特許第6188807号(P6188807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188807圧縮セルロース系材料を使用する部分的に加水分解されたセルロースを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188807
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】圧縮セルロース系材料を使用する部分的に加水分解されたセルロースを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 9/00 20060101AFI20170821BHJP
   C08B 5/14 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   D21C9/00
   C08B5/14
【請求項の数】34
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-532253(P2015-532253)
(86)(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公表番号】特表2015-533950(P2015-533950A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】CA2012050658
(87)【国際公開番号】WO2014043781
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】515072174
【氏名又は名称】ノラム エンジニアリング アンド コンストラクターズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ロックハート,ジェイムス エム.
(72)【発明者】
【氏名】ウェアリング,ジェイムス ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ガラムフセイン,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ホーベンシールド,エバン ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】デブリース,ダーク
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/015564(WO,A1)
【文献】 特表2012−526886(JP,A)
【文献】 特開昭56−169600(JP,A)
【文献】 特開昭57−206400(JP,A)
【文献】 特開昭54−065713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
C08B 1/00− 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース結晶子を製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる方法であって、
(a)乾いたセルロース系材料を提供するステップと、
(b)圧縮されたセルロース系材料を製造するため、前記乾いたセルロース系材料を圧縮するステップと、
(c)ステップ(b)の前、ステップ(b)の際もしくはステップ(b)の後に、前記乾いたセルロース系材料を酸溶液と接触させるステップであって、前記溶液前記セルロース系材料との重量比は1.5:1乃至5:1の範囲であるステップと、
(d)セルロース結晶子を製造するため、前記圧縮されたセルロース系材料に前記酸を吸収させ且つ前記酸と反応させるステップと
含む方法。
【請求項2】
前記乾いたセルロース系材料を圧縮する前記ステップは、その中の間隙を減らし、及び
前記圧縮されたセルロース系材料は、吸い上げにより前記酸を吸収する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧縮されたセルロース系材料中の前記間隙は、その中に空気を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾いたセルロース系材料は10wt%以下の水含有量を有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾いたセルロース系材料は4乃至10wt%の範囲の水含有量を有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記圧縮されたセルロース系材料は200乃至1200kg/mの範囲の密度を有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記圧縮されたセルロース系材料は450乃至550kg/mの範囲の密度を有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項8】
前記酸溶液と前記セルロース系材料との重量比は2:1以上である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記酸溶液と前記セルロース系材料との重量比は4:1乃至5:1の範囲である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸は硫酸である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸溶液内の酸の濃度は64重量%未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸溶液内の酸の濃度は50乃至70重量%の範囲である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記セルロース系材料は砕製されたもしくは粉砕されたセルロース系材料である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記セルロース系材料は20乃至100meshの範囲のメッシュサイズを有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記セルロース系材料は木材パルプを含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記圧縮されたセルロース系材料の撹拌なしにステップ(c)が行われる、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記圧縮されたセルロース系材料の撹拌ありでステップ(c)が行われる、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記製造されたセルロース結晶子を前記酸から分離するステップをさらに含む、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)の前に前記セルロース系材料を予備加熱するステップをさらに含む、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(d)は50乃至70℃の範囲の温度で行われる、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(c)の前に、前記酸は50乃至70℃の範囲の温度に加熱される、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記反応を停止するため、ステップ(d)の生成物を、水を含む流体と接触させるステップをさらに含む、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記圧縮されたセルロース系材料から空気を抽出するステップをさらに含む、請求項1乃至22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記圧縮されたセルロース系材料に真空を適用することにより、空気を抽出する前記ステップが行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
セルロース結晶子を製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる装置であって、
(a)装置の入力ゾーンにおいて当該装置内に乾いたセルロース系材料を供給する手段と、
(b)その中の間隙を減らし且つ圧縮されたセルロース系材料を形成するため、前記乾いたセルロース系材料を圧縮する手段と、
(c)前記圧縮されたセルロース系材料を前記圧縮する手段の下流で酸と接触させ、前記圧縮されたセルロース系材料における前記間隙内に前記酸を吸い上げる手段と、
(d)前記圧縮されたセルロース系材料から空気を抽出する手段と、
(e)セルロース結晶子を形成するため、前記圧縮されたセルロース系材料と吸収された酸を、両者間の反応の間保持する手段と、
(f)前記セルロース結晶子を当該装置の出力ゾーンからリリースする手段と
含む装置。
【請求項26】
空気を抽出する前記手段は、前記圧縮されたセルロース系材料に真空を適用する手段を含む、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記圧縮されたセルロース系材料を酸と接触させる前記手段は複数の酸適用ポイントを含む、請求項25又は26に記載の装置。
【請求項28】
前記圧縮する手段はスクリュータイプコンプレッサである、請求項25乃至27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記圧縮する手段はローラータイプコンプレッサである、請求項25乃至27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記圧縮する手段はシュープレスである、請求項25乃至27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
圧縮されたセルロース系材料と酸との混合物を撹拌する手段をさらに含む、請求項25乃至30のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
セルロース結晶子を製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる装置であって、
(a)コンベヤと、
(b)前記コンベヤ上に乾いたセルロース系材料を供給する手段と、
(c)圧縮されたセルロース系材料の層を形成するため、前記コンベヤ上の前記乾いたルロース系材料を圧縮するローラーもしくはシュープレスと
(d)前記圧縮されたセルロース系材料内への酸の吸収のため、前記圧縮されたセルロース系材料層に酸を適用する手段と、
(e)セルロース結晶子を形成するため、圧縮されたセルロース系材料の前記層と吸収された酸とを、両者の反応の間保持する手段と
含む装置。
【請求項33】
前記圧縮されたセルロース系材料と前記酸との間の反応をクエンチする手段をさらに含む、請求項25乃至32のいずれか一項に記載の装置。
【請求項34】
前記圧縮されたセルロース系材料から空気を抽出する手段をさらに含む、請求項33に記載の装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系材料を酸と反応させることにより部分的に加水分解されたセルロースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
素材(sources)、例えば木材パルプ及び木綿からのセルロース系材料の加水分解による部分的に加水分解されたセルロースの製造は、周知のプロセスである。このプロセスにおいて、硫酸、塩酸もしくは他の強酸または酸混合物は、部分的に加水分解されたセルロース(部分的に加水分解されたセルロースは、文献ではセルロース結晶子(crystallites)もしくはナノ結晶性セルロースと呼ばれる)を遊離させるため、微細に砕製された(ground)セルロース粒子を部分的に加水分解するのに使用される。反応温度、酸濃度及び反応時間は、多少異なり得るが、これらは典型的には、撹拌されたバッチ反応装置内でそれぞれ60℃+/−10℃,60wt%+/−10%,及び約20乃至60分の範囲にある。変化し得る別のパラメータ酸は、酸とセルロースとの重量比、典型的には10乃至20:1の範囲にある重量比である。一度所望の反応時間に到達したら、反応を呈するため混合物を好適な量の水もしくは希釈酸(初期混合物質量(mass)の約10倍)でクエンチする。次いでその大半の希釈酸は、典型的には遠心分離もしくは透析又はその両方により除去される。希釈酸は、プロセスでの再利用のため、中和され且つ処理され、又は(加水分解中に製造した糖を除去するため)製造され且つ再濃縮される。酸のこの大きな塊の廃棄もしくは回収は、非常に顕著な資本もしくは運用費用を表している。
【0003】
部分的に加水分解されたセルロースを製造するための慣用の先行技術の手順は、上述のように約10乃至20:1のオーダーにおける比較的高い酸とセルロースとの重量比を使用する。これら比較的高い比率においてさえ、製造された混合物は非常に粘性であり、そして2つの成分を一緒に効果的に混合もしくは接触させるのは難しい。なぜなら特に砕製されたセルロースは非常に低い密度を有し、その結果この2つの体積は類似しているからである。
【0004】
上記プロセスステップは先行技術文献に記載される。例えば:
(1)US5,629,055(Revol et al.);
(2)US5,188,673(Clausen et al.);
(3)US5,972,118(Hester et al.);
(4)Jean−Francois Revol, Louis Godbout, Xue−Min Dong, Derek G. Gray, Henri Chanzy, and Georg Maret,”Chiral nematic suspensions of cellulose crystallites; phase separation and magnetic field orientation,” Liquid Crystals,(1994) Vol. 16, No.1:127;及び
(5)Xue Min Dong, Tsunehisa Kimura, Jean−Francois Revol, and Derek G. Gray,”Effects of Ionic Strength on the Isotropic−Chiral Nematic Phase Transition of Suspensions of
Cellulose Crystallites,” Langmuir, (1996) Vol. 12: 2076;
(6)Qian Xiang, Y. Y. Lee, Paero Pettersson, Robert W. Torget, ”Heterogeneous Aspects of Acid Hydrolysis of a−Cellulose,” Applied Biochemistry and Biotechnology, (2003), Vol. 107: 505−513。
【0005】
酸とセルロースとの間に高程度の混合もしくは接触が存在することが、先行技術の加水分解反応にとって重要である。さもなければセルロース露出もしくは反応時間における大きな変化は、高程度の未反応セルロースもしくは過剰反応セルロースをもたらし得る。これは、酸とセルロースとのより低い比率において達成することをかなり難しくする。1の理由は、砕製されたセルロースの体積は、約100kg/mの典型的な密度において、中へ混合され得る酸の体積(硫酸が使用される場合、酸は約1500kg/mの密度を有する)と同等もしくはそれ以上になることである。第2の理由は、得られる混合物が非常に高い粘度を有し、且つ反応時間の一部もしくは全てにおいて液体というよりも濃いペーストのように振る舞うことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、微細なセルロース系材料と酸とを接触させ且つ反応させる方法及び装置を提供する。当該方法及び装置において、セルロースは圧縮されて高密度材料を形成する。本発明は、酸の減少した消費と反応時間の増加した均一性とをもたらす。酸精製及び回収のコストもしくは酸廃棄のコストは従って低減される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる方法が提供される。圧縮されたセルロース系材料を製造するため、セルロース系材料が提供され且つ圧縮される。圧縮ステップの前、圧縮ステップの際もしくは圧縮ステップの後に、セルロース系材料を酸と接触させる。その際、酸とセルロース系材料との重量比は1.5:1以上である。部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、圧縮されたセルロース系材料に、酸を吸収させかつ酸と反応させる。
【0008】
本発明のさらなる態様によると、部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる方法が提供される。セルロース系材料が提供され、そして圧縮されて、その中の間隙(interstitial spaces)を減らし且つ圧縮されたセルロース系材料を製造する。圧縮されたセルロース系材料は酸と接触させる。部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、酸を圧縮されたセルロース系材料内の間隙内へと吸い上げ(wick)させ、且つセルロース系材料と反応させる。
【0009】
本発明の別の態様は、部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる装置を提供する。装置は、
材料内の間隙を減らし且つ圧縮されたセルロース系材料を形成するため、装置内にセルロース系材料を供給する手段と、
前記圧縮されたセルロース系材料を圧縮手段の下流で酸と接触させ、圧縮されたセルロース系材料における間隙内に酸を吸い上げる手段と、
部分的に加水分解されたセルロースを形成するため、圧縮されたセルロース系材料と吸収された酸とを、両者の反応の間保持する手段と、
前記部分的に加水分解されたセルロースを装置の出力ゾーンからリリースする手段と、を有する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、部分的に加水分解されたセルロースを製造するため、セルロース系材料を酸と反応させる装置を提供する。装置は、
コンベヤと、
コンベヤ上にセルロース系材料を供給する手段と、
圧縮されたセルロース系材料の層を形成するため、コンベヤ上のセルロース系材料を圧縮するローラーもしくはシュープレスと、
圧縮されたセルロース系材料内への酸の吸収のため、圧縮されたセルロース系材料に酸を適用する手段と、
部分的に加水分解されたセルロースを形成するため、圧縮されたセルロース系材料の層と吸収された酸とを、両者の反応の間保持する手段とを有する。
【0011】
本発明のさらなる態様及び具体的実施形態の特徴を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、スクリュータイプコンプレッサを組み込んでいる本発明による装置の一実施形態の概略図である。
図2図2は、コンベヤベルト及びローラータイプコンプレッサを組み込んでいる本発明による装置の第2の実施形態の概略図である。
図3図3は、圧縮力の関数としてのセルロースプラグ密度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
部分的に加水分解されたセルロースを調製する本発明方法は、圧縮された体積の微細な漂白されたケミカルパルプ、もしくは他のセルロース系材料、例えば酸を吸収する木綿を使用する。外部混合なしにもしくは最低混合ありで且つかなり低い酸とセルロースとの比率において、効果的な酸とセルロースとの接触を可能にするからである。セルロース系材料内への吸収は、吸い上げ(wicking)、即ち毛細管作用により圧縮されたセルロース系材料内の間隙内へ液体を搬送することによる。本発明で使用されるセルロース系材料は微細であり、例えば20乃至100meshの範囲のメッシュサイズを有する。セルロース系材料は、所望のメッシュサイズにグラインディング、ミリングもしくは他のやり方で細かく砕くことにより微細に調製されてよい。
【0014】
一実施形態において、乾燥され漂白されたクラフトパルプは、まず20乃至100meshの範囲のサイズに微細に砕製される。砕製されたパルプはふわふわしており、約50乃至100kg/mの範囲の密度を有する。次いで、圧縮されたセルロース系材料のボディを形成するため、砕製されたパルプを圧縮する。圧縮された材料の密度は約500kg/m又は約200乃至1200kg/mの範囲でよい。次いで、圧縮されたセルロース系材料をある量の硫酸と接触させる。その酸は、撹拌なしに材料内へ吸い上げさせる。酸とセルロースとの重量比は、好ましくはできる限り低いが、約500kg/mのセルロース密度について約2:1においてセルロースの全てをまだ湿らしているが、1.5乃至5:1の範囲でよい。硫酸の濃度は、約60重量%、もしくは50乃至70重量%の範囲でよい。あるいは、他の酸、例えば塩酸、は酸混合物を硫酸の代わりに使用してよい。


【0015】
所望の反応温度に近い高温で酸を導入するのが望ましい。従って、酸を約60℃の温度、もしくは約50乃至70℃の範囲に予備加熱する。酸の吸収及び加水分解反応の際、混合物の温度を約60℃、もしくは約50乃至70℃の範囲に維持する。セルロースの加水分解の所望段階が達成されるまで、例えば約45分間、典型的には約20乃至60分の範囲で、反応の進行を放置する。反応生成物である部分的に加水分解されたセルロースを次いで、慣用のステップ、例えば沈殿、遠心分離、透析、濾過及び乾燥により精製する。
【0016】
空気を抽出しかつそれにより圧縮された塊内へ酸の吸収を促進し、及び捕捉された空気の存在により生じたセルロースマトリックス内の濡れていない領域の可能性を減らすため、任意には、吸収及び反応の間中、真空を圧縮されたセルロースに適用してよい。
【0017】
上記の酸濃度及び温度の範囲にわたり、圧縮されたパルプ内への完全な酸吸い上げが、いずれの外部混合(external mixing)なしに4:1の酸とパルプとの重量比において生じたことが観察された。酸とパルプとの低重量比において、多少の手動操作もしくは外部混合が、完全な接触を達成するのに役立つ。1:1の比率において、酸によるパルプの完全な接触は、使用されたセルロース密度約500kg/mにとって可能には見えなかった。そのセルロース密度において、約2:1の酸とセルロースとの最小比率が最小であるようであった。これは、圧縮されたパルプ内の空隙率に等しい酸体積に対応していた。低空隙率を有する高密度セルロースは、間隙を満たし且つセルロースを十分に濡らすため、少ない酸を必要とし得ることを示していた。依って、セルロース密度を増やすこともしくは低濃度酸を使用することにより、酸とパルプとの重量比をさらに減らせると思われる。ゴールは、与えられた部分的に加水分解されたセルロース生成率について酸の使用率を最小化することなので、これは望ましい。
【0018】
部分的に加水分解されたセルロースの製造において、酸濃度は重要度が高い。1%の変化でさえ収率及び条件の所定のセットにについて得られる特性に対して劇的なインパクトを有する。一般的に遭遇する室内空気温度及び湿度において、「乾いた」パルプは約4乃至10wt%の水を含有するかもしれない。先行技術において考察された酸とセルロースとの重量比、即ち約10乃至20:1において、この水含有量は、酸濃度に対して比較的小さいインパクトを有する。例えば0.5gの水を含有する(5%)10gのセルロースは、100gの62wt%酸の有効濃度を61.7wt%に減らす。しかしながら、本発明で使用された低減した酸とセルロースとの重量比、例えば約2乃至4:1において、この水分はもっと大きいインパクトを有する。例えば0.5gの水を含有する10gのセルロースは、20gの62wt%酸の有効濃度を60.5wt%に減らす。酸濃度おけるこの低減はまた、混合の熱のせいで反応濃度のわずかな減少をもたらす。
【0019】
同様に酸とセルロースとの低い比率はまた、合計質量についてもっと大きい百分率であるセルロースのせいで、最終混合物温度に対するセルロース温度の増加したインパクトをもたらす。
【0020】
熱的及び濃度平衡が作用されるまで、混合物の一部において生じる高い反応速度のせいで、これらの効果を相殺するため、上の述べた望ましい反応条件のかなり上回る酸の温度もしくは濃度を単に上げることは望ましくない。必要に応じてセルロースを予備加熱及び/もしくは乾燥するのが好ましい。
【0021】
本発明方法のさらなる実施形態において、上述のように酸と接触させる前にセルロース系材料の圧縮を完了するよりも、圧縮の前に、もしくは圧縮の際に、もしくはその両方において、セルロース系材料に酸もしくは酸のいくつかを適用する。この手順は、圧縮が完了する前に、合計反応時間のごくわずかな一部分が経過しただけの、十分に急速に圧縮が行われることを必要とする。その結果、最初に酸に接触するセルロース系材料のその一部分と、圧縮の最中もしくは直後の吸い上げによって生じるバルクとの間で酸接触時間にあまり大きな違いはない。酸の適用のタイミングのこの違いを除き、プロセスは上記の物と同じである。
【0022】
図1は、セルロース系材料を酸と反応させるための装置の一実施形態の概略図である。当該装置においてスクリュータイプコンプレッサが、セルロース系材料を圧縮するのに使用される。装置20は、連続スループットに基づき操作されることを意図される。装置は、その中でシャフト24が伸びている円筒形チューブ22を有する。シャフト24は、チューブの両端26,28に軸支される。シャフト24とチューブの内側表面との間の環状空間23がある。その空間内を材料が搬送される。図1に示されないが、圧迫されるセルロース系塊に対する圧縮力を起こすため、実際にはシャフト24の直径もしくはチューブ22の内径のいずれかは、図1中の左から右の方向に減少する。チューブは3つの主要なセクション、即ち圧縮セクション32と酸適用セクション34と保持セクション36とを有する。圧縮セクションにおいてシャフト24は、そこに固定され、そしてチューブのなかを、パルプを搬送し且つパルプを圧縮するように構成されたフライト38を有する。パルプ入力ポート40パルプホッパー42が、低密度砕製パルプを供給するためのチューブの入力端もしくはゾーン26の近くに設けられる。
【0023】
チューブ22の酸適用セクション34は、ジャケット44に包囲される。ジャケット44は、隙間46によってチューブの外側表面から分離されている。複数の穴48がジャケット内のチューブの外周周囲に施される。それによってチューブの内部空間23が隙間46と流体連通している。ジャケット内の酸入力ポート50及び酸供給タンク52は、隙間46中に酸の流れを、及び従って穴48を通ってチューブ22の内部空間23内へと提供する。穴48は、必要とされる吸い上げ流路を最小化するため、圧縮されたパルプ内部への酸のために複数の導入ポイントを提供する。
【0024】
圧縮セクション32は、好ましくは酸適用セクション34より前にある。但し、合計反応時間の顕著な百分率が完了される前に、圧縮が接触を完了させるのに十分に急速である限り、まず酸導入とともに、もしくは圧縮と同時に、装置も機能する。
【0025】
空気抽出セクション58は、酸適用セクション34の下流に設けられる。このセクション内のチューブ22には、複数の穴60が貫通され、そして真空ポンプもしくは他の真空供給源との接続用真空ポート64を有する真空ジャケット62により囲まれ、且つ間隔を開けられている。このセクションは、圧縮されたセルロース系材料のプラグからの空気の抽出を可能にするため機能し、プラグ内への酸の吸い上げを促進し、且つ空気がプラグ内に捕捉されるのを防ぐ。任意には、空気抽出セクション58は、圧縮セクション32と酸適用セクション34との間に位置してよい。任意には、プラグ内の空気捕捉が顕著でない場合、空気抽出セクションは全部省略されてよい。
【0026】
保持セクション36は、酸適用セクション34及び空気抽出セクション58の下流に位置する。保持セクション内で、チューブ22は、加熱ジャケット66に囲まれる。保持セクションは、酸と圧縮されたパルプとの混合物を所望の温度で、所望の反応時間が到達するまで保持する。保持セクション36の長さはそれに応じて選択される。最も均一な反応時間及び生成物を達成するため、保持セクション内の材料の分散もしくは逆混合は、最小限にすべきである。
【0027】
任意には、酸とセルロース系材料との間の接触を促進するため、且つ酸要件を減らすため、装置の酸適用セクション及び保持セクション内で、混合物を穏やかに撹拌するピンもしくは他の手段(図示せず)が設けられていてよい。
【0028】
出力ポート68は、反応した材料のリリースのためのチューブの出力端もしくはゾーン28に設けられる。撹拌されたタンク70は、出口の下流に設けられる。ここで、反応を呈するため、材料は激しく水もしくは希釈酸と接触してよい。あるいは、静的なもしくは動的なミキサーを撹拌されたタンクの代わりに使用してよい。
【0029】
図2は、セルロース系材料を酸と反応させるための装置の第2の実施形態の概略図である。当該装置において、パルプを圧縮するのにローラーが使用される。装置80は、それぞれベルトの入力端もしくはゾーン88及び出力端もしくはゾーン90においてローラー84,86上で可動性のコンベヤベルト82を有する。1つのローラー84はモータ92により駆動される。入力端88において、ベルト上に低密度パルプ96を供給するため、パルプホッパー94が設けられる。ローラー98は、ローラーとベルト82との間のパルプ96を圧縮するためのホッパーの下流に設けられ、ベルト上の圧縮されたパルプの層99を形成する。セルロースの量、ベルトの幅、ローラー圧縮及びベルト速度は、所望の最終セルロース密度及び層の厚さもしくは必要とされる吸い上げ距離に適合され得る。
【0030】
酸噴霧器100が、ローラー98の下流に設けられ、加熱された酸溶液を圧縮されたパルプ層99上にスプレーする。保持セクション102は、酸噴霧器100とベルトの出力端90との間にある。保持セクション内で、圧縮されたパルプと酸との混合物が、所望の反応温度で及び所望の反応時間保持される。このセクション102は、反応の温度を制御するための加熱ジャケット104により囲まれる。任意には酸噴霧器100は、加熱ジャケット104内にあってよい。
【0031】
酸浸透を促進させるため、酸接触を改善するため、及び酸要件を減らすため、圧縮されたパルプ層99に加圧するように、保持セクション102内に1以上の追加のローラーのセット106が設けられてよい。任意には、コンベヤベルト82の下側に、及びそれにより圧縮された層99に真空を適用するよう、空気抽出手段108を設けてもよい。
【0032】
加水分解反応を呈するため、材料を水もしくは希釈酸と接触させるためのコンベヤベルトの出力端90を出ていく生成物を受容するように、撹拌されたタンク110は配置される。
【0033】
US6,045,658(Alheid)に記載された様に、ウェブを動かすためのシュープレスもしくは拡張ニッププレスを使用して、ローラー98の機能は交互に達成されてよい。
【実施例】
【0034】
比較実施例1
コントロールとして10gの乾いた漂白されたクラフトパルプを、ナイフミルで20乃至100meshの細かさに砕製した。この手順の後、遊離したふわふわのパルプは50乃至100kg/mの密度を有した。この微細に砕製された乾いたクラフトパルプを、65℃で水浴中継続的に混合したビーカー内で90gの60%硫酸と45分間反応させた。この圧縮されていないふわふわのパルプと酸との接触は、遊離のパルプ塊中への吸い上げがごく少量生じることを示した。そしてパルプを酸の中に押し込むため且つパルプを完全に濡らすため、外部混合が要求された。得られる混合物は最初は非常に濃厚であり、使用された酸比率(酸とパルプとの重量比約9:1で、これは撹拌された容器を使用して可能な最低限に近い)において混合するのは難しかった。反応時間の後、混合物を次いで1000mLの脱イオン水でクエンチし、一晩沈殿させた。午前中に透明な上澄みをデキャントして除き、約300gの残留懸濁液を10乃至30mLのアリコートに分割した。アリコートは実験室規模のバッチ遠心分離機内で10分間1,100rpmで処理された。次いでアリコートはデキャントされ、脱イオン水で再充填され、懸濁液がもう分離されなくなるまで、再度遠心分離機内でさらに2回処理された。これはpH約1.2に対応した。次いで10の個々のアリコートを透析バッグ内に置き、pH少なくとも約1.2に達するまで脱イオン水で透析した。コロイド状部分的に加水分解されたセルロースを次いでデキャントし、90分間超音波処理し、0.3ミクロンフィルターを通して濾過し、一晩40℃で薄膜になるまで乾燥した。このコントロール方法は、0.83gの乾燥した部分的に加水分解されたセルロース膜を収率8.3%で製造した。
【0035】
実施例2
実施例1に記載された低密度パルプのサンプルを、2.54cm内径ガラスシリンダ内に置き、次いで変化する密度の圧縮されたプラグを製造するため、様々な圧縮率で水圧プレスを使用して圧縮した。圧縮されたパルプは、一度圧力を除くと、わずかに再膨張しただけであった。従って圧縮された材料はほぼ同じ増加した密度を維持していた。圧縮力と得られるパルプ密度との対比データは図3に記載される。以下に考察されたほとんど実験に関して、高密度(1000kg/m)と多少低密度(250kg/m)との間の中間である約500kg/mのパルププラグ密度を使用した。
【0036】
実施例3
本発明の吸い上げ接触方法を使用して、各々2.54cm直径,約1cm高さの微細に砕製された乾いたクラフトパルプの圧縮されたプラグ4個(10.6g合計)を、60wt%硫酸と、酸とパルプとの重量比4.5:1、65℃で45分間接触させた。反応期間中、小型実験室規模の装置内で温度均一性を維持するのを助けるため数分おきに一度、混合物は穏やかに撹拌されただけであった。45分後、混合物を約1000mLの脱イオン水でクエンチし、沈殿させ、遠心分離し、透析し、濾過し及び実施例1について上に記載したように膜になるまで乾燥した。この吸い上げ方法もまた、実施例1の半分の酸比率を使用しながら、0.83gの乾燥した部分的に加水分解されたセルロース膜を非常に類似した7.8%収率で製造した。
【0037】
実施例4
約63乃至64wt%を上回る硫酸濃度において、吸い上げ性能の顕著な変化があった。この閾値濃度より上で、砕製されたパルプはもはや急速に硫酸を吸収しなかった。その代わり、さらなる酸吸収を阻害した厚さ約1mm未満の薄い粘着膜が製造された。追加の実験は、酸が−6℃に冷却された場合にもこの効果が維持されることを証明した。パルプは酸濃度閾値以上吸い上げしなかっただけでなく、圧力(約40psig),真空(約−10psig)もしくは両者の組合せを使用してプラグ内で酸を押し進めることは不可能であった。濃度閾値以上の完全な接触を達成するには、パルプを微小片に破壊するかなり激しい混合が必要とされた。セルロースの吸い上げ特性を使用するため、及び接触効率を最大化するため、この閾値以下にとどまるのが有益である。さもなければ、所定の混合物の性質を達成するは難しい、顕著な混合もしくは非常に短い吸い上げが必要とされる。混合した酸の使用、例えば硫酸及び塩酸、もしくは酸の溶媒和特性に影響する他の可溶性添加剤を吸い上げが生じる酸濃度範囲を拡張するのに使用できると思われる。圧縮されたセルロースが十分に薄い層内にある場合、例えば図2の装置を使用して63乃至64wt%より上の硫酸濃度を使用できるとも思われる。
【0038】
上述の開示に鑑み当業者には明らかであるように、発明の範囲から逸脱しない限り、本発明の実施において多くの変更及び改変が可能である。従って発明の範囲は、以下の請求項に従って解釈すべきである。
図1
図2
図3