特許第6188864号(P6188864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188864排水処理方法、排水処理装置、及び排水処理用の活性剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6188864
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】排水処理方法、排水処理装置、及び排水処理用の活性剤
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20170821BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20170821BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20170821BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20170821BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C02F3/12 S
   C02F1/44 C
   B01D65/08
   B01D65/02
   B01D65/02 520
   C02F3/00 D
   C02F3/12 D
【請求項の数】21
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-93853(P2016-93853)
(22)【出願日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年11月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】平岡 睦久
(72)【発明者】
【氏名】田口 和之
(72)【発明者】
【氏名】糸川 和芳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】隋 鵬哲
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−005924(JP,A)
【文献】 特表2013−510710(JP,A)
【文献】 特開2006−334587(JP,A)
【文献】 特開昭58−074196(JP,A)
【文献】 特開平11−319516(JP,A)
【文献】 特開2004−298703(JP,A)
【文献】 特開2007−260664(JP,A)
【文献】 特開平07−124584(JP,A)
【文献】 特開平03−178395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00−71/82
C02F1/44
C02F3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物としてバチルス属細菌を優占化しつつ、前記処理槽で活性汚泥処理される前記排水に、前記バチルス属細菌を活性化する成分を含有する活性剤であって、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含み、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を添加することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記活性剤は、難溶解性のケイ素化合物を含む請求項1又は2記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記活性剤は、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記活性剤は、該活性剤に更にケイ素化合物の可溶化剤を組み合わせて用いる請求項2又は3記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定し、その測定値に基づいて、前記活性剤の添加量を制御する請求項1〜のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記酵素活性は、タンパク質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の活性であり、その活性値が所定値を下回ったとき、前記活性剤を添加する請求項記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記分離膜の目詰まりの状態を計測して、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記活性剤の添加量を制御する請求項1〜のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記分離膜の目詰まりの状態を示す指標を、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量とし、前記水圧及び/又は水流量の値が所定値を下回ったとき、前記活性剤を添加する請求項記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記分離膜の目詰まりの状態を前記分離膜の逆洗処理又はバブリングを行なった後に計測する請求項又は記載の排水処理方法。
【請求項10】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物としてバチルス属細菌を活性化する成分を含有する活性剤であって、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含み、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段と、
前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定する手段と、
その測定値に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする排水処理装置。
【請求項11】
前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定する手段は、タンパク質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の活性を測定する手段を含む請求項10記載の排水処理装置。
【請求項12】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、
前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物としてバチルス属細菌を活性化する成分を含有する活性剤であって、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含み、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段と、
前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、
その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする排水処理装置。
【請求項13】
前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段は、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量を計測する手段を含む請求項12記載の排水処理装置。
【請求項14】
前記活性剤は、難溶解性のケイ素化合物を含む請求項1013のいずれか1つに記載の排水処理装置。
【請求項15】
前記活性剤は、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項14記載の排水処理装置。
【請求項16】
前記活性剤は、該活性剤に更にケイ素化合物の可溶化剤を組み合わせて用いる請求項14又は15記載の排水処理装置。
【請求項17】
有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法において、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物としてバチルス属細菌を優占化するために用いる活性剤であって、前記微生物を活性化する成分を含有し、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含み、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満であることを特徴とする排水処理用の活性剤。
【請求項18】
前記微生物を活性化する成分として、難溶解性のケイ素化合物を含む請求項17記載の活性剤。
【請求項19】
前記微生物を活性化する成分として、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項18記載の活性剤。
【請求項20】
ケイ素化合物の可溶化剤と組み合わせて用いる請求項18又は19記載の活性剤。
【請求項21】
前記可溶化剤は、ケイ素及び/又はケイ素化合物の重合を抑制するカチオン系ポリマーを含む請求項20記載の活性剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水や産業排水など有機物を含んでいる排水を、活性汚泥処理するとともに、膜濾過して処理する排水処理方法及び排水処理装置並びにその排水処理用の活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理方法の1つとして、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理して有機物等を除去し、次いで、逆浸透膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜、中空糸膜等の分離膜を備えた膜モジュールを通過させて、浮遊微生物やその他の浮遊物質(SSと略称される)を濾過処理して固液分離する、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane BioReactor)が知られている。膜分離活性汚泥法は、膜モジュールを用いて固液分離を行うため、最終沈殿池を省略でき、装置を小型化できるというメリットがある。
【0003】
しかしながら、長時間の運転によって膜モジュールに浮遊微生物やその他の浮遊物質(SS)等が徐々に堆積していき、分離膜が目詰まりするという問題があった。分離膜が目詰まりすると、膜間圧差の上昇や濾過流束の低下などが生じ、また、バブリングや逆洗、薬品洗浄など、目詰まり防止のためのランニングコストがかかり、更には、最終的には分離膜を交換しなければならず、分離膜の交換間隔が短いと連続運転も妨げられるので、排水処理装置の全体的な運転効率が低下するという問題があった。最近ではこのような分離膜の目詰まりの主な原因が、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、活性汚泥中の微生物が産出する糖タンパク質を含む沈着物(粘着性の微生物やその残骸などを含む)であることが明らかになっている。
【0004】
膜分離活性汚泥法に関し、例えば下記特許文献1には、分離膜の目詰まりの原因となる分散性細菌を捕食する能力に優れた小動物を処理槽に導入して、その摂食作用を強化することによって、分離膜の目詰まりの問題を解決しようとする試みがある。また、例えば下記特許文献2には、目詰まりの原因となるバイオフィルムの形成を低めるか妨げることができる微生物を分離膜に供して、分離膜の目詰まりの問題を解決しようとする試みがある。
【0005】
一方、このような活性汚泥処理に利用される汚泥は、反応槽中の微生物が主な構成要素であり、排水中の有機物等を基質として生育した微生物の集塊である。そのため、活性汚泥処理では排水中の有機物が浄化される一方、それに応じて汚泥発生量も増えることになる。また、反応槽に存在する微生物に対して外界から微生物が全く混入しないという閉鎖系の処理ではなく、自然界に普遍的に存在する微生物が常に混入する状態にある。そのため、生物処理に関わる微生物は多種多様であり、様々な特性、機能を有する。よって、処理対象の排水によって反応槽内で優占化する微生物も異なっている。
【0006】
そこで、排水処理環境中の微生物の中でも増殖速度が速く、有機物を分解する酵素を大量に生産するバチルス菌を優占化させる手法を用いて排水処理の効率を向上させることが提案され、実用化されている。この場合に処理槽内にバチルス菌を優占化し、維持するため、ケイ素化合物やミネラルを含有する活性剤を添加することも行われる(下記特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−260664号公報
【特許文献2】特表2013−510710号公報
【特許文献3】特許第4826982号公報
【特許文献4】国際公開第2011/136188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、膜分離活性汚泥法における分離膜の目詰まりの問題に関し、上記特許文献1の方法では、分散性細菌の捕食能に優れた小動物が処理槽に投入され、それが活性汚泥処理に有用な微生物までをも捕食してしまい、かえって排水処理能力に支障をきたすおそれがあった。また、上記特許文献2の方法でも、目詰まりの原因となるバイオフィルムの形成を低めるか妨げることができる微生物が処理槽内に供されることになるので、その存在によって処理槽内の微生物群の生育バランスがくずれて、かえって排水処理能力に支障をきたすおそれがあった。
【0009】
一方、本発明者らの知見によれば、バチルス菌を優占化する手法を膜分離活性汚泥法に適用する場合、バチルス菌の活性剤にはカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が含まれており、これが処理槽内に長く滞留すると分離膜にスケールが発生して目詰まりを助長するという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、膜分離活性汚泥法において、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の目詰まりを抑えてその長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を図ることができる排水処理方法、排水処理装置、及び排水処理用の活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により提供される排水処理方法は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化しつつ、前記処理槽で活性汚泥処理される前記排水に、前記微生物を活性化する成分を含有する活性剤であって、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を添加することを特徴とする。
【0012】
本発明により提供される排水処理方法によれば、処理槽内で活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出すので、沈殿槽が必要なく、装置構成を簡素化できる。また、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化して、その微生物の活性剤として所定粒度に揃えられた活性剤を用いるので、その微生物が効果的に活性化されて、その微生物が分泌する酵素により、分離膜の目詰まりの原因となる成分を効率的に低減することができる。更には、その微生物の活性剤が処理槽内に長く滞留することがなく、活性剤に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に起因したスケール生成によって分離膜の目詰まりが助長されることがない。よって、分離膜の長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を実現することができる。
【0013】
上記の排水処理方法においては、前記微生物は、バチルス属細菌を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌が少なくともタンパク質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌するので、その酵素により分離膜の目詰まりの原因となる成分をより効率的に低減することができる。
【0014】
また、前記活性剤は、ケイ素化合物を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0015】
また、前記活性剤は、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0016】
また、前記活性剤は、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含むことが好ましい。これによれば、上記活性剤として鉱物に由来する資材などの安価な資材を利用することができる。
【0017】
また、前記活性剤は、該活性剤に更にケイ素化合物の可溶化剤を組み合わせて用いることが好ましい。これによれば、そのケイ素成分がバチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に更により効果的に作用し、その活性化を促すことができる。
【0018】
また、前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定し、その測定値に基づいて、前記活性剤の添加量を制御することが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性の状態に応じて、所望のタイミングで上記活性剤を添加することにより、スケール生成の原因となるミネラル分を不必要に供給することがない。
【0019】
前記酵素活性は、タンパク質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の活性であり、その活性値が所定値を下回ったとき、前記活性剤を添加することが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性の状態をより簡便にモニタして、より正確な時期に上記活性剤を添加することができる。
【0020】
また、前記分離膜の目詰まりの状態を計測して、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記活性剤の添加量を制御することが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態に応じて、所望のタイミングで上記活性剤を添加することにより、スケール生成の原因となるミネラル分を不必要に供給することがない。
【0021】
また、前記分離膜の目詰まりの状態を示す指標を、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量とし、前記水圧及び/又は水流量の値が所定値を下回ったとき、前記活性剤を添加することが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態をより簡便にモニタして、より正確な時期に上記活性剤を添加することができる。
【0022】
また、前記分離膜の目詰まりの状態を前記分離膜の逆洗処理又はバブリングを行なった後に計測することが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態をより正確にモニタすることができる。
【0023】
一方、本発明により提供される排水処理装置の第1の形態は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を活性化する成分を含有する活性剤であって、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段と、前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定する手段と、その測定値に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明により提供される排水処理装置の第1の形態によれば、処理槽内で活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出すので、沈殿槽が必要なく、装置構成を簡素化できる。また、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤であって、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段を備えているので、その活性剤の供給により、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物が効果的に活性化されて、その微生物が分泌する酵素により、分離膜の目詰まりの原因となる成分を効率的に低減することができる。更には、その微生物の活性剤が処理槽内に長く滞留することがなく、活性剤に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に起因したスケール生成によって分離膜の目詰まりが助長されることがない。更にまた、前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定する手段と、その測定値に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えているので、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性の状態に応じて、所望のタイミングでその微生物の活性剤を添加することにより、スケール生成の原因となるミネラル分を不必要に供給することがない。よって、分離膜の長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を実現することができる。
【0025】
前記処理槽内の前記排水中に含まれる前記微生物に由来する酵素活性を測定する手段は、タンパク質分解酵素及び/又は炭水化物分解酵素の活性を測定する手段を含むことが好ましい。これによれば、分処理槽内の排水中に含まれる微生物の活性の状態をより簡便にモニタして、より正確な時期に上記活性剤を添加することができる。
【0026】
一方、本発明により提供される排水処理装置の第2の形態は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理装置であって、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を活性化する成分を含有する活性剤であって、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段と、前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、前記処理槽で活性汚泥処理される排水中への前記活性剤の供給量を制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0027】
本発明により提供される排水処理装置の第2の形態によれば、処理槽内で活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出すので、沈殿槽が必要なく、装置構成を簡素化できる。また、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤であって、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を供給する手段を備えているので、その活性剤の供給により、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物が効果的に活性化されて、その微生物が分泌する酵素により、分離膜の目詰まりの原因となる成分を効率的に低減することができる。更には、その微生物の活性剤が処理槽内に長く滞留することがなく、活性剤に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に起因したスケール生成によって分離膜の目詰まりが助長されることがない。更にまた、分離膜の目詰まりの状態を計測する手段と、その計測した分離膜の目詰まりの状態に基づいて、処理槽で活性汚泥処理される排水中への活性剤の供給量を制御する制御手段を備えているので、分離膜の目詰まりの状態に応じて、所望のタイミングでその微生物の活性剤を添加することにより、スケール生成の原因となるミネラル分を不必要に供給することがない。よって、分離膜の長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を実現することができる。
【0028】
前記分離膜の目詰まりの状態を計測する手段は、前記分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量を計測する手段を含むことが好ましい。これによれば、分離膜の目詰まりの状態をより簡便にモニタして、より正確な時期に上記活性剤を添加することができる。
【0029】
上記の排水処理装置においては、前記微生物は、バチルス属細菌を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌が少なくともタンパク質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌するので、その酵素により分離膜の目詰まりの原因となる成分をより効率的に低減することができる。
【0030】
また、前記活性剤は、ケイ素化合物を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0031】
また、前記活性剤は、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0032】
また、前記活性剤は、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種の粉砕物を含むことが好ましい。これによれば、上記活性剤として鉱物に由来する資材などの安価な資材を利用することができる。
【0033】
また、前記活性剤は、該活性剤に更にケイ素化合物の可溶化剤を組み合わせて用いることが好ましい。これによれば、そのケイ素成分がバチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に更により効果的に作用し、その活性化を促すことができる。
【0034】
他方、本発明により提供される排水処理用の活性剤は、有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行うとともに、その処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法において、前記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化するために用いる活性剤であって、前記微生物を活性化する成分を含有し、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満であることを特徴とする。
【0035】
本発明により提供される排水処理用の活性剤によれば、膜分離活性汚泥法における有用微生物の活性剤として所定粒度に揃えられた活性剤を用いるので、その微生物が効果的に活性化されて、その微生物が分泌する酵素により、分離膜の目詰まりの原因となる成分を効率的に低減することができる。また、その微生物の活性剤が処理槽内に長く滞留することがなく、活性剤に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に起因したスケール生成によって分離膜の目詰まりが助長されることがない。よって、分離膜の長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を実現することができる。
【0036】
上記の排水処理用の活性剤においては、前記微生物は、バチルス属細菌を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌が少なくともタンパク質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌するので、その酵素により分離膜の目詰まりの原因となる成分をより効率的に低減することができる。
【0037】
また、前記微生物を活性化する成分として、ケイ素化合物を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0038】
また、前記微生物を活性化する成分として、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによれば、バチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物をより効果的に活性化することができる。
【0039】
また、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、及びセメントからなる群から選ばれる少なくとも1種を粉砕して得られたものであることが好ましい。これによれば、上記活性剤として鉱物に由来する資材などの安価な資材を利用することができる。
【0040】
また、ケイ素化合物の可溶化剤と組み合わせて用いることが好ましい。これによれば、そのケイ素成分がバチルス属細菌等の分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に更により効果的に作用し、その活性化を促すことができる。
【0041】
また、前記可溶化剤は、ケイ素及び/又はケイ素化合物の重合を抑制するカチオン系ポリマーを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、膜分離活性汚泥法において、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の目詰まりを抑えてその長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を実現することができる排水処理方法、排水処理装置、及び排水処理用の活性剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】バチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定する手段の一例として処理槽内の排水中に含まれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の活性を測定する手順である。
図3】バチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定する手段の他の一例として処理槽内の排水中に含まれる炭水化物分解酵素(アミラーゼ)の活性を測定する手順である。
図4図1に示す排水処理装置の制御装置での制御の例を示す制御フローチャートであり、図4Aは分離膜の目詰まりの状態に基づく制御の一例を示す制御フローチャートであり、図4Bは処理槽内の排水中に含まれる微生物に由来する酵素活性に基づく制御の一例を示す制御フローチャートである。
図5】試験例1においてバチルス菌による汚泥分解性能を調べた結果を示す図表である。
図6】試験例3において高炉スラグの粉砕品Aの粒度分布を測定した結果を示す図表である。
図7】試験例3において高炉スラグの粉砕品Bの粒度分布を測定した結果を示す図表である。
図8】試験例3において従来市販の活性剤の粒度分布を測定した結果を示す図表である。
図9】試験例5においてバチルス菌Aについてタンパク質分解酵素産生に与える活性剤の効果を調べた結果を示す図表である。
図10】試験例5においてバチルス菌Bについてタンパク質分解酵素産生に与える活性剤の効果を調べた結果を示す図表である。
図11】試験例6においてバチルス菌Aについて炭水化物分解酵素産生に与える活性剤の効果を調べた結果を示す図表である。
図12】試験例6においてバチルス菌Bについて炭水化物分解酵素産生に与える活性剤の効果を調べた結果を示す図表である。
図13】試験例7においてバチルス菌Aの増殖に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図14】試験例7においてバチルス菌Bの増殖に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図15】試験例8においてバチルス菌Aについてタンパク質分解酵素産生に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図16】試験例8においてバチルス菌Bについてタンパク質分解酵素産生に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図17】試験例9においてバチルス菌Aについて炭水化物分解酵素産生に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図18】試験例9においてバチルス菌Bについて炭水化物分解酵素産生に与える鉱物成分の効果を調べた結果を示す図表である。
図19】試験例10において流入供試水と処理水の水質を測定した結果を示す図表である。
図20】試験例10において膜モジュールの種類として平膜を使用した条件No.1(バチルス菌優占化)とNo.4(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件における膜の目詰まりの状況を調べた結果を示す図表である。
図21】試験例10において膜モジュールの種類として中空糸膜を使用した条件No.2(バチルス菌優占化)とNo.3(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件における膜の目詰まりの状況を調べた結果を示す図表である。
図22】試験例10において膜モジュールの種類として中空糸膜を使用した条件No.2(バチルス菌優占化)とNo.3(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件において膜閉塞を起した膜を水道水洗浄あるいは薬品洗浄したときのろ過抵抗の回復度合いを調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0045】
図1は、本発明による排水処理方法を実施するための排水処理装置の一例を示す概略構成図である。この排水処理装置は、排水を活性汚泥処理する処理槽1と、処理槽1内に設置された膜モジュール2とを備えており、いわゆる膜分離活性汚泥法による排水処理装置である。処理槽1には、流量調整槽を介して、前処理工程で夾雑物を除去した排水が導入されて、処理槽1内で所定時間の滞留を経て活性汚泥処理される。処理後の排水は、膜モジュール2に連通した配管を通じて吸引ポンプ3で吸引されて、その膜モジュール2に備わる分離膜で固液分離された液部が処理水として取り出される。余剰汚泥は必要に応じて汚泥引抜ポンプ4により系外に排出される。
【0046】
処理対象となる排水としては、窒素、有機物を含む排水であれば特に限定はなく、例えば家庭排水や、穀類でんぷん製造業、乳製品製造業、食肉センター、砂糖製造業、畜産食料品製造業、畜産農業、肉製品製造業、食肉ハム・ソーセージ製造業、水産練り製品製造業、水産食料品製造業、有機化学工業製造業、無機化学工業製造業などからの排水が挙げられる。
【0047】
処理槽1については、槽内に微生物を含む活性汚泥が滞留し、もしくは投入され、その活性汚泥中の微生物により排水の汚濁成分が分解され、除去される活性汚泥処理ができる処理槽であれば、特に限定はない。例えば、アンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌などの好気性微生物を利用した曝気槽などであってもよく、亜硝酸酸化菌などの好気性微生物と脱窒菌などの嫌気性微生物を利用した間欠曝気槽などであってもよい。
【0048】
膜モジュール2に用いる分離膜としては、一般的な濾過膜であれば全て使用できる。例えば、逆浸透(RO)膜、限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜、中空糸(HF)膜等が挙げられる。また、濾過膜の材質としては、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。また、膜モジュール2の形態としては、特に限定はなく、中空糸膜モジュール、平膜型モジュール、スパイラル型モジュール、管型モジュール等が挙げられる。
【0049】
この実施形態では、処理槽1内底部であって膜モジュール2の下方に散気板5が設けられ、ブロア6からの空気を散気板5に供給して、処理槽1内で処理される排水に曝気処理が施されるようになっている。この曝気処理は、槽内の活性汚泥中の微生物への酸素供給が目的であるが、そのバブリング作用により膜モジュール2に比較的弱く付着した夾雑物を排除したり、もしくはそのような夾雑物が膜モジュール2に付着しないようにする役割も担っている。
【0050】
また、活性剤供給槽7からは活性剤注入ポンプ8によって、後述する分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物に対してその活性を向上させる活性剤が、処理槽1内の排水に供給されるようになっている。そして、その配管の途中には活性剤注入調整バルブ9が設けられており、その開閉により活性剤の供給量が調節されるようになっている。
【0051】
また、膜モジュール2に連通した配管の途中にはセンサ10が設けられており、分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量がモニタされるようになっている。すなわち、このセンサとしては、圧力センサ、ろ過流量計、超音波流量計、処理水の単位時間あたりの重量を計測して水流量に換算する手段などが挙げられる。
【0052】
(活性剤)
以下、本発明に使用する活性剤について説明する。
【0053】
活性剤としては、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を活性化する成分を含有するものであればよいが、特にケイ素化合物を含むものであることが好ましい。これによれば、そのケイ素成分が、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物、例えば、バチルス属細菌等の微生物の生育を促進したり、悪環境下での耐性を向上させたり、その微生物からの酵素分泌を促すなどして、その微生物を活性化することができる。
【0054】
活性剤としては、更に鉄化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びマンガン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであることが好ましい。これによれば、その鉄成分、マグネシウム成分、カルシウム成分、及び/又はマンガン成分が、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物、例えば、バチルス属細菌等の微生物の生育を促進したり、悪環境下での耐性を向上させたり、その微生物からの酵素分泌を促すなどして、その微生物をより効果的に活性化することができる。
【0055】
例えば、ケイ素化合物としては二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。鉄化合物としては塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄等が挙げられる。マグネシウム化合物としては塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。カルシウム化合物としては塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。マンガン化合物としては塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等が挙げられる。
【0056】
また、活性剤には上記の化合物以外にも他のミネラル分を含有してもよい。アルミニウム塩などのアルミニウム化合物、ニッケル塩などのニッケル化合物、チタン塩などのチタン化合物などが挙げられる。
【0057】
活性剤としては、上記成分を含有する試薬やその調合物などで構成してもよいが、処理コストの低減のためには、鉱物に由来する資材や工業副産物などを用いることが好ましい。例えば、高炉スラグ、珪藻土、パーライト、セメント等が挙げられる。
【0058】
高炉スラグは、鉄鋼製造の高温炉工程における副産物であり、鉄鉱石に含まれる成分や、副原料の石灰石やコークスの成分を含み、従来、セメント用、コンクリート用、アスファルト用、地盤改良用、肥料用などの用途に利用されている。高炉スラグは、後述の試験例に示すように、少なくともケイ素成分、鉄成分、カルシウム成分、マグネシウム成分、アルミニウム成分、マンガン成分を含有している。
【0059】
珪藻土は、珪藻の殻の化石堆積物である。従来、壁材用、タイル材用、耐火レンガ用、濾過材用、脱臭用などの用途に利用されている。珪藻土は、後述の試験例に示すように、少なくともケイ素成分、鉄成分、カルシウム成分、マグネシウム成分、アルミニウム成分、マンガン成分を含有している。
【0060】
パーライトは、真珠岩、黒曜石、松脂岩などのガラス質を含む火山岩石の焼成発泡体である。従来、土壌改良用、断熱材用、濾過材用、肥料用などの用途に利用されている。パーライトは、後述の試験例に示すように、少なくともケイ素成分、鉄成分、カルシウム成分、マグネシウム成分、アルミニウム成分、マンガン成分を含有している。
【0061】
セメントは、従来、コンクリートやモルタルの材料として用いられており、石灰石、粘土、珪石、鉄等の原料を混ぜて焼成してなるクリンカを含む。セメントは、後述の試験例に示すように、少なくともケイ素成分、鉄成分、カルシウム成分、マグネシウム成分、アルミニウム成分を含有している。
【0062】
なお、本発明者らの知見によれば、鉱物由来資材などは一般に難溶解性資材であり、それらを活性剤として処理槽に添加しても、その成分のうち微生物が利用できる量はごく微量であり、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物、例えば、バチルス属細菌等の微生物にとって適宜適当な量が供給されているとは言い難かった。また、処理槽内に溜まりやすく、そこから徐々に溶出したカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分により分離膜にスケールが生じて目詰まりを助長するという問題があった。
【0063】
本発明においては、上記活性剤として、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満であるものを用いる。全体の 50個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ80μmを超える粒径が全体の10個数%未満であるものを用いることがより好ましく、全体の90個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ60μmを超える粒径が全体の10個数%未満であるものを用いることが更により好ましい。さらには、0.2μm以下の粒径が1%以内であるものが好ましく、0.2μm以下の粒径を含まないものを用いることが更により好ましい。そのような粒度にすることにより、活性剤の成分が、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物、例えば、バチルス属細菌等の微生物に効果的に作用し、その活性化を促すことができる。また、活性剤が処理槽内に長く滞留することがなく、スケール生成によって分離膜の目詰まりが助長されることが防がれる。また、例えば典型的な膜孔径0.2μmと比較して、それ以下の粒径が含まれないようにすることにより、膜孔への粒子透過と閉塞を防ぐことができる。所定粒度を有する活性剤は、例えば、ジェットミルのような気流式粉砕機やパワーミルのような衝撃式粉砕機による粉砕などにより調製することができる。粉砕後には、必要に応じて篩にかけて、所望の粒度のものを選別してもよい。粒度分布の測定は、レーザー回折・散乱法により、粒子にレーザー光を照射しときの散乱光の散乱パターンにより粒子径を見積もる方式などにより測定することができる。例えばレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(「マイクロトラックMT3000」、日機装株式会社)などによって測定することができる。
【0064】
本発明において、上記所定粒度を有する活性剤による作用効果は、活性剤の個々の粒子(主として10μm未満の粒径の粒子:全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、好ましくは全体の50個数%以上が10μm未満の粒径を有し、より好ましくは全体の90個数%以上が10μm未満の粒径を有する)が処理槽内でよく分散して活性汚泥中の微生物に接触するように用いるとともに、活性剤全体としても処理槽内でよく分散して処理後水側に排出されるように用いることにより発揮させることができる。よって、上記所定粒度を有する活性剤は、そのような使用の形態を妨げない限り、適宜、液体に分散したり、顆粒化したり、錠剤化したりしてもよく、粉体以外の形態として提供されてもよい。
【0065】
上記所定粒度を有する活性剤は、他の活性化有効物質と併用してもよい。これによれば、鉱物に由来する資材などを用いた場合に、活性化のために必要な成分として不足しているものを補うことができる。例えば、ケイ素化合物としては二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。鉄化合物としては塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄等が挙げられる。マグネシウム化合物としては塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。カルシウム化合物としては塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。マンガン化合物としては塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等が挙げられる。
【0066】
上記所定粒度を有する活性剤は、ケイ素化合物の可溶化剤を併用してもよい。これによれば、活性剤のケイ素成分が、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物、例えば、バチルス属細菌等の微生物に更により効果的に作用し、その活性化を促すことができる。また、上記所定粒度を有する活性剤に対しては、ケイ素化合物の可溶化剤による可溶化の効果も顕著である。
【0067】
以下には、ケイ素化合物の可溶化剤について説明する。
【0068】
(1)ケイ素化合物
鉱物などに含まれるケイ素化合物の形態は、ケイ酸やケイ酸塩が知られている。ケイ酸は化学式〔SiO(OH)4−2Xで表されるケイ素、酸素、水素の化合物の総称であり、自然界に確認されているものは、オルトケイ酸(HSiO)、メタケイ酸(HSiO)、メタ二ケイ酸(HSi)などがある。ケイ酸塩は、1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り込んだ構造を持つアニオンを含む化合物で、シリケートとも呼ばれている。自然界の鉱物はケイ酸塩鉱物として大量に存在する。バチルス属細菌等の微生物を優占化した排水処理プロセスにおいてケイ素の供給源としてはこのケイ酸塩鉱物を添加することが安価で簡便である。しかし、ケイ素の構造が重合した形で存在しているため不溶性である。
【0069】
即ち、カンラン石や柘榴石などはネソケイ酸塩鉱物といわれ、〔SiO4−の四面体単体構造を持つ。ベスブ石や緑簾石などはソロケイ酸塩鉱物といわれ、〔Si6−の四面体2量体構造を持つ。緑柱石や電気石などはサイクロケイ酸塩鉱物といわれ、〔Si3n2n−の環状構造を持つ。輝石などはイソケイ酸塩鉱物といわれ、〔Si3n2n−の単鎖状構造を持つ。角閃石などはイソケイ酸塩鉱物といわれ2本鎖状構造で、〔Si4n11n6n−の構造を持つ。雲母や粘土鉱物はフィロケイ酸塩鉱物といわれ、〔Si2n5n2n−の層状構造を持つ。石英や長石、沸石などはテクトケイ酸塩鉱物といわれ〔AlSi2(x+y)x−の3次元網目構造を持つ。
【0070】
鉱物などに含まれるケイ素化合物は上記の構造をもつ重合体である。よって、この重合体を低分子化あるいは単量体化させることによって、水への溶解度が増し、バチルス属細菌等の微生物にケイ素化合物が効果的に作用するようになる。
【0071】
ここでケイ素の重合は、例えば下記式(1)の反応が連続して起きることで進行する。そこでケイ素及び/又はケイ素化合物の重合を抑制するには、その反応の基点となる、SiOの負電荷を電気的に中和することが有効である。
SiO+Si(OH)→Si−O−Si(OH)+OH ・・・(1)
【0072】
(2)可溶化剤
可溶化剤としては、ケイ素化合物を可溶化できるものであればよく、特に制限はないが、例えばカチオン系ポリマーが挙げられる。カチオン系ポリマーの有する正電荷がSiOの負電荷を電気的に中和して、例えば上記式(1)によるケイ素及び/又はケイ素化合物の重合を抑制することができ、これにより、ケイ素化合物を水あるいは水性溶媒中で可溶化状態に保つことができる。
【0073】
カチオン系ポリマーとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウムなどの陽イオンを有するポリマーであることが好ましい。具体的には、アリルアミン塩酸塩重合体やアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体などが挙げられる。
【0074】
本発明においては、上記所定粒度を有する活性剤を、排水ならびに活性汚泥中の微生物に有効に作用させるためには、それを含有する形態中に、上記所定粒度を有する活性剤を固形分換算で50〜100質量%含有することが好ましく、70〜100質量%含有することがより好ましく、90〜100質量%含有することが更により好ましい。
【0075】
以下、本発明による排水処理方法及び排水処理装置について、更に詳細に説明する。
【0076】
(排水処理方法)
従来、膜分離活性汚泥法による排水処理装置では、運転の経過とともに膜モジュールの分離膜に目詰まりが発生するので、定期的に定常運転時とは逆の処理水側からの水圧を付加して逆洗処理を行い、膜モジュールに付着した夾雑物を排除しながら運転を行ったり、固液分離後の処理水の水圧を計測し、その水圧が所定値を下回ったら、膜モジュールを取出して薬液で洗浄したり、最終的には膜モジュールを交換する必要があった。
【0077】
本発明による排水処理方法では、分離膜の目詰まりを抑えてその長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を図るため、このような膜モジュールのメンテナンスに加えて、あるいはその一部にかえて、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化しつつ、処理槽で活性汚泥処理される排水に、上記に説明した活性剤を添加する。
【0078】
分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物については、膜モジュールの分離膜の目詰まりの主な原因が、近年の研究から、バブリングや逆洗によっても剥がれないほど強固な付着性を示す、活性汚泥中の微生物が産出する糖タンパク質を含む沈着物(粘着性の微生物やその残骸などを含む)であることが明らかとなっている。そして、糖タンパク質が強固な付着性原因物質である。よって、この糖タンパク質を分解し、除去することによって、膜モジュールの分離膜に強固に付着した沈着物を排除して、分離膜の目詰まりの状態を改善することができる。糖タンパク質を分解し、除去できる微生物としては、例えば、少なくともタンパク質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する、バチルス属に属する微生物、ビフィズス属に属する微生物などが挙げられる。
【0079】
上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、少なくともタンパク質分解酵素又は炭水化物分解酵素を菌体外に分泌する微生物を既存の微生物群の中からスクリーニングして得ることもできる。例えば、下記のような簡易酵素活性テストによって、蛋白質の分解性と炭水化物の分解性とに優れた微生物のスクリーニングを行うことができる。
【0080】
(1)蛋白質の分解性
0.2〜1.0w/w%の濃度のカゼインを含む寒天培養基の平板上に菌を線状に接種して培養する。カゼインを含む寒天培養基は不透明〜半透明であるが、菌の生育後に菌の集落の周囲に透明な帯ができる場合は、タンパク質の分解性を示すものである(タンパク質の分解性を有する)。
【0081】
(2)炭水化物の分解性
0.2〜1.0w/w%の濃度の可溶性デンプンを含む寒天培養基の平板上に菌を線状に接種して培養し、生育後にヨウ素液を平板上に注ぐ。菌の集落の周囲に、青色にならない透明な帯ができる場合は、澱粉の分解性を示すものである(デンプンの分解性を有する)。
【0082】
具体的には、バチルス属細菌である、Bacillus methylotrophicus CBMB205T (EU194897)株、Bacillus subtilis subsp. subtilis DSM 10T (AJ276351)株、Bacillus subtilis subsp. subtilisNBRC3009株、Bacillus subtilis subsp. subtilisATCC6051株などを用いることができる。
【0083】
また、ビフィズス属細菌である、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacteriuminfantisなどを用いることができる。
【0084】
上記に説明した微生物は、一般にバチルス属細菌やビフィズス属細菌に慣用されている方法により、その培養、保存、菌体分離等を行うことができる。例えば、栄養培地を挙げれば、Nutrient培地(0.3%肉エキス、0.5%ペプトン)あるいはLB培地(0.5%酵母エキス、1%ペプトン、1%塩化ナトリウム)などの培地により、その培養を行うことができる。
【0085】
本発明による排水処理方法においては、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を、優占化させる。「優占化」とは、上記処理槽1内で生息している生物相においてその数が優占的であることを意味する。優占的であるかどうかは、処理槽1内で生息している生物相を16SrDNA配列の決定などでランダムに同定して、目的とする属種に属する微生物がその他の生物種に対してどのくらいの割合で存在するかを求め、更に、その属種に属する微生物のうち、目的とする性質を有する微生物がどのくらいの割合で含まれているかを、上述した簡易酵素活性テストなどによって求め、知ることができる


【0086】
上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を処理槽1内で優占化させるための手段としては、特に制限されるものではないが、例えば、上記に例示したバチルス属細菌やビフィズス属細菌を種菌として、投入する種汚泥に添加したり、処理槽1に流入する前の排水に添加したり、処理槽1に流入した後の排水に添加したりする等して、その後そのバチルス属細菌やビフィズス属細菌が維持される処理条件を保つ方法が挙げられる。即ち、排水処理運転の初期の段階に上記微生物を添加することにより、処理槽1内で生息している生物相においてその数が優占的であることを確実にでき、その後従来法の処理条件を保てば、処理期間中、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物が優占化している状態となる。また、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化させて排水処理を行った後に得られる余剰汚泥には、その微生物が優占化される生物相のバランスが保たれているので、他の排水処理施設からそのような余剰汚泥を得、これを新たに処理すべき排水処理施設の立ち上げ時などに種汚泥として添加してもよい。あるいは、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の優占化が衰えたような場合には、このような種菌や種汚泥を随時添加してもよい。
【0087】
排水の処理条件としては、従来法に準じて行なえばよく、典型的には、例えば処理槽1内の処理排水の活性汚泥の濃度(MLSS)を2000mg/L〜2500mg/Lの範囲に管理し、pHを中性付近、すなわち6.5〜7の範囲に管理することが好ましい。また、嫌気性条件を好む傾向の微生物(脱窒菌、脱リン菌、脱窒性リン蓄積細菌等)の活性を利用するための処理と、好気性条件を好む傾向の微生物(硝化菌、酵母、大腸菌等)の活性を利用するための処理とを、処理槽1内で段階的、連続的又は間欠的に行なってもよい。この場合、排水中の窒素濃度、リン濃度などにもよるが、その嫌気条件での酸化還元電位を−150mV〜−200mVの範囲とし、その好気条件における溶存酸素量が2.0mg/L〜3.5mg/Lの範囲となるよう管理することが好ましい。例えば、図1に示す排水処理装置では、その散気板5からの空気の供給を調整することにより行うことができる。ただし、処理槽1内で所定時間の処理を終えた排水中に、臭気成分であるアンモニアを残存させないために、硝化菌が作用する好気条件による処理を最終工程で行ない、処理槽1内での処理を終えることが好ましい。
【0088】
従来、処理槽内の排水のモニタリング・管理としては、溶存酸素量、酸化還元電位、水素イオン濃度、汚泥濃度、有機物負荷量などの水質が指標にされている。図1に示す排水処理装置では、そのような従来の指標でのモニタリング・管理に使用される計測器が計測器12で表わされている。また、それらの指標等に基づいて運転を制御するための制御装置14が設けられている。
【0089】
溶存酸素量は、活性汚泥中の微生物が有機物を基質として資化するときの要求酸素量の過不足を判断する指標である。したがって、計測器12による溶存酸素量の測定値の基づき、制御装置14において処理槽水中の溶存酸素が不足と判断されれば、制御装置14からの信号によりブロア6の稼動量を増やしたり、ばっ気調整バルブ(図示されない。以下同様。)を開放したり、あるいはその両者を行い、処理槽のばっ気量を増やす制御を行なうことができる。一方、溶存酸素が過剰と判断されれば、制御装置14からの信号によりブロア6の稼動量を減らしたり、ばっ気調整バルブを絞ったり、あるいはその両者を行い、処理槽のばっ気量を減らす制御を行なうことができる。なお、後者の制御の場合、ばっ気を全く止めてもよいことは勿論である。
【0090】
酸化還元電位や水素イオン濃度(pH)は処理槽内の排水の窒素除去に関わる指標である。すなわち、排水中の窒素分は硝化細菌などによりアンモニアイオンから亜硝酸イオン、硝酸イオンに酸化され、脱窒菌などにより硝酸性イオンから窒素に変換される。その結果、排水中の窒素分は窒素ガスの形態で処理槽から気相中に放出されることにより除去される。アンモニアイオンが亜硝酸イオンおよび硝酸イオンに酸化されるとき液性は酸性となる。また、硝酸イオンを窒素ガスに還元する脱窒菌は嫌気性で機能が発現することが知られている。よって、酸化還元電位や水素イオン濃度で、処理槽内の排水の嫌気度をモニタリングすることは、排水中の窒素除去が適正に行われているかを判断する指標となる。したがって、計測器12による酸化還元電位や水素イオン濃度の測定値に基づき、制御装置14において処理槽水中の嫌気度が不足と判断されれば、制御装置14からの信号によりブロア6の稼動量を減らしたり、ばっ気調整バルブを絞ったり、あるいはその両者を行い、処理槽のばっ気量を下げる制御を行なうことができる。なお、この場合、ばっ気を全く止めてもよいことは勿論である。一方、嫌気条件を解消したい場合には、制御装置14からの信号によりブロア6の稼動量を増やしたり、ばっ気調整バルブを開放したり、あるいはその両者を行い、処理槽のばっ気量を上げる制御を行なうことができる。
【0091】
汚泥濃度は排水の生物処理に関わる微生物量といえる。活性汚泥中に微生物が多ければ多いほど、排水中の有機物の資化は速くなるので、汚泥濃度を増加させることによって処理効率も高くなる。しかし、汚泥濃度が高いとその分微生物量が多くなるのでばっ気量を上げる必要があったり、自己酸化により汚泥を溶解したりする必要がある。また、処理に必要な汚泥を処理槽の全汚泥量でまかなうには、有機物の安定的な導入が必要であり、よって排水の生物処理の効率を安定的に維持するためには、汚泥濃度と有機物負荷量とのバランスが重要となる。したがって、計測器12による汚泥濃度及び/又は有機物負荷量の測定値に基づき、活性制御装置14において汚泥濃度が過剰と判断されれば、制御装置14からの信号により汚泥引抜ポンプ4の稼働量を増やして汚泥濃度を減らしたり、処理槽1内への有機物負荷を減らしたり、あるいはその両者を行なったりする制御を行なうことができる。一方、汚泥濃度に対して有機物負荷量が過剰と判断されれば、制御装置14からの信号により汚泥引抜ポンプ4の稼働量を減らしたり、止めたり、処理槽1内に流入させるに有機物負荷を増したり、あるいはその両者を行なったりする制御を行なうことができる。
【0092】
本発明においては、このような排水処理プロセスにおいて、上記に説明した活性剤を、活性剤供給槽7から活性剤注入ポンプ8及び活性剤注入調整バルブ9を介して、処理槽1内の排水に添加する。添加のタイミングとしては、常時継続的あるいは一定期間をあけて間欠的に所定量を添加してもよく、任意の量を随時に添加してもよい。また、バチルス属細菌等の微生物の優占化が衰えたような場合、例えば処理槽1内の排水に存在する目的とする微生物の菌数が所定の閾値を下回った場合に、あらかじめ定めた量の活性剤を添加するようにしてもよい。あるいは、処理槽1内で処理すべき排水中の有機物濃度が所定の閾値を超えた場合に、あらかじめ定めた量の活性剤を添加するようにしてもよい。
【0093】
また、図1に示す排水処理装置では、上記の制御に加えて又は替えて、処理槽1内の排水中に含まれるバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定し、その測定した酵素活性に基づいて、処理槽1内の排水の生物処理の制御を行うことができるようになっている。そのため処理槽1内の排水中に含まれるバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定するための酵素活性測定器13が設置され、その測定値が制御装置14に送られるようになっている。
【0094】
図2には、本発明による排水処理においてバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定する手段の一例として、処理槽1内の排水中に含まれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の活性を測定する手順を示す。まず処理槽水を採取し、固液分離手段により試料水を採取する。固液分離手段としては、例えば孔径0.2μmのフィルターでのろ過や遠心分離などが挙げられる。次に、プロテアーゼ検出試薬を試料水に添加して、所定時間プロテアーゼ反応を行う。プロテアーゼ検出試薬としては、例えば蛍光タンパク質分解酵素アッセイキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)などを用いることができる。このキットはタンパク質分解酵素による酵素活性により蛍光強度が上昇する試薬を含むものである。このキットを用いる場合、試薬を添加して室温で5〜60分間静置した後、蛍光強度を測定し、予め作成しておいた検量線などから試料水中のプロテアーゼ活性を算出することができる。プロテアーゼ活性の活性単位としては、基準となるタンパク質を所定の条件で分解したときに生成する所定分解物の時間当たりの生成量で標準化した、マイクロモル/分(ユニット)などの単位を用いることができる。
【0095】
図3には、本発明による排水処理においてバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定する手段の他の一例として、処理槽1内の排水中に含まれる炭水化物分解酵素(アミラーゼ)の活性を測定する手順の一例を示す。まず処理槽水を採取し、固液分離手段により試料水を採取する。固液分離手段としては、例えば孔径0.2μmのフィルターでのろ過や遠心分離などが挙げられる。次に、水溶性デンプンを試料水に添加して、所定時間、典型的には室温で60分間程度デンプン分解反応を行う。その後ヨウ素溶液を滴下し、ヨウ素デンプン反応を行った後、試料の吸光度を測定する。デンプンが残存していれば、ヨウ素デンプン反応特有の紫色を呈し、デンプンが分解されていれば変色しない。ヨウ素デンプン反応による呈色は、例えば550nmの吸光度で測定することができる。この測定値からアミラーゼ活性を算出することができる。アミラーゼ活性の活性単位としては、基準となる水溶性デンプンを所定の条件で分解したときに生成する所定分解物の時間当たりの生成量で標準化した、マイクロモル/分(ユニット)などの単位を用いることができる。
【0096】
なお、上記の酵素以外の酵素による酵素活性を指標にしてもよく、例えば脂肪分解酵素、セルロース分解酵素などによる酵素活性を指標にすることもできる。
【0097】
処理槽内の排水中に含まれるバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性は、排水の生物処理に利用されるバチルス属細菌等の微生物の活性を反映する直接の指標といえる。したがって、酵素活性測定器13による酵素活性の測定値に基づき、制御装置14において処理槽水中のバチルス属細菌等の微生物の活性が不足と判断されれば、制御装置14からの信号により活性剤注入ポンプ8の稼動量を増やしたり、活性剤注入調整バルブ9を開放したり、あるいはその両者を行い、処理槽1内の排水中への活性剤の供給量を増やす制御を行なうことができる。一方、バチルス属細菌等の微生物の活性が充分と判断されれば、制御装置14からの信号により活性剤注入ポンプ8の稼動量を減らしたり、活性剤注入調整バルブ9を絞ったり、あるいはその両者を行い、処理槽1内の排水中への活性剤の供給量を減らす制御を行なうことができる。なお、後者の制御の場合、活性剤の供給を全く止めてもよいことは勿論である。
【0098】
例えば、図1に示す排水処理装置では、活性剤供給槽7に、ケイ素化合物と、更に鉄化合物及びマグネシウム化合物とを少なくとも含む活性剤を貯留しておき、所望時に活性剤注入ポンプ8によって処理槽1内に添加することができる。これにより、活性剤に含まれる主にケイ素成分などにより上記微生物の増殖が活性化され、活性剤に含まれる主に鉄成分やマグネシウム成分などにより上記微生物が菌体外に分泌するタンパク質分解酵素や炭水化物分解酵素の分泌の増加が起こる。この場合、活性剤に含まれる鉄化合物及びマグネシウム化合物の合計量とケイ素化合物との含有比は、質量換算で0.5〜5:1であることが好ましく、2:1であることがより好ましい。また、ケイ素化合物は、処理槽1内の排水中に処理槽のBOD負荷量に対して0.1〜2質量%の濃度で存在するように添加することが好ましく、処理槽のBOD負荷量に対して0.2〜1質量%の濃度で存在するように添加することがより好ましい。鉄化合物あるいはマグネシウム化合物の場合には、処理槽1内の排水中に処理槽のBOD負荷量に対して両化合物の合計換算にして0.1〜2質量%の濃度で存在するように添加することが好ましく、処理槽のBOD負荷量に対して両化合物の合計換算にして0.4〜2質量%の濃度で存在するように添加することがより好ましい。
【0099】
一方、本発明の他の態様においては、分離膜の目詰まりの状態に応じて、上記分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性化処理を行うことが好ましい。その活性化処理は、例えば、処理槽1で活性汚泥処理される排水に、上記に説明した活性剤を添加することなどにより行うことができる。より具体的には、上記酵素活性に基づく制御と同様にして、活性剤供給槽7から活性剤注入ポンプ8及び活性剤注入調整バルブ9を介して、処理槽1内の排水に活性剤を添加する処理などにより行なうことができる。これにより、活性剤に含まれる主にケイ素成分などにより上記微生物の増殖が活性化され、活性剤に含まれる主に鉄成分やマグネシウム成分などにより上記微生物が菌体外に分泌するタンパク質分解酵素や炭水化物分解酵素の分泌の増加が起こる。
【0100】
分離膜の目詰まりの状態を把握するには、例えば、分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量が、任意に定めた所定値を下回るかどうかを計測することなどにより行うことができる。即ち、排水処理の運転の経過にともなって分離膜が目詰まりし、その膜間圧差は上昇する一方、分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量が低下するので、その水圧及び/又は水流量があらかじめ定めた閾値を超え、下回った場合に、目詰まりを解消すべき時期であると判定できる。この場合、定常運転時とは逆の処理後水側からの水圧及び/又は水流を付加して分離膜の逆洗処理を行なったり、分離膜をバブリング処理したりした後に計測することが好ましい。これによれば、膜モジュール2に比較的弱く付着した夾雑物を排除したうえで計測するので、分離膜の目詰まりの状態をより正確に把握することができる。例えば、図1に示す排水処理装置では、膜モジュール2に連通した配管の途中に設けられたセンサ10により、分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量がモニタされるようになっている。また、吸引ポンプ3による吸引方向を逆転させることにより、処理水側からの水圧及び/又は水流を付加できるようになっている。なお、分離膜の目詰まりの状態を把握するための指標となる上記水流量の計測は、例えば、分離膜で固液分離された処理水の単位時間当たりの水量が、任意に定めた所定値を下回るかどうかを計測することなどにより行うことができる。また、分離膜の目詰まりの状態を把握するための指標となる上記水圧の計測は、上記水流量の計測値から所定の関係式から算出することによって行ってもよい。
【0101】
本発明により提供される排水処理方法においては、分離膜の目詰まりの状態に基づく制御と、処理槽内の排水中に含まれる微生物に由来する酵素活性に基づく制御とを、互いに独立に行なうこともでき、それらを併用してもよい。
【0102】
(排水処理装置)
本発明により提供される排水処理装置を、図1及び図4を参照して更に説明すると、活性剤供給槽7には上記に説明した活性剤が貯留され、そこから活性剤注入ポンプ8により処理槽1内に供給されるようになっている。これが本発明の「分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物の活性剤を供給する手段」を構成している。また、膜モジュール2に連通した配管の途中にはセンサ10が設けられており、分離膜で固液分離された処理水の水圧及び/又は水流量がモニタされるようになっている。これが本発明の「分離膜の目詰まりの状態を計測する手段」を構成している。また、処理槽1内の排水中に含まれるバチルス属細菌等の微生物に由来する酵素活性を測定するための酵素活性測定器13が設置されている。これが本発明の「微生物に由来する酵素活性を測定する手段」を構成している。
【0103】
更に、センサ10での処理水の水圧及び/又は水流量の値に応じた信号を受信し、且つ活性剤注入ポンプ8または活性剤注入調整バルブ9に駆動信号を送信することができる制御装置14を備えており、これが本発明の「処理槽で活性汚泥処理される排水中への活性剤の供給量を制御する制御手段」を構成している。
【0104】
この制御装置14は、酵素活性測定器13での酵素活性の測定値に応じた信号を受信し、且つ活性剤注入ポンプ8または活性剤注入調整バルブ9に駆動信号を送信することができるようにも構成されている。なお、本発明により提供される排水処理装置においては、上記センサ10による本発明の「分離膜の目詰まりの状態を計測する手段」と、上記酵素活性測定器13による本発明の「微生物に由来する酵素活性を測定する手段」とを、互いに独立に備えることもでき、それらを併設してもよい。
【0105】
そして、センサ10での処理水の水圧及び/又は水流量の値が、制御装置14の演算部15に入力されて、その演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値を下回る場合には、目詰まりの状態を改善する微生物を活性化する時期であると判定する(図4A)。そしてその判定に応じた信号が、出力部16を介して、活性剤注入ポンプ8を駆動させあるいはその駆動量を増加させたり、活性剤注入調整バルブ9を開栓しあるいはその開栓量を増加させたりする(図4A)。これにより、分離膜の目詰まりの状態に基づいて、上記活性剤を処理槽1内に供給し、あるいはその供給量を増大させることができる。なお、活性剤の供給は、センサ10での処理水の水圧及び/又は水流量の値が、制御装置14の演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値以上となるまで継続してもよく、所定時間で終了してもよい。
【0106】
また、酵素活性測定器13での酵素活性の測定値が、制御装置14の演算部15に入力されて、その演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値を下回る場合には、目詰まりの状態を改善する微生物を活性化する時期であると判定する(図4B)。そしてその判定に応じた信号が、出力部16を介して、活性剤注入ポンプ8を駆動させあるいはその駆動量を増加させたり、活性剤注入調整バルブ9を開栓しあるいはその開栓量を増加させたりする(図4B)。これにより、目詰まりの状態を改善する微生物の活性の状態に基づいて、上記活性剤を処理槽1内に供給し、あるいはその供給量を増大させることができる。なお、活性剤の供給は、酵素活性測定器13での酵素活性の測定値が、制御装置14の演算部15に格納した任意に定めた所定値と対比されて、その値以上となるまで継続してもよく、所定時間で終了してもよい。
【0107】
本発明により提供される排水処理装置においては、分離膜の目詰まりの状態に基づく制御と、処理槽内の排水中に含まれる微生物に由来する酵素活性に基づく制御とを、互いに独立に備えることもでき、それらを併設してもよい。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0109】
<試験例1> (バチルス菌による汚泥分解性能)
一般に膜分離活性汚泥法等では、汚泥に含まれる微生物の死骸やその死滅のときに放出される糖や蛋白などが分離膜の目詰まりの要因の1つであることが知られている。そこで、バチルス菌により汚泥自体の量を低減できるかどうかを検討した。
【0110】
(1)汚泥
汚泥として、分流式のA下水処理場の余剰汚泥を準備した。
【0111】
(2)酵素液
バチルス属細菌のBacillus methylotrophicus(以下、「バチルス菌A」という。)をNutrient培地に接種し、30℃で一晩培養した。このとき、バチルス菌の活性を向上させる市販の活性剤(ケイ酸塩を含むミネラル)を培地に2mg/mLになるように添加して培養し、この培養液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、そのろ液を酵素液とした。
【0112】
(3)汚泥削減試験
試験は、上記の汚泥10g分を1L容器に入れ、ブランクとして純水を10mL添加した群、上記の汚泥10g分を1L容器に入れ、上記の酵素液10mLを添加した群、上記の汚泥10g分を1L容器に入れこれにバチルス菌Aを菌数にしておよそ1010個/mLの濃度で含む培養液を10mL添加し、上記の市販の活性剤を20mg添加した群、により行った。
【0113】
それぞれの試験群について、25℃で48時間の処理を行ない、処理の前後で汚泥の重量を測定し、汚泥削減率を求めた。汚泥削減率は、初期の汚泥濃度に対し各試験系の汚泥濃度の比から下記式により算出した。
〔汚泥削減率〕=100−〔各試験系の汚泥濃度〕/〔初期の汚泥濃度〕×100
【0114】
結果を図5に示す。
【0115】
その結果、汚泥のみでは減少率が12%程度にとどまり、その減少は、汚泥に含まれる微生物の死滅による減少に過ぎないと考えられた。一方、バチルス菌を活性剤とともに培養した培養液の上清を添加すると、汚泥の減少率が24%程度となり、更に汚泥に活性剤とともにバチルス菌を直接添加すると、汚泥の減少率が51%程度となった。これは、バチルス菌が分泌する酵素により汚泥成分(糖や蛋白など)が分解し、汚泥の一部が可溶化した結果であると考えられた。
【0116】
<試験例2> (バチルス菌による溶存微生物生産物の分解性能)
膜分離活性汚泥法等において分離膜の目詰まりの主な要因の1つであると考えられているSMP(溶存微生物生産物:処理水中に放出された糖や蛋白など)に対する、バチルス菌の分解性能を調べた。具体的には、バチルス優占化汚泥により安定運転に達した処理槽内の処理水と、標準活性汚泥により安定運転に達した処理槽内の処理水とを、全炭素検出器付ゲルパーミューションクロマトグラフィー装置(GPC-TC)に供し、処理水中の溶存有機物をパーミューションクロマトグラフィー(GPC)により分子量の違いに応じて展開しつつ、TOC(全有機炭素)検出器によりその量を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
その結果、バチルス菌優占化汚泥により安定運転に達した処理槽内の処理水では、標準活性汚泥による処理水に比べ、分子量10,000以上の有機物の濃度(SMPに相当)が、顕著に低減していた。これは、バチルス菌が分泌する酵素によりSMP成分(糖や蛋白など)が分解されるためであると考えられた。
【0119】
<調製例1> (高炉スラグの粉砕品A)
活性汚泥処理に用いる活性剤として、高炉スラグをジェットミル(アイシンナノテクノロジーズ社製)で粉砕し、高炉スラグの粉体を調製した。以下これを高炉スラグの粉砕品Aとする。
【0120】
<調製例2> (高炉スラグの粉砕品B)
粉砕の条件を調製例1よりも弱く調整して、高炉スラグの粉体を調製した。以下これを高炉スラグの粉砕品Bとする。
【0121】
<試験例3> (粒度分布の測定)
高炉スラグの粉砕品Aの粒度分布をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(「マイクロトラックMT3000」、日機装株式会社)を用いて測定した。その結果を図6に示す。図6に示されるように、粉砕品Aは、その個数基準粒径分布において、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、且つ100μmを超える粒径が全体の10個数%未満であった。
【0122】
高炉スラグの粉砕品Bについても同様に、粒度分布を測定した。その結果を図7に示す。図7に示されるように、粉砕品Bは、その個数基準粒径分布において、10μm未満の粒径が全体の30個数未満であった。
【0123】
活性汚泥処理に用いる活性剤として市販されている市販品についても同様に、粒度分布を測定した。その結果を図8に示す。図8に示されるように、市販品は、その個数基準粒径分布において、10μm未満の粒径が全体の30個数%未満であり、100μmを超える粒径が全体の10個数%超であった。
【0124】
<試験例4> (バチルス菌の増殖に与える活性剤の効果)
高炉スラグの粉砕品A、高炉スラグの粉砕品B、及び活性汚泥処理に用いる活性剤として市販されている市販品(主要組成(質量%):ケイ素19.3、鉄3.6、カルシウム3.9、マグネシウム4.2、アルミニウム3.4、マンガン0.1)のそれぞれについて、バチルス菌の増殖を活性化する効果を調べた。バチルス菌としては、試験例1で用いたBacillus methylotrophicusに属するバチルス属細菌(バチルス菌A)、及びBacillus subtilisに属するバチルス属細菌(以下「バチルス菌B」という。)を用いた。
【0125】
各バチルス菌をそれぞれNutrient培地に接種し、30℃で振とう培養を行った。このときにバチルス菌の活性を向上させる活性剤として粉砕品A、粉砕品B、又は市販品をそれぞれ16mg/Lになるように培地に添加して培養し、培養開始後、培養液の濁度(OD600)を経時的に測定した。また、その増殖曲線からバチルス菌の倍加時間を算出した。
【0126】
表2には、バチルス菌Aによる結果を示す。
【0127】
【表2】
【0128】
表3には、バチルス菌Bによる結果を示す。
【0129】
【表3】
【0130】
その結果、各バチルス菌において、いずれもその増殖を活性化する効果は、粉砕品A,市販品、粉砕品Bの順で高かった。粉砕品Aと市販品とを倍加時間又は増殖速度で比較すると、バチルス菌Aでは1.3倍、バチルス菌Bでは1.6倍、市販品よりも粉砕品Aのほうが、バチルス菌の増殖を活性化する効果が高くなった。
【0131】
<試験例5> (バチルス菌のタンパク質分解酵素産生に与える活性剤の効果)
高炉スラグの粉砕品A、高炉スラグの粉砕品B、及び活性汚泥処理に用いる活性剤として市販されている市販品のそれぞれについて、バチルス菌によるタンパク質分解酵素産生を活性化する効果を調べた。バチルス菌としては、試験例4と同様に、バチルス菌A及びバチルス菌Bを用いた。
【0132】
各バチルス菌をそれぞれNutrient培地に接種し、30℃で振とう培養を行った。このときにバチルス菌の活性を向上させる活性剤として粉砕品A、粉砕品B、又は市販品をそれぞれ16mg/Lになるように培地に添加して培養し、培養開始から24時間経過後に培養を止め、遠心分離によりバチルス菌を取り除いた培養液について、タンパク質分解活性を測定した。なお、培養開始から24時間経過後には、増殖が飽和しているものと認められた。
【0133】
タンパク質分解活性の測定は、蛍光タンパク質分解酵素アッセイキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて行なった。このキットに含まれる試薬はタンパク質分解酵素の存在により蛍光強度が上昇するものである。各試料をこのキットに供してその蛍光強度を測定するとともに、別途、タンパク質分解酵素の1つであるトリプシンを所定濃度で段階希釈して、同様に蛍光強度を測定して検量線を得た。この検量線に、各試料について測定された蛍光強度をあてはめることにより、試料中のタンパク質分解酵素の活性を培養液1mLあたりのトリプシン相当量として求めた。
【0134】
図9には、バチルス菌Aによる結果を示す。また、図10には、バチルス菌Bによる結果を示す。
【0135】
図9に示されるように、バチルス菌Aの培養液中のタンパク質分解酵素のトリプシン相当量は、粉砕品Aで1130ng/mL、粉砕品Bで320ng/mL、市販品で330ng/mLであり、粉砕品Aを培地に添加した場合、同じ濃度で粉砕品Bや市販品を培地に添加した場合に比べて、約3倍量のタンパク質分解酵素が生産された。
【0136】
同様に、図10に示されるように、バチルス菌Bの培養液中のタンパク質分解酵素のトリプシン相当量は、粉砕品Aで1190ng/mL、粉砕品Bで33ng/mL、市販品で54ng/mLであり、粉砕品Aを培地に添加した場合、同じ濃度で市販品を培地に添加した場合に比べて、約22倍量のタンパク質分解酵素が生産された。また、同じ濃度で粉砕品Bを培地に添加した場合に比べて、約36倍量のタンパク質分解酵素が生産された。
【0137】
<試験例6> (バチルス菌の炭水化物分解酵素産生に与える活性剤の効果)
試験例5と同様に培養した各バチルス菌のそれぞれの培養液について、培養液中に分泌された炭水化物分解酵素の活性を調べた。
【0138】
具体的には、培養開始から24時間経過した培養液を回収し、遠心分離によりバチルス菌を取り除いた培養液を採取した。この培養液1.95mLに0.5%水溶性デンプンを0.05mL加え、60分後、ヨウ素溶液を滴下した。デンプンが残存していれば、ヨウ素デンプン反応特有の青紫色を呈し、デンプンが分解されていれば変色しない。その呈色を550nmの吸光度(A550)により測定した。
【0139】
炭水化物分解酵素の活性は次の計算式に示すように、添加したデンプンを60分で何%分解できるかで表し、規格化した。
〔炭水化物分解酵素活性(%)〕={(〔デンプンのみのA550〕−〔培養液を添加した系のA550〕)/(〔デンプンのみのA550〕−〔デンプンなしのA550〕)}×100
【0140】
図11には、バチルス菌Aによる結果を示す。また、図12には、バチルス菌Bによる結果を示す。
【0141】
図11に示されるように、バチルス菌Aの培養液中の炭水化物分解酵素活性は、粉砕品Aで102%、粉砕品Bで44%、市販品で70%であり、粉砕品Aを培地に添加した場合、同じ濃度で市販品を培地に添加した場合に比べて、約1.5倍量の炭水化物分解酵素が生産された。また、同じ濃度で粉砕品Bを培地に添加した場合に比べて、約2.3倍量の炭水化物分解酵素が生産された。
【0142】
同様に、図12に示されるように、バチルス菌Bの培養液中の炭水化物分解酵素活性は、粉砕品Aで96%、粉砕品Bで61%、市販品で57%であり、粉砕品Aを培地に添加した場合、同じ濃度で市販品を培地に添加した場合に比べて、約1.7倍量の炭水化物分解酵素が生産された。また、同じ濃度で粉砕品Bを培地に添加した場合に比べて、約1.6倍量の炭水化物分解酵素が生産された。
【0143】
以上の試験例3〜6の検証により、活性汚泥処理に用いる活性剤として高炉スラグなどの難溶解性資材を用いる場合には、それを所定粒度に粉砕して用いることにより、バチルス菌の増殖性や酵素活性に関わる活性化効果が、より顕著に発揮されることが明らかとなった。また、その効果は、従来の活性剤よりも優れていた。
【0144】
<試験例7> (バチルス菌の増殖に与える鉱物成分の効果)
一般に排水処理プロセスに鉱物などミネラルを添加すると、その活性汚泥の微生物叢バランスにおいてバチルス菌が優占化することが知られている。これは、鉱物に含まれるケイ素化合物がバチルス菌の生育を促進したり、悪環境下での耐性を向上させたりするためであると考えられている(環境バイオテクノロジー学会誌(2011)vol.11、No.1・2、p47−53参照、第65回日本生物工学会大会要旨集p221)。
【0145】
そこで鉱物に一般的に含まれている、ケイ素以外の金属成分として、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、マンガンを選定し、それぞれについて、バチルス菌の増殖に与える影響を調べた。バチルス菌としては、試験例4〜6と同様に、バチルス菌A及びバチルス菌Bを用いた。
【0146】
各バチルス菌をそれぞれ最小培地(グルコース5g/L、KHPO14mg/L、KHPO6g/L、NHCl1g/L)に接種し、30℃で振とう培養を行った。このときに金属成分として、ケイ素(終濃度27.8mg/L)、鉄(終濃度9mg/L)、アルミニウム(終濃度8.8mg/L)、カルシウム(終濃度17.2mg/L)、マグネシウム(終濃度18mg/L)、マンガン(終濃度20mg/L)を、各カッコ内の終濃度となるように培地に添加した。また、特定の金属成分を添加しない系を設けた。
【0147】
図13には、バチルス菌Aの培養開始から12時間経過後の培養液の濁度(OD600)の相対値(6種の金属成分を添加した系に対する相対値)を示す。
【0148】
図13に示されるように、6種の金属成分を添加した系に比べ、鉄、マグネシウム、マンガンを除いた系では培養液の濁度(OD600)が低下した。よって、バチルス菌Aの増殖の促進には、これらの金属成分が必要であることが明らかとなった。
【0149】
図14には、バチルス菌Bの培養開始から12時間経過後の培養液の濁度(OD600)の相対値(6種の金属成分を添加した系に対する相対値)を示す。
【0150】
図14に示されるように、6種の金属成分を添加した系に比べ、鉄、カルシウム、マグネシウム、マンガンを除いた系では培養液の濁度(OD600)が低下した。よって、バチルス菌Bの増殖の促進には、これらの金属成分が必要であることが明らかとなった。
【0151】
なお、上記結果には示されないが、マンガンは、過剰量に添加すると、逆にバチルス菌の増殖を阻害する作用効果を示した。
【0152】
<試験例8> (バチルス菌のタンパク質分解酵素産生に与える鉱物成分の効果)
鉱物に一般的に含まれているケイ素以外の金属成分として、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムを選定し、それぞれについて、バチルス菌のタンパク質分解酵素産生に与える影響を調べた。バチルス菌としては、試験例7と同様に、バチルス菌A及びバチルス菌Bを用いた。
【0153】
各バチルス菌をそれぞれNutrient培地に接種し、30℃で振とう培養を行った。このときに金属成分として、ケイ素(終濃度27.8mg/L)、鉄(終濃度9mg/L)、アルミニウム(終濃度8.8mg/L)、カルシウム(終濃度17.2mg/L)、マグネシウム(終濃度18mg/L)を、各カッコ内の終濃度となるように培地に添加した。また、特定の金属成分を添加しない系を設けた。
【0154】
培養開始から24時間経過後に培養を止め、遠心分離によりバチルス菌を取り除いた培養液について、試験例7と同様にしてタンパク質分解活性を測定した。なお、培養開始から24時間経過後には、増殖が飽和しているものと認められた。
【0155】
図15には、バチルス菌Aの培養液中のタンパク質分解酵素活性の菌数当たりの相対値(5種の金属成分を添加した系に対する菌数当たりの相対値)を示す。
【0156】
図15に示されるように、5種の金属成分を添加した系に比べ、カルシウムを除いた系ではタンパク質分解酵素活性が低下した。よって、バチルス菌Aからのタンパク質分解酵素の分泌の促進には、カルシウムが必要であることが明らかとなった。
【0157】
図16には、バチルス菌Bの培養液中のタンパク質分解酵素活性の菌数当たりの相対値(5種の金属成分を添加した系に対する菌数当たりの相対値)を示す。
【0158】
図16に示されるように、5種の金属成分を添加した系に比べ、鉄、カルシウム、マグネシウムを除いた系ではタンパク質分解酵素活性が低下した。よって、バチルス菌Bからのタンパク質分解酵素の分泌の促進には、これらの金属成分が必要であることが明らかとなった。
【0159】
<試験例9> (バチルス菌の炭水化物分解酵素産生に与える鉱物成分の効果)
試験例8と同様に培養した各バチルス菌のそれぞれの培養液について、試験例6と同様にして培養液中に分泌された炭水化物分解酵素の活性を調べた。
【0160】
図17には、バチルス菌Aの培養液中の炭水化物分解酵素活性の菌数当たりの相対値(5種の金属成分を添加した系に対する菌数当たりの相対値)を示す。
【0161】
図17に示されるように、5種の金属成分を添加した系に比べ、カルシウムを除いた系では炭水化物分解酵素が低下した。よって、バチルス菌Aからの炭水化物分解酵素の分泌の促進には、カルシウムが必要であることが明らかとなった。
【0162】
図18には、バチルス菌Bの培養液中の炭水化物分解酵素活性の菌数当たりの相対値(5種の金属成分を添加した系に対する菌数当たりの相対値)を示す。
【0163】
図18に示されるように、5種の金属成分を添加した系に比べ、鉄、カルシウム、マグネシウムを除いた系では炭水化物分解酵素活性が低下した。よって、バチルス菌Bからの炭水化物分解酵素の分泌の促進には、これらの金属成分が必要であることが明らかとなった。
【0164】
以上の試験例7〜9の検証により、バチルス菌を優占化する排水の活性汚泥処理に使用する活性剤は、従来知られていたケイ素に加え、少なくとも鉄、マグネシウム、及びカルシウムを含有していることが好ましいことが明らかとなった。また、バチルス菌の種類に応じて、上記4種の金属成分を適宜組み合わせて使用することが好ましいことが明らかとなった。
【0165】
表4には、従来、他の用途に汎用されていた各種鉱物由来資材の組成を例示する。
【0166】
【表4】
【0167】
表4に示すように、試験例3〜6で検証した高炉スラグのほか、例えば珪藻土、パーライト、セメントなども、ケイ素、鉄、マグネシウム、及びカルシウムを含有する鉱物由来資材である。
【0168】
よって、バチルス菌の増殖性や酵素活性を活性化する成分を含むが、これら鉱物由来資材は一般に難溶解性資材であり、試験例3〜6で検証された高炉スラグと同様に、所定粒度に粉砕して活性剤として用いることにより、バチルス菌の増殖性や酵素活性に関わる活性化効果が、より顕著に発揮されるものと考えられた。
【0169】
また、試験例7〜9で検証された金属成分を適宜組み合わせて使用することにより、バチルス菌の増殖性や酵素活性に関わる活性化効果が、より顕著に発揮されるものと考えられた。
【0170】
<試験例10>
図1に概略構成図を示して説明した排水処理装置(処理槽1の有効容積:10L)を用いて、排水処理試験を行った。
【0171】
供試水としては、表5に示す水質のものを用いた。
【0172】
【表5】
【0173】
運転条件としては、表6に示すとおりとした。その際、条件No.1〜No.4において、処理槽1内に種汚泥として添加する活性汚泥の種類(バチルス菌優占化汚泥ないしは標準活性汚泥)と膜モジュール2の種類(平膜ないしは中空糸膜)とを、それぞれ変えて試験を行った。また、バチルス菌優占化汚泥を用いる場合には、活性剤として調製例1で調製した高炉スラグの粉砕品Aを、活性剤供給槽7から活性剤注入ポンプ8と活性剤注入調整バルブ9とを介して、1日ごと1.4mg/Lとなる量で処理槽1内の処理水に添加した。条件No.1〜No.4のそれぞれにおける曝気量は、ブロア6の出力を調整して、試験開始第1日目〜7日目には17.5L/分とし、第8日目〜14日目には12.5L/分とし、第15日目〜23日目には7.5L/分とし、運転期間にわたってバブリング条件を変えて試験を行った。
【0174】
【表6】
【0175】
[評価1]
運転開始16日目までの処理水の水質をTOC(全有機炭素)検出器により測定した。その結果を図19に示す。
【0176】
図19に示されるように、いずれの運転条件でも、TOC(全有機炭素)の除去率は、流入供試水のTOC(全有機炭素)の濃度に対しておよそ98%以上となり、良好であった。
【0177】
[評価2]
膜モジュールの種類として平膜(東レ社製)を使用した条件No.1(バチルス菌優占化)と条件No.4(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件における、膜の目詰まりの状況を調べるため、センサ10により膜間圧差(kPa)を測定し、その経時上昇率(kPa/日)を求めた。その結果を図20に示す。
【0178】
図20に示されるように、曝気量を17.5L/分とした運転期間においても、曝気量を12.5L/分とした運転期間においても、曝気量を7.5L/分とした運転期間においても、いずれのバブリング条件においても、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させた条件No.1では、標準活性汚泥を用いた条件No.4に比べて、膜間圧差の経時上昇率が顕著に抑制された。特に、例えば、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させた条件No.1では、曝気量を7.5L/分とした場合でも、その膜間圧差の経時上昇率は、曝気量を17.5L/分として標準活性汚泥を用いた条件No.4と同程度であった。よって、通常、分離膜の目詰まりの防止のためには、この試験における曝気量17.5L/分に相当する条件で膜にバブリングを施すことが行われるが、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させることによって、曝気量は7.5L/分で済み、その分のエネルギーコストを削減できることが明らかとなった。
【0179】
[評価3]
膜モジュールの種類として中空糸膜(三菱レイヨン社製)を使用した条件No.2(バチルス菌優占化)と条件No.3(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件における、膜の目詰まりの状況を調べるため(曝気量は17.5L/分)、センサ10により膜間圧差(kPa)を測定し、その経時上昇率(kPa/日)を求めた。その結果を図21に示す。
【0180】
図21に示されるように、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させた条件No.2では、標準活性汚泥を用いた条件No.3に比べて、膜間圧差の経時上昇率が顕著に抑制された。よって、膜モジュールの種類として中空糸膜を用いた場合も、平膜を用いた場合と同様に、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させることで、膜劣化が抑制されることが明らかとなった。
【0181】
[評価4]
膜モジュールの種類として中空糸膜(三菱レイヨン社製)を使用した条件No.2(バチルス菌優占化)とNo.3(標準活性汚泥)のそれぞれの運転条件において、曝気量を12.5L/分とした場合には、バブリング不足により条件No.2において運転開始12日目(曝気量を12.5L/分としてから5日目)に、条件No.3において運転開始9.3日目(曝気量を12.5L/分としてから2.3日目)に、いずれも膜が閉塞を起してしまった(閉塞後は、膜を交換した)。また、曝気量を7.5L/分とした場合にも、同様に、条件No.2において運転開始16日目(曝気量を7.5L/分としてから2日目)に、条件No.3において運転開始19日目(曝気量を7.5L/分としてから5日目)に、いずれも膜が閉塞を起してしまった。そこで、曝気量を12.5L/分とした閉塞後の膜について、水道水洗浄とその後の薬品洗浄(2500ppm次亜塩素酸ナトリウム液による洗浄)を行い、それぞれの洗浄処理後に、ろ過抵抗を測定した。ろ過抵抗は、センサ10により測定した膜間圧差とフラックス(水流量)の関係をプロットし、処理水の粘度から下記式により算出した。
〔フラックス〕=〔膜間圧差〕/〔処理水粘度〕×〔ろ過抵抗〕
【0182】
その結果を図22に示す。
【0183】
図22に示されるように、活性剤を添加してバチルス菌を優占化させた条件No.2では、標準活性汚泥を用いた条件No.3に比べて、水道水洗浄によるろ過抵抗の回復度合いが向上した。これは、バチルス菌が分泌する酵素により汚泥成分、特に上記SMP成分(糖や蛋白など)が分解され、膜付着物の膜への付着力が低減したためであると考えられた。
【符号の説明】
【0184】
1:処理槽
2:膜モジュール
3:吸引ポンプ
4:汚泥引抜ポンプ
5、散気板
6:ブロア
7:活性剤供給槽
8:活性剤注入ポンプ
9:活性剤注入調整バルブ
10:センサ
12:計測器
13:酵素活性測定器
14:制御装置
15:演算部
16:出力部

【要約】      (修正有)
【課題】膜分離活性汚泥法で、元来の活性汚泥処理環境に影響少なく、分離膜の目詰まりを抑えてその長寿命化と排水処理装置の運転の効率化を図り得る排水処理方法、排水処理装置、及び排水処理用の活性剤の提供。
【解決手段】有機物を含む排水を処理槽に導入して活性汚泥処理を行いつつ、処理槽内に設置した分離膜で活性汚泥処理後の排水を固液分離して処理水を取り出す排水処理方法において、分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物を優占化しつつ、処理槽で活性汚泥処理される排水に、微生物を活性化する成分を含有する活性剤で、全体の30個数%以上が10μm未満の粒径を有し、100μmを超える粒径が全体の10個数%未満である該活性剤を添加する方法。分離膜の目詰まりの状態を改善する微生物は、バチルス属細菌を含むことが好ましい方法。前記活性剤がSi化合物を含み、更にFe、Mg、Ca又はMnから選択する1種以上を含む、方法。
【選択図】なし
図1
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