特許第6188813号(P6188813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188813
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】電気化学分離装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20170821BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20170821BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C02F1/46 103
   B01D61/46
   B01D63/10
   B01D61/46 510
【請求項の数】17
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-543029(P2015-543029)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2016-505358(P2016-505358A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】US2013032068
(87)【国際公開番号】WO2014077887
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】61/727,914
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513180152
【氏名又は名称】エヴォクア ウォーター テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Evoqua Water Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】リャン リ−シャン
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 中国実用新案第2811266(CN,Y)
【文献】 特開平06−007645(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3003358(JP,U)
【文献】 特表平06−508660(JP,A)
【文献】 米国特許第01425752(US,A)
【文献】 実公昭48−013632(JP,Y1)
【文献】 特開2010−253451(JP,A)
【文献】 特表2007−508927(JP,A)
【文献】 特開2001−198576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46
B01D 61/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学分離装置であって、
第1の電極と、
前記第1の電極のまわりに巻かれてバンドルを形成する、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を含む少なくとも1つのセル対と、
前記バンドルを取り囲む第2の電極とを備え、
前記第1の電極は、直線部分と湾曲部分とを含む各部分に分割され、
前記バンドルは断面において、直線部分および該直線部分の第1の端と第2の端に湾曲部分を有し、
前記第1の電極の前記各湾曲部分の半径に対する前記直線部分の長さの比が、ゼロより大きく、
分割された前記第1の電極の前記各湾曲部分の半径は、セル対の数に依拠しない、装置。
【請求項2】
希釈流れおよび濃縮流れが、前記第1の電極から前記第2の電極まで並流するように構成された請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項3】
前記第1の電極は、アノードを含み、前記第2の電極は、カソードを含む、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、各端に半円形部分を有する直線部分を含み、細長S字形状のアノードを画定する、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項5】
前記第1の電極は、各端に締結タブをさらに備えて、前記少なくとも1つのセル対を固定する、請求項4に記載の電気化学分離装置。
【請求項6】
前記アノードは、耐酸化性材料で被覆されている、請求項3に記載の電気化学分離装置。
【請求項7】
前記アノードの第1の分割片と第2の分割片の間に所定の距離が維持されるように構成されるスペーサをさらに備える請求項に記載の電気化学分離装置。
【請求項8】
前記カソードは分割されている、請求項3に記載の電気化学分離装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つのセル対を通る流体フローを促進させるためのマニホルドをさらに備える請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項10】
前記バンドルの少なくとも一端は、接着剤を用いて封止されている、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項11】
前記バンドルを収容するように構成された容器をさらに備える請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項12】
前記容器は端受けを備える、請求項11に記載の電気化学分離装置。
【請求項13】
膜利用率が少なくとも85%であることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項14】
電流密度が、前記バンドルの直線部分の全体にわたって実質的に均一である、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項15】
前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜は、前記バンドルの前記直線部分に沿って平面状かつ平行である、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項16】
前記バンドルは、2つの対称軸を有する、請求項1に記載の電気化学分離装置。
【請求項17】
請求項1に記載の電気化学分離装置を備える水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に電気化学分離、特に、レーストラック形状に配列されたイオン交換膜を用いる電気化学分離システムおよび電気化学分離方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
1つ以上の態様によれば、電気化学分離装置は、第1の電極と、第1の電極のまわりに巻かれてレーストラック形状を有するバンドルを形成する、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備える少なくとも1つのセル対と、バンドルを取り囲む第2の電極とを備えることができる。
【0003】
いくつかの態様では、上記装置は、希釈流れと濃縮流れが、第1の電極から第2の電極まで並流するように構成されてもよい。第1の電極はアノードを備え、第2の電極はカソードを備えてもよい。アノードは、各端に半円形部分を有する直線部分を有し、実質的に細長S字形状をしたアノードを画定することができる。アノードは、各端に締結タブ等の締結具をさらに備えて少なくとも1つのセル対を固定してもよい。アノードは、耐酸化性材料で被覆されていてもよい。
【0004】
いくつかの態様では、アノードは分割されていてもよい。上記装置は、アノードの第1の分割片と第2の分割片の間に所定の距離を維持するように構成されるスペーサをさらに備えることもできる。他の態様では、カソードは分割されていてもよい。上記装置は、上記少なくとも1つのセル対を通る流体フローを促進するためのマニホルドをさらに備えることもできる。
【0005】
いくつかの態様では、バンドルの少なくとも一端は、接着剤で封止されている。容器によってバンドルが収容されるように構成してもよい。容器は端受けを備えることもできる。上記装置は、膜利用率が少なくとも約85%であることを特徴としてもよい。
【0006】
いくつかの態様では、バンドルは断面において、略直線部分と、該略直線部分の第1の端と第2の端に湾曲部分とを有する。電流密度は、バンドルの略直線部分の全体にわたって実質的に均一でありうる。各湾曲部分の高さに対する略直線部分の長さの比は、ゼロより大きくてもよい。少なくともいくつかの態様では、湾曲部分の高さは、セル対の数に依拠しない。いくつかの態様では、アニオン交換膜およびカチオン交換膜は、バンドルの略直線部分に沿って平面状かつ平行である。バンドルは、通常、2つの対称軸を有することができる。
【0007】
いくつかの態様では、水処理システムが、第1の電極と、該第1の電極のまわりに巻かれてレーストラック形状を有するバンドルを形成する、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備える少なくとも1つのセル対と、バンドルを取り囲む第2の電極とを有する電気化学分離装置を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】1つ以上の実施形態に係る電気化学分離装置の概略断面図である。
図2】1つ以上の実施形態に係る、図1の断面の詳細図である。
図3】1つ以上の実施形態に係る電気化学分離装置の概略図である。
図4】1つ以上の実施形態に係る、図3aの断面の詳細図である。
図5】1つ以上の実施形態に係る、容器に収容された電気化学分離装置の概略図である。
図6】1つ以上の実施形態に係る、種々のフローパターンの概略図である。
図7】1つ以上の実施形態に係る、以下で示す実施例において検討されるデータである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記の例示的な態様および実施形態のさらに他の態様、実施形態および利点について以下に詳述する。本明細書中に記載の実施形態は、本明細書中に開示された少なくとも1つの主旨に矛盾しないいかなるやり方でも他の実施形態と組み合わせ可能であり、「ある実施形態」、「いくつかの実施形態」、「代替的な実施形態」、「種々の実施形態」、「1つの実施形態」等の記載は必ずしも互いを除くものではなく、記載された特定の要素、構造または特徴が少なくとも1つの実施形態に含まれうることを示すに過ぎない。本明細書中のかかる記載は、必ずしも同じ実施形態を全て指すものではない。
【0010】
少なくとも1つの実施形態の種々の態様について、添付図面を参照して以下に説明するが、図面は寸法を定めるものではない。添付図面は、種々の態様および実施形態の例示およびさらなる理解を提供するものであり、この発明の詳細な説明に組み込まれるとともにその一部を構成するものであるが、本発明の範囲を定めるものではない。図面中の技術的特徴、詳細な説明、または請求項が参照符号を伴う場合、そのような参照符号を付した唯一の目的は、図面および説明についての理解度を高めることである。添付図面では、同一またはほぼ同一の各要素は、別の図面に示されていても同様の参照符号によって示す。わかりやすくするため、必ずしもすべての構成要素について、各図面中で参照符号を付してはいない。
【0011】
電界を用いて流体を浄化する装置は、溶解イオン種を含有する水および他の液体を処理するために一般的に用いられている。このように水を処理する装置として、電気脱イオン装置および電気透析装置の2種類が挙げられる。これらの装置内には、イオン選択膜によって分離された濃縮室および希釈室が存在する。電気透析装置は、通常、交互に設けられた電気活性の半透過性のアニオン交換膜およびカチオン交換膜を備えている。膜間の空間は、流入口および流出口を有する液体フローの区画室を形成するよう構成されている。電極を介して印加される電界によって、溶解イオンはそれぞれの対向電極に引き寄せられ、アニオンおよびカチオン交換膜を通って移動する。これにより一般に、希釈室の液体からはイオンが除去され、濃縮室の液体は移動してきたイオンで濃度が上昇する。
【0012】
電気脱イオン化(EDI)は、電気活性媒体および電位を用いて、1つ以上のイオン化種またはイオン性種を水から除去するかまたは少なくとも減少させてイオン移動を行うプロセスである。電気活性媒体は、通常、イオン性種および/またはイオン化種の回収および放出を交互に繰り返し、そして、場合によっては、イオン的または電気的な置換機構によって、例えば連続的に、イオン移動を促進するよう働く。EDI装置は、永久荷電または一時的荷電を有する電気化学活性媒体を含むことができ、バッチ的に、断続的に、継続的に、および/または、さらには反転極性モードにおいて動作しうる。EDI装置は、性能を実現しまたは強めるように特に設計された1つ以上の電気化学反応を促進するよう動作することができる。さらに、かかる電気化学装置は、電気活性膜、たとえば半透過性または選択透過性のイオン交換膜または二極性膜を有していてもよい。連続電気脱イオン(CEDI)装置とは、当業者に知られたEDI装置であり、イオン交換材料の連続的な再荷電を行いつつ、水浄化も連続的に処理可能なように動作する。CEDI技術としては、たとえば、連続脱イオン化、充填セル電気透析、または電気透析(electrodiaresis)等のプロセスが挙げられる。電圧および塩分濃度の制御下において、CEDIシステムでは、水分子が分解されて、水素またはヒドロニウムイオン(または種)と、水酸化物または水酸基イオン(または種)とが生成可能であり、これらが装置内のイオン交換媒体を再生し、したがって、捕捉された種のイオン交換媒体からの放出が促進される。このようにして、処理対象の水の流れはイオン交換樹脂の化学的再荷電を必要とせずに連続的に浄化可能である。
【0013】
電気透析(ED)装置は、CEDIと同様の原理で動作するが、ED装置は通常、膜間に電気活性媒体を備えていない。電気活性媒体が無いため電気抵抗が上昇し、EDの動作は、低塩分濃度の供給水については妨げられる場合がある。また、高塩分濃度の供給水についてのEDの動作は電流消費の増大を生じさせる場合があるため、ED装置は、従来、中程度の塩分濃度の源水に対して最も効率的に用いられてきた。ED型のシステムでは、電気活性媒体がないため、水の分離は非効率的であり、このような形での動作は通常避けられている。
【0014】
CEDI装置およびED装置では、複数の隣接するセルまたは区画室は、通常、正または負の荷電種(通常は両方ではない)の通過を可能とする選択透過性膜により分離される。希釈室または除去室は、通常、かかる装置内で、濃縮室を間に挟んで設けられている。いくつかの実施形態では、セル対とは、隣接する濃縮室および希釈室からなる対ということができる。水が除去室を流れる時、イオン性種および他の荷電種は通常、DC電界等の電界の影響下で濃縮室へ引かれる。正の荷電種は、多数の除去室および濃縮室のスタックの一端に通常位置するカソードへ引かれ、負の荷電種は、同様に、区画室のスタックの他端に通常位置する該装置のアノードへ引かれる。両電極は、除去室および/または濃縮室との流体連通から通常部分的に分離されている電解質区画室内に一般に収容されている。荷電種は通常、濃縮室内に入ると、濃縮室を少なくとも部分的に画定している選択透過性膜の障壁によって捕捉される。たとえば、アニオンは通常、カチオン選択膜により、濃縮室を出てカソードに向かってさらに移動することを妨げられる。濃縮室内に捕捉されると、捕捉された荷電種は濃縮流中に除去される。
【0015】
CEDI装置およびED装置においては、通常、電極(アノードまたは正電極、および、カソードまたは負電極)に印加される電圧および電流源から、DC電界がセルに印加される。電圧および電流源(まとめて「電源」という)は、それ自体が、AC電源、またはたとえば、太陽光、風力または波力に由来する電源等の種々の手段によって駆動されうる。電極/液体界面において電気化学半電池反応が生じ、これによって膜および区画室を通るイオンの移動が開始および/または促進される。電極/界面で生じる特定の電気化学反応は、電極アセンブリを収容する専用区画室内の塩濃度によってある程度制御可能である。たとえば、塩化ナトリウム濃度の高いアノード電解質区画室への供給は、塩素ガスと水素イオンを生成しやすく、一方、カソード電解質区画室へのそのような供給は、水素ガスと水酸化物イオンを生成しやすい。通常、アノード室で生成した水素イオンは遊離アニオンたとえば塩素イオンと会合し、電荷中性が維持されて塩酸溶液が生成され、同様に、カソード室で生成した水酸化物イオンは遊離カチオンたとえばナトリウムと会合し、電荷中性が維持されて水酸化ナトリウム溶液が生成されることになる。電極室の反応生成物、たとえば、生成した塩素ガスおよび水酸化ナトリウムは、殺菌目的、膜洗浄および付着物除去目的、およびpH調整目的等、必要に応じてプロセスにおいて利用可能である。
【0016】
従来の枠板式ED設計では、希釈流および濃縮流は平行に流れ、それは並流または対流である。別の可能な設計としてクロスフロー装置が挙げられ、その場合、希釈流と濃縮流は互いに対して垂直に流れる。枠板式設計と比較して、クロスフロー設計は、膜利用率が高く圧力降下が低いという利点を有する。枠板式設計とクロスフロー設計はともに、交互に設けられたアニオン膜およびカチオン膜を備えており、それら膜は平面状であり、スクリーンで分離されている。平行に設けられた要素である各スタックは、両端が電極に接している。電流は、流入口マニホルドおよび流出口マニホルドを通って流れることによりスタックを迂回する一部(漏れ電流)を除いて、各膜を通ってアノードからカソードまで直列で流れる。漏れ電流が全電流のほんの一部である場合は、平均電流密度は、スタック全体で実質的に均一となるはずである。したがって、供給水が希釈室を通って流れるとき、隣接する濃縮室へのイオンの移動速度は流路に沿いにほぼ同じとなる。
【0017】
枠板式設計およびらせん式設計は、これらに限定されないが、電気透析(ED)装置および電気脱イオン(EDI)装置を含む種々の種類の電気化学脱イオン装置に用いられてきた。市販されているED装置は、通常、枠板式設計である一方、EDI装置は、枠板式形状とらせん形状の両方が入手可能である。らせん式設計では、装置は、中央部において一方の電極のまわりに膜およびスクリーンがらせん状に巻き付けられ、周縁部において他方の電極がそのまわりに巻き付けられる構成とすることができる。希釈流と濃縮流は、内側または外側に向かって、並流または向流し、らせん状経路を径方向に流れることができる。あるいは、流れのうちの一方は径方向、他方は軸方向であってもよい。一般的な構成では、内側の電極はアノードであり、外側の電極はカソードである。海水等の供給水が中央部から導入され、希釈室および濃縮室に供給される。両流れとも、カソードに向かってらせん状経路内を外方向へ流れる。らせん状バンドルの各端部は埋込み接着材で封止されている。生成物および廃棄物は、らせん状の区画室の外端で回収される。
【0018】
従来のらせん式設計は、枠板式設計に対して特定の利点を有しうる。らせん式設計の漏れ電流は、膜を通って流れる代わりにらせん状経路に沿って流れる電流のみであり、それは最小限であると見込まれる。この装置のアセンブリは、より少ない工程で済み自動化も容易である。枠板式の場合には備えられるサペーサ等の要素も必要としない。らせん式設計には特定の不都合もある。たとえば、内側の電極からの距離が増すと電流密度が減少し、したがって、希釈流が外側に向かってらせん状に流れるにつれて希釈流からのイオンの移動速度は遅くなる。実用で必要とされる量のイオンを除去するために、らせんの長さを伸ばして膜面積を増加させるか、希釈液の流速を遅らせることにより滞留時間を延ばすことが可能である。膜面積およびらせんの長さを増加させると、膜のコストおよび圧力降下が増加する。追加分の膜面積は、内側の電極からさらに離れており、電流密度はさらに低くなる。さらに、電気浸透および浸透による水分損失があるため、最終的に生成される水の流量はさらに減少し、それによって、単位生成物当たりのエネルギーおよび資本コストが増加する。したがって、コスト競争力のある設計が不可能な、収穫逓減シナリオに陥る可能性がある。セル対の数、ゆえに生成物の流量は、アノード分割片間の隙間のサイズおよび多数のシートを巻き付けることの難しさによって制限される。しかしながら、かかる分割片の半径を大きくすると、アノードのコストが増加する。アノードは白金で被覆されたチタン等の高価な耐酸化性材料によって作製しなければならないためである。求められる除塩を実現するためには、アノードにおける電流密度は許容不可なほど高くしなければならず、およそ数百アンペア/mとなりうる。
【0019】
1つ以上の実施形態によれば、レーストラック形状を用いると、らせん設計に関連する特定の利点は得つつ、らせん設計の不都合を最小限することができる。
【0020】
1つ以上の実施形態は、ハウジング内に収容可能な流体を電気的に浄化可能な装置、ならびに、その製造方法および使用方法に関する。浄化対象の液体または他の流体は、浄化装置に入れられ、電界の影響下で処理されてイオン除去された液体が得られる。投入された液体からの種は回収されてイオン濃縮液が得られる。
【0021】
1つ以上の実施形態によれば、電気化学分離システムの効率を向上させることができる。電流損失は、非効率を起こしうる1つの要因である。いくつかの実施形態では、電流漏れの可能性に対処可能である。電流効率は、希釈流から濃縮流へのイオンの移動に有効な電流の割合として定義可能である。電気化学分離システムには、電流非効率の要因が種々の存在しうる。クロスフロー装置では、たとえば、非効率が起こりうる要因の1つは、希釈流および濃縮流の流入口マニホルドおよび流出口マニホルドを通って流れることによってセル対を迂回する電流である。開放型の流入口マニホルドおよび流出口マニホルドは、区画室と直接流体連通しており、各流路における圧力低下を低減しうる。一方の電極から他方の電極への電流の一部は、開放領域を通って流れることによりセル対のスタックを迂回しうる。迂回電流は、電流効率を低下させ、エネルギー消費を増大させる。別のありうる非効率の要因は、イオン交換膜の不完全な透過選択性に起因して濃縮流から希釈流に入るイオンである。いくつかの実施形態では、種々の技術および設計により、電流漏れの低減が促進可能である。
【0022】
1つ以上の実施形態によれば、電気化学分離装置は、レーストラック形状を備えることで電流漏れを防止することができる。
【0023】
1つ以上の実施形態では、スタックを通る迂回経路は、電流効率を向上させるように、セルスタックを通る直通経路に沿った電流の流れを促進するように操作されうる。いくつかの実施形態では、たとえば、電気化学分離装置は、1つ以上の迂回経路は、セルスタックを通る直通経路よりも蛇行するように構成されかつ配置されている。少なくともいくつかの実施形態では、電気化学分離装置は、1つ以上の迂回経路がセルスタックを通る直通経路よりも高い抵抗を示すように構成されかつ配置されている。いくつかの実施形態では、少なくとも約60%の電流効率が実現可能である。他の実施形態では、少なくとも約70%の電流効率が実現可能である。さらに他の実施形態では、少なくとも約80%の電流効率が実現可能である。少なくともいくつかの実施形態では、少なくとも約85%の電流効率が実現可能である。いくつかの実施形態では、少なくとも約90%の電流効率が実現可能である。
【0024】
1つ以上の実施形態によれば、区画室内のフローは、区画室内で膜表面が流体とより広範囲で接触するように、調整、再分配または方向変更されてよい。区画室は、たとえば、区画室内の流体フローを再分配するように構成されかつ配置されている。区画室は、たとえば、区画室を通るフローを再分配する構造を提供しうる障害物、突起、凸部、フランジまたはバッフルを有する。これらについては以下でさらに説明する。特定の実施形態では、障害物、突起、凸部、フランジ、またはバッフルは、フロー再分配器ともいわれる。フロー再分配器は、たとえば、セルスタックの1つ以上の区画室内に設けられる。
【0025】
電気浄化装置用のセルスタック内の各区画室は、たとえば、流体接触に関して所定割合の表面積または膜利用率を提供するよう構成されかつ配置されている。膜利用率が高いほど、電気浄化装置の動作効率が高くなることが見出されている。より高い膜利用率を実現する利点としては、エネルギー消費をより低くできる、装置設置面積をより小さくできる、装置内経路をより少なくできる、精製水をより高品質にできる、等が挙げられる。特定の実施形態では、実現可能な膜利用率は65%超である。他の実施形態では、実現可能な膜利用率は75%超である。特定の他の実施形態では、実現可能な膜利用率は85%超である。膜利用率は、膜同士を互いに固定するために用いられる方法および任意のスペーサの設計に少なくとも一部依拠しうる。所定の膜利用率が得られるよう、電気浄化装置内で漏れを発生させることなく、該装置の最適な動作を可能にする確実かつ安定した封止を実現するために、適切な固定技術および要素を選択することができる。いくつかの実施形態では、スタックの作製工程には、工程内で用いられうる膜の大きな表面積を維持しつつ、膜利用率を最大化するための熱接合技術が含まれうる。
【0026】
1つ以上の実施形態によれば、セルスタックを備える電気浄化装置が提供される。電気浄化装置は、たとえば、イオン交換膜を含む第1の区画室を有し、イオン交換膜間の第1の方向に直通の流体フローを形成するように構成されかつ配置されている。電気浄化装置は、また、イオン交換膜を含む第2の区画室を有し、第2の方向に直通の流体フローを形成するように構成されかつ配置されている。第1の区画室および第2の区画室のそれぞれは、たとえば、流体接触に関して所定割合の表面積または膜利用率を提供するように構成されかつ配置されている。
【0027】
電気浄化装置は、セルスタックを有することができる。電気浄化装置は、たとえば、第1のカチオン交換膜および第1のアニオン交換膜を含む第1の区画室を備え、該第1の区画室は、第1のカチオン交換膜と第1のアニオン交換膜との間で第1の方向に直通の流体フローを形成するように構成されかつ配置されている。上記装置は、たとえば、第1のアニオン交換膜および第2のカチオン交換膜を含む第2の区画室も備え、該第2の区画室は、第1のアニオン交換膜と第2のカチオン交換膜との間で第2の方向に直通流体フローを形成する。第1の区画室および第2の区画室のそれぞれは、所定の膜利用率、たとえば、第1のカチオン交換膜、第1のアニオン交換膜、および第2のカチオン交換膜の表面積の85%超の流体接触を提供するように構成されかつ配置可能である。第1の区画室と第2の区画室のうちの少なくとも1つは、スペーサ、たとえば遮断スペーサを有していてもよい。
【0028】
1つ以上の実施形態によれば、セルスタックを有する電気浄化装置は、セルスタックを収容するハウジングをさらに有することができ、セルスタックの周縁の少なくとも一部分が該ハウジングに固定されうる。ハウジングとセルスタックの間にフレームを配置してもよい。フロー再分配器は、セルスタックの1つ以上の区画室内に設けてもよい。区画室の少なくとも1つは、区画室内で流れの反転が形成されるように構成されかつ配置されてもよい。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、電気浄化装置用のセルスタックが提供される。セルスタックは、交互に設けられた複数のイオン除去室およびイオン濃縮室を提供することができる。セルスタック内にスペーサを配置してもよい。スペーサは、区画室を画定する構造を提供することができ、特定の例では、区画室を通る流体フローを方向付けるよう機能することができる。スペーサは、セルスタックを通る流体フローおよび電流流れの少なくとも一方を方向変更するよう構成されかつ配置されている遮断スペーサとしてもよい。上述のように、遮断スペーサは、電気浄化装置において、電流流れの非効率を低減または防止することができる。
【0030】
1つ以上の実施形態によれば、ハウジングは電極を備えてもよい。プレートの各端部に電極を備えてもよい。電気浄化装置は、たとえば、バンドルの内部に第1の電極、バンドルの周囲に第2の電極を備える。いくつかの実施形態では、たとえば、第1の電極はアノードであり、第2の電極はカソードである。他の実施形態では、第1の電極をカソード、第2の電極をアノードとすることもできる。本明細書で説明されるように、一方または両方の電極は分割されていてもよい。
【0031】
第1の方向の流体フローは希釈流とし、第2の方向の流体フローは濃縮流としてもよい。特定の実施形態では、印加電界の反転により流れ機能を反転させる極性反転を用いて、第1の方向の流体フローを濃縮流に変え、第2の方向の流体フローを希釈流に変えることができる。スペーサによって分離された複数のスペーサアセンブリを共に固定して、セル対スタックまたは膜セルスタックを形成することができる。
【0032】
本発明の電気浄化装置は、セルスタックを収容するハウジングをさらに備えることができる。セルスタックの周縁の少なくとも一部をハウジングに固定してもよい。ハウジングとセルスタックとの間にフレームまたは支持体構造を配置して、セルスタックにさらなる支持を与えてもよい。フレームは、セルスタックに対する液体の流出入を可能にする流入口マニホルドおよび流出口マニホルドも備えることができる。フレームおよびセルスタックはともに、電気浄化装置のモジュール式ユニットを形成する。電気浄化装置は、ハウジング内に固定された第2のモジュール式ユニットをさらに備えてよい。接着剤を用いて、セルスタックの周縁の少なくとも一部をハウジングの内壁に封止してもよい。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、区画室内のフローは、区画室内で膜表面が流体とより広範囲に接触するように、調整、再分配または方向変更されてよい。区画室は、区画室内で流体フローが再分配されるように構成されかつ配置されてもよい。区画室は、区画室を通る流れを再分配する構造を提供しうる障害物、突起、凸部、フランジ、またはバッフルを有することができる。障害物、突起、凸部、フランジ、またはバッフルは、イオン交換膜、スペーサ、または区画室内に形成された追加の別の構造物の一部として形成することもできる。
【0034】
本発明の用途は電気透析機器に限定されない。電気脱イオン(EDI)装置や連続式電気脱イオン(CEDI)装置等、他の電気化学脱イオン装置も、レーストラック形状を用いて構成することができる。可能な用途としては、海水、汽水、および油ならびにガス生成物に由来する塩水の脱塩が挙げられる。
【0035】
1つ以上の実施形態によれば、電気化学分離装置が提供される。いくつかの実施形態では、電気化学分離装置は、たとえば電気透析装置である。他の実施形態では、電気化学分離装置は、たとえば電気脱イオン装置である。特定の実施形態によれば、電気化学分離装置は、電極および少なくとも1つのセル対を備えることができる。セル対は、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備えることができる。少なくともいくつかの実施形態では、イオン交換膜は電極のまわりに巻かれてバンドルを形成しうる。バンドルは、レーストラック形状とすることができる。種々の実施形態では、電気化学分離装置は、バンドルを取り囲むように構成された第2の電極をさらに備えることができる。一方または両方の電極を分割して、バンドルのレーストラック形状を囲んでもよい。特定の実施形態では、電気化学分離装置は、バンドルの少なくとも1つのセル対を通る流体フローを促進させるためのマニホルドをさらに備えていてもよい。
【0036】
1つ以上の実施形態によれば、レーストラック形状により、枠板式、クロスフロー式、らせん式のED装置の利点を組み合わせることができる。アノードおよびカソードの分割片の直線部分によって画定される膜領域では、膜は、枠板式やクロスフロー式装置での場合のように、平面上かつ平行である。電流密度は実質的に均一であり、希釈室からのイオン除去の速度は、内側の電極からの距離と相関しない。イオン移動において作用しない唯一の膜領域は、埋込み化合物によって封入されたごくわずかな部分である。クロスフロー式やらせん式装置での場合のように、85%を超える膜利用率が見込まれる。唯一の漏れ電流は、膜を通る代わりにレーストラック状経路に沿って流れる電流だが、それは最小限であると見込まれる。上記装置のアセンブリは、より少ない工程で済み、自動化も容易である。枠板式におけるスペーサやクロスフロー式におけるモジュールフレーム等の要素は必要ない。
【0037】
1つ以上の実施形態によれば、レーストラック形状を有する装置の設計は、最適化のために多くの変動要素を伴うものであり、それら要素としては、セル対の数、内側の電極における直線部分の長さ、内側の電極のまわりの巻の数および流路の長さ、希釈室および濃縮室への流入口におけるフロー速度、膜同士の間の空間、および希釈室および濃縮室におけるスクリーンの種類(これらは同じであっても異なっていてもよい)が挙げられる。レーストラック状経路の円形部分における膜領域は、らせん式装置での場合のように、電流密度が不均一になりやすい。この領域では、内側の電極からの距離に比例してイオン除去の速度が漸減するという課題が存在し、そして巻の数を増加させると、コスト競争力における収穫逓減がおこりうる。
【0038】
図1は、レーストラック形状を有する電気化学分離モジュール100の概略断面図であり、アノード110および分割カソード120を備える。アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備えるセル対の2つのスタックが、アノード110のまわりに巻かれてバンドルを形成している。カソード120は、分割され、バンドルを取り囲むように構成される2つの部分を形成する。海水等の供給水は、アノード110付近のレーストラック形状中央部付近に配置されている流入口130から導入される。供給水は、流入口130を介してモジュールの希釈室および濃縮室に供給され、次いで、カソード120まで外側に向かって流れていく。供給水が希釈室および濃縮室によって処理された後は、対応生成物および廃棄物フローがレーストラック形状の外端で回収され、流出口140を介してモジュールから排出される。いくつかの実施形態では、モジュールは、希釈流および濃縮流が、アノードからカソードまで実質的に巻かれた状態の流路において互いに並流するように構成されてもよい。代替例では、モジュールは、希釈流と濃縮流が互いに向流するように構成されてもよい。別の実施形態では、モジュールは、希釈流と濃縮流のうちの一方は、アノードからカソードまで実質的に巻かれた状態の流路を流れ、希釈流と濃縮流のうちの他方は、該一方の流れと垂直な略軸方向に流れるように構成してもよい。この特定の構成は、たとえば、供給水の導電性が低い場合の用途に適している。さらに他の実施形態では、モジュールは、希釈流および濃縮流が、外側のカソードから内側のアノードまで内側に向かって流れるように構成してもよい。わかりやすさのために、図では、すべての要素の厚みを誇張し、一スタック当たり2つのセル対のみを示した。また、セル対は、アノードのまわりに2回だけ巻かれている様子を示した。実用においては、セル対の数および巻の数は、特に膜および任意のスクリーン(以下でさらに説明する)が薄く構成されている場合は、それより多くてもよい。
【0039】
いくつかの非限定的な実施形態では、アノード110は、平板を用意し、次いでその端部を曲げるかまたは丸めることによって作製することができる。代替例では、アノードは、平板部分と半円状に形成された部分とを溶接することによって構成してもよい。いくつかの実施形態では、たとえば、各膜はともに構造において均質で厚さは0.025mmであり、スクリーンの厚さは0.25mmである。よって厚さ0.55mmのセル対が形成される。これらの寸法の場合、次工程では、半径13.8mmの端面に50個のセル対のスタックを収めることが可能となる。
【0040】
図2は、レーストラック形状の中央部付近に配置されている、希釈室および濃縮室への流入口230のうちの一方を示す拡大詳細図である。この特定の実施形態では、アノード210は、各端に半円形部分を有する直線部分を有しており、実質的に細長S字形状を画定することができる。半円径部分の端部は、締結タブ250等の締結具として機能しうる短尺の直線部分をさらに有してもよい。種々の実施形態では、アノードは、1つ以上のセル対をアノードに固定する締結タブを各端に有してもいてもよい。図示したように、たとえば、長方形の膜およびスクリーンの2つのスタックはアノードの端部に挿入され、タブ250に締結されることにより所定の位置に機械的に固定される。いくつかの実施形態では、膜およびスクリーンは、タブ250を屈曲させることにより所定の位置に機械的に固定することもできる。次いで、膜およびスクリーンは、たとえば、アノードのまわりに巻かれてレーストラック形状を形成する。アノードの基材は、チタン等の種々の材料から製造することができ、そしてその表面は、白金、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、それらの混合物等の耐酸化性材料によりさらに被覆することもできる。
【0041】
図3aおよび図3bは、分割アノード310と分割カソード320を備える、レーストラック形状を有する電気化学分離モジュール300の概略図である。アノードは分割されて2つの部分に分けられ、アニオン交換膜およびカチオン交換膜を備えるセル対の2つのスタックが、アノード310のまわりに巻かれてバンドルが形成される。図1の場合と同様に、アノード310付近のレーストラック形状中央部付近に配置されている流入口330から供給水が導入され、次いで、たとえば、カソード320まで外側に向かって流れていき、流出口340を介してモジュールから排出される。上述したように、モジュールは、希釈流と濃縮流が、互いに並流または向流するように構成することができる。モジュールは、また、希釈流及び濃縮流が、アノードからカソードまで実質的に巻かれた状態の流路を流れるように構成することもできるし、希釈流及び濃縮流のうちの一方はアノードからカソードまで実質的に巻かれた状態の流路を流れ、希釈流及び濃縮流のうちの他方は、該一方の流れに対して垂直に略軸方向に流れるように構成することもできる。代替例では、モジュールは、希釈流と濃縮流が外側のカソードから内側のアノードまで内側に向かって流れるように構成してもよい。
【0042】
図4は、図3aの中央領域の拡大詳細図であり、レーストラック形状の中央部付近に配置された希釈室と濃縮室への流入口430を示す図である。この実施形態では、アノードは分割されており、各アノード部分は、直線部分と湾曲部分とを有している。アニオン交換膜およびカチオン交換膜がアノードのまわりに巻かれると、それにより得られるバンドルも、略直線部分と湾曲部分とを有することができる。アノードを分割することにより、より柔軟にモジュールを作製することが可能になる。たとえば、アノードの湾曲部分の半径およびバンドルの湾曲部分の半径は、セル対の数から独立させることができる。分割されたアノードの直線部分間の距離を可変とすることができるからである。図に示されるように、分割されたアノードの直線部分間に1つ以上のスペーサ470を配置して、アノードの2つの分割片の間の距離を保つようにしてもよい。スペーサは、アノードの2つの分割片の間に所定の距離を維持するよう構成することができる。適切な種類のスペーサの一例として、ねじ式機構が挙げられる。上述したように、アノードの半円状湾曲部分の端部は、クランプタブ450として機能する短尺直線部分をさらに備えることができ、いくつかの実施形態では、アノードは、各端に締結具をさらに備えてアノードに1つ以上のセル対を固定することができる。
【0043】
図5は、容器に収容された状態のレーストラック状に巻かれたバンドルを示す図である。レーストラック形状のバンドルは、種々の方法で容器に取り付けることができる。1つ以上の非限定的な実施形態によれば、1つ以上のセル対を内側の電極のまわりに巻いた後、バンドルの一方または両方の端部は埋込み接着材580で封止され、整えられる。次いで、埋め込まれたバンドルは、円筒容器590に挿入することができる。容器は、1つ以上の端受け(図示せず)をさらに備えていてもよい。1つ以上の流出口マニホルド585は、生成物の流れおよび廃棄物の流れ用の流出口を備えていてもよい。流入口マニホルドも、レーストラック状バンドルと流体連通していてもよい。バンドルと容器内部の間に隙間があれば、成形部品(図示せず)を用いてさらに充填してもよく、そうすることで、容器590は、バンドルの外周を支持する機能を果たす。容器590の両端は、端受け(図示せず)によりさらに覆われもよく、これにより、入口および出口ポートと電極への電気接続とが与えられる。成形部品を用いる場合、成形部品は、プラスチック等の低コストかつ非腐食性の材料から作製され、成型または機械加工技術によって形成することができる。成型部品は、バンドルの外周を支持する機能または他の機能を果たすこともできる。たとえば、1つ以上の成型部品は、廃棄物流れまたは生成物流れから廃液を回収し、対応するポートに送るためのマニホルドを1つ以上備えていてもよい。特定の実施形態では、充填部品は必要ではない。たとえば、埋め込まれたバンドルは、円筒容器に単に挿入し、端受けを取り付けてもよい。その後、バンドルと容器の内表面の間の空間に充填材を注入することもできる。適切な充填剤の例としては、硬質または半硬質の埋込み化合物や封止発泡剤が挙げられ、それらは、空洞に注入された後、膨張し固化しうる。容器590には、長方形状やレーストラック形状を含むさまざまな形状をいくつ収容してもよい。これらの形状により、複数の装置をより密集させて容器に詰め込むことが可能になる。容器は、本明細書に開示する装置およびシステムに記載されるバンドル形状のハウジングとして適切に機能する限りどのような形状としてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、アニオン交換膜およびカチオン交換膜とアノードとを巻いて形成したバンドルの断面は、略直線部分と該略直線部分の第1及び第2の端にある湾曲部分を有しうる。特定の実施形態では、電流密度は、バンドルの略直線部分の全体にわたって実質的に均一でありうる。種々の実施形態では、略直線部分の長さの、各湾曲部分の高さまたは半径に対する比は、ゼロより大きくてもよい。少なくとも1つの実施形態では、湾曲部分の半径は、セル対の数に依拠しない。たとえば、装置の形状は、図3に示したものとしてもよい。いくつかの実施形態によれば、各湾曲部分の半径は、スタックの厚さとほぼ同等である。種々の態様では、アニオン交換膜およびカチオン交換膜は、バンドルの略直線部分に沿って平面状かつ平行である。いくつかの実施形態では、バンドルは2つの対称軸を有していてもよい。さらに別の実施形態では、湾曲部分は、略半円形状でなく、楕円形状または他の湾曲形状としてもよい。
【0045】
図6aおよび図6bは、1つ以上の実施形態に係る、異なる可能なフローパターンを示す概略図である。図6aの流れは共に、内側電極から外側電極までレーストラックパターンを並流する。あるいは、それら流れは、外側電極から内側電極まで並流してもよい。また、それら流れは互いに向流してもよい。図6bには、第1の流れが内側電極から外側電極までレーストラックパターンに並流するクロスフロー形状を示す。流れ1の区画室の縁は封止されていてもよい。流れ2は、流れ1に対して垂直方向に流れる。流れ2に関連する区画室の縁は開放状態としてもよい。
【0046】
少なくとも1つの実施形態によれば、電気化学分離装置は、膜利用率が少なくとも約85%であることを特徴としうる。いくつかの実施形態では、膜利用率は少なくとも約90%でありうる。これらの値は、枠板式設計を用いて実現される値よりも高いものであってもよい。また、かかる装置の圧力降下は、枠板式設計の場合の圧力降下よりも低下させることができる。
【0047】
種々の実施形態では、1つ以上の電気化学分離装置を水処理システムで用いてもよい。水処理システムは、センサや制御装置、追加のマニホルドや分配アセンブリ、保管装置、および追加の処置装置等の他の要素や装置をさらに備えていてもよい。いくつかの態様では、1つ以上の電気化学分離装置は、既存の水処理システムに組み込むことも可能である。
【0048】
開示した電気化学分離装置のレーストラック形状を用いると、枠板式、クロスフロー式、およびらせん式形状を用いて得られる特定の利点に加え、これらの種類の使用からは得られないさらなる利点も得ることが可能になる。たとえば、アノードおよびカソードの略直線部分によって画定される膜領域は、平面状かつ平行であるため、この領域において実質的に均一な電流密度を得ることが可能となる。また、希釈室からのイオン除去の速度は、内側電極からの距離と相関しない。これらは、らせん式装置では得られない明確な利点である。らせん式形状では、内側電極からの距離が増すにつれて電流密度が低下しうるからである。これは、希釈流れからのイオン移動速度は、希釈流れがらせん状に外向きに進むにつれて低下することを意味する。所望の水準のイオン除去を実現するには、たとえば、内側電極における電流密度を許容不可なほど高く(およそ数百アンペア/m)しなければならない。また、らせんの長さを伸ばすか、または希釈室を通る流量を減少させるかして、膜領域を増加させなければならない。これらの手法はともに、滞留時間の増加を必要とし、そして装置の圧力降下の悪化をもたらしうる。また、膜領域およびらせん長を増加させると、膜を製造するコストおよび膜を動作させるコストの両方が増加する可能性がある。さらに、電気浸透および浸透に関連する水損失は、生成物流れの流量の減少をもたらしうる。らせん式装置は、セル対の数、ゆえに装置から排出される生成物の流量が、アノード分割片同士の間の隙間のサイズおよび多くのセル対を中央部の電極のまわりに巻く難しさにより制限されうる、という事実によっても不利を被る可能性がある。らせん式装置の分割された内側電極の半径を大きくすると、電極のコストが上昇し、この追加コストは大幅となる場合もある。レーストラック形状を用いると、らせん式装置に関連するこれらの不都合のうちの1つ以上を最小限に抑えることができる。
【0049】
レーストラック形状の別の利点は、膜利用率が85%を上回る可能性があることである。膜のうちイオンの移動に積極的に利用されない可能性のある領域は、埋込み化合物によって封入されたごく一部のみである。漏れ電流も最小限に抑えることができる。漏れ電流は、(膜を通る代わりに)レーストラック状経路に沿って流れる電流でしか起こらないからである。かかる装置の製造および組み立ては、より少ない工程しか必要とせず、よって自動化または制御がより容易となりうる。また、スペーサやフレーム等の別個の要素がなくてもよい。
【0050】
本明細書に記載された電気化学分離装置の最適化は、セル対の数、内側電極の略直線部分の長さ、内側電極のまわりの巻の数および流路の長さ、流入口での流速、膜同士の間の空間、および希釈室・濃縮室で用いられるスクリーンの種類等の1つ以上のパラメータを変化させることによって実現することができる。
【0051】
1つ以上の実施形態によれば、水処理システムが提供される。種々の実施形態では、上記で記載され特徴付けられたように、水処理システムは電気化学分離システムとすることができる。水処理システムは、たとえば、処理対象の水源と流体連結している供給口を備える。処理対象となる適切な水源の例として、限定はしないが、たとえば都市水道水や井戸水等の飲料水源、たとえば汽水や海水等の非飲料水源、前処理された半純水、およびそれらの任意の混合液が挙げられる。
【0052】
これらの実施形態および他の実施形態の機能および利点は、以下の実施例からより深く理解されるであろう。実施例は本質的に例示を意図するものであり、本明細書に記載の実施形態の範囲を限定するものとは解釈されない。
【実施例】
【0053】
事例研究を行って、従来のらせん式形状と比較しつつ、1つ以上の実施形態に係るレーストラック形状に関し製造コストおよびエネルギー消費を評価した。本事例研究は、供給水のTDS値を36,500ppm、所望の生成物のTDS値を2,000ppmと想定して、脱塩用途に焦点を当てた。この種類の脱塩プラントは、たとえば、供給水を貯油層に注入して油分回収を増加させている海上プラットフォームでの運用に有用である。
【0054】
レーストラック形状は、200mmの長さの直線部分を含む4重巻きのEDモジュールを使用した。事例研究に使用したらせん式モジュールは、5重巻きのものを用いた。
【0055】
事例研究の結果を図7に示す。生成物流量(m/h)の単位当たりの製造コスト(Y軸に示す)対生成物の1立方メートル当たりのエネルギー消費(X軸に示す)について、2つの形状を比較した。結果によると、所与のエネルギー消費量につき、レーストラック形状の方がコストが低いことが確認できる。エネルギー消費値の全範囲にわたって、レーストラック形状の方が、従来のらせん式形状よりも一貫してコストが低い。
【0056】
本明細書中に記載の方法および装置の実施形態は、上述の記載および添付図面に示された構成要素の構成および配置の詳細への適用に限定されないことを理解されたい。該方法および装置は、他の実施形態で実施可能であり、種々のやり方で実行または実施可能である。特定の実施形態の実施例が、本明細書中で例示を目的として提供されているが、限定を意図したものではない。特に、1つ以上のいずれかの実施形態に関連して説明されたステップ、要素および特徴も、任意の他の実施形態における同様の役割を排除することを意図されない。
【0057】
また、本明細書中で用いられる表現および用語は、説明を目的としたものであり、限定と見なされるべきではない。本明細書のシステムおよび方法の実施形態、構成要素、またはステップに対して単数形でなされた言及はすべて、これら要素が複数の場合の実施形態を容認し、また、本明細書のあらゆる実施形態、構成要素、またはステップに対する複数形での言及もすべて、単数のみの要素を含む実施形態を容認しうる。「含む」、「有する」、「備える」、「含有する」、「包含する」、およびそのバリエーションの本明細書中での使用は、その後に示される項目およびその等価物ならびに付加的な項目を含むことを意図する。「または」の記載は択一的なものでは無く、「または」を用いて示された任意の語も1つ、複数、およびすべての記載された語を示しうる。前後、左右、上下、頂部底部、および、水平垂直の任意の記載も説明の便宜を意図したものであり、本発明のシステムおよび方法またはその構成要素をいずれか1つの位置的または空間的配向に限定するものではない。
【0058】
少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様について上記で説明したが、種々の変更、修正および改良も当業者にとって容易になし得ることは理解されたい。かかる変更、修正および改良は本発明の一部であると意図され、本発明の範囲内にあると意図される。したがって、上記記載および図面は、例示的なものにすぎない。
【符号の説明】
【0059】
100、300 電気化学分離モジュール(電気化学分離装置)
110、210、310 アノード(第1の電極)
120、320 カソード(第2の電極)
130、230、330、430 流入口
140、340 流出口
250 締結タブ
470 スペーサ
580 埋込み接着剤
585 マニホルド
590 容器
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6a
図6b
図7