(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188770
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】自動車の排気ガス浄化方法および装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20170821BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20170821BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
F01N3/24 L
F01N3/20 D
F28D20/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-226109(P2015-226109)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-96109(P2017-96109A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年4月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105441
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久喬
(72)【発明者】
【氏名】見持 洋司
(72)【発明者】
【氏名】岩見 和俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 義孝
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−314264(JP,A)
【文献】
特開平11−153024(JP,A)
【文献】
特開2011−106355(JP,A)
【文献】
特許第6080026(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F01N 3/20
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排気ガスが触媒コンバーターを通され、排気ガス中の環境汚染物質を浄化する排気ガス浄化方法において、排気ガス温度が低温の時には、触媒コンバーターの外表面の周囲に配置してあるラムダ五酸化三チタン(λ−Ti3O5)からなる蓄熱材を加圧して蓄熱材に蓄熱してある熱を放熱させることにより触媒を加熱昇温させ、その後排気ガス温度が高温となった時に、放熱によりラムダ五酸化三チタン(λ−Ti3O5)からベータ五酸化三チタン(β−Ti3O5)に固相転移した蓄熱材に高温の排気ガスの熱を吸熱させて蓄熱させ、ベータ五酸化三チタン(β−Ti3O5)をラムダ五酸化三チタン(λ−Ti3O5)に固相転移させることを特徴とする排気ガス浄化方法。
【請求項2】
前記蓄熱材を加圧する際に、60Mpa以上の加圧力で加圧することを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化方法。
【請求項3】
一端に排気ガス導入口を有し、他端に排気ガス導出口を有する中空の外殻内に触媒コンバーターが配置され、該触媒コンバーターの内部には触媒が担持されていて、担持された触媒によって排出ガスに含まれる環境汚染物質を無害化する排気ガス浄化装置において、前記触媒コンバーターの外表面の周囲には、ベータ五酸化三チタン(β−Ti3O5)またはラムダ五酸化三チタン(λ−Ti3O5)からなる蓄熱材を収納している蓄熱部材が取巻いて配置され、該蓄熱部材の排ガス導入口側および排ガス導出口側方向に位置する両側壁の触媒コンバーター方向の側壁下部は、それぞれ外殻の中央開口部を塞ぐように外殻に接合されて、外殻に保持されるように構成され、蓄熱材を加圧できまた加圧力を開放できる加圧装置が蓄熱部材に設置されていて、蓄熱材を加圧することにより放熱させて触媒を加熱昇温させ、加圧力開放することにより吸熱して蓄熱材に蓄熱ができるようしたことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記加圧装置は、蓄熱材の端部を覆い蓄熱部材の内部に摺動可能な加圧部材と加圧力を該加圧部材に伝達する接続部を備えていることを特徴とする請求項3に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記蓄熱部材の外表面を覆うように断熱材層が設けてあることを特徴とする請求項3または4に記載の排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の排気ガスを触媒コンバーターにより浄化する排気ガス浄化方法および装置に関し、特に、エンジン始動時に触媒を速やかに昇温させて排気ガスの浄化機能を高める排気ガス浄化方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出される排気ガスには、一酸化炭素(CO)炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等が含まれていて、これらは環境汚染物質として人体に悪影響をおよぼす等の問題を引き起こすので、排気ガスは浄化して無害化することが求められる。
【0003】
自動車の排気ガスを浄化するには、触媒コンバーターを備えた排気ガス浄化装置が用いられている。触媒は、排気ガスの熱により昇温されて約200℃以上(活性温度)で触媒が機能を発揮し排気ガスを浄化することができるが、エンジンの冷始動(コールドスタート)時には排気ガスは低温であるため、触媒は活性温度まで昇温されないので排気ガスを浄化することができず、環境汚染物質を含む排気ガスは大気中に放出されることとなる。
【0004】
これを防止するには、エンジンの冷始動時に短時間(例えば25秒以内)に触媒を加熱昇温させて活性化する必要があり、加熱させる手段としては電気的に加熱する方法や、化学反応熱により加熱する方法等が提案されている。
【0005】
電気的に加熱する方法としては、例えば特許文献1に、触媒を加熱するマイクロ波発振のマグネトロンのヒータの予熱回路のみを作動させ、エンジン始動時にのみ高圧を印加し前記触媒を加熱する構成としたものがある。この方法は複雑な電気制御装置が必要であるとともに、バッテリーの電力消耗量がどうしても多くなるという問題がある。
【0006】
化学反応熱により加熱する方法としては、例えば特許文献2にアンモニアと化学反応して熱を発生させる蓄熱材(塩化金属、臭化金属、ヨウ化金属化合物)を収納した反応器を触媒の外周全面に設けて、エンジン始動時にアンモニアを反応器内に供給して蓄熱材と化学反応させることによって熱を発生させ触媒を加熱する。そして、通常走行時に排気ガス温度が高温となると蓄熱材からアンモニアを分離する方法が提案されている。
【0007】
この方法ではアンモニアを用いるため、アンモニアによって機器が腐食させられ、またアンモニアを外部に流出させないようにするために機器を密閉しなければならない等の問題がある。
【0008】
また、化学反応熱により加熱する他の方法としては、例えば特許文献3、4に、排気管内に配設された触媒の外周部に蓄熱材としてCaOを収納した反応器を設け、エンジン始動時に水を反応器内に供給して、蓄熱材と化学反応させることによって熱を発生させ触媒を加熱する。そして、通常走行時に排気ガス温度が高温となると蓄熱材から水を分離する方法が提案されている。
【0009】
この方法は、発熱反応として酸化カルシウムCaOの水和反応(CaO+H
2O(g)⇔Ca(OH)
2で示される可逆吸熱・発熱反応により蓄熱・放熱をする)を利用するものであるが、水和反応によって蓄熱材が膨張し、そして発熱後の材料を加熱脱水して再生を行う過程で収縮するので、蓄熱材の容積変化が生ずるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−074026号公報
【特許文献2】特許第5775503号公報
【特許文献3】特開昭59−208118号公報
【特許文献4】特許第5724302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した各問題を解消するためになしたもので、自動車の排気ガスの浄化、特に、エンジンの冷始動時の低温排気ガスの浄化を可能にするもので、エンジンの冷始動時に触媒を活性温度となるように短時間で加熱昇温させるに際して、触媒を電気加熱や化学反応熱を利用して加熱することなしに、放熱・吸熱が可能な蓄熱材を用いて触媒を短時間に加熱昇温することができる排気ガス浄化方法および装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく、触媒を加熱するのに固相−固相で相転移する相転移蓄熱材(Phase change heat strage)の内で転移温度の高い蓄熱材を触媒の加熱に用いることに着目し鋭意研究した。その結果、ラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)は、相転移温度が200℃であり、蓄熱した熱を長時間保存することができ、圧力を加えるとベータ五酸化三チタン(β−Ti
3O
5)へ転移して放熱する。そして、200℃以上の加熱によりβ−Ti
3O
5は吸熱し、λ−Ti
3O
5に転移して蓄熱することができる。このように五酸化三チタンは蓄熱と放熱とを繰り返すことができ、放熱温度の高い蓄熱材であることを知見した。
【0013】
本発明では、固相−固相で相転移する相転移蓄熱材であるラムダまたはベータ五酸化三チタンを蓄熱材として、エンジンの冷始動時に触媒の加熱に用いれば、化学反応によらずに短時間で触媒を加熱昇温できる事を知見して本発明を完成した。
【0014】
本発明の要旨は、次のとおりである。
【0015】
(1) エンジンからの排気ガスが触媒コンバーターを通され、排気ガス中の環境汚染物質を浄化する排気ガス浄化方法において、排気ガス温度が低温の時には、触媒コンバーターの外表面の周囲に配置してあるラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)からなる蓄熱材を加圧して蓄熱材に蓄熱してある熱を放熱させることにより触媒を加熱昇温させ、その後排気ガス温度が高温となった時に、放熱によりラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)からベータ五酸化三チタン(β−Ti
3O
5)に固相転移した蓄熱材に高温の排気ガスの熱を吸熱させて蓄熱させ、ベータ五酸化三チタン(β−Ti
3O
5)をラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)に固相転移させることを特徴とする排気ガス浄化方法。
【0016】
(2) 前記蓄熱材を加圧する際に、60MPa以上の加圧力で加圧することを特徴とする上記(1)に記載の排気ガス浄化方法。
【0017】
(3) 一端に排気ガス導入口を有し、他端に排気ガス導出口を有する中空の外殻内に触媒コンバーターが配置され、該触媒コンバーターの内部には触媒が担持されていて、担持された触媒によって排出ガスに含まれる環境汚染物質を無害化する排気ガス浄化装置において、前記触媒コンバーターの外表面の周囲には、ベータ五酸化三チタン(β−Ti
3O
5)またはラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)からなる蓄熱材を収納している蓄熱部材が取巻いて配置され、該蓄熱部材の
排ガス導入口側および排ガス導出口側方向に位置する両側壁の触媒コンバーター方向の側壁下部は、
それぞれ外殻の中央開口部を塞ぐように外殻に接合されて、外殻に保持されるように構成され、蓄熱材を加圧できまた加圧力を開放できる加圧装置が蓄熱部材に設置されていて、蓄熱材を加圧することにより放熱させて触媒を加熱昇温させ、加圧力開放することにより吸熱して蓄熱材に蓄熱ができるようしたことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【0018】
(4) 前記加圧装置は、蓄熱材の端部を覆い蓄熱部材の内部に摺動可能な加圧部材と加圧力を該加圧部材に伝達する接続部を備えていることを特徴とする上記(3)に記載の排気ガス浄化装置。
【0019】
(5) 前記蓄熱部材の外表面を覆うように断熱材層が設けてあることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、化学反応熱によらずに放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる蓄熱材を配置したことによって、エンジン始動時には蓄熱材の放熱により触媒を短時間で加熱昇温させ、放熱後は走行中の高温の排気ガスから吸熱して蓄熱できるようにしたので、化学反応熱を利用する蓄熱材を用いた際に問題となる機器の腐食や蓄熱材の膨張等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】触媒の外周面に放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる蓄熱材を配置した本発明の排気ガス浄化装置の例を示す長手方向断面図である。
【
図2】本発明の排気ガス浄化装置の例を示す中央断面図である。
【
図3】エンジンの冷始動後の触媒の昇温状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
自動車の排気ガスを浄化する触媒コンバーター(Catalytic converter)は、排気ガス通路に配置されていて、排気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の環境汚染物質を浄化して無害化する触媒を担持している。触媒としてはPt、Pd等の貴金属が用いられていて、環境汚染物質を無害な二酸化炭素、水、窒素、酸素などに変換する機能を持っている。
【0024】
これらの触媒は、高温の排気ガスによって加熱昇温され200℃以上で触媒活性を示すのであるから、エンジン始動時の低温の排気ガスに対しては環境汚染物質を無害化する触媒としての機能を果たすことができない。このため、エンジン始動時に触媒を短時間で加熱昇温させて活性化して低温の排気ガスに含まれる環境汚染物質を無害化することが行われている。
【0025】
本発明は、触媒コンバーターの外表面の周囲に放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる蓄熱材を配置して、エンジン始動時に蓄熱材の放熱により触媒を短時間で加熱昇温させ、放熱後は走行中の高温の排気ガスから吸熱して蓄熱できるようにした。そして、化学反応によらずにこのような放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる特性を有する蓄熱材として、ラムダ五酸化三チタンが有効であることを見出した。
【0026】
すなわち、ラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)は、相転移温度が200℃であり、蓄熱した熱を長時間保存することができ、圧力60MPa以上で加圧すると急激にベータ五酸化三チタン(β−Ti
3O
5)へ固相転移して放熱する。そして、放熱後に200℃以上の温度にβ−Ti
3O
5を加熱すると、β−Ti
3O
5は吸熱してλ−Ti
3O
5に固相転移して蓄熱する特性があるので、走行中の高温の排気ガスから吸熱して蓄熱させることができる。λ−Ti
3O
5の蓄熱量としては、固体−液体相転移の水(蓄熱量320kJ/L)やパラフィン(140kJ/L)などよりも大きな蓄熱量(230kJ/L)を有しており、また、λ−Ti
3O
5は蓄熱した熱を長時間保存することができて、放熱温度も触媒を活性化させることが可能な温度であるので、低温の触媒を短時間で急速に活性温度に加熱昇温させることができる蓄熱材として五酸化三チタンは最適である。しかも、化学反応熱によらないで放熱、吸熱することができるので、従来の化学反応熱を利用する蓄熱材で生じる問題も解決できる。
【0027】
したがって、本発明では排気ガス浄化触媒を加熱昇温させる蓄熱材として五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5、β−Ti
3O
5)を用いることとした。
【0028】
なお、ラムダ五酸化三チタン(λ−Ti
3O
5)は、ルチル型二酸化チタン(TiO
2)を焼成することによって得られることが知られている。
【0030】
図1は、触媒コンバーターの外周全面に放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる蓄熱材を配置した排気ガス浄化装置の例を示す長手方向断面図で、
図2はその中央部の断面図である。
【0031】
排気ガス浄化装置1は、エンジンの排気管の途中に設けられていて、外殻2内にセラミックスまたは金属箔でハニカム状(蜂の巣状)に構成された触媒担体を有する触媒コンバーター3を備えていて、触媒コンバーター3の内部にあるハニカム状に形成された触媒担体に触媒が担持されている。そして、担持された触媒によって排出ガスに含まれる環境汚染物質を無害化する。なお、触媒コンバーター3の形状は断面円形でなく、断面楕円形、断面四角形等の筒状であっても良い。
【0032】
触媒コンバーター3は、一端に排気ガス導入口4を有し、他端に排気ガス導出口5を有する中空の外殻2内に配置されていて、触媒コンバーター3の外表面の周囲には、五酸化三チタンからなる蓄熱材(β−Ti
3O
5、λ−Ti
3O
5)6を収納している蓄熱部材7が取巻いて配置されている。
蓄熱部材7は底部壁10、両側壁11a、11b、外壁12を有し、蓄熱部材の両側壁は排ガス導入口4側および排ガス導出口5側方向の位置となるようにそれぞれ配置されている。触媒コンバーター3は蓄熱部材7の底部壁10で取り巻かれている。蓄熱部材7の
触媒コンバーター3方向の両側壁
11a、11b下部は、外殻の中央開口部を塞ぐように外殻に固着または溶接等で接合されていて、蓄熱部材7は外殻2に保持されるようになっている。
ここで、蓄熱部材7の側壁11a、11b下部とは触媒コンバーター3方向の底部壁10側を側壁下部と称する。
蓄熱部材7に
は蓄熱材6を加圧でき、また加圧力を開放できる加圧装置が設けられている。加圧装置は、蓄熱材6の端部を覆い蓄熱部材7の内部に摺動可能な蓋状加圧部材8と加圧力を加圧部材8に伝達する接続部9を備えていて、蓄熱材6を加圧および加圧力開放することができるようになっている。蓄熱材6は加圧されることにより放熱し、加圧力を開放すると通常走行時等の高温の排気ガスの熱を吸熱して蓄熱できるものである。また、蓄熱材は従来の蓄熱材のように膨張収縮をすることがなく、取り扱いも容易なものである。
【0033】
加圧装置は、蓄熱材6を加圧できるようになっているが、蓄熱材の長手方向の片方あるいは両方から加圧しても良いし、全周を巻き締めるように加圧する構成としても良い。加圧力としては機械的あるいは電気的に行うことができる。
【0034】
また、図示していないが、蓄熱部材の周りに断熱材層を設けても良い。断熱材層を設けることで蓄熱材から外方への放熱を防止できる効果があり、また外部との緩衝材としての役割も果たす効果もある。断熱材としては、グラスウール、ロックウール等の高温用断熱材を用いればよい。
【0035】
次に、本発明の排気ガス浄化装置による浄化方法を説明する。
【0036】
自動車の走行中の高温の排気ガスが、排気ガス導入口4から排気ガス浄化装置1内に導入されることによって、排気ガス浄化装置1内に配置されている触媒コンバーター3により排気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の環境汚染物質を浄化して無害な二酸化炭素、水、窒素、酸素などに変換して、排気ガス導出口5より排出する。
【0037】
この際に、走行中のエンジンからの排気ガスは高温であるので、触媒コンバーター中の触媒は排気ガスによって活性温度である200℃以上の温度に加熱される。したがって、触媒コンバーターに接してその外表面に配置されている蓄熱部材7内の蓄熱材6も200℃以上の温度に加熱されることとなる。蓄熱材であるはβ−Ti
3O
5は、200℃以上の温度に加熱されることによって吸熱してλ−Ti
3O
5に固相転移して蓄熱する。
【0038】
自動車停止後のエンジンの冷始動(コールドスタート)時には、加圧装置により蓄熱材(λ−Ti
3O
5)6を加圧することによりλ−Ti
3O
5は放熱してβ−Ti
3O
5に固相転移する。加圧力としては、60MPa以上であればよいが、高圧であることが好ましく100〜300MPaであることが望ましい。蓄熱材6を加圧することにより、蓄熱材6は蓄熱した熱を放熱し、蓄熱部材7の
底部壁10下部
(内側)に接して配置されている触媒コンバーター3を加熱する。その結果触媒コンバーター3内の触媒は加熱されて、短時間(25秒以内)で活性温度となる。このため、エンジンの冷始動時に発生する低温排気ガスに含まれる環境汚染物質は、短時間で活性温度となった触媒によって浄化され無害化することが可能となる。その後、蓄熱材6への加圧力を解除すると通常走行時の高温の排気ガスの熱を吸熱して、放熱して固相転移したβ−Ti
3O
5は、吸熱してλ−Ti
3O
5に固相転移して蓄熱する。蓄熱材には放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行わせることができる。
【0039】
図3は、エンジンの冷始動後の触媒の昇温状態を示す図である。
図3に示すように、本発明の蓄熱材を用いた場合は、触媒が線A、Bで示すように短時間で触媒活性温度に加熱昇温され、蓄熱材を用いない場合の線Cに比較して触媒活性温度に昇温される時間が短縮される。したがって、エンジンの冷始動時に発生する低温排気ガスに含まれる環境汚染物質は短時間で活性温度となった触媒によって浄化され無害化することが可能となる。
【0040】
このように、本発明の排気ガス浄化装置では、化学反応熱によらずに放熱・吸熱(蓄熱)を繰返して行うことができる蓄熱材を配置したことによって、エンジン始動時には蓄熱材の放熱により触媒を短時間で加熱昇温させて低温排気ガスの浄化を行うことが可能となり、放熱後は走行中の高温の排気ガスから吸熱して蓄熱できる。なお、本発明の排気ガス浄化装置は、ガソリンエンジンだけではなく、ジーゼルエンジン等の排気ガス浄化装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 排気ガス浄化装置
2 外殻
3 触媒コンバーター
4 排気ガス導入口
5 排気ガス導出口
6 蓄熱材
7 蓄熱部材
8 加圧部材
9 接続部
10 底部壁
11a、11b 側壁
12 外壁