニルベンゾフェノンまたはベンゾトリアゾールのような通常のUV吸収剤も使用し得る。
【0030】
〔実施例1〜8〕
表1:実施例1〜8
【0031】
0.3質量%のMEBを、全てのコポリマー組成物において使用した。
PEA:2−フェニルエチルアクリレート
PEMA:2−フェニルエチルメタクリレート
POEA:フェノキシエチルアクリレート
BA:ベンジルアクリレート
BMA:ベンジルメタクリレート
VC:ビニルカルバゾール
EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
LM:ラウリルメタクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
EGDM:エチレングリコールジメタクリレート
MEB:2−(2’−メタクリルオキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾチアゾール
【0032】
表1(実施例1〜8)の各ポリマーの一般的製造工程
上記で列挙した各コモノマーを、ガラスフラスコ内で、磁力撹拌棒を使用して少なくとも3時間混合し、次いで、下記の時間音波処理し、その後、さらに30分間再度撹拌した。
【0033】
本発明者等は、Branson 5510において100%の出力設定での約30分間の音波処理が適切な光学および物理的性質を有する光学的に透明な材料齲をもたらすことを見出した。モノマー溶液をアルゴンで脱ガスし、シリコーンガスケットで間隔を空けたガラスプレートから製造した15.24cm×15.24cm (6インチ×6インチ)モールド内に注入した。モールドを60℃に6時間保ち、次いで、真空中で100℃にて12時間後硬化させた。
【0034】
得られたコポリマーは、およそ室温で機械加工するのに十分に硬質である。本発明の独自の局面は、これらの材料の屈折率がレンズを、さらに加工または水和することなく、折り畳むのに十分に薄くするように高いことである。
【0035】
IOLを上記コポリマーから機械加工しジオプターを求める。IOLを蒸留水中で3時間50℃にて水和し、ジオプターを水和状態で再度測定する。得られる値は、ラベル付け目的において使用すべきであるレンズの実際の力である。
また、乾燥レンズのジオプターを水和した同じレンズのジオプターと関連付けする数式を以下で説明するようなデータから展開し、IOLをラベル付けするのに使用し得る。
【0036】
生体内レンズジオプターの経験的推定
レンズ水和が、水分吸収時のポリマーのRIの低下のために、ジオプターの有意の低下をもたらす通常のヒドロゲルと異なり、本発明のレンズは、少量の吸収水およびレンズ膨潤と曲率半径の同時急勾配化とのカウンターバランス効果のために、水和時に比較的穏当な変化を示す。レンズを、上記の手順に従って製造したポリマー組成物から製造したシートから旋盤切断した。10枚のレンズを各組成物において選択した。下記の表2は、ポリマー実施例1〜8から製造した20 Dレンズの水和前後のジオプターを示す。
【0037】
表2:実施例1〜8
*ジオプター測定の標準偏差、n = 10

本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕下記の段階を含むことを特徴とする、移植前レンズの移植後ジオプターの測定方法:
その剛性および屈折率がその水和状態に依存するポリマーを含む眼内レンズ(IOL)を用意する段階;
移植前の前記レンズを、水和液に、前記IOLポリマーが、前記IOLポリマーが移植後に得るであろう水和状態と実質的同等である水和状態に水和するに十分な時間長で暴露する段階;
前記実質的に水和したレンズのジオプター値を測定する段階;
前記レンズを部分的に脱水してその取扱い特性を高める段階;
前記部分脱水IOLを眼内に移植する段階;および、
前記部分脱水レンズを、移植後の眼内で、前記部分脱水レンズが移植前に測定したレンズのジオプター値に実質的なジオプター値を得るまで水和することを可能にする段階。
〔2〕前記移植段階を、IOLインジェクター手段を使用して実施する、前記〔1〕記載の方法。
〔3〕前記IOLポリマーが、約3質量%〜約15質量%の範囲内のEWCを有する、前記〔1〕記載の方法。
〔4〕前記IOLポリマーが、約4質量%〜約10質量%の範囲内のEWCを有する、前記〔1〕記載の方法。
〔5〕前記移植IOLが、移植後の着用者が感じるようなグリスニングの低減または排除を示す、前記〔3〕記載の方法。
〔6〕前記移植IOLが、移植後の着用者が感じるようなグリスニングの低減または排除を示す、前記〔4〕記載の方法。
〔7〕前記ポリマーが、下記を含む、前記〔1〕記載の方法:
芳香族、カルバゾールまたはナフチル成分、カルバゾール、ナフタレンまたはナフチル基を含む高屈折率モノマー;疎水性モノマー、親水性モノマー、および架橋剤。
〔8〕前記組成物が、紫外線吸収性物質をさらに含む、前記〔7〕記載の組成物。
〔9〕前記組成物が、ベータ−(4−ベンゾトリアゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート、4−(2−アクリルオキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2′−メタクリルオキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリルオキシ−エチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert−ブチル−2′ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル ]−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3′−tert−ブチル−5′−(3−ジメチルビニルシリルプロポキシ)−2′−ヒドロキシフェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾール、2−(3′−アリル−2′−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[3′−tert′−ブチル−2′−ヒドロキシ−5'−[3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−メトキシベンゾトリアゾールおよ
び2−[3′−tert−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−(3”−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾールからなる群から選ばれる紫外線吸収性物
質を含む、前記〔7〕記載の組成物。
〔10〕前記紫外線吸収物質が、ビニルアントラセンまたはその誘導体である、前記〔7〕記載の組成物。
〔11〕前記親水性モノマーが、2−ヒドロキシ−エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、N−オルニチンアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N−フェニルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、アクリル酸、ベンジルメタクリルアミド、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、グリセロールモノアクリレート、2−スルホエチルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、フルフリルアクリレート、フルフリルメタクリレートおよびメチルチオエチルアクリルアミドからなる群から選ばれる、前記〔7〕記載の組成物。
〔12〕前記疎水性モノマーが、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−デシルアクリレート、n−デシルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、イソデシルアクリレート、イソデシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ビニルラウレート、ビニルステアレート、1−ヘキサデシルアクリレート、1−ヘキサデシルメタクリレート、n−ミリスチルアクリレート、n−ミリスチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリルアミド、ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソトリデシルアクリレート、イソオクチルメタクリレートおよびイソトリデシルメタクリレートからなる群から選ばれる、前記〔1〕記載の組成物。