(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれ正側アームと負側アームとが直列接続されその接続点が各相交流線に接続される複数のレグ回路を正負の直流母線間に並列接続して備え、複数相交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、
該電力変換器を制御する制御装置とを備えた電力変換装置において、
上記各レグ回路の上記正側アーム、上記負側アームのそれぞれは、互いに直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体とこの直列体に並列接続された直流コンデンサとから成り上記半導体スイッチング素子の端子を出力端とする変換器セルを、1あるいは複数直列接続して構成され、
上記制御装置は、上記正側アームに対する第1電圧指令と上記負側アームに対する第2電圧指令とを生成する電圧指令生成部を有して、上記正側アーム、上記負側アーム内の上記各変換器セルを出力制御し、
上記電圧指令生成部は、
上記各相交流線に流れる交流電流成分および上記各レグ回路間で循環する各相の循環電流成分を制御する制御指令を演算する電流制御部と、
上記制御指令と上記直流母線間の電圧の直流電圧指令値とに基づいて、上記正側アーム、上記負側アームがそれぞれ出力分担する電圧から該正側アーム内、該負側アーム内の各インダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて上記第1電圧指令、上記第2電圧指令を決定する指令分配部とを備えた
電力変換装置。
上記各相交流線が交流回路に接続され、上記電圧指令生成部は、上記交流回路の各相電圧をフィードフォワード項に用いて上記正側アームに対する第1電圧指令と上記負側アームに対する第2電圧指令とを生成する請求項1に記載の電力変換装置。
上記電流制御部が演算する上記制御指令は、上記各相交流線に流れる交流電流が交流電流指令に近づくように演算された第1制御指令と、上記各レグ回路間で循環する各相の循環電流が循環電流指令に近づくように演算された第2制御指令とである請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
上記電流制御部が演算する上記制御指令は、上記各レグ回路の上記正側アーム、上記負側アームをそれぞれ流れる各アーム電流が、設定された各電流指令に近づくように演算された第3制御指令と第4制御指令とであり、上記電流制御部は、上記各アーム電流を制御することにより、上記交流電流成分および上記循環電流成分を制御する請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
上記指令分配部は、挿入された上記リアクトルのインダクタンスを上記インダクタンス成分として、上記第1電圧指令、上記第2電圧指令の演算に用いる請求項5に記載の電力変換装置。
上記電圧指令生成部は、上記変換器セル内の上記直流コンデンサの電圧に基づいて変調率補正信号を生成し、上記指令分配部からの上記第1電圧指令、上記第2電圧指令を上記変調率補正信号で除算して補正する請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
上記電圧降下分は、上記正側アーム、上記負側アームによる並列インダクタンス成分を除いたインダクタンス成分によるものである請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1による電力変換装置を図に基づいて以下に説明する。
図1は、この発明の実施の形態1による電力変換装置の概略構成図である。
図1に示すように、電力変換装置は主回路である電力変換器1と、電力変換器1を制御する制御装置20とを備える。電力変換器1は、複数相交流この場合三相交流と直流との間で電力変換を行うもので、交流側は連系変圧器13を介して交流回路としての系統である交流電源14に接続され、直流側はインピーダンス15を介して直流電源16に接続される。
なお、連系変圧器13の代わりに連系リアクトルを介して交流電源14に接続しても良い。また、電力変換器1の直流側は、直流負荷に接続されてもよいし、直流出力を行う他の電力変換装置に接続されても良い。
【0012】
電力変換器1の各相は、正側アーム5と負側アーム6とが直列接続されその接続点である交流端7が各相交流線に接続されるレグ回路4で構成され、3つのレグ回路4は正負の直流母線2、3間に並列接続される。
各レグ回路4の正側アーム5、負側アーム6のそれぞれは、1以上の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aで構成され、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nがそれぞれ直列に挿入される。この場合、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nは交流端7側に接続され、正側リアクトル9pおよび負側リアクトル9nで、3端子のリアクトル8を構成している。
なお、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nが挿入される位置は、各アーム5、6内のいずれの位置でも良く、それぞれ複数個であっても良い。
【0013】
また、制御装置20は、第1電圧指令である正側アーム電圧指令Vp
+と第2電圧指令である負側アーム電圧指令Vp
-とを生成する電圧指令生成部21と、PWM回路22とを備えてゲート信号22aを生成し、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10を制御する。
各相の正側アーム5、負側アーム6にそれぞれ流れる正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-、各相交流線に流れる交流電流ipは、それぞれ図示しない電流検出器により検出されて制御装置20に入力される。さらに、図示しない電圧検出器により検出される交流電源14の各相電圧(以下、交流電圧Vspと称す)、電力変換器1の中性点電圧Vsn、直流母線間電圧である直流電源16の電圧の指令値(以下、直流電圧指令値Vdc)が制御装置20に入力される。なお、各相の交流電流ipは、各相の正側アーム5、負側アーム6にそれぞれ流れる正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-とから演算して用いても良い。
【0014】
制御装置20では、入力された電圧、電流の情報に基づいて、電圧指令生成部21が、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを生成する。そして、PWM回路22は各電圧指令Vp
+、Vp
-に基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号22aを生成する。
なお、制御装置20の構成および動作の詳細は後述する。
【0015】
各変換器セル10の構成例を
図2に示す。
図2は、ハーフブリッジ構成を採用した変換器セル10を示す。
図2の変換器セル10は、それぞれダイオード31が逆並列に接続された複数(この場合2個)の半導体スイッチング素子30(以下、単にスイッチング素子と称す)の直列体32と、この直列体32に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ34とから構成される。スイッチング素子30は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGCT(Gate Commutated Turn−off thyristor)等の自己消弧型のスイッチング素子から成り、それぞれダイオード31が逆並列に接続されたスイッチ33P、33Nが用いられる。
そして、
図2に示すように、変換器セル10は、スイッチ33Nのスイッチング素子30の両端子を出力端とし、スイッチング素子30をオン・オフさせることにより、この出力端から、直流コンデンサ34の両端電圧およびゼロ電圧を出力する。
【0016】
各変換器セル10の別例による構成例を
図3に示す。
図3は、フルブリッジ構成を採用した変換器セル10を示す。
図3の変換器セル10は、2つの直列体42を並列接続し、さらに直列体42に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ44を備えて構成される。各直列体42は、それぞれダイオード41が逆並列に接続された複数(この場合2個)のスイッチング素子40を直列接続して構成される。スイッチング素子40は、IGBTやGCT等の自己消弧型のスイッチング素子から成り、それぞれダイオード41が逆並列に接続されて構成されるスイッチ43P、43Nが用いられる。
そして、
図3に示すように、変換器セル10は、それぞれの直列体42の中間接続点となるスイッチング素子40の端子を出力端とし、スイッチング素子40をオン・オフさせることにより、この出力端から、直流コンデンサ44両端の正電圧、負電圧およびゼロ電圧を出力する。
【0017】
なお、変換器セル10は、複数のスイッチング素子の直列体と、この直列体に並列に接続された直流コンデンサとから成り、スイッチング動作により直流コンデンサの電圧を選択的に出力する構成であれば、
図2、
図3で示した構成に限定されるものではない。
【0018】
次に、制御装置20の詳細について以下に説明する。
電力変換器1は直流および交流を出力するため、直流側と交流側の両側の制御が必要となる。さらに、交流側出力にも直流側出力にも寄与しないで正側、負側のアーム間を還流する循環電流izpが電力変換器1内を流れるため、直流側制御、交流側制御に加え循環電流izpの制御が必要となる。また、この場合、交流端7が系統の交流電源14に連系されているため、交流側制御に必要な交流電圧を電力変換器1から出力する必要があり、交流連系点の交流電圧Vspをフィードフォワードすることにより補償する制御を構成する。
図4は、制御装置20の構成例を示すブロック図である。
制御装置20は、上述したように電圧指令生成部21とPWM回路22とを備える。電圧指令生成部21は、交流電流ipを制御するための交流電流制御部23と、電力変換器1内で循環する各相の循環電流izpを制御するための循環電流制御部24とを電流制御部として備え、さらに各相の正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する指令分配部25を備える。
【0019】
交流電流制御部23は、検出された交流電流ipと設定された交流電流指令との偏差が0になるように電圧指令である第1制御指令Vcpを演算する。即ち、各相交流線に流れる交流電流ipを交流電流指令に追従制御するための第1制御指令Vcpを演算する。
循環電流制御部24は、各相の循環電流izpと設定された循環電流指令、例えば0との偏差が0になるように電圧指令である第2制御指令Vzpを演算する。即ち、各相の循環電流izpを循環電流指令に追従制御するための第2制御指令Vzpを演算する。各相の循環電流izpは、各相の正側アーム5、負側アーム6にそれぞれ流れる正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-とから演算できる。
【0020】
指令分配部25には、演算された第1制御指令Vcp、第2制御指令Vzpと、直流電圧指令値Vdcと、中性点電圧Vsnとが入力され、さらにフィードフォワード項として各相の交流電圧Vspが入力される。この場合、電力変換器1の交流側が連系変圧器13を介して交流電源14に接続されているため、中性点電圧Vsnは、直流電源16の電圧により演算される。直流電圧指令値Vdcは、直流出力制御により与えられても、一定値でもよい。
なお、電力変換器1と交流電源14とが絶縁されていない場合は、交流電圧Vspと直流電源16の電圧とにより中性点電圧Vsnが演算される。
そして指令分配部25は、これら入力情報に基づいて、正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。
【0021】
このように電圧指令生成部21が生成する各相の正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-は、交流電流ipを交流電流指令に、循環電流izpを循環電流指令にそれぞれ追従制御すると共に、直流電源16の電圧を直流電圧指令値Vdcに制御し、さらに交流電圧Vspをフィードフォワード制御する出力電圧指令となる。
PWM回路22は、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-に基づいて、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10をPWM制御するゲート信号22aを生成する。
生成されたゲート信号22aにより各変換器セル10内のスイッチング素子30(40)が駆動制御され、電力変換器1の出力電圧は所望の値に制御される。
【0022】
次に、指令分配部25での演算について以下に詳述する。
図5は、電力変換器1の1相分における各部の電圧、電流を回路上で示す図である。
ここで、Lacは連系変圧器13のインダクタンス、Lc
+は正側リアクトル9pのインダクタンス、Lc
−は負側リアクトル9nのインダクタンスを示す。
正側アーム電圧指令Vp
+は、正側アーム5内の変換器セル10を直列接続したセル群5aが出力する電圧の指令値であり、負側アーム電圧指令Vp
−は、負側アーム6内の変換器セル10を直列接続したセル群6aが出力する電圧の指令値である。この場合、セル群5a、6aの出力電圧が、Vp
+、Vp
−に制御されているものとする。
また、直流電源16の電圧も直流電圧指令値Vdcに制御されているとする。
【0023】
キルヒホッフの電流法則により、交流電流ipと、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-との関係は、
ip=ip
+−ip
-
また、循環電流izpは以下のように定義される。
izp=(ip
++ip
-)/2
すると、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-は、以下の式(1)、式(2)で表される。
【0026】
図5に示す電力変換器1の一相分の回路において、直流側のキルヒホッフの電圧法則により、
【0028】
交流側のキルヒホッフの電圧法則により、
【0030】
式(3)、式(4)に、式(1)、式(2)を代入し、ip
+、ip
-を消去して電流の時間微分について整理すると、
【0032】
となる。
交流電流ipと循環電流izpとの非干渉化のために、式(5)を対角化すると、以下の式(6)が得られる。
【0034】
式(6)より、電圧Vp
+、Vp
−は、電流を制御するために必要な電圧成分Vp
+(i)、Vp
−(i)と、交流電圧および直流電圧を制御する電圧成分Vp
+(v)、Vp
−(v)とに分解可能であることがわかる。
電圧を制御するためのVp
+(v)、Vp
−(v)は、式(5)より、
【0036】
となる。
また、電流を制御するためのVp
+(i)、Vp
−(i)は、式(6)より、
【0038】
となる。
交流電流ipを交流電流指令に追従制御するための第1制御指令Vcpと、循環電流izpを循環電流指令に追従制御するための第2制御指令Vzpとが非干渉化され、交流電流制御と循環電流制御とをそれぞれ独立に行うためには、第1制御指令Vcp、第2制御指令Vzpは、式(8)から、以下の式(9)の形となれば良い。
【0040】
式(9)を考慮すると、式(8)は以下の式(10)となり、交流電流ipは第1制御指令Vcpにより、循環電流izpは第2制御指令Vzpにより、それぞれ独立に制御される。
【0042】
また、式(10)の左辺から、
交流電流制御の制御対象は、Lac+Lc
+・Lc
−/(Lc
++Lc
−)
循環電流制御の制御対象は、Lc
++Lc
−
である。
交流電流制御については、交流端7よりも交流電源14側のインダクタンスLacのみでなく、正側アーム5、負側アーム6の並列インダクタンス成分(Lc
+・Lc
−/(Lc
++Lc
−))も制御対象である。即ち第1制御指令Vcpでは、並列インダクタンス成分による電圧降下分は考慮されていない。
【0043】
式(9)を変形すると式(11)となり、電圧Vp
+、Vp
−は、式(7)、式(11)から式(12)で表される。
【0046】
指令分配部25では、式(12)で示される電圧Vp
+、Vp
−を、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に用いる。
この正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−は式(3)を満たし、即ち、正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いた電圧である。なお、電圧降下分を考慮するインダクタンス成分とは、各アーム5、6の並列インダクタンス成分を除いたものである。
【0047】
式(12)で示されるVp
+、Vp
−において、交流電流ipを制御する第1制御指令Vcpに係る電圧成分は、第1制御指令Vcpに係数を乗算した電圧である。交流電流ipは連系変圧器13および正側リアクトル9p、負側リアクトル9nに流れるため、第1制御指令Vcpの係数は、連系変圧器13および正側リアクトル9p、負側リアクトル9nの各インダクタンスLac、Lc
+、Lc
−から求められる。そして、正側アーム電圧指令Vp
+に対して、第1制御指令Vcpに負極性の係数が用いられ、負側アーム電圧指令Vp
−に対して、第1制御指令Vcpに正極性の係数が用いられる。
交流電流ipは正側アーム5、負側アーム6をそれぞれ逆方向に流れるため、第1制御指令Vcpに係る電圧成分は、正側アーム5と負側アーム6とで逆極性となる。
【0048】
また式(12)で示されるVp
+、Vp
−において、循環電流izpを制御する第2制御指令Vzpに係る電圧成分は、第2制御指令Vzpに係数を乗算した電圧である。正側アーム5と負側アーム6との間を流れる循環電流izpは、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nに流れるため、第2制御指令Vzpの係数は、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nの各インダクタンスLc
+、Lc
−から求められる。そして、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に対して、第2制御指令Vzpに同極性の係数が用いられる。
循環電流izpは正側アーム5、負側アーム6をそれぞれ同方向に流れるため、第2制御指令Vzpに係る電圧成分は、正側アーム5と負側アーム6とで同極性となる。
【0049】
交流電圧Vsp、中性点電圧Vsnに係る電圧成分については、第1制御指令Vcpに係る電圧成分と同様に、正側アーム5に対しては負極性、負側アーム6に対しては正極性となる。この場合、係数の大きさは、正側アーム5と負側アーム6とで同じ1である。
直流電圧指令値Vdcに係る電圧成分は、正側アーム5に対する電圧のみで係数は1である。
【0050】
以上のように、この実施の形態では、電力変換器1の正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。これにより、各アーム5、6内のインダクタンス成分が異なるものであっても、交流電流ipの電流制御と循環電流izpの電流制御との間で干渉が生じることなく、電力変換器1は安定して信頼性良く制御される。
【0051】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による電力変換装置を
図6に基づいて以下に説明する。
図6は、この発明の実施の形態2による電力変換装置の概略構成図である。
この実施の形態2では、各レグ回路4の正側アーム5、負側アーム6のそれぞれは、1以上の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aで構成され、負側アーム6のみに、セル群6aの負極側に負側リアクトル9nが直列に挿入される。この他の構成は、
図1で示した上記実施の形態1と同様である。
なお、
図6では便宜上、制御装置20の図示を省略した。
【0052】
制御装置20の構成は
図4で示した上記実施の形態1と同様であるが、この場合、正側リアクトル9pが無いので、指令分配部25での演算が異なり、以下に示す。
インダクタンスLc
+を0として、上記実施の形態1での式(12)を変形すると、以下の式(13)が得られる。
【0054】
指令分配部25では、式(13)で示される電圧Vp
+、Vp
−を、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に用いる。
式(13)で示されるVp
+、Vp
−において、交流電流ipを制御する第1制御指令Vcpに係る電圧成分は、第1制御指令Vcpに係数を乗算した電圧である。交流電流ipは正側アーム5、負側アーム6をそれぞれ逆方向に流れ、正側アーム電圧指令Vp
+に対して、第1制御指令Vcpに負極性の係数が用いられ、負側アーム電圧指令Vp
−に対して、第1制御指令Vcpに正極性の係数が用いられる。この場合、正側リアクトルが存在しないので正側アーム5に対する係数の大きさは1となる。負側アーム6に対する係数は、連系変圧器13および負側リアクトル9nの各インダクタンスLac、Lc
−から求められる。
【0055】
式(13)で示されるVp
+、Vp
−において、循環電流izpを制御する第2制御指令Vzpに係る電圧成分は、第2制御指令Vzpに係数を乗算した電圧である。この場合、正側リアクトルが存在しないので、第2制御指令Vzpに係る電圧成分は、負側アーム6に対する電圧成分のみとなり、−Vzpとなる。
交流電圧Vsp、中性点電圧Vsnおよび直流電圧指令値Vdcに係る電圧成分については、上記実施の形態1と同様である。これらが分担する電圧については、インダクタンス成分による差異はない。
【0056】
この実施の形態においても、指令分配部25は、上記実施の形態1と同様に、電力変換器1の正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。
また、電力変換器1の各相のレグ回路4において、負側アーム6のセル群6aの負極側のみにリアクトル(負側リアクトル9n)が挿入される。このため負側リアクトル9nは、耐電圧特性が低い小型の素子で良く、電力変換器1は小型化に適した構成となる。
このように、小型化に適した電力変換器1の正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とが信頼性良く生成され、交流電流ipの電流制御と循環電流izpの電流制御との間で干渉が生じることなく、電力変換器1は安定して信頼性良く制御される。
【0057】
なお、負側リアクトル9nは、負側アーム6のセル群6aの正極側に挿入しても良く、制御装置20は上記実施の形態2と同様に、正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とを生成して電力変換器1を制御する。
【0058】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態2による電力変換装置を
図7に基づいて以下に説明する。この実施の形態3では、
図1で示した上記実施の形態1と同様の電力変換器1を用い、制御装置20内の電圧指令生成部の構成が上記実施の形態1と異なる。
図7は、この実施の形態3による制御装置20の構成例を示すブロック図である。
制御装置20は、正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とを生成する電圧指令生成部21aと、PWM回路22とを備えてゲート信号22aを生成し、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10を制御する。
各相の正側アーム5、負側アーム6にそれぞれ流れる正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-、さらに、交流電源14の各相電圧である交流電圧Vsp、電力変換器1の中性点電圧Vsn、直流電圧指令値Vdcが制御装置20の電圧指令生成部21aに入力される。
【0059】
電圧指令生成部21aは、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-をそれぞれ制御するためのアーム電流制御部26を電流制御部として備え、さらに各相の正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する指令分配部25aを備える。
アーム電流制御部26は、検出された正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-と設定された各アーム電流指令との偏差がそれぞれ0になるように電圧指令である第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpを演算する。即ち、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-を各アーム電流指令に追従制御するための第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpを演算する。
【0060】
正側アーム電流指令ipr
+および負側アーム電流指令ipr
−は、例えば以下の式で求められる。但し、iprは交流電流指令、idcrは直流電流指令、izprは循環電流指令である。
ipr
+=(1/2)ipr+(1/3)idcr+izpr
ipr
−=−(1/2)ipr+(1/3)idcr+izpr
【0061】
指令分配部25aには、演算された第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpと、直流電圧指令値Vdcと、中性点電圧Vsnとが入力され、さらにフィードフォワード項として各相の交流電圧Vspが入力される。そして指令分配部25aは、これら入力情報に基づいて、正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。
【0062】
このように電圧指令生成部21aが生成する各相の正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-は、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-を各アーム電流指令に追従制御することにより交流電流ipと循環電流izpとを制御すると共に、交流電圧Vspをフィードフォワード制御するための出力電圧指令となる。
PWM回路22は、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-に基づいて、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10をPWM制御するゲート信号22aを生成する。
【0063】
次に、指令分配部25aでの演算について以下に詳述する。
電力変換器1の1相分における各部の電圧、電流の関係は、上記実施の形態1の
図5で示したものと同様で、上記式(1)〜式(4)が成立する。
交流電流ipと、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
-との関係式である、
ip=ip
+−ip
-
と、式(3)、式(4)より、ipを消去して電流の時間微分について整理すると、
【0065】
となる。
正側アーム電流ip
+と負側アーム電流ip
-との非干渉化のために、式(14)を対角化すると、以下の式(15)が得られる。
【0067】
式(15)より、電圧Vp
+、Vp
−は、電流を制御するために必要な電圧成分Vp
+(i)、Vp
−(i)と、交流電圧および直流電圧を制御する電圧成分Vp
+(v)、Vp
−(v)とに分解可能であることがわかる。
電圧を制御するためのVp
+(v)、Vp
−(v)は、式(15)より、
【0069】
となる。
また、電流を制御するためのVp
+(i)、Vp
−(i)は、式(15)より、
【0071】
となる。
式(17)に基づいて、正側アーム電流ip
+を正側アーム電流指令に追従制御するための第3制御指令Vpp、負側アーム電流ip
-を負側アーム電流指令に追従制御するための第4制御指令Vnpは、以下の式(18)で示される。
【0073】
式(18)を変形すると式(19)となり、電圧Vp
+、Vp
−は、式(16)、式(19)から式(20)で表される。
【0076】
指令分配部25aでは、式(20)で示される電圧Vp
+、Vp
−を、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に用いる。
この正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−は式(3)を満たし、即ち、正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いた電圧である。
式(20)で示されるVp
+、Vp
−において、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御する第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpの係数は、連系変圧器13および正側リアクトル9p、負側リアクトル9nの各インダクタンスLac、Lc
+、Lc
−から求められる。
交流電圧Vsp、中性点電圧Vsnおよび直流電圧指令値Vdcに係る電圧成分については、上記実施の形態1と同様である。これらが分担する電圧については、インダクタンス成分による差異はない。
【0077】
以上のように、この実施の形態では、電力変換器1の正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。これにより、各アーム5、6内のインダクタンス成分が異なるものであっても、正側アーム電流ip
+の電流制御と負側アーム電流ip
-の電流制御との間で干渉が生じることなく、電力変換器1は安定して信頼性良く制御される。また、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御することにより、交流電流ipは交流電流指令に制御され、循環電流ipは循環電流指令に制御される。
【0078】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4による電力変換装置を以下に説明する。この実施の形態では、
図6で示した上記実施の形態2と同様の電力変換器1の構成を用い、
図7で示した上記実施の形態3による制御を適用したものである。
即ち、この実施の形態4では、
図6に示すように、各レグ回路4の正側アーム5、負側アーム6のそれぞれは、1以上の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aで構成され、負側アーム6のみに、セル群6aの負極側に負側リアクトル9nが直列に挿入される。そして、上記実施の形態3と同様の制御装置20を用いるが、この場合、正側リアクトル9pが無いので、指令分配部25aでの演算が異なり、以下に示す。
インダクタンスLc
+を0として、上記実施の形態3での式(20)を変形すると、以下の式(21)が得られる。
【0080】
指令分配部25aでは、式(21)で示される電圧Vp
+、Vp
−を、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に用いる。
式(21)で示されるVp
+、Vp
−において、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御する第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpの係数は、連系変圧器13および負側リアクトル9nの各インダクタンスLac、Lc
−から求められる。
交流電圧Vsp、中性点電圧Vsnおよび直流電圧指令値Vdcに係る電圧成分については、上記実施の形態1と同様である。これらが分担する電圧については、インダクタンス成分による差異はない。
【0081】
以上のように、この実施の形態においても、電力変換器1の正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、各アーム5、6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配することにより、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp
+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp
-とを決定する。
また、電力変換器1の各相のレグ回路4において、負側アーム6のセル群6aの負極側のみにリアクトル(負側リアクトル9n)が挿入される。このため負側リアクトル9nは、耐電圧特性が低い小型の素子で良く、電力変換器1は小型化に適した構成となる。
このように、小型化に適した電力変換器1の正側アーム電圧指令Vp
+と負側アーム電圧指令Vp
-とが信頼性良く生成され、正側アーム電流ip
+の電流制御と負側アーム電流ip
-の電流制御との間で干渉が生じることなく、電力変換器1は安定して信頼性良く制御される。また、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御することにより、交流電流ipは交流電流指令に制御され、循環電流ipは循環電流指令に制御される。
【0082】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態4による電力変換装置を以下に説明する。この実施の形態では、上記実施の形態3において、正側リアクトル9pのインダクタンスLc
+と負側リアクトル9nのインダクタンスLc
−とが等しい場合を示す。
即ち、この実施の形態5では、
図1に示すように、各レグ回路4の正側アーム5、負側アーム6のそれぞれは、1以上の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aで構成され、正側アーム5、負側アーム6に、それぞれ正側リアクトル9p、負側リアクトル9nが直列に挿入される。そして、上記実施の形態3と同様の制御装置20において、指令分配部25aでの演算は以下のようになる。
Lc
+=Lc
−=Lcとして、上記実施の形態3での式(20)を変形すると、以下の式(22)が得られる。
【0084】
指令分配部25aでは、式(22)で示される電圧Vp
+、Vp
−を、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
−に用いる。
式(22)で示されるVp
+、Vp
−において、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御する第3制御指令Vpp、第4制御指令Vnpの係数は、連系変圧器13および正側リアクトル9p、負側リアクトル9nの各インダクタンスLac、Lcから求められる。
交流電圧Vsp、中性点電圧Vsnおよび直流電圧指令値Vdcに係る電圧成分については、上記実施の形態1と同様である。これらが分担する電圧については、インダクタンス成分による差異はない。
このように、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nのインダクタンスが等しい場合にも、異なる場合と同様の制御が適用でき、同様に安定した制御が実現できる。
【0085】
なお、この実施の形態では、正側アーム電流ip
+、負側アーム電流ip
−をそれぞれ制御する実施の形態3を適用する場合を示したが、上記実施の形態1を適用しても良い。即ち、交流電流ip、循環電流izpとをそれぞれ制御する場合には、Lc
+=Lc
−=Lcとして、上記実施の形態1での式(12)を変形して用いる。
【0086】
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態6による電力変換装置を以下に説明する。
この実施の形態では、
図8に示すように、制御装置20内で生成される正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-を、変調率補正信号により補正してPWM回路22に入力する。
正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10の直流コンデンサ34(44)は、交流電源14の位相に応じて変動する。このため、制御装置20は、直流コンデンサ34(44)の電圧に基づく変調率補正信号を生成して、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-を変調率補正信号により除して用いる。これにより正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-にて決定される正側アーム5、負側アーム6の各変調率は交流電源14の位相に応じて補正され制御性が向上する。
【0087】
上記変調率補正信号は、例えば正側アーム5、負側アーム6内の全ての変換器セル10のの直流コンデンサ34(44)の平均電圧でも良いし、各アーム毎に変換器セル10の直流コンデンサ34(44)の平均電圧をそれぞれ用いても良い。
また、正側アーム電圧指令Vp
+、負側アーム電圧指令Vp
-を各変換器セル10毎に導出し、各変換器セル10毎の直流コンデンサ34(44)の電圧を変調率補正信号に用いてもよい。
【0088】
なお、上記各実施の形態では、電力変換器1の交流側を系統に連系して、制御装置20は、交流電圧Vspをフィードフォワードする制御を行うものであったが、電力変換器1の交流側を他の交流回路に接続した場合、交流電圧Vspのフィードフォワード制御は無くても良い。
【0089】
またこの発明は、発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。