(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・プソイドトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrat)、及びこれらの混合物を含む群から選択される真菌による腟カンジダ症の予防用及び/又は治療用である、請求項7に記載の医薬組成物。
他の有効成分は、鎮静、抗刺激性、鎮痛性、抗炎症性、創傷の治癒、抗菌性、及び/又は抗真菌性の活性を有する有効成分の群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
番号I−3856として寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ株は、文献WO2009/103884で出願人によりすでに記載された。この菌株は、より具体的には、腸内の疾患、障害、又は愁訴の予防及び/又は処置において使用することが説明された。
【0017】
しかしながら、腸内粘膜に関しての病原菌類及びプロバイオティクスの挙動は、粘膜の環境が著しく異なる、膣内粘膜に関して採用されるものと置き換えられない。
【0018】
出願人が知る限り、サッカロマイセス・セレビシエの菌株が膣真菌症の予防及び/又は処置に効果を有することとして記載されているのはこれが初めてである。
【0019】
「酵母菌株」との表現は、相対的に均一な酵母細胞の集団を意味する。
【0020】
酵母菌株はクローンを単離することにより得られ、細胞集団となるクローンは単一の酵母細胞から得られる。
【0021】
別の実施形態によれば、本発明は、膣真菌症、及びより具体的には腟カンジダ症の予防及び/又は処置において用いる、番号I−3856としてCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ株を培養することによって得られたサッカロマイセス・セレビシエ酵母に関する。
【0022】
本発明に係る酵母は、例えば、Van Nostrand Reinholdによって出版された、参考資料「Yeast Technology」第二版、1991、G.Reed and T.W.Nagodawithana、ISBN0−442−31892−8に記載されるように、培地において、菌株番号I−3856を培養することによって得られる。
【0023】
本発明に係る酵母は、以下の2つの工程を含む工業規模におけるプロセスにより得られてもよい:
−まずセミ嫌気状態(semi−anaerobiosis)で、次いで好気状態の数段階で、培地において酵母菌株を培養する工程、
−12〜25%の乾燥物質、又は、とりわけ、酵母クリームが浸透圧分解性(osmolytic)の生成物と混合されるなら、さらに高い含有量の乾燥物質を含有する、液体酵母クリームを得るために、従って、その培地から産生された酵母を、遠心分離によって分離する工程。
【0024】
本発明において、「番号I−3856としてCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ株を培養することによって得られた酵母」、「菌株I−3856を培養することによって得られた酵母」、及び「Sc I−3856酵母」との用語は、これらの3つの用語が、前述のように同じ意味を有するため、区別せずに使用されるだろう。
【0025】
別の実施形態によれば、本発明は、膣真菌症、特に、腟カンジダ症の予防及び/又は処置において用いる、番号I−3856としてCNCMに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ株を培養することによって得られた酵母の誘導体に関し、前記誘導体は、前記酵母の細胞壁、前記酵母の細胞壁グルカン、前記酵母の細胞壁マンノプロテイン、又はこれらの混合物から選択される。
【0026】
酵母壁は、広く、酵母の壁及び細胞膜の双方を示す。
【0027】
慣習的に、酵母壁は、酵母の自己分解の工程の後、不溶性画分から可溶性画分を分離する工程を含むプロセスにより得られ、酵母壁に対応する単離された不溶性画分が、次いで乾燥されるだろう。
【0028】
本発明は、1日用量1mg〜10g、好ましくは100mg〜1gで、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、特に、Sc I−3856酵母の壁に関する。
【0029】
本発明は、また、1日用量0.25mg〜2.5g、好ましくは25mg〜250mgで、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、Sc I−3856酵母の細胞壁グルカンに関する。
【0030】
本発明は、1日用量0.1mg〜1g、好ましくは10mg〜100mgで、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、特に、Sc I−3856酵母の細胞壁マンノプロテインに関する。
【0031】
「膣真菌症」は、膣内における真菌によりもたらされる如何なる感染も意味する。
【0032】
「膣内」との用語は、広く使用され、「膣内」及び「外陰部」との用語は、本明細書において同義語である。
【0033】
「膣カンジダ症」は、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・プソイドトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrat)、及びこれらの混合物を含む群から選択されるカンジダ属の真菌による、膣真菌症の特定の種類を意味する。
【0034】
膣カンジダ症は、カンジダ膣炎とも呼ばれる。
【0035】
従って、本発明は、また、腟カンジダ症、例えば、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・プソイドトロピカリス、カンジダ・クルセイ、カンジダ・グラブラタ、及びこれらの混合物を含む群から選択される真菌によるカンジダ症の予防及び/又は処置において使用する、上で定義された通りの菌株、上で定義された通りの酵母、又は上で定義された通りの誘導体に関する。
【0036】
Sc I−3856酵母は、膣真菌症、とりわけ腟カンジダ症に疾病素質及び/又は感受性を有する女性において、予防的に、又は例えば、感染症の発症の間中、治療目的で、使用されてもよい。
【0037】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明の発明者らは、I−3856菌株を培養することによって得られた酵母の投与が、とりわけ、膣内粘膜へのカンジダ菌の付着を低下させることによって、膣において、カンジダ菌の増殖を抑制することを可能にするとの見解であると考えられる。さらに、細胞壁多糖構造、とりわけグルカン及びマンナンは、この作用機序においてある役割を果たすだろう。
【0038】
本発明の前述の実施形態によれば、使用されるSc I−3856酵母は生きている。
【0039】
生きている酵母は、その際、例えばフレッシュイーストの形態又はドライイーストの形態である。
【0040】
本発明は、例えば、1日用量1.10
7〜1.10
11CFU、好ましくは1.10
9〜1.10
10CFUで、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、とりわけ、ドライイースト又はフレッシュイーストの形態のSc I−3856酵母に関する。
【0041】
フレッシュイーストは、高い水分含量との特徴がある。
【0042】
フレッシュイーストは、例えば、圧搾酵母及び液体酵母から選択される。
【0043】
本発明に係る液体酵母は、「液体酵母クリーム」とも呼ばれ、12%〜50%の酵母の乾燥物質、より一般的には12%〜22%の酵母の乾燥物質を含む水性懸濁液である。
【0044】
本発明に係る圧搾酵母は:
−26%〜37%の乾燥物質を含有する、排水されたフレッシュイーストを得るために、一般的にロータリーバキュームフィルターで、液体酵母クリームの濾過、
−前記排水されたフレッシュイーストを混合し、押出
によって得られる。
【0045】
圧搾酵母は、26%〜37%の酵母の乾燥物質を含む。
【0046】
圧搾酵母は、粉砕されても、されなくてもよい。
【0047】
ドライイーストの中では、例えば、活性ドライイースト、インスタントドライイースト、及び中間水分含量を有するフローズンイーストを挙げることができるだろう。
【0048】
ドライイーストの有利な点は、その長い保存可能期間である。
【0049】
本発明に係る活性ドライイースト又はインスタント活性ドライイーストは、90%超のレベルの酵母の乾燥物質、好ましくは92%〜96%の範囲のレベルの乾燥物質を含む。
【0050】
活性ドライイーストは、ペースト状の生成物(圧搾酵母又は液体酵母)を、小球の形態で、乾燥した生成物に変形させることを可能にする、熱(低温で)及び機械的活性の組合せ作用によって圧搾酵母又は液体酵母を脱水することで得られる。
【0051】
例えば、活性ドライイーストは、圧搾酵母又は液体酵母の押出及び流動床乾燥によって得られる。
【0052】
活性ドライイーストは、一般的に、直径0.1μm〜2.5mmの小球の形態である。
【0053】
インスタントドライイーストは、ペースト状の生成物(圧搾酵母又は液体酵母)を、微細な乾燥した「綿状物(noodles)」に変形させることを可能にする、熱風勾配の作用によって圧搾酵母又は液体酵母を脱水することで得られる。安定したままにするため、次いで、インスタントドライイーストは、酸素の不存在下で包装されなければならない。
【0054】
中間水分含量を有するフローズンドライイーストは、例えば、70%〜85%の酵母乾燥物質を含む。
【0055】
好ましい実施形態において、膣真菌症の予防及び/又は処置において本発明により使用されるSc I−3856酵母は、活性ドライイーストの形態又はインスタントドライイーストの形態である。
【0056】
本発明の別の有利な実施形態によれば、膣真菌症の予防及び/又は処置において、発明により使用されるSc I−3856酵母は、死酵母(dead yeast)の形態であり、不活性化酵母とも呼ばれる。
【0057】
死酵母(dead yeast)は、その代謝が不可逆的に停止している酵母である。
【0058】
死酵母(dead yeast)は、酵母の熱処理、連続的な冷凍及び解凍の数サイクルに酵母を供することからなる処理、照射による処理、噴霧による処理、又はこれらの処理の組合せのような、当業者によって周知の方法で得られてもよい。
【0059】
本発明は、また、1日用量1mg〜10g、好ましくは100mg〜1gで、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、死酵母(dead yeast)の形態のSc I−3856酵母に関する。
【0060】
本発明は、また、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、上で定義された通りの菌株、上で定義された通りの酵母、又は上で定義された通りの誘導体に関し、前記菌株、前記酵母、又は前記誘導体は経口又は経膣により、好ましくは経膣により投与される。
【0061】
本発明は、また、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、Sc I−3856酵母及び/又は前記酵母の誘導体を含む組成物に関する。
【0062】
本発明に係る組成物は、医薬組成物、健康上の効果を備えるフードサプリメント、又は食品組成物であってもよい。
【0063】
本発明は、また、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、Sc I−3856酵母及び/又は前記酵母の誘導体を含む組成物、及び任意に少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤に関する。
【0064】
膣真菌症は上で定義された通りである。
【0065】
本発明に係る組成物は、経口又は経膣による投与が意図され、経膣が好ましい。
【0066】
経口に好適な形態である組成物の一例として、錠剤、軟カプセル剤、硬カプセル剤、サシェ剤、粉末、クリーム、シロップ、又はアンプルを挙げることができるだろう。
【0067】
経膣に好適な形態である組成物の一例として、ペッサリー、軟カプセル剤、硬カプセル剤、クリーム、又は錠剤を挙げることができるだろう。
【0068】
本発明に係る組成物において使用される賦形剤は、経口又は膣内製剤を調製するのに好適である、慣習的に使用される賦形剤である。
【0069】
1日用量は、真菌症の種類と、投与の方法(経口又は経膣)及び治療上又は予防上の処置の種類との双方による。
【0070】
本発明のある特定の実施形態によれば、組成物は死酵母(dead yeast)の形態でSc I−3856酵母を含み、1mg〜10g、好ましくは100mg〜1gの量で毎日使用する。
【0071】
本発明の別の実施形態によれば、組成物は乾燥した又は新鮮な形態でSc I−3856酵母を含み、1.10
7〜1.10
11CFU、好ましくは1.10
9〜1.10
10CFUの量で毎日使用する。
【0072】
本発明の別の実施形態によれば、組成物はSc I−3856酵母の細胞壁を含み、1mg〜10g、好ましくは100mg〜1gの量で毎日使用する。
【0073】
本発明の別の実施形態によれば、組成物はSc I−3856酵母の細胞壁グルカンを含み、0.25mg〜2.5g、好ましくは25mg〜250mgの量で毎日使用する。
【0074】
本発明の別の実施形態によれば、組成物はSc I−3856酵母の細胞壁マンノプロテインを含み、0.1mg〜1g、好ましくは10mg〜100mgの量で毎日使用する。
【0075】
効果的な1日用量は1回、2回、又は3回の投与で投与されてもよい。
【0076】
本発明は、また、膣真菌症の予防及び/又は処置において使用する、別の有効成分及び任意に薬学的に許容できる賦形剤と組み合わせて、Sc I−3856酵母及び/又はSc I−3856酵母の誘導体を含む医薬組成物に関する。
【0077】
Sc I−3856酵母と組み合わせて使用される有効成分は、鎮静、抗刺激性、鎮痛性、疼痛逃避性、抗炎症性、創傷の治癒、抗菌性(antifungal)、抗真菌性(antimycosic)、及び/又は抗真菌性の(antimycotic)活性を有する有効成分であってもよい。
【0078】
医薬組成物が、抗菌性の(antifungal)活性を有する有効成分と組み合わせて、Sc I−3856酵母及び/又はSc I−3856酵母の誘導体を含むとき、抗菌性の(antifungal)活性を有する前記有効成分は、サッカロマイセス・セレビシエにおいて何の効果も有さない。
【0079】
「抗菌性(antifungal)」、「抗真菌性(antimycosic)」、及び「抗真菌性(antimycotic)」との用語は、本明細書において同義語である。
【0080】
本発明は、如何なる範囲にも制限せず、説明を目的とした以下の実施例及び図を基に説明されるだろう。
【実施例】
【0082】
[実施例:メスのラットにおけるカンジダ・アルビカンスにより引き起こされた膣内感染のモデルの定義、及びこのモデルにおけるSc I−3856酵母の効果の実証]
以下に明らかにするモデルは、メスのラットにおけるSc I−3856酵母の投与がカンジダ・アルビカンスによって引き起こされた感染によりもたらされる膣真菌症を防ぐ及び/又は処置するのを可能にすることを実証するのを可能にした。
【0083】
[材料及び方法]
動物実験に関する欧州指令に従い、リールのパスツール研究所によって承認された策定において、動物実験を実施する。
【0084】
コロニーで数える方法により、細胞数を得る。その値をコロニー形成単位(CFU)として表す。
【0085】
ラット用標準飼料と水道水とにフリーアクセスである、1つのケージあたり、動物を3匹収容する。
【0086】
フランス、Janvier Laboratoiresから、3〜5週齢の卵巣切除したメスのラット(Sprague−Dawley)を購入する。実験の終了まで一日おきに(すなわち週に3回)、安息香酸エストラジオール(Sigma、ゴマ油に再懸濁した安息香酸エストラジオール;1匹の動物あたり0.5mg)の皮下注射により、それらを偽発情に維持する。
【0087】
偽発情を引き起こすエストラジオールの最初の注射後一週間、メスのラットはカンジダ・アルビカンスにより感染する。カンジダ・アルビカンスによる感染は、10
7CFUの濃度でカンジダ・アルビカンス株の1回の腟内投与に対応する。
【0088】
以下に示す通り、メスのラットを6種の異なるグループに分ける。
【0089】
【表1】
【0090】
試験したSc I−3856酵母は、活性ドライイーストの形態である。
【0091】
フルコナゾールは参照の抗菌性剤であり、膣カンジダ症を処置するのに通常採用されるため、陽性対照として使用される。
【0092】
カンジダ・アルビカンスによる感染後それぞれ1時間、24時間、及び48時間で、1匹のラットあたり50μgの用量で経腟により、フルコナゾールを投与する。
【0093】
[Sc I−3856酵母による予防的処置]
カンジダ・アルビカンスによる感染前それぞれ48時間、24時間、及び1時間で、腟内投与により1匹のラットあたり10
7CFUの用量で、PBS緩衝液に懸濁されたSc I−3856酵母を投与する。
【0094】
次いで、実験の終了まで8日毎にSc I−3856酵母を投与する。
【0095】
[Sc I−3856酵母による治療的処置]
カンジダ・アルビカンスによる感染後それぞれ1時間、24時間、及び48時間で、腟内投与により1匹のラットあたり10
7 CFUの用量で、PBS緩衝液に懸濁されたSc I−3856酵母を投与する。
【0096】
次いで、実験の終了まで8日毎に酵母 ScI−3856を投与する。
【0097】
[カンジダ・アルビカンスのコロニーの成長の評価]
5つの膣内のサンプルを合わせて、子宮頸部の塗抹標本を(白金耳を用いて)得ることにより、及びクロム−寒天板(カンジダ属に特異的で選択的な増殖培地)上に広げることにより、実験の終了までに(3週間後)、カンジダ・アルビカンスによる感染後2日毎に、膣内粘膜に付着するカンジダ・アルビカンスのコロニーの数を評価する。
【0098】
選択的な培地(クロム−寒天板、BD)において30℃での培養の2日後、カンジダ・アルビカンスの生存可能なコロニーを数える。
【0099】
[炎症の細胞学的評価]
子宮頸部サンプルから及び洗液(washes)から、その塗抹標本を調製する。
【0100】
スライド上の薄層における細胞の調製について、集細胞遠心装置(Cytospin(登録商標))を用いて、ラットのそれぞれのグループにおける合わせた洗液(washes)(5匹のラットからの洗液(washes))から調製する。そのスライドを、エアロゾル細胞固定剤(cytologic fixative)(Cytoral(登録商標))を用いて固定する。
【0101】
カンジダ・アルビカンスによる感染後10日、膣内サンプルを一グループあたり2匹のラットから採取する。
【0102】
カンジダ・アルビカンスを単独で、又はSc I−3856酵母での処置と組み合わせて受けたラットのグループにおいて炎症のレベルを評価するために、従来のメイグリュンワルドギムザ染色を実施する。
【0103】
細胞学的研究も試み、ホルモンの膣細胞診断(hormonal colpocytology)を評価するためパパニコロー染色を実施する。その研究を子宮頸部の塗抹標本で実施する。
【0104】
カンジダ・アルビカンス(5B2)に対して直接作用する抗体又はSc I−3856酵母のためのスノードロップのレクチン(GNL)を用いる、膣切片(vaginal sections)及び子宮頸部の塗抹標本で、免疫組織化学染色も実施する。
【0105】
[生物学的分析]
pH試験紙を用いて、合わせられた膣内洗液(washes)のpHを2日毎に評価した。
【0106】
カンジダ・アルビカンスの抗原の検出は、膣カンジダ症を診断するのに有用である。その抗原は、カンジダ・アルビカンスの細胞壁に存在する高い免疫原性のマンノシド構造を含む。マンノシド構造を備えるその抗原は、膣内感染において存在する主要な抗原であり、それゆえ侵襲性カンジダ症を診断するのに有用なバイオマーカーとなる。
【0107】
マンノシド構造を有する抗原の存在を検出することの第一の可能性は、ELISA免疫酵素の手法(Platelia Candida Ag法、Bio−Rad)を用いることから構成される。
【0108】
製造業者の指示に従って、標準的な熱処理で1/10に希釈された、合わされた膣内洗液(washes)において、カンジダ・アルビカンスの抗原のレベルを評価する。検出された抗原の量を、1mlに対するピコグラムで表す。
【0109】
マンノシド構造を備える抗原の存在を検出することの別の可能性はICT小片(Candi Vagi,SR2B)を用いることから構成される。「ICT」は、マンノシド構造を備える抗原に対して作用するマウス免疫グロブリンIgMを用いる膣内分泌物に含まれる抗原の捕捉に基づく。モノクローナル抗体は、広い範囲のカンジダ属の種類に対するマンノシド構造を備える抗原のエピトープを認識する。そのモノクローナル抗体を粒子に又は移動相中にコンジュゲートし、また、捕捉抗体としてニトロセルロース小片に適用する。ICTスティック(stick)を膣内サンプルの懸濁液に入れ、そのサンプルは、「MAb−金」コンジュゲート(モノクローナル抗体のためのMab)を含有するブロックを通って毛管作用により移動する。2009年、Journal of Clinical Microbiology、Marot−Leblondらの発表に記載される通り、その分析を実施する。
【0110】
膣内サンプルのカルプロテクチン(好中球により放出される酵素)のレベルを測定することにより、炎症のレベルを評価し、スツールにおけるヒトのカルプロテクチンを定量化するための有効なキット(Labodiaキット)を用いて定量化する。
【0111】
2つの独立したサンプルに対して並べ替え検定を用いて、統計的分析を実施する。StatXactソフトウェア(Cytel Inc,Cambridge,MA,USA)を用いて、その統計を計算する。その相違は、p値が0.05より低い場合、統計的に有意であると考えられる。
【0112】
[結果と考察]
<フルコナゾール対照を用いる>
(ラットの膣内粘膜において生存できるカンジダ・アルビカンスの存在に対応する子宮頸部の塗抹標本)
表1は、ラットのそれぞれのグループ(1グループあたり5匹のラット)における、クロム−寒天板上のカンジダ・アルビカンスのコロニーの平均の成長を以下に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
それゆえ、以下の通り結論付けられるだろう:
−カンジダ・アルビカンスの投与は、2日目に始まる膣内粘膜の進行性の感染を導き、12日目に最大の強度となり、その後、自発的な脱離の段階に続く;12日目がこのモデルにおけるカンジダ・アルビカンスの感染の最適な時間とみなされる;
−フルコナゾールの投与は、7日目に観察された膣内粘膜におけるカンジダ・アルビカンスの存在がわずかな数となり、12日目にカンジダ・アルビカンスによる感染の非存在を導く。
【0115】
この結果を表す別の方法は、フルコナゾールを受けたか或いは受けていないラットの膣内粘膜において生存可能なカンジダ・アルビカンスの存在の定量的なマーカーを表す、2日目〜12日目の間の曲線下面積(AUC)を計算することである。
【0116】
フルコナゾールによる処置は、感染後の最初の12日間において、生存可能なカンジダ・アルビカンスの数の36%の減少を引き起こす。
【0117】
従って、カンジダ・アルビカンスは、12日目にピーク強度で進行性の膣内感染を導く。殺真菌剤フルコナゾールによる抗真菌性の(antimycotic)処置は、膣内粘膜の感染における36%の減少、及び12日の膣カンジダ症の予防を導く。これらの結果は、
図1に示される。
【0118】
[カンジダ・アルビカンスの脱離に対応する洗液]
表2は、洗液から測定されるカンジダ・アルビカンスCFUの数を以下に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
それゆえ生存可能なカンジダ・アルビカンス(CFU)が2日目〜16日目の間、膣内洗液に定期的に及び常に放出される(約30CFU)ことを結論付けるだろう。
【0121】
フルコナゾールによる処置は、感染後の最初の8日間の間中、5日目にピーク強度で、カンジダ属の放出を増加させる。
【0122】
この結果を表す別の方法は、フルコナゾールを受けたか或いは受けていないラットの膣内洗液において生存可能なカンジダ・アルビカンスの脱離の定量的なマーカーである、2日目〜12日目の間の曲線下面積(AUC)を計算することである。
【0123】
換言すれば、AUC値は、ラットの膣内粘膜で発見される生存可能なカンジダ・アルビカンスの数を表す。
【0124】
フルコナゾールの抗真菌性の(antimycostatic)活性は、未処置のラットと比較して、処置されたラットにおいて、2日目〜12日目の間に、生存可能なカンジダ・アルビカンスの脱離における20%減少を引き起こす(
図2を参照のこと)。
【0125】
フルコナゾールによる処置は、感染後の最初の週において生存可能なカンジダ・アルビカンスの脱離を45%増加させる。
【0126】
もし、その実験が種々の工程に分かれていれば、未処置のラットと比較して、フルコナゾールが洗液において、カンジダ・アルビカンスの急速な、高い放出を最初に引き起こすことを観察する(2〜5日目、及び5〜7日目)(
図2を参照のこと)。
【0127】
実際、フルコナゾールによる処置は、感染したが、未処置のラットで観察される自然な放出(34.6%)、2〜5日の間の放出(34.6%)の2倍多い(73%)カンジダ・アルビカンスの放出を引き起こし、フルコナゾールの効果が初期又は早期の効果であることを示している。
【0128】
5匹のラットからの洗液を合わせたものにおいて、マンノシド構造を備える抗原を、市販でない小片を用いて定量化する。
【0129】
マンノシド構造を備える抗原の量は、フルコナゾールで処置されたラットにおいて、未処置のラットよりも低い。未処置の感染したラットと比較してフルコナゾールで処置した感染したラットにおいて、13日目に、抗原の量において最も大きく異なる点を観察した(
図3を参照のこと)。
【0130】
[膣内洗液の細胞学的分析]
合わせた膣内洗液からスライドを調製し、膣内上皮細胞の外観、細菌及び酵母の存在、並びに炎症誘発性細胞の存在を評価するために、MGG染色を実施する。
【0131】
2日目に、炎症細胞の存在なしに、正常な膣内上皮細胞の存在が対照試料を特徴付ける。カンジダ・アルビカンスにより感染したラットにおける主な違いは、非常に多くの多核好中球(PNN)及びカンジダ・アルビカンスによる感染によって引き起こされる炎症性の状態を示すいくつかの好酸球の存在である。
【0132】
フルコナゾールによる処置は、炎症性浸潤を予防する。わずかなカンジダ・アルビカンスの存在を観察し、おそらく、処置によって酵母の放出が増加することに対応する。
【0133】
カンジダ・アルビカンスによる感染後12日目に、対照グループにおいて、2日目における観察と関連した同様の観察を得る。カンジダ・アルビカンスにより感染したグループにおいて、非常に多くのマクロファージ、及びいくつかの好中球の存在を観察し、カンジダ・アルビカンスが良好に株化し及び炎症を引き起こすことを示す。フルコナゾールにより処置されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンス細胞を1つも観察せず及びわずかなマクロファージ及び好中球だけが存在する。
【0134】
[結論]
カンジダ・アルビカンスによる膣内感染のモデル及びこのモデルを分析する種々の方法は有効である。
【0135】
処置の治療効果は、カンジダ・アルビカンスによる感染後12日目に、最適に分析される。
【0136】
[Sc I−3856酵母の有効性]
Sc I−3856酵母の予防の及び/又は治癒の治療効果を、先に詳述した膣カンジダ症のモデルにおいて評価し、治療的に投与されたフルコナゾールの効果と比較する(カンジダ・アルビカンスによる感染後、1時間、24時間、及び48時間)。予防のため、カンジダ属による感染前48時間、24時間と、及び1時間、並びにカンジダ・アルビカンスによる感染後7日毎に一度、Sc I−3856酵母を投与する。
【0137】
上記の通り子宮頸部の塗抹標本及び洗液から、カンジダ・アルビカンスの数(CFUにおいて)を測定する。
【0138】
その結果は以下の表3に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
子宮頸部の塗抹標本の分析及びクロム−寒天板上のカンジダ・アルビカンスの増え続ける細胞数に関しては、未処置の感染したラットと比較して、予防的処置におけるSc I−3856酵母により処置した感染したラットにおいて、13日目の感染における63%の減少に相当する、それぞれ17.8(±5.85)対48.4(±15.53)の、CFUの著しい減少を13日目に観察する。
【0141】
従って、Sc I−3856酵母でラットを処置することは、膣内粘膜において、生存可能なカンジダ・アルビカンスの数が、未処置の動物と比較して30%減少する。
【0142】
以下の表4は、2〜13日目のAUC値を示す。
【0143】
【表5】
【0144】
Sc I−3856酵母による予防的処置がフルコナゾールと同様の効果を有し、未処置のラットと比較して、それぞれ20%及び36%AUC値を低下させることを結論付ける。
【0145】
以下の表5は、洗液に基づくカンジダ・アルビカンスCFUの成長の結果を与える。
【0146】
【表6】
【0147】
上記の通り膣カンジダ症のモデルにおいて、結果が2つの工程、つまり、2〜5日目のカンジダ・アルビカンスの著しい放出に相当する最初の工程、及び13日目の第2の工程に分けられるだろう。
【0148】
カンジダ・アルビカンスによる感染後13日目の結果の分析は、処置をしない感染したラットと比較して、フルコナゾール及びSc I−3856酵母(予防的及び治療的処置)による洗液に存在する生存可能なカンジダ・アルビカンスの数において著しい減少を示す(未処置の感染したラットにおける38に対して、フルコナゾールの1及びSc I−3856酵母の7)。
【0149】
感染後5日における生存可能なカンジダ・アルビカンスの急速な放出により、Sc I−3856酵母の投与(予防的又は治療的処置として)を特徴づけ、Sc I−3856酵母が膣内粘膜におけるカンジダ・アルビカンスの付着/侵襲を制限し得ることを示唆する。カンジダ・アルビカンスの脱離は、Sc I−3856酵母により、フルコナゾールを用いる場合より早くなる。
【0150】
以下の表6は、2〜13日目のAUC値(=ラットの膣内粘膜におけるカンジダ・アルビカンスの存在の定量的なマーカー)を示す。
【0151】
【表7】
【0152】
AUC値の分析は、Sc I−3856酵母がカンジダ・アルビカンスによる感染後の治療的処置において投与される際、それぞれ290.5に対して150で、洗液に存在するカンジダ・アルビカンスの数がより小さい、AUC値を有するSc I−3856酵母のより優れた効果を示す。
【0153】
治療的処置として投与されたSc I−3856酵母は、カンジダ・アルビカンスによる感染に対して、それぞれ199に対して155で、フルコナゾールにより引きおこされる効果より優れた効果を有する。
【0154】
もし、実験の異なる期間を、それぞれ2〜5日、5〜7日、及び7〜13日に分けるなら、処置の最初の段階(2〜5日)において予防的処置としてのSc I−3856酵母の投与がカンジダ・アルビカンスの著しい放出を引き起こすことを観察する(
図4を参照のこと)。
【0155】
それゆえ、Sc I−3856酵母が、予防的処置として投与される際、膣内粘膜へのカンジダ・アルビカンスの付着を抑制することは非常にもっともらしい。その際、わずかなカンジダ・アルビカンスが成長するのみである(5〜13日)(
図4を参照のこと)。
【0156】
カンジダ・アルビカンスによる感染直後の実験の最初の段階(2〜5日)において成長する、カンジダ・アルビカンスのCFUのパーセンテージの算出は、Sc I−3856酵母による予防的処置においてCFUの88%を検出すること、Sc I−3856酵母による治療的処置においてCFUの82%を検出すること、及びフルコナゾールによる処置では、73%であることを示す。
【0157】
これらの結果は、Sc I−3856酵母による処置が、カンジダ・アルビカンスの付着を予防するフルコナゾールにより得られる有効性より高い或いは同様の有効性を有することを示す。
【0158】
洗液における、マンノシド構造を備えるカンジダ・アルビカンスの抗原を定量化する(
図6)。良好な相関関係を、クロム−寒天板上で成長するカンジダ・アルビカンス細胞の数(膣内洗液から得られた)と同じ洗液において測定される抗原のレベルとの間で観察する(
図5)。
【0159】
生存可能なもの及び死んでいるもの、すべてのカンジダ・アルビカンス細胞を、カンジダ・アルビカンスの生細胞の増殖を許容する選択的な培地による従来の方法とは対照的に、同じ免疫検出の方法を用いて測定する。
【0160】
膣内洗液の細胞学的調査のため、合わせた膣内洗液からスライドを調製し、MGG染色を実施する。
【0161】
膣内上皮細胞の外観、細菌及び酵母の存在、並びに炎症促進性の細胞の存在を観察により評価する(結果は示さない)。
【0162】
2日目に、対照グループを、炎症細胞の存在なしに、正常な膣内上皮細胞の存在により特徴付ける。カンジダ・アルビカンスにより感染したラットにおける主な違いは、カンジダ・アルビカンスによる感染によって引き起こされる炎症性の状態にあることを示す、非常に多くの多核好中球(PNN)及びいくつかの好酸球の存在である。
【0163】
フルコナゾールによる処置は、炎症性浸潤を予防する。おそらく、処置によりカンジダ・アルビカンスの放出が増加されることに対応する、いくつかのカンジダ・アルビカンスの存在を観察する。
【0164】
カンジダ・アルビカンスによる感染後12日目に、同様の観察を、2日目と関連する対照グループにおいて得る。カンジダ・アルビカンスにより感染したラットにおいて、カンジダ・アルビカンスが良好に株化し、炎症を引き起こすことを示す、非常に多くのマクロファージ及びいくつかの好中球の存在を観察する。フルコナゾールにより処理されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスを観察しないが、いくつかのマクロファージ及び好中球を観察する。フルコナゾールにより処置されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスの存在を観察するが、免疫細胞を発見しない(結果は示さない)。
【0165】
Sc I−3856酵母により予防的に処置されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスによる感染後2日目に、マクロファージ、好中球、及び好酸球を観察するが、カンジダ・アルビカンスにより感染されたラットにおいて観察されるよりも低い密度である(結果は示さない)。
【0166】
Sc I−3856酵母により治療的に処置されたラットにおいて、マクロファージ及び好酸球を何れも観察しないが、好中球の数の増加を示すのは、カンジダ・アルビカンスにより感染されたラットにおいて観察されたためである。
【0167】
カンジダ・アルビカンスにより感染され、フルコナゾール又はSc I−3856酵母 (予防的又は治療的処置として)を用いて処置されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスの存在を観察するが、カンジダ・アルビカンスにより感染され、何の処置もされていないラットにおいて、観察しないことは、膣内粘膜へのカンジダ・アルビカンスの付着の放出又は予防を示す処置の有効性を証明する。
【0168】
カンジダ・アルビカンスによる感染後12日目に、2日目の観察と関連する対照グループにおける同様の観察を得る。カンジダ・アルビカンスにより感染されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスが良好に株化し、炎症を引き起こすことを示す、非常に多くのマクロファージ及びいくつかの好中球の存在を観察する。フルコナゾールにより処置されたラットにおいて、カンジダ・アルビカンスを観察しないが、いくつかのマクロファージ及び好中球を観察する。
【0169】
Sc I−3856酵母により予防的に処置されたラットにおいて、マクロファージを観察しないが、好中球の存在を観察する。
【0170】
Sc I−3856酵母により治療的に処置されたラットにおいて、マクロファージ及び好中球の存在を観察する。しかしながら、カンジダ・アルビカンスにより感染されたラットと比較して、Sc I−3856酵母の投与の結果、炎症の減少を示す、わずかなマクロファージを観察する(結果は示さない)。
【0171】
[結論]
出願人はメスのラットにおける膣カンジダ症の新しいモデルを開発した。膣内感染の最大の強度が、カンジダ・アルビカンスの投与後12〜13日目に観察される。フルコナゾールによる抗真菌性の(antimycotic)処置を用いた陽性対照は、前記投与後12日目、カンジダ・アルビカンスによる感染を完全に防ぐことを可能にし、特に感染の最初の6日の間、膣内腔において、カンジダ・アルビカンスの放出を増加させる。
【0172】
Sc I−3856酵母を用いる予防的処置は、また、カンジダ・アルビカンスの投与後12〜13日目に、未処置のラットと比較して処置したラットの60%より多く、膣内感染を低減させることができる強力な治療効果を示す。この予防的効果は、カンジダ・アルビカンスによる感染後最初の4日の間に起こる、膣内腔へのカンジダ・アルビカンスの急速な放出となる可能性を高くしている。
【0173】
予防的処置の有効性と比較して僅かに低い有効性でありながら、治療的処置も、また、有効である。
【0174】
フルコナゾールを用いる処置と比較して、Sc I−3856酵母を用いる予防的処置は、膣カンジダ症を有するラットの膣内腔にカンジダ・アルビカンスのより急速な放出に導く。
【0175】
フルコナゾール又はSc I−3856酵母により、それぞれ処置されたラットの2つのグループにおいて、12〜13日目後のラットの膣内粘膜における生存可能なカンジダ・アルビカンスの大きな減少があるが、フルコナゾールにより処置されたものが僅かに優れる。この僅かに優れる減少がフルコナゾール分子の抗真菌性の(antimycotic)効果となる可能性がある。