(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188818
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】義歯のための接着性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 6/00 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
A61K6/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-551130(P2015-551130)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公表番号】特表2016-504373(P2016-504373A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】EP2013002573
(87)【国際公開番号】WO2014106516
(87)【国際公開日】20140710
【審査請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2013/000007
(32)【優先日】2013年1月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515182060
【氏名又は名称】トリップ ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
【氏名又は名称原語表記】TRIPP GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ハイアグ、ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケル、ルーツ
(72)【発明者】
【氏名】ゼルナー−トリップ、ハンスペーター
【審査官】
佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05561177(US,A)
【文献】
特表2003−516188(JP,A)
【文献】
特表2011−522052(JP,A)
【文献】
特表2003−519642(JP,A)
【文献】
特開2007−224024(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/091923(WO,A1)
【文献】
特開2012−046468(JP,A)
【文献】
特表平04−504864(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/088988(WO,A1)
【文献】
特開2012−001837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油35〜50重量%、
キサンタン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる1つ以上の構造構築安定剤25〜50重量%、
ポリアクリル酸からなる唯一の接着剤5〜15重量%、並びに
酸化シリコンを含有し、0.08〜0.23g/cm3の密度を有し、粒径が1〜40μmの範囲にある充填材3〜6重量%を
含有してなり、40〜150Nの接着力を有する義歯接着性製剤。
【請求項2】
前記植物油がオトギリソウ油、アーモンド油、オリーブ油、ナタネ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油又はコムギ胚芽油であることを特徴とする請求項1に記載の義歯接着性製剤。
【請求項3】
前記構造構築安定剤がカルボキシメチルセルロースナトリウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の義歯接着性製剤。
【請求項4】
前記充填材が高度に多孔性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項5】
前記充填材が、溶液から沈降させた二酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項6】
充填材の平均孔径が30nmを超えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項7】
前記充填材が、充填材質量に基づいて、0.1重量%未満のスチレン−イソプレン共重合体を含有してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項8】
前記充填材が、充填材質量に基づいて、0.1重量%未満のステアリン酸アルミニウムを含有してなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項9】
充填材の比率が1重量%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項10】
植物油の比率が40〜45重量%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項11】
構造構築安定剤の比率が40〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項12】
接着剤の比率が5重量%〜10重量%未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の義歯接着性製剤。
【請求項13】
40〜45重量%の植物油、41〜46重量%の構造構築安定剤、7〜10重量%未満のポリアクリル酸及び4〜6重量%の酸化シリコンを含有してなる充填材を含有してなる義歯接着性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯のための接着性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような義歯のための接着性製剤は、特許文献1により知られている。その接着性製剤は、乳剤基材としての、25〜35重量%の比率の高粘性のパラフィン及び/又は10〜20重量%の比率の白色ワセリン、1〜15重量%の比率の接着剤としてのカルボマー(ポリアクリル酸)並びに、接着剤として、15〜50重量%の、1つ又は少なくとも2つのカルボキシメチルセルロース又はそのアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩並びに充填材としての0.2〜2.0重量%の高分散ケイ酸を含有してなる。
【0003】
市販されている接着性乳剤は、柔軟な製剤を実現するために、パラフィン/ワセリンを使用する。義歯担体の場合には、咽頭部の刺激を引き起こす可能性がある。市場に流通している義歯−接着性乳剤は、大部分、ISP社の原料ガントレッツ(カルシウム/ナトリウム PVM/MA共重合体)を利用するが、これに関して、原料不足、原料依存性及び材料入手の時間的遅延の恐れが存在する。
【0004】
そこで、実際上は、担体物質として、パラフィン又はワセリンに代えて、オリーブオイルを使用することが既に提案されている。但し、公知の接着性乳剤は、単に、せいぜい、下位の適正範囲の粘着性を示すに過ぎない。
【0005】
パラフィン又はワセリンを植物油で置き換えても、冒頭に述べた接着性製剤のその他の要素をそのまま維持することはできない。オリーブオイルとワセリン又はパラフィンとが全く別の組成を有するために、許容可能な接着性製剤を得ることができない。
【0006】
そこで、特に、接着力、コンシステンシー及び安定性を顧慮した接着性乳剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開102005031771号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、基剤又は乳剤物質としてのパラフィン及び/又はワセリンを断念して、それに適切であって、取り分け、主観的ばかりでなく客観的にも良好な接着特性並びに更に均質の堅牢性及び高度の経時安定性を示す義歯のための接着性製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上述の目的は、
35〜50重量%の植物油、
25〜50重量%の構造構築安定剤、
5〜15重量%の接着剤及び
残部の酸化シリコン含有充填材
を、含有してなる義歯のための接着性製剤によって、達成される。
【0010】
好ましくは、接着性乳剤は、これらの成分のみから成る。植物油及び安定剤の合計は、90重量%未満である。
【0011】
充填材、或いは、その少なくとも決定的な主成分である二酸化ケイ素(シリカ)は、高度に多孔性である。即ち、充填材及び/又は二酸化ケイ素は、1.9〜2.1g/cm
3の密度を有する。通常、二酸化ケイ素は、仮焼又は焼成酸化ケイ素として合成されるが、好ましい態様においては、この充填材は、溶液沈降シリカをも含む。別の好ましい態様においては、粒径が1〜40μmの領域にあることが意図される。粒径は、ここでは、5〜100nm近辺にある第1次粒径ではなく、第1次粒子の凝集によって形成された粒子の大きさ又は凝集粒子の大きさ乃至集塊の大きさを意味する。平均的な孔径は、好ましくは30nm超である。粒子の表面積は、好ましくは、5〜100m
2/gの範囲にあるが、これらの値は、最も好ましくは、50m
2/g未満である。
【0012】
パラフィン/ワセリンの代替として、植物油は、加工の柔軟性を保証する。植物油の使用により、化学組成の故に、相応の刺激に際して、抗炎症効果を達成することができる。接着剤も、柔軟性に寄与する。充填材は、必要な濃縮に役立ち、粘度を調整する。
【0013】
植物油として、好ましくは、オリーブオイルのほかに、とりわけ、オトギリソウ油、アーモンド油、ナタネ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、及び/又はコムギ胚芽油も、考慮の対象となることが確かめられた。
【0014】
上述の割合を有する構造構築安定剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、取り分け、上述のセルロース又はヒドロキシメチルセルロース(HEC)のナトリウム塩としての、その他のアルカリ塩若しくはアルカリ土類金属塩としての、カルボキシメチルセルロース、取り分け、ワロセル(Walocel)、がとりわけ好ましく用いられる。代替的に、本発明の接着性製剤は、構造構築安定剤として、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)又はキサンタンを含有するキサンタンガムを用いることもできる。
【0015】
本発明の接着性製剤における接着剤は、好ましくは、上述の重量割合を有するポリアクリル酸を含有する。ここで、この接着剤は、好ましくはポリアクリル酸であり、しかも、取り分け唯一の接着剤として使用される。30,000mPas以上の動的粘度を有する接着剤が好ましく使用される。具体的なポリアクリル酸又はカルボマーとしては、取り分け、カーボポール971P及びカーボポール974P NFの商品名で取引されているカルボマーが考慮の対象となる。この接着剤によって、通常、接着性組成物に含有される接着剤(メチルビニルエーテル)、亜鉛含有が疑われるマレイン酸無水物(同ポリマー)を避けることができる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、充填材が高度に多孔性であること、充填材が溶液から沈降させた二酸化ケイ素を含むこと、充填材の密
度、少なくとも、
本質的にそれを構成する二酸化ケイ素の密度、
が0.08〜0.23g/cm
3の間、好ましくは0.19と0.21g/cm
3との間にあること、及び/又は、粒径が1〜40μmの範囲にあり、ここで、平均細孔径が好ましくは30nmを超えること、となっている。
【0017】
充填材は、酸化ケイ素(シリカ)のみで構成することができるが、好ましい態様では、0.1重量%未満の、しかしながら好ましくは少なくとも0.001重量%の、最も好ましくは少なくとも0.01重量%のスチレン−イソプレン共重合体及び/又は0.1重量%未満の、好ましくは少なくとも0.001重量%の、最も好ましくは少なくとも0.01重量%のステアリン酸アルミニウムを含有する。
【0018】
上記の重量比率を有する上述の組成物は、適切な義歯接着性製剤を保証するが、好ましい態様では、40〜50重量%の植物油比率、40〜50重量%の構造構築安定剤、8〜13重量%の接着剤及び/又は3〜6重量%の充填材を含有し、ここで、全ての成分の合計は、それぞれ、100重量%になる。
【0019】
本発明によれば、硬すぎることもなく、柔軟すぎることもない、可塑性で柔軟なコンシステンシーを有する接着性製剤が達成される。この接着性製剤は、更に、150ニュートンを超える、取り分け180ニュートンを超える大きすぎる接着力が生じる危険なしに、40ニュートンという下位の適正値より高い適切な接着力を有する。
【0020】
更に、本発明の接着性製剤は、高い経時安定性を示し、長い貯蔵期間中にも分解しない。
【0021】
本発明の更なる利点及び特徴は、特許請求の範囲及び本発明の接着性製剤の実施形態を説明している以下の記述から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、A〜Pと表示されている、多数の市販の接着性製剤についての接着力の2回の測定の平均値(ニュートン)を、本発明の2つの接着性製剤−一方は、オリーブオイルに基づくものであり、他方は、ダイズ油に基づく−と共に、示す。それぞれの詳細な組成は、表1〜3に記載されている。
【0024】
接着性組成物Hは、オリーブオイルを基質とし、他の全ての接着性組成物A〜G、I〜Pについて与えられているパラフィン又はワセリンのような石油に基づく基質を含まない、実務上知られている接着性組成物である。
【0025】
適切な接着力が40又は50ニュートンを超えるのに対して、接着力の値を有する公知のオリーブオイルに基づく接着性組成物が20ニュートン未満の非常に低い接着力を有するのに対して、同様に植物油に基づく本発明の接着性組成物V−E−11−hcolive 11及びVE−E−11−hcsojallが100ニュートンを超える領域の最適の接着力を示していることが分かる。ここで、上述のとおり、50ニュートンを超える接着力が適正であるが、この値は、これまでパラフィン又はワセリンに基づく接着性組成物によってしか達成されなかった。
【0026】
表の充填材は、99%の酸化ケイ素(シリカ)並びに小割合の、いずれも0.1重量%未満の、スチレン−イソプレン共重合体及びステアリン酸アルミニウムを含む酸化ケイ素である。表中に特別の情報が含まれていない限り、表の上部に示された成分名及び比率が適用される。異なる成分は、必要ならば、表の個々の枡に示されている。表の上部に示された成分百分率と異なる場合も同様である。
【0027】
付属書として添付されている表1〜3の基礎となる接着力及びコンシステンシーの測定は、以下の方法で、後者は、DIN 10331/ISO 16305に応じて、行なわれた。
【0028】
接着力の測定は、英国、サーレイ、ゴダールミングのステーブル マイクロ システムズ社の構造測定器A−XT plusで行なわれた。測定のために、25℃±1℃の試験片温度を有する接着性乳剤0.75g(±0.01g)を試験片支持体の非負荷側に点状に塗布した。前進及び試験速度は、それぞれ、0.5mm/秒、後退速度は10.0mm/秒であった。押し付け力は、1,000.0g、解放値は5.0gであった。1回の測定のために、500測定点が記録された。
【0029】
コンシステンシーの測定は、ガラス板の上、真ん中に、20℃に温度調節した試験物質1.0gを点状に被着して行なわれた。試験物質を載せたガラスプレートを、20℃に10〜15分間温度調節した伸縮計上に載置し、次いで、47.85g重量の、もう1枚のガラス板(直径11.5cm)を置く。次いで、上側のガラス板にこの装置の331.3gの検査重量の重しを載せる(全質量379.15g)。15分後、得られた円又は楕円の直径を測定する。
【0030】
表1の第1列に、42重量%の大豆油、カーボポール971P NFの名のもとに、米国オハイオ州ヴィックリフェ、ルブリゾールコーポレーションから販売されている、接着剤としての9重量%のポリアクリル酸、44%の、例えば、ダウ ドイツ アンラーゲンゲゼルシャフト エムベーハー、シュバールバッハからワロセル(WALOCEL)の名前で販売されている構造構築安定剤としてのカーボンメチルセルロース及び5重量%の充填材で合成された最も好ましい、本発明の配合 V−E−11−hssoja−11を示す。この接着性製剤は、4.4〜4.5cmの最適の−柔軟な−コンシステンシーを、
図1に示すように、92ニュートンの接着力と共に、示す。
【0031】
3.5〜3.8cmのコンシステンシーを有する表1のレスピ4〜6は、同様に、63〜76ニュートンの受容可能な接着力を示すが、植物油の割合を著しく減少させ同時にカルボキシメチルセルロースの割合を50%以上に著しく高めると、接着性製剤のコンシステンシーが固く強固になりすぎ(表1、レスピ2)、そして、これは、充填材の減少によっては補償することができない(表1、レスピ3)ことが分かる
【0032】
表2は、構造構築安定剤カルボキシメチルセルロース(Walocel)が、基本的に、構造構築安定剤キサンタンによって完全に又は部分的に置換できることを示している。ここで、カルボキシメチルセルロースに比較して、接着力は、僅かに減少したが、40ニュートンの下限界よりも有意に高かった。この表は、また、29,000mPsよりも著しく高い粘度を有する接着剤が使用でき、良好な接着性値が適切なコンシステンシーで達成し得ることを示している。
【0033】
本発明の接着性製剤は、生体適合性の、取り分け、粘膜にも適合する5以上の弱酸性のpH値を示す。
【0034】
驚くべきことに、表3のレスピ4及び5は、適切な接着剤を、他の接着剤組成物において使用されているように構造付与安定剤としての適切な薬剤、例えばケルデント(Keldent)、で置換すると、接着性製剤が余りにも固くなることは別として、劇的な接着力の低下につながることを示す。