特許第6188738号(P6188738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188738
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20170821BHJP
   H01M 10/08 20060101ALI20170821BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01B1/06 A
   H01M10/08
   C01B32/194
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-68541(P2015-68541)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2015-198089(P2015-198089A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2015年4月27日
(31)【優先権主張番号】61/972,525
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500202322
【氏名又は名称】長興材料工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ETERNAL MATERIALS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チン−ユアン・ウー
(72)【発明者】
【氏名】ユ−ウェイ・チャン
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−514963(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0065154(US,A1)
【文献】 特開2013−258129(JP,A)
【文献】 特開2006−128056(JP,A)
【文献】 特開2002−343412(JP,A)
【文献】 ロシア国特許出願公開第02422563(RU,A)
【文献】 中国特許出願公開第103000917(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103025654(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06、10/08
C01B 32/194
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含む電解質組成物であって、
グラフェンが、親水基で修飾されており、且つ、電解質組成物の総重量に基づいて、0.001wt%から0.1wt%の量存在し、
グラフェンが、20nmから1μmの横寸法、および0.35nmから10nmの厚さを有する、電解質組成物。
【請求項2】
水、硫酸、およびグラフェンを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
親水基が、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、リン酸基、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項4】
修飾されたグラフェンが、80mol%を超える炭素含有量、および1mol%から20mol%の酸素含有量を有する、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
1.12から1.28の比重を有する、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項6】
600Ω以下の抵抗を有する、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項7】
100から600Ωの抵抗を有する、請求項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
鉛蓄電池に使用するための、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の電解質組成物を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の電解質組成物および電池、特に電池に有用な新規のグラフェン含有電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電池は、化学電池および物理電池に分類することができ、化学電池はさらに一次電池、二次電池、および燃料電池に分類することができる。
【0003】
充電式電池としても知られている二次電池は、電流を印加することによって充電/再充電され、放電/使用の間に起こる化学反応を反対に戻る。一般的な二次電池は、ニッケル金属水素電池(NiMH電池またはニッケル水素電池)、鉛蓄電池、およびリチウムイオン電池を含む。二次電池のもっとも古い形態であるが、鉛蓄電池はその信頼性、低い製造費用および購入価格、ならびに高い再生率のために依然として人気がある。
【0004】
従来の鉛蓄電池は、金属鉛の負極、二酸化鉛の正極、および希硫酸電解質を含む。電池の放電の間の化学反応を以下に示す。
【0005】
負極での反応:
Pb(s)+SO2−(aq)→PbSO(s)+2e
正極での反応:
PbO(s)+SO2−(aq)+4H+2e→PbSO(s)+2H
【0006】
鉛蓄電池が放電すると、電子が負極から放出され、生じた鉛イオン(Pb2+)は即座に硫酸イオン(SO2−)と反応して、負極表面上に吸着される不溶性の硫酸鉛(PbSO)結晶を形成する。正極では、外部回路からの電子がPbOをPb2+へと還元し、これもまたSO2−と反応して正極上に吸着されるPbSO結晶を形成する。逆の電圧を印加することによって、反対の化学反応が起こり、電池は再充電される。
【0007】
実際には、再充電サイクルの間に、電極上に形成された硫酸鉛を完全に鉛イオンおよび硫酸イオンに変換することはできないため、電解質中の硫酸イオンの量は次第に減少する。電池の重放電または高速再充電に起因して粗い硫酸鉛のクラスターが形成されると、この問題はより深刻になる。残留する硫酸鉛は、電極の冷却速度を低下させ、PbおよびPbO電極の有効表面積を減少させるため、電池の容量およびサイクル寿命が低下する。別の問題は、ガスの発生に起因する水の損失であり、これは、電池の充放電または高速再充電/充電の間に電解液に含まれる水が電気分解されるかまたは電池に蓄積された熱によって蒸発する場合に起こる。水の損失は、硫酸鉛の溶解を困難にし、水の電気分解の間に発生する酸素および水素は電池の安全性を脅かす。さらに、硫酸濃度勾配の存在は、電池の内部抵抗を増大させ、イオンの移動度を低下させるため、電池の性能に悪影響を及ぼす。
【0008】
したがって、上述の問題に対する改良が長い間望まれてきた。
上述の問題を解決するために、電極を改良するために多様な電池添加剤、特にカーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、およびグラフェンなどの炭素材料の添加剤が採用されてきた。例えば、特許文献1(CN 102201575)には、硫酸鉛‐グラフェン複合体電極材料および該材料を含む負極ペーストが記載されており、特許文献2(CN 101719563)には、負極にグラフェンが添加された鉛蓄電池が記載されており、特許文献3(US 20120328940 A1)には、電極の添加剤としてカーボンナノチューブまたはグラフェンを使用することが記載されており、特許文献4(CN 1505186)および特許文献5(US 2005181282)には、鉛蓄電池のカソードおよびアノードにカーボンナノチューブを使用することが記載されている。電極にカーボンナノチューブおよび/またはグラフェンを使用することは、鉛蓄電池の性能を向上させることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願公開第102201575号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第101719563号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2012/0328940号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第1505186号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005181282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電池の電極に上述の炭素材料、特にカーボンナノチューブおよび/またはグラフェンを使用することに多くの努力が向けられてきたが、依然として、硫酸濃度勾配によって引き起こされる分極の問題を効果的に改善することができていない。さらに、炭素材料を含む修飾された電極を調製するための従来の方法では、より多くの量の炭素材料(鉛ペーストの総重量に基づいて約5wt%)が必要とされ、方法は一般的に複雑なステップを伴うため、コストがより高くなる。したがって、向上した性能を有する電池を提供するためのより安価で簡単な手法が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の問題を解決するための電解質組成物を提供する。
本発明の目的は、グラフェンを含む電解質組成物を開発することにある。
別の態様では、本発明は、電解質組成物を含む電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
電解質組成物にグラフェンを添加することによって、本発明は電池の性能を効果的に改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の電解質組成物および本発明による電解質組成物を使用した単セルの充電/放電サイクル後に測定した容量変化を示す。
図2】従来の電解質組成物および本発明による電解質組成物を使用した単セルの正極および負極のSEM画像を示す。
図3】異なる濃度のグラフェンを含む電解質組成物を使用した単セルの充電/放電サイクル後に測定した容量変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以降に記載する内容を理解するために、以下で用語を定義する。
「約」との用語は、当業者によって測定された値の許容偏差を表現および説明するために使用される。偏差の範囲はどのようにして値が測定されたのかに依存する。
【0015】
1つの実施形態では、本発明は、グラフェン含有電解質組成物を提供する。
グラフェンは、炭素の2次元の結晶同素体である。グラフェンでは、炭素原子は、規則的なsp結合された六角形パターンに密に充填されている。グラフェンは、単層グラフェンおよび多層グラフェンを含む。単層グラフェンとは、π結合を有する炭素分子の1つの原子層のシートを指す。
【0016】
本発明の発明者は、電池の電解質組成物にグラフェンを添加することによって電池、特に鉛蓄電池の性能を効果的に向上させることができることを見出した。カーボンナノチューブと比較して、グラフェンはより優れた熱伝導度、電気伝導度、および比表面積を有し、水溶液への溶解度がより高く、大量生産に適している。本発明の発明者はさらに、電解質組成物に適用すると、グラフェンの優れた熱伝導度および電気伝導度が、電池の動作の間のガス発生に起因する水の損失を効果的に減少させることができ、結果として電池の性能を向上させることを見出した。さらに、電解質組成物にグラフェンを添加することによって、硫酸の濃度勾配を効果的に減少させることができ、それにより硫酸イオンの移動度が増加し、硫酸濃度勾配に起因する内部抵抗が低下し、電池性能を向上させる。グラフェンの高い比表面積および硫酸濃度勾配の減少は、鉛蓄電池の電極上に形成される硫酸鉛クラスターのサイズを低下させるため、電極の性能を向上させることができる。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、(1)水、(2)硫酸、および(3)グラフェンを含む電解質組成物を提供する。本発明では、グラフェンは、電解質組成物の総重量に基づいて、約0.001から約1wt%、好ましくは約0.003から約0.2wt%、最も好ましくは約0.005から約0.1wt%の量で存在する。過剰な量のグラフェン(例えば1wt%超)は、短絡を引き起こし得る。グラフェンの量が不十分であれば(例えば0.001wt%未満)、電極組成物の抵抗上昇および分極を引き起こし得るように電解質組成物の濃度分布が一様でなく、電池性能に悪影響を及ぼし得る。好ましくは、本発明の電極組成物は、約1.12から約1.28の比重を有する。
【0018】
硫酸組成物中の硫酸の量は、特に制限されず、当業者に知られている任意の適当な量であってよく、または必要に応じて当業者によって調整される。本発明の1実施形態では、硫酸は、電解質組成物の総重量に基づいて、約10から約75wt%、好ましくは約12から約45wt%、最も好ましくは約15から約40wt%の量で存在する。
【0019】
グラフェンを電解質組成物に導入することによって、電解質組成物の抵抗を顕著に減少させることができることを見出した。従来の電解質組成物は、通常600Ωを超える抵抗を有するが、本発明の電解質組成物は、600Ω以下の抵抗を有する。抵抗の減少により、電池の重放電または高速再充電/充電の間の容量効率を向上させることが可能となり電池性能を高めることができる。好ましい抵抗は、100から600Ωの範囲内である。
【0020】
本発明に有用なグラフェンは、任意の適当な方法、例えば機械剥離、エピタキシャル成長、化学気相成長(CVD)、液相剥離、および高温炉炭化を含む従来の方法によって調製することができる。従来の方法の中でも、バルク黒鉛の液相剥離は、化学研究所で使用可能な装置で高品質単層グラフェンを得ることができる拡張可能な手法であると考えられる。
【0021】
好ましくは、本発明のグラフェンは、薄いグラフェンフレークまたはシートである。グラフェンの寸法が大きすぎると、浮力が不十分なためグラフェンが沈殿することがあり、部分的な短絡を引き起こし得る。好ましい実施形態では、本発明のグラフェンは、約20nmから約1μmの横寸法、および約0.35nmから約10nmの厚さを有する。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明に有用なグラフェンは、グラフェンの特性を改良するために、官能基で修飾される。例えば、グラフェンは、分散性を向上させ、グラフェンの沈殿、凝集、または電解質表面での懸濁を防ぎ、電解質組成物の偏析を防ぐために、親水基で任意に修飾することができる。親水基の例として、ヒドロキシル基(‐OH)、アミノ基(‐NH)、カルボキシル基、カルボニル基、およびリン酸基が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。好ましくは、本発明に有用なグラフェンは、ヒドロキシル基(‐OH)またはアミノ基(‐NH)で修飾される。
【0023】
本発明に有用な修飾グラフェンは、液相剥離を含む任意の適当な方法で調製することができるが、これに限定されるわけではない。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明に有用な修飾グラフェンは、約80mol%を超える炭素含有量および約1mol%から約20mol%の酸素含有量を有する。炭素含有量が少なすぎると(例えば約80mol%未満)、導電性が低下し得る。酸素含有量が少なすぎると(例えば約1mol%未満)、修飾グラフェンの湿潤性が低下し、かつ導電性が低下し得る。酸素含有量が高すぎると(例えば約20mol%超)、導電性が低下し得る。
【0025】
本発明の電解質組成物は、例えば、高い内部抵抗、低い容量、もしくは電解質組成物の偏析などの欠点を改良するために電解質組成物に添加するもの、または電池寿命を増加させるために添加するものなど、当業者に知られている任意の適当な添加剤を含むことができる。一般的に使用されている添加材の例として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、リン酸、硫酸コバルト、硫酸カドミウム、硫酸鉛、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、硫酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム、ヒュームドシリカ、もしくはシリカ(二酸化ケイ素)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。電解質組成物に炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、または二酸化ケイ素を添加すると、硫酸濃度の維持、分極の減少、グラフェンの持続可能性の向上、鉛蓄電池の電池寿命の増加に有利であり、二酸化ケイ素が好ましい。添加材の量は特に制限されず、必要に応じて当業者が調節することができる。本発明の実施形態では、添加剤の量は、電解質組成物の総重量に基づいて、約0.01から約10wt%、好ましくは約0.1から約5wt%とすることができる。
【0026】
本発明の電解質組成物は、任意の適当な分野に適用することができる。好ましい実施形態では、本発明の電解質組成物は、電池、好ましくは鉛蓄電池に使用される。
【0027】
本発明はさらに、上述の電解質組成物を含む電池を提供する。該電池は、ニッケル水素電池、鉛蓄電池、リチウムイオン電池、または色素増感太陽電池を含み得るがこれらに限定されるわけではない。
【0028】
本発明の電解質組成物中のグラフェンの一部は、適切な充電/放電サイクル後、電池の正極および負極の表面に吸着され得ることが見いだされた。グラフェンの吸着のため、負極の導電性が増加し、負極は特殊な結晶構造を有するグラフェン含有電極を形成し、負極上に蓄積される硫酸鉛の量を低下させる。正極に吸着したグラフェンは、正極が電極構造を失うことが防止する。結果として、電池のサイクル寿命を増加させることができる。
【0029】
従来技術と比較して、本発明は以下の利点の1つまたは複数をもたらす。
(1)電解質組成物の導電性の向上
本発明の電解質組成物は、SO2−イオンの移動度を増加させ、硫酸濃度勾配を低下させることにより、電池性能を向上させることが見いだされた。
(2)グラフェンの優れた熱伝導性に起因した電解質組成物の冷却速度の向上
電解質組成物の冷却速度の向上により、電解または蒸発による水の損失を低減することができるため、硫酸濃度を長期間保持することができる。すなわち電池寿命の増加を実現することができる。
(3)電極の導電性/冷却速度の向上
電池の放電または再充電の間、本発明の電解質組成物中のグラフェンのある部分は電極表面に吸着される。吸着されたグラフェンは、電極の冷却速度を向上させるだけでなく、電極上の硫酸鉛結晶の成長を抑制するため、電極の効率を維持し、正極の腐食を防ぐことができる。
(4)電池のサイクル寿命の向上
本発明の電解質組成物を使用すると、電池のサイクル寿命を例えばグラフェンを含まない電極組成物を使用した電池の少なくとも2倍向上させることができることが見いだされた。
(5)製造コストの低減
炭素材料で修飾された電極を調製するための従来の方法と比較して、本発明の電解質組成物は、必要なグラフェンは少ないが、電池性能の向上を含む優れた効果を実現する。さらに、本発明の電解質組成物は、一連の複雑なステップを必要とする従来のグラフェン含有電極の調製方法とは異なり、電池またはグラフェン含有電極の調製に直接使用することができる。上述のことを考慮すると、本発明の電解質組成物を使用すると、同様のまたはより優れた効果を維持しつつ、電池の製造コストを低減することができる。
【0030】
本発明の電解質組成物は、グラフェンを含有する電解質組成物を含む。上記(2)および(3)の利点により、本発明の電解質組成物が使用された単セルの表面温度は、複数回の充電/放電サイクル後、従来の電解質(すなわちグラフェンを含まない)を使用した単セルよりも低い(例えば約2から5℃)。さらに、従来の単セルの電解液および電極の間の温度差は、本発明の単セルよりも大きい。したがって、グラフェンを含む電解質組成物は、電池の過熱を改良することができ、電極の劣化を防止することができる。
【0031】
上述の例示した適用に限定されず、本発明の電解質組成物は任意の可能な用途に使用することができると考えられる。当業者には、本発明の範囲を逸脱することなくその他の多様な変更および修飾を加えることができることが明らかである。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
従来の電解液を使用した2つの鉛蓄電池単セルを提供した(NP 2V4Ah;Tai Mao Battery Co., Ltd.)。単セルの一方の電解液に500ppmのグラフェンを添加し(グラフェン電解質)、もう一方の単セルにはグラフェンを添加しなかった(電解質)。
単セルに、充電/放電サイクル試験を実施した。各単セルは、0.2C(すなわち800mA/h)のレートで95%まで、または定格容量を超えるまで高速充電し、その後0.2Cのレートで80%DOD(放電深度)で放電した。各サイクル後に単セルの容量(%)を測定し、結果を図1に示した。本発明におけるDOD(放電深度)との用語は、セルの定格容量まで放電する間にセルから取り出された容量の割合を表す。充電および放電を繰り返した後、セルの容量は減少し、容量が50%未満となるとセルは「使用不可」となる。
【0033】
図1の図において、グラフェンを添加した電解液を使用すると、グラフェンを添加していない電解液と比較して、単セルのサイクル寿命が著しく向上することが見いだされた。
[1mg/kg=ppm;0.1wt%=1000ppm]
【0034】
[実施例2]
30回の充電/放電サイクル後の実施例1における2つの単セルの正極および負極を走査型電子顕微鏡(SEM;Hitachi S−3400N)で観察した。結果を図2に示す。
【0035】
図2では、(a)および(b)はそれぞれ従来の電解液(電解質;グラフェン無し)を含む単セルの正極および負極を示し、(c)および(d)はそれぞれ本発明の電解液(グラフェン電解質;グラフェン有り)を含む単セルの正極および負極の画像を示す。炭素含有量はEDAX(エネルギー分散型X線分析)で測定し、結果は、(a)および(b)における炭素含有量はゼロであり、(c)および(d)における炭素含有量はそれぞれ8.6mol%および3.4mol%であることを示した。つまり、適切な充電/放電サイクル後、本発明の電解質組成物中のグラフェンは、正極および負極の表面上に吸着されてグラフェン含有電極が形成された。
【0036】
さらに、図2の(a)および(b)に示されるように、従来の電解液を使用した単セルの正極および負極表面上には硫酸塩が吸着された。図2の(c)および(d)と図2の(a)および(b)を比較すると、本発明の電解質組成物を使用した場合、正極および負極上にグラフェンが吸着され、正極および負極上での大きな硫酸鉛の成長を抑制し、電極の熱伝導度を増加させ、鉛蓄電池のサイクル寿命を増加させることがわかった。
【0037】
[実施例3]
4つの鉛蓄電池単セル(NP 2V4Ah;Tai Mao Battery Co., Ltd.)を提供した。単セルの3つの電解液にそれぞれ50ppm、150ppm、および500ppmのグラフェンを添加した。残りの単セルにはグラフェンを添加しなかった。単セルに、100%DOD(放電深度)で充電/放電サイクル試験を実施した。各サイクル後に単セルの容量(%)を測定し、結果を図3に示した。
【0038】
図3において、グラフェンを添加していない電解液(電解質)と比較して、グラフェンを含む電解液(50ppmグラフェン電解質、150ppmグラフェン電解質、および500ppmグラフェン電解質)では、単セルのサイクル寿命が著しく増加した。
【0039】
[実施例4]
それぞれ0ppm、50ppm、150ppm、500ppm、1000ppm、2000ppmのグラフェンを含有する電解液を調製した。オーム計(FLUKE 87V)を使用して各電解液の抵抗を測定した。オーム計の2つの電極は、10cmの距離で、電解液で完全に浸漬された。結果をTable1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1を見ると、グラフェンの量が増加すると、電解液の抵抗が低下することがわかる。
図1
図2
図3